ゼロから始まる俺氏の命   作:送検

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注意!

この先、オリキャラ登場からのオリジナル展開という名目の茶番が用意されています。今更ではありますがオリジナル展開、オリキャラに免疫のない読者様にはブラバを推奨します。

いや、本当に許してください.....名前とか色々安直なのは分かってるけどどうしても出したかったんや。


このお詫びは、違った形でちゃんと出させて頂きますので。



第26話 安達垣

 

 

 

 

 

 「クリミア戦争が行われた年は?」

 

 「......せ、1192年」

 

 「間違えています。暗記してください」

 

 「......あたまがパンクしそう」

 

 

 さて、時は過ぎて放課後。

 

 俺は何時もは政宗と帰るであろう、帰宅ロードを今回はアッキーと小岩井と共に歩いていた。

 目的地は安達垣邸。普段とは違う方向に歩くのは不慣れで少し足下が覚束無い気がするのは果たして俺の気の所為なのかな。

 

 「全く......何で私まで単語帳を一読しなければならないのよ。上田は私を何だと思ってるの?」

 

 「馬鹿、誰が一読しろっていった。この単語帳を小岩井に分かりやすく伝えるにはどうしたら良いのか考えろって言ったんだろーが」

 

 「馬鹿......!?言ってくれたわね上田!!見てなさいこんな単語帳直ぐに覚えて八つ裂きにしてやるから!!」

 

 こういう時、アッキーは単純でやりやすい。

 でも、折角作った単語帳を破り捨てるのは止めて。謝るからさ。

 

 「......上田、何故私にそこまで勉強を教えるの」

 

 安達垣が先導し、ご飯を食べる時と同じ食い入るような目付きで単語帳と睨めっこしているその後ろで小岩井が俺にそう耳打ちする。

 

 「何でって......言ったろ。小岩井にも赤点から抜け出して貰わないとって」

 

 「───それでもこの量はおかしい。まるで私に100点でも取って欲しいかと言わんばかりのプレッシャーをこの単語帳からはかんじる」

 

 それは、お前さん、今まで怠惰に過ごしてたからだろ───なんて冗談は頭の中に閉まったままで、俺は小岩井を見て、吹き出す。

 

 「......なにがおかしい」

 

 「いや、深い意味はない。けど勝負ってのはお互いフェアじゃないと詰まらないだろ?」

 

 「それは───」

 

 「実はさ、俺ってこの勝負。政宗側が絶対に勝つ必要性ってのはないと思うんだ」

 

 その一言に、小岩井は目を細め俯く。その心理は分からないけど、反抗をしてこない以上俺の言わんとしていることは分かっているのだろうか───

 

 「今回のテストは豚足側にはデメリットがない。失敗した所で愛姫さまが何かアクションをおこす訳でもない......上田の言わんとしている事は分かってる」

 

 案の定そうだった。

 本来なら『良いって言うまでご飯を奢れと言われる未来』もあったのだろうが今回は安達垣愛姫側は何の指令も出していない。小岩井の言う通り『政宗にデメリット』がないのだ。

 だからこそ、他のことに手を回せる余裕が出来る。そして俺が考えたのは今では政宗側の『参謀』といっても過言ではない小岩井の学力向上だ。

 

 「小岩井には、これからも政宗の力になってもらいたい。それなのに赤点で補習───この先のテストでも苦労、なんてことになったら今後の復讐に支障を来すだろ。下手したら、高校卒業しても続くやも分からんからな」

 

 俺達の復讐は、特にここまで───というボーダーラインは決めてはいない。強いて期間を挙げるとするならばそれは『早瀬政宗の気が済むまで』である。

 政宗の気が済むまでなら、俺は何処までも着いていくし安達垣へのアプローチも止めない。

 

 そんな時、小岩井が留年───なんてことになったら俺達は大打撃を受けることになる。それは、政宗に協力する俺にとっては少しばかり頂けない。

 

 「だから、さ。ここは俺の顔に免じて勉強に集中してくれやい。政宗の事なら心配ねえよ、アイツは教えることに関しては俺やアッキーを優に超える力を誇るからな」

 

 昔から成績優秀者として名を連ねた政宗だ。

 地頭はしっかりしているし、教えるのも普通に上手い。適度に根性もあるし、将来は教師にでもなったら良いんじゃないですかね、割とガチで。

 

 「......後で、覚えておいて」

 

 単語帳を一頻り読み終わった小岩井はそう言うと、2冊目の単語帳に目をやる。小岩井の実テ対策は今のところ滞りなく進んでいると言っていいだろう。

 

 問題は───

 

 「だぁぁ!!何よこの単語帳!!生意気ね!!私を困らせた罰よ......変態紳士の腕から作られたアンタには『変態単語帳』の2つ名を進呈してやるわ!!」

 

 この、単語帳にあだ名を付けてるヤベー奴である。

 

 

 

 

 

 ※

 

 

 

 

 

 「お前はさ、他の奴らの勉強を手前の頭で教えすぎなんだよ」

 

 安達垣家に着いたと同時に、使用人に迎えられながら開口一番に俺は安達垣にそう言った。

 

 「......どういう意味かしら」

 

 「お前の事だ、小岩井に勉強を教えている時も自分なりの勉強法をそのまま小岩井にやらせてんだろ?」

 

 そう言うと、安達垣は暫しの間無言で小岩井を見遣る。その瞳はまるで『合ってなかった?』とでも言いたげな目線である。

 そんな瞳に晒された小岩井は縦に頷いて一言。

 

 「むずかしかった、です」

 

 小動物のような瞳で、小岩井は猫を被った。

 

 「......なら、どうしろっていうのよ。因数分解が出来ない子にどうやって因数分解を教えるの......?」

 

 それは簡単だ。

 

 「因数分解を完璧に教えようとしなければ良い」

 

 「......遂に頭までおかしくなった?」

 

 「いやいやいや、寧ろ不思議だよ。どうしてアッキーは小岩井に因数分解を完璧に教える事に躍起になっているのか。今回は実テだぜ?今まで習った全範囲が出てくるんだぜ?そして、時間もあまりない.....小岩井、お前が掴みかけてる単元は?」

 

 「正負の計算と......方程式?」

 

 「なら、先ずはそれをある程度終わらせてから因数分解だな。アッキーによるとお前さん因数分解壊滅的らしいし」

 

 「......分解しなきゃいけないところまでは分かってる」

 

 「安心しろ、世の中じゃそれを壊滅的って言うんだ......と、いうわけで今日はアッキーは俺の二人体制でを数学公式のイロハを叩き込もう。アッキー、よろしくな」

 

 「......ええ、ただ他の教科はどうするのよ」

 

 「大体やり口は決まってる。理科は元素記号、実験器具を丸暗記。社会は範囲が日本史だから、単語暗記。英語も英単語暗記。国語は漢字練習」

 

 「殆ど暗記系!?」

 

 「だからアッキーに5教科の単語帳渡したんじゃん。勿論一教科は網羅してるよね?天才アッキー」

 

 「アンタは私を一体何だと思ってるの......!?」

 

 アッキーが頭を抱えて単語帳を片手で握り潰す。とはいえども女の子に何十枚も重ねてある紙を握りつぶせる程の力はなく、それが余計にむしゃくしゃさせたのかアッキーは俺を鬼のような形相で睨み付ける。

 

 「上田......後で酷いわよ」

 

 「あはは、面白い冗談だな。まあ、取り敢えず暗記頑張れや」

 

 「あああああ!!!」

 

 最後に一声を上げてアッキーは目の前の課題に対応すべく、机にかじりつきはじめた。大丈夫、これを暗記すればアッキーも点数を取れるようになるから。政宗と良い勝負できるから安心しろやい。そして、その努力がお前さんの使用人の学力向上に繋がるんだ、ファイトだぜアッキー。

 

 「変態、Spring has comeの訳し方は?」

 

 「因みにお前はどう思う?」

 

 「バネ持ってこい」

 

 「単語帳暗記しろポンコツメイド」

 

 それは『春が来た』って言うんだよ。

 

 

 

 

 

 

 ※

 

 

 

 

 

 

 尚も俺達の小岩井に対する講義は続いた。

 

 時に安達垣が公式を小岩井にこれでもかと言わんばかりの大きさでノートに書き込み、叩き込ませ。

 俺は小岩井にひとつひとつ丁寧に解答方法を教え、時に自らの身体を張って、小岩井に数学のイロハを叩き込んだ。

 

 そして、本日最後の日程である模擬試験。

 

 予め空き時間を使って作り上げた問題を小岩井が解いている最中に安達垣が俺をまたしても『じー......』と擬音が付くかのようなジト目で見遣る。

 

 なんだいロングストレートヘアーのアッキー。俺の顔に何か付いているかい?

 

 「......貴方は、真壁の協力者なのよね?」

 

 「違いないな」

 

 そして、復讐者でもある。あ、違うか。復讐者の政宗を助ける人だから復讐ヘルパーとでもいうべきなのか......否、ダサいぞ上田幸村。それなら普通に協力者って言った方が良いよ。

 

 「なら、どうしてここまで吉乃を教える事に躍起になっているのよ」

 

 そりゃあ師匠が俺達の仲間だからなぁ......けど、そんな事を言った日にはアッキーに俺と政宗の考えている事がバレる可能性がある。

 アッキーって、普段はポンコツで鈍いのに誰かにヒントを与えられると途端に鋭くなるんだよな。だからヒントを与えるような発言は出来やしないし、迂闊に核心に迫る話も出来ない。

 

 そういう意味では政宗との歪な関係をアッキーに悟らせない小岩井って凄いんだよな。

 それにも関わらず、その優秀さを学力の方に回せないのはやはりセンス───といった所なのだろうか、若しくは長らく使用人としてアッキーファーストで物事を考えてきた代償か。

 

 「......まあ、命令された以上はとことん突き詰めていく───とか綺麗事なら後5つくらいストックしてあるんだけど、聴きたいか?」

 

 「核心を言いなさい、面倒臭い」

 

 なら、お言葉に甘えて───

 

 「勝負は、白熱するからこそ面白い。政宗に勝って欲しい気持ちはあるけれど、イージーゲームに得れるものなんて何も無い。対等な勝負で、勝って、両者納得の上でデートした方が、良いに決まってるから」

 

 「......へえ、つまり貴方が全面的に真壁に協力したら私達なんて簡単に蹴散らせると?」

 

 「あんまり政宗を舐めない方が良いぜ、安達垣。アイツはやる時はやる男だ。お前が舐めてかかって勝てる程真壁政宗は弱くない」

 

 「......分かっているわよ。だからこうして変態単語帳を読み耽っているんじゃない」

 

 それはごもっともで。

 

 「......それに、どんな勝負でも負けたくはないから。全て真壁の思い通りになるっていうのも、それはそれで癪だし」

 

 「つまりデートをすることに関してはあまり嫌悪感を示さないと。ひゅー、アッキーったら大胆ー」

 

 その瞬間、俺の太腿に衝撃が走る。あまりの威力にやや吹っ飛ばされる形で膝をつき、苦悶に悶えつつも衝撃が起こった方向───横を見遣ると、そこには『残虐姫モード』の怖い怖いアッキーが睨みを効かせて立っていた。

 

 「痛いです、アッキー」

 

 「なら突拍子もなく愚かな事を言うのは辞める事ね、シンシ・ヘンタイ」

 

 外国人みたいに変態紳士言うのやめーや。それ前も言ったよな?

 

 「俺は愚かな事を言った覚えはないんだがな」

 

 「なら、逆に聞くわ。仮に貴方が朱里小十郎とデート───という根も葉もない噂を回されたらどう思う?」

 

 「死んで欲しいと思う」

 

 「奇遇ね、私も同じよ。根も葉もない言葉を並べられればそりゃ腹も立つし蹴りたくもなるわよ」

 

 そう言って再度俺の太腿を蹴ろうとしてきた安達垣の足を華麗なステップで躱し、お互いがお互いを睨みつけていると不意に部屋の窓が開く。

 

 「お嬢様方、当主様がお帰りになられましたが......取り込み中でしたか、失礼しましたー」

 

 煙草を蒸かしながら、そう言ったメイドに俺達はお互いの顔を緩和させて、笑顔を見せる。

 

 「そんな事ないっすよ!いや、割とマジで生命の危険を安達垣さんから感じていたので助かりました!!」

 

 「そ、そうよ成乃!別に私達取り込んでなんかいないから!寧ろ険悪過ぎて取り込む余地も無い位ギスギスしてるから!!」

 

 「世間じゃそれを取り込み中って言うんじゃないんですかね......」

 

 メイドさん......改めて成乃さんがそう言うと、俺達は同時に言葉に詰まる。確かにそうだった。あまりの白熱具合に、冷静になれずにいた。てか、アッキーのハイキック痛い。

 

 そう思い右の太腿をさすさすしてアッキーに冷たい目で見られていると、ふと成乃さんが目を見開く。

 

 「......いや、失礼しちゃダメだったか」

 

 「え」

 

 「上田様、当主様がお呼びです」

 

 「ええっ......?」

 

 俺は一体安達垣家になんの用事で来たんだろうな。少なくとも最初はアッキーと小岩井の勉強指導で来たはずなんだけど、何が2転3転して安達垣家の当主と会話するっていう無理ゲーに参加せにゃならなくなったのか。

 

 ほとほと俺には意味不明である。

 

 「......ちょっと待ちなさい成乃。この男は一応、私が勉強指導の一環として呼んだ客人で、直に帰宅する予定よ?それを突然帰ってきたあの人が呼び出す───なんて事はあまりにも失礼ではなくて?」

 

 「はあ、そうは言いますが既に客人をもてなす───という前提で話が進んでしまっています。夕食もお作りになっていますので、どうにも私の一存のみでは」

 

 そう言うと、成乃さんは俺を見る。その瞳は、半ば懇願のような瞳。その視線に、痛めた胃を抑えつつ悩んでいるとアッキーが俺を見て怒りの眼差しを向ける。しかし、その怒りは俺に向けられてはいないらしく───

 

 「上田、貴方が呼び出しに応じる義理はないわ......今日は体調も悪そうにしていた、無理なんてせずに速く帰りなさい」

 

 珍しく、アッキーが俺の身体を心配してくれていた。なんだろう、復讐対象に心配されるのはなんとも情けないのだが。

 

 「......大丈夫だよ。それくらいなら構わないさ」

 

 「けど───」

 

 「アッキー。俺は政宗の親友とか、アッキーの勉強仲間とか以前に、上田家の人間だ。上田家の人間が安達垣家のお誘いに参加しないとなりゃ......俺が本家にドヤされんだからな」

 

 親父も昌暉さんもアレで自由奔放な人達だから勘違いしがちだけど、あの家はあの家で一応社交界では名の知れている名家だからな。特に、今の当主である祖父はかなり厳つい人である。あの怖さは体験した人にしか分からない。初対面で俺、小便チビりそうになったんだからな。

 

 そんな厳つい人が俺の後ろにいる以上、恥ずかしい真似も出来ないというのが『俺』の現状である。

 食事は用意されている。

 会話もしたいと当主が仰っておる。

 なら、俺がしなきゃいけない事ってのは大人しく安達垣家と会話して、この場を乗り切る事なんだよなぁ。

 

 「......なら、成乃。今からでも出来るだけ胃に優しいものを用意しなさい」

 

 「アッキー、別に俺は......」

 

 「客人に無理を強いて病院送り───なんて事になった日には安達垣家の名が廃るわ。貴方は黙って胃に優しいものを流し込んで、会釈をすることに集中なさい」

 

 そう言ってメイドの成乃さんに指示を出すアッキーには有無を言わせぬ迫力と気魄を感じた。それ故に、俺はアッキーに反抗することもままならず、苦笑いでその場に突っ立っていた。

 

 と、不意に制服の袖に重みが増す。重力の向かう方を振り向くと、そこには頭を使ったことにより先程まで机に顔を埋めていたポンコツメイド小岩井吉乃がいつの間にか立っていた。

 

 「上田、気を付けて」

 

 「因みに聞くが、何を?」

 

 「安達垣様は、かなりの切れ者。うっかり口を滑らせて余計な事を吹聴しないようにしてほしい」

 

 「......ああ、なんだ。そんな事かい」

 

 「そんな事って、上田。真面目に───」

 

 「俺、これでも上田の長男なんだから。絶対にお前等の弊害になるような事はしないから、安心しろ」

 

 語調を変えて鋭い目を向ける小岩井に笑みを見せる。俺は大丈夫───なんとかなる、という意志を言葉で表示し、俺は改めて成乃さんへ話しかける。

 

 「何処に向かえば?」

 

 そう尋ねると、成乃さんは気だるげな視線をこちらへ向けつつ、無機質な声で言葉を発する。

 

 「案内します」

 

 「よろしく」

 

 ドアを開いて歩き出した成乃さんに付いていく形で、俺は部屋を後にした。

 

 

 

 

 

 廊下を歩いている最中、様々な人達が右往左往しているのを見て、若干苦笑いをしてしまう。状況を見るに、急な予定変更に慌てている───といったところだろうか。

 

 「料理の注文は御座いますでしょうか」

 

 「ないっすよ。出されたものなら有難く頂きます」

 

 流石にこの状況で料理のリクエストをする程の勇気は俺にはない。本来なら腹には何も入れたくない気分なのだ。

 

 「助かります」

 

 「いえいえ、寧ろすいません。突然押しかけて夕食までお世話になってしまって」

 

 そう言うと、成乃さんは無表情でただ一言のみ。

 

 「仕事、ですから」

 

 そう言って、先を歩いていった。

 

 小岩井家というと、家令の道の中ではかなり有名な家でもある。そんな小岩井家の中ではこういうのは当たり前なのか。

 そして、気だるそうなオーラを振りまいているのも、小岩井家特有の遺伝的気質なのだろうか───なんて、内心どうでも良いことを考えつつも、俺は階段を上り、目的地へと近づいて行く。

 

 「着きました」

 

 やがて、目的地へと着いた成乃さんは横に退きドアを開けて、その先の安達垣家当主が待つ夕食場へと誘導される。

 

 相手は招待者だ。故に、俺は背筋を伸ばしらテーブルの先を見つめた。

 

 

 

 「やあ、上田幸村君」

 

 視線の先には安達垣家当主。安達垣泰輝が玉座に座る王の如く、屹立していた。

 眩く光るオーラに、黒のスーツをビシッと着込んだ大男。そして、イケメン。スター性というのはこういう事を言うのだろうかな。

 

 「......どうも」

 

 「ははっ、何時も愛姫がお世話になっているね。私自身、上田家には随分とお世話になっているからね。これも何かの縁だ。これからも娘をよろしく頼むよ」

 

 よろしく、ね。

 

 こちとらアッキーに一泡吹かせてやろうと画策する復讐者な訳なんだが表面上だけでも取り繕った方が良いのだろうか。否、俺も馬鹿な事を考える。

 

 「......はは、まああのゴルフ狂人に貴方のような友がいた事は驚きましたが」

 

 「ははっ、酷い物言いだね」

 

 「家庭での父を知らないから酷いと思えるんですよ」

 

 まあ、大して気にしては居ないけど。恐らく上田昌幸を以てして、友達になれない奴なんて数少ないだろう。ならば、このスーツを着込んだ大男───安達垣泰輝が上田昌幸の友人だろうと言われてみればおかしくはない。

 

 「それよりも......本当にキミはかつての昌幸に似ているね。目付きから顔立ちまで......いや、顔のパーツは薫さん似かな?」

 

 「人の顔をまじまじと判別するもんじゃありませんよ」

 

 「おっと、それは失礼したね。懐かしい顔を見たものだから、つい......ね」

 

 そう言うと、安達垣泰輝はこちらを見て少しだけ申し訳なさそうな笑みで俺を見る。そんな瞳に晒された俺はその意図を考えつつも、今こうして安達垣泰輝に呼び出された理由というのを考えてみる。

 

 「まあ、立ち話もなんだ。今夜はご馳走するよ、是非座り給え」

 

 ああ、そうだった。

 

 こちとら絹江さんの晩飯のおかげで胃が荒れているのだが......既に前菜が向かいの机に用意されているって事は、俺がご馳走になるのは規定事項。逃げも隠れも出来ないって事なのか。

 

 こういった時、客人は無力である。善の押し売りだろうとなんだろうと出されてしまったものには手をつけなければ失礼に値する。故に、こういう時予め客人には選択する余地がある筈だし、その時に限り『拒否権』というのも行使できる筈なのだが───

 

 「どうしたんだい?早く座ると良い」

 

 「......では、お言葉に甘えて」

 

 安達垣泰輝は、多くの会社を経営する安達垣グループの代表取締役社長である。故に、なりふり構わず人をディナーに誘いたい時、自分が家令にどんな命令をすれば立ち止まってくれるのかをよく知っている。

 

 出された物は残さず食べる───

 

 そんな常人にできるマナーを犯すなんてことまさか『上田』に限って......ないよね?

 

 そんな無言の圧力をかけられているような気すらして俺は思わず目の前の男に戦慄を覚えてしまっていた。

 

 結局、俺は安達垣泰輝の厚意(命令)に従い着席する。目の前には、スープ。見るからに上等なポタージュが俺の前にあった。

 

 「安心したまえ、キミが腹痛を起こしているという事は既に娘から伝えられている。出来るだけ腹に優しいものを用意してもらっているよ」

 

 「......有難う御座います」

 

 「客人をぞんざいに扱うような真似はしないよ。尤も、既にキミには無理を強いているんだけどね」

 

 分かっているようで何よりだ。今夜は何も腹に入れたくない気分だったのだからな。

 

 スープを啜りながら、安達垣泰輝の様子を見遣る。しかし、直ぐに話す───といった様子はなく、俺を見遣ることもなく、上品に前菜を召し上がってやがった。

 

 この人は俺に何を言いたいのだろうか。そう思いながらチラリと安達垣泰輝を見遣ると、不意に視線が合った。

 

 「......おや、失礼したね」

 

 「別に。こちらこそ失礼致しました」

 

 「畏まらなくても良いよ。普段の幸村君は、高貴な立ち振る舞いを見せつつも何処か適当で、ぞんざいな雰囲気を醸し出していたように見受けられるからね」

 

 「......あの、俺と安達垣さんって初対面ですよね?」

 

 そんな人がなして俺の雰囲気を知っているんだ?物知りが1周回って気持ち悪い。ストーカーレベルで気持ち悪い行為をしているのを理解しているのだろうか。

 

 「うん。けれど、キミの話はよく聞くよ。『目付きの鋭い男』、『気だるげな男』、『藤ノ宮のお嬢様の許嫁』......他にも色々噂が立っているんだけど、聞きたいかい?」

 

 「聞きたくもないです。というか、目付き、気だるげ云々は兎も角藤ノ宮の許嫁ってなんですか。噂が独り歩きしてますよそれ」

 

 迷惑な噂もあったものだ。確かにパーティやら何やらで藤ノ宮と話したりする機会は頻繁にあったが、別に俺と藤ノ宮は付き合ってなどいないし、許嫁等以ての外だ。その噂のせいで藤ノ宮にまで迷惑がかかったらどうするんだ。社交界は根も葉もない噂を立てるような奴らの集団なのか?もしそうだとしたら社交界なんて、2度と関わりたくないんだけどな。

 

 「ふふっ、まあ今回に限ってはその話は別に大した事ではないんだ。今日は、キミにちょっとしたお願い事をしたくて食事に招待したんだからね」

 

 「お願い事......?」

 

 そう言うと、安達垣泰輝は頷きやや真剣な目付きとなり声を発する。

 

 「薫さん......キミのお母さんに、御礼を言っておいてくれないだろうか」

 

 「......それは、自分で言うってのが筋じゃないんですかい」

 

 「私だってそうしたいさ。けれど、私は1度彼女の信頼を裏切った身だ。そう易々と顔を出せる程面の皮は厚くないんだ」

 

 そう言うと、安達垣泰輝はこちらを見て笑顔を止める。その顔つきは今までの世間話を止め、本題を話す───という意思表示にも見て取れた。

 

 「私と妻は、離婚した......というのはキミも知っているのではなかろうか?」

 

 「......まあ、知ってはいますよ」

 

 実際に会ったことはないんだけどな。そもそも安達垣泰輝とまともに話をすること自体が初めてだからな。

 けれど、安達垣泰輝とその妻の仲が冷え切っていた───というのは社交界では専ら噂されていた。

 極めつけには上田松華の人脈によるニュースだ。あれはまあ、執拗い程に言われてたから覚えてたってだけで特に今までアッキーと関わることで意識なんてものはしてなかった。

 

 「彼女には多大な迷惑をかけた。そして、彼女自身私と会うことは本意とは思っていない筈だ。友人と離婚した男の顔なんて、見たくないだろうからね」

 

 「......成程、貴方には母がその程度の器の人物だと思っていると?」

 

 その言葉に、安達垣泰輝の食の手が止まる。それと同時に鋭い目付きを俺に向ける。

 

 「世間一般の常識を言ったのみだ」

 

 「なら貴方は上田薫という人物を侮っているんでしょうね。否、気付いてない振りをしているだけだ。仮にも社交界で何度も顔を合わせているのなら母が世間一般のそれに当てはまらない事くらい分かるでしょうに」

 

 一体安達垣泰輝は上田薫に何をしたのか───というのは知らないが、上田薫は何より遠回しな発言、意思表示を嫌う人間である。冷静沈着な物腰とは裏腹な豪胆さ。そして、ストレートに何かを伝える意思の強さ。それらを含めた女が、上田幸村と、上田松華の母である上田薫なのである。

 

 ハッキリ言おう。

 

 「第三者を介した発言は逆に母を怒らせますよ。貴方が母とどれだけの関係なのかは存じませんが、今一度母に対する対応を御一考なさっては如何でしょうか」

 

 その時の俺が、一体どんな顔をしていたのかは分からない。大体、俺も上田薫という母に関して全てを知っている訳では無いのだから。

 それでも、その時安達垣泰輝の目が少しだけ見開いたって言うのは確かで。その瞳に対して俺が何を思うこともなかった───というのも、また確かな事実であった。

 

 結局の所、他所は他所である。安達垣泰輝が何をしようがこちらとしては知ったことではない。故に、アドバイスはするがそこから先の展開の興味は、はっきり言って皆無だ。今の俺は、真壁政宗の協力者。それが藤ノ宮や、小岩井、朱里君等の悩みとかは兎も角、安達垣泰輝の家庭の事情にまで興味は持てない。

 

 だからこそ、俺は安達垣泰輝に言いたいことは言う。しかし、その後は知らん。そんな面持ちでアドバイスのような何かを送った。

 そして、安達垣泰輝は目を見開き───それと同時にニコニコスマイル。どうやら怒りを買った訳では無いようで安心した。

 

 「......上田の人間は、本当に私に特別な何かを体験させてくれるね。私の目が節穴だと宣ったのは後にも先にも上田家の人間のみだ」

 

 「俺は節穴だとは言ってないんですがね。それに、俺は上田家の人間の中じゃ落ちこぼれですから」

 

 上田家の人間に総じて言える事は、奴等はどんなものも容易くこなしてしまうエリート集団ということである。

 そして、そんな奴等が通るレールのような何かを俺は例に漏れずに歩んでいる───という風に周りの人間は思うだろう。

 

 けれど、本質は違う。

 

 俺は『転生者』。そして前世の知識から何が大切なのかというのを知り、家族や、他人から人としての大切なものを教えて貰った『凡人』だ。

 天才は、物事を言われずともこなしてみせる。

 凡人は、言われなきゃ分からない。

 

 その差が顕著に現れてるのが、俺......上田幸村と、上田松華だと思うんだけどな。

 

 「節穴と宣ったも同然だ───あんな含みのある言い方をされたらな。ただ......悪い気はしないよ」

 

 節穴と言われて悪い気がしないだと?

 

 さては、あんたドMか?

 

 そんな意図を孕んだ俺の細い目を、安達垣泰輝は華麗にいなし、更に続ける。

 

 「キミは、自分を天才じゃないと宣うけどね。じゃあ何故私や娘はキミを認めているのかね?何故、社交界では『上田幸村』を賞賛する声が聞こえるんだろうね?」

 

 「知りませんよ」

 

 「なら、答えよう。それは、周りがキミを天才と認めているからだ」

 

 随分と平易な答えだな。こちとらもっと予想外の答えを言うのかとばかり思ったのだが。

 

 「天才か凡才かどうかは他人が決めるものだ。自己評価なんてものは自己満足のバロメーターでしかならない。客観的な評価こそが、自身の立ち位置を決める一手になるんだよ」

 

 「......貴方のその評価が過剰評価なんてのは?」

 

 「仮にそうだとしてもだよ。持て囃され、思い上がる事は愚かだが、そう思われているということは優秀だと感じられているということ。光栄な事じゃないか、少なくとも私はキミが天才だと感じ、それに思い上がることなく普段通りのそれを発揮すると信じている」

 

 「......そうですか、そりゃ随分と重い期待な事で」

 

 これ以上、天才か天才じゃないかを議論したところでそれは水掛け論にしかならない。そもそも俺には『天才』とか『凡才』とかに大したこだわりはない。周りが天才だと宣うなら勝手に流してしまえば良い。俺はその尽くを受け流して見せようではないか。

 

 暫しの間、無言が空間を支配する。が、それも束の間。安達垣泰輝は俺にニコリと笑みを浮かべて矢継ぎ早に問いかける。

 

 「藤ノ宮のお嬢様と懇意にしているらしいじゃないか。婚約してるのかい?」

 

 「していません」

 

 そりゃ残念だ。と安達垣泰輝は更にスープを啜った。その食べ方の上品さとは裏腹にその笑みは少年の心を弄んで楽しんでいるようにすら思える。

 

 「恋の話なんて娘とは一切していなくてね。そもそもその為の時間を取ってすらいない」

 

 「......で、その鬱憤を俺に当てたと」

 

 「まさか。純粋な興味があっただけだよ。実際の所はどうなんだい?」

 

 その問いに、俺は少しだけ頭を悩ませる。

 藤ノ宮寧子。

 俺『上田幸村』にとっては唯一無二、かけがえのない存在。彼女がいなければ今の俺はないとも言える。

 

 ただ、その存在がLOVEかといえばそれは疑問詞を浮かばせざるを得ない。

 確かに藤ノ宮は可愛いと思う。何度もドキリとさせられた事もある。けれども、本当にそれが『LOVE』と呼べるのか?

 それだけの薄っぺらい思いで彼女の事を『LOVE』だと言いきれるのか?

 

 判断するには時期尚早だと言うのが今のところの答えだろう。

 思えば、安達垣と政宗のデート追跡で出会ったのが久しぶりだったなぁ。確かそれ以前に会ったのは中学3年生の冬だった筈だ。クリスマス───ああ、出来ればあれは思い出したくないな。勿論あの日も俺の中では大切な思い出なのだが、今このタイミングで思い出すと赤面を隠せる気がしない。

 

 兎にも角にも、今ここで答えになるほどの解答を持ち合わせていない俺は安達垣泰輝を見て、少しだけ首を傾げる。

 

 「分からない、か」

 

 「ご理解頂けて何よりです」

 

 「おかしい、この年頃の子達は恋に敏感だと聞いたのだが......」

 

 てめーそれ誰情報だ。

 

 世の中には恋に敏感じゃないやつもいれば違う次元に恋してる奴等だっているんだぞ。

 

 安易に一括りにするな。

 

 「......尤も、その恋のせいで数々の男が娘の前に撃沈してきた訳なのだが」

 

 「そうですね」

 

 「キミはどうなんだい?娘のことは好きかい?」

 

 そんな疑問を尋ねてきた安達垣泰輝に、俺は今出来る最大限の笑顔で一言。

 

 「『友達』として、なら」

 

 「......やっぱりキミは、上田家の人間だよ」

 

 その言葉に関してはもう突っ込まない。どうせ突っ込んだ所で何度も何度も同じ事を言われるのだ。ならば、いっその事慣れてしまおうと一種の悟りを開いている。

 

 故に───

 

 「ありがとうございます」

 

 最近は、表情筋を動かすのも随分と楽になったと心の中で思いつつ、俺はまたしても笑みを作った。

 

 

 

 

 

 

 ※

 

 

 

 

 

 

 会食は、無事に終わり俺にも帰る時間というものがようやく訪れてきた。慣れない場所では、食事が本来持つべき筈の役割である団欒、リラックスなんてものは出来ず、初対面の人間と話した事で、疲労感が溜まり、上手い筈の食事も味を覚えていない。

 

 そのような体たらくでふらふらと廊下を歩いていると、壁にもたれかかっていた安達垣が俺を見て一言。

 

 「......お疲れ様」

 

 たった一言、そう言ってのけた。

 

 おや、そこはかとなく良い香りがするのだがもしやアッキー風呂上がりですか?なんて事を考えているとアッキーは俺を殺意マシマシの目で見つめながら一言。

 

 「貴方は、父と初対面なの?」

 

 「ああ、初対面だ」

 

 ついでに言うなら、家族が安達垣泰輝の関係者なのにも関わらず初対面───人脈ゴミの上田家の落ちこぼれは俺ですよー......なんて、勝手に自分を皮肉っていると、アッキーが俺を見つめる。

 

 「あの人ね、離婚した癖にあの人と面会───なんてするのよ」

 

 「はあ」

 

 「離婚調停で決まったことらしいの。回りくどいわよね、スパッと出すもの出して縁を切ってしまえば良いのに」

 

 「事情があんだろ」

 

 「......だとしてもよ。私、回りくどい関係は嫌いだから」

 

 だよな。

 

 そういう性格じゃなきゃお前さんはある意味一世一代の男の告白をバサリバサリと一刀両断出来ねえだろうよ。

 

 「......お前は、そうなんだろ?」

 

 「ええ」

 

 「なら、お前が言ってしまえば良いじゃないか。離婚───なんて俺達にはまだまだ先の話、イロハなんて知らない。そもそも結婚出来るかどうかも分からん」

 

 「自虐のつもり?」

 

 「うるさい今良いこと言おうとしてるんだからちょっと黙れやい」

 

 「それを言ったらどんなに良いことを言っても台無しよ。自分で言ってて分からないの?」

 

 アッキーがそんな事を言いながら俺を呆れの視線で捉えるものの、それを無視して言葉を続ける。

 

 「けど、お前等ガキには余っ程の事を除いて発言する権利がある。物事に好き嫌いの判子を押せる権利がある。それを使わない───なんてのは、勿体ないとは思わんかね」

 

 「......」

 

 「言えよ、安達垣さんにアッキーの言いたいこと。言わなきゃ分かんねえだろ。辛いのは分かるし、顔も見たくない......ってのも成乃さんに見せてたアッキーの嫌悪感バリバリの態度からある程度は察せる。けど、踏み込まなきゃ分からない事だってある───俺は、そう思うね」

 

 「......根拠は?」

 

 「実体験だよ」

 

 「......なら、そうなのかもね。尤も、誰しもがそうだとは限らないけど」

 

 「ま、参考程度に聞き流しといてよ。どうせ、やるのはアッキーなんだから。俺には関係ないことだった、素人が偉そうに物申してゴメンな」

 

 「......全くよ」

 

 アッキーは、笑った。その時の笑みは普段残虐姫として名を馳せている普段通りのアッキーなんかじゃなくて、本当に女の子らしいクスッとした笑い。

 そんな笑いに、俺は『この娘を騙し、復讐をする』という想いを頭の奥底に抱き、なんとも言えない気持ちになってしまった。

 

 けれども。それはそれ、これはこれである。

 

 ひとつの笑みと利己的な心情で親友を裏切る訳にはいかない。なってたまるものか。俺のやるべき事は政宗が『良し』と感じるまで復讐の暗躍をする事。

 

 あの、冬に誓ったことを忘れるな。

 

 政宗と惚れさせて振る作戦を成功させて、心身共にスッキリさせて、楽しい楽しい生活を送ると約束したではないか。

 

 しっかりしろ、俺。

 

 「上田?」

 

 と、自問自答してたらいつの間にか目の前に安達垣の姿が。気を取り直して『なんでもない』とアイコンタクトを送ると、またしても鋭い目付きで小さなため息を吐かれる。畜生、さっきまでの葛藤を返しやがれ暴食王女。

 

 「さて、帰るかね......」

 

 「出口まで案内するわ。吉乃の点数のことも話しておきたいし」

 

 おお、そうだったな。

 

 「どうだった?」

 

 多少は良い点数を取れただろうか。

 

 「見せられる点数にはなったわね。後は、あの子自身の気概がミソかしら」

 

 「大丈夫、なんとかなるさ」

 

 「それこそ根拠を聞きたいわね」

 

 それは、あれだよ。

 

 

 

 

 

 

 

 「男の勘......かなっ」

 

 「死んでくれて結構よ。ここからダイブかハイキック2連発、好きな方を選びなさい」

 

 その後、無茶苦茶ハイキックされました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ※

 

 

 

 

 

 

 結局のところ、テスト対策なんてものは1つのターニングポイントにまで達すると残りの勉強は己の焦りやら不安なんかを解消する一手にしかならない───というのは今までテストを幾度となく行ってきた政宗と俺の経験談である。

 

 そう、例えるなら───

 

 

 「......おっしゃあああ!!!!テスト対策万全!!これなら行けるぞ100点&アッキー攻略&幸村に初勝利!!!」

 

 「感情を爆発させるな。それはフラグっていうんだぞ」

 

 「幸村君......そのツッコミが最早フラグの気がしてならないのだけど───」

 

 実力テスト、前日の放課後。

 

 俺達は、今回出てくるであろう実力テストの対策を全て完遂し、帰宅への道を歩いている。あれから俺は政宗陣営で朱里くんの勉強を教えつつも、アッキー陣営で小岩井に因数分解やらの勉強を教えていた。その過程では、困難もあったが試合のお膳立てはバッチリとした。後は中立的な立場を守りながら小岩井の言うように普通の男子高校生、上田幸村としてテストに臨むのみだ。

 

 「違うぞ幸村、フラグってのは......」

 

 と、俺の言葉を聞いた政宗は指を横に振り俺に告げる。ああ、分かってるよ。確かにさっきの政宗の言葉じゃあフラグとしては弱いよな───

 

 「『もう何も怖くない』だろ?」

 

 「言っちゃったよ!?見事にフラグ作っちゃったよ!?」

 

 朱里くんが俺達の会話に涙目でツッコミを入れる。あはは、朱里くんは心配性だなぁ。フラグなんか作っても簡単に流されず、寧ろフラクラしてしまいそうな勢いで勉強を敢行した朱里くんならきっと大丈夫さ。

 

 「自信持て。朱里くんは努力したよ」

 

 「けど───」

 

 ふむ、自信は持てないか───なら。

 

 「朱里くん。これを見てくれ」

 

 俺は、2つの紙を朱里くんに見せる。片方はテスト対策初期に行ったプレテスト。もう片方には今日行ったプレテスト。

 

 「貴方が落としたのはこの0点のテストでしょうか。それともこの烈しく輝く100点のテストでしょうか」

 

 「それどっちも僕のだよ!?」

 

 「じゃあどっちもお前さんのだな。で、序に言うのならこの烈しく輝く100点のテストの方が真新しく見えるだろ?」

 

 「あ......」

 

 朱里くんが俺とテストを交互に、驚愕の目付きで見る。そう、朱里くんは成長しているのだ。最初はゼロからのスタートだったけど、落ち目のない朱里くんは必死に勉強し、頑張ってくれた。

 

 「努力して、こうしてプレテストで結果も残した。これが社会人なら本番も結果出さなきゃいけないんだけどさ、政宗の勝負に朱里くんの意思表示抜きで無理矢理参戦させた以上、どんな結果でも責める事なんてしないよ。寧ろ、政宗と俺の我儘に付き合ってくれてありがとな」

 

 「......そうだね。もうここまで来たら朱里くんは勝負とか気にしなくて良い。赤点回避するって心意気で思いっきりぶつかってくれて構わないよ」

 

 だから、テスト頑張ろうぜ。

 

 そんな意図で朱里くんに差し出した俺達の手を、朱里くんは感動───といった目付きで見遣る。

 

 「政宗くん......幸村くん......本当にありがとう!!」

 

 そう言うと、朱里くんは両手で俺達の手を掴みぶんぶんと縦に振る。ちょ、待って。腕痛いっす。

 

 「けど、僕頑張るから!ここまで来たら政宗くんが安達垣さんとの勝負に勝てるように、精一杯努力するよ!」

 

 「小十郎......」

 

 「お、おお......」

 

 尊いなぁ。自分の事も心配せにゃならんのに、それでも他人の事に気を遣える朱里くんってやっぱり心の優しい子なんだよな。本当、ほんの1ミリでも良いから朱里くんのその純粋さを小岩井やアッキーにも分けてやって欲しい。

 

 「......まあ、やるべき事はもう決まってんだろ。先ずは俺達3人で赤点だけは回避する」

 

 俺がそう言うと、2人が同調し頷く。

 

 「......その上で小十郎と俺は総合得点で安達垣さん達に勝つ!」

 

 「うん!絶対勝とうね政宗くん!!」

 

 「おっしゃ......それじゃあ二人とも、明日は絶対勝つぞ!!」

 

『おーッ!!!!!!』

 

 最後に、部活動的なノリで俺達は解散する。ここまでは本当に二人とも頑張った。本番は点数でどちら側にも介入することは出来ないけれど、ご武運を祈ることなら出来る。

 

 政宗、小十郎、頑張れよ。

 

 陰ながら応援してるからな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それが昨日までの俺である。

 

 さて、時は流れて後日......昼休みの中盤にまで時は過ぎる。テストは予想通り勉強すれば出来る程度の内容であり国、社、英、理の問題を無難にしっかりこなした事に安堵感を覚えていると、不意に政宗が俺の肩を叩く。

 

 「幸村、調子はどうだ?」

 

 「俺か?別に問題ないが......お前さんは?」

 

 まあ、編入試験満点の政宗の事だ。恐らく問題はないだろうと思い、深刻にはならずにそれとなく聞くと政宗は予想通りサムズアップで応える。

 

 「国語と日本史に関しては幸村の予想通りの問題がピンズドで来たからな。本来ならこんな事を言うのは気が引けるんだが......憂いが全くないね」

 

 「そりゃ良かった」

 

 そこまでの自信があるのなら政宗は問題ないだろう。と、なると後は朱里くんが問題なんだが......

 そう思い、左後ろの席に座っている朱里くんを見やると、そこには恐るべき光景が広がっていた。

 

 「しゅ......朱里ィ......」

 

 まさか、朱里くんがお昼のスイーツタイム返上で数学の勉強してるなんて。自分、涙を通り越して目から流血しそうなんですけど、流して良いっすか?

 

 「こ、小十郎......根を詰め過ぎると後が大変だぞ?」

 

 政宗が朱里くんを諌めるも、朱里くんは止まらずに机にあるテスト対策用プリントを見直す。

 

 「大丈夫だよ、もうスイーツタイムは終わったし......残り時間、もうちょっとだけ頑張ってみるよ」

 

 「......そうか」

 

 そこまでの強い意志があるのなら、こちらから言うことはない。政宗もそう思ったのか朱里くんの肩をぽんと叩いた後、俺の元へと戻ってきた。

 

 「幸村、ガチで勝てるかもしれない」

 

 「ああ、後は政宗次第だぞ。残りの数学は......大丈夫か?」

 

 「どうだろうな......如何せん数学は公式を覚えるのが酷く困難だから───」

 

 そう言うと、政宗は顔を顰めて一言。

 

 「前々日に出てきそうな公式にヤマ張った」

 

 「ギャンブルプレイ......だと......!?」

 

 5時限目......最後の最後の問題で、政宗は朱里くんと共に数学の公式にヤマを張った。それ即ち、数学のテストは赤点になる可能性も、高得点を取れる可能性も半々ということになる。

 

 テストに絶対はない。けれど、広く浅く学習すればある程度の点数は取れる。

 しかし、政宗と朱里くんはそれでは満足しなかった。

 一か八か、高得点を取るために幾つかの分野を深く学んだのだ。

 

 「安達垣愛姫とのデート権利をもらい、その過程で幸村に勝ってみせる......実力派の真壁政宗を舐めるなよ、幸村!」

 

 そう言うと、政宗はニヤリと笑みを見せ挑戦的な態度を取る。そう、真壁政宗は俺にとっての親友であり、復讐を敢行しようとする同志であり、かつ良きライバルである。信州にいた頃の勉強や運動、果てはカラオケやらその他の遊びに関してまで、俺達は共に戦い、競ってきたからこそここまで上達し、この舞台に立てている。

 

 今は復讐だからそんな事するな───なんて野暮なことは言わない。これは、政宗自身が『勝負したい』と決めたことなのだから。

 前世のハンデは、最早真壁政宗には通用しない。彼は秀才の部類に属し、飲み込みも早い故に中学3年生の頃には俺とほぼ同等の学力を身に付けていた。

 

 今回のテストの範囲は、知らされていない。

 

 即ち、このテストは『安達垣愛姫と真壁政宗の対決』であり、『真壁政宗と上田幸村のガチンコバトル』でもあるのだ。

 

 勝負を吹っかけられ、あまつさえ挑戦的な態度を取られているこんな状況、燃えなきゃ男じゃない。

 

 「上等だよ、政宗......完膚なきまでに叩きのめしてくれる!!」

 

 「抜かせ親友!今度こそお前の戦績に傷を付けてやるよ!」

 

 言葉だけは、やや厳しい怒号のような何か。

 されど、表情は何時もと変わらない笑み───

 

 そんな状況下で、俺達はそれぞれの右手でグータッチ。これは、俺達の癖のようなものであり使われるべき場面は、意思統一を計る時。そして───

 

『宴の始まりだ』

 

 宣戦布告の号砲を上げる時、である。

 




と、いうわけでオリキャラはアッキーのパッパでした。オリキャラなのでそこまで重要視はしなくても結構です。『ああ、こんな奴おったなあ』程度に考えていただければOKです。

因みに泰輝と付けた理由に関しては安達垣家の先祖から取った泰源の『泰』と正ヒロイン安達垣愛姫の『姫』をもじっただけです。大した理由はありません。

後は、今日中に3つ投稿させていただきます。

それだけです。
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