ロクでもない魔術に光あれ   作:やのくちひろし

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タウムの天文神殿
第26話


 季節的には、もうそろそろ日本でいう立夏辺りだろうと思ってる。この頃日差しが強く感じてきたからそう思ってるだけだろうが。

 

 様々な事があって、一時この街を離れてそこでも色々あって右腕を失ってしまったが、それでも地球にいた頃よりも得られた物があると実感できるようになってから数週間が過ぎた。

 

 あれからも俺なりに修練は続けてるし、これまたいくつか増えた物があるが、それは割愛する。そして学院では平和なひと時を享受しながら過ごしていたところ──

 

「はぁ〜……」

 

 ──盛大なため息によって気分が一気に沈んだ。

 

「……で、どうしたんだシスティの奴?」

 

 目の前でため息を吐きながら机に顔を沈ませているシスティを指しながら事情を知ってるだろうルミアに小声で尋ねる。

 

「あ、うん……システィ、帝国の東部で新しく見つかった遺跡の探索メンバーに参加したいって論文を書いて立候補したんだけど……」

 

 結果は落選したとあの様子ですぐにわかる。まあ、進路が魔導考古学って言ってたからこういう話には飛び付くだろうとはなんとなくわかる。

 

「何よ、魔術師に男も女もないでしょう……ていうか、生意気って何よ?」

 

 誰に聞かせようという意思があるでもなく、ブツブツと自分を落選した人間への呪詛のような愚痴を呟いていた。落選した理由として魔術師としての位階が低いだの、女だの、生意気だのという理由らしい。

 

「しかし、一部を除いて理由が下らんな……どの世界でも女や社会的地位の低い人間ってのは冷遇されやすいのは変わらないもんなんだな。探索くらい、内部までとは行かずとも連れていったっていいだろうに」

 

「ダメだよ、そんな事言っちゃ。私だってシスティの夢は応援したいけど……遺跡調査員に求められる位階は基本第三階梯(トレデ)じゃないといけないし、今回見つかった遺跡の予想探索危険度ってB++だって聞いたよ」

 

「予想探索危険度……?」

 

 聞きなれない単語が出たので聞いてみると、遺跡は大抵がゲームのダンジョンみたくあらゆる罠や仕掛けもあり、魔獣や守護者(ガーディアン)に霊的存在が蔓延っており、それらと周囲の環境要素を基に判断されたランクの事らしい。アルファベットで上からS~Fの七段階、更に+記号を使って計二十一段階で決められるようだ。

 

 ルミアの言葉を聞くと、今回の遺跡は数字にしたら半分より結構上であるから相当な難易度だと予想できる。現にその段階になると念入りに準備しても死人が出てくる事もあるらしい。

 

「そんな危険な場所にはまだ行ってほしくないな……私、心配だよ……」

 

「むむむ……」

 

 システィには悪いが、その話を聞いたら俺も反対したいところだ。上から目線な言い方になってしまうが、システィはそういう関係のものになると周りが見えなくなる傾向がある。普段の魔術に対する意識だって元々かなり神聖視している節もあるしな。

 

 真面目と言えば聞こえはいいが、彼女を知らない人から見れば押し付けてる感が強い。自分の感じた事を正しいと疑わずに他人にあれこれ物申ししすぎる。魔術とか関係なしに学者の説は一人の意見で成り立つわけじゃないからな。どこかで衝突して万が一が、なんてことも十分にあり得てしまうだろう。

 

 早い話が、魔術の腕以上に精神的な部分が未熟な気がするというところか。

 

「ふっ……おはよう、諸君っ!」

 

 ルミアがシスティを慰めてるところにグレン先生が普段のだらし無さっぷりから想像できないようなテンションで教室に入ってきた。

 

 予鈴も鳴って全員が着席して普段と違うグレン先生の様子に教室の空気が重くなった気がした。

 

「授業に入る前に、みんなに言っておきたい事がある。お前ら……毎日毎日教室に引きこもって机に向かって教科書置いて教師共の話を聞くだけの授業で満足できるのかっ!?」

 

 急に何を言い出すのだと全員の胸中が一致していることだろう。俺達の反応を予想していたグレン先生は更に熱弁し、数分語るとようやく本題に入った。

 

「……つうわけで、こっからが重要なんだが……今回、学院側からとある遺跡調査を依頼されてな。その遺跡調査にお前らを連れて行きたいと思うっ! そして、その調査する遺跡ってのはみんなも知ってるだろう、『タウムの天文神殿』だっ!」

 

「『タウムの天文神殿』!?」

 

 グレン先生からいきなりの遺跡調査の話題に全員が驚いた。特にシスティは顕著だった。

 

「で、俺はこの遺跡調査の調査隊員をこのクラスから募る事にした。って言っても、学生である以上、俺が面倒を見切れるのは八人が限界だがな……」

 

「シ、システィ……よくわかんないけど、いきなりのチャンス到来だよ」

 

「そ、そうね。しかもあの『タウムの天文神殿』なんて……」

 

「…………?」

 

 システィの態度に妙な違和感を覚えた。念願の遺跡調査の経験を積めるというのが喜ばしいだろうとは思うが、いつもの遺跡関係の話題を語るときとは違う熱意のような……。

 

「先生、私──」

 

「妙な話ですね、グレン先生」

 

 システィが我先にと挙手しかけたところにギイブルが割って入った。

 

「遺跡調査は慣例的に第三階梯以上の者から調査隊員を募る筈……なのに、何故まだヒラの学生でしかない僕らにそんな話を持ちかけるんですか?」

 

「そりゃお前、そうなると規定で雇用費が発生して──ゲフンゲフン! こんな息苦しい環境の中で新たな刺激を求めてるだろう君達に対するボクからの細やかな贈り物デスのよ! どうせ最低ランクのFなんだし〜! これはお前たちのための特別講座だ!感謝せい!」

 

 ギイブルの指摘に明らかに何か下らない背景があるだろうとは予想できる返しだった。ていうか、人件費削減のためかよ。

 

「やれやれ……どうやらあの噂は本当のようですね」

 

「噂……?」

 

「グレン先生……あなた、教師の必須事項である魔術研究の論文を出してないためにクビになりかかってるそうですね。それで、苦し紛れに遺跡調査を行う事でクビを免れようとしているということでしょう」

 

「ク、クビッ!?」

 

「先生、それ本当なんですかっ!?」

 

「え、な、なんの事かな〜!? ボクにはサッパリ〜!」

 

「目が泳ぎまくってる上にそんな漫画にありきの誤魔化し方で逃げられると思ってんですか?」

 

 ギイブルの指摘に滝のように冷や汗を流しているグレン先生が誤魔化そうと色々言葉を並べるが、最終的にみんなの疑念の眼差しに耐えられなくなったようで……。

 

「どうか、この哀れでゴミクズな俺に力をお貸しください、お願いします──っ!」

 

 アクロバティックな動きからの綺麗な土下座を決めてきた。これには皆呆れてものも言えなくなっていた。

 

「頭を上げてください、先生。先生がいい論文を書けるように、頑張りますね」

 

「て、天使……」

 

 グレン先生にルミアが迷わず手を差し伸べたのをきっかけに、次々と候補者が上がってくる。

 

「ん……私も行く。私はグレンの剣だから、私がグレンとルミアを守る」

 

「俺も行くぜ! 冒険は俺の夢だしな! な、セシル!」

 

「うん、僕も学者を目指す者として興味はあるしね」

 

「やれやれ……呆れるしかありませんが、遺跡調査は経歴に箔がつきますから参加させてもらいますよ。もっとも、危険度Fではたかが知れてるでしょうが」

 

「あの、私も……私も、先生に辞めてほしくないですし……」

 

「ふふ、私も参加させてくださいな」

 

 リィエル、カッシュ、セシル、ギイブル、リン、テレサとこの時点でもう七人が決定した。真っ先に行きたいだろう筈のシスティは何故か机で次々と名乗り出る者達に羨望と嫉妬の視線を向けていた。

 

 どうせ仕方ないという体で参加しようとしたのを先越されたり、参加する理由が明確な奴らが羨ましかったり、先生から声がかからないのを拗ねてたりしてるのがわかってしまう。別にシスティが魔導考古学目指してるのは周知の事実なのでそこまで考える事でもなさそうなんだがな。

 

「さて、もう最後の一人なんだが……最後は是非来て欲しい奴がいるんだよな」

 

 ああ、よかった。グレン先生だってシスティの夢は知ってるんだから、ここで省いたら面倒だって事くらいわかってるよな。

 

「ウェンディ、お前だ」

 

「(なんでやねんっ!)」

 

 思わず机に頭を叩きつけてしまった。隣でもほぼ同じタイミングでシスティが頭を打ち付けていた。

 

 ウェンディは呆れたように言うが、満更でもなさそうだった。こっちは心中穏やかじゃいられないがな。システィが悔しそうな顔で今にも爆発しそうな程に震えていた。

 

「さて……面倒見切れる奴は八人なんだが、もう一人なんとしても連れて行きたい奴がいてな」

 

 ああ、よかった。何だかんだでちゃんとシスティは連れて行こうとしてくれるのか。グレン先生がツカツカと近づいて行き、システィは希望の光が見えたような表情とした。

 

 そのままグレン先生はシスティの正面──を通り過ぎて、俺の前に来た。

 

「リョウ……お前は絶対に同行してもらいてぇんだ」

 

「(そこはシスティじゃねえのかよ!)」

 

 心の中で全力でツッコんだ。隣ではシスティが白く燃え尽きたような気がした。

 

「な、何で俺なんですか?」

 

「護衛出来る人間が欲しいんだよ。リィエル一人でも足りそうな気はするが、アイツ一人じゃ突っ走りそうだしな……もう一人くらい頭で考えながらみんなを守れる人間が欲しかった。お前ならリィエルをうまく誘導できそうだしな。それに、この遺跡調査でお前に損はさせねえよ」

 

「……どういう意味ですか?」

 

「いいから来てくれ。いや、本当に頼む。お前ならお得意のアレで上手い論文思いつきそうだしさ……な?教師続けられるようになったら何か奢るから!」

 

 また下らん理由を並べるが、グレン先生の態度から見るに何が何でも俺に来て欲しいみたいだ。

 

「……まあ、いいですけど」

 

「よしっ! これでメンバーは理想のメンバーは揃ったな! みんな、ありがとう! 予定は後のミーティングで追って伝える──って、何だ白猫?」

 

 グレン先生が決定づけようとすると、システィがフラフラと危なっかしい動きでグレン先生に近づく。

 

「お、おい何だよお前……」

 

「ぐ、う……むぅ〜〜っ! ふぅ──っ!」

 

「いや、マジでどうした!? 軽く怖ぇぞ!」

 

 システィの行動の意味が全く理解できないのか、軽く恐怖しながら後ずさりするグレン先生。まったく……素直に遺跡調査に行きたいと言えばよかったものを。

 

「リョウ君……どうにかしてシスティも参加させてあげられないかな?」

 

 システィが不憫に思えたのか、ルミアが小声で俺に援助を求めてきた。まあ、放っておけば面倒臭い事になりそうなので協力はしておくが。

 

「それで先生、遺跡調査に行くのはいいんですが俺遺跡自体初めて見るんで勝手がわかりませんよ。先生だって専門家じゃないのに準備とかどう進めるんですか?」

 

 我ながら古臭い三文芝居な気もするが、隣でルミアも手話で伝えてようやくグレン先生もシスティの行動の意味を理解できたのか、納得顔で頷いた。

 

「あぁ、そういう……いや、専門家ならいるだろここに」

 

「……え?」

 

「いや、お前遺跡マニアじゃん? その手の事なら誰より詳しいだろうからお前は問答無用で連れて行こうと思ってたしな。それに、こいつらを上手く纏め上げられるリーダーも必要だったしな。つうわけでお前は教師権限によって強制参加……異議は認めん」

 

「……な、なんて人なのあなたは! 教師を盾に生徒の同行を強制するなんて! 大体クビの件だってあなたの普段の怠慢さが──」

 

 参加が決まってからいつものように説教を連発させるが、その表情は明らかに嬉しいという感情が浮かんでいた。

 

「…………初めから参加したいってだけ言えばいいのに、子供かお前は」

 

『『『あ……』』』

 

 あまりに漫画にでるツンデレキャラっぷりと面倒臭さが相まってつい本音を漏らし、満点の笑顔から一転して鬼のような形相に変わったシスティの風鎚制裁によって一時間目の授業は欠席する羽目になった。

 

 ……これ、俺が悪いのか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 遺跡調査が決まってから一週間の準備期間を経て俺達は暁に染まる空と周囲に漂う朝霧の中をちょっと大きめの馬車で移動していた。

 

 それなりの期間の調査との事なので主にグレン先生と遺跡マニアのシスティの先導のもと、それぞれ手分けしながら調査に必要なものを仕入れて商家の娘であるテレサが馬車と御者を手配し、出発する事ができた。

 

「……よし、これで勝ち確だ」

 

「あ、ロイヤルストレートフラッシュですね」

 

「ふっざけんなああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

 そして移動中、遺跡に着くまではほとんど何もないので暇潰しににとテレサという紅一点を交えて俺を除いた男子陣はポーカーをやっており、先程からテレサの一人勝ち連発であった。

 

「……テレサつよ」

 

「まあ、あの娘は天性の剛運の持ち主ですからね。下手な小細工など通用しないのですわ」

 

 もし彼女が本物のカジノで賭け事なんてしたらたった一晩で潰れそうだな、カジノが。

 

「それにしても、本当にこの国は大なり小なり遺跡が多いですわね」

 

「言われてみりゃ……」

 

 この街道にしたって、さっきから所々にストーンヘンジみたいな環状列石があったり、苔に覆われた石碑が横倒しになってたり、城跡っぽい地が見えたり、この国は昔の文明がそのまま残されてる場所が多いみたいだな。

 

 それらを見て疑問に思った俺達にシスティの説明も加わり、この国はその昔超魔法文明というものが栄えていた歴史があるとの事。更に魔術と魔法の区別の説明があり、その辺りは型月で聞いてたやつとあまり変わらないようだな。

 

 あまり歴史とか遺跡に興味があったわけじゃないが、この国にそこまで古代遺物が集中してるのを見ると、この国には一般的に伝わってる歴史とは別の何かがあるのではと勘ぐってしまう。

 

 まあ、地球人である俺の個人的な感想だし俺一人で調べられる範囲などたかが知れてるだろうから手を付けようって気にもなれないが。

 

「ところで……さっきからこの馬車、何処に向かっているのですか?」

 

「へ? そんなの『タウムの天文神殿』に……って、ちょっと待って。ここ街道から外れてるわよ!」

 

 しばらくして馬車が予定のルートを大きく外れてるのがわかり、馬車の内部で若干の混乱が起こった。

 

「ちょっと御者さん! こんなルートを予定した覚えなんてありませんよ! 森になんて入ったら──」

 

 システィの叫びも若干遅く、森を入って少ししたところで十数の影が馬車の前を陣取った。

 

「シャ、シャドウウルフッ!?」

 

 その影の正体は魔獣シャドウウルフ。見た目は黒い狼みたいだが、地球で知られる肉食獣のライオンやトラなどとは比較にならない危険な生物の一種である。

 

 というのも、この魔獣は普通の動物とは違い、生き物の恐怖に非常に敏感であり、その感情を持った生物を餌と認識したら何処までも追って喰らい付こうとする。一部スペースビーストと通づる連中である。

 

「待てい、テメェら! 俺の生徒に手ぇ出そうたぁいい度胸じゃねえか! とうっ!」

 

 ここでグレン先生が勇敢に馬車から飛び降り、地に降り立ったかと思ったが……。

 

 ──グキッ!──

 

 嫌な音が響いた。

 

「…………イッテェ! 足挫いたああああぁぁぁぁぁぁっ!」

 

「あんた、何しに出てきたんだよっ!?」

 

 こんな状況下でもアホな展開が舞い込んできて、ついツッコんでしまう。

 

 それを合図にシャドウウルフが鋭い牙が並ぶ口を大きく開けてグレン先生へ突進してくる。

 

「ああ、もう! 『光牙』っ!」

 

 俺は左手に[フォトン・ブレード]を顕現して突進してきたシャドウウルフ二体を切り裂いた。だが、俺では一度に倒せるのがこれで限界なため、何匹も漏らしてしまった。

 

 漏らしたシャドウウルフの先には恐怖で震えていたリンがいた。

 

 以前魔獣と闘っていた時の経験がここで裏目に出てしまった。さっきも言った通り、こいつらは生物の恐怖を敏感に感じるため、恐怖心の最も強いだろうリンを狙う事は必定と言えよう。

 

 闘っている俺を無視して連中はまずリン一人に狙いを定めたようだ。俺一人じゃ守りきれないのに、肝心のグレン先生は今動けないし、リィエルもこんな時に寝入ってる。

 

 どうにかして守りに入りたいが、距離が開きすぎる。ただ走っても魔術を行使しても間に合わないだろうが、どうにか辿り着かなければと思った。

 

 そう考えなら地面を強く蹴りつけた一瞬……俺はリンの目の前に飛び出た。

 

「…………へ?」

 

 自分でも想定外の事が起こって一瞬呆けたのがいけなかった。シャドウウルフはその勢いのまま俺に牙を向けてくる。

 

「っ! くそっ!」

 

 俺は咄嗟に左手を前に出し、シャドウウルフの牙が左腕に突き立った。

 

「リョウ君っ!?」

 

 激しい痛みを我慢しながらシャドウウルフを蹴飛ばして馬車の前で再び防御態勢に入るが、今ので左手も封じられた以上ジリ貧だった。

 

 せめてリィエルが起きるまで時間稼ぎできないかと思った時だった。一つの影が視界の端を過ぎったと思うと、あっという間にシャドウウルフ達の首が吹っ飛んでいった。

 

「…………へ?」

 

 シャドウウルフの首が吹っ飛んだかと思ったら、俺の目の前に馬の手綱を握っていた御者が眩い剣を手に佇んでいた。

 

「……何だ、お前いたのか。色々言いたいところだが、後は任せたぞ」

 

 グレン先生は挫いた筈の足首で何ともないように立ち上がっていつの間にか握っていた銃を懐にしまいこみ、馬車に背を預けた。それから数分もしないうちに御者が高速の剛剣にてシャドウウルフを掃討した。

 

 ただ、最後の剣を振るう前にシャドウウルフの爪が御者の外套を引き裂くと、眩い金髪が揺れた。

 

「え、うそ……」

 

「あ、やーれやれ、もうバレちゃったか。失敗、失敗。もう少しで満を持して登場するつもりだったのにな〜」

 

「ア、アルフォネア教授っ!? どうしてこんな所にっ!?」

 

「や、みんな元気かな〜?」

 

「『元気かな〜?』じゃねえだろうが! 出て来るならもっと早く出ろっ! こんな危険な場所に入った挙句に生徒に怪我させてんじゃねえよっ!」

 

「あ、いや……」

 

 よくわからんが、アルフォネア教授が何処かで御者さんと入れ替わって付いてきたらしい。それからもよくわからんままアルフォネア教授も同行する事が決定した。

 

 

 

 

 

 

「リョウ君、まだ痛む?」

 

「いや、もう平気」

 

 ルミアの[ライフ・アップ]のお陰で傷を塞ぐ事が出来た俺は軽く巻いた包帯を見せて言う。

 

「あぁ、悪いなリョウ……あのバカが振り回した所為で」

 

「いえ、俺はそういうキャラなんだなって感じで納得出来ますけど……みんなは……」

 

 アルフォネア教授が同行する事が決まって今度はグレン先生が馬の手綱を握ってアルフォネア教授はみんなと同じスペースで腰掛けて読書をしているが、その周囲人二人分はスペースが開いていた。

 

 そしてみんなもアルフォネア教授とどう接したらいいのかわからないのか、それぞれどうしようという視線をあちこちで交差させていた。

 

「……すっごく気まずそうですね」

 

「たく……そもそも何の目的で着いて来たんだよ、あいつは……こりゃ絶対何か企んでやがるぜ」

 

「そ、そこまで疑わなくても……きっと、先生を助けてあげようっていう親心で」

 

「い〜や、あいつに限ってそれはあり得ねえ。あいつは、俺以上にものぐさっていうか、ワガママでフリーダムなんだぞ。自分の興味のねえ事には世界が滅んだって見向きもしねえ奴だ。そんなのがこんな取るに足らねえ遺跡調査なんかに着いてくるとか絶対何かあるに決まってる」

 

「あはは……」

 

「そこまで言いますか……」

 

 フリーダムに関しては人の事言えるかと物申したいところだが、そのグレン先生にさえここまで言わせる程となると、何故着いてきたのかちょっと気にはなる。

 

『だからな……お前達には、本当に感謝してるんだ』

 

 気になって後ろに意識を向けると、微かにだがアルフォネア教授の話し声が聞こえてきた。

 

『グレンの奴が、昔みたいにバカ出来るようになったのは……きっと、お前達のお陰なんだろうな。私一人がベッタリと囲って、甘やかして、守っていようが……きっと立ち直れなかった。だから、ありがとな』

 

 俺もみんなとあまり変わりなく、アルフォネア教授との接点は少ないので単に優れた魔術師という認識で、グレン先生からの聞き伝で意外とメチャクチャなんだという程度にしか知らなかったのでこんな一面を知れたのは驚いた。

 

 それを聞いてからはみんなの緊張も幾分か解れ、カッシュとウェンディがぎこちなくもアルフォネア教授と会話するようになってきた。

 

「あんれ〜? いつの間にか雰囲気よくなってね?」

 

「きっと、みんなアルフォネア教授がいい人だってわかってくれたんでしょうね」

 

「ですね……グレン先生の昔の話してる時のアルフォネア教授、すごい優しい声でしたし」

 

「おいっ!? あいつ一体何話してやがんだ!? 余計な事吹き込んじゃいねえだろうな!?」

 

「ちょーっ!? 先生っ! ハンドル──じゃない、手綱手綱っ!」

 

「大体、あいつは傍若無人で、破天荒で、我が儘で、悪ふざけが好きで、嘘か本当かわからん噂放ったらかしにして、しかもそれ利用して人の反応楽しむわ、しょーもねえ奴で! そりゃあ、偶に優しい面を見せるし、何だかんだ赤の他人だったガキの俺を育ててくれたし、魔術師としての力や誇りはちょっとは認めてっけど!」

 

「そんな反抗期なマザコンのツンデレっぷりはいりませんから早く手綱握り直してくださいよ!」

 

「はぁ!? 誰がマザコンだ、テメェ! 放り出すぞっ!」

 

「あはは……」

 

 そんな賑やかなひと時を過ごして更に数時間……黄昏時になってようやく目的の地点へ到着した。

 

「す、すげぇ……」

 

「これが、『タウムの天文神殿』」

 

 目の前に広がる草原の先にある高台の上に石造りのドーム状の本殿とそれを囲う幾つもの柱。

 

 行ったことなんてないけど、ギリシャの神の住まっていた神殿に負けないくらいの存在感があそこに鎮座していた。

 

「おーい、何ボサッとしてんだ! 本格的な調査は明日からだから今日はここで野営だ。野郎共は天幕の設置。リンとテレサは夕飯の準備。セリカ、念の為野営場周辺に守護結界の敷設頼む。白猫、ウェンディはその補佐。ルミアは馬の世話、リィエルは周辺の警戒。んで、俺は寝るわ」

 

「『アンタも・何か・働きなさいよ』──っ!」

 

 みんなをこき使って自分だけ楽をしようという、グレン先生らしさにシスティがいつも通り[ゲイル・ブロウ]と[ショック・ボルト]の洗礼を浴びせていた。

 

「あ、リョウはゆっくりしてろよ。昼間の魔獣達の所為で怪我してんだから」

 

 カッシュが気を利かせてくれて俺は何もせずに周囲をブラブラしていた。

 

「『タウムの天文神殿』……どんな遺跡なのかねぇ」

 

 なんとなく目的の神殿の事が気になり、日が沈んで星の光が見えるようになる空をバックに神殿が薄っすらと明るくなってきた。

 

 どんな理屈か知らないが、あれも何か魔術的な仕掛けなのだろうか。そう思うと同時に妙な感覚が後頭部に突き刺さる気がした。

 

 振り向くが、誰もいない。それでも妙な感覚は消える事もなく、しばらく警戒するが周りには誰もいない。

 

「……気の、所為か?」

 

「おーい、リョウ! 飯の準備が出来たから来いってよ!」

 

「ん……ああ」

 

 結局気の所為だと片付けて俺はみんなのもとへ戻っていった。

 

『…………誰なの?』

 

 それを別の所から見られているのに気づかないまま。

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