ゼロから始まる俺氏の命   作:送検

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第8話 作戦

 新学期。それは、普通の学生にとっては何もない、ただの新学期。

 

 されど、俺にとっては大きな覚悟を持って臨む新学期であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 月はあれよこれよと過ぎていき、九月となり新学期が始まった。

 

 夏休みは、パーティと藤ノ宮邸に行ったこと以外は特に何も無かったため、様々な参考書やら、本やらを見ていたらあっという間に時間が過ぎてしまった。楽しい事をしていると、あっという間に時間が過ぎ去る、というのはあながち間違いでも無いらしい。

 

 まあ、そんな事を思いつつも、俺は今日も足繁く政宗と共にまだまだ暑さが残る残暑ロードを歩いていた。

 

 歩いていたはずなのだが.

 

 

 何故、ここまで雰囲気が悪いのだろうかな。

 

 

 先程から、政宗が思いつめたかのような顔をして俯きながら、時々こちらの様子を見るようにちらっと一瞥し、また俯く。

 

 かく言う俺も、政宗に詳しく『あの時』の話を聞こうとするも、タイミングを掴むことが出来ず、攻めあぐねていた。

 故に、無言の状態が続き、他の奴らが歩きながら喋っている中俺と政宗の周りだけは静寂に包まれていた。

 

 いかん、このままでは話をしないまま、学校へ着いてしまう。諸々不味いと思った俺は取り敢えず当たり障りのない言葉を提供する。

 

「久し振りだな、こうやって揃って歩くのも」

 

 開口一番言うのがそれか? と自分で自分を殺したくなったが、政宗はその声に振り向く。

 

「う、うん。いやあ困ったなぁ、幸村と長い間会ってなかったから何を話せば良いのやら」

 

 長い間、か。確かにそうだった。

 今の今まで携帯番号も登録していなかったのだ。そんな状態で連絡なんぞ取れるわけもなし。夏休みも政宗は爺さんの教育的指導もとい愛の鞭を受けてヘトヘトだったはずだ。そんな状態で自宅から離れている上田家に行けるはずもなし。

 とかいう俺も夏休みは高校生に必要な知識を取り入れる為に父の書斎に篭っていたり、時に松姉さんの遊びに付き合わされたり、兎に角都合が合わなかった。そんなこと言っても言い訳にもならないのだが。

 

 

 

 それはそうと、そろそろ覚悟を決めなければならないな。ここから先、何が起こるかなんて分かりはしない。嫌悪されるかもしれないし、はたまた逆の成果を得れるかもしれない。

 

 それでも、俺は政宗にこの事を聞くと決めたのだ。それが最善手だと信じて。これが、道を切り拓く一歩になるんだと信じて──

 

 俺は、立ち止まる。すると先程まで隣を歩いていた政宗は数歩歩いた所で俺が止まっていることに気付き、此方に振り返る。

 

「どうしたんだい幸村」

 

「政宗」

 

 俺は暫しの間地面を見ていたが、そう言うと同時に政宗を見る。

 終始笑顔で俺を見ていた政宗だったが、俺の表情、または心情の変化を悟ったのか笑顔が消えた。

 

「これから俺が話すことはお前の気分を害するかもしれないし、親友として失格な発言をする可能性だってある」

 

「うん」

 

「昔のお前の話、実は6月頃に爺さんに教えて貰ったんだ」

 

 そう、絞り出すかのようにしてそう言うと、政宗は一瞬俯き、大きく息を吐く。すると、政宗は俺の顔を見つめ──

 

「知ってるよ」

 

 予想外すぎる事をいとも簡単に放ってみせた。

 

「ファっ!?」

 

 お、オカシイナー。あの時、確か政宗くん熱で寝込んでたんじゃないんでしたっけ!? 

 

「襖の影から聞いてたよ。幸村が昔、お爺様の元で指導を受けてた事とか、俺の事とか、色々聞かせてもらったよ」

 

 ってことは……俺が爺さんに話した恥ずかしいあんな話やこんなエピソードまで? 

 

「やだもう恥ずかしいッ!!」

 

「幸村気持ち悪い」

 

 おっと、心の声が出てしまったみたいだ。悪いな。

 

「過去の話、お爺様に教えて貰ってたんだよね。そして、俺が何をされたか。そして、俺が何で復讐をしようとしているのか、聞いたんだよね?」

 

 まるで確認するかのように政宗は俺に問う。そして、俺はその問いかけに縦に頷く。

 

「だけど、1つだけお爺様に言っていないことがある。幸村はそれを聞きたい」

 

「政宗」

 

 心情の変化に気付いた俺がそう言うと、政宗は少し自分を嘲るように、笑う。

 

「幸村、親友として最低なのは俺の方だよ。俺は幸村を心から信頼している筈なのに、まだ俺の口からその事を話せていない」

 

「そんなの……別に気にしてねえよ」

 

 心から信頼していた友達に1度裏切られた奴がもう1度友達の事を簡単に信頼出来る筈がない。そんなのは分かっているんだ。

 

 それでも、政宗は俺の声に対して、首を横に振った。

 

「言おうとは思った。何時か、何時かって思っていく内に『何時か幸村もその事を知って俺を虐めるんじゃないか』って心の中が疑心暗鬼に駆られて、結局俺は逃げたんだ」

 

 それでも、と政宗は続ける。

 

「幸村は俺を信じてくれていた。お爺様が、俺の過去を言った時、幸村は『俺は政宗を助けたい』って。『友達だから』って。そう言ってくれた。それを聞いて、俺は無性に自分が恥ずかしくなったんだ」

 

 だから、俺は考えた。

 

 そう政宗は絞り出すかのようにして言葉を続ける。

 

「幸村は俺を信じてくれている。だったら俺は幸村にどうあるべきなのか。俺はどうしたらいいのかって。夏休みの間ずっと考えてたんだ。そしたらさ、一番最初に思ったんだ。『俺は幸村を信じる。そして、自分の口で、まだお爺様にも言っていない過去を話すべきなんだ』って」

 

「良いのか?」

 

 俺が選択肢を与えると政宗ははっきりとした声でひとつの選択肢を言う。

 

「俺は幸村の会話を盗み聞きしたじゃないか。そう、これは所謂等価交換だよ。俺が幸村の過去や俺に対する気持ちを盗み聞きした代わりに俺は幸村に俺の今の気持ちを話して、過去も話す。これ以上ない等価交換だろ?」

 

 どうやら、政宗の決意は固いようだ。ならば、俺自身も決意を固めて、自分の言いたいことを言わなければならない。

 

 

 

「なら、政宗。お前を裏切った少女の名前を、お前の口から教えてくれないか?」

 

 すると政宗は1度下を向き、何かを決心したかのような視線を再度俺に向ける。

 

「安達垣愛姫っていう女の子だよ。その子に豚足と言われたんだ」

 

 

 

 

 

 ────は? 

 

 

 

 

 ……安達垣愛姫? 

 

 

 

「な……」

 

 なら、あの女は嘘を付いていたってのか? 

 

 あんな恥じらいもなく、後ろめたい顔もせずに、自然に? 

 

「……幸村? どうしたんだい?」

 

 そう言われて、はっと意識を覚醒させる。あまりに衝撃的な出来事で暫く我を忘れてしまっていたらしい。とにかく、俺は今俺自身が知っている事を政宗に言わなければならない。

 

「……あのな、政宗。気を悪くしたら悪いが俺は爺さんからお前の過去話を聞いた時、『東京』と『名家』のキーワードを使って少しお前の家以外の家について調べてみたんだよ。すると、とある少女の名前が俺の母さんの口から出た」

 

 それが『安達垣』という名家であり、そしてこの間のパーティ。俺は安達垣愛姫とやらに出会ったんだ。

 

「え……?」

 

 そう言って政宗は驚愕、と言った表情を俺に向ける。まあ、当たり前だ。まさか自分の友達が縁もゆかりも無いはずの自身が目の敵にしている少女とパーティで出会ったのだ。驚きたくもなる。

 

「……その子は、何か言ってた?」

 

 政宗の雰囲気は、瞬間的に一変した。影が政宗の体を覆い、闇に支配されているような感覚───

 

「何か……ってどういった」

 

「答えてくれッ!!」

 

 刹那、政宗は俺の胸ぐらを掴み、強く慟哭する。

 

 いかん、頭に血が上って何も見えなくなっている。今は何よりも政宗を落ち着かせなければならない。

 

「……少し落ち着けよ」

 

 そう言って、俺は政宗の肘付近を優しく握る。すると、政宗は少し息を荒げつつも少しずつ落ち着きを取り戻していく。

 

「……ッ、ごめん。冷静じゃ無かった」

 

「良いよ、別に」

 

 俺もお前の気持ちを察することができなかったのだ。喧嘩両成敗、お互い様なんて言葉もある。お前が気に病むことではないさ。

 

「それよりも、何を言ったか。そこだよな」

 

「うん、何か……豚足(オレ)について言ってたか?」

 

「……安達垣は、豚足なんて渾名知らないってよ」

 

 そう言うと、政宗は正に驚愕、といった視線で此方を見る。

 

「知らない……?」

 

「ああ、そうだ。だけどその表情を見る限り、どうも俺の聞いた話と政宗の体験した話に誤差がある……そう思って良いのか?」

 

 そう言うと、政宗は強く頭を縦に振る。

 

「そうだよ、俺はその女に……安達垣愛姫に裏切られたんだッ.!」

 

「政宗は、そう思っているんだな」

 

 俺がそう言うと、政宗は更に強く頷く。

 

「うん、俺が見たのは明らかに安達垣愛姫だった.許せない、自分が付けた渾名を忘れて、自分は知らないふりか。あの時、俺がどう思ったかも知れないで.!」

 

「因みに、他の奴が成りすましていたって可能性は?」

 

 そう言いつつ、俺の頭に浮かんだのはあの時のメイド少女、吉乃とやらだ。しかし、彼女はショートヘアで背格好も似ていない。当然、政宗から出た答えは。

 

「それはないよ。俺はあの家の中ではアイツしか知らないんだ」

 

 そう、断言された。

 

 政宗がそう言うということはそもそもその少女に縁が無かったということ。怨恨が残っていたとするのならば兎も角、接点がないのならばその可能性は薄い。

 

 何より、真壁政宗は、あの時豚足と罵ったのは安達垣愛姫だったと、そう言った。

 

 長い髪に、辛辣な声、それはまさに安達垣愛姫のシルエットだったと。

 

 ならば、俺はどうするべきか。指針は定まった。

 

 

 政宗がそう思い続けるまで、己のそれを信じるまでは、俺は政宗の復讐を手伝おうと思う。仲間を、そして自分を信じる。それが俺、上田幸村が正しいと思った道だから。

 

 それが、親友だと俺は思うから。色々ごちゃごちゃ考えたけど、根幹は政宗の為に───だ。

 

 俺のやるべき事は最初から、決まっていたんだ。

 

「大変だったな」

 

 錯綜する事実の中、何が本当なのかは分からないが『1人の人間』に政宗の生き方を否定されたのは事実。

 そうでなければあれだけの強い意志で自らの身体を鍛えないであろう。そう思うくらいには俺は目の前の男を信頼している。

 

「……ああ」

 

「辛かったろ」

 

 そして、厳しさマシマシの爺さんの元で厳しい鍛錬を積んできた。その過程で、止まっている鳥が美味そうに見えたりチョコを食べて納屋に入れられたりと散々な想いをしてきた。

 

「……辛かったよ」

 

 うん、分かってる。それは、お前の話を聞いて分かっているんだ。

 けど───

 

「本当のお前の気持ちの尽くを俺が分かり合うことなんてできっこない。だって、お前が持ち合わせているその痛みは、実際に体験したお前さんにしか分からないんだから」

 

 俺にも限度がある。

 

 安達垣と政宗の問題に踏み込めるのにも限度があるし、政宗の心情を慮るのにも限度がある。それは、どの世界でも同じ。どんな仕事にも完璧がないという事と同じで他人の考えが全て分かることは不可能に近い。

 

 でも。

 

 だからこそ。

 

 俺にも意地ってものはあるんだぜ。

 

「けどさ、そんな俺にも───出来ることはあるよ」

 

「え」

 

「俺にもお前の事をサポートさせてくれ、政宗」

 

 その一言に、政宗は目を見開く。そりゃそうだ。今の今まで友達やってた奴が今になって復讐のお手伝いさせて───なんて頼んだ日にはそいつはどんな事を考えているのか分からなくなるのが普通だ。

 

 それでも、俺にも考えていることはある。思っていることがある。それらを伝える事で、俺の確固たる『意思』を政宗に証明することが出来る。

 

 それが人間だ。それが、人間の出来る───俗に言うところの人特有のコミュニケーションだと思うんだがね。

 

「前々から思ってたんだ。俺は政宗に何が出来るのかって。こんな俺と友達になってくれた政宗に何をしてやれるのかって」

 

 夏休みの間、ずっと迷っていた。俺は政宗に何が出来るのか。助けたいと言った手前何をすればいいのか俺には答えが出ていなかったから。

 

「……まあ、それに俺だって一人の人間だし、親友が傷付けられて、黙って見過す程おおらかな性格ってワケでもないからな」

 

 誰がやったのかは知らんが、政宗が安達垣にやられたというのなら安達垣には鉄槌を下さねばならないし、ほかの犯人がいるのならそれこそ正真正銘の高速タックルをかましてやる。

 何が豚足だ。あれだけのひたむきさと優しさで出来ている政宗の本当のことも知らずに思いのかけらもない一言で政宗を傷つけやがって。

 

 それこそ、俺にも限度ってものがあるんだからな。

 

「……いいのかい?」

 

「あったり前だ。俺は何時でも準備は出来てる」

 

「何時、終わるのか分からないんだよ?」

 

「知るか、こちとらお前の事情を知ってしまったんだ。こうなったら一蓮托生旅は道連れ、お前の復讐に付き合ってやるっての!」

 

 俺がそう言うと、震えた政宗は俺の手を強く握る。本当に、強く握ってしまっているためガチで手が痛い。

 

「幸村……!本当に……本当にありがとうっ!!」

 

「……力を入れすぎだ!痛い!死ぬ!」

 

「ご、ごめん!」

 

 俺が、そう悲鳴を上げると慌てたかのように政宗が手を引いて謝る。

 

「……所で、リベンジするのは良しとして、具体案はあるのか?」

 

 リベンジは成功した時の快感が大きい分、それ相応のリスクがある。それをするのなら、それ相応の方法と対策を用意しなければいけない。簡単に破綻するような作戦なら、いっそのことやらない方が本人のためである。

 

「例えば、集団リンチとか完全犯罪とか。それから……闇討ちもいいな、ははは」

 

 俺がそう言って口角を歪ませると、政宗は慌てて俺を諌める。

 

「し、しないよそんな事!!」

 

 ふむ、しないとな。

 

 ならば、お前の策とやらを聞かせてもらおうか、政宗よ。復讐とあれだけ言うのならそれ相応の策というものがあってもいいはずだ。

 

 しかし、政宗は「あ……が……!」と、呻き声を上げたきり、そのまま俯いてしまった。

 

「どうした政宗?」

 

 俺がそう尋ねると、政宗はぽつりぽつりと話し始める。

 

「い、一応俺の中では復讐という気持ちはあるのですが……」

 

 おう。

 

 気持ちは大事だよな。

 

「その、あの……色々考えたんですけどやっぱりまずは痩せるのが1番かな.ってね。ほ、ほら! 豚足ってバレたら終わりじゃん!!」

 

 おう。

 

 終わっちゃうな。

 

「つ、つまり……復讐のやり方分かりません教えて下さい幸村先輩!!」

 

 そう言って、政宗は土下座を敢行する。俺はお前の親友になった覚えはあれど、先輩になった覚えなどひとつもないのだが……

 

 とにかくこの状況は色々不味い、何かしらの具体案を出して、政宗の土下座を止めさせなければな。

 

「なあ、政宗」

 

 俺は片膝をつき、土下座をする政宗の肩をトン、と叩く。大丈夫だ、俺はそんな事で怒りはしない。そんな事で怒ってるのなら、今頃お前がお爺ちゃんに隠れてチョコレートを食ったのを烈火の如く怒っている。

じゃあ何故怒ってないのかって?

それは俺の家──上田家の教えによるところが大きい。

 

『上田家たるもの紳士たれ』

 

 我が家の玄関の家訓に親父の汚い字でそう書いてあるのだ。だったら先ずはアンタが紳士になってくれとか言いたいことはあるがそれは置いといて、ここは怒らずに、冷静に、政宗の復讐について考えてあげなければならない。

 

 政宗が顔を上げる。よし、俺が具体案を出そう。そう思い軽く息を吸った後、俺はできる限りの柔らかい笑みで微笑む。何故か、政宗が怯えているのだがそんなの関係ない(暴論)。俺は政宗の表情のみを無視して一言───

 

「バレなきゃ犯罪じゃねえんだぜ?」

「犯罪だよ!?」

 

後にその時の事を政宗に聞くと、あの時の俺の顔は紳士どころか、鬼やそれに準ずる化身の顔をしていたらしい。

 

尤も、俺はそんな顔をした覚えはないのだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「とにかく、暴力はダメだ!!」

 

そう言って、政宗は両手でバツ印を作る。それを俺は脇目で見て、クスリと笑う。

場所は変わり、何時もの帰り道。俺と政宗は歩きながら安達垣愛姫に対しての復讐を考えていた。

 

「ああ、分かってるよ。女だから、な」

 

 どうやら政宗は復讐に暴力を使おうとはしていないらしい。また、誰かに囁かれても暴力は振るわないという確固たる信念を持っている。

すげえよ政宗くんマジ紳士。そんなことを頭の中で考えていた俺はひとまず政宗の心の持ちように安堵し、続ける。

 

「じゃあ、お前はどうする? どうしたら、その安達垣愛姫に復讐出来ると思う?」

 

「どう……って言われてもさ」

 

「よし、リンチするか」

 

「しないよ!?」

 

 政宗が俺を見て大袈裟なリアクションで叫び、肩を揺する。あは、あははっ、痛いっての。いい加減俺っち怒るぞ? お前に裁きの鉄槌下すぞ? 

 

「ねえ幸村!正気に戻ってくれよ!確かに復讐はしなきゃいけないけど俺がやりたいのは幸村みたいにハードでデッドなプレイじゃなくてソフトでハートフルな復讐なんだよ!血腥い復讐はなんか違うんだ!」

「いや、ハードでデッドて……うん、分かった!分かったから取り敢えず頭揺するの止めよーか政宗ぇ!!頭可笑しくなっちゃうから!!気持ち悪くなっちゃうからっ!」

 

 そう言って、俺が政宗を諌めるとようやく落ち着いたのか政宗は行きも絶え絶えに俺を見る。くそ、信頼してないなこやつ。俺は何時でもKOOLな男なんだ。そんじょそこらのK‐1とは違うってのに。

 

「じゃあどうするってんだ」

 

 そう尋ねると、前を向いて歩いていた政宗が思いついたかのように。

 

「……惚れさせて、振る……とか」

 

 と呟いた。

 

 成程。惚れさせて振るのか。いい作戦ではないか.ん? 惚れさせて.振る? 

 

「いやいやいや、ちょっと待て」

 

 何だ、その高難易度な作戦は。復讐対象はあの安達垣だぞ? 告白してくる男達に渾名を付ける愛姫だぞ? 自称男嫌いの痛いヤツの安達垣愛姫だぞ? 

 それを政宗は惚れさせて振るというのか。

 

「他に方法とかは無いのか?」

 

俺がそう尋ねると、政宗は俺の方向を振り向く。

 

「安達垣愛姫は天才だよ。言葉で勝てる自信はないし、それだけの力がないことも知ってる。暴力なんて論外だし、そうなると必然的に俺の復讐方法は限られてくる」

 

 確かに、そうだ。

 

 俺が安達垣愛姫に出会って最初に気付いた事は、彼女は美人だということ。

 そして、後々に気付いた事は彼女には所構わずほかの人間に渾名を付けるメンタルも、残虐性も持ち合わせているという事だ。その人物を言葉で打ち負かすのは不可能に近いだろうし、無理ゲーにも程がある。

 

 ましてや、俺が言ったように暴力なんて論外だろうし、一抹の可能性にかけるとするのならば.

 

「……本気か?」

 

 俺がそう尋ねると、

 

「……本気かどうかじゃない。やるんだ」

 

 そう、決意のこもった目と言葉で、そう言った。

 

「じゃあ、先ずは『自分』を変えなきゃな」

 

 真壁政宗が真壁政宗として、安達垣愛姫を惚れさせるためには、先ずは自分自身を変えなければいけない。

 

「今自分が変えようとしている体型はそうだろ?」

 

「うん」

 

「後は女相手にキョドる弱い精神の向上、口説き文句の上手さ、人間関係を円滑にするための会話力だろ? それから遊びの王様になる為にカラオケとか」

 

 と、俺が様々な具体案を提示していると、すかさず政宗から制止が入る。

 

「す、ストップストップ!!」

 

「どうした? 反論なら聞くぞ政宗」

 

 すると、政宗は両手で俺の肩を掴む。

 

「……俺って、女の子相手にキョドってた?」

 

 松姉さん相手に、照れてたよな。

 

「口説き文句って、『好きだ』とか『俺はもうお前しか見えない』とかじゃダメなの?」

 

 薔薇ステの見過ぎかってんだよ。

 

「……カラオケって何?」

 

 カラオケは歌うところだ。

 

「……幸村、俺もうダメかも知れない」

 

 案ずるな、どんな課題も一個ずつ消していけば何時かは完璧超人になれるさ。

 

 問題は、お前にその気があるのかどうかって話だ。

 

「……ああ、そうだね」

 

 そう言って再び前を向く政宗。両手で握り拳を作っており、その姿から安達垣に対する憎悪の想いが容易く見て取れた。

 

「やってやるさ。安達垣愛姫に絶対復讐してみせる。その為なら」

 

 どんな厳しい訓練もこなしてみせる。

 

 そう言い、真壁政宗はそれっきり復讐については何も語らなかった。

 

 

 

 

 

 

 




今年もよろしくお願い致します。

次回、幸村と政宗が復讐に向けて動き出します!
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