ロクでもない魔術に光あれ   作:やのくちひろし

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第23話

「そうか……」

 

「だから、あの街を離れたんですね」

 

 偶然出会った宮廷魔道士のバーナードさんとクリストフさん……。この二人に俺のことを話すべきかと考えたが、これ以上動こうという気もなくなり、半ば諦め気分であの街から出た理由を説明した。

 

「俺が殺した人達が、子供達の血縁や親戚だったと聞いて……怖いと思ったと同時に、自分が今までやってきた事って何なんだと思って……」

 

 地球では、ただ無気力なまま自分の趣味に明け暮れる毎日……。こっちに来てからしばらくの間も同じ所を右往左往する毎日……。

 

 テロ事件や競技祭での暗殺事件があってからも自分なりに強くなろうと必死になってた。

 

 だが、白金魔導研究所であの恐ろしい光景を目の当たりにしてから、何の罪もない人達を利用している奴らが憎くなって……それからは更に実戦の経験を積もうと街の外に出ては魔物を屠りながら訓練した。

 

 その経験があったからか、ジャティスによって心を壊された人達が相手でも負ける事はなかった。だが、何も考えずに戦った結果、子供達の大事なものをこの手で奪ってしまった。

 

「……ワシが言ったところで、何の慰めにもならんじゃろうが……年寄りの妄言かと思いながら聞いてくれんかな?」

 

 しばらく沈黙が続くと、バーナードさんがふと話し出す。

 

「大事なものを取りこぼすのを恐れる気持ちはわからんでもない。ワシの知り合いにも同じような奴がいたからな……そいつはワシらのもとから離れてしまったが」

 

 バーナードさんの話は何処かで似たような事を聞いたような気がする。

 

「ワシはあやつの心の内に気づけなかった……その所為で大事な仲間を失ってしまった。あやつがそれを口にせんかったのもあるのじゃろうが、ワシがもう少しあやつに歩み寄ってやれば少しは違ったのではと思う事もある」

 

「あの、何故それを俺に……?」

 

「……坊主はあやつにどことなく似ておるからな。妙にお節介したくなる……坊主をかつての同士の代替と思っとるわけじゃないが、なんとなくな。で、ワシが言いたい事は……今の坊主に必要なのは自分の心の内を口にする事なんじゃないかの?まあ、ワシに聞かれても戦闘関連以外碌なアドバイスはしてやれんがな」

 

「僕からも……僕はあなたの事を知ってるわけではありませんが、あなた一人で全てを背負えるわけじゃありません。今のあなたには酷かもしれませんが、街から……子供達から、全てから黙って逃げ出したところで、何かが変わるわけじゃありません。あなたにとって彼らが大事だと思ってるのなら、何があってもキチンと向き合うべきじゃないんですか?」

 

「それは……」

 

 逃げてる……自分がやってることがそれでしかないことは俺自身わかっている。だが、一体俺に何をしろっていうのか。

 

 みんなと会わない事には何も変えられないのもわかる。だが、俺に関わる所為で何が起きるともわからないのに、そんな事すらもできない。

 

 何をするのが一番なのか、全くわからない。

 

「……バーナードさん、そろそろ」

 

「じゃな」

 

 クリストフさんが声を掛けると、バーナードさんと共に立ち上がる。

 

「僕達は、この村を襲った外道魔術師を追います。あなたはここで休んでください。既にアルベルトさんと、あなたの教師にはここに居る事を伝えたので朝には着くと思います」

 

「はぁ……あの物狂いの調査ついでで坊主の行方も追っていたところに、更に異能者を攫った外道魔術師とはなぁ」

 

「バーナードさん……」

 

「わかっとる。坊主にも色々聞きたい事はあったんじゃが……今はこっちの方が先じゃな」

 

 二人はそのままこの場を後にし、あの男とヒーちゃんを追っていった。残された俺はだたそれを見ているだけだった。

 

「相変わらず、この世の終わりみたいな顔してるな」

 

 二人がいなくなった後で声を掛けたのはあの時の農家の男性だった。「よっ」と、この場に不釣り合いな明るさで挨拶してくる。

 

「今の二人、あの子を追って行ったんだろ。一緒に行かないのか?」

 

「……俺が行っても、足手纏いですよ。現に、こんなザマですし」

 

 俺は失くなった右腕を指しながら呟く。一緒に行ったところで、俺に何が出来るのか。

 

「……けど、あの子は助けを求めてる。その声を、お前は無視出来るのか?」

 

「じゃあ、俺が行ったところで何が出来るんですかっ!?」

 

 尚も俺に問いかける男性に、俺は怒鳴り散らした。

 

「あの子のために出て行ったところで、俺には力もない! あの子を安心させる言葉も思いつかない! あの子だけじゃない……俺の所為で大切な人達を失くした子にだって、俺にどう向き合えって言うんですか!?」

 

 何かをしたくても力不足故に何もできない。だからと言って、あの子達にどんな言葉をかければいいのかもわからない。

 

 何処を見ても出口のない、真っ暗な闇の中を歩かされてる気分だった。

 

「……生きてる限り、出来ることは必ずある」

 

「だから……俺にはそんな力も心もないんですよ!」

 

「本当にそう思ってるのか?」

 

「…………っ」

 

 目の前の男性は俺に怒鳴られてもその真剣な表情を崩す事もなく、ただ真っ直ぐ俺を見つめていた。

 

「その子供達の事も、お前の右腕の事も、あの子の事も……力があればとか、もっと上手くやれたのか……嘆くだけなら簡単だ。だが、いくら言っても過去を変える事なんて出来やしない。だが、未来なら変える事は出来る」

 

「…………」

 

「お前が関わってきた子供達の大切な人達の代わりにお前がここで生きてるなら、その命で何をすべきか……そして、あの子の未来が閉ざされようとしてる今、お前はどうしたいのか。全ては、お前の心次第だ」

 

 男性の言う事は疑問形にも聞こえるが、同時に俺に何かをしろと言っているようにも思えた。

 

 何をすべきか、何をしたいのか……それ自体を言葉にするのは出来る。だが、それを実行するための力が俺にはない。その事実がどうしてもその言葉を口に出来ない。

 

 そんな葛藤を胸に渦巻かせながら沈黙が続いていた時だった。

 

「あの……少しいいでしょうか?」

 

 突然別方向から女性の声が耳に入り、振り返ると若い女性が立っていた。

 

「あなたは……?」

 

「初めまして、レーナと言います」

 

「あの子の……ヒーちゃんの母親なんだとさ」

 

「……っ!」

 

 男性の言葉で一気に身体に重いものが乗っかったような衝撃を覚えた。目の前にいるのが、あの子の母親……。

 

 俺が守れなかった女の子の、親……。俺は身体を震わせながら口を開く。

 

「その……ごめんな──」

 

「謝罪はいいんです」

 

「……え?」

 

 頭を下げ、謝罪の言葉を述べようとするも、レーナさんに止められた。

 

「聞きました。あなたが、あの子を守ろうとしてくれていたのを」

 

「あ、その……」

 

「それと、あの子が異能者だと知ってても立ち塞がってくれたのも」

 

「…………」

 

「ありがとうございます」

 

 レーナさんが突然頭を下げ、感謝の言葉を口にした。

 

「な、何で礼なんて……俺はあの子を守れて……」

 

「それでも……異能者だと知りながらも、あの子を守ろうとしてくれました。それだけでも、本当に嬉しいんです」

 

 レーナさんは涙を流しながらも、本当に嬉しそうに感謝の言葉を口にする。それから涙を拭い、再び語り始める。

 

「あの子がまだ、本当に小さい頃……あの子が異能者だと知って私達は故郷を追いやられて、それから夫とあの子の三人で色んな場所を回っていました。ですが、途中で異能者を狙う魔術師に見つかり、夫は私達を逃すためにたった一人で飛び込んで……私はそのままあの子を連れてまた旅に出ました」

 

 語られたのはレーナさんとヒーちゃんの過去……。あの子の父親は既に他界しており、やっとの思いでこの村に住む事が出来るようになったが、碌に人と話をさせた事がないからか……或いは当時の記憶が潜在的に残っているからか、他人に怯えるようにヒーちゃんは毎日を過ごすばかり。

 

 それでも時間をかければ誰かと一緒に過ごす時間も増えるだろうと思っていたところに、今回の出来事だ。

 

「生きていれば、きっとあの子が笑って過ごせる場所も見つかる。それを信じて今まで夫がいなくても頑張ってきました。でも……」

 

 レーナさんの眼から、再び涙が流れ落ちてくる。

 

「どうして……どうしてあの子は、殺されなければいけないんですか? あの子は、何も悪い事なんてしてないのに! どうして異能を持ってるだけで、殺されなければならないんですか!?」

 

 レーナさんの言葉は、俺だって何度思った事か。だが、いくら言ってもヒーちゃんのような子供達を根絶やしにしようとしてる奴らがいる。

 

 それを止めたいのに、俺にはそれが出来ない。レーナさんに返す言葉を口に出来ない。

 

「……ごめんなさい。こんな事をあなたに言っても困らせるだけでしたね」

 

「いえ……」

 

「あ、それと……これを」

 

「っ! これ……」

 

 レーナさんが差し出したのは薄紫色のカードファイル……地球の日本の百均でもよく見るものだった。

 

「やっぱり、あなたのだったんですね。火事のあった家の傍に落ちてたので」

 

「そうでしたか……」

 

 レーナさんからカードホルダーを受け取り、一枚一枚確かめながら捲っていく。

 

 青い水晶の戦士、サイバー感の満ちる戦士、大地と海の戦士、そして赤と紫の古代の戦士……。俺が憧れた存在の描かれたカードがこのホルダーに束となっていた。

 

「それでは……」

 

 レーナさんは頭を下げてその場を後にする。

 

「…………」

 

「それは何だ?」

 

「……光の戦士っていう人達の描かれたカードです」

 

「……そうか。それで、それはどんな人達だ?」

 

「すごく強くて、眩しくて……」

 

「……それだけか?」

 

「…………」

 

 男性に言われ、改めて思い出す。俺がこの存在に憧れたきっかけ。

 

 園児の頃は同年代に比べても半分以上周囲に飛び交っている言葉の意味もわからず、教育用や娯楽用のビデオを見てもイマイチピンと来なかった。

 

 中には特撮もあったが、昭和シリーズの物が多めだったので始めはあまり興味は湧かなかった。だが、平成シリーズに入ってから映像が幻想的というか、綺麗に思えて魅入っていった。

 

 それから成長していき、それらを繰り返し見る度に俺の中でその存在がどんどん大きくなるのを感じていった。子供にはありがちな事だが、俺もいつかそんな風になってみたかったと思っていた。

 

 だが、更に成長していく内にその思いは薄れていくのが当たり前。中学生に入る頃には単なる趣味程度になってしまった。

 

 結局自分には何かを変える力なんてないとわかったから。

 

「お前は、その人達が強いから憧れたのか?」

 

「……そう、思ってました。自分もそうなればいいって思ってたから……でも、一口に強いって言っても……たくさん意味があるんだって、時間を置いてわかってきたんです」

 

 単純に身体を鍛えて得る強さ、生まれ持った特異な強さ、そして……何事にも屈しない精神的な強さ。ただ身体を鍛えるだけならともかく、ずっと同じ事を思い続ける事なんて普通は出来ない。

 

 持とう持とうと思っても、成長するに連れて周囲の認識が変わっていき、そこから生まれる摩擦や衝突を恐れてその想いは途中で切れてしまう。俺はそれに負けた。

 

「だから、俺は諦めたんです。俺には、どの強さもないから」

 

「弱いから……諦めた、か。けどそれは、本当にお前自身で出した答えか?」

 

 『──ほとんどの人々は他の人々である。彼らの思考は誰かの意見、彼らの人生は模倣、そして彼らの情熱は引用である──』。オスカーなんたらって人の格言だったかな。

 

 俺もそんな感じで、人の意見に左右されてそう思っただけなのかもしれない。だが、事実考えたり行動しただけでうまくいくような世界じゃない。

 

 地球でもそうだし、こっちだってそうだ。魔術があったという事実に少しだけ希望が見えた気がしても、結局は同じ事だった。

 

「言っただろ。自分が何をすべきか、どうしたいのか……それはその道を歩んできたお前にしかわからないことだ。周りの事なんて気にせずに考えろ……お前は、本当は何をしたい?」

 

「俺は……俺、は……?」

 

 俺が、本当にしたい事……。

 

 逃げる事……否、あの子の泣き叫ぶ姿を見て放っておきたくなどない。戦う事……否、実力で敵わないと知ってるのに自分から死にに行きたいわけでもない。被害に会った人達を支援する……否、同じ傷付いた人達の側にいたところでそれがなんになる?

 

「……助け、たい」

 

「それが、お前のしたい事か?」

 

「確かに、俺には何もかもが足りないです。悔しいし、泣きたいし、何もかも投げ出したくもあります。だけど……それでも、やっぱり諦めたくないし助けたいですよ!」

 

「それなら……走るべきじゃないのか。その道を」

 

「はい……!」

 

 俺はヒーちゃんの行方を追うために走りだそうとするが、一旦足を止める。

 

「どうした?」

 

「……行く前に、言わなきゃ……伝えなきゃいけない事があります」

 

「……そうか」

 

 俺は大急ぎで走り出す。助ける前に、伝えなければならない事があるから。

 

「レーナさん!」

 

 しばらく走ると、レナさんの後ろ姿が見えた。

 

「あなた……」

 

「レーナさん……さっきは言えませんでしたが、あなたに伝えたい事があります」

 

 俺はレーナさんと向き合い、荒れた呼吸を整えながら言葉を吐き出す。

 

「正直、なんであの子が殺されようとしなければならないのか……それはわかりませんし、わかろうとは思えません。それに、あんな子供が命を落とすなんて、あってはいけないとも思ってます。異能者だからって理由だけで、何でこんな事にって……」

 

 レーナさんが苦い顔を俯かせ、俺の言葉を聞く。

 

「でも、そんな事を考えたって……答えなんて見えない。大体の奴らはあんな事を言いますが、俺にとっては……あの子は、みんなと同じ、ただの人間の子供ですから。魔術を支えようが、異能を使おうが、何もなかろうが……俺はあの子を助けたい。あなたの夫があの子の未来を守ろうとしたように……今度は、俺があの子の未来を守りたい」

 

「ぇ……」

 

「俺が……あなたの夫の意思を引き継ぐ。あの子の未来を取り戻すのが……今の俺の、進みたい道だから」

 

 そう言うと、レーナさんは顔を両手で覆った。時折鳴咽のような声が漏れてるのが聞こえるが、おそらく泣いてるのだろう。そこにどんな感情を込めてるのかはハッキリとはしないが、どちらにしても今俺がすべきは二人の未来を取り戻す事だ。

 

「……それでは」

 

 俺はレーナさんに一言言い残して頭を下げ、踵を返して走り出す。その途中には男性が俺を待っていたように木に背を預けていた。

 

「想いを受け継ぐ……未来を取り戻すか。一気にご大層な事言えるようになったじゃねえか」

 

「……もう、いつまでもしょげてる場合じゃないから。ずっと逃げたり、立ち止まったら……この人達に顔向け出来ませんからね」

 

 俺はポケットにしまってあったカードファイルを取り出して男性に見せる。

 

「……そっか。じゃ、今度こそ行ってこい」

 

「はい。ジーッとしてても……ドーにもならねえ、です!」

 

 俺の憧れの戦士の一人のキャッチコピーを引用すると、勢いを付けて走り出す。

 

「良い顔つきになったな…………頑張れよ、◼️◼️◼️」

 

 去り際に男性が何かを呟いた気がするが、俺はただ走り続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 一体、どれだけ走り続けてるのだろう。ほとんど休みなんて入れてないし、大体あの子が何処へ連れ去られたのかも知らない。

 

 なのに、身体は全く疲れを認識しないし、何故かこっちの方向にいると妙な確信めいた予感もある。

 

 そして数十分も走り続けると、その予感が的中するかのように辺りに生き物の死体と、大きな岩の欠片のようなものが転がっていた。

 

 どうやら合成獣の死骸とゴーレムの破片なのだろう。恐らくバーナードさんとクリストフさんが途中で遭遇して戦闘したのだろう。

 

 だが、余程急いでいたのか俺の接近にあの男が気づいたのか……前方に合成獣とゴーレムの団体が立ちふさがっていた。

 

 様々な姿をした合成獣が威嚇の声を上げ、ゴーレムが無機質な動作でゆっくりとこちらへ接近してくる。

 

「……来るなら、来いよ」

 

 俺は左手の拳を団体へと向けて呟く。

 

「全員纏めて……地獄へ送り届けてやるぜぇ!」

 

 声を張り上げ、啖呵を切ると同時に走り出し、向こうも同じタイミングで動き出した。

 

「『光──っ!?」

 

 呪文を紡ごうとするも、また口が思うように動かなくなる。やはりいくら鼓舞しても簡単に心に負った傷が癒えるわけじゃない。

 

 だが……あの男性の言葉や、去り際に見たレーナさんの顔を思い出す。

 

 天知リョウ……お前は今、何のためにここにいる?お前は、あの子を守りたいんじゃなかったのか?

 

 そうだ……あの子を助ける。未来を取り戻す。そして……それからもまだ、俺にはしなきゃいけないことが山程あるんだ。

 

 こんな所で……躓いてる場合かぁ!

 

「ぐ……『光牙』ぁ!」

 

 必死に呪文を紡ぎ、左手から光の刃が伸びる。

 

「『紫影』!」

 

 光の刃を構えると速度を上げ、擦れ違いざまに合成獣らを切り裂く。

 

 合成獣を過ぎると、今度はゴーレムが俺を潰そうと腕を振り回してくる。俺は周りの木や岩をジャンプ台にして躱しながら呪文を紡いでいく。

 

「『渦巻け荒海・龍の路を描きて・砕波せよ』!」

 

 俺は黒魔[テイル・シュトローム]を発動させて右に左にと水の尾を振り回し、ゴーレムを叩き潰していく。

 

 集団を越えたと思えば、また次の集団が俺へと向かって来た。

 

「まだまだぁ……!」

 

 俺は地面を転がりながら水の尾を叩きつけ、その反発力で跳躍すると更に呪文を紡ぐ。

 

「『渦巻け荒海・龍の路を描きて・砕波せよ』っ!』」

 

 [テイル・シュトローム]をもうひとつ重ねがけし、水の尾が二本へ増えた。

 

 俺は片方でゴーレム集団を叩き潰し、もう片方で木や岩を掴みながら縦横無尽に跳び回っていく。

 

「『光牙』!」

 

 更に左手に[フォトン・ブレード]を顕現させて、猛スピードで飛び回り、叩き潰し、切り裂いていき、更に進んでいく。

 

 そんな攻防と進行を繰り返していくと、ようやく終着点が見えた。木々が開いた所で最初に俺の右腕を切り裂いた巨大な合成獣が暴れまわり、その周囲を二つの影が動き回っている。

 

 更に離れた所では一つの影とその側に淡く光っている何かが付いていた。目に見える光景から状況を理解すると更にスピードを上げ、一気に森を飛び出す。

 

「『氣斬』っ!」

 

 飛び上がったと同時に[マジック・バレット]を斬撃仕様に改変した呪文を紡ぐ。

 

 水の尾に更に魔力を込め、それを振り抜くと二つの斬撃が空を切り裂き、合成獣に命中した。合成獣には特に外傷は与えられなかったが、突然の不意打ちに態勢を崩し、更に追い討ちをかけて水の尾を叩きつけると合成獣は地面に倒れこんだ。

 

 そして少し離れた所に着地し、合成獣は無視して俺は自分の守るべき者とそれを阻む者を同時に視界に収める。

 

 ヒーちゃんも白衣の男も、少し離れた所ではバーナードさんとクリストフさんも突然の俺の登場に驚いて声を上げてるようだが、話の内容は全く頭に入ってこなかった。

 

 今はただ守りたいものの為に走って、絶対に救い出すだけだ。

 

「守ってみせる……本当の闘いは、ここからだっ!」

 

 夜空にぼんやりと明るみが混じる中、最初の一歩を踏み出す。

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