絶望ノ淵デ慟哭ヲ謳ウ   作:玉響@彼方

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暗殺

 

 

夜の帳は下りて、夜会の会場は徐々に近づいてきていた。

 

蒸気自動車の中の静寂は興醒めするように冷たく感じた。

 

さっきから、ノルマンディー公も押し黙っていて、顰めっ面を浮かべている。

 

かくいうアレンも満天の星空を睨みつけるように、外を見つめていた。

 

 

ひどく胸騒ぎがする。

 

 

水面の上澄みだけを撫でたかのように、静かだが、確かに触られている感覚。

 

だが刻一刻と迫る会場から感じる()()さはどうも強くなる。

 

首筋を舐められたかのように、粘つき、気味が悪い。

 

蒸気自動車がだんだんブレーキをかけ、速度が落ちていく。

 

どうやら夜会の会場に到着したようだ。

 

車の中で感じた異質さは既に感じなくなっていたが、残り香だけはどうしても感じ取ることが出来てしまった。

 

「さて、行こうか」

 

隣にいたはずなのに、いつの間にかアレン側の扉の傍に立っていたノルマンディー公。

 

「はい」

 

軽く返事を返し、車から降りる。

 

降りたすぐ目の前には数段の階段があり、豪華に彩られた、ドアや装飾は、この家の持ち主の気品の高さを知らしめているようだ。

 

「あと、これを君に」

 

ノルマンディー公は一本の杖をアレンに渡した。

 

杖は特別高価な装飾が施されている訳では無いが、どこか高級感を感じさせる代物だった。

 

「これは…?」

 

「差詰め、私からのプレゼントだと思ってくれたまえ」

 

渡された杖は重すぎず、されど軽すぎず。程よい重さは手に馴染んだ。

 

アレンはそのまま前を歩くノルマンディー公について行った。

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

外装が外装なら内装も内装。

 

豪華絢爛な装飾がされたシャンデリアはグランドフロアを隅々まで照らし、広々とした大広間にはたくさんのテーブルと比例したかのように、何人かが固まってワインを飲んでいた。

 

その中心では男女が入れ替わるようにダンスを披露していた。

 

「これはこれは!ノルマンディー公。お待ちしておりました。此度の夜会、楽しみましょう」

 

と、前から小太りの禿頭が話しかけてきた。

 

「おお!君がヴィルム君か!申し遅れたね。私はクリフトン・L・エインズワースという。爵位は侯爵だ。母君のことは…その…残念だったね」

 

握手をしながらクリフトンはそう言った。

 

「ええ…最期まで母は強く生きていました」

 

「だろうね…彼女は昔から強かった」

 

「母を知っているんですか?」

 

「勿論さ!彼女…リリーは私の初恋の人さ」

 

クリフトンはどこか懐かしむように見上げた。

 

「いやはや、すまない。少しばかり感傷に浸ってしまってね」

 

その声はほんの少しだけ涙ぐんでいた。

 

本当に母さんのことを愛していたんだな…

 

アレンはその事を心の底から感じた。だがそう感じたからこそ、どうしてリリーはクリフトンと結婚しなかったのか。

 

やはり尽きぬ疑問。

 

「アレン君」

 

思考に入ろうとしたアレンはその一声ですぐに現実に引き戻された。

 

「今日はクリフトン君と共にいたまえ。私の方は気にするな」

 

有無を言わさぬノルマンディー公の態度はアレンに異議を唱える暇を与えることは無かった。

 

「え…え、あ、はい。わかりました」

 

「なら、アレン君、リリーの話を色々教えてくれないかい?ずっと気になっていたんだ」

 

「まぁ僕でよければ…」

 

「そうか!よろしく頼むよ」

 

クリフトンは嬉しそうにニッコリと笑っていた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

クリフトンとの話はとても有意義で楽しかった。

 

「ははは!流石リリーだ!」

 

「当時の僕もかなり驚きましたよ」

 

二人はかなり盛り上がって話をしていた。

 

だがーー

 

「失礼致します」

 

唐突に横から声がした。

 

アレンは素早くクリフトンと声の主の間に体を入れた。

 

そこにいたのは、妙齢の美女だった。

 

年齢はアレンと同年代…かまたは少し上。

 

美しい緋色のドレスに身を包み、豊満な胸を誇張するかのように、腰に腕を回していた。

 

(……腰に回転式散弾銃…型は…オリジナルか)

 

「あなたは?」

 

「私は()()の小貴族の娘です。ただ…クリフトン侯爵と私もお話したくて…あんなに大きな声で話されたら、興味が湧くのも致し方ないでしょう?」

 

クスクスと妖艶な笑みを浮かべる女性。

 

だが腰に銃を携帯した人とクリフトンを一緒する訳にはいかない。

 

「すまないけど今はーー

 

「構わんよ」

 

「クリフトン侯爵!」

 

するとすぐにクリフトンは手でアレンを制した。

 

「アレン君、申し訳ないが少しの間だけ、席を外してくれ」

 

「……わかりました」

 

そう言ってアレンはクリフトンから少し離れた。

 

その女性はすれ違いざま、少し笑ったように見えた。

 

そのまま二人は窓際を歩きながら話を始めた。

 

暫く話した後、二人はある窓の前で止まった。

 

そしてその窓は何故か開いていて、隙間風がカーテンを揺らしていた。

 

 

その時だった。

 

 

風が一瞬強くなり、カーテンを高く舞いあげた。

 

そして満を持したかのように発砲音とともにシャンデリアが撃ち落とされた。

 

だが、アレンには見えていた。

 

たった一瞬だけ巻き上がったカーテンの外に()()()()()()

 

そしてその光には()()がついていたことを。

 

「ッ!?」

 

気がついた時は既に走り出していた。

 

限界まで足に力を込め、一気に蹴り出す。

 

その距離は一瞬で埋まった。

 

だが凶弾はすぐそばまで迫っていた。

 

例え弾丸より速く動けても守る手段がなければ意味が無い。

 

しかしアレンの()()()気がついていた。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

窓を割り、今まさにクリフトンに直撃しそうになる弾丸。

 

そしてーー

 

 

 

その弾丸は一瞬で真っ二つに切り裂かれた。

 

 

しかし弾丸の勢いを殺しきることは出来ず真っ二つになった弾丸はそのままクリフトンの身体を挟むかのように、飛び、後方のワイングラスにぶち当たった。

 

「クリフトン侯爵、お怪我はありませんか?」

 

「あ、あぁ。問題ない」

 

クリフトンの様子から無事と分かったアレンはすぐに駆け出した。

 

先程の女性はいつの間にか姿を消していたが、視界の端で僅かながら捉えていた。

 

女性が逃げた方向に全速力で追跡すると、目の前に暗闇の中蠢く、赤を見つけた。

 

アレンはその場で跳躍し、木の上に登る。

 

辺りは針葉樹林が生い茂り、身を隠すのは容易であるため、そのまま木々を飛び越えながら、女性を追いかける。

 

女性が立ち止まった為、アレンも太い幹の陰に姿を隠す。

 

「暗殺は失敗。これよりコードβに作戦を変更。直ちにこの場から離脱する」

 

透き通るように綺麗な声がした。

 

一台の蒸気自動車の近くに何人かの女性が固まっていた。

 

今この場で、全員を殺すのは簡単。だが敢えてここは彼女たちを見逃す。一度逃がして泳がせておいたところを次は根絶やしにする。

 

一応、全員の顔は記憶した。

 

あとはこの情報をノルマンディー公に渡すだけ。

 

などと思案してるうちに、車の発進音がして、その蒸気自動車はあっという間に彼方まで走り去っていった。

 

車が見えなくなると、アレンは木から飛び降りて、一度、仕込み杖を抜刀した。

 

 

 

 




第3話更新です。ようやく原作キャラとの絡みが始まりました。政治に関しても触れていくつもりです。よろしくお願いします。
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