ロクでもない魔術に光あれ 作:やのくちひろし
第18話
「はいはい、そこまで!」
時刻はまだ夜明け前……。空が暁に染まり始める頃、俺達はその下でいつもの訓練をしていた。
ちなみに今は拳闘による模擬戦。俺の眼前には息が乱れてへたり込んだシスティ。たった今俺が目の前の少女を負かしたところである。
「お前、最近どんどん化け物じみて来てない? いや、良い意味でだけど……少し前までは地上を走ったり滑ったりが主だったのが、ここんところ立体的な動きまで入ってて白猫全くついていけてねぇぞ」
「あ、あんなのについていくとか……まだ……無理に決まってる、でしょ……」
まだと言ってる辺り、すぐに追いついてやるというシスティの意思が見えるのでどこまでも負けず嫌いだなとため息をひとつつく。
「じゃ、そろそろ時間も近いし白猫がへばってるから今朝はここまでだな。ちゃんと休んどけよお前ら」
「待ってください。最後にもう一回……今度は先生とで」
「休んどけって言ったろ。無理しても訓練した分だけ強くなるってわけじゃねえんだ」
「無理はしてません。まだ余力は……」
「いざって時に体力回復もままならんままで敵と遭遇したくはねえだろ。それに、お前が最近街の外彷徨いてるの知らないとでも思ってんのか?」
「…………」
グレン先生の言う通り、最近の俺は街の外に足を運ぶ事が多くなっている。
その理由は単純……強くなるためにだ。街中では走るかグレン先生との訓練しかないが、外に行けば魔獣の住まう森が近くにある。
そこに徘徊してる魔獣を見つけては突っ込んでいき、素早く魔術を行使しては仕留めるを夜通し繰り返して実践感覚を磨いている。身体能力の向上はその副産物といったところか。
誰にも言ってはいないが、この人にはとっくに見破られてたらしい。
「俺がお前らに教えてるのは飽くまで自衛目的だ。自ら敵の懐に飛び込むようなもんじゃねえ。以前の事もあって理由はわからんでもなかったから何も言わなかったが、あんまし無茶な事はすんな。お前がソレをする必要なんてない方がいい」
「……必要かどうかは、俺が決めることです」
「……とにかく今朝はここまでだ。お前、ただでさえ寝る時間も少ねえだろ……多少は居眠りも見逃してやっから今はとにかく休め。どうせなら訓練もしばらくやめとけ」
俺の最近の生活リズムの事まで把握してるらしく、これ以上の訓練をしようとは思ってないようだ。
休めと言われたところで、あの白金魔導研究所の事件以来、足を止めるだけで嫌なイメージばかりが頭に浮かんで離れなくなる。時々みんながどんどんいなくなる夢さえしない見る程だ。
そんな不安を抱えたままなのは嫌だから……。
「……強くなるしかないだろう」
拳を握り締めながら力なく呟く。
「何考えてんですかあんたは──っ!」
「フハハハハハハハ! 今更コイツを簡単に手放せるかぁ!」
「……アホらし」
「あはは……」
今朝のあの葛藤を抱えたあとで目の前の光景を見ると今自分が強くなろうと思ってるのが阿呆らしく感じてしまう。
ちなみにあの二人が追っかけっこをしてる理由はグレン先生がまた金欠を起こしてどうにか金を手にできないかと考えたところ、リィエルに金塊を錬成させるなどという手段を実行させた。
もちろん、純金を錬成するのは犯罪に当たるのでシスティがお冠になって[ショック・ボルト]を伴った説教を浴びせようとしたところで現在の状況だ。
毎度毎度飽きないのかあの二人は……。そう思っていた時だった。
「うぇええええぇぇぇぇい!? 馬車ぁ!?」
システィの追撃に集中した所為で前方を通る馬車に気付くのが遅れ、接触寸前で地面を転がって難を逃れた。
こんなところに馬車……別に交通手段としては普通にあるが、ここまでいかにも旧ヨーロッパの貴族が使ってそうな豪奢なやつを見るのは初めてだ。
いや、多分貴族なんだろう。馬車から降りた人がこれまた立派な装いをした青年でその佇まいからもかなり育ちが良いんだなと予想できる。
「す、すみません! この人には後でキツく言っておきますので!」
システィが青年に謝るが、じっと黙ったまま動かなかった。
「……まさかここに来て早々に君と再会できるとはね」
発された言葉は妙に馴れ馴れしく、懐かしさを感じさせるようなものだった。
「久しぶりですねシスティーナ。相変わらず元気のよろしいことで」
「あ、あなた……レオス?」
「……あれ? 何この空気?」
どうやらシスティは青年の事を知ってるようだが、相手の事を知らないグレン先生や俺達は完全に蚊帳の外である。
「あ〜……あのさ、あんた一体誰……?」
「ん? あ、申し遅れました。私はレオス……レオス=クライトスです。この度この学院に招かれた特越講師で……システィーナの許嫁です」
「ああ、許嫁ね……いいなず──」
「「「…………え?」」」
…………マジで?
『『『ええええええええぇぇぇぇ!?』』』
グレン先生にレオスという男性が気になって集まっていた生徒達の素っ頓狂な叫びが学院内に木霊した。
さて、先日の特別講師のレオス先生のシスティとの許嫁宣伝から翌日。昨日は本当にすごい騒ぎになった。
いきなりの許嫁宣言もそうだが、その相手というのがシスティであり、レオス先生も聞くところこことは別の学院を経営している伯爵家の御曹司らしく、システィとは幼馴染。
そんなゴシップ誌にでも大々的に掲載されそうな要素満載の関係性はあっという間に学院全体の噂になり、レオス先生は女子の人気を集め、システィにはその関係性についての質問が殺到していた。
もちろん、こんな事をグレン先生が問い詰めないわけもなく、無遠慮にデリカシーの欠片もないまま直球な発言をぶちかましていつものように[ゲイル・ブロウ]を喰らって空を舞ったが。
で、その噂の張本人であるレオス先生は軍用魔術概論を専門とする講師らしい。軍用魔術の術式の構造や現代に至るまでの道筋……背後の歴史などを教える分野のようだ。
軍用魔術は魔術師としての力を示す分野の最たるものと言っていい。ゲームにせよラノベにせよ魔術や魔法を使う者に対するイメージはまずその攻撃性を優先して想像する者がほとんどだからだ。かく言う俺も最初はそのイメージから始まったからな。
で、その授業で今……基本の三属呪文、ついでで風の呪文の
「このように、何故軍用攻性呪文のほとんどが『炎熱』、『冷気』、『電撃』の三つで占められてる理由が諸君にもわかってきたと思いますが。術者の魔力を
レオス先生の教えは軍用魔術の進化の歴史と俺達が教わっている魔術の内容である攻性呪文の分野が基本三属と呼ばれる『炎熱』、『冷気』、『電撃』が多いのかと言う理由。そしてそれらを数学的価値観から見た理屈。
「さて、これらの理屈を考えて風の呪文が弱いと言われる理由がわかったでしょう。それは風の魔術が他の三属と比べて物理作用を起こすためのエネルギー運用が他より要するために威力が低くなりがちになってしまう。これが風の呪文が弱いと揶揄されてしまう原因です。しかし、それでも風の呪文は今でも使われておりますし……風には風の利点があります」
内容が風の呪文に入ったところで講座の終了を知らせる鐘の音が鳴り響いた。
「おや、今回はここまでですか。では、風の魔術の利点及び軍における運用法については次回に持ち越すことにしましょう。ご静聴、ありがとうございます」
いかにも貴族らしい一礼をして授業は幕を降ろした。
「……完璧じゃねえか」
「えぇ……本当にすごかったです」
「リョウ……お前、この授業聞いてどう思った?」
「今の自分達でもやろうと思えばやれる……というのはわかりました。軍用魔術に手を出さなくても魔力と術式の比率をいじれば[ショック・ボルト]でもそれなりのものが出るってことですよね」
「リョウ君」
「わかってる。別に殺し屋になろうなんて言ってるわけじゃない。あくまで理論的な話だ」
「…………」
隣でルミアがいまだに俺を心配そうに見てる。最近はよくこんな視線を向けられる。
グレン先生にバレた以上、多分ルミアにも感づかれてる可能性はある。だが、それを口にするつもりはない。
言えば絶対止めにかかってくるだろうからな。
「先生は認めたくありませんか? こういった授業は」
話を逸らそうとグレン先生に質問する。実際グレン先生の様子も気になるしな。
「先生も、常日頃から力の意味と使い方を考えろって言ってましたもんね。これを聞いたら自分達にはまだ過ぎた力だなって思いますけど……それでも、先生の教えを受けて間違うなんてことはきっとありません。不安でしょうけど、私達を信じてください」
時折、俺を見ながらルミアはグレン先生の不安を払うように言う。
「……べっつに。あいつが思った以上にいい授業するもんだからちょっと嫉妬しただけだ。イケメンってだけでも重罪モンなのに、頭よくて面倒見も良くてモテモテだとか手の出しようがねえじゃんか。クソ、爆発しやがれリア充が」
グレン先生は不貞腐れるように言うが、内心を悟られまいと憎まれ口を紡ぐだけ。そんな事をしてもルミアは誤魔化せないと思うが。
「リア充っていやぁ……いや、マジで良かったな白猫。お前の将来の婿殿は実際に対した奴じゃねえか。本当良い買い物できたよな」
またもデリカシーのない発言にシスティは憤慨する。
「で、ですから違うって言ってるでしょ!」
「違うって……あいつはお前のフィアンセだろ?」
「確かに形式上はそうかもしれませんけど!」
「いや、形式も何も親が決めた許嫁同士とかマジモンだろ」
「だからそれは──」
「やあ、システィーナ」
いつものグレン先生のデリカシーのない発言にシスティが反発していると、レオス先生から声がかかる。
「あっ……」
「僕の講義、聞きに来てくれたんですね」
「あ、うん……素晴らしい講義だったわ。文句のつけようがないくらい……」
「そうですか、それは良かった。貴方にそう言っていただけて何よりです。噂では貴方は『講師泣かせ』として有名みたいなので」
「あぅ……」
普段ならその名が出れば授業を担当している講師がどうとか反論するが、許嫁相手には反論できないのか、顔を赤くして俯く。
「まずは、第一関門突破と言ったところでしょうか……将来の伴侶すら納得させられない授業しかできない者など、あなたの伴侶にふさわしくないでしょうから」
「だから! そ、そういうのを人前で言うのは……ああ、もう! どうして貴方はそう昔から……」
「貴方を愛しているからです。別に隠し立てする必要なんてありませんし」
すっげ……あのシスティが完全に主導権を握られてる。そしてあっという間に中庭での散歩を約束付けて教室から出て行く。
「なんとも物好きな奴だね〜……まあ、良かったぜ。これであいつも生涯独身なんて不名誉を背負わずに済むな」
「それ、本人に言わない方がいいですよ」
今度は強風程度じゃ済まなくなりそうだしな。
「あ、あの……二人共」
「「……ん?」」
「で、頼みというのがシスティ達の尾行って……」
「何で俺らが他人の恋路なんて独り身にとって地獄でしかない空間に飛び込まにゃならん」
「あはは……ごめんなさい。こんな我儘言って……」
何でか俺達は中庭へ出てシスティとレオス先生の後をつけていた。
「まあ、親友に急に変な虫が寄って来ちゃ心配なんだろうけどさ……俺、こういうの全く興味ないんだけどなぁ……」
そう言いながらシスティ達の方へ視線を向けると二人が向かい合っていた。
「おお──っ! あの男、白猫に結婚申し込みやがったっ! 見かけによらずなんて大胆な奴だ! 白猫の返答や如何にぃ!? 盛り上がってきた──っ!」
「興味ないって言ったのは何だったんだよ……」
「グレンが一番張り切ってる」
「あはは……」
思いっきり野次馬根性丸出しで見入ってるし……。良い雰囲気も隣のロクでなし講師の所為で台無しであった。
「なぁ、何でいきなりこんな事言い出したんだ? 面倒臭いからって思っての質問でもあるんだけどさ……いくらシスティの素直じゃない面知ってるからって、人の恋路を盗み見するような奴じゃないでしょ」
「う、うん……確かに、当人同士の恋愛に口を出すのもどうかと思ったけど……なんか、嫌な予感がして……。レオス先生が良い人なのは見てわかったけど、あの人からはなんとなく……バークスさんのとはまた別の、嫌なものを感じるの」
「…………」
バークス……白金魔導研究所でルミアをさらって道具扱いし、リィエルも苦しむことになった事件……。異能者の扱いが俺の想像を絶する程の地獄だと痛感させられた出来事。
あの時もルミアはバークスに嫌なものを感じた鋭い勘の持ち主だ。曖昧だからという理由で一蹴できるものでもない。
「……わかったよ。ただの恋愛ストーリーならそれでいいけど……もしもの時は、俺が始末するから」
「…………っ!」
ルミアの勘が働いてるなら警戒した方がいい。見た限りやっぱり件の組織が絡んでるとは思えないから別口の可能性か……そうなると、レオス個人の意思で。
「わかった。斬ってくる」
「待て」
「早まるな、バカ!」
疑わしきは罰せよと言わんばかりにレオス先生に斬りかかろうとするのを俺とグレン先生で止めた。
「ごめんなさい、レオス……その申し出は受けられないわ」
リィエルを止める最中、システィがプロポーズを断る言葉が聞こえた。
「……貴方の事は嫌いじゃない。でも、私はお爺様と約束したの。いつか、メルガリウスの天空城の謎を解くって。私はまだまだ魔術の勉強しなくちゃいけなくて……だから、今は誰とも家庭を築くつもりはないの……だから……」
「……ははっ。システィーナ……貴方はまだそのような夢みたいなことを」
システィの言葉をまるで子供に対して仕方ないなという風に口にする。
「魔導考古学……古代遺跡の探索やアーティファクトの採掘だけじゃない。究極の目的は、古代文明の謎を紐解き、古代の魔術を現代に再現するための分野です。しかし、未だ嘗てそれを成し遂げた者はひとりもいません。現実を見てください……貴方ももう立派なレディなのですから」
レウス先生は単純にシスティを気遣ってるのかもしれないが、あの二人の間には決定的な隔たりがある。レオス先生が言葉を紡ぐ度にシスティは表情が沈んでいく。
夢と現実の間にある大きな壁……空白の時間がそうさせるのか、あの二人の元々の意識の違いからなのか、とにかく雲行きが怪しくなってきてるな。
「貴方のお爺様は本当に天才でした。魔導考古学などに傾倒しなければ
「詭弁弄してんじゃねえぞ、クソが」
レオス先生がシスティに手を差し伸べようとするところに、グレン先生が割って入った。
「せ、先生……何でここに!?」
「白猫がどんな夢を追おうが、テメェに関係ねえだろ。女の子の夢言葉巧みに踏みにじって弱った心につけ込んで引き入れんのが貴族の御曹司様のやり口か?」
「……やれやれ、また貴方ですか」
横槍を入れたグレン先生の怒気を含んだ言葉を受けてもため息混じりに受け流す。
「これは私とシスティーナの……そう、クライスト家とフィーベル家の問題ですよ。無関係の貴方が口を出さないでいただけますか」
確かに貴族の問題がどれ程難しいものかは知らないが、法的な縛りが強いものなのはわかる。それを引き出されては法的援助のないグレン先生では口の出しようがない。
「関係はあるわ」
今までグレン先生の迫力で一歩下がってたシスティがズイ、と前へ出る。
「…………白猫?」
「先生は関係あるわ」
「それは、どういう意味でしょうか?」
「だって……私は…………」
それからシスティはグレン先生の手を取って──
「私は、先生と将来を誓い合った恋人同士だからっ!」
──とんでもない発言をした。
「……え?」
「「……へ?」」
「…………?」
「な──っ!?」
「今まで黙ってごめんなさい。でも、もう私は先生以外の男性と一緒になるのは考えられないの……」
「お、おい白猫……?」
一瞬、システィが自覚ないまま秘め続けた想いがこの状況で一気に爆発したかと思ったが、彼女がグレン先生に耳打ちしている様子を見ると、どうやらグレン先生を架空の恋人に仕立て上げて縁談を断ろうということだろう。
「だから、私の事はもう諦めてほしいの。もう私は、貴方と結婚できない……」
「はーっはっはっは! そういう事だっ! お前が散々想い続けていた白猫は残念ながらもう既に身も心も俺のもんだ!」
気持ちのいいくらいの切り替えの良さでシスティの彼氏役を演じるグレン先生はこれまでもかというくらいレオス先生を挑発する。
「もう俺達はテメェの想像以上の事だってしてるぜ! 昨夜だってベッドの上で可愛い声をワンワン響かせたし、今朝だって肌に汗を浮かべながら──」
「《この・馬鹿ああぁぁぁぁっ》!」
調子に乗って如何わしい発言が出た途端、システィの即興改変した[ゲイル・ブロウ]がグレン先生を上空へと飛ばした。
「いくらなんでもやりすぎでしょ! だいたい、私達まだキスしかしてないでしょ!」
「キスゥ!? それは本当なのですか!?」
「え!? あ、いや……キスと言ってもあれは……」
「ま、そういうわけだ。俺と白猫の式にはちゃんと呼んでやるからここは大人しく引いておきな」
「ふ、ふざけないでくださいよ……っ!」
グレン先生の言葉に堪忍袋の尾が切れたのか、ワナワナと身体を震わせながら忌々しげにレオス先生はグレン先生を睨みつける。
「私は彼女の婚約者で、ずっと彼女を想い続けてきた! 今更こんな事で……しかも相手が貴方と聞いて引き下がるわけがないでしょう!」
「……つまり、テメェは諦めるつもりはないと。そして、これからも白猫に迫り続けると?」
「当然でしょう! 貴方と付き合ってるのだって何かの間違いでしょう! 気の迷いだ! 彼女を幸せにできるのは私だけだ!」
「……まあ、べつにテメェが白猫を想おうとするのは勝手だし……お前の言う通り、コイツを幸せに出来るのはもしかしたらテメェの方かもしれねぇ。だがな、例え無謀な夢かもしれなくてもその道を歩く事を見届けるくらいはしてやってもいいんじゃねえか?」
「ダメですね。相手を想うからこそ現実を認識させなければいけないんです。その道では、システィーナは決して幸せになれない。そんな甘さしか与えられない貴方はやはり彼女に相応しくはありません。故に僕の下に来る際はシスティーナには魔導考古学から手を切っていただきます」
「……そうかよ。ハッキリしたぜ」
グレン先生は面倒臭そうに後頭部をかきながら呟く。
「やっぱテメェに白猫は渡せねえな。テメェの時代遅れの家庭像なんざ微塵も興味わかねえ。そもそもコイツがそんな大人しめの生活が似合う口か」
「ちょ、どういう意味ですか!?」
「コイツはちょっとリラックスしようとするだけでギャンギャン説教してお節介焼くわ、人のプライベートにまでああだこうだ言うわ夫を暖かく見守るようなキャラじゃねえだろ」
「あ、あんたね……」
仮にも彼氏役の癖に散々な言いようにシスティがワナワナと震えていた。
「だがな……コイツは自分の夢をずっと追い続けて来てんだ。誰に何言われても、それでもずっと走り続けてんだ。それこそそれを現実がどうのこうの、白猫を大して見てねえテメェがほざくんじゃねえぞ」
「……そうですか。あくまであなたはシスティーナをそんな無意味な道へ進めようとしますか。ならばお覚悟を、グレン=レーダス……あらゆる手段を尽くして、私は貴方からシスティーナを奪い返します。クライトス家を敵に回したことを後悔しなさい」
今までとは打って変わって、随分と攻撃的に、冷酷な面貌だった。恐らく宣言通り、本当に色んな手段を使ってグレン先生を潰す気か。
「ちょ、クライトス家って……先生はそんな大袈裟にしたいわけじゃなくて……そ、その、やっぱり本当の事説明するわ! さっきのは──」
「ああ、それがお前の本性ね」
グレン先生がダルそうな口調で呟くと、左手の手袋を外し……レオス先生へと放る。それを反射的に受け取ったレオス先生は愕然とする。
「決闘だ。白猫を賭けて勝負といこうぜ。俺が勝てば白猫は俺のモン……で、アンタは大人しく手を引け。二度と白猫の前に姿見せるな」
「ちょ、ちょっと先生! 決闘って!? ていうか、人を勝手に賞品にしないでください!」
「ふっ……それは願っても無い話です。しかし、よろしいのですか? 私が勝てば、その時は貴方がシスティーナから身を引いてもらいますが」
「構わねえよ。どうせ俺が勝つし」
「その余裕の笑みが崩れる瞬間を楽しみにしてますよ。日程と内容は後日、ゆっくりと話し合って決めましょう」
互いに不敵な笑みを浮かべて威嚇し合うとレオス先生は踵を返してその場を去る。
「…………悪りぃ☆やっちまったぜ♪」
「何が『やっちまったぜ♪』、ですかっ! いや、私が巻き込んだ所為でこうなっちゃったかもですけど! もう少しやりようはあったでしょう!」
「いや、勢いとノリでとんでもないこと言っちゃった感はあるけどさ……よくよく考えればこれってビッグチャンスじゃね?」
「な、何がですか?」
「いや、最近忘れがちだけどお前の家だって相当の金持ちだろ? このドサクサに紛れて逆玉の輿狙っちゃえば俺は晴れて教師生活からオサラバ! 夢の引き篭もり生活だぁ!」
「こ、この……《バカアアアアァァァァ》──っ!」
システィの[ゲイル・ブロウ]が再びグレン先生を上空へと投げ飛ばす。今日はいつにも増して飛ぶ回数が多いな。
「なんか妙な展開になったんだが……」
「た、大変な事になっちゃったね……大丈夫かな?」
まあ、決闘の内容はわからんが、純粋な魔術勝負じゃなければグレン先生ならどうにか勝ちは拾えるだろうから決闘の勝敗にはそれほど不安はない。
問題はあのレオス先生だ。ルミアの言っていた不安の正体はまだわからないが、さっきの様子を見る限りじゃ結構怪しめだから警戒した方がいいな。
まあ、あの人の事もだが……。
「……そういえば、システィって……いつの間に先生とキス、済ませてたのか?」
「えっと……どうなんだろ? でも、さっきの様子を見る限りじゃ嘘じゃなさそうだけど…………それに、さっきの様子……みんなにも知られちゃってるよね」
「こりゃ……システィに女子達が殺到する未来が見えてきたな……」
グレン先生の決闘やレオス先生の正体の前に、システィのキス発言が事実かどうかの真偽が気になってしまった。
そのおかげか、最近感じてるイライラが一時的に収まった今日この頃である。