海鳴市。平凡なこの街に一人の奇妙な出で立ちの男が訪れた。
190㎝以上の上背に白の厚手のコートを纏い、同じく白の左手の平のマークが意匠された帽子をかぶったこの男。
名前は空条承太郎。
彼はこの街に住んでいるという、DIOの息子であり、またジョースター家の血統でもあるヨシュア・ジョースターに会うため、ここ海鳴市へやって来た。
「やれやれ。こんな分かりやすい名前のヤツを今まで、SPW財団が見つけられなかったとはな」
SPW財団は、世界中に散らばったジョースターの血を受け継いでいる人間を探し出してきた。
今までで東方仗助、汐華初流乃など発見されている。
承太郎は、SPW財団職員に渡された住所のメモを見やり、路線バスを利用することにした。
バスの中には帰宅時間なのか、下校中の学生が多く見られた。
白い特徴的な制服を着ているのは、私立聖祥大付属小学校の生徒たちだ。
ヨシュア・ジョースターは確かこの私立大学付属学校の高等部に在籍していると聞いている。
話によると、かなりの不良生徒のようであるが、成績だけはいいので退学を免れているようだ。
(わたしもそうだったが、ジョースター家はどうも不良が多いようだ……それに加えDIOの血も受け継いでいる。面倒なヤツでなければいいのだが……)
そんなことを考えているうちに、バスから見える風景は移り変わっていく。
現在、バスは閑静な住宅街を進んでいる。
メモによるとどうやらヨシュアはこの辺りに住んでいるらしい。
この辺りでいいかと思い、承太郎は、降車ボタンを押しバスを停車させ、降りると、住宅街の中を歩いて行った。
住宅街というのは存外入り組んでいるもので、土地勘のない者は容易に道を見失ってしまうものだ。
それは承太郎も例外ではない。
こんなときには手っ取り早くその土地の者に道を聞いてしまうのが一番だ。
そこで承太郎は、自分からみて道の向かい側を歩いてくる一人の栗色のツインテールの少女に尋ねることにした。
「君、少し道を尋ねたいのだが……」
「ふえ?道……ですか?」
「ああ……この辺にジョースターという姓の家があるはずなのだが、どこか知らないだろうか?」
「ジョースターさんですか?それなら知ってます!お向かいさんなんです!ついてきてください、道案内しますから。あっあと、わたしの名前、高町なのはっていいます」
「そうか……よろしく頼む」
ヨシュア・ジョースターの家は意外にもすぐに見つけることができた。
その家は、承太郎の進んできた道沿いにあったので、内心、己を恥じながら玄関のインターホンを押す。
赤い屋根の大きな庭のある家。
その中から出てきたのは、金髪のエキゾチックな風貌の青年だった。
身の丈は180㎝ほどだろうか、ジョースター家の人間にしては、やや細身ではあるが、その眼からは確かにジョースター家特有の強い意志の力が感じられる。
「君がヨシュア・ジョースターか?」
「そうだが、アンタは誰だ?一体どんな目的で来た?」
「わたしは空条承太郎。君とは少し複雑な血縁関係になるな。そして――単刀直入に言うが、君は知らないかもしれないが、君の父親を殺したのはわたしなのだ。」
「なっ!?」
承太郎は『殺した』の部分だけなのはに聞かれぬよう声を潜めたが、それでもヨシュアに衝撃をもたらすには十分すぎた。
しかし、彼は別に『殺した』という部分に驚愕したのではない。
「そうかアンタがあの
そうヨシュアが驚愕したのは、空条承太郎という男が自分の前に現れたことそのものだった。
普通は父親の仇がその息子の前に現れたりはしないからだ。
「オレを殺しに来たのか?DIOの息子であるオレを」
それしかありえない。
そう思い迎撃態勢に入ろうとするヨシュアを承太郎は手で制した。
「違う。わたしは君に危害を加えるつもりはない。だが……その様子だと知っているようだな。君の父DIOのことも、――そしてスタンドのことも!!」
「ああ、だが、知らないこともある。オレとアンタが血縁関係?だったか?ゆっくり聞かせてもらおう」
そういって承太郎をリビングに案内しようとするヨシュア。
「そうだな、だがその前に……」
承太郎の視線の先には先ほど道案内をしてくれたなのはがいた。
彼女はすっかり置いてけぼりを食らってしまって、ちょっとおろおろしていた。
「……すまないな、なのは。わたしは彼と話をしなくてはならない」
「は、はいっ。気になさらないでください!」
「お向かいさんには後でオレが菓子折りでも持っていこう」
そこでなのはとは別れることになった。
***
「さて、まずはわたしと君が血縁関係にあるということから話そう……。その昔、わたしの高祖父、ジョナサン・ジョースターと吸血鬼ディオ・ブランドーは激闘を繰り広げてきた。死闘の末、ジョナサンは勝利したかに見えたが、ディオは首だけとなって生きていた。そして――あろうことかディオはジョナサン・ジョースターの首から下を乗っ取ったのだ。この意味がわかるな……?」
「……つまりオレはそのジョナサン・ジョースターの息子でもあるということか?」
そうだ、と承太郎は頷く。
「だが、君はあまり気にする必要はない。なにかあればSPW財団が援助してくれるはずだ。……それよりも今、問題なのは君のスタンドのことだ……。スタンド使い同士は引かれ合う。君も心当たりがあるだろう?」
ゴクリ、と知らず知らずのうちにヨシュアは生唾を飲み込んでいた。
実際、承太郎の言う通りだったからだ。
ヨシュア自身は何も意識していなくても、いつの間にか出会ってしまうことは多かった。
それで戦闘になるということも……。
「……いつからだ?いつ能力
「……四年前さ。四年前、あの『矢じり』に貫かれてから……」
「なにッ!?矢じりだとッ?今どこにあるッ!?」
「やはり、知っていたか。だが今ここにはない。盗まれてしまったからな」
「ということは、この街にもスタンド使いがいるということか……」
「ああ……それも用意周到で頭の切れるヤツがな。だから追ってる」
それから承太郎はヨシュアといくらか問答を重ね、ついに帰ることとなった。
もうすっかり日は沈み、街は闇を湛えていた。
「この街には危機が迫っている。わたしは、一度戻ってSPW財団に援助を頼むが、君も独自で矢じりの調査をしておいてほしい。しかし、君も一応の注意はしておいた方がいいだろう」
言うと、承太郎はまたもと来た道を帰って行った。
海鳴市の闇に消えるその背中。
今夜は特に黒が深い。
それにヨシュアはどこか不吉な予感を感じてしまった。
内心そんな心配性な自分にうんざりしながら、玄関のドアを閉める。
まだ夜は始まったばかりだ。
***
(聞こえますか?僕の声が……聞こえますか?)
闇夜に響く、少年の声。
まだ変声期を迎えていないのだろうその声は、『魔法』と呼ばれる技術によって三人の受信者に届けられた。
一人目は、高町なのは。
まだ目覚めてはいないが、魔法に関しては天賦の才をもつ少女。
二人目は、空条承太郎。
スタンド『スタープラチナ』を持ち、数多の困難を打ち破ってきた男。
そして三人目は、ヨシュア・ジョースター。
スタンド『ムーンチャイルド』を従え、近い将来ジョースターの運命に導かれるだろう青年。
(聞いてください、僕の声が聞こえるあなた。お願いです、僕に少しだけ力を貸してください!)
暗夜の海鳴市を三人はひた走る。
その眼に迷いなどない。
次回は本格的にユーノ君が登場する予定です。