絶望ノ淵デ慟哭ヲ謳ウ   作:玉響@彼方

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『偽』王 終

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奴を倒す、という利害の一致により一時的な協力関係となった三人だったが、戦局は未だ不利なものであった。

 

「これじゃ、キリが無いな…」

 

木陰に隠れながら、ドロシーがぼやいた。

 

アレンが前衛でキングの相手をし、後方から隙をついて、ドロシーとアンジェが発砲。

 

多少ダメージは入っている様子を見せるが、即座に細胞分裂による回復で、元に戻る。

 

こんな一進一退を続けていた。

 

「っ………」

 

不意にアレンの動きが鈍る。

 

刹那。

 

アレンの姿は()()()

 

否。

 

遥か遠くまで、一瞬にして吹き飛ばされていた。

 

キングは剥き出しになった刃でアレンを思い切り攻撃した。

 

『死んだ』

 

アンジェとドロシーは確信した。

 

あの巨体からの一撃をもろに食らったのだ。

 

アレンが吹き飛ばされた方向には岩が転がっていて、そこにもたれかかるアレンの姿が見える。

 

しかしアレンは項垂れたまま、ピクリとも動くことがない。

 

「くっ…アンジェ!」

 

「分かってる」

 

アンジェはすぐに後退を始めた。

 

ドロシーもそれに続く。

 

あの怪物に真っ向から挑むのは無謀すぎる。

 

さらに前衛で奴の気を引き続けていた者が、たった今、目の前で殺されたのだ。

 

自分たちにもう勝つ術はない。

 

ならばどうするか。

 

どちらか二人がこの場から無事に生還し、あの情報を伝えることが、最善である。

 

ドロシーの素早い判断は正しいものだろう。

 

だが、二人は気が付かなかった。

 

アレンの身体は既に人の領域を越え、さらに一歩、遠くに踏み出していたことに。

 

 

 

 

 

 

なぜ、アレンはキングから肉片を奪っていたのか。

 

 

 

 

 

なぜ、アレンはキングの血を体内に取り込んでいたのか。

 

 

 

 

 

アレン本人は薄々感ずいていたのではないだろうか。

 

自身を動かす何者かの力を。

 

欲しいものは全て手に入れたいと思ったことはないだろうか。

 

だが、それは「不可能」という理性によって押さえ付けられる。

 

好みの異性を、我が身の思うままにしたいと思ったことはないだろうか。

 

だが、それは「嫌われる恐怖」という理性によって押さえ付けられる。

 

味わったことのないスリルを感じたいと思ったことはないだろうか。

 

だが、それは「危険だから」という理性によって押さえ付けられる。

 

 

『本能』に従うことは『理性』に反すること。

 

 

本能は単純で、明快で、利己的で、暴力的で、狂歌的で、悪魔的で、それ故に…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『美しい』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

突如として、キングの身体は()()によって切り裂かれた。

 

それは本当に瞬きをするコンマ何秒の世界。

 

何が起きたかわからない。

 

キングがアレンに近づこうとして、踏み出そうとしていた瞬間だった。

 

それが、ほんの一瞬間で、バラバラに消えていった。

 

まるで、夢の世界から起床したときのような儚さを抱かせるようなくらい、刹那なるものだったのだ。

 

 

―――――――――――――――

 

正直に言って、今、自分を突き動かすものは自分自身の意思によるものではないなと、気がついたのはやつにあってからすぐだった。

 

脳による理性を否定し、細胞による本能の肯定。

 

俗に言う、『考えるな、感じろ』というやつだった。

 

自身の中にある、細胞が進化を望んでいる。

 

アレンの父、スカーが生み出した、S-VIRUSは常に進化を望む。

 

進化が可能な宿主内では宿主に、絶大な力を与えるが、見込みがない個体では精神を侵し、肉体を崩壊させ、自我のない肉塊化させる。

 

そして、より強い個体を見つけると、その個体を喰らうことを最優先に行動するようになる。

 

例によって、アレンの中のS-VIRUSはより強い個であるキングの細胞を喰らうことを目的としていた。

 

それが、キングの肉や血を喰らう理由であり、より強くなったアレンのS-VIRUSは急速に遺伝子情報を変貌させ、進化させた。

 

「ようやく、馴染んだか」

 

アレンの腕は正しく異質なまでに変貌を遂げていた。

 

腕には指を模したかのように5本の刃が手のように生えていた。

 

そこから漆黒に染まった血管が浮き出ている。

 

さしずめ、『爪』というのが正しいだろう。

 

しかしその爪はただの爪にあらず。

 

銃弾を貫通させぬ肉体を真っ向から切り伏せ、その上、余波で地面を抉る。

 

最早、化け物の領域に達している。

 

「……………」

 

アレンは無言のまま、その爪をキングの死体に突き立て、真紅の臓器を取りだし、そのまま口に放り込んだ。

 

アレンの口まわりに真っ赤な液体が飛び散るが、意に介すことなく喰らい続ける。

 

「アレン…お前はいったい…」

 

何者か、と言葉を続けようとしたドロシーは言葉を詰まらせざるを得なかった。

 

なぜならそれは、アンジェが銃口をアレンに向けていたからである。

 

「答えて。あなたは人間?それとも…別の()()なの?」

 

アレンは口から残った血を吐き捨てた。

 

「…後者だったら?」

 

「質問に答えなければ、撃つ」

 

「なら、後者だ」

 

「そう…」

 

アンジェは納得したのか、ウェブリー=フォズベリーをしまった。

 

「とりあえず、ここから離れよう」

 

ドロシーが場の空気を読み、年長者らしく告げた。

 

「どこに連れていかれるんだ?」

 

「私たちの…まぁ、上司っていうやつのところ」

 

幸いにも、ドロシーの愛車は傷つくことなく無事に走れるようである。

 

「あの怪物はほっといてもいいの?」

 

と訊ねるアンジェに、アレンは軽く手を振りながら、

 

「ウィルスの核は心臓にある。その心臓が無くなれば、あとは勝手に死滅して、灰になる」

 

ほらな、と指さすアレンの先には体が灰色になり、足のつま先から粉になりつつあるキングの死体だった。

 

三人はその最期を見ることなく、この場から立ち去っていった。




投稿遅くなりました。いつも読んでくださる方々、ありがとうございます。今回でキングとの戦闘は終わりです。次回からはキャラ同士の絡みを増やしていく予定です。次回もよろしくです。
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