ゼロから始まる俺氏の命   作:送検

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第15話 カード

 

 

 

 

 

 時は変わって放課後。皆が部活やら帰宅やらしている中俺達は2人残ってこれからの復讐対策を練っていた。

 

 

「復讐を開始するとは言っても先ずは情報を探らないといけないな」

 

 安達垣愛姫に取り入る為に、先ずは円滑なコミュニケーションを取る切っ掛けを作らなければならない。そしてその為には安達垣愛姫が普段どんなことをしているのかを知らなければならない。故に安達垣愛姫に関する情報は非常に大切なものであると同時に今の俺達に最も欠如しているものであった。

 

「確かにそうだな。先ずはこの高校にいる『安達垣愛姫』の実態を調査しないといけないし」

 

「それだけじゃない。安達垣と会話するチャンスがあるのなら積極的に話しかけろ。人間はコミュニケーションが重要ってのは中学でも痛い程思い知ったろ?」

 

「幸村は中学でも自称ぼっちだったけどね」

 

 うっせーよ。

 

「...よし!じゃあ明日は安達垣愛姫が普段何をしているかを探ろう!俺は安達垣が何をしているのかを探ってくるから幸村は他の人の声を聞いて見てくれ!」

 

「了解」

 

 明日はひたすら調査。そう話がまとまった俺達は明日に向けて早々に帰宅をするのであった。

 

 

 

 

 ※

 

 

 

 

 MISSION1

 

 聞き取り調査

 

 

 

 

 

「え...?安達垣さんの生態について調べる?」

 

 そう言った朱里くんの目は正に疑惑といった目線だった。

 

「そうそう、安達垣が普段何処にいるかとか、どんな事をしているかとか。趣味嗜好も聞けたら嬉しいな」

 

 俺がそう尋ねると、朱里くんはまるでこれから危ないクスリをやろうとしている人物を止めるかの如く俺の手を掴んだ。

 

「やめた方がいいよ上田くん!絶対ひどい目にあうから!」

 

「大丈夫だよ、酷いこと言われるのには慣れてるから」

 

 特にぼっちとか。

 

 特に変態紳士とか。

 

 全部自業自得だけど結構ひどいこと言われてたからそれなりにメンタル耐性は付いているんだ。

 

「うう...知らないよ?」

 

「どんとこい」

 

 俺がそう言うと朱里くんは観念したのか、自分が知りうるであろう情報を教えてくれた。

 

 どうやら、朱里くんが言うには。

 

 残虐姫として、数々の男を容赦なく振ったり。女子達からはそんなはっきりしている所を好まれたり、男子からも女子からも好感を持たれている人物であるなど様々な情報を得たのだが、どうにも1つ気がかりな情報を朱里くんから得た。

 

 弁当は一人で食べるのが好きらしい。

 

 普段ハーレム状態で食事やらティータイムを囲っているのに弁当だけ一人で食べるのを『はいそうですか』と簡単に理解するのには些か無理があるのではないのか?

 

 ...以前に1度出会った時に安達垣愛姫がお腹を盛大に鳴らしていたのは俺自身、記憶に残っていることなのだがそれとこれとは関係があるのだろうか。

 

 ハーレム状態の安達垣愛姫がぼっち飯を囲う理由───

 

 

 政宗に話してみるべきだな。

 

 

 ついでに双葉さんにも聞いてみたのだが、小十郎きゅんの相手は政宗くんがいいとか幸村くんと政宗くんと小十郎きゅんの三角関係!?とか抜かしてやがった。

 

 

 世のため人のため朱里くんの為残虐姫より先ずはコイツを何とかするべきなのではなかろうか。

 

 

 

 ※

 

 

 

 MISSION2

 

 安達垣愛姫を探せ

 

 

 

 

 

 

 

「基本情報は小十郎から聞いた通りだけど、結構取り巻きは多いんだよな」

 

 3時間目の休み時間。俺達は机に向かい合い、お互いに聞いた事、見たことを報告し合っていた。

 

 その中で俺が見たこと───安達垣の周りには取り巻きが多いということを報告すると、幸村はこちらを見てニコリと笑う。

 

「ああ、だけど1つばかり気になった事があるんだ」

 

 気になった事?そう思った俺が首を傾げると、幸村はメモ帳を片手に説明を始めた。

 

「朱里くんによると弁当は一人で食べるのが好きなんだとよ。それこそ、お前の言ったように取り巻きを何時も侍らせているのにも関わらずだ。これっておかしくないか?」

 

「確かに...」

 

 安達垣愛姫は余っ程嫌わない人物であれば愛想はいい。育ちも良いし、『残虐姫』という人気も相まって女子からの人気は異様な程に高い。それ故に取り巻きも多いのだ。

 

 それなのに、弁当だけはぼっち飯?おかしいにも程があるだろう。

 

「この謎を解明するには何とか安達垣の居場所を炙り出さないといけないわけだが、俺に策がある」

 

「策?」

 

 俺がそう尋ねると、幸村は続ける。

 

「安達垣に何時もくっついているナイスバディな女の子がいるはずだ。小十郎によるとあの子は何時も安達垣の傍にいるらしい」

 

 ナイスバディって...言い方を考えろよ。確かに言っていること自体は間違ってないけどさ...

 

「んで、幸村のやりたい事ってのは昼休みにその子の後を付いていけと?」

 

「やってみる価値はあるだろう?」

 

 ううむ...確かにバレてしまった時のリスクが非常に大きいが成功した時のメリットは大きい。何せ安達垣愛姫の秘密を握れる可能性があるのだ。やってみる価値はあるかもしれない。

 

 何より、親友が提案してくれた作戦だ。乗らないわけにはいかないだろう?

 

「...よし!じゃあやってみるか!」

 

「じゃあ昼休みに安達垣とその子のいるA組近くの廊下で待ち伏せするぞ」

 

「おう!!」

 

 残虐姫!!お前の秘密を何としてでも炙り出してやるぜ!!

 

 

 

 ※

 

 

 昼休み───

 

 俺と幸村は誰にもバレないように、それとなく階段前の廊下で雑談という名の待ち伏せを行っていた。

 

 それは、今日の天気。

 

 それは、今日の占い。

 

 その他諸々野郎とやって何が嬉しいんだと思うような会話を俺達はお互いに張り付いた笑顔で行っていた。

 

 偶に、俺達を見た女子達が黄色い声援を送るが今はそれもあまり嬉しいものではなかった。

 

「おい、幸村」

 

 俺が張り付いた笑顔のままそう言うと幸村は俺と同じ、張り付いた笑顔で返す。

 

「なんだい、ムネリン」

 

「安達垣さんと例の女の子。来ないじゃないか。...ムネリンってなんだよ気持ち悪い」

 

「石の上にも三年、だぞ。もう少し待とうぜ?...因みにムネリンってのは」

 

「説明せんでいい!!」

 

 それはきっと聞くだけ無駄な事にしかならないし、これからも呼んで欲しくないあだ名である。

 

 呆れた俺は張り付いた笑顔を解き、ため息を吐く。

 

「つってもまだ昼は始まったばかりなんだぜ?しかも俺達は昼が始まってからすぐにこの階段前廊下の一角で待ち伏せしてるんだ。待ってりゃいつか来るさ」

 

「だといいんだがな...」

 

「だからもう少し待てよムネリン」

 

「ムネリン言うな!気色悪い!!」

 

 何処をどう考えたらムネリンなんて渾名出てくるんだ!!これ以上俺に余計な渾名を付けないでくれ!!

 

 そう思い、幸村を一頻り睨むも幸村は全く意に返さないように、壁から離れ俺の肩に手を乗せる。

 

「さ、もうそろそろ俺達も動かないとな」

 

 そう言うと、幸村は俺の後ろを指さす。その方向を見ると、そこには安達垣愛姫に命令されて、走り出した取り巻きの姿が。

 

「さあ、ストーカーやろうぜ!」

 

「お、おい!言葉に気をつけろよ!!」

 

 まあ、実際やっているのはストーカーなんだけどね...

 

 内心、自分のやっていることに罪悪感を覚えつつ取り巻きの女の子の後を暫く付いていくと、そこにはちょっとした人だかりが。

 

「購買か」

 

 何気なくそう呟くと、取り巻きの女の子は屈強な男子達の間を何とかすり抜けて、大きなレジ袋を1つ持って階段を降りる。

 

「幸村、俺達も続こう」

 

「了解」

 

 俺達は一言、そう交わすと取り巻きの後をひたすら追う。校内から出て辺りを見渡し、その子を発見して、また後を追う。

 

 そうした行為を繰り返していると、不意に幸村が呟く。

 

「...体育倉庫でぼっち飯?」

 

「え?」

 

 その呟きに思わず素っ頓狂な声を上げると、幸村は静かに頷く。

 

「あの子の向かう先には体育倉庫しかない。まさか木に登りながらメシ食ったりはしないだろ?猿でもあるまいし」

 

 安達垣モンキー。1度想像してしまったが、幾ら復讐対象でも流石に失礼に当たるためにすぐに記憶から抹消した。

 

 暫く走っていると体育倉庫に人が入る光景が見えた。勿論、入ったのは先程の女の子だ。

 

「...どうする?」

 

 隣にいる幸村は俺を見て尋ねる。

 

 俺は見つかってしまった時のリスクと、その一部始終を見れるかもしれないリターンを天秤にかけて慎重に思案する。

 

 

 

 その結果、好奇心の方が勝った。

 

「...よし、覗いてみよう!」

 

「分かった。じゃあ行くか」

 

 そう言うと俺達は体育倉庫に向かって歩き出した。

 

「もし着替えてたりしたらどうする?」

 

「お前1回地獄に落ちろよ」

 

 

 空気の読めない発言をした幸村に久々に殺意を覚えた俺はきっと悪くは無い筈だ。

 

 

 閑話休題(それはともかく)───

 

 

 

 誰にも気付かれないように、体育倉庫の中を見ると、そこには2人の女の子がいた。

 

「もう、遅いわよ吉乃ッ!!待ちくたびれたじゃない!!」

 

「ゴメンなさい...カツサンド2個しかなかったから...」

 

「それなら何か適当に買ってくればいいでしょう!!」

 

 ビンゴ!!俺は思わず両手でガッツポーズをした。そこには予想通り、安達垣愛姫と取り巻きの女の子がいた!

 

 ...にしても安達垣の横に積んであるあのデカい箱はなんだ?

 

 

 

 

 そう思い、目を凝らしてみると───

 

 

 

 

 

 

「...あ、蜘蛛だ。懐かしいなぁ」

 

 そこには蜘蛛がいた。

 

「流石政宗。例の訓練が効いたのかな?」

 

「あれを思い出させるのはマジでやめて?」

 

 お陰で蜘蛛には慣れたけどね!体を鍛えているだけだったらきっと克服できなかった筈だ。

 

「懐かしいなぁ、これも努力の結晶だよねぇ」

 

「蜘蛛を克服できてなかったら今頃どうなっていたか、本当に分からないよね」

 

 ...ていうか普通に会話してるけど俺達大丈夫なのか!?

 

 そう思いハッと体育倉庫を見ると。

 

 

 そこには、まるでゴミを見るかのような2人の女の子の視線が俺達を捉えていた。

 

 

 いや、マジでこれどーすんの?

 

 

 

 

 

 ※

 

 

 

 いやあ、まさかまさかの大波乱だ。突然の蜘蛛登場により、懐かしい思い出に関して2人で語り合っていたら俺と政宗は当初の目標であった対象安達垣とその取り巻きちゃんに見事に見つかってしまった。

 

 本来なら、ここで変態とみなされてアウトなはずだが今回は少しばかり弁解の余地がある。俺達は観念して体育倉庫に入り、弁解という名の言い訳を展開していく。

 

「いやあ、ごめんごめん。悪気はなかったんだ。小岩井さんが人気のない体育倉庫に向かってたもんだから少しばかり気になってな。なあ政宗!」

 

「そうなんだ!盗み見るつもりは無かったんだ!小岩井さんが少し気になってね!なあ幸村!」

 

 あくまで俺達は爽やかな笑顔で言い訳をする。そうすることで少しでも彼女達の印象を変えるために。

 

 しかし、依然として安達垣の表情は重い。

 

「...まさか私がいるなんて思わなかったって?」

 

「おう」

 

「そうなんだ」

 

 俺と政宗は2人して変わらぬ笑顔でそう答える。

 

 大体いつもハーレム状態のお嬢様が体育倉庫でガテン系御用達のドカ弁片手にぼっち飯囲っているなんて誰が想像出来るってんだよ。

 

「そこ、邪魔だから出てって貰えないかしら。」

 

「いや、気にしなくていいよ。少し大きめの弁当ひとつくらい運動部の女子も食べてる子いるだろうし、うちの妹も結構食べるし隠れる必要ないんじゃないかな?」

 

 いや、政宗さん!?貴方今の立場理解してます!?

 こういう時はそれとなく会話をして、場を和ますのが1番だろうが!

 

「...やっぱり高校生は育ち盛りだからね!お腹も空くよね!気にしないでカツサンド食えよ!」

 

 俺が右手でサムズアップをしながらそう言うと、やはり安達垣はお腹を盛大に鳴らす。

 

「あの、カツサンド...」

 

「後でいいっ!」

 

 小岩井さんがカツサンドを手渡そうと安達垣に迫るも、安達垣はそれを拒否して俺を睨み付ける。

 

 あ、やっべー。地雷踏んだわ。

 

 てか、初めて安達垣と出会った時も俺地雷踏んだよね。

 

 悉く地雷をふむ男上田幸村。

 

 うん、クソだっせえ。

 

 俺が過去の自分を心底恨んでいると、突如として安達垣が赤面して叫ぶ。

 

「し、仕方ないでしょう!?皆と同じ位で食べてたら直ぐにお腹空くんだもの!!元々低血糖気味だし!こまめに糖分補給しなきゃだし...!本気で寄生虫でもいるのかって検査もしてみたけど異常なしだし...とにかくお腹が鳴るのだけは避けなきゃならないのよっ!普通の女の子はお腹なんて減らないものでしょう!?

 それとも何?貴方達はこの私の腹がビッグ・ベンのようになって欲しいの?そういう趣味なの!?」

 

「いやな、別にお腹が鳴るのは一般人にとって当たり前のことでだな...」

 

「うるさいッ!むっちん王子(プリンス)の1件の時もそうだったけどあんたは毎度毎度一言多いのよ!何が気にしないでカツサンドを食べろよ!!人の目を気にしないで食べれたら吉乃が持ってるカツサンド2個なんてあっという間に私の胃袋に消えてるわよッ!!」

 

 それは確かにそうかもしれないが...昔のお前は俺の前でも遠慮なしにご飯を食べてたじゃないか。それとも安達垣にとってあの時の出来事は既に抹消されている思い出なのだろうか。

 

 1度、場は静まり内心時が過ぎるのはあっという間だな、なんて至極当たり前の事を考えていると政宗がこの静まった空気を何とかするために安達垣に話しかける。

 

「あの...そうだ、ちょっと用事を思い出したから、そろそろ行くね」

 

 そう言って政宗は俺に帰るように促す。それを理解した俺が頷き、既に退出しようとしている政宗の後を追うと突如、箸で何かを刺す音が聞こえた。

 

「...あんた達、名前は?」

 

 後ろから聞こえたその恐ろしい声に、俺達は思わず身を竦め、振り向く。

 

「...真壁」

 

「...上田」

 

 俺達が揃って自身の名前を口にすると、安達垣は俺を見て一瞬何かに気付いたかのような素振りを見せるものの、直ぐにその顔を元に戻して、一言。

 

「バラしたら、承知しないから」

 

 そう言って、一頻り睨む姿を俺達は最後に見て、女王の王室『体育倉庫』を退出した。

 

 今回、真壁は安達垣が体育倉庫でぼっち飯を囲っているという秘密を得ることが出来た。これは非常に大きな収穫であり、復讐の為の強力なカードだ。この切り札を生かすも殺すも、俺たち次第であり、俺達はこのカードを有効利用する作戦を考えなければならなかった。

 

 

 

 

 

 ...ここまで滑稽で、変なカードだとは思わなかったけどな。

 

 

 最も、それは政宗もおそらく思っていることだろうが。

 

 

 




「蜘蛛を克服したいのなら蜘蛛を知るべきだ。というわけで蜘蛛を沢山用意しました。これから政宗くんはこの蜘蛛に1匹ずつワンタッチしてもらいます」

「は?ちょ、その大量の蜘蛛はなんだよ!」

「大丈夫!この蜘蛛は安全だから!」

「そういう問題じゃねえよ...って寄せるな近寄るな!!やめろぉぉぉぉぉぉ!!」

その日の夜は、政宗くんの悲鳴が一日中聞こえましたとさ。

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