亜種聖杯戦争 ~God's penalty~ 作:あいますく
院都さんは物理学者だった。物理と魔術。噛み合わなそうな二つを見事に噛み合わせた研究をしているらしい。
「改めまして、アサシンのマスターです。こちらがアサシン。」
アサシンが出てきた。白衣を着た少年のような男だった。
「やあ、俺はアサシン!アサシンって言っても俺はただのドロボーだけどな!」
「私はライダーのマスターの永治穣太です。」
「僕がライダーだよ。」ライダーも出てきた。
「あー、俺はセイバーのマスターです。」
セイバーは出てこなかった。
「セイバー?出てきてくれ。」
「…はい。」
渋々、と言った感じでセイバーは出てきた。
「セイバーです。」
「おおー!サムライ!ブシドー?ニンジャ?」
「武士道は心得ていますが、忍者ではありません。」
「アサシン、セイバーに迷惑をかけない。」
「えー、しょうがないなー。」
院都さんは俺たちに向き直って話を続けた。
「皆さんに来ていただいたのはこの聖杯戦争の異常性について伝えたいからです。」
「異常性?」
「はい。本来、聖杯戦争は冬木市で執り行われます。今回は紅藍市で行われるので不完全な聖杯戦争、『亜種聖杯戦争』と呼ばれます。」
「不完全…か。」
「そう、この聖杯戦争は不完全でないといけない。しかし、何故か7騎のサーヴァントが揃ってしまった。」
そこで、永治先輩は口を開いた。
「本来の聖杯戦争ではアサシンはハサンしか召喚されないから不完全ではある。しかし、亜種聖杯戦争では7騎揃わないのか?」
「…そうですね。冬木市の魔力は桁違いに多い。だからこそ聖杯は7騎のサーヴァントを呼ぶことが出来る。しかし、紅藍市の魔力も多いとはいえ、せいぜい呼べて5騎が限度でしょう。」
「なのに、7騎揃った…ってことは!?」
「気づきましたか、ライダーのマスター。」
二人は深刻そうな表情をしている。
「どういう事です?」
「…紅藍市の魔力を全て使い果たしてしまう危険性がある。」
「つまり、人間から草花まで、この街に住む全ての生命体全てから魔力が奪われるという事です。」
「そんな…」
「でも、現実でそんな事が起こっていない。それが異常なのです。」
「サーヴァントは7騎揃ったのに町が滅んでいない事が異常…」
院都さんは棚から1枚の紙を取り出した。
「これはアサシンに調べさせた勢力図です。」
大学側にセイバー、ライダー、アサシン
教会側にランサー、アーチャー、バーサーカー
そして“?”となっているキャスター
その図を見て永治先輩は首を傾げた。
「教会がバーサーカー…?」
「教会、となっていますが正確には聖堂学院の生徒がマスターとなっています。」
「子供相手に戦えと?」
「…そうなりますね。」
「それとキャスターだ。なんで“?”になってるんだ?」
「…アサシン。」
これまで実験器具をいじっていたアサシンが口を開いた。
「キャスターだけは見つからなかった。ま、ランサーも動いてないし、バーサーカーは何やってるかわかんないし、いる前提で話した方がいいと思うよ。」
俺は、一昨日のバーサーカーの言ったことを気にかけていた。
「そう言えば、バーサーカーは一昨日、何かやることがあるって言ってた。何をやってたんだ?」
「夜な夜な夜道を歩く人達を驚かせて怖がらせるだけだ。攻撃もしないし魔力も奪ってない。狂ってるね。彼女のマスターは知らないんだろう。」
「…そうか。」
暫くの沈黙。
きっと二人はキャスターについて考えているのだろう。
しかし、俺はバーサーカーについて考えていた。
怖がってもらわないといけない…のか?
そんな事がなんの役に立つんだ?
そう考えていたら終業のベルが鳴った。
「…おっと、随分長く話してしまいましたね。キャスターについては発見次第ご報告します。これ、アドレスです。」
「ああ、ありがとうございます。」
「では、ご健闘を祈ります。」
「滝原、キャスターについてどう思う?」
「…7騎召喚されたのは事実なんでしょう?だったらいるのは確かじゃないですか。」
「あー、そうじゃなくてな。キャスターってのは魔術師のサーヴァントだ。つまり桁違いな魔力を持っている。その魔力を使って足りない魔力を補ったとしたら?」
「…キャスター陣営に2騎増える…?」
「その可能性もある。そうだったとしたらかなりの脅威だ。」
「…そうですね。早く見つけないと。」
「だが、この二日間でキャスターは何も動いていない。そこが不気味だ。」
「キャスターには陣地作成スキルがあるらしいじゃないですか。それで陣地を作っているのでは?」
「可能性はあるが…キャスター自体魔力以外はそう大したことがない性能だ。お前のセイバーとライダーで組めば倒せる。どうだ?協力する気になったか?」
「…セイバー、どう思う?」
セイバーは現れずにこう言った。
「一時的な休戦協定としましょう。納得はいきませんが。」
「セイバーから許可も出た。もちろん協力しますよ。」
「よし、これから宜しくな。」
聖堂学院
女性は廊下を歩いていた。美しく伸びた長い髪に、気品溢れるその佇まい。その姿に多くの男子生徒は魅了されている。
「おい、話しかけてみろよ。」
「無理だよ。お前がいけよ。」
そんなひそひそ話が彼女の耳に届く。
そこにもう一人、女子生徒が歩いてきた。
女性と相対的に、猫背でボサボサな長い髪。手に持っているのは真っ黒な本。
二人はすれ違う。
その刹那、お互いに確認したのだ。
二人がマスターであると。
「待ちなさい、貴女。」
女性は呼び止めた。
「ひっ、何ですか…?」
女子生徒は怯えた様子で振り向いた。
「今夜、いつもの場所で。」
女性は女子生徒に耳打ちした。
しかし、女子生徒はポカンとしていて全く理解をしていないようだった。
バーサーカーは、にやりと笑った。