「やっちまった......」
それは、アッキーとの教室掃除を終えて間もない時だった。先程まで元気溌剌といった表情でスキップを敢行していた政宗が下駄箱まで来た途端に元気が失くし、膝を着いた。
はて、何があったのだろうか......
「やっちまったよ......残虐姫無視だよ、幸村ァ......」
「え......」
俺がそこまで言った瞬間、政宗は俺の肩を更に揺さぶり、悲鳴を上げる。
「どうしよう幸村これでもう俺後に引けないよ!!大丈夫かなぁ!?残虐姫無視しちゃっても大丈夫なのかなぁ!!」
なんということでしょう。
俺はアッキーのアフターケアをする前に政宗のメンタルをケアしなければならないらしいです。
耳をすませば、何処かから『エセメンタリスト』やら『幸×政』やらといった声が聴こえてくるよ。
「どうしよう幸村ァ!!」
「おっふ、おうふ、兎に角落ち着けっての」
揺さぶられながら話した為変な声が漏れてしまったが何とか堪えて続けると、政宗が漸く落ち着いたのか揺さぶりを止めて下駄箱に寄りかかった。
「お前、あれアッキーを無視してたんだな」
正直その時は気づかなかったが、言われてみれば政宗がアッキーに話しかけようとしなかったり、目を合わせなかったりと違和感のようなものはあった。そんな違和感のようなものをスルーしていたのは、政宗のエセハイテンションに乗せられた故か。
「......そうだよ。師匠に押すだけじゃダメだと言われた。引くことも大切な武器だって言われたんだ」
ああ......確かにそうだな。
押してダメなら引いてみろという諺もあるぐらいだ。目下ガンガンいこうぜ状態だった政宗。その状態でのアッキー攻略の進捗状況が悪いのなら、それはもう例に漏れず引いてみるという選択肢は重要になってくる。
「言ってる事は間違いじゃないな。現に小岩井さんから聞いたぞ?マンガの主人公のような発言を連呼してたとか......連呼してたとかっ」
「2回も言わんで良いッ......あのなぁ、薔薇ステは100万乙女のバイブルなんだぞ!?幸村だって言っていたじゃないか!!『この作品はスゴい』って!!」
お、おう。
それはこの漫画がめっさ面白いという意味で言った『凄い』であって別に恋愛的な感覚で凄いと言った覚えはないのだが......
「ま、まああれだ。何でもかんでもマンガに触発されるのは良くないな。世間と二次じゃあまた勝手が変わるんだ。そう考えたら、ヒロインモモコちゃんとアッキーの性格が違うのも納得はいくだろ?」
そう言うと、政宗はポカンとした表情で左、右と視線を逸らした後、天井を見上げる。
そして、2.3秒天井を見上げた後に真顔になって一言───
「確かにそうだな!!」
上田幸村、親友のメンタルケアに成功しました!
「じゃあ、待てよ......?それなら今まで俺が発していたあんな発言やこんな発言も......」
「『アッキーにとっては』ダメだな。火に水を掛けて勢いを消化させてるようなもんだぜ」
「マジか......」
そう言って、落ち込む政宗を見て俺はなんとも言えない気持ちになる。親友の失敗に対して何も思わないところがあるといえば嘘になるし、俺だって政宗の自主的に行動した頑張りが認められないのは悔しい。ただ、『頑張る』だけではどうにもならないこともある。俺と政宗の復讐は結果にものを言わせなければならないのだから。
「落ち込むな。どんな失敗であれ先ずは行動し、先手を打ったことが大切なんだ。それを政宗は果敢にこなした。だからこそ、今の政宗があるんだろ?」
「それは......そうだけど」
「なら、薔薇ステに頼ったり自分で考えて行った結果を否定してやんな。自分で自分を否定すること程悲しいことなんてないぜ?」
否定されるのなんて、他人からのみで充分だ。自分が自分自身まで否定しちまったら誰が手前を信じるんだ?他人からの評価が数値化されてない以上、完璧に自分を100パーセント信じられるのは自分しか居ないと思うんだ。
マイナス思考でいるよりかはプラス思考で。
そうやって、俺達はのし上がって来たんだ。
「それに、あれだ。師匠が誉めてたぞ。政宗は現段階で予想以上の成長を果たしているって」
「そ......そうなのか!?」
厳密には、そこまでの段階へ早期で辿り着く事が出来たのが予想外ってな話なんだが。褒めてる訳では無いのだが、それでも言っていることはあながち間違ってはいない筈だ。
「ああ、だから心配するな。小岩井だってお前がアッキーと上手くいくように動いている。俺も、アッキーにくっついて事が上手く運ぶように努力している。外堀は俺と小岩井が全力で埋めにいくから、お前さんは全力でアッキーに向かっていけ。それがアッキー攻略に繋がるんだからな」
そう言って、政宗の制服の胸付近の校章を拳でポンと叩くと、政宗は今度こそ情けない表情ではない気概と気魄に満ち溢れた表情で強く頷いた。
「分かった!」
「おう」
お前さんは、その表情が1番似合ってるよ。
5年前も、今も、出会った時も。なよなよしているお前さんより、今の政宗が1番似合ってる。
足元が暗くなったら、迷わないように俺がお前の足元を照らす提灯になってみせる。
だから、親友。
迷うなよ。
「所で、幸村。さっきカエルが轢かれたような声を出してたけど、大丈夫か?」
痛くないわけねーだろダラズっ。
そして、今日に至り───
「調子に乗るんじゃないわよ変態紳士ィッ!!!」
「アッ────!!!」
俺、上田幸村。挨拶がわりのハイキックを代償にアッキーのアフターケアの約束をこじつけることに成功致しました。