小岩井吉乃。
安達垣愛姫の従者。見た目はおどおどした小動物のような娘であり、危険性の『き』の字も感じない女の子である───
それが、彼女の外面だけを見ていた時の俺の感想である。
今の彼女は、肝が座っており、双眼はまるで獲物を見定める蛇のよう。見た目は可愛いが油断していたら痛い目を見るであろう危険な娘。
それが、今の小岩井吉乃に対する上田幸村の評価である。
俺は思う。
おどおどしている学校にいる時の彼女が本物なのか。それとも、今の彼女の顔が本物なのか。
若しくは────。
『そのどちらの顔も、小岩井吉乃の本性なのか』
俺は、政宗と小岩井が協力関係を結んでいる傍ら、そんなどうでも良いことを考えていた。
※
さて、まさかの黒幕発覚事件から一夜経った今日の朝。珍しく早めに起きた俺は朝食の玉子焼きを作りながら、寝起きの良い目覚めに気分を踊らせ、柄にもなく鼻歌を歌っていた。
普段は中々早朝には起きられないが、偶にこうして早く起きられる時がある。そんな時、俺は買っておいた玉子やらレタスやらソーセージやらを使って朝食を作り、太陽の陽射しを浴びながら茶を飲む。朝に近くのパン屋で適当なパンを買って食べている俺にとってこの時間は至高であった。
「よし、調理完了だな」
作った玉子焼きを皿に移し替えてレタス、ケチャップをかけたソーセージと皿に並べトースターにかけておいた食パン2つを取り出す。
そして椅子に座り、手を合わせ───
「頂きま───」
俺がそう言ってトーストに齧りつこうとした瞬間、姦しく俺のスマホの着信音が鳴り響いた。
「なんだ...?」
独りでにそう呟き、スマホの画面を見るとそこには『小岩井吉乃』と5文字、そう書いてあった。仕方なく、トーストを皿に。
「なんだ」
朝の安寧というものは容易く壊れてしまうものだ。それは、俺とて例外ではない。
「おはよう、変態」
「モーニングコールには少し遅かったな。それと俺は変態じゃない、紳士だ」
「馬鹿なこと言ってないで、これから私の言うことに耳を傾けて」
オー、理不尽ここに極まれり。
勝手に電話をかけられて、一方的に変態と罵られ、一方的に会話を成立させられる。これが、小岩井クオリティか、怖ーよ。
閑話休題───
「何用だ?」
「今から私の言うことを実行してほしい」
「うん、朝食食べたいから簡潔にねー」
「ほしょうは出来ない」
なら、俺がパンに齧りつける保証もあったもんじゃあないな。勘弁してくれ、折角の明朝が台無しじゃあないか。
「......致し方ない。聞こう」
そう言うと、小岩井は溜息を吐き話し始めた───
☆☆☆☆☆
「......ぅ、ぅぅ」
「う、上田くんどうしたの?」
時は過ぎて舞台は教室。俺は、結局食べることが出来なかったトーストとスクランブルエッグ、その他諸々の朝食達に想いを馳せつつ涙を流していた。
「あー......小十郎、今はそっとしておいてやれ」
「ええ...本当にどうしたのさ」
「幸村は、早めに起きたりした朝なんかは自分で朝食を作って食べたりするんだけどさ。その時間を邪魔されたりするとああいう風に落ち込んだりする。今日の落ち込み方はきっとそうだ。その証拠に......ほら」
「トーストぉ......スクランブルエッグぅ......」
「な?」
「あはは......」
さっきから政宗が俺についてのことを話しているけど、俺にプライバシーってのはないのか?
ああ、随分前の大阪のパーティで安達垣に苗字がバレてる時点で俺のプライバシーの秘匿度なんてたかが知れているか。
「......ふぅ」
明朝。
俺は安寧の一時を確かに小岩井吉乃という悪魔に奪われてしまったわけなのだが、何もその話の全てが無駄というわけではなかった。
それは、俺に授けられたミッション。
政宗と安達垣がとっととデートをしてしまえるように、安達垣に罪悪感という奴を植え付けるというミッションを小岩井に与えられたからだ。
そのやるべき事とやらが明確になった今、俺が第一優先しなければいけないことは安達垣愛姫と話す機会を設けること。そして、罪悪感を植え付けることだ。
会話、どうしようかな。安達垣になんて言えば良いのだろうか。
そこまで考えて、俺は今回のミッションの難易度を知ることになる。
うん、無理ゲーにも程があるだろ。
「......おい、幸村」
ふと気が付くと、目の前には政宗がいてこちらを心配そうな目付きで見ていた。
「大丈夫か?何かあるんだったら遠慮せず言ってくれよ」
遠慮せず、か。ならば言わせてもらおうではないか。
「玉子って腐ると硫黄の匂いがするの?」
「考えてたの絶対それじゃないだろお前」
バレテーラ。
「まあ、気にすんな。大したことじゃあないし、俺のことを心配する以上に今、お前さんにはやらなきゃいけない事がある筈だろ?」
「......大丈夫なんだな?」
「ああ、大丈夫。だからお前も、安達垣とのデートプランをしっかり考えとけ。それが、小岩井との約束だろ?」
「......俺には確かにやらなきゃいけない事がある。安達垣とのデートプランも考えなきゃいけないし、この先の事も考えなきゃいけない」
「うん」
「だけどさ、それ以前に俺と幸村は親友であり、悪友だろ。だから幸村、困ったことが起きたら一緒に考えよう。それは小岩井吉乃が協力関係になっても変わりゃしないだろ?」
......本当に政宗。お前さんって人間は。
少しだけ、お前のその異常なほどの成長具合に嫉妬しちゃうぜ。
「......ああ、そうだったな。スマン政宗」
また、1人になってしまうところだった。
ひたすら我が道を突っ走ろうとして、親友を置いていこうとしていた。今からやることくらい説明したって罰は当たらないだろうし、俺としては何ら問題もない。
俺にとってはこれからの方針を1人で考え、悩むよりも目の前の親友との関係性を構築しつつも話し合うことによって方針を決めた方が有意義なんだからな。
「今日は、少しだけ動こうと思っているんだ」
「動くって......まさか安達垣に接触するってことか?」
「まあ、そういうことになるが出来るだけ自然に接触したいんだ。ほら、俺って大事なところでトチったりするから」
無論、本音だ。政宗も大概トチったりするが、俺はその上を行く。簡単な問題でコケたり、バナナの皮でコケたり、兎に角トチリやすい。
安達垣との会話でだって、今でこそミスはないが何れボロが出そうで怖い。故に、場所の選択と、会話の事前準備くらいはしとかないと俺の胃が痛くなる。
「そっか.....幸村」
「なんだ?」
俺がそう言って政宗を見上げると、政宗は俺の肩を掴み苦笑いでこちらを見やる。
そして、一言。
「.....後で、俺がよく使ってる胃薬を紹介するよ」
.....
まあ、なんつーか。
「は、はは、ははは」
より一層、攻略が難しく感じた。
そんでもって今日の明朝からの朝食事件から今の瞬間までの運のなさに乾いた笑いが収まらなくなった。
ついでに超過労働で、死にそうだ。
「.....んで、問題はどうやって安達垣と接触するかなんだよな」
「普段俺から話しかけてないのに急に話しかけるなんてことしたら確実に怪しまれるだろ?」
相手はあの安達垣だ。休み時間に『やあ!安達垣さん!』なんて挨拶した日には普段の俺のイメージも相まってもれなく安達垣のゴミを見るような目付きが俺のガラスのハートをぶち壊しにいくだろう。
そして、何より勘ぐられる可能性すら有り得る為、何とかそれだけは阻止したい。
「そういえば幸村、ちょっと前まで安達垣と昼休みに体育倉庫で話したりとかしてたじゃん。あれと同じ感じでなんとかなんないかな」
「バッカお前、あれは安達垣が来なかったら殺すとか脅しをかけられてたから来たようなもんでそもそも今回はお呼ばれもしてないんだぞ?」
俺がそう言うと、政宗は『ノンノン』と指を横に振る。
「あれと同じ感じで───詰まるところ、あれと同じ『動機』があればいいんだろ?だったら俺に任せろ!」
政宗はポケットに忍ばせていた『リベンジ帳』のページを捲りあげる。そして、ページが半分まで行ったところで俺にそのページを見せる。
「これは...?」
「『安達垣愛姫は美化委員に所属している』。そして、美化委員は現在1人欠員が出てる.....これ、使えるんじゃないの?」
「政宗、お前.....良くそこまで調べあげられたな」
「幸村が安達垣愛姫について調べてくれたから、俺にも少し時間が出来たんだ。そしたら色々な情報を知って、これらは役立ってる。それは幸村、お前のおかげで得れた情報だ。だから、幸村はこの情報を傲慢に受け取る権利がある.....この後は、何が言いたいか分かるよな?」
ああ、バッチリ分かってるよ政宗。
「どーせお前のことだから『普段手伝ってくれてる幸村の為になにかしたい!役に立ちたい!』とか思ってたんだろ」
「ええッ!?なしてバレた!?」
「顔に出てた」
「畜生仕事しろよ俺のポーカーフェイスッ!!」
政宗は緩んでいた顔を思いっきり叩き、顔を締め上げるも顔に手跡が付いていて何となく締まらない。
その滑稽さに思わず苦笑いしつつも、俺は政宗の目を見る。
「分かったよ、その情報は傲慢に受け取るよ」
但し。
「情報を傲慢に受け取る以上、俺は安達垣に手加減はしないからな。絶対に次のデートでお前が有利になるように工面して、残虐姫を普通の女の子に仕向けてやる」
「...例えばどんな?」
それはな.....
「安達垣とデートしてからのお楽しみ、だな?」
「うわぁ、幸村さんすげぇドス黒い顔してますよ」
政宗がが苦笑混じりにそう言うと、委員長と男子が言い争う声が聞こえる。その声を聞いた俺達はお互いに右拳を合わせて、俺一人が委員長の所へ向かう。
そして、一言───
「その仕事、俺に任されちゃくれないか?」
政宗がお膳立てしてくれたこの好機、報いるのならただ単にありがとうだけで済ませるんじゃなくて。
倍返し...否、100倍返しでお膳立てしてやろうではないか。
※
放課後───
本来なら、政宗と共にアフタースクールなパーリータイムを楽しみたかったわけなのだが、今回の俺は明朝から小岩井吉乃に命令されていた事をこなさなければならない。
そして、今の今まで対策方法が全くと言っていいほど浮かんでいなかった俺は政宗のお膳立てにより、美化委員の仕事を口実にして安達垣愛姫に話しかけるチャンスを得たわけなのだが───
「...よっ」
「...何で貴方がここに居るのよ」
校内の外で初っ端から睨みつけられる俺って一体なんなんだろうな。手加減しないとか抜かしたけどやっぱり怖いものは怖いです。
しかし、本気と書いてマジとよむ俺に死角はなしだ。やってやろうではないか、師匠のミッションを100%どころか120%でクリアしてやろうではないか。
「俺がここにいちゃいけないか?」
「ええ、全くもって不愉快だわ」
「まあ、そんなことを言うな。俺達は随分昔からお互いの弱みを握っている仲だろうて」
「.....貴方、本当にいい性格してるわね」
汚い?人の弱みに付け込むなんてサイテー?上田気色悪い?そうかそうか、確かにそうかもしれない。
しかし、安達垣の弱みを握っている=俺の弱みを安達垣が握っているということでもあるんだ。これはウィン・ウィンの関係を利用したまでであり、決して俺有利な展開になる訳でもなく、逆を突けば安達垣有利の展開になる可能性もある言葉なのだ。
安達垣の義理堅さを信用した迄である。安心と安全と義理堅さのアッキー。うん、間違っても口走らないようにしよう。
「取り敢えず、俺がここにいる理由ってのは夏まで他の美化委員の代理だ。だから夏までの我慢だ、頑張れアッキー」
「夏まで貴方みたいなシンシ・ヘンタイといると思うと悪寒と脚気と頭痛がするわよ」
「止めろよな、変態紳士を外国人の名前みたいに言うの」
正直恥ずかしいから。ついでに変態紳士と言うのも止めて欲しいんだけど。
「大体、貴方は私のことを舐めてるのよ。仮にも私は女よ?それなのに何の配慮もなしに『お腹空くよね!』とか『アッキー頑張れ』とか本当に最低。だからアンタはいつまで経っても変態紳士なのよ、この変態、ド変態紳士」
「その変態三段用法止めて、俺のライフポイントゼロになっちゃう」
ていうか、安達垣さん俺に対しての辛辣度上がってませんかね?なんか不敵な笑みも返されてるし、この人俺の反応見て楽しんでるの?この人マジでなんなん?
一瞬、俺の短気メーターが振り切るも何とか平静を保ち、言葉を続ける。
「時に安達垣。話したいことがあるのだが...」
「...奇遇ね、私も貴方と話したいことがあったの」
それならば、話は早い。とっとと面倒事は終わらせて政宗へお膳立て返しをしなければ。
そう思い、俺が口を動かそうとすると
「上田くん!?何で上田くんが美化委員の掃除してるの!?」
「え、あ、ああ...」
「愛姫さま、ごきげんよう」
「愛姫さま!!」
「...ごきげんよう、皆」
お互いが取り巻きに捕まって会話どころではなくなってしまった。というか俺に取り巻きなんていたのか、今の今まで気づかなかったぞ俺。ひょっとして都会で良くあるとかいうカツアゲか?
「...まあ、機会はまだまだあるしな」
彼女も話があると言っていた。故に美化委員の仕事が終われば話す機会も設けることが出来る。
俺は、取り巻きなのかカツアゲなのか分からない連中をなんとか撒いて指定された掃除場所へと向かった。
指定されたのは旧校舎の窓拭き。正直なところ旧校舎って残していて何の特があるのかとか、色々言いたいことはあったが、まだまだ何かしらの需要があるかも分からない。そこには突っ込まずに、俺はただただ淡々と教室の窓拭きをしていた。
思い返す。政宗との雑巾がけという名の苦行。毎年お正月になると、真壁の爺さんが『修行じゃ!!』とか言って部屋の掃除と廊下の雑巾がけを指示されていた。あれは、相当太腿に来た思い出がある。
「さて...」
安達垣と違和感なく話しかけられた上に会話の先約まで貰ってしまった。それにしても彼女から話があるというのは驚きだ。もしや、小岩井が何かしらの根回しをしてくれたのかもしれない。
窓を拭きながら、俺は小岩井との電話内容を思い出す。
『とにかく変態は愛姫さまに罪悪感を植え付けて。根回しは私がしておくから、最悪その話に同調するだけでいい』
『お、おう...所で俺っちなして変態と呼ばれているのでしょうか...』
『変態だから』
『即答ゥ───!?』
「...よ、よし。取り敢えずなぜ変態と呼ばれていたかは置いといて、安達垣に罪悪感を植え付けられるようにしないとな」
最悪口裏を合わせたらいいっていうのはどういうことなのだろうか。小岩井が政宗の情報を教えたとして、今の政宗の情報で安達垣がデートしたいと思えるような情報などない。
考える中で妥当なのは、政宗の過去を偽装して『実は女性恐怖症だったとか』、『親の愛を知らない』とかそこら辺で安達垣の同情を誘う作戦だろう。
まあ、小岩井がどういう作戦で来るのかはどうでもいい。基本は口裏を合わせ、予定外なら俺が今の掃除中に必死に考えた罪悪感の植え付け方を工夫して、使えばいい。
そろそろ、安達垣が来る時間だろうしな。
「ちょっと、上田」
俺が窓拭きをしていると、後ろから聞こえる声。その声に振り向くとそこには藤ノ宮でもなければ双葉さんでもなし。安達垣愛姫が黒板前に立ってしていた。
「よ、安達垣。来たか」
「ええ、来てやったわよ。私は兎も角、アンタにまで取り巻きがいるとは思ってなかったけど」
「俺もびっくりしたよ。まさか取り巻きがいるなんてな」
「.....アンタは顔は良い部類に入るからね」
「お世辞か?止めてくれよそんなブラックお世辞」
政宗や、朱里くんの方が余っ程イケメンの部類に入るだろうて。きっと今頃女子は政宗の隣にいる俺を疎ましく思っていることだろう。
「で、聞きたいことってなんだ?」
窓拭きをしながら俺がそう尋ねると、安達垣は語調を緩める事なく続ける。
「真壁の事なんだけど」
「...政宗くんがどうかしたのかね?」
「吉乃から真壁は食事が喉を通らず、授業中にも泣き始めるって話を聞いたのだけれど、それは本当?」
おい、どんな悲惨な過去設定なんだよ師匠。
確かに政宗はそうなってもおかしくないほどの悲劇を体験しているがしっかり乗り越えて元気にすごしているんだぞ。
こちとら政宗の過去を知っている手前言い返したくなったが、冷静に、俺は安達垣の顔は見ずに窓拭きに集中しながら答える。
「...お前は何時も自分にくっついている家令の言うことを信じないのか?」
「別にそこまでは言ってないわよ。だけど...あまりに非現実的じゃない。あの真壁がメルヘン世界の主人公のようだなんて」
そりゃそうだ。リア充街道まっしぐらの真壁政宗が実は食事も喉を通っていませんでしたーだなんて誰が想像できるものか。
「だから確認よ。真壁とつるんでいる貴方なら答えられるでしょう?」
さて、口裏を合わせよう。
「そうだな、アイツのメンタルは確かに弱っているな。それは間違いない」
「...そうなの?」
冷や汗を垂らしそう尋ねるのを窓の反射で見た俺は更に続ける。
「ああ、因みに最近安達垣がきつく当たってくるって泣いてたな。ストレスで胃が痛くなるって言ってた」
嘘半分、本音半分。ハッタリを上手に伝える時は少しでもいいから真実を混ぜる。そうすれば人は高確率で真実と一緒に『ハッタリ』も信じてしまうのだ。
...別に、俺が実際にやられたから詳しいわけじゃないからな?本当だからな?
「う...」
何はともあれ安達垣さん罪悪感で顔を俯かせてやがる。畳み掛けるなら今だな。
「あーあ、政宗がこうなってしまった原因の女の子がこんな時デートでもしてあげたら政宗のメンタルも正常になるだろうになぁ」
俺がそこまで言って、窓拭きを再開すると安達垣はバケツを下に投げつけて指を指す。
「分かったわよッ!!行けばいいんでしょう!?行くわよ!!」
何処の即落ち2コマだよ。
そう突っ込みたくなる程、今回のミッションはあっけなく終わってしまった。こちらとしてはもう少し信憑性を高める必要があると思っていたのだが。
安達垣さん意外とチョロい人?チョロイン?
閑話休題───
「おーおー、楽しんで来いよリア充カップル共。末永く爆発しやがれ」
「喧しいッ!!大体こうなったのはアンタのせいでもあるんだからね!?親友の貴方が真壁の豆腐メンタルを直してたらこんなことにはならなかったのよ!?」
「ういー、不甲斐ない親友で悪かったなぁ」
安達垣の暴言など何処吹く風。俺が片手をひらひらさせて間延びした声でそう言うと安達垣は更に俺を睨みつけて一言。
「覚えてなさいよ...!?」
そう言って、ズカズカと帰っていった────
「あー、待てよ安達垣」
俺が安達垣を呼び止めると、安達垣はこちらを凄まじい程に睨みつける、
「何よ!?」
「デートのこと、師匠に良く教えてもらえ。お前、男とデートしたことないだろうからな。それから───」
これは、俺が純粋に思った事である。
「お前さん、その髪の結び方よりもストレートの方が可愛いぞ。多分、そうしたら政宗は速攻で落ちると思う、てか俺が落ちるかも」
一瞬、空気が凍った。
その直後、安達垣はまるでどこぞの漫画のように、顔から蒸気でも出さんかの勢いで顔を赤くして、狼狽する。
「う...うるさいわよこのド変態紳士ッ!!」
確かに今の発言はド変態だったかもな。今回は否定のしようがない故に両肩を竦めて苦笑いする
「甘んじて受け入れよう」
「この.....!覚えてなさいッ!!」
安達垣はそう叫ぶと、今度こそ猛スピードで教室を出ていった。
「...さて、俺の今回やる事は終わりかな」
小岩井さんの言う通り政宗とのデートをお膳立てしたのだ。後は政宗の裁量次第だろう。
俺は、小岩井さんの電話番号を入力して、小岩井さんに連絡をする。すると、スリーコールで小岩井さんが応答する。
「おはろーさん」
「...その間延びした声でワケわからないあいさつをしないで」
「ははっ、悪い悪い」
「...その様子だと、ミッションは無事に成功したの?」
「バッチリ。食事も喉を通らないなんて物騒な言葉が飛んできた時は一瞬俺の耳を疑ったけどな」
「愛姫さま、意外とああ見えて鈍いところがあるから」
「鈍いのレベルを通り越している気もするのだが」
まあ、俺に対しても最初は何処で出会ったかすらも忘れていたみたいだしな。そりゃ政宗がメルヘンチックな主人公だなんて嘘をつかれてもバレないか。
「...今まで、私は愛姫さまの言うことを破ってきたことはない。だから愛姫さまは私に信頼を置いている。貴方ならわかるでしょう?上田」
「主従関係を手玉にとったんだな」
今までの小岩井の安達垣に対する誠実さがあってこその攻め方だ。こればかりはいくら俺と政宗が知恵を振り絞っても出来ない行動であり、大いに助かる。
「......そういうこと」
小岩井は相も変わらず無機質な声色でそう言うと、電話を切ろうとする。
「ああ、待って待って小岩井。まだ聞きたいことがあるんだよ」
だから、少しだけ時間が欲しいのだ。
「...手短に」
よし、言質は取った。
これから俺の話すことは、俺の大切な友人の身を案じてって名目と────
「じゃあ、少しだけ聞いてもいいかい?
俺の知的好奇心を妙に擽るもの───
「なんでキミは、俺の親友の事を豚足と言うのかな?」
旧校舎から吹く風は、俺の制服を靡かせた。