ゼロから始まる俺氏の命   作:送検

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今日中に終わらせたからセーフセーフ。

なんて、冗談です。文才の無さによりグダグダ展開を先延ばしにしてしまった送検をお許し下さい御容赦下さい。


第23話 観察 (後)

 

 

 

 

 

 

 「いやはや、まさかまさかの展開だ」

 

 和スイーツを食べ終えた俺と藤ノ宮はさっきからカップルしている政宗達をゆったりとしたスピードで追いかけていた。

 

 政宗は、恐らく周りの視線に耐えることが出来なかったのだろう。気持ちは何となく分かる。俺だって隣にいる女の子が間違った事をいたいけな子どもに吹き込んだりしたら止めるし、周りの視線に耐えることが出来ない。

 政宗の行った行為は、吉乃師匠から見てみたら『逃げ』と評されるだろうが、あくまで俺の視点だけで見てしまえば、寧ろ女相手にここまで円滑に会話を進めることの出来た政宗を賞賛する。

 凄いよ政宗。俺ならきっとアッキーを弄り倒して、ハイキックされて気絶まである。弄りたい衝動を抑えて既のところで会話を継続させた政宗はデキる男。はっきりわかんだね。

 

 やはり、松姉さんとの対話訓練が生きてるなぁ.....なんて、そんなことを思いながらひそりと呟くと、藤ノ宮が隣を歩きながら俺の発した独り言に同調する。

 

 「ええ、本当に驚きましたわ。まさか愛姫様がハダピュアのピュアホワイト様の衣装をお着になされていただなんて」

 

 「そういえば、お前もハダピュア好きだったよな」

 

 素晴らしき国民的アニメ、2人はハダピュア。最近は主人公交代でサンスクリーンとピュアホワイトが登場することは無くなってしまったが、何処ぞのバトル漫画顔負けの戦闘シーンは俺の心を大いに揺さぶってくれた。

 

 「幸村様もハダピュアは御覧になっていたでしょう?」

 

 「藤ノ宮の影響でな」

 

 今でも暇がある時に見たりしている。とはいえ、俺の中のハダピュア絶頂期は初代で終わっており、視聴する頻度は減ってきているのだが。

 

 「やはりハダピュアは私達の世代の国民的アニメなのですね。愛姫様の仮装と幸村様の会話でその想いはより一層強くなりましたわ」

 

 「それだけでか!?」

 

 「ええ、かくいう幸村様もハダピュアは国民的アニメだと昔仰っていたではありませんか」

 

 「まあ、そりゃそうだけどよ.....」

 

 なんか、俺との会話とアッキーの仮装でそう思われていることがものすごい腑に落ちない。アッキーの仮装は兎も角、俺はそこまでハダピュア愛を叫んだつもりはないんだけどなぁ。

 無論、心の中ではハダピュア愛のある言葉を吐いている。しかし、俺にも時と場合と状況を読んで発言するスキル位持ち合わせている。流石に人の前で『ハダピュアすっげえ好き!』なんて言えない。そこまで言えるほど俺はハダピュアラブじゃないし。

 

 「.....さてと」

 

 改めて俺は辺りを見回す。基本、人混みはざわざわと歩行者の声が聞こえているものでそれは今も変わることはない事実なのだが今回は何だか喧騒のベクトルが違うような気がするのだ。

 やっぱり、何だか周りが変にザワついてんだよな。これに関してはやはり今俺達が尾行している仮装カップル(片方)が問題なんだろうが。

 

 「.....普通はやらない?」

 

 安達垣の声が聞こえる。その声はまさに初耳という声色。そして、その声に藤ノ宮は同調する。

 

 「普通はやりませんわね」

 

 そして、やはり俺も頷いて。

 

 「普通はやらねーよなー」

 

 同調する事に徹した。

 

 政宗が顔を隠しながら、安達垣の言うことに肯定すると安達垣は顔を俯かせ羞恥に耐えるかのようにぷるぷると震える。

 小岩井さんよ、これが狙いか。狙いなのかと初々しいシーンを見させられている俺が内心げんなりとしていると、藤ノ宮が眼鏡を着用しながら問いかける。

 

 「幸村様、直に愛姫様がショッピングをする筈です。ゴーグルを着用した方がよろしいかと」

 

 「女の勘か」

 

 「はい」

 

 眼鏡越しに笑顔でそう言う藤ノ宮。

 

 もう、俺は女の勘とかいうやつにツッコミ入れたりはしないからな。

 

 やがて、遠くからではあまり聞き取ることが出来なかったが安達垣が藤ノ宮の予想通りに夏物やら何やらとしどろもどろになって政宗に言い訳しつつ次の行動予定がショッピングと落ち着いた。

 

 「さて、俺達は.....どうするか」

 

 「あら、幸村様は私服は間に合っていますの?」

 

 「ぼちぼちだ。というか、年がら年中私服着る訳でもないし.....俺は着るものは厳選して買うからなっ」

 

 金を大量に持っている訳でもないし、バイトをしている訳でもない。資金源は毎月送られてくる仕送り。そんな俺が服なんてものを大量に買える程人生は甘くないのだ。

 

 「それにしては随分とお洒落な服装ですわね」

 

 「ああ、なんか松姉さんにファッションの話とか色々されてたからな。政宗にもそういうの言ったりしてたし.....肝心の俺がそういうのに気遣い出来てなかったらダメっしょ」

 

 「.....ふふ、確かにそうですわね」

 

 そう言って、クスクスと笑を零す藤ノ宮。しかし、その表情は少しばかりの沈黙と共に変化し、俺を悪戯っぽい笑みで見やる。その瞳には、まるで何処ぞの傍迷惑で、それでいてマイペース美人のあの人の笑みを連想させた。

 

 「では、ここでひとつ冷やかしなんてどうですやろか?」

 

 そして、そういう時の藤ノ宮が何時もの京都弁になることで、俺は藤ノ宮の発した言葉にどうしても含み笑いをしてしまう。

 

 「ああ、冷やかしに行きますか」

 

 

 

 そうして、2人で悪戯っぽい笑みを見合わせて、笑う俺達はきっと性悪な人間なのだ。

 

 

 

 

 違いない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ドアを開いた店内には多種多様な服が並んでおり、簡単なコーディネートなら直ぐに出来てしまいそうな程にはラインナップが充実していた。

 

 「ふーん、成り行きで入った店にしてはラインナップはあるんだな」

 

 「ええ、そうですわね.....と、幸村様」

 

 不意に服をちょこんと引っ張られて、隣を歩いていた俺は歩を止める。藤ノ宮は先程から1点のみを見つめており、その1点を追った俺はとあるTシャツが目に止まる。

 

 「幸村様には、このような服もお似合いでしょう」

 

 そう言った藤ノ宮が手に取ったのは、ハダピュアのプリントが入っているTシャツだった。

 

 「......フジノミヤサン?」

 

 それは、素直に見繕ってくれた感謝を言うべきなのか、1つ2つツッコミを入れるべきなのか、どっちだ?この子は俺をどうしたいのだろうか。

 

 「お値段は.....お手頃ですわね」

 

 「おい待てそれは俺の趣味じゃない」

 

 そもそもなしてこのご時世にホワイトニングさんのプリント入りTシャツが商品として売られているのだ。とっくにアニメの放映は終了し、今は新しい時代の新しいヒーローがテレビでよろしくやっているだろうが。

 それに関しては藤ノ宮も不思議そうに首を傾げ、Tシャツを凝視している。販売するならするで、今の時代に適したプリントを入れて欲しいものだ。それともあれか、これが俗に言う復刻とか言うやつなのか。

 

 「それはそうと、買いますか?」

 

 「買わん」

 

 再び購入を促す藤ノ宮に俺が断固拒否の姿勢を貫くと、分かっていたかのように息を吐き、持っていた服を元の場所へと戻し一言。

 

 「だと思いましたわ、流石にプリント入りTシャツを着用なさる程幸村様はハダピュア好きではありませんでしたもの」

 

 分かっているのなら最初から購入を促すな。

 

 危うく釣られて買っちゃう所だっただろう。

 

 さて、それはそうと向こうはどうかな。ちゃんとデートデートしているのだろうか。そう思い政宗と安達垣を探すと、そこには試着室の近くで悶々としている政宗を見つける。こうして1人でいるってことは.....安達垣は試着室の中か。1度だけ声をかけてみるか。さっきのイレギュラーも謝らなきゃならんしな。

 

 「藤ノ宮、俺は1度政宗の所に行くが.....お前さんはどうする?政宗とお話するか?」

 

 もしかしたらこの先交流があるやも分からん。藤ノ宮にとってはおおよそ何年ぶりかの政宗との邂逅と洒落こんでも、少しの時間なら害はないだろう。

 藤ノ宮の顔を見ると、その顔は少しだけ不安そうに俺を見る。

 

 「.....今の私が政宗様とお会いになって、大丈夫でしょうか」

 

 「や、ああ見えて政宗は女には慣れてるから心配すんな。ちょっと位の挨拶なら大丈夫だと思うぞ」

 

 何なら2人の女相手にしても気絶しない迄ある。昔の政宗は女1人と会話するだけでも一苦労だったからな。まあ、その弱点も蜘蛛同様紆余曲折を経て何とか克服しているのだが。

 

 「.....そういうことでしたら、ご挨拶だけでもさせていただきましょうか」

 

 「おっしゃ、んじゃムネリンに突撃すっぞー」

 

 「そのネーミング.....渾名はなんでしょう。何処ぞでお聞きになった気がするのですが」

 

 うん、それはきっと、気の所為よ。

 

 藤ノ宮に渾名に関してのツッコミをヒィヒィ言いながら躱しつつ、政宗の視界に入るであろう場所まで歩くと手を振る。

 

 「政宗、お疲れさん」

 

 「お、出たなイレギュラー星人」

 

 「悪かったっての。まさかここまで来るなんて思ってなかったんだよ」

 

 「分かってるよ.....何せ、幸村は俺の監視と同時に女の子とデートもしてたんだからな」

 

 「やだもう政宗さん、これ以上は俺のメンタルと良心に響くからやめて」

 

 この人絶対俺を弄って楽しんでますよね?何時ドMからドSに移行しちゃったの。少なくとも信州で修行してた時はそんな子じゃなかったってのに。

 

 「それはそうと幸村、そこのさっきから後ろでちょこんと隠れている女の子は───」

 

 政宗が俺の後ろに気付き、そう尋ねると先程まで俺の後ろに隠れていた藤ノ宮が俺の隣に立ち、政宗にお辞儀をする。

 

 「申し遅れました、藤ノ宮寧子と申します。政宗様とは随分前にお会いなさった事があるのですが.....ご存知でしょうか?」

 

 眼鏡越しに悪戯っぽい笑みを浮かべて唐突にそう尋ねる藤ノ宮に、政宗は若干驚きつつも直ぐに真顔に戻り、思案する。

 

 「藤ノ宮.....ごめん、聞き覚えが」

 

 「だと思いましたわ。政宗様、あの頃は小さかったですから」

 

 「小さいっていうと───」

 

 政宗はそう言うと、俺を見る。その顔は、若干苦虫を噛み潰したような顔をしており、それを悟った俺は政宗を安心させるべく笑う。

 

 「安心しろ、藤ノ宮は俺の馴染みだ。お前さんの過去のこともそれなりには知っているし、バラしたりもしない」

 

 俺がそう言い終わると、政宗の目の前に藤ノ宮が躍り出て政宗の手を掴む。

 

 「信じてはもらえぬかも知れませんでしょうが.....私、政宗様を応援していますわ。今はお手伝い出来ることはないでしょうが、何時か、何処かでお手伝い出来る機会がありましたら、なんなりと申して下さい」

 

 「.....うん。その時が来たらよろしくね藤ノ宮さん」

 

 「はいっ」

 

 そう締めくくると、藤ノ宮は政宗の手を離して再び俺の隣に立つ。

 

 「ま、そういう事だ。俺達はこのままお前さんの事を見張っているけど何か不都合があったら言ってくれ。提案くらいなら出来るからさ」

 

 「分かった。んじゃ、幸村は幸村で藤ノ宮さんとデート兼監視を楽しんでてくれ───」

 

 政宗がそう言って締めくくろうとした時、突如大きな声が俺達の鼓膜を刺激した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ああああああ!!!」

 

 

 

 

 

 

 悲鳴にも近い声、それを聞いた俺達は咄嗟に試着室を振り向く。声の発生源はあそこからだった。そして、そこにいるのは安達垣の筈。何が起きたのだろうか。

 そんなことを考え、思案していると不意に政宗が試着室の方へと飛び出していく。おい、その勢いでお前は何をする気だ───

 

 「あ、安達垣さん!?」

 

 

 

 

 

 

 勢いのまま、政宗はカーテンを開けた────

 

 「.....何をしてはるんやろか」

 

 さあな、俺に聞かれても困る。

 

 強いて言うのなら、小岩井吉乃の件から暫く影を潜めていた政宗のバッドステータスがここに来て解放されてしまった事くらいか。

 

 まあ、それは置いといてだ。

 

 「早くカーテン閉めて土下座をするべき───」

 

 その瞬間、安達垣の風のような右ストレートが政宗の顔面を襲った。

 

 「ぐおっ.....!」

 

 2言もせぬうちに政宗はノックダウン。そして、安達垣は殴り飛ばした政宗を見て、あたふたした後カーテンを閉めた。

 

 「政宗、大丈夫か?」

 

 俺が倒れた政宗に駆け寄り、そう言うも政宗は反応無し。完全に伸びてやがる。

 

 「まあ、何だ。自業自得だな」

 

 「致し方ない気もしますが、カーテン解放はいけませんわね。乙女の着替えを覗くのは、幾ら政宗様といえども看過されるものではありませんわ」

 

 政宗の腕を肩に背負い立ち上がらせる。それと同時に着替えを終えた安達垣がカーテンを開け、そして驚く。

 

 「上田!?貴方どうしてここに───」

 

 「はいストップ。唐突のラッキースケベからの突然の上田登場で驚くのも分かるけど先ずは落ち着いてアッキー」

 

 「私は至って冷静よ!大体、貴方はファミレスにもいたでしょう!?」

 

 「あっはっは、バレてもうたー」

 

 「コイツ1度ぶん殴る───!」

 

 今にも殴り掛からんと振り抜いた拳をキャッチャーよろしく両手でブロックする。うん、女の子の拳なのにくっそ痛え。

 

 「ファミレスの件は完全にイレギュラーなんだ。本当に悪かったな安達垣」

 

 「.....口では何とも言えるわよね」

 

 「ああ、だからこの件に関しては安達垣が口にしてた数々の黒歴史ワードをバラさないって事で手打ちにしてくれや」

 

 俺がそう言ってからからと笑うと安達垣は羞恥に顔を染めた後に目だけ横を向きながら呟く。

 

 「.....それで手打ちにしてあげるわ」

 

 良かった。これで俺の件に関しては全て終わらせることが出来た。後は、この状況を何とかしなきゃな。

 

 「政宗をベンチまで運ぶから、アッキーもそれ買って付いてきて。流石に政宗を運ぶのには男手が必要だろ?」

 

 「ええ、私が真壁を運べる訳ないものね。上田、貴方もなかなか良い仕事をするじゃない。G.Jよ」

 

 「あはは.....じゃ、俺は出るから」

 

 最後にそう言って、藤ノ宮の所へ戻ろうと踵を返すと後ろから声がかかる。

 

 「上田」

 

 「何だ?」

 

 「貴方と一緒に昼食を摂っていた女は貴方にとっての何なの?」

 

 あちゃ。

 

 どうやら安達垣さんには俺と一緒にいた女のことが分かってしまっていたらしい。バレたところで痛いことは何もないし、何なら藤ノ宮寧子について俺が思う事を長々と言ってしまっても良いのだが、政宗を背負っている状態で、しかも店内でそんなことをしたら確実に変な目で見られることだろう。

 世間体を気にする故に、俺は振り向いた先にいた安達垣の目を捉え、一言だけ───

 

 

 

 「俺にとって、大切な人間」

 

 

 

 俺なりの言葉で、一言に纏めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 何やら目を見開いて、ぶつぶつ赤面しながら言っている安達垣をほっといて藤ノ宮の元へ向かうと、そこには顔を紅潮させた藤ノ宮が俺をジト目で睨んでいた。

 

 「安達垣も赤面してたけど、ここそんなに暑いか?」

 

 寧ろ、ここの室温は丁度良い部類に入ると思うのだがな。

 

 「.....本当に、貴方という人は」

 

 「え?」

 

 「なんでもありません、行きましょう幸村様」

 

 次第に冷静な顔つきになった藤ノ宮は俺を置いて先に出ていく。その足取りが、少しだけ軽いように感じられたのは気の所為だろうか、それとも───

 

 と、そんなことを気にしている場合ではなかった。

 

 今は何よりもやらなければならない事がある。気を取り直した俺は政宗の右肩を組みながら、先を歩く藤ノ宮の後を追うために少しだけ歩調を早めた。

 

 

 

 

 

 

 

 ※

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私は、男が嫌いだ。

 

 男なんてものは人の気持ちを簡単に踏みにじる。かつて、心から信頼していた男の子さえがそうだった。

 

 

『今度は、ぼくの番だよ。愛姫ちゃんが元気になれるようずっと応援する!側にいる!』

 

 そう言ってくれた男の子は、今は顔すら見せなくなった。結局のところ、あの子はイジメから助けてもらいたかっただけだったのだろう。あの時の言葉はウソだと今は思う。

 

 あの時の出来事を振り返って見ると、過去で一番楽しかった思い出。だけど今では、思い出したくも無い記憶。そんな記憶を思い出したくない一心で、ひたすら男を突き放した。

 出会って早々告白してくる痛いヤツらに酷い渾名を付けて回った。

 

『むっちん王子』

 

『し毛ぼーん』

 

『煮干し』

 

 そんな渾名を付けて回ったのも男が嫌いになったから。これ以上親しい人間に裏切られたくなかったから。

 

 私、安達垣愛姫はこれ以上傷つきたくなかった。親の離婚という裏切りから、男の子の裏切り、そして今度は誰が裏切るのかとそう考えただけで怖かった。

 

 その日以来、過食が止まらなかった。かつて仲の良かった男の子のことを考えるだけでストレスになった。自分の気持ちを振り返る度に涙が零れた。

 

 きっと、今までもこれからも同じだ。

 

 何せ、目の前で1人ベンチに横たわり伸びている男を信じることさえも出来ないのだから。

 

 「アイツ.....謀ったわね」

 

 目の前のベンチには真壁1人しかいない。私はもう1人の男に聞きたいことがあったのに。店内では聞くことの出来なかった真壁との関係をもう少し探りたかったのに。

 

 上田幸村は、本当によく分からない人間だ。

 

 馬鹿な面もあれば、聡明な面もある。かと言って2面性を持つ奴と言ってしまえば、それはそれでピンとこない。彼の行動心理には嘘や裏がないように思えてならないのだ。

 そして、そんな上田が真壁をベンチに置き去りにした。その行動には、何か意図があってのことなのか。はたまたいつもの変態紳士っぷりを遺憾無く発揮して私を面白がっているのか。

 

 分からない。

 

 本当に、訳が分からない。

 

 故に、1度ぶん殴りたくなる。

 

 「.....貴方も貴方よ、真壁」

 

 確かに叫んで、迷惑をかけて、それでいて私のことを心配してくれたのは分かる。けれど、それとこれとは別。女の着替えを勝手に覗くな。あの時、私がどれだけ恥ずかしい思いをしたのか分かっているのか。

 

『ド変態』

 

 そんな渾名を付けようとも思ったが、私にも非はあるし何より私を心配してくれたのだ。真壁が何者であれ、今回の件で渾名を付けようとするほど私は鬼ではない。何より、吉乃に弱点を粗探しさせてる最中だしその内渾名も付くだろう。慌てる必要はないのだ。

 

 「.....挙句の果てにはこんな所で気絶して.....まあ、これは私のせいでもあるのだけれど」

 

 

 

 

 

 男には、良い思い出がない。男に触るのなんて、以ての外だ。

 それでも、私は真壁に悪いことをしてしまった。そして、ご飯にも連れて行って貰ったし、私の非常識さを改めさせてくれた。

 

 

 

 

 

 本当に癪だ。

 

 

 

 

 

 癪だけど。

 

 

 

 

 「今回は.....お礼も兼ねて、特別よ」

 

 誰に言うまでもない。無論、独り言だ。聞かれたら死ぬ。誰に聞かれても、絶対に死んでやる。

 そんな意思を孕んだ一言を発し、私は自身の膝に真壁の頭を乗っけた。

 ベンチは固い。こんな所で寝たら明日の学校生活に支障が出る。後日になって真壁が風邪で休みましたーとか寝違えて休みましたーとかになったら後味が悪くて仕方ない。

 故の、膝枕だ。決して真壁に気があるとか、そんな訳ないのだ。

 

 真壁を見る。顔立ちは整っている。こんな男が他の女に言い寄った日には、きっと何処ぞの即落ち二コマも吃驚な程の速さでリア充カップルが爆誕することだろう。

 

 「本当.....貴方も馬鹿よ」

 

 どうして私なんかを。

 

 どうして、私のような人間に目をつけたのか。

 

 私は嫌なのだ。男という人間と仲良くなるのも、男という人間に言い寄られるのも。上っ面の告白なんて、聞き飽きた。羨望の眼差しすらも、もう嫌だ。

 

 もう裏切られたくないから、親密な関係を築こうとしなかった。お母さんに、男の子に裏切られて、それが嫌で『残虐姫』として男を何度も何度も切った。

 

 

 

 

 それなのに。

 

 

 

 

 何で貴方は、私のパーソナルペースにズカズカと歩み寄ってくるのだ。

 

 

 

 

 カラスが鳴く。辺りは夜が近付き、夕暮れが満ちてくる。街頭の灯りは私達の存在を示すかのように、光る。

 

 真壁はすやすや眠っている。私の髪───上田に言われたことを意識している訳じゃない───ツインテールにせずに、そのまま下ろした後ろ髪が心地好い風により、靡く。

 

 

 「.....ん」

 

 ようやく、真壁が目を覚ましたのか唸り声を上げて目を開く。先程まで、真壁を見ていた私は、自然と真壁と目が合う。

 

 目と目が逢う瞬間好きだと───なんて洒落た感情私には似合わないし、そもそも持っていない。それ故に、私は内心冷酷な面持ちで真壁を見下ろした。

 

 「.....人の着替えを覗いて、あまつさえ凝視するなんて最低ね」

 

 「ご、ごめん!」

 

 「詫びなんていいわ。それよりも、膝。離れて」

 

 私が更にそう言うと、今の状況に気付いた真壁は離れて、ベンチに座る。

 

 「膝.....ああ膝枕してくれてたのか。ありがとう」

 

 「お礼も要らないわ、寒気がする」

 

 空を見上げる。時刻は6時。そろそろ帰らなければ、吉乃や家の皆が心配する。

 

 私は、立ち上がり何も告げずに歩き始める。話すことは何も無い。私自身、これで真壁の豆腐メンタル改善には一役買った筈だ。今後は是非是非『他の女』と学生生活を満喫して欲しいものだ。

 

 そんなことを思い、振り向くとと真壁が立ち上がり私に向かって声を発する。

 

 「安達垣さん!」

 

 「.....まだ何か?」

 

 「今日はありがとう。それと.....やっぱり、色々驚くようなことしてごめん」

 

 この男。

 

 お礼と詫びは要らないとさっき言ったではないか。真壁、貴方の度重なる詫びは私の返答に対する当てつけなのか?それとも、まだメンタルが改善できていないとでもいうの?

 

 上等だ。なら、言ってやろうではないか。散々私の事を弄んどいて、『ごめん』や『ありがとう』の一言で済むと思っているのか?寧ろ、謝るのは当たり前でそこから土下座までが定石でしょう?

 そんな事も分かっていない貴方にはこの一言だけで充分だ。私こそごめん?別にいいわよ?そんな生温いこと言ってやるものか。私に謝るのは当たり前。お礼も言うのも当たり前───

 

 「当然よ」

 

 そう一言だけ言って、私は皆の待つ家へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 真壁。

 

 

 

 懲りないようなら精々かかってきなさい。

 

 私は、貴方のような人間には簡単に絆されない。

 

 私は、貴方の事が嫌いだ。

 

 それでもいいのなら、私は貴方のそれに受けて立つ。

 

 

 

 

 覚悟なさい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ※

 

 

 

 

 

 政宗をベンチに置いていった俺と藤ノ宮は政宗の状況を見つつも安達垣にバレないように、遠くの木に隠れ安達垣を観察していた。

 政宗をベンチに置き去りにすることには罪悪感があったが、元々これは2人のデートだ。今更感はあるが監視役が何時までもそこにいるのは良い事ではないため俺達は離れ、安達垣と政宗の2人の様子をじっと観察していた。

 

 途中で、安達垣が一言呟きベンチに座った。その時の安達垣が何を言っているのかは分からなかったけど、ひとつ。安達垣が政宗の頭を自身の膝に乗っけていたのははっきりと見えたのだ。

 

 俺は、この時、政宗を膝枕していた安達垣を俺はどう見るべきだったのか。

 そして、最後の最後、去り際に安達垣が「当然よ」とさも当たり前のように言った事を俺はどう捉えるべきだったのか。

 

 今回のデートの全般は小岩井吉乃。師匠の差し金だ。安達垣のハダピュア衣装も、映画も、殆どが師匠の画策したものだった。しかし、この時ばかりは師匠の差し金と考えるには些か短絡的なのではないかと思ってしまっていた。

 

 政宗は、この出来事について、どう思っているのだろうか。

 

 これが、師匠の差し金だと思っているのか──。

 

 それとも、何か別の事を考えていたのか──。

 

 聞いてみないことには、俺には分からなかった。

 

 「...帰るか、藤ノ宮」

 

 「よろしいのですか?」

 

 「良いも何も、もう2人のデートは終わったんだ。俺達がこれ以上見物する必要もなかろうて」

 

 それに、暖かいとはいえ夜だ。そろそろ帰らなければ藤ノ宮の体調にも差し支える。

 

 「さ、行こうか」

 

 そう言って藤ノ宮を見る。

 藤ノ宮はこちらを笑顔で見つめ、先に踵を返した俺の後を追っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 先程の公園から、藤ノ宮宅までは15分程かかるのだが、今回は指定の場所まで行けば椎堂さんが車で送ってくれるらしく、俺達は電話で椎堂さんが指定してくれた場所まで歩き、今はベンチに座りながら椎堂さんの車が迎えに来るのを待っていた。

 

 「...終始、仲睦まじいとはいきませんでしたわね」

 

 「まあ、昨日まで関係がギクシャクしてたのにそこまで上手くいくとは誰も思わないよ」

 

 行動したことが大切なのだ。

 小岩井さんの策や、安達垣のハダピュアなど、突っ込みたい出来事は沢山あったが、その中でも、政宗が安達垣とデート紛いの事をしたのは事実。

 関係がギクシャクしてようが、仲に進展がなかろうが大差ない。今の今まで軽くあしらわれてきた政宗にとって今回のデートとメアド取得は大きな自信となったのだから。

 

 俺自身、進路を決めた時自分でも有り得ない位に行動した。その結果、俺自身の行く先がはっきりした。言うは易し、行うは難し。兎にも角にも行う事は非常に大切なのだ。

 

 「政宗様は、やはり安達垣様に復讐を?」

 

 「奴は変わらないよ。変わったのは外見だけだ」

 

 

 

 暫し、沈黙───。

 

 

 

 その静寂を破るように、藤ノ宮は意を決したかのようにこちらを振り向いた。

 

「...幸村様、これはとあるお方から聞いたお話なのですが」

 

 そう言うと藤ノ宮は、1つ間を開けて言う。

 

「世の中には、知らなくてもいいこともあると聞きます。友人の悪口や事の真相など、それらは数えきれない程あると聞きました」

 

「...ああ、確かにそうかもな」

 

 知らなくていいことなのかもしれない。素性を隠してそのまま穏便に暮らすことも出来たかもしれない。

 

 だけどな。

 

「政宗は、それじゃあ気が晴れないんだよ」

 

 自身の真相を知って、そんでもって安達垣にどんな形であれ復讐する。そうすることで政宗は長年の恨みを果たすことが出来る。

 その想いに水を差すような事はしない。政宗が『やる』というのならやるべきであって、その意志に歯止めをかけるような事はしない。

 

「政宗が安達垣に復讐したいって言う限り、俺は真壁政宗という人間の味方だ。公序良俗に反することでなければ絶対に裏切る事はしないし、否定することもしないよ」

 

「それが、政宗様が知って悲しむものであってもですか?」

 

「それを取捨選択するのは政宗の仕事さ。政宗がやりたいということに俺は口出しする気はない」

 

 いうなれば、適度な距離感を保つことも大事ということ。深入りしすぎることは、政宗の復讐に支障をきたす可能性もあるだろうし、やりたいと思うことを一方的に罵るのも良くはない。政宗の意見を聞き、それでもって必要だと思った時に俺の意見を述べる。

 都民ファーストならぬ、政宗ファースト。政宗のやりたいこと、試したいことを第1に優先してその行動を全力でフォローするのが俺の役目なのだ。

 

 すると、藤ノ宮は少しの笑い声を上げる。

 

「...そうですか。ならば私が言うことは何一つありません」

 

「でも、心配してくれたんだろ?」

 

 政宗と俺の仲を案じてくれなきゃそんな言葉は出ない筈だ。

 

「ええ、勿論。幸村様は奇特なお方ですから。何時、何処で躓くか心配で夜も眠れません事よ?」

 

「おい、藤ノ宮の中で俺が奇特なお方になっている件について説明を願おうじゃあないか」

 

「ふふっ、冗談ですわ。あ、それとも直ぐ様拒否なさらないということはお自身が奇特というご自覚がなさって?」

 

「いや、ないから!?断じてないから!!」

 

 俺の何処が奇特ってんだ。確かに『転生者』とかいう今では必要ありますか?って位の奇特な経験をした覚えはあるけど俺の人格が奇特なんて思ってもいないから!!

 

 「.....幸村様は奇特なお方です。そして、私はそんな幸村様の奇特さに救われました。貴方に、生きる活力を頂いたのです」

 

 「そうなのか」

 

 「罪な御方です───幸村様」

 

 藤ノ宮の顔が、真剣な表情になる。その唐突な空気の変化に俺は一瞬驚くも、その表情を見て、直ぐに頭が切り替わった。

 彼女が真摯な顔つきで何かを言おうとしている、ならば俺はどうするべきか。それは、俺も真剣に彼女の話を聞くことだ。

 

 「何だ?」

 

 俺がそう一言尋ねると藤ノ宮は先程までと変わらぬ表情で続ける。

 

 「幸村様は政宗様のお手伝いをしています。そのお手伝いは笑いもあり、そして苦労も然り.....そのように見受けられました」

 

 「うん」

 

 「そんな中で、このような事をお尋ねするのは不躾だという事は承知しております。ですが───私にとっては、どうしてもお尋ねしたい事なのです」

 

 ひとつ、間が空く。

 

 そして、1度目を閉じた藤ノ宮は再度目を開けて、尋ねる。

 

 

「.....もし、私が何かを成したいと言えば、幸村様は私の手をお引きになって頂けますか?」

 

 その問いに対する答え。

 

 俺が答える事は決まっていた。

 

 それは、政宗を手伝う時も決意した俺の明確な意志。俺が他者に対して『手伝う』か『手伝わないか』を選別する意志。

 .......否、そんな回りくどい言い方しなくてもいいな。ただ単に、俺にとっての政宗が親友で、手伝いたくて。俺にとっての藤ノ宮が大切な奴であることには変わりない。そんな奴等が進む意志があって、それでも何か壁にぶち当たっているのなら助けたい。理由なんて、それだけなんだ。

 

「...最初から、手を貸してもらおうと思っている奴には手を貸そうとはしないけど、歩みを止めようとしない奴には俺は手を伸ばす」

 

 政宗の事を俺が手伝おうと思ったのは、政宗が自分の目標を1人でも達成しようという信念に惹かれたからだ。愚直に頑張る政宗を最初は心から応援して、頑張る理由を知って、そして政宗を手伝うと決意したんだ。

 

「お前が前に進みたいと思って、行動し続けるのなら、どんな形であれ俺がその手を引く。俺が藤ノ宮を助けるよ」

 

俺が藤ノ宮に笑いかけてそう言うと、藤ノ宮は一瞬驚いたような顔をするも後に笑顔になる。やっぱしこの京女は悲愴な表情よりも笑った顔の方が似合うな、なんて事を考えているとひそりと藤ノ宮が一言。

 

「.....そのお言葉心から感謝致します。私も...幸村様のお陰で進む勇気が湧きました」

 

「進む勇気?」

 

 「ええ、進む勇気です。持つことは容易ではないけれど、何処かの誰か様とこうやってお話しすることで私は幾度の試練をも超えられる。そんな気がするのです」

 

 「その、何処かの誰かさんって───」

 

 「勿論、幸村様の事でしてよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ......どうやら、成長したのは政宗だけではないようだ。藤ノ宮、彼女も人並みに...否、それ以上に成長して良い性格になったものだ。

 精神年齢はオヤジとはいえ俺だって男だ。年頃の女にそんなことを言われたら恥ずかしくなるし、そもそも藤ノ宮は美人の類に入る。そんな子にそんなことを言われてしまったら恥ずかしくなるのと同時に少しやり返したくなるのは俺だけだろうか。

 

 「ああ、俺も藤ノ宮といると勇気が湧いてくるし、何より心が落ち着く。そして何より一緒にいたいとは思うな」

 

 俺がそう言って細目で藤ノ宮を見つけると、一瞬驚いたかのような素振りを見せた後、藤ノ宮は何時もとは違うぎこちない笑みで返す。

 

 「お上手ですわね、幸村様」

 

 そう言った藤ノ宮の耳は赤みがかっていて、やっぱし可愛くて。

 

 「どの口が言うんだか」

 

 同時に俺の耳も熱くなっていた。

 

 

 

 




文章を読み取る力が足りなくて分からなかったんだけど安達垣が『当然よ』って言ったのって本当にどういう意味だったんだろ。原作政宗の言う通り、そこは『私こそ』とか『気にしてない』って言うのが当たり前というかいいんじゃないかって思ったんだけどなぁ。
後の説明補足もなかった気がするので愛姫視点で勝手に心理描写加えたけど大丈夫かめっさ不安。誰か安達垣発言の真意が分かるのなら教えて欲しいです。

さて、原作第1話分がようやく終わりました。原作1話分だけで話を区切りすぎたと個人的に思っていますので、次回からは1話で最低1万字くらい行くように区切り良く終わらせたい。
大抵有言不実行を地で行く作者ですが、こればかりはやればできる問題なので最初は上手くいかないかもしれないけれど何とかしてみたい。

そして、次は原作2話に入るわけだけど.....

原作0話のお話があってですね。その話を閑話として入れようかとっとと原作進めて後々過去語り的な感じで原作0話を詰め込むか非常に迷っています。
まあ、それはおいおい考えます。もしかしたらアンケートを取るかもしれないのでその時には答えてくれたらとっても嬉しいです。作者が絶頂します。

それではそれでは。
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