パーティは嫌いだ。
「やあやあ、僕の名前は上田昌幸!早速悪いけどゴルフしません!?」
親父の副業ゴルファーの血が流れていると思うとゾッとするから。
「いやー、キミが松華さんか!薫さんに似てお綺麗ですね!!」
「お褒め頂き光栄です」
松姉さんのいつもと違う態度を見ていると吐き気がするから。
そして───
「キミが幸村君か!話は昌幸...お父さんから聞いているよ!」
「は、はあ...」
パーティというものは個人情報保護法が全く以て効かないという事実が、俺のパーティに対する好感度を更に下降させた。
繰り返し言おう。
俺は、パーティが嫌いだ。
※
夏休み、だ。
俺はこの期間を見事に家族に付け狙われ行きたくもない社交パーティなんぞに来るハメになってしまった。
そんな事にうつつを抜かしているのなら政宗と共に遊びたいとか爺さんと修行したいとか色々言いたい事はあるがまあ、そこは藤ノ宮曰くこの家に生まれた宿命みたいなもののため割り切ろうではないか。
と、いう訳で...俺は家族の目を盗んで外に出てたりしている。
あれから藤ノ宮を探してみたのだが、一向に見つかる気配がしない。これは、もしかしたらそういう運命なのかもしれない。そう悟ってもいいくらいには、血眼になって探した。
しかし、もう限界だ。会場内を探せば探すほど上流階級の輩に見つかり挨拶をされ、敬語を繰り返し、頃合を見計らってお暇する。その繰り返しを何度行ったことか。お陰で俺の体力は限界に近づいていた。これはもうダメだ、俗に言う詰みというやつだ。
俺は前世の朧気な経験と、現世の社交パーティなどで培った話術があるため大人を相手に出来ない事もないが如何せん話が長い。いわば校長の長話を相手にしているのと同じで本当に眠くなるし疲れる。
ドガーンと稼げる儲け話が子供に転がっているわけでもあるまいし、重要な事案が俺に告げられる訳でもない。他の家の輩が話しかけたいのは父であり俺では無いだろうし、偶に気がついたかのように話す輩も、所詮は父や、母、又は松姉と話す口実が欲しいだけ。俺みたいな人間は美味しいご飯に舌鼓を打ち、黙って外にいれば良い。
オレンジジュースを片手に外のバルコニーへ。ここからだと海が一望出来て気分がいい。
「はぁ...」
やっと、一息をつくことが出来て、心から安堵する。前世でも、三年前も、今もそうなのだが、俺は見知らぬ人物と世間話などをするという事は好きではない。見知っている人物と話したりする事は大好きなのだが、腹の中が読めない相手と話すのは、精神的に疲れるし子どもの内は出来るだけ回避したいなと思っていた。
オレンジジュースを一口飲む。するとオレンジの酸味と甘さが乾ききった口内をあっという間に支配する。ここで一つ、某食レポ芸人のように『宝石箱』やら『IT革命』などと洒落こみたいところだが、残念。今の俺にそこまでのボキャブラリーはない。
それにしても流石、パーティのオレンジだ。非常に美味しい。そう思いながらもう一口...
「さっきから外を見てブツブツ...気持ち悪いわね...」
と、飲みかけた所で背後から女に声をかけられる。どうやら何時でも何処でも声をかけられてしまう俺に安住の地はないようだ。俺は呆れつつも普段の顔を隠し、何時もの大人と話している時と同じようなニコニコスマイルで応えようと振り向く。
「おや、どちら様ですか?」
せめてもの様式美だ。例え、目の前の女が生意気で、同年代でも敬語を使う。これ、パーティの常識らしい。ソースは親父。
「呆れた...まさか私を知らないっていうの?」
しかし、目の前の髪をツインテールにしたいかにも『艶美』といったような少女は相変わらずタメ口で話している、本当に失礼な女だ。因みにこちらが敬語を使っても一向に敬語を使わない同年代の女にはタメ口を使って良いらしい、ソースは松姉さん。...信頼していいのそれ?
「誰?知らない。ストーカー?」
些か松華の言っていた事に疑問を持ちつつもそう言うと、目の前の少女は顔を紅潮させ、肩をワナワナ震わせて「違うわよ!!」と叫ぶ。どうやらこの女は同年代に対する社交辞令と言うものを持ち合わせていないらしい。こうなってしまうのは彼女の傲慢さ故か、若しくは俺の人徳が屑だからか、どちらにせよ俺にとって良い状況に好転することは無さそうだった。
「藤ノ宮が恋しいぜ...」
仮に目の前の少女が藤ノ宮ならば、話は弾みつまらないこの時間も楽しいものに変わるだろう。
だが残念。今ここに藤ノ宮はいない。今頃親父さんに連れられて挨拶回りをしている事だろう。エマージェンシー藤ノ宮。来ないのは分かっているが助けてくれ。
「あら、藤ノ宮ってどちら様?」
「お前なんかとは大違いの美人だよ」
何が、とは言わない。性格ブスなんて言ったら絶対に殺される。しかし、その意図を察したのかただの気まぐれか少女はニコリと笑う。
「売られた喧嘩は買うわよ変態紳士。安心して?私こう見えて人を殴るのと蹴りあげるのは上手なの」
何故か遠回しに喧嘩を売られている。先程の発言が悪かったのだろうか。彼女の傲慢さに少しずつフラストレーションが溜まってきたが俺は男だ。ここは大人の対応をしなければ......
「変態紳士とかナンセンスかよって言ってんだよ」
出来なかった。大人気ないと頭では分かっているが俺に煽り耐性と言うものは無かったらしい。内心俺自身の度量の低さに愕然としていると、松姉さんが怒った時と同じピリッとした空気が蔓延する。
やっべー、地雷踏んだわ。
「誰がナンセンスですって...?変態紳士の癖に生意気な口を聞くじゃない」
少女の顔は物凄いことになっている。不味い、ウォー〇マン並に怖い。コーホーコーホー言ってそうで怖い。
「大体、変態紳士って何だよ。俺アンタに何一つ変態行為してないんだけど?」
変態紳士なんて不名誉な渾名は本当に勘弁して欲しい。変態紳士は某ギャグマンガのク○吉だけで十分だ。
「あんたさっきから外を見てブツブツ言ってたじゃない。それだけで変態よ、この変態紳士!」
「ガッデム!!変態変態五月蝿いんだよ!!口先ばかりのエキセントリックガールが!!」
我ながらガキのような煽りだな、と心底思ったがそんな煽りでも年端のいかぬこの少女の怒りを引きだすには十分だったらしい。
「アンタ本当に死にたいようね──!?」
そう言った途端だった。
ぐぅー.......と悩ましげな音が鳴る。無論、俺ではない。自分の体の事は自分がよく知っている。
と、なるとだ。先程の腹の音は当然目の前の少女ということになり──
「お前さん...もしかして昼から何も食べてないのか?」
だとしたら仕方ない。この女も子供だ。人間の3大欲求に食欲が入る位だからな。少し位お腹が鳴った所で大したことではない。しかし、少女は見る見るうちに羞恥に顔を染め上げ、そして俺の視線に気付いたらしい彼女は此方に近付いて
「な、何を言ってるのかしら?私がお腹を鳴らす訳ないじゃない!」
胸倉を掴み安達垣は俺に言う。俺は言ってない。お腹を鳴らしたなどとは一言も言っていないのだが...。
それに、大丈夫だ。俺は分かってる。お腹...空いてるんだろ?無理しなくていいって...
そう思っていると、その少女は更に俺を叱責する。
「ちょっ!黙ってないで何か言いなさ───」
その途端
ぐぎゅるるるるる......
盛大に鳴らした。何がとは言わない。
「...何か、食べ物取ってこようか?」
「......そ、そう。じゃあ炭水化物を多めに持ってきなさい」
ここまで誤魔化そうとして、それがバレても尚その態度を取れるというのは正直に賞賛に値すると思う。
※
「変態紳士。あんた名前は?」
俺が様々な人間の好奇な視線を躱しつつ、持ってきたお皿三枚分の炭水化物系の食べ物を備え付けの椅子に座りパクパク食べている少女。そいつは2皿目の麺類を食べおわった後、口元を拭きながら向かい側に座っている俺に問いかける。
「...上田」
そう言うと少女は細い脚でゲシゲシと俺の脛付近を蹴って来る。
「ちょ、ま、痛い痛い」
「馬鹿、分からないの?私はあんたの『名前』を言えって言ってるの。蹴るわよ?」
そう言って安達垣は更に俺の脛を蹴る、蹴る、蹴る。かの有名な武蔵坊弁慶も大泣きどころか発狂してしまいそうな程蹴られていた。
調べればいいじゃないか。このパーティに参加する程の家系だ。名前は知らないが大層大きな家系なのだろう?
「ご生憎様。私は『男』なんて大嫌いなの。それが同年代なら尚更だから、興味なんて無かったしアンタの名前も知らないわ」
少女はやれやれと言った表情で俺を嘲笑う。何故だろう、こんなに悔しくない嘲笑は初めてだ。
世間知らずのお嬢様め。俺が内心溜め息を吐くと少女は俺を見て大声を上げる。
「早く!!言いなさいよ名前!!出身地と名字諸々はバレてるんだから今更変わんないでしょうが!!」
なあ、プライバシーって何なんだろうな。さっきから俺のプライベートが筒抜けなんだが。
「...幸村だ。上田幸村」
「...そ、じゃあ上田」
そう言うとその少女はこちらに近付き一言。
「この事、バラしたら殺すから」
...なあ、知る権利って何なんだろうな。不可抗力で知った事に関しては妥協してくれないのだろうか。
「それはそうと、お前さんの名前は?」
「そう...ね。此方にも最低限の礼儀ってものがあるわよね...はぁ」
そう言ってゴミを見るかのような目で俺を見るとツインテールにしてある髪の毛を手で左に靡かせる。
「安達垣愛姫。よろしくね変態紳士」
そう言って、クスッと嘲笑する安達垣。何故だろう、ここまでイラッとくる嘲笑は初めてだ。
ちょっと待て。
今、さっきアイツはなんて言った?
あだがき、アダガキ、...安達垣?
「お前さんあの安達垣愛姫か」
「...何だ、私の名前知ってるじゃない」
そう言うと安達垣はぷいと横を向く。
「東京の、安達垣グループの、愛姫か?」
「...それがどうしたってのよ」
更にそう聞くと、あからさまに怒気を孕んだ声でそう言う安達垣。俺は、文字通り驚愕していた。目の前の少女がお目当ての人間であったことに。
そして、その事実に俺は言葉が自然と飛び出した。
「安達垣よ、聞きたいことがある」
大事な話だ。聞け。
「...何よ」
そう言って、こちらを振り向く安達垣。そして、俺はこう言い放った。
「お前は、豚足って渾名に覚えはあるか?」
仮に、この少女が何も知らないのならば、俺はコイツをどうにかする気はない。しかし、彼女が政宗を突き放し、あまつさえ豚足という渾名を付けて突き放したとするならば、俺は何故、安達垣がそうしたのか、その経緯を知りたかった。
というか、俺にはそれしかできないだろう。これはそれぞれの家や、俺自身の問題ではない。『真壁政宗』という一人の男と少女Aの問題だ。その中で俺の出来ることがあるというのなら、現時点では『先ず、その真相を知る』位しか出来ない。事の真相を知らずして、行動する事は実に愚かで安易で短絡的過ぎる。
それ故に、俺は『安達垣愛姫』が少女Aなのか、先ずはそれを聞きたかった。
「...は?とん...そく?」
しかし、次に安達垣が起こしたアクションは、『まるで何が何だか分からない』といった表情だった。
「知らないわ、そんな渾名」
「...そうか」
嘘をついている可能性があるかもしれない。しかし、今見せている少女の顔は嘘をついているようにはどうにも思えない。根拠としてはどうしても弱いが、第三者という立場上深追いする事も出来ない俺にとっては彼女の『知らない』という言葉と、今見せている顔を信じる他無かった。
暫しの間、静寂が闇を支配する。気がつけば時計の針は7時を過ぎており、そろそろパーティは終了する時間帯となっていた。
そして、この時計の針が止まっているかのようにすら、錯覚したその世界を再度動かしたのは、意外にも俺でも安達垣でもなかった。
「愛姫様、そろそろお時間です」
その声に、安達垣と俺は振り向く。すると、安達垣よりも小柄な少女が此方に向かって小走りで駆け寄ってきていた。
「...分かっているわ、行きましょう吉乃」
そう言ってほうけていた顔を元に戻し踵を返す安達垣、とメイド服の少女、吉乃。
その光景を見ていると一瞬、その少女と目が合ったような、そんな気がした。
それと同時ににカーン...と鐘の音が響く。最早考えるまでもない、お開きの時間だ。そろそろ親父達と合流しないとな、そう思い俺も会場に向かい歩き始めると、突如として安達垣が付き人を従えて振り向く。
「変態紳士」
「何だ?」
「さようなら。あんたの事大嫌いだけど心底嫌いって訳じゃなかったわ」
ただ二言そう言って安達垣愛姫は去っていった。
何の変哲もなく、つまらなかったはずの社交パーティ、それは彼女のお陰で多少は実のある物となった、と思う。
そして、これこそが後々深く関わることになるであろう二人とのファーストコンタクトであった。
これが、今年最後の投稿になりそうです。
このような駄作を読んで下さった皆様。少し早い、というか早すぎますが、良いお年を。
そして、来年も『ゼロから始まる俺氏の命(仮題)』をよろしくお願い致します!