ロクでもない魔術に光あれ   作:やのくちひろし

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第12話

「《雷精の紫電よ》!」

 

 場所は競技祭や授業参観に使用した競技場。その空間で凛とした声が響く。

 

 それと同時に眩い紫電が閃き、競技場の真ん中に立っているゴーレム……その頭部に付けられた的を撃ち抜く。

 

「すごい、システィ! 六発全弾命中なんて!」

 

「へぇ……やるな、白猫。この距離で全弾命中は普通にすげぇぞ」

 

 システィが200メトラ先にあるゴーレムの所々に付けられた六つの的に[ショック・ボルト]を全て命中させるとルミアが自分の事のように喜び、グレン先生は感心しながらボードにメモする。

 

 現在は魔術の実践授業。本来は座学なのだが、今朝の騒動の所為で大幅に時間が狂ったのとグレン先生のリィエルに対する気遣いで急遽予定変更になった。

 

 座学より実技の方が色んなものが見えやすいということでこの授業なのだろう。うまくいけばクラスのみんなに溶け込めるし、それで守るという意識が芽生えるかもしれないし。

 

 ちなみにトップはシスティとギイブル。その次でウェンディ。ただし、ウェンディは最後の狙撃でくしゃみをしたために狙いが外れたので普段通りならトップ二人と並んでいたことだろう。この三人はクラスの中でも文武共に高レベルだしな。

 

 ワーストから数えればカッシュが一発も当たってないが、溜めなしであそこまで寄せられるのだからもう少し落ち着いて撃てばいい所いくだろうとグレン先生もフォローしてた。

 

 その次でリンだが、ほとんど撃つ瞬間に目を瞑ってしまってるために一発しか命中していない。臆病なのを譏るつもりなどないが、殺傷力の低い攻性呪文(アサルト・スペル)かつ相手が無機物だというのにも関わらずこれは流石にまずいかもしれないな。

 

 グレン先生もどうしたものかと彼女に対する教育方針に悩みながらボートにメモする。

 

「じゃ、次はリョウな」

 

 どうやら次は俺の出番のようだ。後ろからがんばれよーと軽い声援を受けながらターゲットを視界に収める。それからゆっくり深呼吸してから脚に力を入れる。

 

「すぅ……《飛雷》っ!」

 

 ハイキックの要領で脚を振るうと弾丸状の紫電がゴーレムの左肩の的を破壊する。

 

『『『足ぃ!?』』』

 

 大半の生徒が驚愕していた。まあ、普通は目で見て対象に手を向けるものだが、実践を想定するなら手以外にも使えそうな足でも撃てないかと試した結果、意外とできた。

 

「加えて──《雷》《雷》《雷》《雷》《雷》っ!」

 

 更に呪文を連続して繋げ、[ショック・ボルト]を五連続で放つ。

 

「……六分の四、か。まだイマイチだな……」

 

「いやいや、あんな方法でやって半分以上は素直にすげぇぞ。つか、足からの[ショック・ボルト]もだが、お前いつの間に連続呪文(ラピッド・ファイア)なんて覚えてたのか?」

 

「その、連続呪文(ラピッド・ファイア)ってのが速い連射ってのはなんとなくわかりますが、足からのは手が使えない状況を考えて、練習してみたらなんか出来ました」

 

「なんか出来たって……お前、発想力と魔力制御だけなら白猫以上の天才か?」

 

 何故かグレン先生が呆れたように頭を抱えながら呟いた。

 

「あ、あんな方法で……しかもあんなに短い間隔で呪文を繋げて……」

 

「けど、システィみたく全弾命中とまではいかないからまだまだなんだけどね」

 

「あんたね……」

 

 なんかシスティが呆れと対抗意識の込もった目で俺を見た。

 

「あのなぁ……命中率はともかく、あんな速度の連続呪文(ラピッド・ファイア)なんて学生で出来る奴はまずいないし、足で攻性呪文(アサルト・スペル)ぶっ放すなんざ試す奴なんていねえんだよ」

 

 グレン先生が呆れた風に言ってくる。どうやら俺がもっと詠唱と詠唱の間を省略できないかと練習してた技術は連続呪文(ラピッド・ファイア)と呼ばれる技術で時間差起動(ディレイ・ブート)程とは行かずとも結構なものらしい。

 

 更に足で魔術を撃ち放つ者もまずいないため、俺は結構異端な奴みたいだ。まあ、実際見たことないからそうなんだろうなとは思ってたけど、使える所はとにかく使いたかったからな。

 

「あ、あんたには絶対負けたくない……」

 

 どうやら今回のでシスティに対抗意識が芽生えたようだ。まあ、結構魔術に対してプライドの高い奴だから大して魔術に没頭した時間の少ない俺に抜かれるのが面白くないと感じた、と言ったところか。まだまだ魔術の実力はシスティの方が優ってるんだけどな。

 

「まあ、命中率はこれから時間かけて改善すりゃあいいしな。学生にしては文句なしに合格レベルだろ。……これならもう少しメニュー増やしてもいけるか

 

 褒めたと思ったら最後なんか不穏な事言いませんでしたか? それと、システィからより敵意のような目を向けられる。あ、対抗意識の根元の理由はこっちだったようだ。

 

 まあ、これを言ったところで本人は認めようとしないだろうから口にはしないけど。

 

「じゃあ、次はリィエルだな」

 

「ん……」

 

 いよいよ本日のメインイベントと言ったところか。編入したてでその実力がまだ明るみになってないリィエルにみんなの視線が集中する。

 

 リィエルがどれほどの腕前を持ってるのか興味津々であちこちからそんな疑問の声が上がっている。

 

 リィエルは聞こえてないのか単純に興味がないだけなのか、標的に眠たそうな目を集中させて掌を向けて口を開く。

 

「《雷精よ・紫電の衝撃以って・撃ち倒せ》」

 

 ボソボソと詠唱して掌から紫電が閃くが、閃光は的はおろか、ゴーレム自体から大きくズレて通り過ぎていった。

 

『『『…………』』』

 

 本日何度目か、また微妙な沈黙が場を支配していた。

 

 あまりにもお粗末な魔術の使い方にみんな信じられないような目を向ける。それは俺も同じで実力を隠してるのかとリィエルと見てからグレン先生に視線を向ける。

 

「あいつ……今までよく生き残れたな」

 

 などと呟きながら頭を抱えてるあたり、あれが彼女の実力なのだろう。どうやら彼女は大剣を作ることのみに特化した魔術師のようで他はてんでダメなんだろう。

 

 それから何回か再チャレンジしてみるも、全く的に寄らないところを見てみんな子供を見守るような雰囲気になって応援していた。

 

 そして最後に来たところ、リィエルがグレン先生の方に振り返る。

 

「ねえグレン……これって、[ショック・ボルト]じゃないと駄目なの?」

 

「いや、別に駄目とは言わないが……この距離でまともに当てられるのは[ショック・ボルト]くらいだからなぁ」

 

「ん、わかった」

 

「何をすんのか知らねーが、軍用魔術は禁止だぞ」

 

「ん、問題ない」

 

 それからくるりとゴーレムの方に向き直って再び口を開く。

 

「《万象に希う・我が腕手に・十字の剣を》」

 

 身を屈めて地面に手を叩きつけると紫電が奔り、土が抉れたと思うとその手には御馴染みの十字の大剣が握られていた。

 

「「「な、なんだああぁぁぁぁ!?」」」

 

 いきなりの高速武器錬成にクラスメート達が驚きの声を上げる。

 

「お、おいリィエル……お前、何をするつもり?」

 

 疑問をぶつけているが、恐らくグレン先生含めて今朝のリィエルの奇行を目の当たりにした俺とシスティにルミアはこれから何が起こるのかなんとなく予想できてるのだろう。

 

 あまり考えたくはないが……。

 

「いいいいやああぁぁぁぁ!」

 

 普段はボソボソとしか話さないリィエルにしてはえらい気合いの込もった声が上がり、両手に握られた大剣を力一杯投擲する。

 

 大剣は遠心力たっぷりの回転を保ちながらゴーレムに命中し、的ごと粉々に砕け散った。

 

『『『…………』』』

 

「ん、六分の六」

 

「なわけあるか!攻性呪文(アサルト・スペル)って言ったのに何でソレ使う!?」

 

「うん、錬金術で創った剣だから攻性呪文(アサルト・スペル)

 

「それ絶対間違ってるから……」

 

 グレン先生は天を仰いだ。そして今の奇行で大半のクラスメートが怯えた。

 

 うん、何も知らなかったら俺も絶対向こう側だったな。そんなこんなでリィエルの顔見せイベントは最悪の形で終結する事になった。

 

 

 

 

 

 

 

 午前の授業が終わり、昼休みに入った。ふと気になって視線を移すと、窓際でボーッと外を眺めているリィエルとそれを遠巻きに眺めてるクラスメート。

 

 やはり実技授業の奇行……更には無表情なことと間立ちのなさも相まってより声を掛けづらいといったところか。俺もコミュニケーションに自信のある方ではないが、彼女のあれは最早対人がどうとかを軽く逸脱していた。

 

 軍にいる理由はわからんが、あの奇行から察するにまともな生い立ちや環境じゃなかったのだろう。しかもロクな教養も与えられてない……精神的な部分は幼稚園児と同等かそれ以下なのかもしれない。

 

 まあ、だからと言ってこのまま放っておいていいなんてことは全くないし、何故かアルベルトさんやグレン先生にも頼まれてるわけだしな。

 

「……リィエル、昼休みに入ったけど、昼食は取らないのか?」

 

「……お昼ご飯? 必要ない。私は三日間食べなくても平気。食料も支給されてないから」

 

「支給されてたよね? 一回で食べきったけど……」

 

 多分カロリーメイトのような固形物の兵糧の入った袋を見るに、一応三日分くらいはあった筈だ。だが、この子はそれを一食で食べきってしまっていた。

 

 食料を分配されるまで一体どうやって護衛をやっていこうとしたのか。いや、そもそも護衛を任されてるという自覚すらまだ備わってないけど。

 

「ふぅ……じゃあ、今日は俺が奢るから学食行かないか?」

 

「学食?」

 

「学生が食事をする場所だから学食。普段より美味しいもの食べられるよ?」

 

「…………」

 

 リィエルがふと違う方向を見る。彼女の視線を追うと、グレン先生が頷いて片手を縦にして頼むとジェスチャーしてきた。リィエルのことを知ってるだけに、何だかんだで心配だったんだろう。

 

「ん、じゃあ行く」

 

 それからリィエルが立ち上がって俺に着いて行くのをクラスメートが信じられないといった風に眺めていた。まあ、それが当然の反応と言えばそうなんだろうな。俺だって誰かがやればそんな風に見ただろうし。

 

「あ、リョウ君。学食に行くの?私達もいいかな?」

 

 学食に行こうと教室の扉から出て行くところでルミアとシスティに会う。気づいたルミアが俺とリィエルの姿を見ると誘いをかけてきた。

 

「ほら、私達これからしばらく付き合うことになるでしょ?親睦を深めるっていうか、食事は大勢の方が楽しいし」

 

「らしいけど、どうだ?」

 

「ん、楽しい? 私はよくわからないけど……うん」

 

「ふふ、よかった。じゃあ行こうか」

 

 ルミアがリィエルの手を引いて食堂へと向かう。

 

「…………よくわからない、か。彼女、幼少の頃から軍にいたんですか?」

 

 俺は背後から着いてきてるだろうグレン先生に尋ねる。

 

「ん……幼少っつうか、まあ一応そんな感じでな。あいつ、楽しいとかそういう同世代の奴らとの接点がまるでないからな。いつも戦闘に呼ばれるか、待機してる時でも自分から何かするのがほとんどなかったからな」

 

「そうですか……」

 

「まあ、この任務にあいつ選んだ奴を殴りたい気持ちはあるが……今回の任務はある意味あいつに必要なんだろうな。同世代の奴らと触れ合って何か感情が育つきっかけになれば。つうわけで頼むぜ、お菓子のお兄ちゃん」

 

「だから、あんたも手伝えって言うに……まあ、頑張りますけど」

 

「マジで頼む。あいつ、色んな意味で子供だからさ」

 

 今のグレン先生の声はいつもの調子に乗った上から目線のようなものでなく、哀憐のようなものを感じた。俺は軽く頷いて三人を追った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 食堂に来てみれば結構な人数で占められていた。席取りが大変そうなのでルミアに軽く注文頼んで俺は空いてる席がないかを探してどうにか端っこ近くの席四人分を確保できた。

 

 数分すると三人がトレイを持ってきて合流した。

 

「はい。カレーとサラダと、パンケーキのアイス乗せでいいんだよね?」

 

「ありがと。で、システィはいつも通りみたいだけど……本当に大丈夫か?」

 

 最近はグレン先生との朝練で結構カロリー消費してるし。

 

「うん。別にシスティ太ってるわけじゃないしね。むしろ痩せてるくらいだし」

 

「べ、別に太るとかの心配じゃなくて、午後の授業が眠くなるから少量にしてるだけだし! これだけでも十分足りるわよ!」

 

「で、リィエルは……何、その苺タルトの山……」

 

 リィエルのトレイには何故か苺タルトが山積みになって置かれているという、偏食どころか変食とも言えるメニューだった。

 

「なんか、一目惚れしちゃったみたいでとにかくそれを積んでね……」

 

「はぁ……」

 

両手で優しく持ち、カリカリと一心不乱に食べてる様子を見ると本当に気に入ったみたいだな。しかも、小動物みたいで微笑ましくもある。

 

「う、羨ましい……」

 

「どうしたの、システィ?」

 

「うぅ……食べれば食べるだけ育つルミアにはわかんないわよ」

 

 まあ、システィが充分な栄養を取らないってのもあるけど、ルミアも先天的な代謝持ちなおかげでいいスタイルを維持出来てるわけだからな。神さまって残酷だって思う。

 

「リョウ君も量が多いし、甘いものも多いけど……全然太らないよね」

 

「ん? まあ、運動すればいいし……それに、甘いもので太った事がないからな」

 

 言ったらシスティに睨まれた。いや、本当に地球でも普通の料理だったらそれなりの影響はあったけど、甘いものに限ってはいくらでもイケてた。

 

 まあ、俺よりもとんでもない奴が目の前にいるけどな。あんだけあった苺タルトの山が半分にまで減っていた。

 

「……む?」

 

 俺が見ていたのに気づいたのか、俺と苺タルトを交互に見ると苺タルトを隠すようにして食べるペースを速めた。

 

「いや、取ったりしないから」

 

 そんな光景を見てルミアとシスティも頰を緩める。

 

「ほら、リィエル……ほっぺにクリーム付いてるじゃない」

 

 ほっぺにクリームを付けるといういかにもな子供っぽさにシスティが保護欲をかき立たされたのか、ハンカチで頰に付いたクリームを拭き取る。

 

「おお、何だ。随分和やかになってんじゃねえか」

 

 微笑ましい光景を眺めてると声がかかる。振り返ると昼食を出されたばかりの料理の乗ったトレイを手に持ったカッシュがいた。

 

「なあ、良けりゃ俺達も混ぜちゃくれねえか? こんだけの美人揃いの昼食会、乗らない手はねえだろ。いいかな、リィエルちゃん?」

 

「……ん。別にいい」

 

「そっか! いやあ、ラッキーだな! おいセシル、こっちだ! あ、ウェンディにリンもどうだ?」

 

 カッシュが少し離れた場所にいたセシル、ウェンディ、リンに呼びかける。三人がカッシュに呼ばれ、リィエルの存在を認識すると複雑な表情を浮かべる。やはり授業の時の奇行を思い出したのか、いきなりリィエルと一緒に食事をと言われてもすぐには頷けまい。

 

「ところでさ、リィエルちゃん! 授業の時のあの剣をバリバリーって出す奴すごかったな! 一体どうやったんだ?」

 

「すごい? 私が?」

 

「おう! あんな魔術見たことないぜ! 今度コツ教えてくれよ!」

 

「あ、僕もあの高速錬成式の仕組みが知りたいなって思うな」

 

「…………ん。暇な時に教えてあげる」

 

「おー、ラッキー! おい、ウェンディもリンもどうだ?魔術師としての位階昇格の力になると思うぜ?」

 

 カッシュがあっという間にリィエルとの約束を交わし、更にウェンディとリンを輪に入れてしまった。

 

 あいつのあのコミュニケーション能力はとんでもないな。俺がこの学院に編入したての時も最初に声をかけてきたのはカッシュだったんだよな。当初は随分乱雑な受け答えだったが、俺がこの学院でやっていけてるのはこいつが橋渡しをしてくれたのも大きな要因なんだよな。

 

「ありがとね、カッシュ君」

 

「まあ、変な奴とはいえ、新しい仲間が爪弾きにされるっていうのはな……。あ、お礼なら今度俺とのデートで──」

 

「あ、それはダメ。ごめんね、カッシュ君」

 

「ぐはっ!」

 

クラスの兄貴分で尊敬はしてるけど、残念なところも多いんだよな。まあ、おかげでウェンディやリンも最初の恐怖心が薄まったし、今度何か奢ってやるか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、こうなって……ここの元素配列式をマルキオス演算展開して……こう……で、こうやって算出した火素(フラメア)水素(アクエス)土素(ソイレ)気素(エアル)霊素(エテリオ)根源素(オリジン)属性値の各戻り値を……こっちに……こんな感じで根源素(オリジン)を再配列していって……物質を再構築……」

 

 時間は放課後……。錬金術の授業の後、リィエルが実技授業での高速錬成が話題に上がってカッシュが昼休みに言ってた約束を早速使うことになり、リィエルの高速錬成の術式を教えてもらってるのだが……。

 

「……わかった?」

 

「おう、全くわからん」

 

「同じく……」

 

 錬金術は無機化学と似てるから授業もそれなりについていってたけど、リィエルの錬金術の仕組みはまるでわからない。

 

「す、凄すぎる……」

 

「なんて事……こんな術式、誰が作ったのよ……」

 

 学力抜群のセシルやシスティがリィエルの説明を受けて表情が驚愕に染まっていた。

 

「恐れ入ったよ……どうやってウーツ鋼の大剣をあんな高速で錬成してたか不思議だったけど……魔術言語ルーンの仕様に存在するバグすら利用していたなんて……」

 

 よくはわからんが、セシルの説明からわかるのはリィエルが行った高速錬成は下手をすればゲームデータがぶっ壊れる可能性のある裏技を連発してるようなもんか。

 

「リィエル、あなたいつもこんな事やってるの? こんなの一歩間違ったら脳内演算処理がオーバーフローして、廃人確定よ?」

 

「そうなの? 全然知らなかった」

 

 システィの説明はつまり、身体は無事だったとしても、心は死んでしまう可能性があるという事だ。そんな危ない術式をよく躊躇いもなく使えるな。

 

「はぁ……みんな、真似しちゃダメよ。この術式使いこなすには、錬金術に対する圧倒的な天賦のセンスがいるから。ここまでくると、もうこれ、リィエルの固有魔術(オリジナル)みたいなものよ」

 

「出来るかよこんなの……」

 

「多分リィエル以外誰にも出来ないよ……」

 

 ガタン! と、突然教室内に荒々しく立ち上がる音が響く。今まで会話に入っていなかったギイブルが苛立たしげに荷物をまとめていた。

 

「おい、ギイブル……どうしたんだよ、突然?」

 

「……帰る。君達もそんな風に遊んでる暇があったら、帰って魔術の勉強に励むべきじゃないのか?」

 

「はぁ? お前、そんな言い方はねえだろ」

 

「……ふん」

 

 カッシュの言葉も無視して教室を出て行こうとするが、何時の間にいたのか、リィエルがギイブルの制服を掴んで止める。

 

「……これ。落とした」

 

「〜〜〜〜っ!」

 

 リィエルが羽ペンを差し出すとギイブルは顔に慍色を浮かべてぶん取ると、そのまま大股で教室を出ていった。

 

「何だよあいつ?」

 

「仕方ないよ。ギイブル、錬金術には絶対の自信があったから。それこそ、システィにも負けないって」

 

 まあ、ギイブルもプライドの高い奴だからな。あんなデタラメな癖して自分の得意分野は勝ってるってなれば面白くないか。

 

 リィエルは気にしてないというか、何もわからないようだし。その辺りのズレも時間かけて解消するしかないか。幸いというか、それにピッタリなイベントがすぐにあった筈だし。

 

 まだまだ不安はあれど最悪の一日にならなくてよかった。

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