今回少し短いですが、近いうちに続きを投稿したいと思っていますので今後ともよろしくお願い致します。
では、ゼロから始まる俺氏の命(仮題)第9話をお楽しみください。
残暑が残るSeptember────九月の事だ。
俺は新学期が始まってから政宗が昔、安達垣愛姫という少女に『豚足』というあだ名を付けられたという事実を知り、俺はその復讐の手伝いをするという事が正式に決定した。復讐方法も前途多難ながら何とか決まったわけだが、問題はその他にも沢山あった。
『デッド・オア・ラブ作戦』それは、真壁政宗が安達垣愛姫を惚れさせて振るという何とも難儀な作戦である。何せ、前提条件がまだまだ何も達成出来ていないのだ。その目標を達成する為には、先ず『モテる男』になる為に集中的に痩せるための鍛錬をしなければならない。
道程はまだまだ長い。しかし、俺と政宗の共同復讐劇はまだまだ始まったばかり。焦ることはない、これからゆっくり何をするのか考えて、実行していけば良いのだ。
さて、先ず何から始めるべきかな...?
※
「...ほう、そうかそうか。政宗がのう...」
そう言って目を細める爺さんに、俺は苦笑いを禁じ得なかった。
場所は真壁家。そこの居間で俺は近況の報告を爺さんにしていた。
パーティで政宗を虐めた犯人に意図せず出会ってしまったこと。
政宗が事実を話してくれたこと。
そして、これからの方針の事。
「政宗はどうやら安達垣愛姫を惚れさせて振るらしいぞ。その為にできる限りの事をすることで取り敢えず決まったんだが」
「...具体性に欠けるのう。出来る限りのことと言ってもやることが決まってなければもちべーしょんも上がらんじゃろうて」
確かにな。
安達垣に復讐するという長期的な目標。即ちゴールはあるのだが、どんなゴールにだってそこに辿り着くまでの道がなければ辿り着く事は出来ない。
用は、その大きな目標を達成する為に、少しずつ小さな目標を作っていかなければいけないということだ。それらをコツコツ積み重ねることにより復讐というゴールは自ずと近づいてくる筈だ。
「だから爺さんに聞いてみようと思ってな」
何か策があれば教えて欲しい。そう言うと、爺さんは顎に手を当て思案し、やがて何か閃いたかのように此方を鋭い眼差しで睨み付ける。
「...先ずは腹筋からじゃな」
「...あ?」
「その後に側筋、上腕二頭筋、その後に大腿筋、最後に三角筋じゃな」
ちょいちょい、ストップ。
「お前さんは政宗を筋肉達磨が何かにしたいのか...?」
ジーザス。聞いた俺が悪かったのかもしれない。最近の子煩悩ぶりからすっかり忘れていたがこの人は俗に言う『筋肉馬鹿』だ。痩せるためならばどんな過酷なトレもやらせる。一切の甘味、脂質を逃さない。筋肉と健康さえあれば何とかなるとすら思っている。
兎に角真壁の爺さんに聞くのはダメだ。俺は右手で頭を抱え、首を横に振る。
「...確かに筋肉も大事だぜ?そりゃあ大事さ。だけどアイツの目標は健康になる事じゃない。モテることなんだぜ?」
「しかし、筋肉を付けなければ痩せることはできんじゃろう。どの道避けては通れない道なのは確かじゃろうて」
...まあ、正論だな。
ただ、1つ言わせてくれ。
「お前さんは俺の時もそうだけどやり過ぎなんだよ...」
「...ううむ、やはりやりすぎかのう?」
「ああ、やり過ぎだな。筋トレにも個人差により限度があるってことを爺さんは知った方がいい」
「むう...」
そう言って、うんうん唸り始める爺さんを尻目に、俺は再び考え始める。
さて、どうしたものかな。
大体やるべき指針は定まっているのだが、どれをするにしても何かタイミングと決め手に欠ける。
一緒に筋トレをやったりするのもいいかもしれないが、今の政宗は目標が定まったことにより、熱くなり、燃えている。その証拠に今日も長い長い道のりを足繁く走っている。
しかし、それ故か少々オーバーワークをしているようにも見て取れる。人間、何でもやりすぎや無理は続かないものだ。必要なのはメリハリのある生活。
今の政宗に必要なものを吸収できて、何より気分転換になるものは────
「なあ、爺さん」
「何じゃ?」
「少しだけ、政宗を気分転換に連れて行ってもいいか?」
丁度、あれがあるじゃないか。
※
「と、いうわけで明日はカラオケに行こうと思いまーす」
場所は学校教室に隣接されてあるベランダ。
時は穏やかな昼休みの一時。
そこでパチパチパチと手拍子を叩く俺を見た故か政宗は、少し冷ややかな目で俺を見る。ちょ、そんな目付きで見られたら俺泣くんだけど。
「何が『というわけで』だよ。何でそんな事になってるのさ」
政宗は依然として、何が何だか分からないと言いたげな目付きで問いかける。
「何でって、お前が頑張っているからだろ?」
「当たり前だよ。俺は1日でも早く安達垣愛姫に復讐しなくちゃいけないんだから」
そう言って怪訝そうな目付きをしながらそう言う政宗を俺は真っ直ぐ見つめながら告げる。
「ああ、確かに今の政宗は復讐の為に頑張らなくちゃいけない。だけど一言言わせてもらうと『やり過ぎ』だ」
無論、本音だ。最近の政宗は目標が定まったからなのか、やる気に満ち溢れている。鍛錬も積極的に行うようになったし、泣き言を言わなくなった。
しかし、この先その努力がいつまで経っても続くということは限らない。
空気を溜め込み過ぎた風船はたやすく割れてしまう。そして、それは根本だけで言うのなら人間という生き物も同じだ。
俺はこの機会を使って、政宗の中に溜め込んだ空気を少しでも放出したかったのだ。
「だから、たまには気分転換してもいいだろ?ほら、俺もカラオケに行ってみたいしさ。少しだけ付き合ってくれよ」
そう言って、両手を合わせて懇願すると政宗はうーん...と唸りながらも承諾する。
「だけど、お爺様が許してくれるかな...」
「その点に関しては心配ない。俺が今回の件に関して爺さんに了承を取ってある」
「随分手回しが速いな!?」
ああ、何せ俺は政宗を手伝う人間だからな。これしきの気配り出来ずにこれから先の復讐なんぞ手伝える筈もない。
俺は政宗の両肩に手を乗せ、笑顔で続ける。
「兎に角、明日はカラオケに行くからな。返事はハイかイエスかイエッサー。好きな方を選べ、な?」
「それどっちも了承するよね!?俺に拒否権なしかよ!?」
ちっ、押し切ろうと思っていたのだが流石政宗だ。何時も成績上位者に名を連ねてるだけのことはある。
「...まあ、幸村がそう言うなら俺も行くけどさ。俺ってカラオケがどんな所か分からないよ?」
「だからこそ、だろ?」
俺が、そう言うと政宗は首を斜めに動かす。
「どういう意味だ?」
「政宗、このスマホの画面を見てくれ」
画面上に映ったのは『最近の高校生のデートスポット』という題目の下に様々なデートスポットが記されている。
そこの1番上に書いてあったのは知る人ぞ知る遊びの王国クマクマランド。ここに行っても良いのだが遠いためパスだ。
俺が見てもらいたいのは3番目に書いてあるデートスポット、カラオケだ。
「例えばの話だ。仮に高校生になって安達垣と遊ぶ事があったとする。そんな時にカラオケで得意な曲1つも歌えない男に安達垣が惚れると思うか?」
俺だったら惚れない。
...誤解するなよ。俺にそっち系の趣味はないからな。
「お、おお...!そういうことか!!流石幸村っ!つまり、遊び慣れることによって運動も、勉強も、遊びも何でもこなす優等生になれってことだな!?」
「ズバリ、そういうことだな」
100%にお釣りが返っても良いくらいに俺の言っていることを理解してくれて助かった。
「んじゃ、明日はカラオケに行くぞ。日頃の疲れをパーっと癒しちまおう」
「おう!」
そう言ってお互いの拳をコツンと当てて高笑いする俺たち。その姿は、恐らく第三者から見たらどこかの悪役キャラに見えた事だろう。
そして、この時の俺は、まだ一つのミスとこれから起こるであろう大惨事に何一つ気付いてはいなかった。