父からの突然の勘当により、家に居られなくなったアレン。
だが彼の父はイカれてはいたがそれなりの良識派の人物だったようで、アレンの新しい受け入れ先は既に用意されていた。
「ここか…」
目的地に到着し、その目を見開き、嘆息した。
『クイーンズ・メイフィア校』
伝統と格式を重んじる名門校。
どうやらアレンの父はここの卒業生らしく、口利きをしたらしい。
その証拠にアレンのカバンの中には編入届の手紙が1通だけ入っていた。
門の近くまで来ると、警備員が立っていた。
無言で編入届に押されている烙印を見せるとすぐに中に入ることが出来た。
そのまま校長室に向かう。
そしてこの編入届を返し、先日の件について知っていることを洗い浚い吐かせる。
場合によっては殺すかもしれないが。
などと考えているいるうちに目的地に到着。
三回ノックをし、中からの返事を待つ。
間髪入れずに、
「どうぞ〜」
と気の抜けた声が聞こえた。
ガチャリと音を立てドアノブを回し中に入ると、そこには妙齢の女性が1人座っていた。
「ん、来たね。
金髪碧眼で丸渕のメガネをかけた女性だった。
「あんたがここの校長で、
「口の利き方がなってないようだね」
例え年上であろうと
必要あらばたたっ斬ってやる。
そう思っていた。
だが現実はそこまで甘くはなかった。
「
口の片方は釣り上がり、眼は瞳孔が開き、爛々と輝いていた。
一瞬。たった一瞬だったがこれほどまでの悪寒をアレンは感じたことは無かった。さらにいえば、それが女性であることがすぐには理解出来なかった。
あまりにも無機質で感情も抑揚もない、ただただ死を突きつけられた。そんな感覚。
その迫力にたじろいでしまったアレンの額にはツゥ…と一滴の脂汗が流れていた。
「プッ…アハハッ!冗談さ。ちょっとしたスキンシップだよ」
手を叩きながらクスクスと笑い始めた。
あれの何処がスキンシップだ。あんなもの喰らって平気な奴などいるものか。いやいるはずがない。
「まぁ、君のお父さんから話は聞いてるよ。今日からここが君の家だ。ここにいる以上は校則に従ってもらうけど…君の場合は特例でね、校則を破った場合、君は『反省室』に入ってもらう」
「『反省室』?」
「端的に言えば、独房さ」
「独…房?」
「入る理由は君が1番分かっているんじゃないのかな」
そうだ。俺は
人じゃないなら人として扱われるはずが無い。例え俺が死んでも行き着く先は天国でも地獄でもない。そこはきっと『虚無』であろう。
お互いに押し黙り、耳にはオイフォンが鳴り響いていた。
「さて、ここら辺でお開きにしようか。あ、これ君の部屋の鍵ね」
と机の引き出しから小さな鍵を取りだした。
「部屋?」
「あれ、聞いてないかい?ここは寮生活だよ」
寮生活なんて初耳だ。ここでの生活もまだ分からないというのに、寮生活なんてやったら気が狂いそうだ。もともと頭の頭頂部から足の指先まで狂っているから変わりもしないのだが。
だがその迷いがアレンの中に葛藤を産んだ。
鍵をとる手が中々動こうとしなかった。動かそうとしてもまるでコンクリートに固められたように、ピクリとも動かなかった。
どうしようも無く、俯いてしまうアレン。
「この鍵を取ったら最後…
「さらに私は君のお父さんから君の処遇の一切を任された。
「だけど編入をするなら私は君を全力で守ろう。もう二度と君に
「あんた…何を言って…」
「さぁ!答えて!今!すぐ!ここで!」
校長の口や眼は先ほどのように狂気的に歪んでいた。
瞬間的に人体改造の記憶の全てがフラッシュバックした。
「俺は…もうあんな想いはしたくない」
「だから…俺を…
アレンの頭は無意識のうちに下がっていた。
初めて人に助けられた。
道具が感情を持つなど一度もなかったのに、彼は彼自身が気付かぬうちに助けを求めていたのだ。
だがそれだけで彼の本質が変わるわけでも、彼の罪が許されるわけがない。
アレンは気が付いていた。自分自身の罪は必ず自分にいつか牙をむく。
だからこそ今だけは救われていたかった。
甘く、浅はかな判断だが校長の手に命を握られている以上、この判断が最善だったのかもしれない。
ーーーーーーーーーーーーーーー
終業の鐘が、アレンの耳に鳴り響き、前にいた教員が号令をかける。
「はい、次回の授業は102ページからだ。予習をしておくように」
教科書を閉じて教壇を降りた教員は扉を開けてさっさと出ていってしまった。
10歳で18歳までの教育課程を終了させたアレンにすればこの程度のことは、造作もない。
さらに化物じみた力を持ってすれば、学内一の身体能力をみせることなど容易。
むしろ『人』としての範疇を超えないように、手加減する方が余っ程困難だった。
ここでの生活は慣れてきた。それはいい。
しかし、
「アレン君、友達は出来たかい?」
「アレン君、恋人は出来たかい?」
そう、毎日のように校長が突っかかってくるのだ。
正直に言おう。
物凄く鬱陶しい。煩わしい。迷惑。
「ねぇねぇ、ちょっとはお姉さんともお話しようよ~」
「あんたキャラ変わってねぇか?」
「はーいそこ、メタいこと言わない」
「用がないなら部屋に戻ります」
これ以上校長の相手をするのは苦痛だ。用がないのに呼び出しを被ったこちらの身にもなって欲しいものである。
「嘘嘘、冗談だよ」
またクスクスと笑う校長の顔はどこか面影を感じた。
「はい、これ」
校長が引き出しから出したのは1通の手紙だった。
「君宛てさ」
表には『アレン・ヴィルム君へ』。
裏には
「ノルマンディー公から?」
「何やら用事があるみたいだよ」
中に同封されていたのは招待状だった。
『突然、連絡してしまってすまない。久しぶりだね、アレン君。君に会いたくなってね、今回、上院議員達との夜会を名目にして、君を招待することにした。是非来て欲しい』
と手紙も添えられていた。
アレンの中に最初出た疑問だった。
校長は自分を守ると言った。なのに自分の情報が漏れている。この人は約束をもう破ったのか?
「ん?どうかしたのかい?」
アレンの眼は疑惑に満ちていた。
「いえ、何でもないです」
何でもないわけがない。
守ると言われ、託した。
なのに漏れた情報。
自分に友達なんて安っぽいものはない。
学校にスパイでも紛れているのか。
妥当に考えれば、この人が最も怪しい。
だが守ると言った時のこの人の眼は本物だった。
感覚を極限まで高めたアレンにとって視線や殺気を感じ取ることは容易い。
しかし編入から今日までそういった類の物は感じなかった。
あらゆる疑惑や懸念が浮かぶが、可能性でしか無く、確信を持って言えることは一つとしてなかった。
ーーーーーーーーーーーーーーー
疑惑を抱えたまま、夜会は当日を迎えた。
「さて、行こうか」
アレンはノルマンディー公の乗る蒸気自動車に乗り込んだ。
運命の歯車はゆっくりと、だが確実に動き始めたのである。
第2話更新です。次回から原作キャラとの絡みも少しづつ増やしていきたいと思います。