ロクでもない魔術に光あれ   作:やのくちひろし

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短期留学
第35話


「──と、以上がこの構造の簡単な仕組みですね。あと、これ……以前出た化け物に関する事と、それに類似する奴らのリスト。また出てくるかどうかは不明ですが一応……」

 

「協力感謝する。あの化け物については上もまだ判断に困っているみたいだからな。詳細なデータはあって困るものではない」

 

 アルザーノ魔術学院の敷地内に設けられた礼拝施設のチャペルにて、何故か牧師の格好をしていたアルベルトさんと対話していた。なんか、いつも首にぶら下げてる十字架のペンダントの事もあってかなり似合ってる。

 

 ちなみに今俺が手渡したのはイヴさんが来た時に約束した地球の技術の一部を俺なりに解釈して作ったものと、社交舞踏会の水面下で起こっていた暗殺未遂事件で出てきたスペースビーストに関するデータを記したものだ。

 

 アルベルトさんの話では今までにない事と連続して複数の事項の操作も平行して行われているので上層部も行動を纏めきれないでいるらしい。

 

「では、俺はこれで。さっき掲示板でとんでもない告知があったので」

 

「待て」

 

 礼拝堂から出ようとしたところでアルベルトさんから待ったがかかった。

 

「何ですか? すみませんが、出来れば早く学院長に聞いておきたい事があるので……」

 

「リィエルの退学処分に関してならこちらも把握している。お前を呼んだのはその話も含めてだ」

 

 そう……。掲示板にあったのは何故かリィエルが退学処分を受けるというものだった。テストで赤点連続なら退学というのはこの学院にも当然存在するが、リィエルが編入してからまだテストも行なっていないというのにいきなりこの処分が下されることを宣告されたのだからグレン先生やルミアにシスティ、クラスメート全員が騒然としていた。

 

 俺はアルベルトさんに呼ばれたからグレン先生とルミア、システィはリィエルを連れて先に学院長室へと駆け出していった。

 

「今回のリィエルの退学処分についてだが……くだらん事に、縄張り争いの一環のようなものだ」

 

「縄張り争い……ですか?」

 

「……まず聞くが、お前はこの学院に通ってる生徒がどういった者達か知ってるか?」

 

「え? いや、普通に魔術の素養のある生徒達でしょ? で、その育成の為の機関ですし」

 

 俺の答えにアルベルトさんは眉間にシワを寄せて若干呆れた風な感じだった。

 

「いいか? この学院は単純な育成機関ではない。学者へ進む者もいれば軍に志願する者など、魔術関連の道に進もうとしてる者達で溢れてる。そして、最高決定機関たる理事会には国軍省、魔導省、行政省、教導省……様々な機関に関わる者、もしくはその子息などが利権の塊とも言える魔術学院内にて常に主導権を握ろうと画策している」

 

「ん〜……つまり、今回のリィエルの退学もその派閥の一部が裏で手を引いて?」

 

「そうだ。教導省と魔導省……この二つの組織が一時的に手を組んでリィエルの排除に動いたのだろう。女王陛下へ媚びを売るという如何にもな心算だが、現状書類と口でリィエルの退学を取り消すのは無理だ」

 

「うわぁ……汚ねぇ。権力持った大人はロクなのがいねえのか」

 

「派閥と場所が違えば考え方も違うのは仕方あるまい。政治とてボランティアじゃないんだ。国を思えば手を汚すのも躊躇わぬからこそ、まだこの国も表向き安定出来てるんだ」

 

 だからって、王女の護衛の為の人間を排除するとかバカとしか思えないのだが。

 

 そんな会ったこともない政治家へ向けて怒りと呆れの感情を向けているとチャペルの戸がバン、と音をたてて開いて三つの影が飛び込んできた。

 

「お、リョウッ!? こっちにリィエル来なかったか!?」

 

「え、リィエル……ですか?」

 

 飛び込んできたのはあちこち走り回ったのか汗を垂らしてゼェゼェ、と息が上がっていたグレン先生とルミア、システィの三人だった。

 

 リィエルを含めた四人で学院長に直談判に行った筈だが、今の言葉から察するにリィエルがいなくなってしまったようだ。

 

「何があったんですか?」

 

「うん……どうにか退学を取り消せないからって学院長に相談してたら聖リリィ魔術女学院からリィエルに短期留学のオファーが来てるって言って……」

 

 留学のオファーの話にもイマイチ理解が追いつかないが、それ以前に聞いたことのない学校名が上がったので聞いてみたらこの国の教育機関のひとつで所謂女子校と言える所らしい。

 

 この国の首都、帝都オルランドの北西の山奥にある学院でお嬢様ばかりの通う所……何故かそんな所から短期留学のオファーの通知が届いていたらしい。

 

「それに参加して成功出来ればリィエルの退学は取り消せるんだけど……」

 

「それを説明したらリィエルが頑なに拒んじゃって……それで今に至るんだけど」

 

「なるほど……」

 

 話を聞いて事の顛末を理解した。考えてみれば、リィエルにこの話は色んな意味で荷が重いものだろう。

 

「くそ……街に逃げ出したってなると、この街の広さもバカにならないからな……」

 

「その必要はない」

 

「あぁ? 何だ……悪いけど宗教勧誘なら月付き合うつもりは──って、お前アルベルトか!?」

 

「「えっ!?」」

 

 グレン先生がアルベルトさんを認識すると、三人が驚いていた。まあ、あんな威圧感すら漂うアルベルトさんがいきなり牧師姿で目の前にいれば驚くわな。グレン先生達が驚くのを見てアルベルトさんは一瞬にしていつもの帝国軍としての姿に戻ったが。

 

「毎度思うんだが、お前やっぱり役者とかで食っていけそうな気がするんだけどな……」

 

「久しぶり……でもないな。社交舞踏会以来だが……」

 

 グレン先生の言葉を無視してアルベルトさんは咎めるような視線を向ける。

 

「今回のリィエルの一件……お前が付いていながらなんて様だ」

 

「うっ……もう知ってんのかよ」

 

「まあいい。ちょっと待ってろ」

 

 アルベルトさんがチャペルのステンドガラスの前にある講壇の裏側へ手を回すと……何故か手足を縛られてたリィエルがひきづり出された。

 

「「「「ええええぇぇぇぇぇぇっ!?」」」」

 

 いきなりのリィエルの登場の仕方に俺達は揃って驚きの声を上げた。

 

「どうせこうなるだろうと思ってたからな。一応の為に張っていたが、案の定だった」

 

「い、いつの間に……俺がこっちに来る前に既に?」

 

「相変わらずその用意周到過ぎる手腕は見事なんだが……もうちょっと方法があったんじゃね? ていうか、元司祭様がなんつう所に監禁してんだよ?」

 

「ふん……信仰など、とうの昔に捨てた」

 

 なんと、アルベルトさんは元司祭だったのか。妙に牧師姿も似合ってたが、元々そういう職の人だったのか。

 

 アルベルトさんが拘束を外すとリィエルは頰を膨らませて膝を抱えながら背を向けて座り込む。

 

「頭は冷えたか、リィエル?」

 

「むぅ〜……」

 

 リィエルは不満タラタラと言った風だが、アルベルトさんを前に逃げても無駄だと悟っているのだろうかもう逃走する事はなかった。

 

「さて、皆集まったところで話をしよう。無論、リィエルの今後についてだ」

 

 アルベルトさんが話題を上げて一同に一種の緊張が走った。

 

「なぁ、アルベルト……上層部に頼み込んでリィエルの落第退学処分を取り消せねえか? 何とか敵対派閥と交渉出来ないか? 元とはいえ、元王女の護衛なんだぞ?」

 

「無理だな。そもそも建前上、王女は既に王室籍を剥奪された『平民』だ。王女の護衛だという理由で通す訳にはいかない。そもそもリィエルを退学させたところで新しく護衛を入れればいいだけだ。来期から自分達の息のかかった人間を王女の護衛として編入させる心算だ。故に、連中が交渉で落第退学を取り消す事はないだろう」

 

「があぁ〜っ! 流石、政治家共だなっ! クソうざってぇ! そういうのは地獄でやってやがれ!」

 

 俺にも言ってたが、交渉でリィエルの処分の取り消しが無理だとわかってグレン先生は頭を掻きむしって苛立ちの声を上げる。

 

 俺としても、そんな下らない理由で入ってきた護衛を信じるなど到底出来ない。仕事にしてもプライベート的な意味でもリィエルにはいなくなって欲しくはない。

 

「となると、さっき言ってた短期留学しか無くなるって事ですか?」

 

「そうだ。奴らを黙らせるには正攻法で突っぱねるしかない。短期留学を成功さえさせれば学生としての成績にもプラスになるし、向こうも無闇に退学させる理由をでっち上げる事も出来なくなる」

 

「だそうだ。聞いたな? お前がここに居続けるにはちょっとの間我慢してもらうしかねえんだよ」

 

「……やっぱりいや……行きたくない」

 

 グレン先生に注意されてもリィエルはルミアとシスティの後ろに隠れながらイヤイヤと首を振る。その姿は正しく我儘を言ってる時の子供のようだ。

 

「あのなぁ……話聞いてたろ。このままじゃお前──」

 

「先生、ちょっと待ってくれます?」

 

「あん?」

 

 グレン先生はどうにかしてリィエルを短期留学させるように促そうとしているが、リィエルに対してはただ言い聞かせるだけじゃダメだろう。

 

「リィエル……ちょっといいかな?」

 

「……ん?」

 

「リィエルはさ……退学する……っていうか、俺達と別れるのは嫌だよな?」

 

「…………うん」

 

「じゃあ、短期留学するのも嫌?」

 

「…………うん」

 

「何で嫌なのか……教えてくれるかな? 俺達にもわかるように」

 

「……私、は……グレンや、ルミアや、システィーナや、リョウと……離れるのはいや…………一人になるのが、怖い……だ、だから……」

 

「っ!?」

 

「こういう事ですよ、先生。リィエルはただ我儘で短期留学を拒んでるわけじゃありません。何も知らない環境に一人にさせられるのがどうしようもなく怖いんです」

 

 俺もさっきまで忘れかけてたが、リィエルはそもそも子供だったんだ。

 

「そうだ。そもそも、リィエルが見た目以上に幼いのを忘れたわけではあるまい。リィエルの生まれ方は普通とは全く異なる」

 

 そう……。リィエルは遠征学修の先、白金魔導研究所で聞かされたとある遺伝子計画によって生み出された謂わば人造人間。聞いた話ではこの世に生まれてまだ五年も経ってないという。

 

「この世に生み出されて間もない上、その日々も常に戦いの中。精神・記憶の大元であるイルシアとて特殊な環境の下で生きてきた人間だ。肉体、知識、記憶も十四・五の少女相当かもしれんが、リィエルの精神的な部分はまだ幼子のレベルだ」

 

「そ、それは……」

 

「元々リィエルは亡き兄の影をお前に重ね、依存してきた。更に今は王女、フィーベル、アマチやクラスメートなど、それらが今のリィエルの心の拠り所……謂わば『依存』対象だ。一時的とはいえ、それらからリィエルを引き離すというのは、赤子から母親を奪うに等しい行為だ」

 

「リィエルは本来の年齢を考えれば五歳にも満たないんでしょう?なのに、そんな子を一人別の場所に放り出すような事は……例え大事なことだったとしても、ちょっと酷だと思うんです」

 

「……くそっ……お前にも解る事だっていうのに、俺って奴は……」

 

 グレン先生は自分のやろうとした事の重みを知って自責の念を顔に浮かべる。

 

「とはいえ、実際問題どうするんだよ? さっきの話を聞いたら無闇に行けとは言えなくなっちまうが、短期留学成功させなきゃ結局リィエルは退学処分を受けて俺達と別れる羽目になるぞ」

 

「あの、先生……」

 

 グレン先生がどうしたものかと頭を抱えたところに、ルミアがおずおずと右手を上げて声をかける。

 

「それなら……私達も一緒に短期留学するっていうのは、どうでしょうか?」

 

「あ、それいいんじゃないかしら! それならリィエルも安心出来るし!」

 

「リィエルは、私の護衛なんだし……だったら、私も一緒に行くべきじゃないかなって」

 

「いや、なんかそれ……すっげぇ間違ってる気がするが……」

 

「護衛されるべき人間が護衛する人間に着いていくって……立場逆ですよね?」

 

 まあ、リィエルに短期留学させるにはそれくらいしないと駄目だろうしな。

 

「まあ、言いてえ事はわかるが……そんな事出来るもんか?」

 

「可能だ」

 

 グレン先生の当然の疑問に答えたのはアルベルトさんだ。

 

「それが護衛効率上、最良の策だと軍の上層部も判断している。上層部にしても、元・王女の直近護衛という特権(カード)は自分の手元に置きたい所だ。《隠者》の翁も、既にその工作に動いている。程なくすれば、二人にも短期留学のオファーが来るだろう。今回、俺が来たのはその話をするためでもある」

 

「マジか!? いや、相変わらず仕事速えな! そんな事出来るなら最初から言えって!」

 

 さっきとは打って変わって上機嫌なグレン先生がアルベルトさんの背を叩いた。

 

「よかったな、リィエル! これならお前も安心して行けるだろ!」

 

「……グレンは?」

 

「…………は?」

 

 ようやく話が進めるかと思えばリィエルはグレン先生の服の裾を指で掴んで相変わらず寂しそうな表情を浮かべる。

 

「私……グレンも一緒じゃないと、いや……」

 

「え……いや、そう言われてもな……。流石にあそこは、俺は無理だろ……男子禁制のお嬢様聖域だし。男の俺じゃどう足掻いたってな……こればかりは裏工作でどうこう出来る話じゃねえし……」

 

「いや、今回の短期留学にはアルザーノ魔術学院から派遣された臨時教師としてお前も着いて行ってもらう」

 

「はぁっ!?」

 

 いくらなんでもと渋るグレン先生にアルベルトさんが予想外の言葉を掛ける。

 

「いや、待て待て! 無理だろっ! 俺、男っ! お前、俺に死にに行けと!?」

 

「案ずるな。既に協力者によって手は打ってある」

 

「協力者?」

 

 疑問符を浮かべると同時にチャペルの講壇の裏のステンドガラスがガシャーン! と、音を立てて砕け散り、そこから紅いドレスを纏った女性が飛び出した。

 

「呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーンッ!」

 

 いつの時代の登場シーンだとツッコミ所しかない且つ、罰当たりな事をしたのはタウムの天文神殿の一件以来養生していたアルフォネア教授だった。

 

「セリカッ!? お前、復帰早々何罰当たりな事してんだ! 今神様に喧嘩売るのが流行ってんのか!?」

 

「話は聞いてるぞ! まあ、私に任せな!」

 

 グレン先生のツッコミも無視して自信満々なアルフォネア教授から胸の谷間から小瓶を取り出して、中に入っていた液体を口に含んでグレン先生に近づくと……何の予告も躊躇もなく、いきなり口付けをした。

 

「「「ええええぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」」」

 

 突然の展開に俺、ルミア、システィは驚愕せずにはいられなかった。

 

 グレン先生を両腕で拘束しながら濃厚なキスを何秒か続けるとさっきの液体を押し込んだのか、ようやく二人の間に距離ができた。

 

「ゲホッ! ゲホッ! セリカ……テメェ、いきなり何しやがる!? 俺に何飲ませた!?」

 

「大丈夫大丈夫、痛くないから。えっと……『陰陽の理は我に在り・万物の創造主に弓引きて・其の躰を造り替えん』──ッ!」

 

 アルフォネア教授が珍しく詠唱を入れると同時に指を鳴らすと、グレン先生が突然胸を押さえて苦しみだす。

 

「ぐ……っ! か、身体が熱い……っ!? 何……なんだ、これは……っ!?」

 

「ちょ、先生っ!? 一体どうしたんですか!?」

 

「アルフォネア教授っ! 本当に何飲ませたんですか!?」

 

「まあまあ、落ち着け。ちょっと離れてろよ……すぐにわかる」

 

 俺の問い詰めも軽く流して飄々とした様子でアルフォネア教授はもがき苦しむグレン先生を眺めていた。

 

 時間が経つにつれ、グレン先生の身体から煙が立ち上り、メキメキと身体が軋むような音をたてていく。

 

「がああああぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

 煙の量が増え、グレン先生の姿が見えなくなると同時に絶叫がチャペル内に響き渡り、数秒もすると打って変わって静寂な空気が場を包んだ。

 

「げほっ、げほっ……一体、何なんだよ? セリカ、妙ないたずらは勘弁してくれ……」

 

 痛みが収まったのか、グレン先生がムクリと立ち上がる。だが、煙の中から僅かに見えるシルエットに違和感を抱いた。

 

 数秒もして煙が晴れると、下手すればさっきのアルフォネア教授のキスシーン以上の驚きの光景が目の前に広がった。

 

「ん? 何だ、お前ら……俺の顔に何か付いてるか? ……ん? ていうか、俺の声……妙に高くなってねえか? 風邪気味か……?」

 

 グレン先生が自分の声に異常を感じたのか、喉を撫でるがその途中で更なる変化に気づいた。

 

「ん? 何だこれ……髪? いつの間にこんな伸びてたっけか?」

 

「あ、あの……グレン先生、ですよね?」

 

 システィが戸惑いの声を上げるが、まあ無理もないだろう。今のグレン先生(?)の姿をみれば。

 

「はぁ? それ以外の何に見えるんだよ──って、ん? なんか胸が妙に重い……?」

 

 グレン先生(?)が更に自分の身体に異常を感じて視線を下に向ける。

 

「ん〜? これは……胸か? ふむふむ……俺の固有魔術[戦闘力測定眼(ゼロ・スカウター)]で見る所、87……だいたい、ルミアと同程度の戦闘力か。ふむ、悪くはな──って、ええええぇぇぇぇぇぇっ!? 何じゃこりゃああぁぁぁぁ!? オパーイッ!?」

 

 うん。この無駄な観察眼とリアクションは間違いなくグレン先生だな。……と、呑気に言ってる場合でもない。

 

 多分グレン先生なのはもう確定だろうが、なぜか目の前にいるのは中々のスタイルを誇り、艶のある整った髪の()()である。

 

「ちょ、先生っ! 何女性の胸を無遠慮に揉みしだいて──って、あれ!? 自分のだから、この場合はセーフ? え?」

 

 システィも注意を促すも、目の前の展開に着いて行けてないのか言いながら混乱している。グレン先生も自分の身体を隅々まで触ってほんの数分前とは全く異なる身体の変化に取り乱していた。

 

「おい、セリカッ! こりゃあ一体、どういう事だ!?」

 

 当然、こんな非現実的な事を引き起こした元凶たるアルフォネア教授にグレン先生が詰め寄る。

 

「白魔[セルフ・ポリモルフ]を応用してお前を女にした」

 

「ふっざけんなああああぁぁぁぁっ!」

 

 いい笑顔とサムズアップで何の悪びれもなく言い切るアルフォネア教授にグレン先生が憤慨の声を上げる。

 

「協力、感謝する。元・特務分室執行官ナンバー21 《世界》のアルフォネア」

 

「テメェの差し金かっ!?」

 

 アルベルトさんがアルフォネア教授に感謝の言葉を送ると、神速の勢いでグレン先生が胸倉を摑みかかる。

 

「吠えるな。元より作戦通りだ。お前は女となってこの学院からの派遣教師としてリィエル達と共に聖リリィ学院へ同行してもらう」

 

「ふっざけんなあああぁぁぁぁ! ナチュラルに俺を巻き込んでんじゃねえ!」

 

「落ち着いてください、グレン先生。リィエルの短期留学を成功させるためには仕方ない事でしょう」

 

 リィエルの退学を免れるためなら女になって教鞭を振るう程度で済むならそれでいいでしょうに。そんな他人事のように考えるとアルベルトさんが何を言ってるんだという風に俺を見る。

 

「言っておくが、アマチ……お前もグレンと同様、女になって聖リリィ学院へ同行してもらうんだぞ?」

 

「ちょっと待てや! 何故に俺もっ!?」

 

 敬語も忘れてアルベルトさんを問い詰める。グレン先生は保護者という意味でも必要だろうとわかるが、俺まで同行する意味が理解出来ん。

 

「お前にはリィエルの手綱を握ってもらわなければならん。この中でリィエルの心の機微を察せられるのがお前だ。それに、王女の護衛だってある。現状ではリィエルとグレンだけで全てをこなせる余裕などない。ならば、お前にも同行してもらった方がいいというのが軍の判断だ」

 

「いや、姿だけならともかく、俺右手ないですよっ!? そんな怪しさ満点の女なんていてたまりますか!?」

 

「申し訳程度だが、簡易的な義手を用意する。学生として短期間過ごすだけなら支障はないだろう。聖リリィ学院にいる間はそれを着けて通ってもらう」

 

「用意周到すぎるでしょ! いくらなんでも根回し良すぎるでしょうが! 一体誰がこんな横暴通しやがったんですか!?」

 

「特務分室の室長《魔術師》のイヴ・イグナイトだ」

 

「「あのアマかああああぁぁぁぁっ!」」

 

 グレン先生と共に怒りの咆哮を上げた。あの魔女……今度プレゼントと称して嫌がらせでもしてくれようか。

 

「ともかく、これでお前達も同行する算段は立てられる。それでいいか? リィエル」

 

「うん。二人も来てくれるなら、問題ない」

 

「問題大有りだろうがっ!」

 

「そうですよ! 先生が女性になったら、その……困りますっ! 早く戻してくださいっ! 大体、許せませんよっ! その……私より、胸が……っ! 大き──」

 

「えっと、システィ……落ち着いて」

 

 システィはシスティで突然のグレン先生の女体化と自分以上のスタイルを誇るグレン先生への敗北感で既に涙目になってるし。もうカオスだよ……。

 

「まったく……少しは落ち着いて考えられないのか。俺がただの嫌がらせで女に変身させる事を強要するとでも思ってるのか」

 

「そ、それは……」

 

「まあ、半分はただの嫌がらせだが」

 

「──って、おいっ! お前、だんだんイイ性格になって来やがったなぁっ!」

 

「その嫌がらせに俺を巻き込まないでくれませんかねっ!?」

 

 仕事熱心なアルベルトさんだからだと思ってたら予想外のカミングアウトに憤慨する。この人、こんなキャラだったっけか?

 

「それよりも、グレン……この一件、妙だとは思わないのか?」

 

 俺達の文句もスルーして、アルベルトさんが本題へと無理やり移った。

 

「妙って?」

 

「リィエルが落第退学処分……これ自体は、今の政府上層部の勢力争いの現状を鑑みるに、あり得ない話ではない。だが……落第退学処分が公開された所に狙いすましたかのように短期留学のオファーだ」

 

「偶然にしては余りに出来すぎてるってか?」

 

「リィエルは『Project : Revive Life 』……帝国魔術界の最暗部であり、天の知恵研究会も一枚絡んだ禁呪の成果だ。今回の一件、単なる上層部の勢力争いとは別の何かが動いている可能性がある」

 

 言われればそうだ。リィエルは謂わば複製人間(クローン)……厳密に言えば本人とは言い難いが、見る人が見れば死者が還って来たようなものだ。

 

 そのデータを欲しがって出てくる人間が居ないとも限らないだろう。

 

「うっ……この野郎……それ聞いたら行かないなんて言えるかよ……」

 

「頼む。今の俺達は天の知恵研究会の足跡を追うのに忙殺されてるのでな」

 

「あぁ……まぁ、社交舞踏会でも色々出たみたいだしな。ごくろーさん」

 

 その色々の中に、スペースビーストの事も混じってるから、前知識でもなければそりゃあ混乱するに決まってる。いや、俺もあれらが実在してる事にまだ若干戸惑ってるが。

 

「まあ、仕方ないか……誰一人欠けてるのも御免だし。リィエルの為にも一肌脱ぐ──いや、この場合……着込むって言うべきか」

 

「じゃあ、色々準備しなきゃだね」

 

「あぁ……まず、聖リリィ学院って所の事をもう少し調べて……」

 

「その前にだよ」

 

「ん?」

 

 今のうちから聖リリィ学院に行くための準備を考えてるとルミアがいい笑顔で俺の方に手を置いてもう片方の手で輪の外で待機していたアルフォネア教授を指す。

 

「まず、リョウ君も女の子になりきらなきゃいけないでしょ? 男の子は行けないから」

 

「…………」

 

 冷や汗が止まらなかった。そういえば、男子禁制だったんだ……。だから俺も女にならなきゃって言われてたわ。

 

 未だに躊躇してる俺を見かねてか、ルミアが背後に回ってガッシリとホールドしてきた。

 

「じゃあ、アルフォネア教授……お願いします♪」

 

「おう、任せな!」

 

 アルフォネア教授が胸の谷間からさっきと同じ液体の入った小瓶を取り出してツカツカ、と迫ってくる。

 

「え、いや……せめて、もう少し心の準備を……ちょ、ちょっと待ったあああぁぁぁぁぁっ!」

 

 結局、ルミアとアルフォネア教授によって無理やり液体を飲まされ、女にされる事になった。

 

 グレン先生と同じように全身が熱くなると同時に煙が視界を遮る直前、女になったグレン先生が同情の視線を向け、システィはどうしたものかと視線を右往左往させ、リィエルは何が起こってるのかすらまだイマイチわかってなく、アルベルトさんは傍観するだけ。

 

 あぁ、聖リリィ学院に行く前から異様なまでに疲れて来た……。

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