絶望ノ淵デ慟哭ヲ謳ウ   作:玉響@彼方

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『偽』王 Ⅰ

 

「………………………」

 

別に彼女たちになにかしようと言う訳じゃない。

 

俺は、何をしているんだろうか…?

 

自らの敵に、どうして躊躇いを感じているんだ?

 

さっさとノルマンディー公に()()()を伝えれば俺の仕事は終わりじゃないか。

 

何故そうしない?

 

「っ………クソが…」

 

自分自身が分からず、思わず悪態をつく。

 

矛盾した行動ばかりする自分に苛立つ。

 

窓に近づき、宙に浮かぶ月を眺めた。

 

月は煌々と輝いているが、それは酷く寂しそうな孤独を感じる。

 

じっと宙を見上げ、月を睨み付けていたアレン。

 

瞳は真っ直ぐ向けられていた。

 

しかしその瞳はほんの一瞬で怪訝なものに変容した。

 

それは()だった。

 

()は月を背に空を駆けていた。

 

黒い陰だった。

 

否、()だった。

 

ただそれは、人に有らず。

 

それの右腕は明らかに異型だった。

 

あまりにも肥大化した腕。

 

その先端につくは、鋭利に煌めく剥き出しの刃。

 

その刃は3つに分かれていて、まるで獣の爪のようであった。

 

その爪は彼岸花のように真っ赤に染まり、それがまた異質さを際立たせていた。

 

息が詰まる。

 

異型は学園の屋上に立つとこちらを見ていた。

 

頭の中の本能が騒ぐ。

 

『逃げろ』

 

『走れ』

 

『逃げろ』

 

『走れ』

 

『逃げろ』

 

そんなことは分かってる。

 

 

 

 

だが、体が…動かない。

 

 

 

 

息が詰まる。

 

 

 

 

異型は屋上から飛び降りると、巨体とは似ても似つかない、靭やかな動きで音もなく地面に着地した。

 

今度こそ、目が合った。

 

その瞬間、記憶がすべてフラッシュバックした。

 

幼いあと時戦ったー一方的な虐殺だったがーあの、腐った身体を持つ、()()()との記憶が蘇る。

 

ただ、此奴は違う。

 

あんな()()()()()のような奴らとは違う。

 

常軌を逸している。

 

もっと完全に近い、個体だった。

 

異型はこちらを見て、耳まで裂けていて、大きすぎる口を限界まで歪めてニヤァと笑った。

 

瞬間。

 

アレンは壁に叩きつけられていた。

 

「…がっ……ぁ……」

 

異型が瞬きする一瞬で距離を詰めて来ていた。

 

それも3階にあるはずのアレンの部屋に。

 

さらに、アレンを直接攻撃したわけではなく、()()で壁を殴りつけただけのようだ。

 

だが人間サイズに留まる左腕で、直接でもないのに、この威力である。

 

此奴がどれだけ人とかけ離れた存在かが分かるだろう。

 

しかしいくら屋上から飛び降りて無音で着地する怪物であろうと、壁を破壊する音は抑えることはできないようで、凄まじい轟音と共に寮には煌々と電気がつき始めた。

 

「……いっ…つぅ…」

 

頭部からはドロドロと真っ赤な血が流れ、制服はボロボロになりながらも、アレンは気を失うことはなかった。

 

怪物は鮮血に塗られた爪の間でアレンの首を挟むように壁に爪を突き立てた。

 

そして、そのままアレンに顔を近づけ、死臭と腐臭の混ざる息を吐いた。

 

『オ、マエ、アレン…カ…?』

 

たどたどしくそう呟いた。

 

アレンは返事をしようと口を開けようとしたが、あまりの臭さに顔を顰めた。

 

怪物はそんなことは関係ないと、アレンに近づき、匂いを嗅いでいた。

 

そして、納得したかのように、アレンを小脇に抱えると、その場から高速で離脱した。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

刹那だった。

 

そう、本当に瞬きをするコンマ何秒の世界で、近くにいた仲間たちは、肉塊と化した。

 

そいつはどこからともなく、やって来て、虐殺をはたらいた。

 

挙句、ターゲット、アレン・ヴィルムを連れ去ったのだ。

 

仲間たちが不可解な死をとげたからと言って、私たちの今宵の任務が終わった訳じゃない。

 

私はすぐに生き残ったもう1人を連れて、車に乗り込み、怪物の跡を追った。

 

Lは「出来ることなら生きたまま連れてきてほしい」と言った。

 

何故かは分からなかったが、万が一ターゲットが生きているなら作戦を遂行しなければならない。

 

だからこうして、20人もいた仲間がほぼ全員死んでも、続けている。

 

と言っても、もしあの怪物と真っ向から戦うことになったら、間違いなく…死ぬ。

 

隣で仏頂面のまま、真っ直ぐ前を見ている相棒、アンジェを尻目に見る。

 

視線に気づいたのか、アンジェもこちらを見て、「なに?」というような目をしていた。

 

彼女が持つ、優秀なスパイにだけに与えられる『Cボール』

 

我が国だけで産出される「ケイバーライト」を用いて作られていて、起動させれば、重力さえも操ることができるようになる。

 

しかし怪物の力はそれすら凌駕している。

 

例えCボールを使ったとしても惨殺されるのがオチだろう。

 

それでも追わなければ。

 

と、怪物を追い続けているドロシーとアンジェだったが、だんだん車では通れない細い路地になり始めたところで怪物はある家屋に入っていった。

 

車を降り、その後ろを気取られぬようについて行く。

 

中に入ると、そこはホールのようになっていた。

 

2階からは1階のホールを見下ろす形に作られていて、ホールの中央には貴族のテーブルのようにかなりの長さを持つ長机が置かれていて、その左右には各10人づつ座り、その端には、もう1人と、アレンが座らさせていた。

 

ドロシーとアンジェは、物陰から様子を伺っていた。

 

傍から見たら、ただの貴族の集まりの様に見えるが、1点だけが、異質さを放っていた。

 

それは、アレンを除く全員が、目深にフードを被り、足元まで引き摺るくらい長いローブを纏っていた。

 

その先でアレンは足を組んで座っていた。

 

「んで、何の用だ?というかお前ら誰だ?」

 

不躾に口を開いたのはアレンだった。

 

「君にはね…我々の同士、仲間になってもらいたくてね…」

 

アレンの目の前、といっても結構先にいる人物が喋り始めた。

 

「仲間?」

 

「えぇ、君の事情はよく知っています。君のような不遇な人生を歩んだ者達…それが私たちさ。君のお父上は()()()()()を造っていたのはね…我々も驚いたよ。ただあれも、もう私たちの仲間だ。名はキングと言う。君も見ただろう?あれは非常に優秀だ。我々はキングの力とここにいる1()2()人の幹部、それに各地にいる同士たちで、革命を起こす」

 

「革命?」

 

「そうさ、王国も、共和国もない。両方を同時に叩き潰し、新たな国をここに作る。我々こそがこの土地を統治するのだ」

 

「新たな…国」

 

アレンは目を瞑り、立ち上がった。

 

「さぁ!私の手を取りたまえ!共に行こうじゃないか!」

 

リーダー格はそれを肯定と受け取ったのか、アレンに近づきならが右手を差し出した。

 

ゆっくりと閉じた目を開き、アレンは右手を上げて、

 

 

 

 

 

思いっきり振り下ろした。

 

 

 

『ッ!!』

 

振り下ろされた右手は机に叩きつけられ、粉々に砕け散った。

 

フードの者達は一斉に飛び退き、リーダー格の隣に並んだ。

 

「…………くだらねぇ」

 

「くだらない…だと?」

 

「ああ、くだらねぇな」

 

「君には分かるはずだ。この国はもはや終わりだ。改変が、必要なのだよ」

 

「それがくだらねぇって言ってんだよ。キング?だっけか。てめぇはさっきから1度も名前で呼んでない。あれで済ませていたな。つまり、道具のようにしか思ってないってことだろ?仲間なんかじゃない。それにアイツは俺のクソ親父が造ったもののはずだ。それを仲間にって…敵の力に頼って何が革命だ。やるなら自分たちの力だけでやれよ。そんなことが、分からねぇから革命なんてくだらねぇ発想に至ってるんだよ」

 

「ぐ…」

 

バッサリと言い切られ、言い返せずに黙り込むフード達。

 

「話は終わりか?なら俺は帰るぞ」

 

と踵を返し、とっとと帰ろうとした時だった。

 

「キング!!……奴、を殺せ」

 

声に合わせるかのように、どこからともなく、あの怪物が現れた。

 

だが先に動いたのはアレンだった。

 

一気に踏み込み、怪物の腹に拳を叩き込む。

 

「遅せぇよ」

 

怪物は背後に吹っ飛ばされ、古時計にぶち当たった。

 

その後ピクリとも動かず、機能停止したようだ。

 

「この…クソガキめぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

11人のフードたちは同時に銃を構え、引き金を、引ーーくよりも速く撃ったものがいた。

 

その弾丸は頭上にあった、絢爛なシャンデリアと天井を繋ぐ鎖を断ち切った。

 

落下するシャンデリアに視線が集まった瞬間に、部屋に煙玉が投げ込まれた。

 

それを後退して回避したアレンの手を、何者かが掴んだ。

 

「こっち!」

 

声の高さから女性だろう。

 

その女性に引っ張られるまま、外に出る。

 

「速く乗って!」

 

そこには一台の車が停まっていた。

 

「君は…!」

 

「いいから!速く!」

 

それは、昼間にあったあの綺麗な女性だった。

 

女性は制服とは違い、髪を後ろでまとめ、膝よりも短いスカートに、胸元が大きく空いた、何とも扇情的で目のやり場に困る格好だった。

 

なんて考えていると、車は急発進した。

 

「うおっ!」

 

「しっかり掴まってて!舌を噛むわよ!」

 

何故そうも急ぐのかと、背後を振り返ると…

 

キングと呼ばれた怪物は目を覚まし、こちらを追いかけてきていた。

 

「結構、渾身の力込めて殴ったはずなんだけどな…」

 

とアレンは嘆息した。

 

見れば、アレンが殴った跡は綺麗に完治していた。

 

「退いて!」

 

頭を押し退け、助手席に座っていたアンジェが、キングに向かって発砲。

 

頭部に命中するもそれを諸共しない勢いで走って来ている。

 

「あはは、効いてねぇわ」

 

「…標的を間違えたみたいだわ」

 

アンジェは銃口をアレンに向けていた。

 

「冗談だよ、冗談」

 

初対面のアンジェを笑い飛ばすアレンだが、その胸中は、嵐の如く、吹き荒れていた。

 




遅くながらも、第5話更新です。本当はまだバイオ要素は出すつもりはなかったのですが、話の流れ的にそろそろ出さないとつまらないので、ちょっと無理やりですが、出てもらいました。

拙い作品ですが、これからもよろしくお願いします。

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