絶望ノ淵デ慟哭ヲ謳ウ   作:玉響@彼方

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空中戦:前編

13

 

 

この人のことは昔から分からなかった。奇抜

な発想、常軌を逸した行動力、納得出来ないことは必ず抗議する。

 

この女の頭の中には「妥協」という文字は無く、一国の姫である自覚もないと思っていた。

 

そして、今。目の前でまたその奇想天外さを、垣間見た気がする。

 

呆気に取られていると、プリンセスはこちらを見て「てへっ」と笑った。

 

いや、笑い事じゃねぇよ。

 

「おい、あれどうすんだよ」

 

「ん〜まぁ、どうにかなるんじゃないかしら?」

 

「なんも考えてねぇのかよ!」

 

「でも、助かったでしょ?」

 

「ぐっ……」

 

そう、助かったのは事実。あそこで助けてもらわなかったら確実に問題を起こしていたからこそ、それを言われると黙らざるを得ない。

 

だからといって黙る訳にはいかない。

 

「それは…結果論だ」

 

「『終わりよければすべてよし』という言葉が東の遠国にあるらしいわ」

 

こりゃダメだ。勝てねぇ。

 

アレンは諦めて、大きく溜息をついた。

 

「んで?何か用事か?」

 

「ええ、アンジェたちが呼んでるわ。行きましょ!」

 

さっきの事もあり、まだ人だかりがあるというのに、人目もはばからず、プリンセスはアレンの手を引いて走り出した。

 

少し走ると、向こうからお団子のように2つに括られた髪型をした可憐な少女がこちらを見て目を丸くしていた。

 

「ひ、姫様?」

 

「あら、ベアト…ごめんなさいね」

 

と、悪びれる様子もないプリンセス。

 

「姫様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

ベアトと呼ばれた少女は素っ頓狂な声を上げ、プリンセスのもとに駆けつけた。

 

「もう!突然走り出すんですから、びっくりしましたよ!」

 

今にも泣きそうなくらい目に涙を溜めているせいか、目元がうるうるしている。

 

ベアトことベアトリス…家名は知らん。

 

幼い時にマッドサイエンティストの父親の改造で首周辺、声帯などを機械化され、そのせいで迫害を受けていた…

 

アレンはベアトリスに少しだけ親近感を感じた。しかし、男である自分ならまだしも、こんなにもか弱い女の子に手を出す彼女の父親には、憎悪を抱かざるを得なかった。

 

「ジロジロ見ないで下さい…何か用ですか?」

 

別にジロジロ見ていた訳では無いが、大事な姫様が突然帰ってきたと思ったら男を連れていたら、少しは警戒するだろう。

 

「いや、特に」

 

とアレンも素っ気なく対応する。

 

「ベアト、彼は…その…一応仲間だから…」

 

それでも警戒を解かないままのベアトリス。以前こちらを睨みつけたままである。

 

相手するのも面倒なのでアレンは無視を決め込む。

 

「そ、それじゃあ行きましょう!」

 

冷や汗を流しながら、場の雰囲気に押しつぶされそうになっているプリンセスを気にとめるものは誰もいなかった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「寒いな…」

 

眼下には雲の隙間からは広大な大地が見え、所々にある民家はまるで豆粒のように小さく見えた。

 

ここは王国所有の飛行戦艦の上、およそ高度約550キロ。フィートに換算してほぼ18000である。例えるなら、中間圏に入ってから少し…と言った具合で気温としては約0度ほど。

 

その戦艦の上に1人、アレンは突っ立っていた。

 

アレンに言い渡された此度の任務は、2隻ある戦艦の内、紙幣の原盤を所有していない方に忍び込み、黒トカゲ星人と甘ちゃんな小娘の仕事の()()()()である。

 

「ったく…面倒だな」

 

はぁ…と深々と溜息をつき、反対側で飛び続ける飛行戦艦を眺めていた。

 

出航してから未だ合図もなく、ただひたすらに待ち続けていたアレンの怒りはフツフツと溜まっていき、今にも爆発しそうであった。

 

そんな折、ようやく黒トカゲ星人からチカチカと光る緑色の合図が発せられた。

 

アレンは自作した仮面を被り、手を握ったり開いたりしながら、船内に潜入した。

 

船内は薄暗く、より一層暗く肌にまとわりつくようなねっとりとした雰囲気が漂っていた。

 

今のところ人の存在を感じることは無い。ならばやることは1つ。

 

()()()()()

 

アレンは目にも留まらぬ速さで駆け出した。

 

するとすぐに、巡回中の兵士が目に付いた。

 

しかし…

 

「何者だ!止まれ!」

 

流石は訓練された兵士。アレンの足音を正確に聞き取り、振り返ってから銃を構えるまで、1秒もかかっていないだろう。が、

 

時すでに遅し。

 

ヒトならざるものとして確立しつつあるアレンにとっては所詮その程度でしかない。

 

兵士が引き金に指をかけたその瞬間にはもう、そのバレルは真っ二つに裂かれていた。

 

「なっ…!なんだ貴…様は……」

 

東国に存在する刀のような形状をした片刃の凶器(クロー)は容赦なく兵士の頸動脈を掻っ切っていた。

 

とめどなく溢れる鮮血は通路の壁を深紅に染め上げ、絨毯さえも緋色に変えた。

 

「恨まないでくれよ…コレが俺の仕事なんだ」

 

思えば、正しい生命を刈り取ったのはこれが初めてだった。

 

今までは倫理的に外れた存在ばかり相手にしていたせいで、どうしても命に対する罪悪感を感じることが無かった。

 

さらに言えば、怪物の領域に片足突っ込んでいるアレンに今更、命や罪悪感を説こうなど、愚の骨頂でもあるが。

 

血にまみれ、異型と化した自身の腕を眺めていたが、何故だろうか…どうしてこんなに…

 

笑いがこみ上げてくるのだろう。(心が悲痛な叫びを上げるのだろう。)

 

「は?」

 

突如として視界が歪んだ。

 

急いで仮面を外す。

 

目元を拭った手の平には液体が引き伸ばされた痕が残り、止めどなく瞳の雫が頬を伝って床に流れ落ちる。

 

動悸が激しくなり、呼吸もままならない。

 

込み上げてくる罪悪感はいとも簡単にアレンの精神を押し潰した。

 

「うぐ…がはっ……」

 

血の匂いが噎せ帰り、余計に気分が悪くなる。

 

それでもなお、膝を折ること無く歩く。

 

壁に手をつきながらも何とか曲がり角に差し掛かったところだった。

 

戦艦下部からけたたましい機関銃音が鳴り響いた。

 

アレンは直感的に自身の弱さを痛感した。

 

たった1人殺したくらいでここまで疲弊するとは思わなかったからだ。

 

そしてその疲弊は思いの外、時間を浪費していたようだ。

 

自身の情けなさを感じながらも、奥歯をグッと噛み締め、すぐに音の響く方へと駆け出した。

 

 




いつも不定期更新すいません。それでもこの小説を読んでくださる方、ありがとうございます。余談ですが、飛行戦艦のフィートはあくまでも僕の予想、想像となっています。判断した基準はプリンセス·プリンシパルの第3話のアンジェとベアトが一緒に飛ぶ時の雲の形が高積雲…俗に言う『ひつじ雲』と判断した結果によるものです。何かおかしな点がありましたら、コメント等して頂けるとありがたいです。それではまた。
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