ゼロから始まる俺氏の命   作:送検

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第20話 再会

あの時、小岩井吉乃が言ったことが馬鹿みたいに勉強してた時のように、俺の知的好奇心を妙に擽った。

 

『豚足』

 

何故、お前は俺の親友のことを豚足と呼ぶんだ。それがひたすらに気になった。

 

仮定なんてその気になれば色々予測がつく。安達垣に教えて貰ったとか、人伝に聞いたのか、はたまた成りすました可能性だって十分にある。

 

けど、どれもこれも所詮俺が短絡的に立てたハリボテの仮定だ。

 

何故、小岩井吉乃が政宗のことを豚足と言うのか。それは本人にしか知り得ないことで、本人にしか真実を言えないことなのだ。

 

だからこそ、俺は知りたかった。

 

だからこそ、俺は聞きたかった。

 

 

 

小岩井吉乃という安達垣家の家令から、その口から発される真実を、知りたかったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「別に...たまたま豚足と呼んでいたのを聞いてただけ」

 

小岩井吉乃は、無機質な声色でそう言い切った。

 

「...そうかい、それならいいんだけどさ。一応1つだけ」

 

俺は窓から見える景色を見ながら、電話に語りかける。

 

「『小岩井さん』。俺は政宗の過去をそれなりに知ってはいる。そして、政宗の過去を知った上で、政宗を手伝うと決意したんだ。」

 

「...それが何?」

 

「だけど、俺はその場にいた当事者じゃあない。だからこそ俺の出来ることなんてのは限られてくるし、最終的なゴールは政宗が決めなければならない」

 

けど、自らのゴール。そして、ゴールまでの道程を決めるのが政宗の役目なら、ゴールまでの道程を共に歩み、全力でフォローするのは俺の役目だ。政宗に出来ないことなら俺が助ける。そして邪魔をするような奴がいるのなら、俺はソイツを徹底して何とかする。

 

信州で修行した時は、2人しか居なかった。だからこそ俺達はそういった協力関係により安達垣愛姫に対抗し、復讐しようと決意した。

 

そして、今はその中に小岩井吉乃という人物が紛れ込んでいる。だからこそ俺はこれを言わなければならない。

 

「もし、キミが政宗を本気で手伝ってくれるのならば俺は政宗と小岩井さんの言うことを全力で遂行するし、フォローもする。だけど、覚えておいてほしい。仮に小岩井さんが政宗を本当の意味で裏切る素振りをみせたというのなら───」

 

 

 

 

俺は。

 

 

 

 

 

 

 

政宗に何と言われようと俺はキミを────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

.....

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「...馬鹿か俺は」

 

 

 

やっぱりこういう堅苦しいこと言うのは俺の趣味でも特技でもないな。というより俺は協力してくれる女の子に何を聞いてるんだよ。折角、協力してくれるんじゃないか。そして何より政宗が小岩井の事を信じてるんだ。親友の信じたものは一緒に信じてやるのが筋ってものだろうに。

 

『...?』

 

これだから俺はポンコツなんだよ。重要な時にヘマもやらかすし、安達垣にも変態紳士とか言われて罵倒される。

よくよく耳を済ませたらさっきから小岩井さん困惑気味に何か言ってますぜ。このような状況に陥ってしまったのは誰の責任なんだ?

 

アンサー。

 

うん、俺のせいや。

 

落ち着け、上田幸村。お前はもう1人じゃないだろ。だからこそ、昔のように『余裕のなく、怒りを孕んだかのような態度、声色』を出しちゃ駄目なんだ。思い出せ、親父が書いた下手くそな字の家訓を。『上田家たるもの紳士たれ』だろ、忘れるな上田幸村。

 

 

閑話休題───

 

 

「ま、何が言いたいのかっていうとさ。あれで結構政宗は信じた奴はとことん信じてくれる奴だから小岩井さんも政宗のこと信じてやってほしい、裏切らないで欲しいって事なんだよ...ま、話を聞く限り心配はなさそうなんだけどね」

 

「なにを言うかと思えば...私は豚足を裏切らない。私が目指すのは豚足の復讐成功だから」

 

そうかい。

 

なら、俺は政宗の信じた小岩井さんを信じることにするよ。

 

信頼関係って大事だもんね(棒)!

 

「んじゃ、長電話悪かった。これからもよろしくなヨッシー」

 

「殺されたいの?」

 

「すいません」

 

俺にあだ名のセンスが皆無なのは俺を含め、周知の事実である。

 

「ならよしのんは───」

 

 

電話は、無言で切れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ふしぎな、時間だった。

 

私は、豚足の友人を何処かで軽視していたのかもしれない。

 

豚足の友人は、名門上田の子息である上田幸村。彼と私が出会ったのは、数年前のパーティであった。

 

あの時、愛姫様の付き添いとして外にいるであろう彼女を呼ぼうとした時に私は彼に出会った。

 

第一印象は、『冷静沈着』という印象であった。茶髪の髪に切れ長の鋭い目つきは鷹のそれを彷彿とさせるものがあり、才媛の呼び声高い上田松華しかりこれが上田家の人間かと当時の私は朧気に思っていた。

 

 

 

『...アイツ、変な奴だったけどやけに大人びてるような...まあ、話してて悪い気はしなかったわね』

 

あの愛姫さまがパーティの後にそこまで言うほどの人間だ。故に、私は驚いた。あの上田幸村が八坂高校に来る。その事実は豚足が苗字を変えて転入してくるということの次に、驚いたことなのかもしれない。

 

しかし、高校生となった彼の目つきは幾らか緩和しており、豚足や朱里小十郎と話している時などは完全に一般人のそれをしており、あの時の印象は完全に崩れた。

愛姫さまも彼のことは全くといっていいほど覚えておらず、ついこの前まで愛姫さまは上田の存在すら忘れていたのだ。故に、私は上田幸村という存在に注意を払っていなかった。

 

そう、正直言って油断していたのだ。私は、上田幸村を舐めていた。

 

トラップを見破った時、私は過度な上田幸村軽視の疑念に駆られ、そしてその疑念は今の電話で確信となった。上田が私に送った言葉の声色には確かな強さが残っており、その声はかつて見た事のある上田幸村を彷彿とさせた。

 

そして、私は本能的に察知した。

 

彼を敵に回すのは不味い。

 

敵に回すつもりなどないし、私は豚足を手伝おうと最初から思っていたとはいえ、そう思わせる何かを上田幸村は持っていた。

 

しかし、逆を突けば上田幸村を上手く使うことが出来れば、豚足の愛姫さま攻略は相当近付かせられる。

彼は優秀───、それは紛うことなき事実なのだから。

 

今回の豚足の件の『答え』を知っているのは私だけ。豚足に、そして上田に気付かれないように、上手く豚足と愛姫さまをくっつけるようにするのが私の役目だ。

 

私、小岩井吉乃は豚足と愛姫さまに対して負い目を抱いている。その負い目を払拭し、いつか本当の意味で豚足たちと嘘偽りなく話せる時が来るのならば───

 

それは、豚足と愛姫さまの周りにまとわりつく柵を吹き飛ばしてからなんだと、今の私は思う。

 

 

 

 

 

そして、変態。

 

 

 

ごめん。

 

 

 

貴方の言いたいことは分かっている。

 

豚足と変態は信じてくれている。だからこそ私も豚足と変態を貴方達と同じ位に信じてあげるのが、裏切らないのが筋ってことも分かっている。

 

『私が目指すのは豚足の復讐成功』

 

現に、あの時変態に言った言葉は嘘じゃない。変態の恐れていることにはならないし、絶対にしない。

 

 

 

だけど.....上田。

 

 

ごめん。

 

 

 

あなたとの約束は既に、約束が約束として成り立つ前に破綻している。

 

 

 

それは何故か。

 

 

 

 

それは、私はもう貴方が豚足に会う前に、豚足を裏切っているんだ。

 

私はもう、取り返しのつかないところまできちゃってるんだ。

 

だから、私は貴方の約束は守ることが出来ない。

 

最初から守るつもりがない訳では無い。

 

私は、守ることが出来ないのだ。

 

 

 

だから、これはせめてもの償いだ。

 

私が貴方達に協力するのは、私の行った愚行の償いなのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

政宗曰く、今日の自分はイケてるらしい。

 

まあ、そりゃ分かる。普段からイケメンの政宗が今日は腕によりをかけて自身を磨いたんだ。恐らく10人中10人が振り向くだろう。振り向かない奴は男に興味のない奴か、男に興味のない奴位しかいないことだろうな。

 

政宗曰く、隣に愛姫がいれば賞賛倍増らしい。まあ、そりゃそうだ。天下御免の美女、安達垣愛姫が隣にいるのだ。イケメンと美女。リア充カップル爆誕って奴だ。リア充爆ぜろ、マジテラワロス。政宗の周りで最近流行っている言葉を使ってみた。

 

まあ、何はともあれそんな砂糖吐きそうな光景を俺はずっと見ていないといけない。政宗曰く、不安だから来てくださいってな。お前さん、昨日まで自信満々だったじゃねえかよ。『安達垣愛姫を惚れさせてみせるぜ!!』って意気揚々と電話を切ったのは、つい昨日の夜のお話だ。

 

政宗と共に電車に揺られる。目的の駅まで後ひとつというところで先程までイケメンのオーラを振りまいていた政宗がこちらを見て、笑みを送る。

 

「見ててくれ、幸村......俺の力を!」

 

「ああ、頑張れよ。それとお前さん、こういう時よく面食らったりするから慌てないようにな」

 

「おう!」

 

政宗は威勢よくそう言うとまたしてもイケメンのオーラを振りまく......否、自分のモテ具合に浸っていた。

 

やがて電車が目的の駅に到着して、多くの人達が電車から降りる中、俺達もその集団に混ざり、改札を通り、構内を出る。

 

「んじゃ、俺はお前の後をテキトーに追っとくから。何かあったらメールくれ」

 

「分かった、んじゃ行ってくるよ!」

 

元気よく、威勢よく、政宗は飛び出していく。ああ、こうやって良い意味で後先考えず飛び出せる男が親友になるなんて、昔の俺からは想像出来なかった。本当に若いって良いですよね。俺なんて現時点じゃ16歳だけど精神年齢はアラフォーのジジイですからね。

 

「今じゃ、スマホの機械も新しいものに変わっちまって...時代って怖いよな」

 

ガラケーをポチポチしてた前世とは比較にならないくらい現世も発達した。スマホは、見たことのない程軽くなったり、性能変わったり、その他スマホ意外でも様々な文化が前世とは容易に比較出来てしまう。

何時か本当にこの世界についていけなくなりそうで怖い。まあ、そんなことを言ったところで結局適応していくんだろうけど。

 

「さて、ぼちぼち俺も歩くか」

 

行く場所は、俺も政宗に教えて貰っているため見失うようなことはない。故に俺はゆっくりと歩を進める───。

 

その瞬間に、俺のスマホが振動する。

 

「政宗か?」

 

おかしい、さっきまであれだけ元気よく飛び出したばっかりなのに。

俺が一種の疑念に駆られてメール画面を開くと、そこにはやはり政宗からのメールがあり、その内容は。

 

 

 

 

『助けて、安達垣がハダピュアやってる』

 

 

 

 

 

 

ジーザス。俺は空を睨んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やい小岩井」

 

さて、先程の政宗のメールを見た俺は政宗に『きっと深い理由があるんだ』と返信して、目的の映画館に向かいながら小岩井に電話をかける。すると、6コールきっかりで小岩井が電話に出る。

 

「なに、変態」

 

「出るのが遅い。そしてお前さんは主人になんて格好をさせてるんだ」

 

「見ての通り、ハダピュア」

 

「俺は何故ハダピュアの衣装なのかって聞いてんだけどな。なに、お前さんって主人にもドSなの?」

 

仮にも安達垣家のお嬢様にさせる服装ではなかろうて。そして、さり気なく安達垣がホワイトニングさんの衣装を持っていることにも驚きだ。

 

「愛姫さまは、ハダピュアは好きな方。寧ろ小さい頃嬉々とした表情で見てたハダピュアファン」

 

「ふむ」

 

国民的アニメ『2人はハダピュア』は図らずも良家のお嬢様の服装を奇天烈なものにするきっかけを作ってしまったらしい。影響される方もされる方だが、その場合ハダピュアのホワイトニングさんに悪態をついても許してくれる筈だ。まあ、そんなことをしたらあっという間に俺の心のダークマターが浄化されるわけなんだが。

 

「因みにお前さんはハダピュアは好きか?」

 

「......むかし、色んなことがあって嫌いになった」

 

「...例えば?」

 

「愛姫さまが、ホワイトニングの真似して私を敵役に見立てて色々してきた」

 

何と。

 

それは『具体的に何をされたのか』色々気になるところだが、これ以上は本人のトラウマを呼び起こしてしまう可能性があるので自重させてもらおう。他人のトラウマを呼び起こす趣味なんか俺持ってないし。

 

「映画館に着いたからもう切るぞ。俺も映画見たいしな」

 

俺がそう言って電話を切ろうとすると、小岩井が待って、と制止をかける。

 

「今日、映画館は安達垣家の貸切になってる。だから変態は無理」

 

映画館入口前の上映予定表を見る。するとそこにはいかにもホラーといった映画一つだけが、時刻表に書かれてあった。いや、貸切なら上映予定表いらねーし。

 

「はあ?俺もわーきんぐ何たらって奴見たいんだけど」

 

ホラー映画だろ?安達垣が腰抜けたりするの見てほくそ笑んでいたいのが本音なのだが。

あと、ポップコーン食ってドリンク飲みたい。

 

「無理なものは無理。理解して」

 

「...映画館貸切なんてどこの時代のお偉いさんだよ」

 

ぶっちゃけこの世界でも映画館の貸切状態なんて滅多に見れるものではなかろう。大財閥、安達垣グループだからこそ出来る荒業ってか。安達垣グループ怖ッ!

 

「...用がないなら切る」

 

「ちょ、待てよ!」

 

今度は俺が制止をかけると、小岩井はうざったそうな声で俺に一言。

 

「なに」

 

「映画の上映終わるまでお話でもしようぜ?ほら、あれだ。暇なんだよ俺、孤独で暇だと死んじゃうの!死んじゃうからッ!」

 

「...あなた、本当に上田の人間?」

 

疑われた、酷い。

 

ついでに電話も切られた......いや、何でさ。

 

 

 

 

 

 

......やれやれ。

 

 

 

 

 

 

 

 

こんな時に、再び誰かに電話をしたくなる俺は相当な馬鹿で変わり者だと自覚している。しかし、こんな気分になってしまった時、友達を呼び出せない俺は何時も誰かに電話をかけてしまうわけだ。

 

そうして電話をかけた相手というのは

 

『おや、幸村様ではありませんか』

 

3コールほどして電話に出てきてくれた藤ノ宮だ。というか、今こうした状況で電話出来る奴なんぞ藤ノ宮位しか見当たらない。

 

え、松姉さん?はっはっは。

 

「よ、藤ノ宮」

 

『今、どちらにいらっしゃるので?』

 

「何処って、多分お前が知らない所だぞ?」

 

『構いませんわ』

 

ならば、お期待に添えて言ってやろうではないか。

 

「東京の映画館前───」

 

その瞬間、肩をトントンと叩かれて、そちらを振り向くと。

 

俺の頬は人差し指に押された。

 

...いや、それよりもだ。

 

「...お久しぶりですわ、幸村様」

 

藤ノ宮寧子が笑顔で俺を見ていた。

 

「お前さん───」

 

さて、藤ノ宮寧子がここにいる件について誰か説明できる奴がいるのなら、是非教えて欲しいものなのだが。

 

誰か、説明頂けないだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『本当に申し訳ない』

 

俺は今、藤ノ宮の監視役である椎堂さんに電話で謝られているところだ。

 

「...いや、俺としては別に構わないんだが」

 

寧ろウェルカムってやつだよな。このまま1人でボーッとしてるよりかはもう1人、気心が知れている奴といる方が良いに決まっている。

 

『...貴方が寧子様を見つけて下さって本当に助かった。貴方なら安心だ』

 

「ええっ、それは買い被りすぎでしょ椎堂さん」

 

というか見つけたの藤ノ宮の方ですからね。本当にこの子は脱走癖があって苦労する。

藤ノ宮を若干ジト目で見やると藤ノ宮は笑顔で手を振ってきやがった。畜生、腹立つけど可愛い。

 

『本心だ、兎に角貴方が寧子様の隣にいるのなら、こちらから言うことは2つほど』

 

「2つ、ですか」

 

余程重要な任務なのか。

まあ、それでもいいだろう。乗りかかった船というやつだ。無事、藤ノ宮を保護しようではないか。

 

『...今日の5時には指定の公園へ向かってもらう。それまで自由に寧子様を連れ出してやってくれないだろうか』

 

...What?

 

「随分と時間に余裕があるんだな」

 

『今日は東京にある別荘の下見をしに来ただけなんだ。一応時間はあるし、寧子様も薬を持っている。前々から東京を観光してみたいと仰っていてな。少しだけ面倒を見て頂けないだろうか』

 

ええ......

 

「...ま、いいけどさ。俺、別に藤ノ宮嫌いじゃないし」

 

『なら、貴方に任せる。......上田家の子息に限ってそのようなことはないと思いますが、粗相のないように』

 

「分かってら」

 

その言葉を最後に電話を切ると、俺は藤ノ宮を見て目を細める。

 

「また脱走か。やんちゃが過ぎるぞ藤ノ宮」

 

「申し訳ございません...そこに、幸村様がおりましたので」

 

「あたかもそこに山があった的な発言するの、止めろよな」

 

「あら、そこに幸村様が動かざる山のように屹立していたのは確かな事実ですことよ?」

 

うむむ。

 

確かにそれもそうだ......そう、なのか?

 

「それよりも体調、大丈夫か?」

 

「ええ、これでもあの頃と比べたら随分楽になりましたのよ?」

 

それならば、別にいいのだが。

 

「藤ノ宮、言っておくが無茶だけはするなよ?お前は体が弱いんだからな」

 

人間、その気になれば幾らでも頑張る事は出来る。だけどその頑張りが仇になって倒れてしまえばその頑張りは一瞬にして無駄になるのだ。

それは、俺や藤ノ宮も例外ではない。

 

「...分かっていましてよ」

 

藤ノ宮は頬を膨らませて少しだけ拗ねた顔つきになる。

 

「頬を膨らませるな」

 

その表情は魅力的だが、今されてもかえって機嫌を損ねたような気がして後味が悪い。

 

「幸村様がいけませんのよ?折角二人きりの時にそのようなことを仰るから...」

 

「お前さんの身を案じての注意喚起だ。気を悪くしたんなら、悪かったよ」

 

心配なんだ、藤ノ宮の身が。親父と母さんが診てくれているから間違いは無いんだろうけどさ。それでも心配なもんは心配だ。

 

「......冗談です」

 

「冗談?」

 

そう言うと、藤ノ宮は怒ったような表情を変え、悪戯な笑みを浮かべて続ける。

 

「幸村様がどれだけ私の事を心配なさっているのか、少しだけ試してみました」

 

「......ついでに結果は?」

 

藤ノ宮の掌で転がされていたことを漸く察知した俺は、最早お得意となった苦笑いを浮かべてそう尋ねる。すると、藤ノ宮はくすくすとこちらを見つつ笑う。

 

「90点、ですわね」

 

ほう、なかなかの高評価だな。その評価はこの先変わることはあるのだろうか、気になるところなのだが。

 

「んで、そんな90点男としてはお前さんが何故こんな首都にいるのか聞きたいところなんだけど」

 

京都に住んでいる藤ノ宮が東京なんて暑苦しい所に来るなんて非常に珍しい。本来の藤ノ宮なら、この時期は全寮制の涼しい高校でまったりしているんだろう。若しくは軽井沢とか避暑地の別荘とか。

何かここに来なければならない理由とかあるのだろうか。椎堂さんの『下見』ってのも気にはなる。

 

......まあ、深く聞き過ぎるのは野暮って奴だよな。

 

「小旅行です。体調が悪くて中々東京には赴けなかったので、少しだけ東京見学をと」

 

「そりゃあご苦労なこった」

 

「いえ、交通手段は自家用車ですし住まいもお父様の仕事用のマンションの一室を貸してもらえているので実のところ大して疲れてはいませんのよ?」

 

成程、事情が事情とはいえ空調設備の効いた車内で風を切る音を聞きながら小旅行か。

何それ行ってみたい。

 

「...今から椎堂に頼んで車で移動しましょうか?」

 

「そりゃあ魅力的なお誘いだけど、遠慮しておく」

 

今は政宗と安達垣のデートを見守っていなきゃ行けないし、今から椎堂さんに頼むのは流石に悪い。

 

...というか、この子さり気なく俺の思考を読んでる?ひょっとして今の俺の考えているあんな事やこんな事もダダ漏れ?

 

「何それ恥ずかしい!」

 

「...頭の中では何を思考しても構いませんが、考えたことをそのまま口に出すのはあまり宜しくはなくってよ」

 

おっと、そりゃ失敬。100パーセントにお釣りが返って来るくらい俺が悪かったのは理解したからそんな人を哀れむような目を向けるのは止めていただけないだろうか。

 

「所で、幸村様は一体何を?まさか貴方が意味もなく街中に佇んでいるわけでは御座いませんでしょう?」

 

藤ノ宮が少し訝しげにこちらを見やるのを確認して俺は溜息をつき、肩を竦める。

 

「とある少年少女のデートを見守っていたんだよ」

 

「少年少女といいますと、幸村様の御学友の?」

 

「そー、ずっと昔にも話したろ?真壁政宗くん」

 

「政宗様の......と、いう事は幸村様の言う復讐とやらは既に始まっているのですね」

 

「そういうこと。まあそれは話すと本当に長くなっちまうから...取り敢えず行こうぜ」

 

「どちらへ?」

 

そりゃあ───

 

「まったり出来るところで、お前さんの行きたいところだよ。東京、見学したいんだろ?2時間くらいしか自由行動はできないけど、見学したいとこあんなら行こうぜ」

 

「あ───」

 

こちとら映画見れなくて少々憤っているんだ。本来なら政宗と安達垣が映画を見ている後ろでポップコーンとドリンクをバリバリゴクゴク飲んで時間潰すつもりだったんだからな。

その為に空けておいた2時間をぼっちで待機?冗談じゃない。ここまで来たのなら藤ノ宮が呆れるくらい小旅行をしてやろうではないか。

 

「だから行くぞ。尤も、ノープランなんだけどさ」

 

俺があてもなくぶらぶらと歩を進める。目的は、多分どっかの店だろうけど。

そして、パタパタと小走りで俺の横まで辿り着き、藤ノ宮は俺の隣を歩く。

 

「徒然なるままに...それも幸村様らしいですわね」

 

「そんなに大それたものじゃないけどな」

 

そう言って、藤ノ宮の方向──左を振り向くと藤ノ宮は何時ものニコリとした笑みで俺を見て。

 

「お供致します、幸村様」

 

一言そう言って、俺のゆったりとした徒歩と同じ歩幅、歩調で歩き出した。

 

 

 

 

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