性格濃いめの女子が戦国BASARAにトリップした場合。   作:藤 都斗

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いくさいくさ

 

 

 

 「ねェ佐助…」

 「何カズハちゃん…」

 「アタシ幻覚が見えてんのかな、皆同じカッコしてるように見えるんだけど」

 

 「…安心して。俺様にも見えてるから」

 「…って事はコレ現実か…うわぁ……帰りたい」

 「安心してカズハちゃん。俺様もだから。」

 

 幸村なんか『今川義元が分裂したでござる…!』とか言いながらオロオロしてるし、三日月男にいたっては『oh…』とかぼやきながら苦虫を噛み潰したみたいな引き攣った表情してるし、一般兵の皆は目茶苦茶引いてるしで、現場はかなり混沌としている。

 

 この戦…嫌だなぁ…

 

 この時、幸村と武田さん以外の全員の心が一緒になった気がした

 

 

 しかし無情にも洞貝の音が辺りに響き渡る。

 

 これは、戦が始まる合図だ。

 

 「…ハァ…、嫌だけど…行きますか…」

 

 歩き始めた皆の足取りは大分重かった

 

 「皆の者!!!何をしている!!!さぁ、行くぞ!!!」

 「何処までも付いて行きますぞお館様ァァァアア!!!」

 

 この二人だけがなんか元気だった。

 

 

 そして、アタシの人生初の戦が始まる。

 

 

 カズハ様としてはあんまり近付きたくないが戦わなければならない。

 

 これは仕方のない事だ。

 

 ひたすら自分を励ましながら鎖鎌を構える。

 

 

 向こうは必死だ。

 

 笑ってなんか居られない

 馬鹿にしちゃいけない

 動揺を誘って、油断も誘う

 そしてあわよくば影武者に混ざってこっちの寝首をかく。

 

 多分それがあっちの目的だ。

 

 意外と策士だな今川義元の野郎。

 

 とりあえず殺らなきゃ殺られる。

 

 だから

 

 「殺られる前に…殺らなきゃ…!」

 

 

 そしてアタシは走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   真っ赤な鮮血

 

 響き渡る悲鳴

 

     転がる手足

 

 

  飛び散る血飛沫

 

     崩れ落ちる人間

 

 叫ばれる呪いの言葉

 

 

    断末魔の悲鳴

 

  恐怖に歪む表情

 

       途切れる悲鳴

 

 

   肉や骨を断つ感触

 

 刃に当たる

   筋肉の弾力

 

       顔に掛かる血

 

 

 辺りに漂う、

   むせ返る程の血の匂い

 

       転がる死体

 

  呻き声

 

 

 

 

 ちょっと鎖鎌を振り回すだけで、たやすく吹っ飛んで行く人間達。

 

 外見が余りにもアレだから、戦っているのが人間だという感覚が薄れそうになる。

 

 だけど、手に伝わってくる様々な命を奪う感触に、現実へと引き戻された

 

 

 

    怖い

 

 恐い

 

     こわい

 

 

 なんだこれは

 

   アタシは今

    どんな顔をしている?

 

  何故

 

   こんなにも恐ろしいと思うのに

 

 身体は震え一つも起こさない?

 

 

  何故

 

 

 

 笑いが込み上げて来る?

 

 

 

     嗚呼

 

 

  この頬を伝うものは何だ

 

 返り血か?

 

 

  アタシは

   なんで無傷なんだ 

 

 

 

 

 恐い

 

 

 

    戦が

 

  向かってくる刃が

 

      敵意が

 

  殺意が

 

 

    そして

     何より

 

 

    自分が。

 

 

 「佐助の馬鹿野郎…!、マジでアタシを殺人マシーンにしやがったな…、嫁の貰い手付かなかったらどうしてくれんだコノヤロォォォオオオ!!!」

 

 

 苦し紛れに叫んで、少しでもこの嫌な感覚を払おうとしたけど、余り意味を為さなかった。

 

 アタシの周りにもう敵兵は居ない。

 

 代わりに敵兵だった物達が転がっている。

 

 アタシはまた、鎖鎌を構えて走り出した。

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 娘は踊るように人を斬っていた。

 

 確実に敵兵を殺して行きながら、踊るように。

 

 その動きは独眼竜と呼ばれる俺でも身震いする程見事で、そして、そうさせたのが武田の忍、猿飛佐助だというのを思い出して若干苛立った。

 

 あれは、自分が育てる予定だったのに。

 

 「…初陣だと聞いて居たのですが…見事ですね」

 

 俺の横で小十郎が敵兵を斬り捨てながら呟いた。

 

 「Ha…、確かにな。あの動きはもう素人じゃねェ…」

 「あんな細腕の何処にあのような力が…」

 「…Ah…武田に置いとくにゃ惜しいな…」

 

 

 その時、気付いた。

 

 

 「…っ…!?」

 

 

 思わず息を呑む。

 

 

 娘は、泣いていた。

 

 表情は笑っている。

 

 だが、ボロボロと涙を流していた。

 その表情は悲痛としか言いようの無いもので、娘はそんな表情で、敵兵を一人残らず殲滅していた。

 

 「ッオイオイ…マジかよ…!!」

 

 驚いた。

 たった一人で、ゆうに五十人は斬っただろう。

 

 そして、周りに死体しか無い状況になった途端、娘は吠えた。

 

 「……っ!、…アタシを…にしやがったな…、嫁の貰い手付かなかったらどうしてくれんだコノヤロォォォオオオ!!!」

 

 前半は呟くような声で聞こえなかったが、後半は辺りに響き渡った。

 

 その言葉に小十郎が面食らっているのが解る。

 

 「………確かに…年頃の娘としては…かなりキツイものが…うん…」

 

 何真面目に考えてんだオイ、そんな場合じゃねェだろうが。

 

 そこで不意に、視線の先の娘が走り出した。

 

「...…Hey小十郎!、俺達もそろそろ行くぜ!!」

「…!、はっ!」

 

 若干慌てた様子の小十郎を連れ娘の後を追う。

 

 一番の理由は娘の様子が気になるから。

 

 涙の意味はなんなのか、先刻の言葉の前半はなんと言っていたのか、気になる事はいくつかある。

 

 だが、何よりあんな様子の娘を放っては置けない

 

 強いと思っていたあの娘が泣いていたのだ。

 

 しかも、あんなにも悲痛な表情で。

 

 

 ...この間まで戦いを知らなかった娘だ、恐くない訳が無い。

 

 俺でさえ初陣の時は怖かった。

 怖くて眠れなくなった程だ。

 

 それ以前に、人を十数人殺すのがやっとだった。

 

 それをあの娘は、初めてで五十人程殺した。

 

 「…大丈夫なのかよ…あいつァ…!」

 

 娘の背を見失わないように追いながら、向かってくる敵兵を斬り倒す。

 

 娘の方も敵兵に囲まれて居るようで、また、踊るように戦っているのが垣間見えた。

 

 

 「政宗様!ボーッとしている暇などありませぬぞ!」

 

 

 「Ha!解ってるさ…そっちこそちゃんと付いて来いよ!?」

 「…承知!」

 

 

 このままでは娘の精神がどうにかなってしまう気がした俺は、小十郎を連れて娘を追い抜く。

 

 少しでも、戦わないで居られるようにしてやろう。

 それから、戦が終わったら一番に様子を見に行こう。

 

 そう考えながら敵兵を斬り捨てて行った。

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 視界の隅を、見覚えのある青いのが通り過ぎていくのが見えた。

 その辺りから戦いが少し楽になった気がする。

 

 ...人間を殺すのってやっぱり恐い。

 

 「…あ…はは、ハハハハ…!!」

 

 でも、気が付けばアタシは笑ってて、何故か高揚する気分に戸惑っていた。

 

 鬼女だと言われれば腹を立ててそいつを殺しに行き

 さらに向かってくる敵兵を殺す

 

 怨むなら、アタシじゃなくてこの時代を怨んでくれと願いながら、殺した

 

 嗚呼、怖いなぁ

 

 なんでアタシはこんなにも平気なんだろう

 

 なんでアタシは

 戦を

 人殺しを楽しんでいるんだろう。

 

 これはきっとアレだ

 

 血の匂いに酔ってるんだ。

 

 そうでないとこんな明智みたいな精神状態な筈が無い。

 

 そうでなければ

 アタシは

 人殺しを愉しむ殺人鬼になってしまう

 

 ...流石にそれは避けたいなあ。

 

 

 かなり冷静な自分に嘲笑を浮かべながら、次に佐助に会ったら一発殴らせてもらおうと思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから暫くして、戦が終わった。

 

 今川は負けて、武田、伊達の連合軍が勝ったらしい

 

 洞貝の音が聞こえた時、アタシはその場に立ち尽くした。

 

 「…頭痛い…」

 

 不意に頭痛がして思わず呟く。

 

 身体が返り血で、凄く生臭い

 

 鮮やかな緑系だった忍装束も血に染まり、時間が経った為変色したのか、赤黒い斑模様になってしまっていた。

 

 …全身から血の匂いがする

 

 辺りを見回すと自分が殺した人達が血溜まりの中に転がっていた

 

 

 「…疲れた…」

 

 

 ぽつりと呟く。

 

 赤く染まった両手に視線を落とすと鎖鎌を握り締めていて、いくら離そうとしても手は開かなかった。

 

 

 

 不意にポタリと、何かの雫が地面に落ちたのに気付く。

 

 一瞬自分がどこか怪我をしたのかと錯覚して少し焦った

 あんなに人を斬ったのに自分が傷付くのは嫌なのかと思わず苦笑が込み上げて来たけど、でも、何故かその雫はアタシの顔に付いた返り血を洗い流している事に気付いた。

 

 「…アタシ…泣いてる?」

 

 思わず手で擦って、そこでようやくその事に気付いた。

 

 

 そしたら不意に曇りだった空から雨が降り出して、辺りの地面を濡らし始めた。

 

 

 雨足はどんどん強くなって、それが血溜まりの暈を増やし、辺りの死体の血が余計に増えたような感覚を覚えて。

 

 …身体に付いた血は少しずつ洗い流されるけど、アタシがやった事は流されないらしかった。

 寧ろ雨が降ったせいでアタシが人を殺した事実が強調されて、既に泣いてるのにもっと泣きたくなった。

 

 

 アタシが殺した中にどんな人が居たんだろう

 

 きっと家庭もあった筈だ

 

 

 「アタシみたいな小娘に殺されて…さぞ無念だったよねー…」

 

 

 そんな事を呟いた時、不意にどこからか足音が聞こえた。

 

 緩く音のした方へ向き直れば見覚えのある青い男が立っていて。

 

「…Hey、カズハ…大丈夫か?」

 

 答えを返したいのに、言葉は出なかった。

 

 代わりに沸き起こったのはえも謂われぬ焦燥感で

 

 今更になってようやく手足がガタガタと震えて、そこらじゅうからする血の匂いに吐き気が込み上がった。

 

 「…っ、ごめ…っ、う…っ…」

 

 視界が涙で滲んで何も見えなくなる。

 

 覚悟はしてた。

 でも、予想以上にキツくて、苦しくて、悲しくて。

 

 「…今のうちに泣いとけ。」

 

 そう言われて、抱きしめられて、優しく宥めるようにぽんぽんと背中を叩かれたら

 

 「ふ…っぅああぁぁぁ…っ!!」

 

 不覚にも、彼に縋り付いて大泣きしてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから暫くアタシは泣き続けて、大分落ち着いた頃にようやく政宗から離れる事が出来た。

 

 手は硬直してしまってて、未だに鎖鎌を持っていたから、政宗に手伝って貰ってなんとか外して、それから本陣へと向かう道を、雨に打たれながらゆっくりと歩いて。

 

 ぽつりぽつり、二人で話した。

 

 「カズハ…お前、何人殺ったか…覚えてるか?」

 「…六十までは数えてたけど…途中から…わかんなくなった」

 「…そうか。」

 

 そこで会話が途切れる

 

 それでも、何か喋っていないと今にも泣いてしまいそうだったアタシは、また口を開いた。

 

 「…アンタは…初めて人を殺した時、どう思った?」

 「………怖かった、な。目が合って、なのに斬らなきゃならなくて」

 

 「…そっか。」

 「その日は一睡も出来なかった。」

 

 「…………アタシは…今も恐い」

 

 両手に視線を落とすと、血に染まり赤黒く変色した両手。

 

 自然と眉間に皺が寄るのが解る

 

 「大丈夫だ、それが当たり前だからな」

 

 「違う…!」

 

 「Ah?」

 「……アタシは、…アタシが恐いの…!、人を殺したってのに、何も思わなかった。

 それどころか、愉しんでた…!、アタシは、人を殺しながら笑ってた…!」

 

 

 「泣いてたぜ?」

 

 

 「…え?」

 

 「顔は笑ってたが、お前は戦ってる間中、ずっと泣いてた」

 

 泣いてた?

 

 ずっと?

 

 「俺ァ…あんな悲しそうな泣き顔は初めて見た」

 

 泣いていた記憶は無い

 でも、政宗の真剣な表情からそれは嘘では無い事が伺える。

 

 だとしたらアタシは泣いていたんだろう。

 

 ...人を殺しながら、泣いていたのか、アタシ。

 

 

 それは、アタシがまだ人間だという証拠なんだろうか。

 

 そうだと良い、そう願った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 本陣に着いたら佐助が、雨の中でもいつもと同じように軽い調子で出迎えてくれた

 

 でも、気が付いたら政宗が佐助を殴り飛ばして、余りに唐突過ぎてアタシは固まってしまって、でも反撃すらしようとしない佐助にも、突然佐助を殴った政宗にも驚いた。

 

 佐助は一言も喋らなくて、一回殴ってやりたかったのにそんな気も無くなってしまった。

 

 「……全く意味解んないんだけど…」

 「…カズハ殿、とにかく今は少し休まれよ。疲れているだろう?」

 

 幸村に促されて、アタシは暫く休憩させて貰う事になった。

 

 

 それから陣を引いて上田城に帰還したんだけど、その間、皆アタシの武勇を褒めて、一般兵の間でもずっとその話で持ち切りだった。

 

 アタシが殺した中に今川義元は居なかったけど、今川義元の影武者として紛れ込んでた腹心の人達が数人居たらしくて、なんかかなり複雑な気分になった。

 

 でもとりあえず空元気で話に加わったりして、その場を凌いだ。

 

 

 城に着いたら、勝利を祝う宴が盛大に開かれたけど、アタシはすぐにお風呂入ると言って抜けた。

 女中さんに任せきりだったあの人の様子も気になるし、酒を呑んで騒ぐような気力なんて残ってなかったから。

 

 

 お風呂に入って身体に付いた血や泥を流す。

 

 湯舟に入る気は起きなくて、でも嫌な気分を払拭しようと何度も身体を洗った

 

 それから風呂から上がって着物に着替えて、明日どころか今にでも目が腫れてるんだろうな、とか、ぼんやり考えながら庭に面した廊下を歩いていたら

 

 前方に佐助が居た。

 

 月明かりに照らされながらぼんやりと。

 いつもの佐助らしくない、何処か覇気のない様子でアタシを見ていた。

 

 「…何してんの?」

 

 問い掛けるけど佐助は答えない。

 

 「…用がないなら、アタシ行くからね」

 

そう言って佐助の横を通り過ぎようとしたら、腕を、掴まれた

 

 「…ちょ…何?」

 「…ごめん。」

 

 尋ねた瞬間謝られて、何に対しての謝罪なのか一瞬解らなかった。

 

 「俺、ちゃんと止めておきゃ良かったよね」

 

 静かにそう言われて佐助の真意に気付く。

 

 「アンタが謝る必要無いでしょ。

 アタシが決めて、アタシが勝手にやった事よ」

 「…そうかもしれないけど、でもカズハちゃん。君は俺が鍛えたりしなきゃ普通の女の子だったろ?」

 

 アタシは答えない。

 

 「…傷付かない訳が無いよ。今だって無理してる」

 「…それが何よ。」

 「…無理しなくて良い。強がらなくて良い。」

 

 「うっさいわね…、何皆して腫れ物扱うみたいに…、どうして普通に接してくれないのよ」

 

 泣きすぎて、もう出ないと思っていた涙が視界を遮る。

 

 思わず拳を握り締めた。

 爪が食い込んで皮膚を破りそうになるまできつく。 

 

 「確かに怖かったわよ、無理して戦ったし、お風呂入ったのに身体から血の匂いが染み付いて消えない、でもそれが何!!?」

 

 アタシは叫ぶように言った。

 

 「沢山…殺したわ。虫ケラみたいに。何人も何人も!

 でもそんな事気にしてる暇なんて無かった、アイツらいくらでもやって来るんだもん」

 

 「……うん」

 

 「でも殺らなきゃ殺られるじゃない。なら殺すわよ。

 だって此処はアタシの生まれた…戦の無い平和ボケしたあの世界じゃ無いもの、仕方ない事なんだから」

 

 凄く、怖かった。

 

 今も恐い。

 

 目を閉じれば鮮明に思い出してしまう。

 

 敵兵達の無念そうな顔

 苦痛に歪む顔

 恐怖に引き攣る顔

 何が起きたか解っていない不思議そうな顔

 

 手に残る様々な命を絶つ生々しい感触

 その後訪れる一瞬の高揚感

 

 そして、多大な罪悪感。

 

 アタシはきっと忘れる事なんて出来ない。

 人間があんなに儚く、脆いものだと。

 

 「…ごめんね、カズハちゃん」

 「っ謝らないでよ…!、それじゃ…アタシが強くなったのが間違いみたいじゃん…」

 「…一回俺様を殴っとく?」

 

 「…それはもう良い。政宗が代わりにやってくれて、気は済んだから」

 「…そっか」

 

 殺す事で何かが守れたり、誰かを助けたり。

 

 それがこの世界で。

 

 …なら、アタシは誰かを殺さなきゃいけなくて。

 

 人殺しを正当化なんてしちゃいけない筈なのに。

 

 でも、この世界はそれが当たり前だから。

 

 「…謝るんじゃなくて、よくやった、って褒めてよ…」

 「うん…、頑張ったね、カズハちゃん。」

 

 そう言って佐助は、アタシの腕を掴んでいた手を離して、その手でそっと頭を撫でてくれた。

 

 

 

 「…なんか、今日だけでもう一生分くらい泣いた気がする…。」

 「...そうだろうね」

 

 「うん、だからもう泣かない、てゆーか泣きたくない。

 ガラじゃないもん。辛気臭いの嫌いなのよね」

 

 アタシはコロッと態度を変えて、まるでいつものように告げた。

 

 辛くない訳じゃない。

 

 怖さが消えた訳でもない。

 

 でもアタシは自己チューだから、あんまり気を使われると逆に頭に来る。

 

 だから気にしない事にしよう。

 気にしないけど、忘れない。

 

 あの人達には怨まれてるだろうし、畏怖されてるだろうけど、アタシはアタシが殺したあの人達を忘れない。

 

 この罪を忘れない。

 

 それに多分これから先もアタシはなにかしら失って行くだろう。

 

 今回罪を犯して失ったのは、“幸せになりたい”というささやかな願いだろう。

 アタシにそんな資格は無くなったから。

 

 その代わりに手に入れたのは、“幸せになって欲しい”という切実な願い。

 

 アタシにそれを手伝う事が出来るなら。

 

 等価交換とはどっかの錬金術師の兄弟もよく言ったものでまさにその通りだと思う。

 

 アタシは“日常”を犠牲にしてこの世界へ来て“出会い”を手に入れた。

 でも来たからにはいつか帰らなきゃならない。

 

 人を殺したのに帰る事なんか出来るのかって思うけど、でも何故だか“いつか帰る日が来る”ってそんな気がしている。

 

 

 その時犠牲にするのは彼等に会うこと。

 

 幸村とも佐助とも、武田さんとも、政宗とも小十郎さんとも、慶次とも、会えなくなる。

 

 それがやっぱり少しは悲しい。

 

 失う代わりに手に入れるなんて、なんかどっかで聞いたフレーズだなぁと思う。

 

 あれ、なんか何が言いたいのかよく解んなくなって来た。

 やっぱり今も少し混乱してるんだろう。

 

 …まぁ良いや、とにかくアタシは甘えを捨てよう。

 

 彼等の優しさにいつまでも甘えてても意味なんか無いし、アタシが成長する事なんて出来ないだろう。

 

 …てゆーかさ、なんでアンタ達そんなに優しいんだ、と思ってしまう。

 戦国の人間が、たかだか初陣に出た一般武将なんかを気にかけ過ぎだろ。

 そんなんだからアタシはアンタ達を恨めないんだよ。

 そんなんだから、幸せになって欲しいと思うんだよ。

 

 そう考えて、アタシは息を吸い込んで、そして暢気に豪語する

 

 「よーし、佐助!とりあえずなんか食わせろカズハ様は腹減ったわよ!」

 「カズハちゃん…普通初陣の後は食欲湧かないもんなんじゃないの?」

 「アタシを誰だと思ってんのよ佐助。大体そんな繊細さ戦国武将には不必要よ」

 

 「…カズハちゃん、君、戦国武将じゃなくて忍なんじゃなかったっけ」

 「どっちでも良いわよそんなん。良いからなんか食わせなさいよ。果物とかで良いからさ。」

 

 「アハハ、流石に重いものは食べられないか」

 「そこは当たり前よ、何たって初陣の後なんだから」

 

 若干矛盾してるけど腹減ったもんは仕方ない。

 

 そんな感じで、アタシは佐助に林檎を取って来て貰った。

 

 

 「佐助。」

 「何?」

 

 貰った林檎を皮ごとかじりながら声を掛ける。

 佐助はいつもの調子でこっちを向いて、緩く首を傾げた。

 

 「…アタシ、近い内武田を出てくわ」

 

 シャリシャリと林檎をかじりながら普通に告げる。

 

 「…そっか。いつ?」

 「次の戦が終わったら…かな?」

 

 その頃にはあの人の怪我も大分治ってるだろう。

 

 「そっか。…行くアテとか決めてんの?」

 「…えーと…とりあえず…美味しいカジキマグロ食べたいかなーとは思ってる。」

 

 とりあえず甲斐から出たい。

 そう思う。

 

 「…そっか。…ちゃんと旦那達に言いなよ?」

 「あぁ…うん。…やっべー忘れるとこだった」

 「ちょ、困るの俺様なんだからね!!?ちゃんと説得してってよ!!?」

 「大丈夫大丈夫、何も言わずに出てったりしないって、………多分」

 

 「多分じゃないでしょカズハちゃん、本気でやめてよ?じゃないと俺様無理矢理にでもカズハちゃんを武田に連れ戻すからね」

 

 「…チッ…解ったわよ…面倒臭いな…」

 

 佐助の脅しに思い切り舌打ちしてから溜息を吐いた。

 

 なんか佐助がジトーっとアタシを見てたけど、林檎食べてごまかした。

 わー、この林檎超オイシーイ。

 

 

 

 *****

 

 

 

 主が初陣から帰って来た。

 

 女中が話していたのを聞いて居れば、どうやら主は無傷で敵兵をあっという間に薙ぎ倒し、辺りに居る者を一人残らず何十人と殲滅したらしい。

 

 その様はまるで舞を舞って居るようだったらしいと、女中達が障子の向こうで騒いでいた。

 

 初陣で、しかも今まで人を殺した事が無いと言っていた娘がそこまで奮闘したのか。

 

 そんな娘が自分の主になったのだと思うと、何やら少しむず痒かった

 

 外は夜だ。

 きっと今頃は共に帰還した兵達と宴の真っ最中だろう。

 

 

 

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