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キングは一切速度を落とすことなく猛然と走り続けていた。
「……やっぱり、無理か…」
ボソリとアレンは呟いた。
「なぁ、次の角右に曲がってくれるか?」
「右!?どうしてまた…!」
ドロシーも急に話しかけられたせいで、焦っているようだった。
「頼む」
アレンの真面目な声を聞き、不信に思いながらもドロシーはハンドルを右にきった。
ハンドルをきった先にあったのは荒廃した広場のようであった。
おおよそ、新たに作られた道路や店などに人が集中したため、忘れ去られたものなのだろう。
「そのまま道のりに沿って走って」
言われた通りに車を走らせようとスピードを上げるためにアクセルを踏み込もうとした、その時だった。
「多分、この道からなら逃げきれると思うから……じゃあな」
そう告げたアレンはその場でジャンプした。
その結果、慣性の法則に従い、アレンの身体は後方に消えていった。
「「はぁっ!?」」
驚きのあまり二人して素っ頓狂な声をあげてしまった。
だが、時すでに遅し。
アレンの姿は暗闇に消えていた。
だが、それと同時に追跡する者の足音も姿も無くなった。
ドロシーは急ブレーキ、とまではいかないながらもブレーキをかけ車を停めた。
急ぎ足で車から降り、アレンが消えていった後方の闇を見つめるが、そこには何も無かった。
静寂。
轟音。
静寂。
轟音。
静寂。
「っ……………」
駆け出そうとしていたドロシーの腕を引き止めたのは、アンジェだった。
徐々に間隔を詰める轟音と静寂のコントラストは精神的に安定した状態ではない、二人にとっては非情なまでに恐ろしいものだった。
子供の身の丈程もある刃を鮮血に染め上げた化け物と一丁として銃を持たない少年が、この闇の先で生命を殺り取りしているのだろうと思うと正気を保つのが精一杯だった。
アレンが何者なのか正確なことは分からないが、あの怪物と素手で戦うことができるという事実から分かるように、この少年もまた、規格外の生き物なのだろう。
この場に残された二人も厳しい訓練を積んできているが、あの闇の先にある戦闘に参加できる程、度胸があるわけではなかった。
任務の遂行は、時として人の命よりも重要なことがある。
だが、いくら心を殺したところで本能がそれを妨げれば意味が無い。
頭の中で保身の警笛が鳴り続けている。
先に見える闇は、二人の希望を呑み込むように、ただただ静寂と轟音だけを唱え続けていた。
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痛い…
苦しい…
血が…止まらない…
もう何度地面に叩きつけられたのだろうか。
何度あの刃で斬りつけられたのだろうか。
流れた血が、どれだけこの場所を濡らしたのだろうか。
抉りとった奴の肉塊、肉片がどれだけ落ちたのだろうか。
それでも何回立ち上がったのだろうか。
別にあの二人の為に戦ってるわけじゃない。
これはアレンの
そしてアレンの
憎き親が創り出した
そうすることで、親の実験を失敗させられる。
そして、実験体を破壊することで、犠牲になった人達に安らぎを与える。
そうして、復讐は始まった。
だが、どうだ。
初めて成功した生物兵器のプロトタイプである、正式名称『materialNo.1』にさえ、このザマだ。
「…ぅぐっ…」
苦痛の声が漏れる。
『materialNo.1』はあくまでプロトタイプだ。
成功体であるといっても、初期段階レベルにこうも押されるものなのか。
地面に突っ伏し、四つん這いになりながらも、なんとか意識を保つ。
口の中にどろりとした液体が溢れてくる。
血だ。
恐らく体内の臓器が傷ついているのだろう。
たまらず溜まった血を吐き出す。
「おぇ…」
真っ赤な粘液が地面に滴る。
そこへ、白い物体が飛んできた。
その物体はアレンの顔面めがけてすくい上げるように放たれた蹴りだった。
咄嗟に腕で顔を覆う。が、
勢いはとどまることを知らず。
アレンの体は上空に吹っ飛ばされた。
しかしアレンにとってこの攻撃は好都合だった。
「っ……らぁ!」
空中で体を捻り、落下の力を利用した蹴りを叩き込む。
が、No.1には届かない。
すんでのところで足を掴まれ、勢いを殺されていた。
アレンは唇をかみしめ、舌を巻いた。
No.1はアレンの足を持ったまま、振り上げた。
このまま地面に落とすつもりだ。
振り下ろそうとした、その時だった。
森の方からバンッと音がした。
その刹那。
アレンの足を握り締めるNo.1の腕から、鮮血が迸った。
『ッ!!』
これには二人とも驚きを隠せなかった。
しかし力が緩まる瞬間を逃すほどアレンも馬鹿ではない。
瞬時に、逆の足で踵落としをNo.1の手の甲に放つ。
思わぬ反撃にあい、アレンの足を離す。
着地後、すぐに射程圏内から後退する。
そのまま音がした森を見る。
そこには逃がしたはずの二人の少女が、銃を構えて、立っていた。
「お前ら…なんで…」
「私たちの今回の任務はあなたの身柄を確保すること」
「あと、あんたが何者であの怪物がなんなのか…教えてもらうわよ」
アレンは目を丸くした。
だが、同時に少し、安心した。
「あれの弱点は、首と頭だ。原理はウィルスが脳を汚染し、脊髄、神経系を全て管理している。要は頭と胴体切り離せば、止まるってこと」
「簡単に言わないでよ…」
「胴体への攻撃はあまり意味が無いんだ。ほらな」
アレンが指す先には、怪物の腕に当たった弾丸が、這い出た触手のようなものによって、取り除かれている瞬間だった。
「ウィルスに感染して、適合したものは大体ああなる。そして即座に細胞分裂による、高速再生が始まる」
明らかに嫌そうな顔をするドロシー。
1人静かにうへぇ…と唸っている。
「だから体と頭を繋ぐ首を狙う…」
それを気にしないアンジェ。
「そういうこと」
実際問題、勝てるかどうかは分からない。
だが、少なくとも勝率は上がっている。
だから、後は…
いつも亀更新で申し訳ないです。そして駄作に付き合ってくれる方々。いつもありがとうございます。(*´▽`人)
これからもよろしくお願いします。