性格濃いめの女子が戦国BASARAにトリップした場合。 作:藤 都斗
不意に軽い足音が聞こえ、障子の向こうから人の気配がした。
「ただいまー。怪我の具合どう?大分良くなった?」
そんな暢気な言葉と共に障子の開け放たれる音がする。
いきなりの登場に少し驚いたが、声の様子から無傷はガセでは無かったと安堵した。
でも少し違和感が有った。
とりあえずは怪我が大分良くなった事を示すようにゆっくりと身を起こして頷く。
「ッちょ…起きて大丈夫なの!?痛くない!!?」
が、主は驚いて駆け寄って来た
この質問には頷いておく。
この程度の痛みなら慣れている。
もう一週間もすれば本調子ではないが一応忍として働ける程まで回復するだろう。
「そっか、まぁそれなら良いんだけど…」
主は若干戸惑いながらも納得したようだ。
その時、不意に彼女の目が腫れているのに気付いた。
「………?…」
声には出さず、それを指差して気になっていると示す。
「へ?…あぁ、アタシ目が腫れてる?アハハ…なんせ今日一生分くらいは泣いちゃったからね…」
…泣いた?
「いやー…、なんてゆーか…戦って酷いね。
初めて見た。あんなに沢山の人間の死体」
彼女は『まぁ、その状況を作ったの、アタシなんだけどね!』と付け足しながらケラケラと笑った。
…違和感はこれか
彼女は明らかに憔悴していた。
どう見ても無理をしているのが解るくらいに。
彼女は女だ。
雰囲気から察するに戦場を見た事も無かったのだろう。
だとすれば辛くなかった訳が無い。
しかし彼女は気丈にもいつも通りに振る舞っている。
手ぬぐい越しの曖昧な視界の中で彼女を見詰めた
「…あれ、もしかして…心配してくれてたりする?」
思わず反射的に頷くと、
「…大丈夫よ。単に疲れてるだけだから。目の腫れだって一晩寝れば治るって」
そう言って、明るく無理をした笑顔で、ぽんぽんと軽く頭を叩かれた。
男の頭を気安く触る行動は褒められたものでは無いのだが、この彼女の態度からか、不思議と嫌悪感は薄い。
それよりも俺は、身体的な事に対する心配ではなく精神的な事に対して心配したのだが…、まぁ仕方あるまい。
…しかし、こうなると自分が戦に付いて行けなかったのは悔しい、ように思う。
本来なら、主を守る為に側で控えているのが常識だからだろう。
「ねぇ、アンタ…もしかして喋れないの?」
不意にそんな風に尋ねられ、少し驚く。
喋れない訳ではない。
喋らないだけだ。
しかし、無言を肯定と取ったのか、彼女は少し困ったような表情を浮かべた。
「…そっか、えーと…じゃあ…コレに名前書いてよ。」
そう言って紙と筆を手渡される。
白く、綺麗な紙だ。
こんな物を用意出来るという事は、やはり彼女はそれなりの地位にあるのだろう。
渡された筆の先は、先程一緒に用意したのだろう墨で濡れていた。
己の思考は、結果として彼女を主と認識している。
先日の決意のようなものは、まだ揺らいでいないようだ。
普段の己からは考え慣れない思考である。
そんな不可解な己に、妙な違和感と、むず痒いような嬉しさがない混ぜになり、なんとも言えない。
だが、それでも彼女は己にとって主なのだ。
ならば、主にはきちんと名乗るべきだろう。
白い紙に、筆を付け、ゆっくりと滑らせた。
“風魔小太郎”と。
*****
受け取った紙を見てアタシは呟く。
「…なんとも…個性的な名前ね…」
これは、ふうま こたろう、で良いんだろうか。
それとも、かざま、だろうか。
読み方分かんないんだけど正解教えてくれないかな、喋れないから無理か。
まぁいいや、ふうま、の方にしとこう。
それにしても聞き覚えの無い名前だ。
いや、全く聞いた覚えがない訳じゃない気がする。
どっかで見たような、聞いたような。
このアタシが何となく聞いた事あるって事は、多分だけど、この人もゲームのキャラなんじゃないかと思う。
わからんけど。
だってアタシは生憎歴史上の人物達に詳しい訳でも、このゲームの事を知り尽くしている訳でも無い。
だから、なんてゆーか、“へー。こんな人がいるのかー”って程度だ。
とりあえず風魔さんを見たら、なんか無言でアタシを見てた。
「えーと…じゃあとりあえず、風魔さんって呼ぶわね。」
そう言ったら何故かフルフルと顔を左右に振られた。
何故だ。
呼び方が気に食わんのか?え?普通じゃね?なんで?
「…え…、じゃあ…小太郎さん」
また顔を左右に振られる。
えええ、他になんて呼べと?
まさかとは思うんだけどさ、一応聞くか。
「…呼び捨てにしろと?」
言った瞬間、こっくりと頷かれた。
えーっと、さすがに若干気が引けるんだけど?
だってこの人絶対アタシより年上じゃん。
「……小太郎さん、とか、風魔さん、じゃ駄目なの?」
確認するように尋ねてみれば、またこくりと頷かれてしまった。
そうか、駄目なのか…。
なんてゆーか、面倒臭い人だなこの人も。
まぁ仕方ない、こういう人は強情ってのが相場だ。
となると、苗字の方はあんまり呼ぶべきじゃない。
だって、どこでどう身バレするか分からないし。
なら、めちゃくちゃ馴れ馴れしいけど下の名前を呼び捨てるしか道は残されていない。
大丈夫かな、これ。
一応試してみて、反応によって他を検討してみるか。
「…じゃあ、小太郎って呼ぶ。これで良い?」
そう言ったら、何故か少しだけ彼の頬が緩んだ気がした。
え、笑った?
それとも今の幻覚?
いやいやいや、ちょっと待って、マジで?
*****
カズハちゃんはやっぱり普通じゃない。
忍の才能でもあったのか、それとも元々備えていた素質か、はたまたこの世界の人間ではないからか。
理由は解らないがとにかく、この短期間であっという間に、足軽を片手で倒せる所か、それなりの手練の武将すら倒せるまで成長した。
たかだか二月半程の間に、だ。
普通、忍というのは幼い頃から訓練を受け、少しずつ慣らし、覚え、成長していくものだが、この成長は異常としか思えない。
以前一度さりげなく何故かを尋ねてみたら“びりーさん”のお陰だとか言われて首を傾げた覚えがある。
カズハちゃんの師匠か誰かだろうか…
俺は本当に護身出来る程度に鍛えるだけのつもりだった。
でも教えれば教えるだけ吸収し、強くなり、いつの間にか真田の旦那とほぼ対等にまで渡り合えるようになっていくカズハちゃんに、俺はつい調子に乗って様々な技術を教えた。
その結果カズハちゃんは、一人前の忍へと成長してしまった。
余りの事に俺様も旦那も大将さえも舌を巻いた。
...だから失念していた。
肉体の強さと精神の強さは伴わない事を。
綺麗な髪を血に染めて
覚束ない足取りで竜の旦那に連れられながら、泣き腫らした目で本陣へ帰還してくるカズハちゃんを、なるべく普段通りに出迎えた時、
その姿が余りにも痛々しくて、
自分が余りにも浅はかだった事を思い知った。
竜の旦那に殴り飛ばされても、それくらいされて仕方ないと思った。
彼女は元々一般人だった事を
普通の女の子だった事を
理解した振りをしていた自分に、凄く腹が立った。
城へ帰る道中、一般兵が暢気にカズハちゃんの武勇を讃えていて、
本人がどんな気持ちで人を殺したかも知らないのに、と俺らしくもなく、何度激昂しそうになったか知れない。
でも彼女は、いつものように冗談混じりで、高飛車に、暢気に、明るく振る舞っていて
それが更に痛々しくて、俺は何も声を掛ける事が出来なかった。
その日の夜、どうやっても楽しめそうにない宴は、途中で抜けた。
初陣を果たしたのはカズハちゃんだけではない。
だけど、無事に、五体満足で生き残ったのは彼女だけだ。
本来なら、凄くおめでたい事だ。
でも、あの独特の雰囲気の彼女を変えてしまったのは、自分。
暢気で、適当で、ふてぶてしくて、高飛車で、それでも清廉潔白だった彼女は、本人の意志に反して、血で汚れてしまった。
自分が、彼女を見出さなければ、こうなる事は無かったのだ。
頭を冷やそうと縁側の廊下を歩く。
少し視線を上げれば綺麗な三日月が上っていた。
その時ふと聞こえた足音に顔を向ければ、カズハちゃんが前から歩いて来ていて、その憔悴した様子に、思わず反射みたいに謝罪の言葉を言ってしまった。
だけど、彼女は強かった。
精神的に、もの凄く。
辛くない訳が無い
怖くない訳が無い
なのに彼女はそれを受け入れて、それでも自分を見失わなかった。
その上、俺は悪くない、と
決めたのは自分だ、とそう言って
それでも少し泣いていたから
励ましを必要としてたから
だから『頑張ったね』と言った。
一番びっくりしたのはその後。
そこに居たのは疲れや精神的な傷も少しはあるけどいつもの通りの高飛車なカズハちゃんで、
俺様としては気が楽になって有り難かったけど
…ちょっと立ち直り早くない?
いくらなんでもアレはちょっとびっくりした。
普段本心を出さない俺様が不覚にも少し動揺してしまった程びっくりした。
アレは演技なのか、それとも本当にそうだったのかは解らないけど、それでも
彼女は強いと、そう思った。
そして、俺の中で彼女の存在が、真田の旦那と同じくらいには大きくなっているのだとも、その時になって、今更、気付いた。
次の日なんかには 昨日の戦での様子が嘘だったみたいにいつものカズハちゃんで、いつものように鍛練して、いつものように朝餉を食べて、いつものように軽口を叩いたりして。
以前と変わった事は、彼女の醸し出す気配に、血の匂いのような剣呑さが混ざった事だけだった。
以前はただ単に、強いだけの武人の気配だった。
だけど今は、人を殺した事のある武人の気配。
それだけが以前と変わった事だった。
*****
「……武田を出ていく?」
あれから暫くいつものように日々を過ごしていたある日、前に佐助に言われた通り二人を説得しようと、城のとある一室で、武田さんと幸村を前にして正座しながら武田さんの言葉に頷いた。
「まぁ、出ていくって言うか、暇を貰っての旅行?に近いですけど」
アタシのすぐ側で驚きに打ち震える幸村と、考えるそぶりを見せる武田さんを交互に見ながら暢気に告げる。
「折角知らない世界に来たのに、他を見て回らないのは勿体ないと思って。」
「ふむ…見聞を広めたいと、そういう事か」
武田さんに尋ねられれば素直に頷く
「しかし…何もこのような時期に行かずとも良いのではないか?」
「あ、いや別に近日中すぐにって訳じゃなくて…次の戦が終わったら、行こうかなって思ってます」
そう言ったけど、やっぱり少し戸惑ってるみたいだ。
武田さんのダンディな顔が、見事な程に更に渋くなっている。
「そうか…しかし…のぅ…幸村」
ちらりと幸村に視線を送る武田さん。
釣られるように幸村を見ると、彼は何も答えずに、なんか凄い眉間に皺寄せて、膝の上に置いた拳を血管が浮く程握り締めてた。
…若干怖い。
「だ…大丈夫ですよ。ちゃんと護衛も連れて行きますし、今回の戦でアタシが結構強いの解りましたよね?」
「……確かに今回は見事であった…しかし…」
やっぱりまだ納得してくれないようだ。
武田さんは何かまだモゴモゴと口ごもっている。
…まぁ仕方ないとは思う。
なんか知らんけど妙に気に入られてるみたいだからなぁ…。
酒の席で、幸村の嫁にならないか、なんて冗談を言われたくらいだ。
「えーと…じゃあ、こうしましょう。週に一回は文を送ります。…で、気が済んだら甲斐に戻って来ますよ」
「…うぅむ…」
…まだ駄目か。
うーん…どうしよう
「…解りました!、じゃあ三日に一回、文を飛ばします。」
田中さん(※大分飛べるようになった忍烏)もいるから、きっとなんとか大丈夫だろう。
「…そうか…そこまで行きたいか…………止めても意味は無さそうだの…」
溜息と共にそんな言葉が武田さんの口から零れた。
「っ!!!、お館様…!!?」
その途端、幸村が息を呑む。
「あ、じゃあ…良いんですね?」
「某は反対にござるッ!!!」
アタシの言葉に重なりそうな勢いで、とうとう幸村が吠えた。
うん、そうなるんじゃないかとは思ってたけど、案の定だったみたいだ
「…幸村。一応聞くけどさ…なんでよ?」
「…っそれは…、このご時世、女子が旅をするなぞ…危険極まりないではないか!!!」
いや、うん、えーと。
「アンタ、話聞いてた?」
「無論でござる!!!、…だがそうではないか!何が起こるか解らぬのだぞ!!!」
いや、そんなの百も承知してるし。
っとに、なんでコイツらこんなに優しいのかね。
現代日本じゃきっと生きて行けないんじゃないかな、こんなに真っ直ぐで馬鹿正直な奴ら。
「カズハ殿は…某の事が嫌いになってしまわれたのか?」
突然、幸村は泣きそうな顔で歯を食いしばり、唸るように告げた。
.........はあ?
いやいやいや、待てやコラ、どっからそんな話になったよ。
「…だから出ていくと言うのか!!?」
.........えーと、
コイツ絶対話聞いて無かったな。
「あのね…幸「某の何がいけなかったのだ!!?言って下され!!!全力で直してみせましょうぞ!!!」
「いやだから「さぁ!!!遠慮せず言うて下され!!!覚悟は出来申し、ぐっはぁ!!?」
「いい加減にしやがれアタシに喋らせろや!!!」
腹立ち紛れに思い切り全力の回し蹴りをぶち込んだら、幸村が勢い良く3メートル程すっ飛んで、ものの見事に襖へ突っ込んだ。
うん。
文字通り。
上半身は向こう側で下半身はこっちに見えてる感じ。
そして幸村は、そのまま向こう側の部屋に襖ごと倒れ込む。
あの襖もう駄目だな…
まぁそんな事はともかく、アタシは幸村に堂々と告げた。
「アンタ一体なんの心配してんのよ!!アタシが何かに巻き込まれて死ぬとでも!!?だったら既に死んでるわよ!!!」
幸村が聞いてるかどうかは解んないけどとりあえず続ける。
「馬鹿にしないでよ!!アタシを誰だと思ってんの!!
天上天下唯我独尊!!泣かない子供さえ号泣させるカズハ様よ!!?」
自分で言っててもなんか大分意味解んないけど気にしない、めんどくさいから。
けど、何が言いたいかは伝わるだろう。
多分。
「気が済んだら帰って来るって言ってんでしょ!!つまりアタシはちょっと長い旅行?に行くの!!!」
「誠にござるか!!?」
やっぱり話なんて聞いて無かったじゃねぇかこの野郎。
「さっき言ってたじゃん。旅行に行くようなもんだって」
「…そういう意味でござったか…!、某…てっきりカズハ殿に嫌われたのかと…っ」
何言ってんだコイツ。
いや…そんな事より幸村よ…
襖、外しなよ…
襖を突き抜けた状態のままで会話とか物凄い微妙なんだけど。
「ハッハッハ!!幸村よ、早合点をしてしもうたようだの!!」
「申し訳ありませぬお館様ァァア!!!真田幸村一生の不覚に御座いますッ!!!」
いや、だから、襖…
「慢心するでないぞ幸村ァァア!!!」
「承知しておりますお館様ァァア!!!」
あの…だから、襖…
「幸村ァァア!!!」
「お館様ァァア!!!」
「幸村ァァァアアア!!!」
「ぅお館様ァァァアアア!!!!」
「ぃ幸村ァァァアアア!!!」
「ぅおお館さむァァァアアア!!!」
「ぃゆきむるァァァアアア!!!」
あ…襖、武田さんの拳で粉砕した…
てゆーか…アタシそっちのけかよ…。
…ホントにもう…うるさい師弟だな…
それ毎日やってんだからさ、いい加減飽きないかな
後片付けする佐助とアタシの身になってくれないかな
一日に何回部屋破壊する気だよ
いや、それよりもさ、これで良いのかこの二人。
もう何の話してのたかアタシでさえわかんなくなって来た。
まあ…なんとか説得は出来たみたいだ。
出来たんだよねコレ
出来たのよねコレ
…とりあえず、そう思っておこう。
それから軽く一時間強の間、熱苦しく喧しい師弟の殴り愛は続いて、幸村がどっか遠くに殴り飛ばされてやっと終わった時
部屋はもう使い物になりそうも無い程ごっちゃごちゃに破壊されていた
…天井に幸村型の穴が空いている。
これは凄い、まるで漫画みたい。
…てゆーか幸村…毎日コレやってるからあんなに丈夫なんだろうな…勝てない筈だ…。
いや、んな事どうでもいい
助けて佐助ぇええ!!!いつも思うけどもうこの部屋何から手を付けて良いか解んないよォォオオ!!!