ゼロから始まる俺氏の命   作:送検

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今回は政宗サイドのお話です。


心情

「37,5℃じゃな」

 

そう言うと、お爺様は横になっていた俺の隣に座る。

 

「今日はゆっくり休みなさい。流石にこの熱では学校には行けんからの」

 

その声に、俺は少なからず驚いた。

普段厳しいお爺様が何故か優しい。今日は自身でも熱を出している、というのは分かってはいたのだがお爺様に無理矢理行かされるのかと思って密かに学校へ行く準備をしていた。それでも、やはり痛いものは痛くて、頭痛に苛まされている所でお爺様がやって来て今に至る

 

「さて、こうなってしまったらどうしたらいいのかのう...」

 

そう言い思案するお爺様に俺は自身の連絡袋を指差す。

 

「お、お爺様。あそこに連絡袋があるのでそれを学校に届けて頂ければ...」

 

すると、お爺様は立ち上がり机の上に置きっぱなしにしていた連絡袋を片手で掴み、外へ向かう。

 

「政宗、兎に角今日は1日安静にしておきなさい」

 

「は、はい」

 

そう言って寝室を出ていくお爺様を見て俺は内心驚愕していた。あの鬼のようなお爺様が優しくしてくれるのなんて初めて見た。もしかして、それに乗じて今後の特訓も優しくなるのでは...

 

「...下手に何かしていたら明日からの強化メニュー、酷いからな、その時は覚悟しておきなさい政宗」

 

現実は、非情だ。勿論それは俺も例外では無い。

 

独りになる時間なんて久し振りで、何をしたらいいのか分からない。3年ほど前は母さんの手作りドーナツや買ってきてくれたクッキーやら大福やらをつまんだりしていたのだが、信州のお爺様に預けられてからはそんな事は出来なくなった。と、まあそういう経緯もあり手持ち無沙汰になった俺は仕方なく布団に体を埋める。

 

今、俺こと真壁政宗はとある少女に復讐する為に信州で修行をしている。信州に来てからは毎日が厳しくて、辛くて、本当に嫌だった。それもこれも全てあの少女のせいだ、あの少女が、俺の全ての歯車を狂わせたんだ。

あの少女のせいで、いじめっ子達から余計に虐められるようになった。夢にまであの光景が浮かぶ様になった。

あの少女のせいで、俺は今辛い思いをしているんだ。

 

それでも、最近少しだけ楽しみが出来た。俺は生まれて初めて、男友達というものが出来た。

名前は、『上田幸村』。この少年、傍から見たらイケメンで頭も良く正に非の打ち所がない少年なのだが何とこの少年。今の今まで友達がいなかったのだ。

それを裏付けるかのように何時も、何をするにも一人でやっており、偶偶体育で一緒になったグループに上田幸村の名前を出したら、何とそのグループは怯えて『ごめんなさいごめんなさい!!』と謝ってきたのだ。何が何だか分からなかった俺はその子達を諌める事くらいしか出来なかった。

 

席が隣という事もあって興味本位で初めてコンタクトを取ってみた時、実はめっさ怖かった。それも心臓が跳ね上がるくらいにドキドキした。というか挨拶をするために呼びかけて、いきなり鷹のように鋭い眼光を向けられ、低い声色で尋ねられてみて、怖がらない人がいたら是非とも教えて欲しい。

 

それでも俺は、幸村と話していく度に徐々に上田幸村という人間について分かってきた。彼は悪い人間ではない。外見とぶっきらぼうな性格が災いして関係が深くなる前に敬遠しがちだけど、言葉の一つ一つが暖かくて、人の事を考えている発言をしてくれている。そんな性格をしていた幸村とは徐々に仲良くなって、今ではこの学校の中で1番の友達だ。

 

それでも俺は、そんな幸村に自身の事情を話せていない。否、話せないのだ。

 

端的に言うと、怖い。俺が女の子に豚足と言われて、ここに来る前はずっと豚足と言われていたことがバレて今まで築いてきた関係性が崩れるのが俺は怖かった。幸村は俺が虐められていた事までは知っているけど、女の子にされた事までは言っていない。俺が『豚足』と呼ばれていた事がバレてしまい、信じていた人間に裏切られたら今度こそ俺は立ち直れない。

そこまで考えて、俺という人間は矛盾だらけだと心底呆れた。

 

「...信じてないのは俺の方じゃないか」

 

そうだ。俺は上田幸村を信頼していない。ここまで歪な考え方をするようになってしまったのも全てあの女のせいだ。だからこそ、俺はあの女に絶対復讐する。そして、今までの屈辱や恨みを全てゼロに、そうすれば

 

きっと、幸村とも本当の意味で...

 

 

 

 

...

 

 

 

 

......

 

 

 

 

.........

 

 

 

 

「...はっ」

 

 

いつの間にか、寝てしまっていたらしい。今日は珍しくあの夢を見なかった。何故だろうか...そう思いつつ、俺は上体を起こして前を向く。

 

すると、何処かから物音がする。そして、微かに聞こえる喋り声。

 

「誰か来てるのかな...?」

 

そう思い、立ち上がる。気が付けば時刻は既に4時を回っている。体調も良くなっており、先程の頭痛が嘘の様だった。

 

寝室を出て居間の方へ歩いていくと徐々に話し声も大きくなっていく。それより、あの声。何故か聞き覚えがある───

 

「おい、あのゴルフ親父と似ている件について詳しく説明を願おうじゃあないか」

 

ちょ、え!?幸村!?

 

何故幸村がここにいるのか俺は今すぐ居間に駆けつけたかったが我慢して、入り口の障子に聞き耳を立てる。すると、お爺様は普段見せないような笑い声を上げた。

 

「そうやってムキになる所とか若かりし頃の昌幸にそっくりじゃ。子は親の背中を見て育つ...どうやら迷信では無かったらしいの」

 

その後も、幸村とお爺様は会話を弾ませる。どうやら、話を聞く限り幸村は俺の連絡袋を届けに来たらしく、更に幸村とお爺様は旧知の仲で、以前は幸村もお爺様の指導を受けていた事があり、その関係で仲がいいらしい。

 

そうして、暫くは明るく会話をしていたのだが突如として幸村が静かになる。どうしたのかと思い、またしても聞き耳を立てると、幸村は声を出す。

 

「...なあ、爺さん。急に済まないが聞きたいことがある」

 

そう言うと更に幸村は続ける。

 

「政宗は一体何をされたんだ?何故アイツはいじめっ子にすら持たなかった復讐心をとある少女に向けてるんだ?」

 

幸村がそれを聞いた瞬間、心臓が止まりそうになった。

 

幸村がそれを聞いてしまったら友達にすらなれないかもしれない...!!

 

豚足と言われていたことがバレたらそれこそ幸村とは友達になれないかもしれないのに...!!

 

そう思った俺は障子に手をかける。後は、開けるだけ。その障子を開いて開けるだけなのに───

 

何故か、俺はその一歩が踏めなかった。そして、俺は自分がどうしようもない臆病である事を悟った。否、気付いていたのに、自分がどうしようもなく臆病だという事実を無理矢理押し込めていた。そうだ、俺は弱いから、臆病だから友達だと思っていたあの女の子に裏切られたのではないか。だったら、アイツだって俺が弱いのを、臆病なのを、そして豚足と罵られているのを知って、きっと馬鹿にするんだ。

 

 

「それを知って、幸村はどうしたいのじゃ?」

 

時間は刻一刻と過ぎていく。俺は障子に手をかけたまま、立ち往生していた。

 

「真壁政宗──否、あやつが『早瀬政宗』だった頃の過去を知って幸村はどうしたいのか、と聞いておる」

 

そう最後に締めくくるお爺様。すると、間髪入れずに幸村が言葉を返す。

 

「政宗はどう思っているのかは知らないけど、俺は政宗の事を親友だと思っている」

 

その幸村の言葉に、俺は、はっとなる。

 

「俺は政宗を助けたい。あれだけ人に優しく自らの意思と目標に真摯な人間が虐げられる道理はないから」

 

そして幸村がそういった途端、俺は幸村に対して、幸村の話を盗み聞きしてしまった事にとてつもない罪悪感を持ってしまった──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「...こんなところにいたのか、政宗」

 

襖で耳を傾けること早1時間、俺は聞き耳を立てる事を放棄した。これ以上聞き耳を立てて、幸村の心を聞こうとするのは間違っていると思ったから。

 

そして、そのまま隣の部屋で蹲っていると会話を終えたのかお爺様が隣の部屋にいる俺を見つけた。ああ、怒られる、今日は納屋で睡眠だな...そう思っていると、突如、お爺様が俺の目の前にしゃがみこむ。

 

「幸村の話、聞いていたんじゃろ?」

 

その声に、俺は頷く。

 

「幸村の気持ちは、しっかり聞いたじゃろう?」

 

更に続けたその言葉に俺は頷く。

 

「...幸村は、いい加減な男じゃ。当初の修行期間は不真面目を絵で描いたかのような男だったし、体も虚弱で頭だけは良いだけの本当に粗略な男だった。だけどな、政宗。あやつは1度やると言ったことは必ず貫き通すぞ」

 

お爺様はそう言うと、立ち上がり外へと出ていく。

 

「あやつは、政宗を信頼しておる。なら政宗は幸村にどうするべきなのか。よく考えなさい」

 

最後にその声を出して、お爺様は外へ出ていった。

 

 

 

 

上田幸村は優しい人間だ。それは知っている。何度も、何度もそう思う。

 

上田幸村は俺を信じてくれている。それも知っている。先程そう言ってくれたから。

 

だけど俺は、幸村がそう言ってくれるまで幸村を信じることが出来なかった。

 

居間へ向かうと、先程幸村が置いていった連絡袋が机に置いてあった。そうだ、明日の準備をしなければならない。そう思い、連絡袋を片手に自分の部屋に向かう為に歩いていく。

 

「あ、明日は体育か」

 

体育着を忘れない様にしなければ、体育は見学するより実際にやる方が楽しいし、カロリーの消費も出来る。連絡事項が書いてある紙を見つめながらそう思っていると、1枚の紙切れがふわりと落ちた。

 

「何だ?」

 

それをすくい上げて見ると、そこには『早く元気になれよ! by自称政宗の親友!』と大きな文字で書いてあった。

 

ははっ、本当に幸村は爺さんの言った通り適当だ。粗略だ。もっとお見舞いの手紙だったら紙切れなんかじゃなくて普通の紙に書いてくれれば良いのに。字だって丁寧とは言い難い。やや殴り書きになってるし、シャー芯の折れた跡だって付いてある。

 

本当に幸村は、適当で、粗略で、ぼっちで...

 

 

「何が...自称だよっ...」

 

俺だって、今思ったよ。

 

 

幸村は、自称なんかじゃない、正真正銘最高の友達だって。涙ながら、俺は『上田幸村』を信じよう。そう思えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

雨が未だに降るその日、もう一度だけ俺は『親友』って言うのを信じてみようと決意した。

 

ただ、それだけのお話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




早く残虐姫を登場させたいです...

早く幸薄そうなあの残虐姫の使用人を登場させたいです...

...早く物語進めないとなぁ...
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