ゼロから始まる俺氏の命   作:送検

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ちょくちょく原作が短編とか書いてくれて嬉しいでやんす。
感想とか、ほんと有難かったでやんす。
返信したらすぐ投稿しなきゃいけないっていう謎の固定観念があって、返信できなかったんです。
許して。
















待たせたな!


第33話 寧子

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夢だ。

それは、この奇天烈な世界に転生した頃の数少ない鮮明に思い浮かばせることのできる記憶。俺という転生者が『上田幸村』という人間であるという存在証明にもなる過去の思い出である。

政宗の筋トレが一段落し、体型が整い始めてきた頃、俺は1度藤ノ宮と椎堂さん監視の元外に繰り出す機会があった。

デートなんて大層なものじゃない。藤ノ宮の野暮用に付き合うだけの簡単なお仕事だ。

とはいえ、藤ノ宮の体調を警戒したり、変な虫が寄ってこないように等やるべきことは山ほどある。

気分転換のような、それでいてプレッシャーもある、なんともいえない一日を藤ノ宮と一緒に過ごしてたワケだ。

 

『‥‥‥雪か』

 

『クリスマス募金にはピッタリの天候でございますね』

 

『‥‥‥ったく、自発的で椎堂さんが車で待機してくれているとはいえ、無茶が過ぎるぞ』

 

『社会貢献に勝る善行はありません。それに、こうして頑張っていれば幸村様との時間が増えますし』

 

『‥‥‥あー、はいはい。心ゆくまで手伝ってやんよ。勿論、手抜きはなしでな』

 

大声を張り上げ、募金を募る。

それは一見俺のやることではないと思うだろう。

しかし、藤ノ宮は体に爆弾を抱えている。それも、下手したら命にも関わる重大なそれだ。そして、俺にとって藤ノ宮は親友とも言える存在であり、大切だと思える存在。

そんな藤ノ宮のやりたいことを手伝わない理由なんてなかった。

俺が声を張り上げてる理由なんて、そんなものだ。

社会貢献の為でも、清澄女学院の為でも、はたまたクリスマスの為でもない。

ただただ目の前の女の子の為の独善的な行動だった。

 

 

 

 

声を張り上げ、お金を恵んでくれる人達に礼を述べ、それを繰り返す。そんなことを繰り返していくうちに、寒さが身を縮こまらせ、身体が冷え込んでいく。

予想はしていた。人間はいくら鍛えても寒さには強くなれない。それは、俺とて例外ではなく、藤ノ宮なら尚更の事実だ。

故に、藤ノ宮用に準備していたコートと手袋を渡して再度募金活動を始める──と、その前に藤ノ宮が俺のコートを指で引っ張り、少しの笑顔を見せた。

 

『ありがとうございます』

 

『おう』

 

『お揃いですね』

 

『ああ、お揃いだ。世間ではこういうのペアルックって言うらしいぞ。覚えとけ』

 

『はあ‥‥‥ペアルック、ですか』

 

用意された純白のコートと手袋を交互に見遣り、またしてもくすくすと笑みを零す藤ノ宮の心境がどういうものだったのかということを俺は知らない。気持ち悪いと思っただろうか、それとも嬉しいと感じたのだろうか──まあどちでも良い。

俺としてはこの子が風邪を引かない、体調を崩さないというのが最優先事項であり、マストだ。

未だに笑いを絶やさない藤ノ宮を何処か微笑ましいような、そんな面持ちで俺は目の前の風邪っぴきお嬢様を見つめていた。

 

 

 

 

 

──ふと、視線が交錯する。

どうやら先程から見つめていたのがバレたらしい。とはいえ、その事象に関して藤ノ宮が怒ることはない。お互いに笑い合い、またしても募金を募るために声を上げようとすると、不意に俺の隣から声がかかる。

 

『幸村様』

 

『んー?』

 

『幸村様は、偶然についてどう思われますか?』

 

偶然、か。

そりゃあまあ唐突で突拍子もない質問ではあるが、持論がない訳では無い。

俺は藤ノ宮の要求に応えるべく、辺り一面に広がる雪景色を見つめたまま、口を開ける。

 

『歓迎すべきものだと思うがな』

 

『歓迎、ですか』

 

『ソー、歓迎だ。これから起こる出会いや別れ、その他諸々の事象は到底人に予測できるもんじゃない。そんな容易いものじゃないからだ‥‥‥未来なんて簡単に予測出来たら、占い師なんて必要ないもんな』

 

尤も、占い師なんて類はちっとも信用していない訳だが。

とはいえ、それは今は関係ない。

重要なものはもっと他にある。

 

『なら、そういった物事は歓迎して、どうやって楽しむのかを考えるんだ。所謂プラス思考ってやつ。そうしなきゃ人生損だって、俺は思っているからな』

 

その言葉を最後に、俺は藤ノ宮の顔を見るべく自身から見て左側を向く。

彼女の表情は、綺麗だった。

栗色の髪は、枝毛ひとつもなく伸びており、まるで人形のように整った顔。

そして、自身の清い心から織り成すごく自然なその笑みはどこまでも透き通っていて。

景色のせいか、どこか彼女の存在自体が幻想的に見えたのだ。

 

『‥‥‥藤ノ宮はどうなんだ?今、前向きに生きているか?』

 

『私‥‥‥ですか?』

 

『他に誰がいるのさ』

 

俺は赤の他人にそんな質問をしなきゃならんのか。

違うだろ。

こんな質問をするのは後にも先にもお前と政宗のような俺が大切に思ってる連中だけだ。

 

『前向きに生きることは大事なことだよ。生活に張りができるし、何より‥‥‥物事をプラスに捉えた方が楽しい。俺は藤ノ宮には前向きでいて欲しいなって、思うよ』

 

『あなた程前向きに生きることは出来ませんことよ。幸村様のプラス思考は誰にも負けず劣らずの器をお持ちでいらっしゃいますから』

 

『褒めてんのか、褒めてないのか、ハッキリしてもらおうか』

 

『後者ですわね』

 

後者だったらしい。

どうやら俺はもう少しポジティブを抑え、現実を見なければいけないらしく、藤ノ宮の笑顔を見ながら、内心『うげぇ‥‥‥』とため息を吐いていると、真上から落ちてくる雪を眺めた藤ノ宮がぽつりと言の葉を零し──

 

『ですが、そうですわね。強いて言うのでしたら、私は───』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「‥‥‥なんて夢見てんだ、俺」

 

そこから先の記憶を知る前に、俺の意識は覚醒したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

デートの下見に行った俺達は、様々な施設を見て回った。

 

カラオケ、ショッピングモール、レストランetc.....と時間の許す限り、沢山の店を回り結論としてショッピングモールへ行こう、そうしようという話に至った。遊びの王国、クマクマランドも考えたのだが距離があるので今回はパス。夏休みにでも行っとけ──と、政宗に言って、クマクマランドの件は収束。政宗がクマクマうるさかったのはここだけの秘密である。

 

兎にも角にも、政宗の裁量に任せ切りになる今回のデートを心配しつつ、とはいえ小岩井がテスト後、俺に言っていた『自然』とやらを演じる為に何かをすることができないもどかしさを感じながら俺は休日の一日を過ごしていたのだった。

 

「で、なんで小岩井が電話をかけてるのかな」

 

『わたしだっていやいや。がまんして、変態』

 

「仕方ねぇな‥‥‥してやんよ」

 

『変態のくせになまいき。もっと下手に出て、とりひきさきの上司にこびへつらうみたいに』

 

「よっしゃテメー覚えてろよ」

 

小岩井から聴いた結果として、特に大した事を起こすことも無く政宗は無事にアッキーとのデートを終えたらしい。

普通に遊んで、食べて、グッドバイ。

小岩井が言うには、豚足にしては珍しくボロも何もなかったらしい。

嬉しいなぁ。親友の進化が止まらなくて、涙も止まらない。

 

『でーとはとどこおりなく完了。愛姫さまは傘を返すことに成功して、豚足は豚足で色々おもうところもあったらしい』

 

「思うところ、ね‥‥‥」

 

『別に支障をきたすようなことじゃない。変態が心配することはない』

 

「あ、そうですか」

 

正直な話、政宗が何を思ったかというのは非常に気になるそれではあるのだが、急を要するものでないのならひとまず安心だ。ボロが見えそうになったとか、政宗の目的がバレ始めていると感じているのなら、アイツのフォローに東奔西走しなければならない。

俺としては一向にそれは構わないのだが、ない方が良いに越したことはない。

喜んで困難を受け入れる奴なんて、そうはいないだろう。政宗や俺とて、それは例外ではないのだ。

 

「じゃあ、とりあえずは俺のやるべき事ってのはないんだな?」

 

『うん、ひとまずは。後は必要に応じて豚足と愛姫さまの仲介をしてくれれば、それでいい』

 

「俺としてはもっと積極果敢に動いていきたいんだがな。悪い、頼りっぱなしで」

 

『別に。それに変態の力は使いようによってマイナスにもなる。いつ使うかのタイミングが必要だし、てきせつな時にてきせつな量の仕事を変態に頼んでるだけ』

 

「それがありがてぇってのに‥‥‥隙を見せたがらない小岩井センセ」

 

『キモイ』

 

「ひどい」

 

小岩井先生、酷いです。

そんなことを内心思いながら朝食のパンを齧り終えると、そろそろ外を出るのに相応しい時間帯となる。

スクールバッグを背負い、首と肩で携帯を挟みながら会話を続けようとすると、小岩井から声がかけられる。

 

『変態』

 

「おう、どした?」

 

『‥‥‥何もない。それじゃ』

 

その1秒程の沈黙の意味を俺は知らない。

けれど、その沈黙には大きな意味があるように思えて、少しばかりの疑念を胸に残し、俺はドアを開けて親友の待つコンビニ前へと歩を進めたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、アッキーは可愛かったか?」

 

「いきなり聞くことがそれですかね‥‥‥」

 

自宅からコンビニ前へ向かう時間はそれほど必要としない。

俺は当たり前のようにコンビニ前でゼリー飲料を吸っている政宗に手を振り、それに反応した政宗がイケメンスマイルでもない朗らかな笑みを浮かべて俺に手を振り返す。

そして、一言挟んだ後にグータッチ。

いつものルーティンを重ねた上で尋ねた一言に、政宗はげんなりとした表情で空を見遣った。

 

「ああ、可愛かったよ。確かに可愛かった。けど、相手は俺をコケにした安達垣だ。嬉しくなんかないよ」

 

「‥‥‥まあ、そりゃそうだよな」

 

好きでもない女の子とのデート。

考えただけで胃に穴が空きそうだが、それを遂行し、小岩井師匠曰くボロをあまり出すことなく終えたというのだから、政宗のイケメン力というものは相当のものだと思う。

正直、俺が女なら目的の為に全てを投げ打って立ち向かう政宗に惚れてしまうだろう。気持ち悪いだろうが、それくらいの度量を持つ男だ。

世の男は彼をただのどこにでもいるイケメンだと言うだろう。しかし、コイツはそのイケメンを得るために数十倍の努力をして、マイナスだった己を取り戻した。

その精神力と、政宗本来の持つ優しさは、政宗に触れた人間にしか分からないアイツの美点だと俺は思う。

つまり、コイツはすげーカッコイイって、そういう事だ。

 

「‥‥‥けど正直な話。こういう未来もあったのかな‥‥‥なんて思ったり‥‥‥いや、手伝ってくれてるお前に言うような話じゃないよな、悪い」

 

「謝んな。良いんだよ、お前はそれで」

 

何度も言うが、俺は俺の意思でお前の復讐を手伝っているんだ。

それに関して文句を言う要素は俺には皆無に等しいし、それに──

 

「お前は間違っちゃいない。こうして悩みを張り巡らせてるのも、今のこの瞬間に未来に向けて歩いているのも、お前がしたくてしてることだ。謝罪なんてする必要ないし、後悔だってする必要ないよ」

 

「‥‥‥あんがとな、幸村」

 

「今更だな、政宗」

 

そういえば、この前から政宗は俺に感謝ばっかりしてるな。いい加減揺り戻しで政宗に怒られるかもしれない、というかムネリン言い過ぎて政宗のマッスルパンチが火を噴くかもな──なんて思いながら朝の登校ロードを歩いていると、俺と政宗の後ろから黒塗りの高級車が走り去る。

 

「お、高級車‥‥‥なあ政宗。俺、大人になったらベンツでお前の実家襲っても──」

 

「なあ、幸村」

 

「なんだ」

 

俺のジョークを無視するほど重要なことなのか、と文句を言いたくなる衝動を抑え、政宗に問いかける。

すると政宗は今一度目を凝らし、今度は何やら確信を持った様子で一言。

 

「なんかあの車見覚えがあるんだけど」

 

「……あれは、藤ノ宮家が愛用しているものと同じ車種だな」

 

ベンツとか、高級外車とか。

車には疎いがあの黒塗りの高級車に見覚えがないと言えば嘘になる。

 

「で、それがどうした」

 

「……いや、俺の見間違いならそれで良いんだけどさ」

 

「おう」

 

「藤ノ宮さんが助手席に──」

 

「嘘つくなよ」

 

「即答!?」

 

政宗が目を見開き有り得ないといった様子で俺に食ってかかるが知ったこっちゃねえや。

だって、親父や母さんならともかく藤ノ宮だぞ?

あの病弱風邪っぴきお嬢様の藤ノ宮だぞ?

そんな藤ノ宮を使って俺を騙そうとは政宗も随分偉くなったものだ。その成長に乾杯、友人として誇らしいよ。

 

「な、なんだよその『俺はお前の秘密を知ってるんだぜ』的な薄い目付きは!言っとくけど俺は嘘とかついてないからな!?俺は親友には嘘をつかない‥‥‥そう決めてるんだ!!」

 

「たった今、俺を騙したけどな」

 

「だからマジだってば!!オレ、ウソ、ツカナイ!!」

 

なんと。

ここまで必死な政宗は久しぶりに見る。

近頃見せることはなかったが、政宗は本当の気持ちが軽くかわされた瞬間に強い憤りと焦燥感が行動に出やすくなる。

過去のトラウマもあるのだろうが、これは政宗本来の自分に正直であるという思いからくる政宗の『心の形』だろう。その証拠に今の政宗は俗にいう『マジおこ』の状態だ。顔に出てる。

とはいえ、俺にもそれなりの根拠と理由があるから政宗の言葉を疑っている訳であって‥‥‥そこの折り合いをつけるのはなかなか難しい。

 

「‥‥‥あのな、政宗。藤ノ宮は清澄女学院っていうお嬢様学校で何不自由ない生活を送っているんだ。それを何の用事で八坂高校にまで行くってんだ?」

 

「‥‥‥転校とか」

 

「それこそ可能性は薄いだろ。今は学期の最中だぞ?こんな中途半端なタイミングで転校とか藤ノ宮のじーさんが許すワケ‥‥‥」

 

いや、あるにはあるわな。

あの人孫に激甘な典型的な好々爺だ。

とはいえ、孫を想うからこその心配や不安はある訳で、娘の一存で中途半端な時期の転校を許すほどの甘々おじいちゃんではないだろう──というのが俺の考えだ。

 

「だが、他でもないお前が見たって言うなら‥‥‥まあ、そういう可能性もあるって思っておくが‥‥‥いや、でもなぁ‥‥‥」

 

「ゆ、幸村がそこまで悩むとか藤ノ宮さんって一体どういう女の子なんだ‥‥‥?」

 

「魔女っ娘」

 

「マジか」

 

小細工で俺をからかってきたり、偶に恥じらいながら本性を見せる女の子。

しかし、藤ノ宮の本質というものは本人がいない所では到底表すことの出来ないシロモノである。

恐らく今の俺の例えも、政宗が藤ノ宮寧子という女の子と話す機会があれば一気に瓦解する陳腐なものになるであろう。

それくらい、癖の強い女の子なのだ。後、可愛い。

 

「まあ、藤ノ宮がこの高校に来たのなら‥‥‥ロマンだよなぁ。高校生活めちゃくちゃ楽しくなるんだろうなぁ」

 

「俺、藤ノ宮さんそんなに知らないんだよね‥‥‥幸村は俺と藤ノ宮さんが過去に会ったことあるって言ってたけど、ホント分かんない」

 

「ガキの頃の記憶なんてそんな覚えてないだろ。俺だって結構恥ずかしいことしてたかも分からんぜ?」

 

「ははっ、幸村なら袴姿でローラースケートとかやってそうだな!」

 

「俺は洋服派だ」

 

藤ノ宮の話題からは幾らか逸れ、結局学校に辿り着く頃にはたけのこ派かきのこ派かでしょうもない喧嘩を繰り広げていた俺と政宗。

階段を上り、自分のクラスまで辿り着くと、今度は2人の友達が俺と政宗の輪の中に違和感なく溶け込んでくる。

 

「おはよう幸村君、政宗君!」

 

「おはよー、政宗くんに幸村くん!」

 

「よーっす、委員長に朱里君」

 

朱里君に、双葉委員長だ。

転校してから、変わらず気さくに話しかけてくれる2人の友達は俺にとっても、政宗にとってもありがたい存在であり、大切な要素。

朱里君はスイーツを俺に薦める機会が増え、委員長は俺、政宗、朱里君を交互に見て変な笑みを浮かべる機会が増えたものの、それでも変わらぬ陽気さは、ストレスに疲れた俺達に元気をくれる。

そんな友達──主に朱里くんの笑顔が倍プッシュで晴れやかな今日この頃。その表情に気がついた政宗は、朱里君を見て口を開く。

 

「小十郎は何か嬉しそうだな‥‥‥何かあったのか?」

 

クラスの人気者であるところの政宗がそう言うと、同じくクラスの甘党男子として男女問わず人気を博している朱里君が満面の笑みで俺たちを見つめる。

正直、この笑顔なら大体の男子生徒を堕とせ──はっ!?なんか今委員長のところからものっそい寒気が!

 

「えへへ、実は今日ウチのクラスに転校生がくるんだって。友達が言ってたから今から楽しみで」

 

「転校生、とな」

 

「ほら!言ったろ!?転校生の可能性あるって!!」

 

いや、言ってたけど。

それは転校生が来るというだけで、藤ノ宮が転校生かどうかの確約はできないだろう。

それに、万が一藤ノ宮が来たとしてもそれが転校ってサインにはなるまい。

まあ、アイツが八坂高校の制服着てるってんなら話は別だが。

 

「ま、まだ藤ノ宮って決まった訳じゃねえだろ‥‥‥」

 

「いや、もうこれは確定だ。俺の直感がそう言ってる!!」

 

「随分な直感だな!言っとくけど俺はお前の直感信じてねーから!」

 

「幸村の直感だって大概だろ!?」

 

うるせぇ!

俺は1度お前の『直感』信じて大変なことになってんだ!

お前だって忘れたわけではあるまい、あのホワイトクリスマスに起こった羞恥的大事件を!

俺は今でもあの事件で赤面する羽目になってるんだ!!

とんだ黒歴史作っちまったってめちゃくちゃ後悔してるんだからな!?

 

「え、転校生って藤ノ宮さんって言うの!?男の子?それとも女の子!?」

 

教室の中心で騒いでいたのが災いし、先程から転校生の噂で持ち切りだったクラスメイト達も輪に集まってくる。

予想外だ。まさかここまで転校生の話題が広がっていたなんて。

藤ノ宮の話をしたのは迂闊だったな。

 

「‥‥‥藤ノ宮、か」

 

そういえば、と思いながら俺はここ最近の藤ノ宮との邂逅を回想してみる。

何故かここに来ていた東京見学。

その機会に乗じて行われたデート擬きの何か。

そして、藤ノ宮から発せられた言葉。

 

『‥‥‥もし、私が何かを成したいと言えば、幸村様は私の手をお引きになって頂けますか?』

 

その言葉は、藤ノ宮が何かしらの決意をしたかのような様子がありありと見え、その決意に俺の心は密かに揺れ動いていた。

 

「進む勇気‥‥‥ね」

 

ははっ、まさかな。

転校なんてするわけがねえ。

藤ノ宮の病状は何より上田家最高峰の医者と藤ノ宮の家族が分かっているんだ。この時期に来てまで無理するようなことする筈がないだろ。

それこそ夢見すぎって話──

 

「みんな席につけー、先生来たぞー」

 

と、その一言を合図に今の今まで俺と政宗の席に密集していた生徒達がバラけて、各々の席へと座る。質問攻めに合っていた政宗はげんなりとした様子でため息を1つ。そのため息が移ってしまったのか、俺もため息を吐いた。

 

「ま、転校生が来ても俺達のやることが変わることはねぇから‥‥‥とりあえず今日はどうすんだ?」

 

「ん、そうだな‥‥‥取り敢えず安達垣さんとこに突撃して特大カレーパンを貢ぎに──って、ん?」

 

その時、ドアの開いた音と同時に入ってきた先生を見た政宗が目を見開いて『もうひとつの影』を見た。こういった時、人の視線には釣られてしまうという不思議な現象も相まって、俺も政宗と同じ方向を見てしまい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「‥‥‥なっ‥‥‥‥え、嘘だろ‥‥‥」

 

開いた口が塞がらなくなってしまった。

 

「それでは、転校生を紹介する」

 

先生の言葉なんて最早知ったことではない。

俺にとっての問題は、今頃山奥の女学院にいるであろう女の子がこんな所で自己紹介をしようとしていることなのだから。

ドッペルゲンガー?偽物?

そんな疑念が次々と浮かび上がってくるが、どれも的を射た言葉ではない。

というか姿形がまんま藤ノ宮だ。紛い物なワケがない、間違えてたまるか。

 

そうだ、藤ノ宮がここに来ている理由が見当たらないのだ。

こんな、ノースリーブの黒の制服を着て、艶のある栗色の髪の毛を伸ばした可愛らしい女の子が八坂高校にまで来ているだなんて、その理由が分からない。

強いて言うならこれは夢だ。何処ぞの誰かが用意した都合のいい夢。それにより俺は幻覚を見てしまって──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「藤ノ宮寧子と申します、よろしくお願い申し上げます」

 

‥‥‥夢か?

 

 




原作との変更点
○アッキーのヤキモチはパス。よって、2巻で起こったギクシャクもなし。
理由は藤ノ宮のマンション下見が既に終わっていたから。尚、ここから先順風満帆とは言っていない。

○政宗くんこの時点で2回目のデート。原作デート少なすぎィ!

○1年前のホワイトクリスマス⇒???
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