ゼロから始まる俺氏の命   作:送検

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第16話 恋愛脳

 

 

 

 

安達垣愛姫が体育倉庫でぼっち飯を囲っていたという秘密を得ることが出来たその日の放課後。俺達は学校近くのコンビニまでの道程を並んで歩いていた。

 

「とりあえず安達垣の秘密を握る事が出来たのは収穫だよな」

 

「ここまで変なカードだとは思わなかったけどな...それでも有効利用する事が出来るカードだ。ナイス作戦だったぜ幸村」

 

「ははっ、あんなの只のストーカーじゃん。褒められるものではないだろ」

 

誰でも出来る簡単な方法だし、敢えて褒めるのならば、やり方によっては名声や、立場が地に落ちる行為を勇気を振り絞って実行した政宗が褒められるべきであろう。

結局のところ、俺は作戦を提示してそれを実行する政宗に付いていっただけだから大して褒められることはしていないのだ。

 

それでも政宗は俺に笑いかける。

 

「謙遜はよせよ、幸村がいてくれなきゃきっとあそこまでスムーズに安達垣を見つけられなかったろうぜ」

 

「...まあ、お前がそう思っているのなら素直に受け取って置くべきかな」

 

「お、照れたな?」

 

そう言って嫌らしい笑みを浮かべてくる政宗に俺は殺意増し増しの目で笑いかける。

 

「処すぞお前」

 

「じょ、冗談だって...」

 

そう言って苦笑いした後、政宗は真面目な顔になり、俺を見つめる。

 

「さて幸村。今回の作戦は成功して収穫もあった。だけど、問題はここからだ」

 

「そのカードを何時、何処で、どういう状況で使うかって理由か」

 

「そゆこと」

 

「...今日の事件でお前は安達垣愛姫に認知されたわけだしここはある程度アバウトにいってもいいと思うけどな」

 

今の状況で、具体的な案を出すということ自体に無理があるからな。ここはもう一押し、もう一歩安達垣愛姫に認知されてみるべきなのではないか。

 

「...つまり、安達垣愛姫にもう少し近付いてみろと」

 

「まあ、そういう事。今は安達垣との関わりが浅い状態だし、敢えて1歩踏み込んでみることで安達垣の気持ち、内面をもう少し探ってみる...ってのはどうだ?」

 

俺がそう尋ねると、政宗は1度悩んだ末に俺を真っ直ぐ見つめる。

 

「そうだな。ここはもう一度安達垣に接してより関係を深めるべきだな。...明日から、積極的に仕掛けるぞ」

 

「おう、積極果敢に攻めてやれ」

 

今のままでは、安達垣の気がこちらに向かうことは無い。精々『自身の秘密を知った男子高校生』としか思われていないはずだ。

何か、安達垣にとって政宗の評価が変わるトリガーとなるものがあれば。

 

そう思いつつ、俺はこの日から果敢に安達垣に接触する政宗を陰ながら見守っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後────

 

 

「最近、安達垣さんと仲良いんだって?」

 

そう言って朱里くんがトスしたバレーボールが高く舞い、放物線を描き政宗の元へ落ちていく。

 

「...どこ情報よ、それ」

 

そう言って、政宗は朱里くんのトスを俺に渡す。それを俺はスマッシュなんぞするはずもなく適当に、無難に朱里くんの元へ返す。そのボールを1度キャッチした朱里くんが政宗の方を見て笑いかける。

 

「女子達が騒いでいるよ。今度こそ安達垣さんが落ちるんじゃないかって」

 

「別に、そんなことないんだけどなぁ」

 

...仲がよろしい、ねえ?

 

図書館で本を取ってあげようとしたら無視されて?

 

下駄箱にはラブレターならぬデスレターがあって?

 

渡した紅茶は飲むわけでもなく捨てられて?

 

これで仲がよろしいとか女子の恋愛脳って一体どんな脳の構造をしているのやら。

 

向こうでボールを待っている政宗を見ると、政宗は苦笑いで朱里くんの話を聞いていた。

 

「あっ、ごめん政宗くん!」

 

ふと、そんな声が朱里くんの元から聞こえて、そちらを振り向くとボールは政宗の頭上を天高く舞い上がり、校舎側の方へ向かってしまった。

 

「俺、拾ってくるよ」

 

そう言ってボールを追いかける政宗を見て、俺は少し物思いに耽っていた。

 

あれから政宗は『任せてくれ』と言って積極果敢に安達垣に近付いてはいるもののその尽くを王女安達垣の鉄壁の守りによって弾き返されている。

何か別の案を提示した方が良いのだろうが、無学な俺ではこれ以上の作戦を提示することは出来なかった。

 

「くっそ...何か無いかな」

 

久し振りに藤ノ宮か母さん、若しくは松姉さんに電話して策でも授けてもらおうかと思いつつ政宗に近づこうとすると。

 

前にいた男が、バレーボールを振りかぶって政宗に投げようとしていた。

 

これは、止めなければならないな。

 

「おい」

 

俺は珍しく、怒気を孕んだ声でバレーボールを振りかぶっている男の肩を掴む。

 

そう言うと、そこの男──タナベくんだったか──は、肩を跳ねあげてこちらを恐る恐る見る。

 

「な、何だよ上田くん」

 

「バレーボールは投げるもんじゃねえだろ。お前さんが何をしようとしてたかは聞かないでやるから今日のところはさっさとそのボール片付けて帰れ」

 

俺が若干威圧をかけてそう言うと、タナベくんはこちらと政宗を軽く睨み付けて去っていった。

 

「...幸村?どうしたんだそんな怖い顔して」

 

突如、政宗の声が聞こえた俺はタナベくんにかけていた威圧を解除して政宗に笑顔で返す。

 

「いや、政宗を狙おうとしてた不届き者がいたからな」

 

「え、それマジで?」

 

政宗は驚愕といった目付きでそう言う。それもそうだろう。全く関わりを持っていない男の子に狙われていたらそれは驚く。

 

但し、全く関係ないといえば嘘になる。

 

「朱里くんは『お前さんと安達垣の仲が良さそう』と言ってたな」

 

「...ああ、確かにそう言っていたな。だけどそれが一体この状況とどう関わりがあるってんだい?」

 

「少なくともお前達の痴話喧嘩を見ている第三者はお前達が中睦まじそうにしていると思っている。だからこそ、今まで振られた奴らの中でお前や安達垣を恨む奴も少なからずいる訳だ。

『何故、真壁なんだ。何で...』ってな」

 

まあ、傍から見たら一発で分かるもんなんだけどな。だって政宗イケメンだし。今の状況に行き着くまでしっかり努力したしな。

タナベくんには悪いかもしれないが、告白を手紙で済ませようとした手前と復讐の為とは言えどもひたすら安達垣を惚れさせようと努力し、今も行動している政宗を比べて欲しくはないし、逆恨みもして欲しくはなかった。

 

...というか、タナベくんがここまで傷ついているのも結局は安達垣さんが告白してくる相手全員を悉く葬り去っているからなんだけどね。そういった面ではタナベくんも被害者だ。

 

ただ、それで政宗を逆恨みするのは別だ。この先も俺はタナベくんが俺の親友にボールをぶつけようとしたことは忘れないし、許すことは無い。

 

「成程...恋愛脳は女だけの専売特許じゃないって事か」

 

「つまりはそういうこった」

 

すると、政宗はタナベくんの歩いていた場所を見つつ一言──

 

「この状況を打破する策を思い付いた」

 

そう言って俺にその策を静かに語った。

 

 

 

 

 

 

 

 

政宗が言うには、タナベくんが今日の放課後。安達垣を襲う可能性があるということで俺は放課後に学校の中。政宗は校外に別れて安達垣達を探していたのだが───

 

「いない、か」

 

学校内には安達垣達はもういなくて、教室なども調べてみたがどうにも安達垣達がいる気配はない。

 

俺が政宗に学校内にはいないという旨をメールで告げると、直ぐに政宗からメールが届く。

 

『幸村、学校外のパン屋に来てくれ』

 

そう一言だけ返信が来た。

 

「ったく...徒労もいいとこだろ」

 

そう独りごちて、既に1階にいた俺は廊下を歩き、校舎前の下駄箱で上履きから靴に履き替え、外に出ようとすると、そこにはあの安達垣の付き人である小岩井さんが歩いてきた。

 

「お、小岩井さんじゃん。どしたの?」

 

すると、小岩井さんは俺をおどおどした様子で見る。

 

「えと、愛姫様の忘れ物を取りに」

 

「あらら...」

 

忘れ物位自分で取ってこようとは思えないのだろうかあの残虐姫は。

 

...それにしても、この女の子何処かで見たような気がするのだが、中々思い出せない。茶髪の髪におっとり系のナイスバディちゃん。会ったことはあるのだろうけど、やはり思い出せない。

 

「なあ、キミと俺って何処かで出会ったことあるか?」

 

俺が何気なくそう呟くと、小岩井さんはこちらをいつもの表情で首を横に振る。

 

「そっか、じゃあ俺の思い違いなのかもね」

 

他人の空似という可能性もある。兎に角今は政宗の後を追わなければ、そう思い歩き出してふと気付く。

 

小岩井さんは、忘れ物を取りにここへ来た。

 

つまり、今安達垣は小岩井さんの帰りを待っているわけであって。

 

もし、政宗の予想が外れなければ安達垣は相当危険な状況に陥る筈だ。

 

「...不味いかもな」

 

俺は政宗にでひとつメッセージを送って、できる限りの速さで目的地へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「遅いなぁ、幸村の奴」

 

俺は今、橋の近くのパン屋で幸村をひたすら待っていた。

先程の体育の時間に、俺を狙ったらしいタナベくん。その事実と幸村の話を聞いて、俺はひとつの仮定を立てた。

 

もし、タナベくんが俺と『安達垣愛姫』、どちらも恨んでいたのなら。

 

俺には逆恨みでボールを当てようとした。なら、ひどいあだ名を付けて振った安達垣愛姫には更に酷いことをする筈だ。

 

そして、俺がそれを止めて安達垣愛姫が俺を無碍に出来ないようにさせる。その為に幸村と二手に別れて安達垣愛姫を探していたのだが。

 

「安達垣さん、見つからないなぁ」

 

確か、途中まで取り巻きと共にティータイムをしていた筈なのだが途中で目を離してしまった隙にどこかへ行ってしまったのだ。

 

その為に、学校内を探してもらっていた幸村と合流した後に更に手分けして探そうとしたのだが肝心の幸村が来ない。それならば端っから幸村と共に外を探していれば良かったのだが...

 

そう思っていると、ふとスマホが振動する。そろそろ来るのかと思い、スマホを見るとそこには驚きの事実が表示されていた。

 

『小岩井さん、今学校。安達垣、1人だ、直ぐに見つけて助けろ!』

 

「はぁ!?1人!?」

 

それは予想外だ。安達垣愛姫が1人でどこかをうろついている。それはつまり剣と盾を持たない戦士と同じ。もし、このタイミングでタナベくんなんかと鉢合わせたらとんでもないことになるぞ!?

 

「...やるしかない!!」

 

俺は、安達垣愛姫に復讐するためにこの高校に来たんだ。

 

それなのに、タナベくんに先を越されてたまるか!!安達垣愛姫に復讐するのは俺なんだよ!!

 

俺は、タナベくんの好きなようにはさせない。その一心でそこら中を探しまくった。

 

そして、川が流れている橋の場所まで行くと、2人の影が見えた。その姿は、見た目華奢だが、どことなく力強いオーラを持った女と、怒気を孕んだ歩行でひとつの影に向かう男だった。

 

「見つけたッ!!」

 

その男との距離は20歩程。俺は自分の持てる力を振り絞り、全速力で走った。

 

 

タナベくんが安達垣の長い髪を掴んだ。

 

ああ、確かに髪を掴みたくもなる!目の前の女は自身に醜いあだ名を付けた張本人だもんな!!

 

タナベくんは更にハサミを使って安達垣の髪を切ろうとする。

 

そうだな、確かに切りたくもなるよな!!何せ安達垣のせいで今日までずっと笑いものだ!!一矢報いたい気持ちも分かる!!

 

 

だけど───!!

 

 

安達垣愛姫に初めて泥をつけるのは俺なんだよッ!!

 

 

 

 

 

気づけば俺は安達垣さんとタナベくんの間に入り、自分の手なんて気にせずにタナベくんの持っていたハサミを右手で握っていた。

 

タナベくんは驚愕、といった目付きで俺を見つめる。それもその筈、髪を切ろうとしたら切ったのは野郎の手だ。しかも血だって出ている。これを驚かないで何を驚けというのだろうか。

 

「...いつかさ、こういう目に遭うって思ったんだよ。安達垣さんおっかないから」

 

俺がそう言うと、タナベくんはようやく現状を理解したのか、ハサミを持ったままそのまま逃げてしまった。

 

「...怪我はない?安達垣さん」

 

「あ、あなたの方こそ...」

 

ここだ。俺は泣き叫びたい気持ちを何とか抑えて最後にキメる為に安達垣さんの方を向いて一言。

 

「お安いもんだよ、キミの無事に比べたら」

 

よし、決まった。よく頑張ったよ俺。これで安達垣愛姫は俺を無碍には出来ないはずだ。

 

と、いうわけでそろそろ泣き叫んでもいいかな?

 

俺は顔を紅くし始めた安達垣さんを見て、そんな事を考えていた。

 

「政宗!安達垣!」

 

その声のする方を振り向くと、そこにはマイベストフレンドの上田幸村が包帯らしき物を持ってこちらへ向かっていた。

 

「お前...やっぱり血が出てるな。大丈夫か?」

 

そう言って幸村は俺の左手に包帯を手渡す。

 

「サンキュ、幸村」

 

これで応急処置程度は出来る筈だ。そう思い幸村の方を見るとその顔は怒りを滲ませていた。

 

「...アイツ、人の手を傷つけたのかよ。悪いな政宗、見つけるのが遅れちまって」

 

「良いよ別に、幸村が悪いわけじゃないんだからさ。それと、タナベくんの事だけど...」

 

「分かってる、明日にはいつも通りだろ?...政宗は優しいからな」

 

そう言うと、幸村は呆れたように笑みを見せて今度は安達垣の方を見る。

 

「よ、大丈夫か?安達垣」

 

幸村が以前の行動とは打って変わってフランクに安達垣に話しかける。すると、安達垣はやはり何かを考えるような仕草を見せる。

 

「...あなた、やっぱり何処かで見たような」

 

安達垣がそう言うと、幸村は安達垣を見たまま懐疑的な目線を浮かべる。

 

「...じゃあ何?お前さんはやっぱり忘れてたのか...覚えてない?大阪のパーティで出会った上田さん」

 

「...上田?」

 

「信州の、な」

 

幸村が呆れたようにそう言うと安達垣は何かを思い出したかのように幸村を見る。

 

「あの時の、信州の、変態紳士の上田...?」

 

「うわ、その渾名懐かしいっすね...」

 

すると幸村はこちらを見て肩を竦めた後、安達垣に近付いて一言───

 

「衆人監視でお腹を盛大に鳴らしてた時のキミは非常に可愛かった...今は全然可愛くないけどね!」

 

「...死ねッ!!」

 

 

瞬間、赤面した安達垣の綺麗なハイキックが幸村の顎を捉えた。

 

その時の安達垣の表情は、まるで容赦のない。されど心のどこかで幸村と出会ったことを楽しんでいるかのような、そんな表情をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの後の事を少しだけ話そう。

 

俺、上田幸村の正体を思い出した安達垣愛姫の態度が以前と変わるような事はなく、寧ろ遠慮無しの一言を容易く言うようになった。

 

因みに『変態紳士』の渾名については俺が持ち合わせている安達垣愛姫ドカ食いの秘密をバラさないという約束を守ること前提に安達垣愛姫に変態紳士と呼ばない約束を取り付けた。まあ、所謂取引というやつだ。政宗は俺が『変態紳士』の渾名を付けられていたことに驚きはしたものの、後に俺が変態紳士と呼ばれていたことに納得していた。おい、納得するなよ親友。

 

さて、政宗の手を傷つけ、安達垣の髪の毛を切ろうとしたタナベくんは校舎で政宗と俺と鉢合わせになり気まずい雰囲気が流れるかと思ったが、政宗が機転を利かせたことにより関係は修復。俺にもしっかり謝ってくれたので、許さないとは言っていたがこれまでの経緯と誠意を加味して不問とすることにした。俺も本当にチョロいよね。

 

 

そうして全ての不安事項を失くした俺達は今日も元気に朱里くんと校舎で挨拶を交わし、政宗くんの1日が始まる。

 

 

その筈だったのだ。

 

 

「お、おい...幸村」

 

「あ?」

 

上履きに履き替えた俺が政宗の方を向くと政宗はとある封筒を俺に見せてきた。

 

「何だ、ラブレターか?お前もモテるなぁ...」

 

「違うわッ!!文面を見ろ!文面を!!」

 

そう言って紙をヒラヒラさせる政宗を落ち着かせてその紙を見ると、そこには二字の漢字がテキトーに書かれていた。

 

 

『豚足』

 

 

 

さて、これからどーしたものかな。

 

 

 




おや?某師匠の様子が...
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