ゼロから始まる俺氏の命   作:送検

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第25話 東奔西走

 

 

 

 

 

 

 「まさかここまで馬鹿だとは思ってなかった」

 

 時は変わって夜───それとなく見たくもない参考書を流し見しながら政宗と会話に花を咲かせていると小岩井師匠から電話が来て開幕早々の罵倒に俺は至極当たり前のように、しょげた。

 

 「あの状況で勝負を仕掛けるのは勇気を通り越してただの愚策。断られるだけならまだしも愛姫様にマウントを取られ、協力者に負担をかけるようなことをするなんてなんて......豚足の独り立ちはまだまだ先になる」

 

 「なに、別に負担だとは思ってないさ。朱里くんは兎も角お前さんが補習なんかになったら俺達大打撃だからな。お前さんも、テスト期間中位人の事より自分の事を心配したらどうだ......赤点予備軍」

 

 その途端、『うっ......』と痛いところを突かれたような呻き声を上げる。

 

 「......上田も。自分の事を棚に上げてるようだけど、今回のテスト期間中位は復讐の手伝いよりも、あくまで普通の生徒『上田幸村』として、臨んで欲しい」

 

 「今回も何も、これが俺なんだがな......」

 

 紆余曲折を経て、今の俺がある。そして、俺は今のこの生活が酷く楽しいのだ。政宗と共に学生生活を謳歌し、共通の目的で勝手に盛り上がって、アッキーと話したり、蹴られたり、クロスカウンター食らわされたりといった生活にストレスを感じていない以上、俺はこのやり方を貫き続けるし、誰に何を言われようと自らのスタイルを変える事は無い。

 

 「......本当に大変なのは、これから。今のうちに頑張り過ぎてぼろが出ても、こっちが困る」

 

 まあ、折角師匠が心配してくれてるんだ。ここは厚意に甘えて、何時もより疲労感を感じないようなやり方を意識してみましょうかね。

 

 「ま、俺は俺でこの状況を楽しむからさ。大丈夫、志半ばでバテて置いてけぼり食らったりなんかしねーから安心しろ」

 

 「......そう」

 

 「俺を誰だと心得る。上田家の長男、ゴルフ馬鹿の息子、上田幸村だぞ......!こんな所でくたばってたら今頃親父同様ゴルフ馬鹿になっている!」

 

 「そう......上田がそこまで変態的で予測不能な行動をしたり、癖のある人間と付き合えるのは上田昌幸の血を引き継いでいるから......恐るべし、上田昌幸」

 

 「は?おい、ちょっと待て。俺は親父に似てるんじゃない!これは生まれ持つセンスってやつ───」

 

 途端、電話が切れた。言いたいことだけ言って一方的に電話を切られるのは最早小岩井吉乃と電話をする上では欠かせない出来事と化している故に、慣れた。それでもやっぱり腹に据えかねる物はあるし、会話の途中で切られてしまうと一種の虚無感に陥ってしまうのだ。

 

 「......やれやれ」

 

 こちとらやれやれ系省エネキャラなど演じるつもりは毛頭ない、寧ろ政宗の許す限り積極的に介入者をやっていきたいわけなのだが、こうでもしなければ目先の課題に対応出来そうにはなかったのだ。

 

 「幸村、どうした?」

 

 「ああ、少し小岩井師匠と電話をな」

 

 「師匠......か」

 

 「政宗の事罵ってたぞ。勇気を通り越してただの愚策だ......独り立ちはまだまだ先だな、と」

 

 「止めろ傷を掘り返すな恥ずかしいッ!!」

 

  そう言うと、政宗は片手で顔を覆い首を横に振る。

 

 「俺だってな!最初は小十郎と勉強するだけだったんだよ......!けど、安達垣と会って悪魔的な何かが閃いちゃったんだ......畜生!」

 

 「まあ......それで勝負できるチャンスが得れたんだ。結果オーライ、良しといこうぜ親友よ」

 

 「......おう」

 

 政宗が肩を落としてしょげる。そんなにしょげる必要はないと思うんだけどな。

 寧ろ、今回の件もアッキーのデートの件も俺がお邪魔だったんだよ。俺が政宗と共に行動を共にすることで起こる弊害みたいなのが最近目立っているように思えるんだよな。

 

 それでも政宗はそれを頑なに断り続けている故に、その言葉は政宗に言わずにいるのだが、幾ら俺にしか出来ない事があるとはいえ、俺はもう少し場を読む力を身に付ける必要があるやも知れないな。

 

 さて。

 

 安達垣愛姫との勝負が決まってしまった以上、俺に出来ることっていうのは3つある。

 

 1つは朱里くんと政宗と共に勉強すること。

 

 2つはアッキーと小岩井と共に勉強すること。

 

 3つは小岩井に言われた通り、リフレッシュしつつ『普通の生徒』として振る舞うこと。

 

 この3つは、個人的には全て政宗の復讐を円滑に進める為に役立つ事だと感じている。

 

 仮に政宗と朱里くんの勉強に協力し、政宗達が勝ってくれればアッキーとのデートが円滑に進むし小岩井の勉強を手伝う事で小岩井の勉強面の憂いを晴らし、復讐の協力に集中させることも可能である。てか、小岩井が補習漬けになったら色々困る。

 

 そして、3つ目のリフレッシュ───はこれから先の長い戦いに向けての英気を養うという大きな意味を孕んでいる(小岩井曰く)。

 

 故に、この3つは侮ってはならない。今回は政宗が個人的にふっかけた勝負であり、最悪の事態は起きない可能性の方が高い。故に、リスキーではないが勝負には勝ちたい。この勝負に勝てたらより一層復讐達成に向かって歩みを寄せる事が出来るだろうしな。

 

 その為にも───勉強しなきゃな。

 否、最早研究にも近いのかもしれない。小岩井や朱里くんにも分かりやすいように噛み砕いた分かりやすい授業をする為には、教科の見直しが急務である。

 

 「......勉強、していくかな」

 

 色々やらねばならない準備がある。自分なりに勉強してテストに万全を期して臨むことは絶対で、今回はプラスアルファで小岩井師匠と朱里くんの勉強を見るための準備をしなければならない。故に、今回はそれなりに時間が惜しいのだ。

 

 「勉強って......何処で?」

 

 「んー、自分の家でも良いが気分を変えてどっか店でやっても良いかもな」

 

 俺が夜空を見ながらそう言う。すると、不意に政宗が立ち止まって俺の両肩に手を乗っける。

 

 「幸村......」

 

 「お?どうした政宗───」

 

 現在の政宗にしては珍しく、少し俯き声色も低い。そんな声色にやや驚きつつも、次の言葉を待っていると、政宗は顔を上げて一言───

 

 

 

 

 

 「早瀬家で、勉強をしないか?」

 

 

 

 

 

 何やら、希望と夢に満ち溢れんばかりの眼差しで俺に提案をした───

 

 

 

 

 

 

 

 ※

 

 

 

 

 

 

 

 一軒家が建ち並ぶ大きな家。マンション暮らしの俺にとってはやや新鮮な光景に苦笑いをしていると、政宗が『早瀬』とネームプレートのある家の門を開き、ドアを開ける。すると、玄関先に広がったのはひんやりとした空気と、まるで心を幸せにしてくれるような良い香りだった。

 

 「おかえりなさいまーくん!」

 

 そして、かなりのハイテンションでこちらに顔を覗かせた政宗の母───傍目から見たら政宗よりも歳下だと思ってしまいそうな人妻、『早瀬絹江』さんに俺達はやや苦笑い。

 

 「あらお友達───ってもしかしてユキくん!?」

 

 「あはは、その呼び方は変わらないんですね......こんばんは絹江さん。相も変わらずお変わりないようで何よりです」

 

 えっと、確か前に会ったのは2年くらい前ではなかっただろうか。兎に角暫く会っていなかったのにも変わらず皺ひとつもない相変わらずの顔つきと身体をしている事に、驚きを隠せないでいるともう1人の早瀬家の住人が2階から何やらドタドタと慌ただしい音を上げて向かってくる。その音の正体が分かった俺は、政宗と勉強する事が決まった時、お土産に買っていった朱里くんオススメのプリンが入っている箱をぶら下げて、待機───

 

 「ユキさんですか!?」

 

 やがて階段から顔を覗かせた美少女に分類されるであろう女の子が階段を降りてきて、最早早瀬家で定番となっているのであろう俺の渾名を発して、ジャンプで階段を4個すっ飛ばしやがった!

 

 「おーう、久しぶりだな。妹ちゃんよ」

 

 「はい!お久しぶりですユキさん!」

 

 この少女の名は『早瀬千夏』。数少ない俺の友達であり、政宗の妹である。良くも悪くも彼女には裏表がなく、好感を持てる故に、俺は幾分か彼女にアッキー同様のフランクな接し方が出来るようになっている。

 

 「ああ......これ、お土産な。絹江さんとご一緒にどーぞ」

 

 さて、先程から俺がここぞとばかりにぶらぶらさせてるプリンの箱を妹ちゃんに渡すと妹ちゃんは涎を垂らしながら目をキラキラさせる。

 

 「うわぁぁぁ!!これ最近流行りのプリンじゃないですか!!流石ユキさん!!何処ぞの馬鹿兄貴と違って流行りに聡い!!」

 

 「そういう裏表のない妹ちゃんの性格......良いね!!」

 

 そう言うと俺達はうぇーい、とハイタッチを敢行する。先程から感じる絹江さんのおっとりとした笑顔と政宗の苦笑いには、勿論スルーを決め込む。だって、反応するのめんどいもん。

 

 「それで、今日はどうしたの?」

 

 絹江さんが俺達に向かって尋ねる。その言葉に反応した政宗は先程からの苦笑いを絹江さんに向けて一言。

 

 「幸村と一緒に勉強」

 

 「そうなんですよ、まさか政宗がそこまで俺と一緒に勉強したかったなんて......」

 

 「え......まさかお兄ちゃん」

 

 「ちっがうから!!俺と幸村はそういう関係じゃないから!!」

 

 全くだ。

 

 政宗と妹ちゃんが何を考えているのかは知らんが、友達を家に招き入れて勉強会なんて、そこら辺の友達なら簡単にやっている事だろうて。

 

 てか、俺も政宗も上田家で何度も勉強しているし、今更恥ずかしがることも、照れることも無いんだよな。なして政宗は一大決心をするかのような表情で俺を家に招き入れたのやら。

 

 「まあ!なら今日は腕によりをかけてお料理を振る舞わなくっちゃ!!ユキくんは和食が好きだったわよね!丁度今日はお魚料理を作ろうと思ってたの!!是非食べてって!」

 

 「そうですよ!お兄ちゃんが友達連れてくるなんて犬がナイフとフォークを使ってご飯食べるより珍しい事なんですから!お兄ちゃんの話、また聞かせてください!」

 

 と、いつの間にやら2人が恐ろしい程の速さで俺に詰め寄る。その速さ、まるで風の如き速さである。見た目ロリっ子の絹江さんとJCの妹ちゃんに詰められている男子高校生。果たしてこの絵面が放送コード的にヤバイかどうかは俺には分からない。そして政宗よ。ここぞとばかりにスマホで写真を撮らないで下さいませんかね。事と次第によっちゃ叩き落とすぞそのスマホ。

 

 「......良いの?家族水入らずの所」

 

 「良いですよ!ユキさんですし!!」

 

 「妹ちゃんはそれでいいんだけど......政宗は?」

 

 幾らなんでも夕食までご馳走になるのは良くないんじゃないか?俺は別に体調管理とかは自分で出来るし、そんな俺が人様の夕食をご馳走になってしまうのはいかがなものかと思うのだが......

 

 そう思い、政宗に懸念事項を尋ねると政宗はわざとらしく、天井を見上げて大声を上げる。

 

 「あ、あー!!そう言えば幸村君今日の朝ご飯何食べたって言ってたかなぁ!そうだ!確か近くのパン屋の食パン1切れ食っただけだって言ってたなぁ!!」

 

 「!」

 

 「!!」

 

 その瞬間、妹ちゃんと絹江さんの動きがピタリと止まる。先程までのわいわいとした雰囲気は何処へやら、暗黒のオーラが妹ちゃんと絹江さんを包み込み、下手したら飲み込まれてしまいそう。

 

 そんな事、梅雨知らずとでも言わんばかりの剣幕で政宗は続ける。

 

 「幸村は俺の勉強を手伝ってくれてるんだよなぁ!!序に言うなら、今幸村が体調不良でノックダウンしたらすげぇピンチなんだよなー!!」

 

 「おい嘘をつくなお前どっからどう見ても成績優秀者じゃねえか!!何を企んでやが───」

 

 「ユキくん?」

 

 「ユキさん?」

 

 その瞬間、俺の身体が自分でも驚く位に跳ね上がった。それは、かつて松姉さんや母さんと会話してきて、このシーンがとっても不味い───ということを知っている俺だからこそ成せる技であるのだが......危機だということを知らせるだけに留まるこの技はさして使い物にはならまい。

 

 そして、この場面をどうにかする方法も依然として分かっていないのだから、もはやどうしようもないというのが本音であり、事実である。

 

 まあ、結論を言ってしまおう。

 

 「今日は、鯖がとっても美味しいの♪」

 

 「ユキさんは、あの馬鹿兄貴みたいに薬の力を使って健康維持───なんて考えませんよね♪」

 

 こうなった時の女の子は、たとえ誰であろうと恐ろしく、大抵の男はこれに対処する術を持ち合わせてないってこった。

 

 

 

 

 

 

 

 ※

 

 

 

 

 

 

 

 「うっぷ......腹、痛え」

 

 あれからの事を話すのは非常に辛いのだが、ありのまま起こった事を話さなければ、またしても昨日の二の舞をキメてしまいそうなので、回想しておこうと思う。

 

 単刀直入に言おう。あれから、俺の胃袋には大好物の和食が流れるように入っていった。夕食の範囲には留まらない程の量を出され、政宗に半ば同情の目付きで見られながらも、ようやっとの思いで完食した。

 

 ああ、確かに夕食を出してくれたのは本当に有難いよ。けどな!あれだけの量を客人に食わすか普通!?

 

 意外なところで『早瀬政宗』のルーツを知ることが出来た俺は未だ痛む胃を抑えながら、教室で牛乳を煽っていた。

 

 「......で、何か言うことはないのか政宗よ」

 

 「......はい、有り体に言って自分マジで調子に乗ってました、すいません。最初は幸村に日頃の恩返しがしたいと思っていた所存で、決して悪意はなかったことを知っていただければ幸いです」

 

 ......

 

 まあ、色々ツッコミたい所はあるのだが政宗も悪気があった訳ではないみたいだし、ここは不問にしたい。

 

 絹江さんや政宗、妹ちゃんの言う通り、食生活を整えることは大切な事だ。ましてやテストが目前に迫り、東奔西走しなければならないこの状況。健康管理に気を遣わなければいけない時に遣わなかった俺にも責任はある。心配してくれた人達を頭ごなしに叱ることは出来ない。

 

 「......ああ、別にいいさ。あれから勉強かなり捗ったし、このままなら好成績は固いと思うし」

 

 あれから、政宗の勉強を見たりしていたのだが安達垣との戦いがあるからなのか、政宗は既に実テ対策に手をつけていた。元々得意な国語、社会等の文系は既に完璧。理科も完璧に近い。テスト2週間前にして政宗の懸案事項は数学のみに留まっている。

 

 とかいう俺も、政宗に教え時に教えられかなり効率的な勉強が出来たと思っている。勉強は2人でやれば効率良く、かつ様々な観点から対策出来るというのは信州で既に実践済みであり、今回も例に漏れず協力しながら出来ているため、『自身』の実テ対策はほぼ完璧だと自己満足している。

 

 とはいえ、油断大敵。こんな時こそ冷静に、客観的に自分を見据え、勉強───そして、自らに課せられたミッションを滞りなく推し進める。幾ら自己満足をしようと、何処かでスイッチを切り替え『油断』、『慢心』はしないように心がけねばならない。

 

『油断怠慢すなわち怠惰!!』

 

 何処からかそんな声が聞こえたが、それに関してはスルーを決め込んでおく。

 

 「それよりも今日はやらなきゃならないことがあるんだからな」

 

 「やることって───」

 

 「忘れたのか?お前が安達垣との勝負を決めた時のアッキーの代替案」

 

 俺が、そう言った途端教室のドアがガラリと開かれる。その瞬間にざわめく教室、溢れ出る感嘆の声。立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は百合の花と形容しても笑われないであろう立ち姿───されど中身は残虐暴虐、男共に恥辱と屈辱をプレゼントしてくれる安達垣愛姫が、俺達の机に向かって歩きだしていた。

 

 「......お宅の朱里小十郎君は必死に机に齧り付いて居るようで何よりだわ。ねえ、家庭教師様?」

 

 己は嫌味だけを言いにここに来たのか。お前が別のクラスの人間の以上、用が嫌味なだけなのならとっとと御退場願いたい所なんだが......

 

 「偉くしかめっ面じゃない、上田」

 

 「一応、上田松華をトレースして最高の笑顔を顔面に貼り付けてる筈なんだけど」

 

 「冗談は休み休み言いなさい。というよりか本当に休んだら?貴方のしかめっ面なんて犬がナイフとフォークでディナーを食べるより珍しいから心配だわ」

 

 犬がナイフとフォークって流行ってんのか、それ。

 

 「それに、貴方が上田家の才媛の真似が出来る訳がないでしょう。まあ、特異性だけで言ってしまえば流石姉弟といった所だけど」

 

 一理ある。

 

 「......アッキー」

 

 「何か?」

 

 「ディナー3人前って平らげられる?」

 

 「淑女の嗜みね」

 

 「へっ」

 

 「鼻で笑うんじゃないわよ変態紳士」

 

 閑話休題───

 

 「今日の予定を伝えておこうと思って」

 

 「ああ、あれな。あれあれ。大事だよなあれ」

 

 「『あれ』を連呼すんじゃないわよ鬱陶しい......今日は私の家で吉乃と勉強して貰うから」

 

 何だと?

 

 おめー正気か。

 

 「アッキー、念の為聞くがお前正気か?男を自分の家に上げて良いのか?」

 

 「別に私の部屋に呼び寄せる訳じゃないんだから良いわよ。それとも、断る気かしら?」

 

 おー......

 

 なんというか、ここまで来たら最早アッキーに畏敬の念を感じてしまう。

 どんな奴だろうとも、自分のパーソナルスペースとも呼べる家に異性を招待するのには勇気がいるはずなんだけどな。いや、確かに俺とアッキーは言ってしまえば社交界からの付き合いだし、アッキーにとっては抵抗なんてないんだろうけどさ。

 

 「そこまで言うのなら、分かったよ。で......小岩井さんは、何処がダメなのかね?」

 

 そう言うと、安達垣はニコリと笑って一言───

 

 「全部よ」

 

 「良くこの高校受かったなぁ畜生!!」

 

 朱里くんも怪しければ小岩井も怪しいと来た。こうしていられる場合では無いと悟った俺は内心安達垣に悪態を吐きながら立ち上がる。

 

 「安達垣、今からA組に行くぞ」

 

 「何ですって?貴方一体何をする気よ」

 

 んなの決まってるだろ。

 

 「小岩井の学力を何とかすんだよ。何処かの誰かさんはそうでもしなきゃフェアじゃない、なんて言うんだからな」

 

 何なら俺参加しなくて良かったんじゃね?なんて思う事もあるけれど、今更考えた所でもう遅い。政宗VS安達垣のテスト対決は既に『上田幸村を扱き使う』という条件の元成り立っている。その条件が決まった以上、俺に逃げるなんて選択肢は無くて、朱里くんに力を貸し、小岩井さんにも協力しつつ、政宗の指導力に賭けるという選択肢しかないのだ。

 

 詰んでないだけマシである。まだまだチャンスはあるにはあるし、これでどうこうなるという事でもない。二度と振り向いて貰えない───なんて最悪の事態は起きないのが幸いか。

 

 「ぐ......悪かったわね、流れよ流れ」

 

 「その流れで煽られにいっちゃうってのがなぁ......まあ、良いや。それじゃあ、政宗。また後でな」

 

 「おう、頼んだぜ幸村」

 

 「任せろやい」

 

 そうして、俺と安達垣はA組に向かって歩き出す。並んで歩いているこの状況、周りからは酷くキモがられてるのか、悲鳴にも近いざわめきが俺と安達垣の周囲を襲う。勘弁してくれ、釣り合わないのは分かってるんだ。安達垣みたいな可愛い女の子には、政宗みたいなイケメンが似合う。

 

 「......鬱陶しい」

 

 「まあ、なんだ。俺が釣り合わないせいで悪いな」

 

 そう言うと、安達垣は有り得ないような物を見る様な眼差しで俺を見遣る。なんだ、変なことでも言ったか俺。

 

 「貴方、何か盛大な勘違いをしていない?言っておくけど貴方は学年......否、校内でも顔は良い部類に入るって前にも言ったわよね」

 

 ああ、確かそんな事も言ってたなぁ。

 

 「そして、俺は『面白い冗談はよせ』と言ったんだよな」

 

 「冗談じゃないっての......ったく、貴方に1度私に告白してくる男の顔を見せてあげたいわね」

 

 「はぁ」

 

 「......まあ、良いわ。どうせ追追貴方の考えが盛大な間違いだって事に気が付くだろうし。それよりも吉乃の学力よ」

 

 「改めて聞くけど、そんなに酷いのか?」

 

 「ええ、酷いわ。この前なんて因数分解を『なんでぶんかいしなきゃいけないんですか?自然のままにしてあげれば......』なんて言っていたのよ。何故分解するかなんて公式だからに決まってるでしょうが、馬鹿吉乃」

 

 「ん?それは学生が突き当たる壁だろ?」

 

 「常識なの!?吉乃が因数分解以前の壁にぶつかるのは最早当たり前なの!?」

 

 「当たり前っていうか......まあ、なんだ。俺もぶち当たった事あるから気にすんなよ」

 

 「分からない......本っ当に貴方って分からない......何で吉乃と同レベルの壁にぶち当たった貴方が編入試験満点なのよ......」

 

 それは、ごめんなさい。前世の知識として勉強の必要性を感じた賜物です。

 

 「人は、努力すればどうとでもなるぞ」

 

 現に政宗は現状を変えるべく努力した。そして、その真摯でひたむきな姿に魅せられた俺も、努力して自分の心の在り方を変えた。

 自分で言っておきながら成功体験に裏付けされた一言に軽くドヤっていると、今の今まで散々噛み付いてきた安達垣が、自身の顔に少しだけ影を落として一言───

 

 「......どうにもならない事だって往々にしてあるわよ」

 

 そう言って、すぐ様俺を睨み付けた。

 

 「......そうかい。そりゃあ、済まなかったな」

 

 知ったような口を吐いてしまったな。人なんて千差万別。他人の考えも千差万別。自身の成功体験にかこつけて考えを押し付けるのは浅ましい行為である。

 

 反省しなければならない。

 

 「ただ、そういう考えもある......って事でここは1つ、勘弁してくれ」

 

 「......別に謝ることなんて何一つないわよ。寧ろ謝られた方が吐き気がする」

 

 最後にそう一言だけ安達垣が言うと、彼女は立ち止まり俺に颯爽と振り返る。その1連の動作で髪は靡き、俺は改めて安達垣愛姫という女の子が眉目秀麗という事を思い出す。

 

 「勉強」

 

 「?」

 

 「教えるんでしょう、吉乃に。早く入りなさいよ、ここがA組よ」

 

 そうだった。

 

 彼女の靡く髪に、見入ってしまって本来するべき筈の約束を忘れかけてしまっていた。

 

 「全く......貴方って男は、本当に抜けてて、間抜けで、阿呆で───」

 

 尚もガミガミ言い続ける安達垣。それに応えるべく、俺は安達垣を見て、ニヤリと笑う。

 

 「......そりゃあ、俺は変態紳士ですから」

 

 不本意だが、こうなってしまった以上彼女が次に発するべき言葉は分かっている。

 そして、その予想は当たったようで安達垣は相変わらずの怖い目付きを送りつつも、呆れたように笑いつつ───

 

 

 

 「分かってるじゃない、変態紳士」

 

 そう一言、俺を罵りやがったのさ。

 

 

 

 

 

 




「勝手に分解すんなよ 自然のままにしておけよ」

これ分かった人は同志ですね。実は前々からこのネタを使うことは決めていました。

さて、次の投稿日ですが少し分かりません。

新生活に入り、色々ドタバタしてまして。こうして文字打っているこの時も電車に揺られうとうと.....文字打ち間違えてないか心配です。

また、アンケートありがとうございました。放置してたら自由以外の3つは結構バラけてたのでビックリ。様々な意見の人がいるのと同時に、この作品を少しでも見てくれているんだなぁと嬉しくなりました(意味不)

見る限り自由が1番多かったので自由にやらせて頂きます。てか、先ずは原作2巻終わらせにゃ.....




藤ノ宮を早く出したいんじゃあ(願望)!!
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