ゼロから始まる俺氏の命   作:送検

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第10話 惨事

 

 

これから始まるお話は、俺にとってTOP10にランクインしてしまうほどトラウマになりかけた大惨事である。

 

あえて例えるとするならば。

 

某有名国民的アニメの某有名キャラのリサイタルを聞いていた聴衆の気分を理解することが出来た惨事といったところだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カラオケボックス。実は俺も友達とは現世では初めて行く事になる。聞いて驚け、何せ政宗が来るまで俺は友達がゼロだったからな。

 

そこで、断じて違うと声を大にして言いたいのは俺はコミュ障──会話で緊張するような奴では無いと言うことだ。

 

コミュ障と言える程俺は会話が出来ないという訳ではない、寧ろ話せる。現に政宗と直ぐに友達になれたし、まあ藤ノ宮とも話せたりしている。これがコミュ障ならば政宗とのファーストコンタクトであんなに仲良くなれないし、藤ノ宮と話している時なんか喋ることすらできないだろう。

 

では、何がダメなのかと言うと、それは『精神年齢』が影響しているのだ。

 

忘れもしないあの日のことだ。当時小学1年生だった俺は今度こそ充実しまくった学園生活を営もうと気合いを入れて小学校入学式に臨んだ。臨みすぎたのだ。

 

考えてみろ。周りは1年生になったばかりのガキだ。対して俺は見た目は子供、頭脳は大人の某探偵状態の外見だけはガキの人間だ。それを忘れてた俺は、隣の席の男の子を友達にしようと、言い方は悪いがたかが一人にやる気を使いすぎてしまったのだ。

 

『よう!!俺の名前は上田幸村!!サッカーやろうぜ!!』

 

小学校1年生の気持ちになって考えてみてくれ。只でさえ不安だった小学校生活、幼稚園や、保育園に戻りたいと思っているお子さんに真正面からそんな事を言う奴がいたらヤバい人間だと思うだろ?逃げなきゃ、と思うだろ?

 

結果として大いに泣かれたよ。そして、俺は巷で同年代の子供を早速シメた幸村。またの名を『鬼の幸村』と呼ばれて同級生からも敬遠されてしまっていたのだ。

 

いやあ、いくら俺が転生者でも流石に時間遡行は出来ないからこれを肝に銘じて中学、高校では友達と健全なお付き合いをしたいものだ。

 

因みに当時人気だった某サッカーアニメは今も人気のサブカルチャーだがその時を境に俺は2度と見なくなった。時々親父が間違えてそのチャンネルにすると親父に対して殺意さえ湧くようになってしまった。

 

 

さて、今日はカラオケボックスへ行く日だ。真壁家に行こうではないか。そう意気込んで真壁家に来たのだが...

 

 

 

 

「...で、政宗はそういう服にしたと」

 

今、俺は両手で頭を抱えて恐らく物凄い顔をしている事だろう。

 

悩みの種は政宗の服だった。今の政宗の服は青のジャージセット。外へ行くような服装ではない。

 

「え、だってカラオケ行くだけじゃ」

 

それを聞いた瞬間、俺は吠えた。

 

「甘ァァァァァい!!!世界一甘いとされるグラブジャムンよりも甘ァァァァァァいっ!!」

 

「ゆ、幸村?」

 

「良いか真壁政宗!!心して聞けいっ!ここにいる奴がもし俺じゃなくて女の子だとしたらお前はどうするんだ!?そのジャージで!行くのか!?」

 

「だ、だってこういう服しかなかったからさ」

 

ほう...?そうかそうか、それしかないと。それしかないからと。そういう事か。

 

「そこはちょっとやる気出してくださいよ!?買ってよ!!何なら俺に頼んでくれればその手のプロに頼んだのに!!」

 

「た、頼めないよ!!だって俺幸村の電話番号知らないんだよ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あ。

 

 

 

「...確かにそうだな」

 

俺のアドレス帳には、4人の携帯番号がある。

 

父。母。松。そして、藤ノ宮だ。何とも悲しいアドレス帳だとか引きこもりとか言ってくれるなよ?特に政宗とは登録するのを本当に忘れてただけだから。知り合い少ないわけじゃないから。いや、確かに同年代の友達は少ないけどさ。

 

「あ...えっと、幸村。何かごめん」

 

よせやい。余計に悲しくなっちゃうだろ?

 

「...兎に角、その服装は後々の復讐に支障をきた...します。政宗くん、僕に付いてきてください」

 

そう言って政宗の手を掴み歩き出す。

 

「え、どこ行くの幸村!?」

 

政宗は慌てて俺に言う。俺は立ち止まり、政宗の方に向き直る。

 

「今から俺ん家に行こう」

 

そして、政宗のファッションを劇的に変えるのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「...と、いう訳だ松姉さん。普段の狼藉は謝る。だから1日だけコイツのファッションを見繕ってくれないか?」

 

俺は上田家の茶の間でゴロゴロしながらマンガを読んでいた姉さんに土下座している。まるで殿様と家臣。だが親友のためだ、ここは恥を忍んでお願いしている。

 

「ちょ、え、ええ?」

 

そして、当の松華は困惑している。それもそのはず、少し前まで毎日のように喧嘩、または暴言を吐いていた愚弟が土下座しているのだ。驚くだろう。

 

「そこを何とか頼む!コイツのファッションセンスを貴女の手で変えてやってくれませんかね!?」

 

本当に少しだけでいいんだ。言うなればこの子の服を少しでもマシな服装に変えてやるだけでも良い!アイツがリベンジ出来るための服の選び方を教えてくれるだけで良いんだ!

 

しかし、そんな俺の願いも中々うまく届かず松華は中々首を縦に振らない。

 

「え、いや、言いたいことは大方分かったけどさ、あまりにも急すぎない...かな?」

 

「そこをなんとか頼むよぉ!!」

 

俺は頭を強く、激しく打ち付ける。「ちょっ、ここ茶の間なんだけど!?」と松姉さんの声が聞こえるが知ったことか。俺は頭を更に強く打ち付ける。

 

「あ、あの...俺は一体どうすれば」

 

そして、肝心の政宗は俺の後ろで立ち固まっている。

 

「あらあら、貴方が政宗君?何時も幸村がお世話になってます」

 

「え、あ、はい...こんにちは...」

 

そして、背後から母である薫と。

 

「おー!!キミは確か政宗君だね!!初めましてだな!話は幸村と松から聞いているぞ!」

 

親父である昌幸が政宗と仲良く話している。否、仲良くというよりかは一方的にといった感じだろうか。はたまた、政宗がうちの親のテンションについていけてないのか。

 

「え、えーと...」

 

「そして、今度是非政宗君も僕と共にゴルフをしようじゃないか!!」

 

「あ、はい...」

 

うるせえよ親父。

 

そしてさらっと手前の趣味に子供を巻き込むなよ。

 

「ぐぅ...」

 

そう言って親父は肩を落とす。本当にこの親父はゴルフ好きだな。溜め息を吐きながら、現在進行形で肩を落としている親父の方を見ていると政宗が俺の肩をつつき、密かに耳打ちする。

 

「...やっと趣味に異様な執着心を持つお父さんって幸村が言っていた意味がわかった気がするよ...」

 

「...ああ、そうだろう?」

 

自らの趣味を楽しむためならどんな事も惜しまない。忙しい時間を縫ってゴルフ道具の手入れ。ゴルフ友達勧誘。そこだけ見てしまえば只のダメ親父なのだが、それでも家族との時間もしっかり取っている故になかなか責めることは出来ないのだからタチが悪い。

 

「ま、ここは一癖も二癖もある奴らがいるが噛み付いてくるわけじゃない。いらん話は安心して聞き流してくれ」

 

「お、おう...」

 

そう言って苦笑いをする政宗。おっかしいなー、何かおかしなこと言いましたっけ?

 

「で、一体どうしたんだい?何か幸村が土下座していたのが気になって野次馬やろうと思ったんだが」

 

昌幸が事の経緯を聞こうとして俺がその言葉に反応しようとすると松姉さんが俺の代わりに代弁する。

 

「えーとね、ユキの話を要約すると『女の子にリベンジしようとする政宗君にファッションとは何たるかを『お父さん』に伝授してもらいたいんだって』」

 

え、ちょっと松姉さん?俺は親父に任せるなんて一言も...

 

「幸村が!?僕に!?それも政宗君のために!?」

 

ああもう!この親父めんどくせえ!!

 

「あらあら、良かったですねお父さん」

 

母さんも煽てるなよ!!

 

「よし!政宗君!!今から俺と共に来い!!政宗君に丁度良い服を俺が見繕ってやる!!」

 

そう言って政宗を引っ張る親父。

 

「え、あ、ちょっと──!?」そして、そのまま庭の自家用車に連れてかれた後、政宗を載せた車は消えていった...

 

哀れ、政宗。済まない政宗。

 

「ってか松姉さん、俺ファッションとは何たるかを松姉さんに見繕ってもらおうとしたつもりだったんだけど」

 

松姉さんなら何とかしてくれると見越して先程まで土下座していた俺の過去を返せよ。俺の無意味な黒歴史がまた一つ増えちゃったじゃないか。

 

「急すぎだって、せめて一昨日くらいには言ってくれないと」

 

「シャーラップ!!いたいけな弟の急な頼みくらい聞いてくれよ!!夏休み中に俺がどんだけあんたに付き合ったと思ってるんだ!?何だ!?お前の頭はハッピーセットか!?ああ!?」

 

夏休み中、俺は松姉さんの『遊び』と称した友達のパーティやら、遊びやらに散々付き合わされた。それ故に等価交換の法則が効くと思っていたのだが、どうやら松姉さんには等価交換の法則なんぞ頭の中にはないらしい。松姉さんは逆ギレした俺に半ギレで返す。

 

「あー!!今ユキが言っちゃいけない事言った!!謝って!今すぐ謝ってこのボッチ!!」

 

「ボッチじゃねーよ!お前の目は節穴か!?今ここに真壁政宗君がいただろ!?」

 

俺達がそう言って不毛な争いをしていると突如、体全体を悪寒が襲った。

 

無論、発端は分かっている。

 

母だ。

 

「二人とも、そこまでにしましょうか」

 

母が笑顔でそう言って、右の掌を頬に当てると松姉さんも同じ空気を察したのか俺を見て頭を下げる。一瞬見えたその目は何時もの松姉さんの目ではなく恐怖を絵で書いたかのような目付きをしていた。

 

「い、いやー、悪かったよ!悪かった!私間違えてた!ゴメンねユキ!!」

 

「お、おう...いや、俺も悪かったよ。松姉さんに任せようとした俺が悪かったな」

 

上田家で1番怖いのは母だ。故に、俺達は母に逆らえない。無論親父も逆らえない。

 

家族カーストの最大の権力者は父でも、俺でも、松華姉でもない。

 

母なのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺、こと真壁政宗は幸村の親父さんに連れられて今車に乗せられている。

 

何というか、幸村の家族は色の濃い家族だった。親父さんは明るい人だし幸村のお母さんはとても優しそうだったし、松さんはいつも通りだったし。何というか、久々に家族の温かさというものを垣間見たような気がした。

 

「ははっ、みっともない所を見せちゃったね」

 

そう言って親父さんは車を運転しながらからからと笑う。

 

「い、いえ!別にみっともないなんて...!」

 

ま、まあ確かにユキムラに言われていた時『ぐぅ...』と言い負かされていたのは、何か、こう...哀れに思えたがみっともないとか、そんな事は思わない。むしろ円満な家庭に見えて微笑ましい気持ちにすらなれた。

 

俺がそう言って、親父さんの発言を撤回させようとすると、車のミラー越しに親父さんが驚いたような顔をして、また笑った。

 

「政宗君は優しいな!どうだ?我が家の養子にでもならないか!?」

 

「そう言ってもらえるのは有難いんですけど...」今の俺には明確な目標がある。

 

三年前、俺を『豚足』と言い罵ったあの女。俺はアイツを絶対に許す事が出来ない。

俺は、あの子だけは違うと思っていた。性格が悪いのは分かっていた。それでも他の子とは違って俺を怒り、それでも『お溢れ狙い』とかそんな下劣なものでもない、本当の意味の友達にあの子はなってくれるのだと。

 

しかし、あの日確かに俺は言われた。

 

『あんたなんか好きにならないわよ、この豚足』

 

今にでも夢に浮かんでくるあの決別宣言。今でも悪夢に出てくるその呪縛から抜けだせるのなら、出来ることならどんな事でもする。

 

痩せてやる。

 

イケメンになってやる。

 

頭も、遊びも、何もかも完璧な人間になって何時かあの憎き少女に復讐する。それが俺の、『真壁政宗』の目標だ。

 

「成程。それがキミのリベンジ、という奴か」

 

俺が誘いを断ると、如何せん納得したかのような感じで親父さんはハンドルを右に切る。

 

「す、すいません生意気言ってしまって」

 

「いやいや、良いんだ政宗君。それこそ青春だ!少年は何でもいいから大きな目標を立てるが大事なんだ。かの著名な博士もこう言っているんだ、『ボーイズビーアンビシャス』とね」

 

「ぼ、ぼーいず...?」

 

俺は親父さんの言っていることが理解出来なかった。思わず首を捻ると、親父さんはまた笑う。

 

「ははっ、政宗君には少し難しかったかな?日本語で『少年よ大志を抱け』という意味なんだ。若者は大きな志、決意を持って世に出ることが大事、という意味だね。...政宗くんにはもうあるじゃないか。立派な決意が」

 

そう言いつつも、車を駐車場に止める親父さん。気がつくともう大型ショッピングモールの近くに来ていたのだ。

 

「決意...」

 

「そう、その決意を持って、今、キミは必死に準備しているそうじゃないか。幸村から聞いているよ?それは凄い事だ」

 

「あ、ありがとうございます...」

 

「必死に頑張る姿は人の心を打つ。心を打てば手伝ってくれる人は、キミを信じてくれる友達は自ずと増えてくる。だからキミは君自身を、真壁政宗という人間に何時でも正直にいる事が大事なんだ。さあ、行こうか」

 

そう言って車から降りる親父さん。その親父さんの背中は何故か逞しくて、何処か幸村が醸し出していた頼もしい雰囲気と似ている気がした。

 

『必死に頑張る姿は人の心を打つ』

 

親父さんの言っていることが仮に正しいとするならば。俺は上田幸村の心を打つことが出来たということになる。

 

これからも頑張っていけば、俺のリベンジを肯定してくれる人が増えるということになる。それはとても嬉しいことだ。そして、感謝すべきことだ。

 

だけど。

 

ならば何故。

 

あの時、愛姫ちゃんは花を集めるために必死に頑張った俺を認めてくれなかったんだ。何で...何で俺を裏切ったんだよ。

 

そう思えば思うほど、親父さんに言われた事が頭の中から離れなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お、おう...これは、出来る。

 

車で戻って来た政宗の服装を見て、俺は珍しく親父の本気を感じた。ジーパンに半袖のシャツをカッコよく決めてやがる。これが親父のファッションセンスか。

 

「どうだ?これは結構自信作なんだけどな!!ガハハ!」

 

そう言って高笑いする親父。うん、うぜえ。

 

「まあ、これで問題は解決だな。親父、サンキューな」

 

今回ばかりは親父に感謝しなければならない。松姉さんに頼んでいたらとんでもない服装になっていたのかも分からないからな。感謝、感謝だ。

 

「それじゃあ政宗、行こうか」

 

「そうだね、そろそろ行かないと時間がね」

 

そう言って二人で外に出ようとすると、親父が引き止める。

 

「Hey!そこの少年たち!僕が送っていってあげようかい!?」

 

「結構だ」

 

一人で行けるわ。

 

そう思い、外に出ようとすると松姉さんがいつの間にか俺たちの目の前に立ち、行く手を塞いでいた。

 

そして、一言。

 

「ここから先は、行かせられないよ」

 

「...おい、松華。さっきからお前には腹が立ってんだ。要件なら手短に済ましてくれよ」

 

すると、松姉さんは途端に笑顔になる。

 

「...2人でカラオケ、友達とカラオケ!いいね!いいんだよ!お姉さん嬉しいよ!」

 

そう言って笑顔で拍手を送る松姉さん。しかしその笑顔は一瞬で終わり真面目な顔になる。

 

「だけどね、ユキ。この世には守らなきゃいけないルールがある。そして、カラオケは特にそのルールが厳しいんだよ」

 

 

......

 

 

 

.........

 

 

 

おい、まさか。

 

 

 

「...『小学生だけではカラオケに行けません』とか言うんじゃねえだろうな」

 

俺が一抹の不安を覚え、そう言うと松姉さんは口を噤む。まるで、何かを堪えるかのような、そんな表情。

 

「...おい、おい!!冗談だろ!?」

 

俺が松姉さんにそう言うと松姉さんは目を閉じたまま、噤んだ口を開く。

 

「...現実は、非情なんだよユキ。カラオケに行くには、保護者を連れていかなければいけない...大事なことだからもう一度言うけど現実は非情なの...!」

 

「...まさか、親父を連れていけと?」

 

「...お母さんは、カラオケ無理だってさ」

 

それを聞いた瞬間、俺は絶望した。

 

「あ、ああ...なんて事だ。あの親父を連れていくなんて...なんて世界は窮屈なんだ...」

 

片膝をつき、頭を抱える。俺と政宗の誰にも邪魔できない友情ライフに、まさか親父が友情出演するなんて...!

 

...だが、やるしかないのも事実だ。

 

上田幸村。

 

お前は政宗の親友だろ。

 

友人の為に一肌脱げないで何が友達だ?何が親友だ?

 

俺は、政宗を手伝うって、助けるって決意したんだろうが。

 

覚悟を決めろ。

 

「政宗」

 

「な、何だい幸村?」

 

「お前は、俺が絶対にカラオケに連れていく」

 

そう言って、俺は親父の元へ歩み寄る。距離は50メートル。

 

 

「どうしたんだい幸村?」

 

 

俺の姿に気づいた親父は俺を呼びかける。その声に俺は片手を上げて返し、そして一言──

 

「親父ッ!!」

 

そう言って俺は親父に向かって走り出す。

 

 

 

 

そう、それは青春の一コマのように。

 

そう、それは一面に薔薇が咲くような一コマのように。

 

俺は親父めがけて一直線に走り───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺と政宗をカラオケに連れてってくださいッ!!!」

 

 

 

 

俺の持ちうる最強の必殺技『DO・GE・ZA☆』

を何の躊躇いもなく発動した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「お、おお...これがカラオケか...」

 

そう言って、カラオケの室内で驚嘆の声を上げる政宗を横目で見つつも、俺も久方ぶりに見るカラオケボックスに心を弾ませていた。

 

現世でカラオケは数度しか行ったことがなく、その肝心の数度も殆ど覚えていない。何せ松姉さんに言われるまでカラオケの年齢制限を忘れていたぐらいだからな。

 

小学生だけでカラオケには行けません。そんな事政宗をカラオケに誘う前にリサーチしておくべきだったと今では反省している。

「そういえば、幸村もカラオケに行くのは初めてだったかな?」

 

「...ああ、そうだな」

 

現世ではな。勿論、このことは誰にも言うつもりは無いが。

 

「...取り敢えず、やり方が分からないから教えてくれ...あ、俺オレンジジュースな」

 

「ジュースはドリンクバーを頼んでおいたから取りに行ってきなさい」

 

「へえー...ドリンクバーなんだ...」

 

政宗がそう呟くと、親父は更に続ける。

 

「大体こういうお店はジュースはドリンクバーになっている。後は、料理なんかを注文したいんだったらメニューを選んであそこの内線電話で頼むんだ」

 

「...やけに詳しいな」

 

正直、親父がそこまで詳しいとは思っていなかったのだが。

 

「カラオケなら、母さんと一緒に何回か行ったからな。最近は行っていないがそれなりに覚えてはいる」

 

更に、親父は立ててあるマイクと機械をひとつずつ持って政宗に突き出す。

 

「さあ、政宗くん。知っている曲をこの機械で選ぶんだ。そしたら歌が歌える」

 

「...は、はい!!」

 

お、おお...思いの外スムーズに事が運んでいるぞ!政宗も楽しそうだし結果的にいい感じになったのかな、と俺は思っていた。

これで、政宗がカラオケに慣れてくれれば更に良し。俺は先程の焦燥感とは打って変わって心にゆとりができていた。

 

そして、政宗が曲を入れ込んだのかサウンドからポップで軽快な音が鳴り響く。

この曲自体は分からないが、政宗を横目で見ると、政宗は緊張感を漂わせつつも、笑顔で画面を見ていた。

 

 

 

これなら、大丈夫だな。政宗はしっかりとカラオケを楽しんでくれている。気分転換にもなるし、遊び慣れもできるしまさに一石二鳥。今回ばかりは服を選び、カラオケに連れていってくれた親父に感謝しなければ。

 

 

そう考えている間にも曲のイントロが終わり、政宗は大きな声を上げて歌い始めた────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『お客様、どうかされましたか?』

 

「ェ、エマージェンシー...エマージェンシー...助けてください...耳...が...」

 

「お見事だよ政宗くん!!さて、次は俺の美声を見せてやる!!」

 

「止めてくれぇぇぇッ!!」

 

 

 

 

 

 

今日の結論

 

政宗、マッスルばっかじゃなくてシンギングも練習しようぜ!!

 

 

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