ロクでもない魔術に光あれ   作:やのくちひろし

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番外2

「オーウェル=シューザーですか……聞いた事ないな」

 

 ある日の午後……。最近、みんなが手助けしてくれるものの左手だけの生活が思ったより難しい事が多く、せめてこの学院の中だけでも普通に過ごせる道具でも作れないかなと図書室で大量の本を読んでるところに妙に悪どい笑みを浮かべたグレン先生が『お困りかな、少年?』と、明らかに何かありそうな雰囲気を纏って話しかけてきた。

 

 最初は関わりたくなかったが、これから魔導具に精通した研究者に会うというので思わず興味を持って頷いてしまった。そして、今その研究者……オーウェル=シューザーのもとへ向かっているわけだ。

 

「そりゃあそうでしょうね。あの人、普段は自分の研究室に引きこもり気味だし、あなたが編入したのはあの人の魔導発明品のテストの後だったんだから」

 

「ふ〜ん……で、その人が何だって?」

 

「さあ、俺にもよくはわからん。大体の教師達は狂乱するし、逆にセリカは面白いやつだって言うけど……」

 

「……それだけでロクでもなさそうな奴だっていうのだけはわかりますね」

 

「実際そうなのよ。二人はあの人が学院でなんて呼ばれてるか知ってる? 『天災教授』よ。魔導工学士としての腕は本物なんだけど、やること出すものがいつも予想の斜め上を行くものばかりで、しかも実験すれば周囲の人達を巻き込んだ大騒動になるんだから」

 

「そんな魔窟に何で俺が……」

 

「愚問だな、リョウ。お前ならお得意の異世界知識で脱出の糸口を見つけられるかもしれないだろ。俺の命はお前の両肩に掛かってるといってもいい」

 

 そんな理由で俺を連れてこうとしてるのか、このロクでなし講師は。

 

「まあ、リョウを連れて反撃の糸口を……っていうのは百歩譲って納得するとして、なんで私とルミアまで連れてこうとするんですか?」

 

「愚問だな、白猫。ルミアは優しい上に可愛いだろ……俺に万が一の事があればそんな子に今わの際を看取って欲しいと願うのは男の性だ」

 

 なんとなくわかってしまうのが俺がルミアに惚れ込んでる所為なのか、性格が似てるからなのか。前者であってくれと願う。

 

「……じゃあ、私がいるのは?」

 

「わからんか、白猫。お前は口やかましい上に生意気だろ。俺に万が一の事があればそんなお前を盾にして逃げたいのは男の性──」

 

「離してルミア! こいつ殺せない! こいつを殺して私も死ぬ──っ!」

 

「無理心中……?」

 

「あはは、大丈夫だよシスティ……。きっと、先生の冗談……の筈」

 

 いや、絶対本心だよこの人。ルミアもいい加減、この人のキャラクターを理解しようぜ。

 

「さて、どうこう言ってる間に着いちまったぜ……オーウェルとやらの研究室」

 

 暴れるシスティを押さえ込みながら進むと件の天災教授の研究室らしい扉の前に着いたようだ。

 

 だが、その扉は学院のどの教室に続く扉と変わらないのに、異様な雰囲気が内部から漏れ出ている。

 

「……なに、この魔王の根城にでも通じそうな邪悪な雰囲気の漂う扉?」

 

「リョウ……冗談にしても笑えねえぞ、それ。本当に異空間にでも通じちゃいそうな雰囲気だぞ」

 

「どうします? これを見ると、正直関わらない方がいい気がしますけど……」

 

「つっても、行かなきゃクビだって学院長にまで脅されてるしなぁ……はぁ、セリカのスネ齧ってたあの頃が懐かしく感じてきた……」

 

 グレン先生が遠くを見ながらボヤいていると、急に扉が開け放たれ、中からひとつの影が飛び出してきた。

 

「「「「…………え?」」」」

 

 突然の事に反応が遅れた俺達が見たのは、歳にして大体二十代辺りだろうか、若い見た目で右目には眼帯。乱れた長髪、その顔は狂気的な笑みを浮かべている。所謂マッドサイエンティストと言わんばかりの外見だった。

 

「……あ、もう俺クビでいいです。それではこれにて……」

 

 目の前の人の危険性を本能で悟ったのかすぐに回れ右して来た道を戻ろうとしたグレン先生だったが、瞬時にマッドサイエンティストらしい人が回り込んだ。

 

「フハハハハ! まあ、待ちたまえ! 皆まで言うな! 君達は今から偉大な歴史の証人となるのだから! 今こそ、君達の心を言い当てようではないか! この、『竜の涙(ドラゴンズ・ティア)』でな!」

 

 見ると、マッドサイエンティストの頭には妙な機械みたいなものが着いていた。何かの魔導具なんだろうか。

 

「では当ててやろう……今君達が思い浮かべてるのは、『腹が減っている』だな!」

 

「いや、全然違うけど……」

 

 俺は純粋に目の前の人の魔導具が気になってるだけだが、他三人は恐らく『早くここから立ち去りたい』とかだろうな。

 

「なにっ!? 魂紋パターンを読み違えたか!? だったら……『明日の天気が気になる』。これだっ!」

 

「いや、微塵も掠りもしてねえけど……」

 

「何故だぁ!? 感情によって色と形を変える魂の波形……魂紋! その無数とも言える形を百パーセント解析できるのは間違いなく証明されてる筈だっ! なのに何故当たらん!」

 

「はぁ!? 魂紋パターンの解析だぁ!?」

 

「そ、それって本当に……?」

 

「当たり前だ! 私は天才魔導工学者のオーウェル=シューザーだぞ! 証明データは既に学会に提出出来るレベルにまで達しておるわ! だが、魂紋パターンを思考言語化する過程に間違いがあったのか……?」

 

 目の前のマッドサイエンティスト、シューザー教授の発明品のコンセプトらしいものを述べるとグレン先生とシスティが驚愕していたが、事の重大さを理解できない俺とルミアは首を傾げるばかりだった。

 

「あの、先生? システィ? 魂紋って?」

 

「いや、名前からして魂関連の何かだとは思いますけど……」

 

「ああ、リョウの言う通り魂の……言わば指紋だな。この変態の言う通り、魂紋ってのは感情によって色も波形も変わるやつで、しかも個人によって形も幅も千差万別でな」

 

「生命の神秘を追求する白金術じゃ、常に立ち塞がる最大の壁なの。その解析に莫大な金と時間を費やしてもなお解析しきれないものなのに……それを一瞬で解析できちゃうって……」

 

「それって、すごい事なんじゃ……」

 

「そうなのよ! これがあれば白金術の歴史が一新される大発明よ!」

 

 ようは脳波とかそういうのに近めの奴か……。地球でも似たような学問があった気がするけど、細かい事は覚えてないんだよな。

 

「何が大発明だ! 肝心の思考言語化が実現できておらんじゃないか!」

 

「いや、人の思考を読むなら既に[マインド・リーディング]なんて便利で簡単なもんがあるじゃねえか!」

 

「そうですよ! 魂紋から思考を読み取るなんて回りくどくて無駄極まりないですけど、この時点で既に魔術史上に残る大発明ですよ!」

 

「……え?」

 

グレン先生とシスティの言葉を聴くとシューザー教授が間抜けな声を出す。

 

「……え、そんな便利な魔術があったの?」

 

「いや、あるって。白魔術じゃ割と基礎の範囲だし……」

 

「ああ、そういえば前にアルフォネア教授が俺の言葉が嘘かどうかを見てましたけど、それだったんですかね」

 

 以前俺の真実を教える時アルフォネア教授が魔術で俺の言葉に嘘があるかどうかを見てたが、グレン先生が言ってた魔術を使ってたのだろうか。

 

「ふっ……なるほど。つまり……」

 

 シューザー教授が不敵な笑みを浮かべると自分の頭に付けた解析器を外す。

 

「これは何の役にも立たん鉄屑だという事かああぁぁぁぁぁぁ!」

 

 そして、盛大に床にソレを叩きつけ、解析器は大破した。

 

「「あああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!? 世紀の大発明がああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」」

 

 その光景にグレン先生とシスティが揃って悲鳴をあげた。

 

「くそっ! 私としたことが、まさかの前提条件が間違っていたとはな! まあいい……天才でも間違いはあるさ」

 

「いや、前提がっていうか……間違ってるのはアンタだろ! 何歴史に残る程の発明を自ら叩き壊してんだよ! 直せよ! 設計図は!?」

 

「そんなもんあるか! こんなの、本命の発明の片手間に暇潰しで作ったものに過ぎん! 設計図は愚か、自分でも何を使ったのかさえ忘れてしまったわ! どちらにせよ、使えないとわかった今では直すなんて無駄で無意味な事をする気など起きんわ!」

 

「何なんだよ、コイツ!? 根本的におかし過ぎだろ! 学院長達が関わりたくないって言ってたのがよくわかったわ!」

 

「うぅ……頭おかしくなりそう。やっぱり来るんじゃなかったわ……」

 

 シューザー教授の狂った思考にグレン先生とシスティが頭を抱えていた。かくいう俺も単なるキャラとして考えるのが難しくなってきた。

 

「…………ん?」

 

 すると、シューザー教授が俺の存在を認識するとジーッと見つめてくる。

 

「えっと……何です?」

 

「…………君、何やら私と同じ匂いがするね」

 

「寝言は寝て言えよ、変態教授」

 

「リョウ君っ!? いくらなんでも失礼すぎだよ!?」

 

「いや、出会い頭でコイツからそんな言葉が出たら俺だってあんな返答するぞ」

 

 初対面で何故こんな変態と同種だなんて思われなければいけないのか。これには俺も反射的に言動が荒くなってしまう。

 

「えっと……それより、私達は教授の発明品のテストの助手として来たんですが」

 

「ん? おぉ! そうか! 君達がかっ!」

 

 ルミアが本題に入るとシューザー教授が目を輝かせていた。

 

「まあ、でも……その発明品が壊れたみたいですし、私達はお役御免ですよね」

 

「そうだな。当の本人も直す気なんてなさそうだし……ここは報告だけして俺達は退散するとしますか」

 

 そう言ってグレン先生は俺達の背を押して回れ右をしようとしたところにシューザー教授が待ったをかけた。

 

「そう遠慮する事はない! 第一アレは片手間の暇潰しと言っただろう! 本当の発明品のテストはこれからだ! 君達は歴史の変わる瞬間を目の当たりにするのだぞ!」

 

「いや、既に目の当たりにしたよ! そんでもってアンタが台無しにしたよ! それにもうこれ以上は俺達の脳がヤバそう──」

 

「《レッツ・キャーッチ》!」

 

 グレン先生の言葉を遮ってシューザー教授が指を鳴らしながら叫ぶと室内の暗がりから巨大な石の手が俺達を拘束した。

 

「な、なんじゃああぁぁぁぁぁ!?」

 

「フハハハハハハハハハッ! こんな事もあろうかと、 『ガードが堅い可愛いあの子を強引にマイハウスに連れ込み君』が役に立った!」

 

「いや、それ犯罪だろ!」

 

「だから何だ!? 例え犯罪と言われようが、私は言いたい事も言えないシャイな思春期男子達の背中を押すためにこれを作ったのだ!」

 

「背中を押した結果が断崖絶壁へ真っ逆さまじゃねえかっ!」

 

「でも、すごいわよこれ……こんな高出力かつ、精緻な制御の出来るゴーレム作成術……これが学会に出ればゴーレム工学が五十年くらい進歩するわ!」

 

「そんなに難しい事なのか……ロボットみたいに要所要所に特別な関節を作ってるのか? そしてそれを脳と神経みたいに何処かに術式を連結させて人の動きに近いものを作りだしたのか……いや、指一本一本を自在に動かしてるからミクロ……いや、ナノレベルに小さく精密な術式をあちこちに?」

 

「冷静だね、リョウ君」

 

「いざ、ウェルカムトゥマイルーム! 四名様ご案内ぃ──っ!」

 

 こうして俺達は半ば……というか、完全に強制的にシューザー教授の研究室に引きずり込まれてしまった。

 

 そうして引き込まれた先にあったのは本人曰く失敗作のガラクタの山らしいものが置かれていた空間だった。半永久的に決まった時間に半熟の目玉焼の上がる装置だったり、太陽光を魔力に変換するパネルだったり、既に絶滅した筈の紅茶の茶葉だったりと世間に出せば大騒ぎ確定なものが無造作に置かれていた。

 

「一つ目は全くわからないが、パネルの方は俺だって小さいので電気を生み出す奴を十回に一回作れるかどうかの奴をこの人は魔力版の物をあっさりと……そして既に絶滅したものをって、クローン技術か? いや、絶滅したものの細胞なんかどっから手に入れるのやら……化石じゃあるまいし、ゲノム編集みたいなのが魔術で可能なのか?」

 

「あはは、これだけのものを見ても冷静なんだね……」

 

「ていうか、あんた今地味に凄いの作ったって言わなかった?」

 

 どれも大体こんな感じかと予想出来るものではあるが、どうやって科学でも実現できるかわからんものを個人であっさりとやってのけるのか、メチャクチャではあるが興味は尽きなかった。

 

「さて、今回の大発明の披露は一旦置いといて……まず君達にこの国の現状についてどう考えてるかを聞かせてほしい」

 

「え、いや……この国の現状って、いきなりすごい話にシフトしたな」

 

「この国に隣接している狂信者で溢れてる事で有名な、聖エリサレス教会教皇庁が支配するレザリア王国は、常に我がアルザーノ魔術帝国と併合しようと画策してるのは知っておろう」

 

「っ!」

 

 いきなりの話題転換に何をと思っていたが、妙に緊張感の漂う話で俺も紅茶を片手に耳を傾けざるを得なかった。

 

「幸いというか、我が国では優秀な魔術師達や彼らの魔導技術による戦力的優位が成り立っているから奴らの抑止力にこそなっているが、この膠着状態がいつまで続くかもわからん。レザリア王国の土地、人口は我が国の数倍……ちょっとしたキッカケでいつ第二次奉神戦争が起こってもおかしくない」

 

「く……」

 

「しかも国内ではあの邪悪な探究結社、天の知恵研究会がガンのように帝国を蝕みつつある。奴らの行動による犯罪係数がここ数年で右肩上がりに上昇し、奴らが良からぬ事を企んでるのは明白。世間では魔術による世界支配などが目的と噂されてるが、少しでも魔術の闇を知る者ならあの組織がそんな低俗な目的で留まる筈がないのは火を見るよりも明らかだろう」

 

「それは……」

 

 この国の緊迫した状況にも驚きだが、天の知恵研究会の事も確かにその通りだと言わんばかりの話だ。支配が目的ならもっと他にやりようはあるだろうし、俺達に牙を向けた方法だって統一していない。俺達の知らない所で何かが進行されてるのは想像に難くない。

 

「わかるかね? 我々は今当たり前のように『平和』を堪能してるように思えるが、それはちょっとした拍子で脆くも崩れ去る薄氷の上に成り立っているものだ。時間が経っても、人がちょこっと突いただけでもあっさりと壊れてしまう……私とて女王陛下に忠誠を誓う一人の魔術師の端くれだ。こんな現状を看過する事など出来ん!」

 

「オーウェル……」

 

「シューザー教授……」

 

 あれこれとんでもない発明をするかと思えば、目的と用途が明後日の方向に空回りした変わり者で……でも、蓋を開ければ国思いの強い人間。正直、思うところのある話だった。

 

「……オーウェル、あんたの信念はわかったよ。それで、ここまで壮大な話をさせて今更聞くのもなんだが、あんたは一体何を発明したってんだ?」

 

「ふっ。ここまで言わせておいてわからんか?」

 

「いや、多分国防関連の何かだとは思ってるが……」

 

「も、もしかして……さっきのゴーレム技術を応用して戦闘用魔導人形を実践投入可能なレベルにしたとか!?」

 

「えっ……戦闘用魔導人形って、実践を想定して柔軟な動きが可能な代わりに動作安定性と防御性が不安だって言ってた?」

 

「だとしたらレザリア王国が攻め入ったとしても数の不利を補えるわ!」

 

 システィとルミアが興奮して語るが、シューザー教授がチッチッ、と舌を鳴らして指を振りながら否定する。

 

「ノンノン、お嬢さん。それじゃあ発明じゃなく、単なる改良だよ。もう少し単純に考えてみたまえ。この国の緊張感は我々魔術師のみに留まらず、一般市民の心にまで悪影響を及ぼしているんだ。そんな不安を抱える帝国民達の心境を思えば自ずと浮かび上がってくるだろう」

 

 シューザー教授の説明にグレン先生達は首を捻るばかりだが、俺は何となくわかってきた。いや、アレが好きな俺だからこその共感なのかもしれない。

 

「つまり、そんな何時崩れるかもわからない混沌とした世の中……」

 

「邪悪が我が物顔で闇を闊歩し、弱き者が虐げられるのを黙って見過ごすしかない暗雲の時代……」

 

 俺のオープニング前の前置きみたいな呟きにシューザー教授が乗っかって一緒に語り始める。

 

「人々の心は闇によって徐々に塗り固められてしまう……」

 

「だが、そんな中でも尚運命に抗い、人々の希望を背負おうと立ち上がる存在……」

 

「「即ち正義の英雄(ヒーロー)をっ!」」

 

「「いや、何言ってんのお前ら(あんた達)は……」」

 

 俺とシューザー教授が手を握り合いながら語ると、グレン先生とシスティが横からツッコミを入れるが、俺達の耳に入る事はなかった。

 

「やはりわかってくれるか! どうも君からは私と同じ匂いがしたと思ったんだ!」

 

「あんたと一緒っていうのはどうにも嫌だけど、その存在に憧れるって事だけは大いに共感できますよ。して、そんな話をしたって事はあなたが発明したというのはつまり──」

 

「ザッツライトッ! 人々の希望を背負い、闇を照らして悪を討つっ! そんな英雄になれる魔導アイテム……ここに爆・誕っ!」

 

 かの風来坊のセリフをパクって叫びながら取り出したのは何のマークなのかはわからんが、中央に特徴的な紋章の入ったバックルが取り付けられたベルトだった。

 

「これぞ私が発明した血と涙と汗の結晶っ! 『仮面騎士の魂(ナイツ・オブ・ソウル)』っ! 設定されたポーズと共に呪文を叫ぶと正義のヒーロー『仮面騎士カイザーX』になれるという優れものなのだぁ!」

 

「変身ベルト、キタ────ッ!」

 

「何いきなり叫び出してんだ、お前は!?」

 

「いえ、コレを見たら叫ばずにいられなかったので……」

 

 あの宇宙飛行士みたいな見た目の高校生ライダーのセリフを思わず叫びたくなるくらいお決まりのものが飛び出してきた。これには流石の俺も興奮を隠せなかった。

 

「これは錬金術を応用した最新式の魔導工学の結晶だっ! 一度起動させれば仮面騎士の鎧と剣を瞬間高速錬成、使用者に瞬時に装着させること出来る。しかもその鎧に包まれれば使用者の身体能力は飛躍的に上昇し、防御にも優れている。更に主装備である剣の斬れ味も優れ物! 分厚い鉄板だってバターのように真っ二つだ!」

 

「げ……発想はアホらしいのに、どんだけ高度な技術力なんだよ」

 

「ただし、これを装着してる間は使用者は魔術は使えんが」

 

「魔術を追求するこの御世代にあるまじき最大の欠陥品じゃねえかっ! 何でそんだけの技術成立させといて肝心の魔術が使えねえんだよ!?」

 

「うるさいっ! 何が魔術だっ! ヒーローは正義! 正義は騎士道っ! 騎士道と言えば剣ではないかっ! 何が魔術だ、魔法だっ! そんなものの所為で失われた騎士道をコイツで取り戻せっ! そうは思わんかね、同士っ!」

 

 バンッ! と、擬音が出る勢いで俺の眼前に変身ベルトを突き出すが一言告げておきたい。

 

「いや、あなたの発言思いっきり矛盾してますよ?」

 

 ガーンッ! と、これまた擬音が発するばかりに表情が驚愕に染まる。

 

「な、何故……?」

 

「だって、騎士道やらなんだ言ってますけどこれって魔導技術の結晶って言いましたよね。魔術に頼るなみたいな事言っておいて魔術で作られたものを着飾るとかいいんですか?」

 

「そ、それは……」

 

「それに、民衆の希望になるかと言われると話を聞く限り微妙なところでしょうね」

 

「な、なんだとっ!?」

 

「主装備が剣だということは、これを装着した人は前線で戦う事になるんですよね?」

 

「当然だっ! 自ら先導し、闇を切り裂く……それこそ騎士だっ! ヒーローだっ!」

 

「でも、一般民衆にはそれを見せられませんよね?」

 

「…………え?」

 

「あなたはこれを不安で押しつぶされそうな帝国民に希望を与えるために作ったと言いましたよね?」

 

「う、うん……」

 

「希望を与えるならその雄姿をもっと間近で見たいと思うのが人の性でしょう。かと言って、一般市民を前線に連れてくなんて出来ませんから雄姿を見せることは出来ない。更にこれは対人……いえ、性能が本物なら対軍もいけるかもしれませんが、もし敵の牙が知らず知らずのうちに民衆に向けられたとしたらその時どうやってその牙の前に立ち塞がるんですか!?」

 

「……あっ!?」

 

「あなたの言う通り、魔術を一切使えないのなら当然空を飛ぶような事は不可能。それじゃあ市民のピンチに颯爽と現れるヒーローを求める人達の希望には成り得ないんじゃありませんか?」

 

 そこまで言うと、シューザー教授は放心したように膝を着く。

 

「す、すげぇ……おかしくなったかと思えば、真面目にダメ出ししてやがる」

 

「…………つまり、そうか……」

 

 シューザー教授が肩を落としたかと思うと、すぐに全身に震えがはしる。

 

「これもまた、何の役にも立たんガラクタだという事か──っ!?」

 

 これまた自分の発明品がガラクタだと認識するや、再びそれを床に叩きつけようとしたところで俺はそれを止める。

 

「な、何を……っ!?」

 

「シューザー教授……あなたの言う通り、天才に失敗は付き物。けど、それを認識した瞬間に片っ端から壊して別の物を求めるのが天才のやる事ですか?」

 

「ぐ、それは……」

 

「天才だって完璧じゃない。それはその通りですし、前を向くのも必要でしょう。ですが、失敗から目を背けては真の進歩は得られないんじゃないんですか?失敗なら失敗で、何処にどんな欠点があるのか……それをその目で見てからでもいいんじゃないんですか?」

 

「う、同士ぃ……」

 

「さ、まずはそのバックルの性能を確かめましょう。……て事なので先生、お願いします」

 

「何でそこで俺に振るっ!?」

 

「いや、だって元はと言えばあなたに協力して欲しいと頼まれたんでしょ?」

 

「そこまでこの変態と意気投合出来るならお前がやれよ! 俺を巻き込まないでくれる!?」

 

「けど、俺は腕がこうですし? これ、多分五体満足の人じゃないと無理でしょうし。それに……」

 

「それに?」

 

「……こんな技術があるのならまず第三者目線でヒーロー誕生の瞬間を撮影したいのは特撮マニアの性だからだぁ!」

 

 俺はカメラモードにしたアイポタを手に叫んだ。

 

「今まで見た中で最高のテンションと眩しい笑顔だなっ!?」

 

「……リョウって、こんな性格だったかしら? 思いっきりキャラが崩壊してるんだけど……」

 

「あはは……小さい頃からヒーローに憧れてたみたいだし、こっちで久しぶりにそういうのが見れそうだと思ってはしゃいじゃってるのかも」

 

「というわけなので先生、すぐに」

 

「さあ……この『騎士の魂(ナイツ・オブ・ソウル)』を装着し、『仮面騎士カイザーX』となるのだ」

 

「断固拒否する! 俺は帰る──って、あれ?」

 

 グレン先生が回れ右して帰ろうとすると右手がバックルへと引っ張られるように伸びていった。

 

「あ、あれ? 何で……? 手が、バックルにくっ付いてるように離れねぇ……」

 

「フハハハハハハハハハ! どうやらこのバックルが選んだのは君のようだね!」

 

「え、選んだ……?」

 

「かの岩より選定の剣を抜けるのは選ばれし勇者のみ……このバックルもまた然り! これには周囲の者達の変身適合率を自動計算し、最も高い者を選び、手放せなくなるという『祝福』がかかっているのだよ!」

 

「それは『祝福』じゃねえ! 『呪い』だぁ!」

 

「カリバーのような、メモリのような……名前といい、設定といい、色々混ざってるよなコレ……」

 

「お前は何処に関心してんだ! さっさとこれなんとかしろ!」

 

「なんとかすると言っても……多分、これ解除できるのは開発者のシューザー教授しかいないんじゃないですか?」

 

「うむ。私ならこれを解呪(ディスペル)出来るが、そのためにはなぁ……」

 

「くっ……俺に選択の余地はねえのかよ……」

 

 こうしてグレン先生はバックルに変身者として選ばれ、ヒーローとなるのだった……ていう感じの光景だな。

 

「だから違うっ! 手はこう動かし、もっと天を突くようにっ! 足捌きも違うっ!」

 

「何でこんなややこしい変身手順に設定しやがるんだ、コイツ……」

 

「趣味だ」

 

「なるほど」

 

「ふっざけんなあああぁぁぁぁぁ!」」

 

 紅茶を飲みながら目の前ではかれこれ十分間、やたらと複雑な動きをレクチャーしながら『変身!』を連呼しているグレン先生とシューザー教授だった。

 

「だあああぁぁぁぁぁ!? こんなに恥ずかしいの我慢しながらやってんのに一向に姿が変わらねえ!」

 

「…………思ったんですけど、もしかして起動ワードが違うなんてオチじゃないんですか?」

 

「…………あ、そういえば。『変身』じゃなくて、『瞬転』だったわ……テヘペロ⭐️」

 

「ブン殴るぞ、テメェ!」

 

 そんなこんなで、昭和のライダーみたいな振り付けを混じえながら再び呪文を叫ぶ。

 

「《瞬、転──っ》!」

 

 瞬間、眩い光に包まれていき、グレン先生の姿が一変した。

 

「おぉ……思ったよりカッチョいいな」

 

「どんなエキセントリックな見た目になるか半分恐怖だったけど、まるで英雄詩に出る騎士みたいね」

 

「うん、すっごくかっこいいですよ」

 

「フッフッフ……見たか、私の血と涙と汗の結晶を。これなら同士もあっと──」

 

「イマイチですね」

 

「えぇっ!?」

 

「白銀のマントっていうのは良いとしましょう。ただ、全身一色で塗り固めるのは芸がないですね」

 

「う……!?」

 

「オマケに、鎧のイメージが俺の知ってる騎士達に似通ってて、言ってしまえばパクリくさいんですよね」

 

「パ、パクリッ!?」

 

 俺の個人的な感想を述べると、再びシューザー教授は膝を着いた。

 

「おいおい、流石にパクリは酷いんじゃねえか?」

 

「くっ……! 私の、魔導技術の最先端が……パクリ……鎧の錬成の術式構成に三日、デザインに三年を費やした私の情熱がパクリだとおおおおぉぉぉぉっ!?」

 

「うん、お前アホだよな。とっくにわかってたけど」

 

「やっぱ装着者のイメージも考えないと……格闘が得意。普段はズボラ、お調子者で、寝坊助、人の名前も何度も間違える。でも頼れる時は頼れる。燃える炎の戦士……あ、グレン──って、いたっ!?」

 

「よくわからんが、お前のソレも何かのパクリだろっ!」

 

 バレたか……。でも、改めて思うと、頭の出来を除いてグレン先生って、あの炎の用心棒に似てるんだよな。名前も……。

 

「まあ、デザインについても後の課題にして早速テストに入りましょう」

 

「つってもな……テストって言ったって、どうやって性能確かめるんだよ?」

 

「そもそも敵なんてこの学院にいないんだし……」

 

「まあ、ライダーのスペック表みたく……パンチ力、キック力、ジャンプ力、走力でも確かめればいいんじゃないんですか?」

 

「フッフッフ……同士よ、そんな方法で満足するとでもいうのか?」

 

 俺が適当にテスト内容を纏めようとすると、シューザー教授が不気味な笑みを浮かべていた。

 

「ヒーローの強さを確かめるには手っ取り早く敵と闘う以外にあるまいっ! ただ待ってるだけでは乱れない平和の中のテストなど無意味っ! なのでここは学院の平和を積極的に乱そうではないかっ! 皆の平和を守るために!」

 

「いや、待て……その理屈はおかしいだろ」

 

「平和を守るために平和を乱すって、言ってること矛盾しまくってるし……」

 

「というわけで、こんな時のために作っておいた『悪の戦闘用魔導人形』達を召喚し、学院を襲わせてみよう!」

 

「どんな事態を想定してんだよっ!?」

 

「ていうか、それ正義のヒーローファンがやっちゃいけない所業だろ!」

 

「何をいうか! 本物の敵がいてこそ、真のヒーローの存在感が増すのだっ! 本物の恐怖に逃げ惑う無辜の人々! 切に救世主を待ち望む民草達の無窮の叫びっ! そんな燃えるシチュエーションを用意してこそ正しい実験データが得られるもの! それを正義のヒーローたる君が守れば何の問題もなしっ!」

 

「大ありだろうがっ!」

 

「どこの愛と善意の伝道師だアンタはっ!?」

 

「……愛と、善意の伝道師……その言葉、何故かすごくインスピレーションを刺激される。こんな時に次の研究テーマが浮かんでくる。今度は巨人型の魔導人形を作りたくなってきたぞ……っ!」

 

「マズイッ!? 余計やばい方向にシフトしそうっ! つか、本当にやめろっ!」

 

「とにかくっ! 俺は絶対にテストなんてしねえかんな!」

 

「ふふふ……いいのかな、グレン君?」

 

 グレン先生がテストを拒否しようとすると、シューザー教授が邪悪な笑みを浮かべながら机に大きなスイッチが置かれる。

 

「もし、ヒーローたる君が闘いを放棄すれば、私がこのスイッチを押し……我が悪の魔導人形の軍勢が──」

 

「や、やめろ、テメェ! 俺の生徒に手ぇ出すんじゃ──」

 

「──私特製、『何故か服だけ溶かす液』を乱射するっ!」

 

「ネーミングがまんまだし、悪党の所業にしては微妙っ!」

 

「ふっ、素晴らしい発明だ。存分にやれ」

 

「見事なまでの手のひら返しっ!?」

 

 時を守る電車ヒーローの主人公をも凌ぐダサいネーミングにもグレン先生の態度の変わり様にもツッコミどころしかねえ。

 

「この学院の平和は俺が守るっ!」

 

「よく言った! その意気だ、グレン君!」

 

「あ、あんた達は……」

 

 このアホらしい状況を見ていたシスティも遂に堪忍袋の尾が切れたのか、拳を震わせながら立ち上がった。

 

「……ん? ちょ、おい……システィ。その手、動かさない方が……」

 

「いい加減にしてくださいよ、このロクでなし共はっ!」

 

 俺の制止の声も聞かず、システィが手を叩きつける。そしてその手の下には丁度シューザー教授が出した魔導人形を動かすためのスイッチがあった。

 

「「「「…………あ」」」」

 

「……グレン先生といい、シューザー教授といい、お前といい……本当に、漫画みたいな展開を地で辿るよな、この学院の奴ら」

 

 俺は天を仰ぎながら頭を抱えた。

 

「まあ、なんにしてもこれで舞台は整ったっ! さあ、イッツショータ〜イムッ!」

 

 シューザー教授がどこからか巨大な水晶玉を出して、そこに現在の学院の中庭の光景が映っていた。

 

 そこにはシューザー教授特製の服を溶かす液があちこちに乱射され、その制服を溶かされた生徒達で溢れかえっていた。……何故か男子ばかりだが。

 

「……コ レ ハ ヒ ド イ」

 

「なんという地獄絵図……」

 

「ていうか、何で男子ばかりなんだよっ!? ヤロウ共の肌色なんざ求めちゃいねえよっ!」

 

「私は淑女には手を出さない紳士なのでな。人形の行動パターンはそういう風に設定している!」

 

「学院全体を騒動に巻き込んでおきながら今更紳士ぶってんじゃねえよっ!」

 

「それより……急いで行かないとこの学院が社会的な意味で終末を迎えかねませんよ?」

 

「こんなふざけた理由で学院が終わるとか、学院長やセリカになんて言われるか……あぁ、くそっ! こうなったらヤケクソだ、ドチクショウがああああぁぁぁぁぁ!」

 

 グレン先生が血涙でも流しそうな叫びを上げながら中庭へと向かっていった。

 

「さぁっ! 選ばれし英雄よっ! この混沌とした状況をどう切り抜けるかっ!」

 

「そもそもこうなった原因はアンタだろうが……」

 

 そんなツッコミもないかのように、水晶玉に映る光景にグレン先生が派手な登場をしていた。テストを拒否していたのに、随分とノリノリじゃんか。

 

 そして、映像の中でグレン先生は眩い剣を手に取り、派手なエフェクトを撒き散らしながらゴーレム達を倒していく。

 

「何あの光っ!? 妙に派手な消滅の仕方なんだけど!」

 

「フハハハハハハハハハッ! やはり敵が爆発四散するのはお約束だからなっ! 魔導人形の弱点である動作性能と防御性を実践投入レベルに引き上げるのに三日程度で終わったが、この芸術的な爆発死滅っぷりを生み出すのに、実に三年かかった! 感無量っ!」

 

「無駄な努力すぎる!」

 

「エフェクトはいいんですけど、雑魚にまでイチイチアレやるのはどうも飽きる気がするんですけどねぇ。やっぱりああいうのはここぞの必殺技の時じゃないと」

 

「あんたは何の話をしてるのよっ!?」

 

「心配ご無用っ! そんな事にならぬよう、必殺技は更に派手にしてるからなっ!」

 

「いい加減、あなたはその努力をちゃんとしたところに向けられないんですかっ!?」

 

 映像の向こうでシューザー教授が言うようにグレン先生が奥義らしい剣技(というか、ただの振り下ろしだが)を披露してゴーレム達を光へと昇華させた。

 

『か、仮面騎士様……』

 

『ふっ……怪我はないかい、お嬢さん?』

 

『えっ……あの……わたくしは、大丈夫ですわ。貴方が……守って、くださいましたから……』

 

 映像の向こうではウェンディが頰を仄かに赤くしながら普段と違って妙にしおらしくなっていた。

 

『あの……せめて、何かお礼を……』

 

『礼には及ばんさ。強いて言えば、君の笑顔が最高の報酬さ』

 

『なっ!? か、からかわないでくださいましっ! わたくしは、真剣ですのに……』

 

『あっはっは! それはすまなかった! 君があまりに可憐だったのでね、つい舞い上がっていたようだ!』

 

 そう言いながらグレン先生がマントを翻してその場を去ろうとしていた。

 

『闇の手が再び君の光輝の花を摘み取らんとする時、私は再び君の元へと駆けつけよう! では、さらばっ!』

 

『まっ、待ってくださいましっ! せめて……せめて貴方の本当のお名前をっ!』

 

「何これ……」

 

「あはは……」

 

「昔の漫画か、アニメにあんなシーンがあったような……」

 

 なんとも下らんラブシーン擬きを見せられて頭痛が起きるが、どうにか学院の惨劇は収まったようだ。

 

「ああもう、先生も先生よっ! あんな歯の浮くような台詞っ! 調子に乗りすぎっ! 絶対後で説教してやるんだから! それとシューザー教授っ! 先生が戻ったらあの忌々しい鎧を解いて──って、あれ? シューザー教授は?」

 

「変だね……さっきまでそこにいたのに」

 

「……まさか、あの人」

 

 俺はとてつもなく嫌な予感がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数分後、中庭へとたどり着くと、そこには『仮面騎士カイザーX』と対をなすような漆黒の鎧に身を包んだ誰かがボロボロになってその前にグレン先生が妙に清々しい雰囲気を放ちながら佇んでいた。

 

「そ、そうだよね……いくらスペックで勝っても、肝心の格闘技術が私にはないんだもんな……私としたことが、なんたる見落としを……」

 

 声からしてあの漆黒の鎧の中身はやはりシューザー教授なのだろう。どうせグレン先生に装着させたのとは別に用意してグレン先生が安全だから自分も装着してヒーローになり代わろうとグレン先生に挑むも、経験の差で見事に返り討ちと。

 

 本当に特撮でよくある展開を繰り広げてくれるよ……。

 

「あぁ、騎士様……なんて凛々しい」

 

「あんな光景を目にしてそんな言葉が出るあたり、ウェンディの将来が不安になるわ」

 

「あはは……恋は盲目だね」

 

「これ、後で真実を知ったらどうなるんだろう……」

 

 ちょっぴり見たい気もするが、彼女の心が壊れかねないな。

 

「ふふふ……今日のところは君の勝ちだ、カイザーX……だが、覚えておけっ! 人の心に闇がある限り……第二、第三の黒騎士が現れる事を──さらばっ!」

 

 これまた昔の魔王みたいな台詞と共に自身のバックルを弄ると──

 

『『後、三十秒で自爆します』』

 

 ──妙な電子音声みたいな警告が二重に響いた。

 

「……おい、リョウ。これ、どう見る?」

 

 明らかに不安がってるグレン先生。きっと仮面の下ではその表情は青ざめてる事だろう。

 

「明らかに向こうと先生の鎧が同時に起動しましたね。恐らく、術式も何もかもが同じ種類で形成されたから向こうが自爆機能を作動すればそれに連動して先生のも作動するって仕組みなんじゃないんですか?」

 

「…………おっと、この天才の私としたことがなんたるミスを……テヘ⭐️」

 

「……ルミア、システィ。即刻ウェンディを引き離そう」

 

「そうね……すぐに離れた方が良さそうね」

 

「そ、そんなっ!? い、いやああぁぁぁぁぁっ! 騎士様あああぁぁぁぁぁっ!?」

 

 俺達は申し訳なく思いつつもウェンディを連れてさっさと立ち去ることにした。

 

『ふっざけんなああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!』

 

 中庭で大きな爆発音が響く直前、グレン先生の心の底からの叫びが聞こえた気がした。合掌……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へ……? 今の二年次生が卒業するまでは派手なテストは控えるって?」

 

 あの騒動から数日後、身体のあちこちに包帯を巻いたグレン先生が俺の言葉を聞いて間抜けな声を出した。

 

「あぁ……あの騒ぎで教職員達が大騒ぎして今のうちに次の生け贄の事を議論していたんで、あの騒ぎを助長させちゃった責任も兼ねて試しにシューザー教授に言ってみたんですよ。『ああいうのは秘密裏に進める方がカッコイイ』とか、他にもいくつかあの人をその気にさせるような言葉をかけてみれば、見事にあの人、『確かに、その方がロマンがある! そっちがよっぽどサプライズ感があっていい!』って言って、俺を助手にする事条件に呑んでくれました。それ報告したらほとんどの教師から感謝されました」

 

「……なあ。最初からその案持ちかければ、俺はこんな大怪我する事なかったんじゃねえか?」

 

「……まあ、当時はあそこまでの騒動になるとは思ってませんでしたし……俺もあの人の作ったものが純粋に気になってたんで、失念してました」

 

「ふっざけんなああああぁぁぁぁぁぁっ! これじゃあ、文字通りただの骨折り損じゃねえかああああぁぁぁぁぁぁっ!」

 

 グレン先生の怒りの叫びが学院中に響きそうな程轟いた。

 

「ていうか、助手って言ってたけど……まさかあんた、自分の世界の英雄とかあの人に作らせるとか言わないわよね?」

 

「いやいや、まさか……あの人に任せたらテラノイド、いやカオス……いや、果てには第二のザギすら作りかねないのにそんな恐ろしい真似出来るか」

 

 そんな事になったらこの世界の文明どころか外宇宙すら滅びかねない。そうなったら何処かにあるかもしれない宇宙警備隊の方々に顔向けができない。

 

「あはは……まあ、助手もいいけど、程々にね?」

 

「せめて安全性は確かにしなさいよ? またあんな面倒ごとは御免だから」

 

「……善処はする」

 

 確約できないあたり、あの人の技術力と破天荒っぷりを痛感したからな。

 

「同士いいいいいいぃぃぃぃぃぃぃぃっ!」

 

「「げ……」」

 

 噂をすれば何とやら。話題の人が猛スピードで駆け寄ってきた。ていうか、あんたも結構な怪我だった筈なのに随分元気だな。

 

「何でしょう、シューザー教授? 仮面騎士II(ツヴァイ)のデザインの仮案は粗方出した筈ですが」

 

「あんた、まだあんな奇天烈装備諦めてなかったのかよっ!?」

 

「そんな事よりもだっ! 気紛れに作った『未知のもの探索発見器君』を使ってみたら見事に未知のエネルギーに突き当たったぞっ!」

 

 これまたネーミングがまんまな上に普通だったら何年も気の長い時間をかけて探すものを一発で見つけ出す才能に張本人以外が軽く目眩を起こした。

 

「……それで? 今度はそのエネルギーを運用した装備でも?」

 

「ザッツライトッ! これを見て今製作過程の仮面騎士IIもよりパワーアップする事だろうっ! そして今回見つけ出したこのエネルギーッ! 空の彼方から観測された事に因んで……『スペシウムエネルギー』と名付ける事にしたっ!」

 

「…………は?」

 

 単なる偶然……だよね?


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