『JOSHUA JOESTAR』   作:佐島 五十郎

6 / 6
5部エピローグはジョジョ的運命論そのものを表していると思います。


眠れる奴隷

なのはが敵の魔導師と遭遇し、倒された。

しかし、病院に搬送されたり、入院したりするほどの怪我を負ったわけではなかったのは幸いだった。

そして、このジュエルシード事件に、スタンド使いの襲撃やなのはを撃墜した魔導師などによって明確な『敵』が浮かび上がってきた。

そこで、ヨシュアらは今後のジュエルシード集めについて話し合いを行うことにした。

場所は承太郎の泊まっている海鳴市のホテル。

ヨシュアとなのはとユーノはそのホテルまで一緒に行くことにした。

 

「そういえば、ヨシュアさんって承太郎さんと血が繋がっているんですよね?」

 

「そうだったな。思い返してみれば、なのはにオレや承太郎のことを詳しく教えたことはなかったな」

 

それからバス停に着くまでなのはに話してやることにした。

ヨシュア・ジョースターという人間のことを。

 

***

 

1988年12月24日、エジプト・カイロにてヨシュアは誕生した。

父親はDIO、母親はDIOの配下のスタンド使いであった。

DIOにとって、ヨシュアは取るに足らない存在であったが、母親にとってはそうではなかった。

彼女はヨシュアを連れて逃げた。

DIOの気まぐれからか、幸運にも彼女らは攻撃されることなく日本まで逃げ切ることができた。

母は優しい女性であった。

しかし、同時に危険なスタンド使いの殺し屋でもあった。

そういう生き方しか知らない女だった。

それでも、彼女はヨシュアに善の道を説き続けた。

それが、その気高さが彼を真っ直ぐに育てた。

不遇な生まれでもヨシュアは卑屈にならずに済んだ。

 

「……素敵なお母さんだったんですね」

 

「ああ……そうだな」

 

なのはにはDIOのことや母親が殺し屋であることはボカして伝えた。

自分の身の上話を、しかもこんなに小さな子どもにするのは初めてだったが、彼女はこの話をなにか意味のあるものとして消化してくれたようだった。

 

「確か……このバス停から直接行けるんだったよな」

 

「はい!」

 

バスのなかでもなのははヨシュアのことについて聞きたがった。

兄以外の異性の年上の話が興味深いからか、なのははとても熱心に聞いていた。

このひとときは、さながら砂漠のオアシスのようだった。

 

***

 

「ジュエルシード事件に介入する者が現れたのは、皆の共通理解だと思う」

 

テーブルを挟んでヨシュアの向かいに座る承太郎が口を開く。

 

「私とヨシュアはスタンド使いに、なのはとユーノは魔導師に各々遭遇している。そこで、ジュエルシード事件の介入者への対策を考えたい。まずはユーノ君、なのはを倒したという魔導師について君の考えを聞かせてくれ」

 

「はい。黒いバリアジャケットに金色の髪の女の子でした。彼女は間違いなく僕と同じ世界の住人です」

 

「金色の髪に黒い衣装だと?」

 

当たってほしくない予想が当たってしまった。

やはり彼女は『敵』だった。

 

「あの子、なにか理由があると思うんです」

 

今度はなのはが言う。

 

「それには私も同感だ。私達を襲ったスタンド使いは容赦のない奴らだった。昏倒させて、そのままとどめをささずに帰るのには違和感を感じる」

 

それからは、スタンド使いについてなのは達に説明した。

スタンドには初見殺し的な側面が強いため、スタンド使いに遭遇した場合、すぐにヨシュアや承太郎に念話を飛ばし、逃走しろということも伝えた。

すべての事柄を伝達し終わった後、承太郎はなのはとユーノを帰らせた。

一緒に帰るかと尋ねられたが、ヨシュアは部屋に残った。

承太郎に引き留められたからだ。

 

「金髪の少女について心当たりがあるようだな……」

 

さすがの洞察力。

心を読む能力でも持っているのかと錯覚しそうだ。

 

「……ああ。以前、見掛けたことがある。たしか、隣の遠見市だった」

 

「そうか……。気を付けろ」

 

彼はヨシュアがこれからどのような行動にでるのか、もうすでに予想済みなのだろう、承太郎はそれだけしか言わなかった。

 

***

 

心当たりがあるといっても、少女の正確な位置がわかっているわけではない。

だから、遠見市のあの鉄塔を中心に捜索することにした。

こういう場合は、聴き込みが最適だ。

この日本で金髪は大層目立つ。

金髪のせいでよくヤンキーに間違えられ、因縁を付けられる自分がそうだからだ。

 

「……ああ、見たよ。とっても可愛い娘っ子やった」

 

「ちなみにどの辺りで?」

 

「あのマンション辺りだったかねえ……。ところで、あんたは親戚かなにかかい?」

 

「ええ、そうです」

 

「そうかい。頑張りなされよ」

 

「ありがとうございます。お婆さん」

 

だが、たとえ怪しまれても金髪のおかげで誤魔化すのは容易い。

いざとなれば、『ムーンチャイルド』で催眠にかけてしまえばいい。

そして、段々絞れてきた。

彼女の名前はまだわからないが、どうやら遠見市の大型マンションに住んでいるらしい。

近隣住民は、橙色の大型犬を連れていたり、いくらか年の離れた女と歩いているのを散見したそうだ。

彼女らはどうも謎が多いらしく、住民もそれ以上のことは知らなかった。

このまま聴き込みを続けても収穫は無さそうなので、ヨシュアは直接そのマンション行ってみることにした。

そのマンションの正式な名前は遠見マンション。

市で一番大きいからか同じ名を冠している。

エレベーターに乗って少女の部屋のある階へ降りる

部屋番号はすでに近隣住民から聞いていた。

横のインターホンを鳴らそうとしたとき、

 

「家になにかご用かい?」

 

背後から女に声をかけられた。

警戒しながら振り返る。

 

――年の離れた女か

 

年齢はヨシュアより少し上くらいに見える。

 

「このお宅に小学生ぐらいのお子さんがいらっしゃると聞きまして……」

 

通信教育のセールスマンを装う。

しかし、それは無駄に終わった。

 

「嘘を言っても無駄さ。アンタがこの世界のスタンド使いなのは知ってる」

 

その情報を知っている。

ということは、ヨシュア達を襲撃したスタンド使いと繋がっている可能性が高いということだ。

『敵』である可能性が高まったということだ。

 

「アルフ?その人は誰?」

 

――なのはを倒した金髪の少女……

 

「なら、単刀直入に聞こう。オマエ達は敵か?」

 

その言葉に少女も状況を察したのか、目の色を変えた。

 

「だったらなんだって言うんだい?」

 

瞬間、女――アルフの身体が狼に変わる。

 

――なにッ!?大型犬と年の離れた女は同じ存在だったのかッ!

 

「だが遅いッ!!すでにムーンチャイルドはオマエに触れているッ!!」

 

即座にアルフに催眠をかける。

 

「アルフッ!!」

 

「オレがする質問はたった一つだけだ。オマエは敵か?答えてくれるなら、今すぐに催眠を解除してやってもいい」

 

「バルディッシュ」

 

『yes,sir. Photon Lancer. get set.』

 

――どうやら素直に答える気はないらしい

 

バルディッシュと呼ばれたデバイスから黄色の光弾が放たれる。

ヨシュアはそれを『ムーンチャイルド』で弾き返す。

前回の戦いで、すでにコツは掴んでいた。

 

「答えることに意味はない」

 

少女が言った。

 

『Scythe form Setup.』

 

バルディッシュを鎌状に変形させて斬りかかってくる。

 

「無駄ァーーッ!」

 

一合、また一合と鎌と拳を合わせると、少女の顔が目に入った。

その表情は寂しそうで、いつかの夜を思い出させた。

それがヨシュアの心の中で違和感となって堆積する。

 

「質問を変えよう。なぜキミはなのはを生かした?」

 

一番の疑問。

ヨシュアを襲ったスタンド使いは容赦がなかった。

皆、彼の命を狙って襲ってきた。

倒れ伏す『敵』を目の前にしてとどめをささないなんていう甘いことはしない連中だった。

 

「なぜその鎌でなのはの命を刈り取らなかったのだッ!」

 

「そ、それは……」

 

彼女は見るからに動揺した。

その隙に『ムーンチャイルド』で蹴りを叩き込む。

 

「うぅっ!」

 

壁に激突し、気を失うことはなかったにせよ、少なからずダメージを受けた。

 

――やはりそうだ。

 

ヨシュアのなかで疑惑は確信へと変わった。

 

「それはキミが、『敵』ではないからだッ!」

 

「え?」

 

「キミは表面的には『敵』に見える。だが、本質的には『敵』ではない。なぜならキミには覚悟がない。覚悟した者は敵であるかという質問に意味がないなんて答えない。殺すことに迷ったりはしない。真の『敵』は別にいる」

 

根拠には乏しい。

だが、ヨシュアは頭ではなく心で理解した。

こんな寂しい顔する少女があのスタンド使いらと一緒であるはずがない。

 

「目的は果たした。オレは海鳴市へ帰る。そこの犬もじきに能力が解除されるはずだ」

 

「とどめはささないんですか?私はジュエルシードを回収しなくちゃいけない。あなた達の邪魔になるのに」

 

と少女は言った。

 

「キミは『敵』じゃあない。『敵』じゃあないのにどうしてとどめを刺すんだ?」

 

ヨシュアはそう言って、海鳴市へ歩き出した。

少女の名前は聞かなかった。

おそらくそれは自分の役目ではないから。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。