ゼロから始まる俺氏の命   作:送検

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第11話 自身

 

 

 

 

 

 

相対性理論、というものは往々にして意地の悪いものだと推定する。

楽しいと思えるもの程早く終わってしまい、嫌だ、嫌だと思うものほど中々終わらないものだ。

 

昔の俺は早く大学生のキャンパスライフを過ごしたいと思っていたただの一般人であり、暇があれば勉強、勉強。偶に真壁の爺さんに鍛えられていたりと、あまりにもスケジュールがスカスカで勉強しているのにも飽き始めて、そんなモノクロのような日々は時間がゆっくりすぎるかのような感覚で、酷くその時間を嫌悪していた。

 

しかし、真壁政宗という人間に出会って俺のモノクロのような日々は終わりを告げた。

政宗の過去を知り、政宗の復讐を手伝うまでの時間は酷く楽しくて、学校内で会話したりカラオケに行ったり特訓したりと、そんな酷く楽しい日々はあっという間に過ぎ去っていった

 

季節は秋。しかし、もうすぐ冬になっていく。

 

 

 

 

 

俺、上田幸村は今日も他者である政宗の復讐の手伝いをしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは、悲劇のカラオケ地獄から数日経った時の事だった。

 

あの時のトラウマになりかけた出来事を思い出しながら、少し震えながら目をつぶっていると後ろからドアが開く音がする。

 

「やっほー、ユキ。お邪魔しまーす。てかしてまーす」

 

どうやら、ドアを開いてお邪魔しているのは松姉さんのようだ。俺は松姉さんの方を振り向き尋ねる。

 

「...何の用だ」

 

そう言ってジト目で見ると、松姉さんは驚いたかのような顔をしている。こんな顔をする姉さんは非常に珍しいのだが何かあったのだろうか。

 

「酷い顔。どうしたの?」

 

どうやら、原因は俺の顔だったらしい。俺は起き上がりベッドに座る形で松姉さんを見上げる。

 

「...カラオケって、疲れるよな」

 

「え、ちょっと待って。本気でどうしたの?」

 

松姉さんは隣に座り、俺を見る。まるで嘘を付けないかのような瞳が俺に向けられ、少し俺は困惑してしまった。

 

「...ああ、カラオケに関してはどうでもいいんだよ。政宗は楽しんでくれたみたいだし、親父のお陰で政宗も自分の身嗜みに興味を持ってくれた」

 

カラオケでの1件が終わってから、政宗は変わった。普段の生活でも、外に行く時も、しっかりと身嗜みやら服装やらをしっかり整えて、それでいて俺目線でみてもカッコイイと思えるような服装をチョイスしていた。

 

「うん、確かに政宗君は結構変わったね。正直あれは私も驚いた」

 

「だろ?流石政宗だよ。復讐の為ならば何でもしてみせるって執念を感じるよね」

 

「幸村も少し見習えばいいのに...」

 

そう言って苦笑いをする松姉さん。それを見た俺は、松姉さんを見て尋ねた。

 

「んで、何か用か?」

 

松姉さんがここに来るということは、何かしら用があっての事なのだろう。個人的には早い所要件を聞きたい所なのだが。

 

すると、松姉さんは思い出したかのように手を叩く。

 

「そうだそうだ。肝心の要件を忘れていたよ。幸村は、来週の土曜日は暇だよね?」

 

ああ、暇だな。

 

それがどうかしたか?

 

「お爺が11月の初めから12月まで幸村にあることをしてもらいたいらしくてさ」

 

「要件にもよるな」

 

例えば、1ヶ月間政宗に会うなとか。1ヶ月間お前は自宅謹慎だとか。そんなんだったら全力で爺さんに食ってかかるし断固拒否させてもらうぜ。

 

「極論だ!?」

 

「...で、一体何なんだよ」

 

俺が、そう言って現在進行形で驚いている松姉さんに向かってそう言うと、松姉さんは続ける。

 

「幸村に、政宗くんの修行を手伝って欲しいんだって」

 

ほう、そう来たか。

 

「修行...ねぇ?」

 

そう言って思い起こされるのは過去の地獄すら生温いあの訓練。虹色に輝く何かを夜な夜なリバースした悪夢。そして、『その道に引きずり込んだ張本人』がもう一度その道に引き摺りこもうとしているという事実。

 

「...は、はは」

 

思わず、苦笑いをしてしまった俺はきっと悪くは無い筈だ。

 

「...あー、うん。ユキは実際にあの特訓をしたんだもんね...私の告げ口で」

 

「...あれは地獄だったなぁ」

 

出来ることならば、あのような地獄は味わいたくはないものなのだが。

 

「なして今なんだ?」

 

「お爺が言うには、一緒にやる人がいたら張り合いが出てやる気が出るらしいよ?」

 

それならば、松華。貴女も一緒にやれば更に効率アップなのでは?貴女は爺さん監視の下空手やら何やらの武道の稽古を付けてもらっていましたよね?

 

「...私だってやりたいけど、時間があまり取れないからなぁ...」

 

そう言って渋る松姉さんを見て、大学生も大変なんだなと少し同情してしまった。

どうやら、キャンパスライフもそれなりに大変らしい。それならば尚更のこと前世でキャンパスライフを体験してみたかったものなのだがそれはまあ、過ぎてしまったことなので仕方がない。

少なくとも今の俺は『上田幸村』なのだ。名前すら覚えていない過去の事など今は考える余地はない。今生きているこの人生でやりたいことをやる、今の俺にはそれしかできない。

 

「...分かったよ。いつ行けばいいんだ?」

 

俺が苦笑いでそう返すと、松姉さんは安堵の表情を浮かべ、説明する。

 

「明日以降、朝と放課後の2時間って言ってたよ。私も行ける時は行くから」

 

「了解。まあキツいけど最近運動してなかったしな。丁度いいだろうよ」

 

最近は教本を漁ってばかりいてろくに運動してなかったからな。この特訓は己を鍛える為に、そして政宗との友情を深めるという二重の意味でも重要な役割を担う特訓になるだろうと個人的には思っている。

 

「...にしても、あのマイペースな松姉さんが他人の、しかも見ず知らずだった奴の事を気にかけるようになるなんてな」

 

上田松華という人間は基本、他人に無関心だ。今でこそだいぶ丸くなり、友達も沢山いるのだが、幼少期の頃は前世の記憶を断片的に持っている俺ですら引くくらい他人に無関心で、兎に角冷たかった。そんな松華が唯一気にかけてくれていたのは、俺だったのだ。それが何故なのかは俺には分からないのだが...

 

「なはは、私だって大人になったんだから多少人の事を気にかけたりはするよ。あの時は...そう!所謂黒歴史って奴だね!」

 

うへえ、自分の過去を黒歴史って割り切っちゃう松姉さんパネェっす。

 

「まあ、私にだってそれなりの良心はあるつもりだからね。政宗くんが信州にいる間で私に手伝えることがあったら可能な限りで手伝うからさ。何かあったら言ってよ」

 

そう言って、松姉さんはどこまで本気だか分からないような笑みで微笑みかける。もしその時が来たならば、全力でお言葉に甘えさせて貰おうではないか。

 

言質は取ったからな、松姉さん。

 

 

 

 

 

 

 

と、まあそんなこともあり紆余曲折を経て俺は1ヶ月間政宗と共にランニングやら筋トレやらをする事になった。

 

 

それは、小鳥の囀りが聴こえる朝方。

 

 

 

それは、カラスが鳴き始める夕方。

 

 

 

それは、雨の降る室内で。

 

 

と、まあありとあらゆるところで俺達は体を鍛え上げたのだが、詳しくは割愛させて頂こう。1ヶ月間の訓練といっても同じ事の繰り返しであり、そこから特筆して語るべき事は何一つとしてなかったからな。

 

そして、俺自身。この件に少しばかり気を取られてしまって──否、俺は他者の事を考えすぎてしまっていた故か自分自身の事を少しばかり疎かにしてしまっていた。

 

詰まるところ、この時の俺はあまりにも自分自身の事に無関心すぎた。他者の事に全力を注ぐ前に、先ずは俺自身の問題を何とかしなければいけないということに当時の俺はまだ気付いていなかったのさ。

 

 

 

 

 

 

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