ロクでもない魔術に光あれ 作:やのくちひろし
フェジテを襲った前代未聞の事件……。かつてその機能の恐ろしさから廃止されたはずの危険な術式が街を覆ったのみならず、巨大な生物の襲来とそれらと闘う巨人の姿。
街では『炎の三日間』、もしくは『巨人の戦乱』と呼ばれるようになったこの事件から一週間が経とうと言う頃、アルザーノ魔術学院はいまだ復興作業に追われる毎日である。
学院の敷地内は教師や上級生ご自慢の魔術によってある程度の復興は進んでいるが、街中では一般人の目もある以上、一般人と同じやり方で復興を進めなければという決まりもあるため、思うように進まない。
それでもあと数日もすればこれまでと同じくらいの生活基準には戻せそうなので本当にもうしばらくの辛抱である。
しかし、かくいう俺は復興において何を担当しているかというと……。
「……いや、多すぎでしょコレ」
俺は目の前にある机に山積みになっている資料の数に辟易としていた。
俺がやっているのはいわば事後報告書である。今回の件には多くの怪獣、ウルトラマンが……更には俺自身もそういった要素に深く関わっているため、この学院内で一番その手の事情に詳しいだろう俺に資料作成という白羽の矢が立ったわけだ。
まあ、これに関しては仕方ないと了解したが、渡された日のほんの数時間でその判断を後悔する羽目になった。だって、まとめなきゃいけない項目が多すぎるから。
俺が関わり始めたきっかけだけでなく、別のところでも起こっただろうビーストの引き起こした事件も聴取したものだろう資料も閲覧して、時期をそれぞれ分けなきゃいけない上、ルミアの身上事情は学院内に知れ渡ったとはいえやはり極秘事項なため文章にも気を遣わなきゃいけないのでこれが本当に大変だ。
「まあまあ、リョウ君……こっちもぼちぼちキリが付きますんでこれを翻訳すれば終了ッスよ」
「はい……いや、本当ありがとうございます。これが俺一人だったら速攻で音を上げてましたよ」
「いやぁ、職業柄こう言うのは慣れてるッスから。まあ、それでも君が翻訳してくれなきゃ資料できないんすけど」
「まあ、別の星の言語ですし……そこはしょうがないですよ」
ちなみにこの資料作成は俺一人でやってるわけじゃない。俺以外に唯一この手の事情に詳しいだろう目の前にいる軍服っぽい装いの青年、ナツカワ・ハルキさんの手伝いもあるからここまで進められたのだ。
ハルキさんは今回の件で駆けつけてくれたウルトラマンの一人……ウルトラマンゼットと一体化して各宇宙の平和を守っているという人らしい。
今回の件と俺が死んでる間の夢の内容で妙な違和感を抱いたらしい一部のウルトラマンと一緒にしばらくこの星に留まり、様子を見るという形でこうして復興作業も手伝ってくれている。
ハルキさんのいた宇宙の地球でもウルトラマン関係なしに怪獣騒ぎは結構あったらしく、この手の資料作りも慣れているらしいので俺の手伝いという形で加わってくれていた。
「それにしても、リョウ君も色々大変だったんすね。ベリアルさんの因子が身体にあるわ、ティガ先輩の遺伝子情報を持ってるわ、実はとある人間の複製だとか……色んな要素がもう大渋滞っス! リッ君先輩もベリアルさんの遺伝子を基に造られたウルトラマンっていうのは聞いた事あるけど、君も負けてないッスよ!」
「ジード……リクさんと比べられてもなぁ。遺伝子情報として持ってるっていっても、俺はウルトラマンに変身できるわけじゃないので」
「ゼットさんからも聞いたんすけど、これだけ多くのウルトラマンの力を内包していたにも関わらず、なんで人間の姿のままでいられるのか謎みたいッスね。俺は自分の身体をゼットさんと共有してるから普段は星の内側では俺が活動してるけど、ウルトラマンが変身してるわけでもなければケンゴ君みたいにウルトラマンそのものってわけでもないのは今まで見たことないッス」
「まあ、確かに不思議ですけど──って、誰ですかケンゴって?」
「ああ、こっちとは別世界のウルトラマンッス! これ使ってトリガーって言うウルトラマンに変身するッス!」
そういってハルキさんが取り出したのは銃のような見た目のアイテムだった。
「へぇ……俺もウルトラマンはテレビのヒーローとして数多く知ってるつもりですけど、銃型の変身アイテムはあまり見ないですね。ていうか、別世界の変身アイテムを何で持ってるんですか?」
「ああ、以前はゼットさんの故郷の光の国で作られたゼットライザーってアイテムとこのウルトラメダルで変身してたんだけど、事情あってライザーが壊れて向こうで修理中なんス。あと、確かに今は銃なんだけど……この、キーをここに差し込んで、コレを開くと変身出来るんスよ。こう、チェストーッ!」
事情と説明を混じえながらUSBメモリのようなものと一緒に掲げるアイテムの形状が何かすごいデジャヴを感じた。そんな俺の様子を感心してると見てか、ハルキさんはなおも得意げに語る。
「あ、ちなみにこれはガッツスパークレンスって言って、向こうにある防衛部隊、『GUTS SELECT』のアキト君の開発したアイテムだって」
「なんかすごい聞き覚えのあるアイテム名とチーム名っ!?」
思いっきりあるものを連想させる要素の数々にもう驚きの連続だった。
ハルキさんと一緒にいるゼットの話も色々興味深いものは多かったが、こっちも全く負けてなかった。無理は承知だけど、なんとなくそのウルトラマンに会ってみたくなってしまう。
「そっちも色んな出会いがあったみたいですね。仕方ないかもですけど、こっちは一つの世界に留まらざるを得ないので他のウルトラマンに会える人がちょっと羨ましいです」
「いやいや、そっちも結構他のウルトラマンと会ってるじゃないッスか! オーブさんやコスモスさんとか……宇宙人とも結構!」
「どれも出会い方が良いとは言えませんけど……」
いずれも結構な事件の最中での出会いだったからなぁ。
「俺もロボット部隊、『ストレイジ』って所にいたんすけど、ヨーコ先輩やユカ先輩にバコさん、ヘビクラ隊長とセブンガーやウィンダムに乗って色んな怪獣や宇宙人とも闘ったなぁ。最後にはヘビクラ隊長が宇宙人だって知った時はもうなぁ……」
「ん? 隊長が宇宙人ですか?」
「オッス! なんか、すごい姿のトゲトゲ星人だったッス!」
「トゲトゲ……」
なんか、特徴が大雑把すぎるなぁ……。
「あのぉ……もう少し細かい所挙げられません? もしかしたら、俺の既知の宇宙人かもしれませんし」
「細かい……ん〜、確か刀も使っていたっスね」
刀かぁ……まだ候補はそれなりにいるんだけどなぁ。
「それに、気づいたら背後をとってゆらゆらした動作で話しかけてくるし」
「ゆらゆら……ん? 背後……ヘビクラ……蛇倉?」
そこまで聞いてなんとなく候補が絞れてきた気がするけど、それは俺の知ってるやつならまず防衛部隊にいるとは思えない者だった。
流石に違うかと思いながら差し入れにルミアが持ってきてくれた、もうすっかり冷めてしまったコーヒーを口に含みながら続きを待った。
「あっ! あと、胸に三日月のような傷があったッス!」
「ブーッ!?」
決定的な要素に思わず口に含んだコーヒーをスプラッシュしてしまった。
「あーっ! リョウ君、大丈夫っスか!?」
「ゲホッ、ゲホッ! ……何でそんな所にいるんだ、ジャグジャグ……」
「ジャグジャグ? ジャグジャグ星人って言うンスか!?」
なんか勝手に勘違いしてしまうハルキさんにすぐに訂正を入れなければと息を整えるのだった。いや、これガイさんが知ったらどんな反応するんだろ。
『いや、やっぱりいざという時のために光線技は必須だって!』
『だが、この星では魔術以外の異能はいまだに忌避されてると言う。やはり、頼るべきは己の筋肉だっ!』
『身体が頼りだって旦那の意見には賛成だけどよ……この年頃の奴にはやっぱり筋肉よりも身のこなしだろ!』
『いや、やっぱり光線だって!』
『駄目だ! やはり筋肉が発揮する純粋な力だ!』
『水を主に使ってるってんだから断然身のこなしだろ!』
「あのぉ……そろそろ修練入ってもらいたいんですけど」
俺は目の前で口論している三人に恐る恐る声をかける。
この三人──トライスクワッドのタイガ・タイタス・フーマはゼットと同じくこの星に留まって様子見しているメンバーだ。
ここのところは復興作業の合間を縫って三人がローテを組んで俺の修行に付き合ってくれている。
少し前まで一緒にいたハルキさんはもう既にこの星を出ていってる。
俺が一度死んでる間に夢に見た内容を──特に俺に話しかけてきた人物(?)の金色な特徴を教えるとハルキさん……と言うよりゼットが仰天してすぐに光の国に報告せねばと宇宙へ飛びだった。
そのためにゼットと一緒に残ってたトライスクワッドが俺に修行をつけてくれるようになった。
修行といってもそんなに大した内容ではなく、俺の能力のオンオフの切り替えをスムーズにすること、ウルトラマンの能力に頼らない戦い方、基礎的な体力づくりなどこれまでとは劇的に変化を遂げた俺が力に振り回されないためのメニューだった。
それもだいぶこなせるようになったということで、そろそろ専門的な訓練も入れようとしたところ……この三人が各々の主張をぶつけ合うようになった。
タイガはウルトラマンらしく光線を、タイタスは筋力を、フーマは身のこなしをと自分の得意分野を教えようと揉めている。
第三者が聞けばどうせなら全部やればという意見も出るかもしれないが、いくらウルトラマンばりの能力を得たといっても俺個人で習得できる範囲にも限りはある。だから数を絞ってどれかを重点的に向上させようと言うのがタイタスの意見だった。
その話を聞いてどれを伸ばすかと話し合いになったところで今の状況が出来上がったわけだ。
『確かに身体を鍛えるのも大事だけど、最後に物を言うのは光線技だろ!もし以前みたいに怪獣が出ようものなら光線技の習得は最優先だ!』
『それもそうだが、さっきも言ったようにこの国の歴史をざっくりと齧ったところ現女王陛下の努力もあって緩和されてるものの、異能者──私達から見れば超能力者と言える者達への偏見がなくなってるわけではない。怪獣達から救ったとしても奇異の眼を向けられないとも限らない。ならば一般市民をひとまず遠ざけるためという意味でも肉体の強化は必須だろう』
『だったら尚更スピード……身のこなしが一番大事だろ! リョウの得意魔術は水とか電気系だって言うし、水に関しては色々応用も効きやすい。俊敏さと術の多彩さの豊富な俺の方が教えやすいってもんだ!』
こんな風に俺のスタイルがどれに合ってるのか……と言うよりは、自分のスタイルが優秀だみたいな口論になってるわけだが。
ゼットから聞いた話だとこの三人は以前一人の地球人の中に共有して一体化した経験があるという今までにないスタイルで、その当時は場合に応じて三人が交代しながら闘ってたらしい。
細かいところは当事者に聞かなきゃわかんないけど、身体を貸してたって言う人は日常でこんな場面を何度も見てたのだろうか。なんとなく気苦労が伺える。
『やっぱスピードと器用さだって! 超能力だろうが魔術だろうが、冷静な心で素早く丁寧には俺のスタイルに通じるだろうが!』
『お前のどこが冷静だよ! 数をこなすよりやっぱ自分だけの光線を作るところからやんねえと!』
『ゼロから何かを作ると言うのだって容易ではあるまい。やはり元から持ってるものをいかに伸ばすかが重要だ。ともすれば、更に高まったという身体能力……すなわち筋肉を伸ばすのが一番手っ取り早い』
『そりゃ旦那の趣味を押し付けてるだけだろ!』
『ああもう! 俺達だって念のためにいるとはいえ、いつまでもってわけにはいかないからどうにか短期間で教えたいのにコレじゃあキリがないぜ! かといってリョウはゼロやゼットみたいにスタイル変えられるってわけじゃないんだから!』
「……ん?」
『『『……ん?』』』
タイガの言葉にちょっと引っかかりを覚えて声を漏らしてしまった。
そういえば、あの事件の少し前まで試行錯誤していたアレ、まだ他の奴に教えたことなかったんだっけ。
ティガやゼロ、ゼットがやったみたいなタイプチェンジじゃないけど、それに近しい……水系統の魔術を得意にしてるからこそ思いついたやり方があった。
それを一部抜粋してタイガ達に教えるとタイガ達は互いを見合ってうむ、と頷き合った。
『それだったらさ……イケるんじゃね?』
『そうだな……。多少効率は落ちてしまうかもしれないが、元より短期間では一つに絞ったところで極め切れるとも限らない。だったらいっそ、手札を多く持つやり方を選んだ方が彼のためになるかもしれんな』
『あとはそれぞれに合った闘い方と切り替えの速さを徹底的に鍛えれば良いしな。よっし! そうとなればリョウ! 早速ソレ見せてみろよ! 一通り見たら俺達でそれぞれに合った鍛え方を検討すっからよ!』
「え……」
トライスクワッドのみんなの言葉に顔が引き攣るのを感じた。もしかしたら俺は藪を突いて蛇を誘い出したのかもしれない。
それからは俺じゃなかったらまずひとたまりもないだろう地獄の特訓が始まりを告げるのだった。
「──それで、今は全身筋肉痛で復興作業に参加することも出来ないと?」
「うん……いや、いくら今の俺がウルトラマン級の身体能力持ってるからって、明らかにやりすぎでしょ」
トライスクワッドの地獄の修行が始まって数日……俺は見事に全身筋肉痛で復興作業どころか普段の日常生活すら困難になる始末だった。
「いや、本当ごめん。こんな面倒ごとに付き合わせて……最初はグレン先生にでも頼もうと思ったけど、なんか急遽用事が立て込んだとかで」
「うん、大丈夫だよ。それに、こっちもシスティが急遽開かれる学会に参加することになったし、リィエルも軍務が入っちゃったしね」
「いや、今回に限ってなんでこう立て続けに……」
流石に女子に同伴させるわけにはいかないとグレン先生を頼ろうにもなぜか用事が入ったとかでそれが叶わなかった。
その上システィやリィエルも用事が入ったしフィーベル家は親の都合もあって必然しばらくはルミアだけということなので暇になるからと気を遣ってこうして送り届けてくれたわけだが。
「それにしても……そんな状態で大丈夫なの? お家の事とか、いつも一緒にいる子達とか……」
「まあ、こんな様だしね……。ご近所付き合いはしばらく停止しちゃうのは仕方ないにしても、家事が滞るのは流石に死活問題だな……」
ウルトラマン式特訓の所為で回復するのにちょっと時間がかかりそうだし、適当な店で買い溜めして凌ぐしかないだろうな。
「あ、だったら……その……」
ルミアが何かを提案しようとしてるのか、口にしかけるも途中からモゴモゴと言い淀んだり目線を右往左往させてなかなか話出せずにいた。
まあ、ルミアのことだから今の俺を気遣って家事をしようとか提案しようとするんだろうが、流石に同じ屋根の下で男女がという問題があるから踏み出せないだろうと言うのは流石にわかる。
とはいえ、そこまでしてもらうのもなとやんわり断ろうと思った時だった。
「ふふっ! 貴女がそうやって一歩を踏み出せずに止まることは予想済みでしたよ、エルミアナ?」
突如入ってきた第三者の声にハッとして振り返るといつの間に入ってきたのか、玄関付近で信じられない人が佇んでいた。
「お、お母さんっ!?」
そう、ルミアのお母さん。ただし、居候してるフィーベル家のではなく、正真正銘ルミアの母親……この国の女王陛下、アリシア七世だった。
「な、なんで女王陛下がここに来て──じゃなくて、おられて……っ!?」
「ふふ……そんなに堅くならなくても結構ですよ。それに、今の私は帝国の一市民であるアリシアですから」
「はい。本日、陛下はお忍びでこちらに訪れたので」
「クリストフさんまで!? どうしてこっちに!? 事後処理とか諸々は!?」
確か今回フェジテを襲った件の事後処理とかで宮廷魔導士団も大忙しだったはずだ。
「それは、女王陛下からの御下命で僕がお連れしたんですよ」
「えぇ!? いや、でも……側近の人達とか文句言いませんでしたか!?」
「まあ、実際口にすれば反論されたでしょうし、そうでなくとも厳重な警備は敷かれていますが、僕にかかればあんな程度の監視網などないも同然ですから。今頃エドワルド卿辺りが半狂乱の大騒ぎでしょうけど」
「いや、涼しい顔して何やってんですか、あなた!? 普通止めるべき立場でしょう!」
「いやですね、リョウ君。陛下の頼みを断るなど……陛下のご意思に反するくらいなら腹を切って死にますよ」
「いつの時代の武士の習慣!? ていうか、あなたってそういうキャラでした!?」
なんか、いつも爽やかな笑顔の似合う常識人だと思ってたクリストフさんのとんでもない一面を見てしまった気がする。
「まあ、そちらはさておきエルミアナ。まったく……貴女は一体何をしてるのですか?」
「へ?」
急に女王陛下がルミアに向き直ったと思ったら何故かお説教するような雰囲気を醸し出した。
「こんな絶好の機会を前に──ではなく、一人暮らしでしかも先の戦いで今は不自由の身である彼の前で何手をこまねいているのですか?」
いや、これ戦いの負傷とかではなく特訓の所為で筋肉痛なだけですけど……。
「それに、グレンやシスティーナ、リィエルなど親しい者達がいない今……彼を支えられるのは貴女だけなんですよ?」
「それは……あれ? なんでお母さんが今みんながいないことを知ってるんですか?」
そういえば、近辺にいたならともかく……フェジテと帝都はかなり距離があるから情報の伝達はかなり時間差が開く筈だ。しかも、みんなの用事が決まったのは今日聞いたばかりだ。
「それは、そうなるよう裏で手を回したのは私──コホンッ!」
「ちょっと待ってください、女王陛下。今すごい聞き捨てならない言葉が……」
なんか王族らしからぬ発言が飛び出たような……。
「それより、エルミアナ……今や彼もこの街──いえ、この国の危機を救ってくれた英雄の一人なのです。そんな方に不自由を強いるなど帝国王家の恥です。なので暫しの間……貴女はリョウ=アマチの宅に住み込みで身の回りの世話をするのです!」
「え?……ええええぇぇぇぇ!?」
女王陛下の突然の提案にルミアが大声を上げて喫驚する。
「いいですか!? 住み込みですよ、住み込みっ! これは、アルザーノ帝国女王としての勅命です!」
「ちょ、ちょっとお母さん!?」
すごい勢いでズイズイと迫る女王陛下にルミアは顔を赤くして驚くしかない。うん、そりゃあそうなるわ。俺だって突然そんなことを提案されればそうなる。
「それに、これはチャンスですよ」
「え?」
これまた突然ルミアの耳元で囁きだすが、生憎距離が近いため前よりも更に鋭敏になった聴覚で声が拾えてしまう。
「手紙で読んでますが、貴女ったらちっとも彼との関係が進展しないんですもの」
「ちょ、お母さん!? こんなところで!」
「ですからこの機会に貴女も踏み出すのです! いつの時代でも、どの世界だろうと……殿方は既成事実には弱いのですから……頑張るんですよ」
「何を!? と、というかやめて! こんなところでそういうことを言うのは! こんな近くじゃ聞こえちゃうから!」
すみません、ルミアさん。もうバッチリ聞こえちゃってます。というか女王陛下は年頃の娘に何を提案してるんだ。
いや、お互い何も言ってないけどもし……みたいなことは考えてたと思うけど、貴女にそれを口にされると何というか……色々気まずくなる。
助けてという意味を込めて側に控えてるクリストフさんに目線を送るが、向こうは『女王陛下のお言葉に反するなんてしませんよね?』的な笑顔なのにすごい圧の籠った目を向けられた。うん、誰も味方なんていなかった。
「では、良き時間を。二人共」
先程までの女子会みたいな雰囲気は何処へやら、優雅に一礼してクリストフさんと共に家を出て行った。
そして、家には俺とルミアだけが気まずい雰囲気の中取り残されてしまった。
「え、えっと……そういうことだから、しばらくの間……身の回りのお世話をするね?」
「あ、うん……そうだねえ。勅命だって言ってたし……」
お互い何ともいえない雰囲気のまましばらくの同居生活が始まるのだった。
ちなみに関係の進展? あんな事を聞いた後でどうこうできる訳がなかった。
ちなみに裏で手を回してたのはアルフォネア教授もだったらしく、女王陛下から頼まれて俺達に進展云々を聞いてきたが、何もないと答えると舌打ちしながらヘタレがと毒づいた。
ヘタレで悪かったですね……っ!
「なあ、ぶっちゃけお前の持ってた道具ってどっから来たんだ?」
「……ん?」
フェジテの復興作業もだいぶ進んだある日のこと……。気晴らしに音楽を聴いてる時にグレン先生が突然質問を投げかけてきた。
「道具って……これの事とかですか?」
俺は流れてる曲を一旦切って手に持ってたiPadを見せながら聞いた。
「いや、お前ってその……どこの誰ともわからねえ奴に作られてこの世界に放り投げられたってんじゃん? 記憶もそいつに植え付けられたのもゼロってウルトラマンに聞いたが……そうなるとお前の持ってた荷物もそいつが敢えて持たせたってことになるだろう? まあ、お前の記憶に疑問持たせないためって理由で納得できるけど、誰が用意してそんなことしたんだろうなって」
「あぁ……」
グレン先生の言葉に俺も納得した。今まで忙しかったからそっちに意識を向けてなかったが、俺が別世界にいた天地亮という人間のコピーでどっかの宇宙人に作られた存在なんだから俺の持ってる道具だってそいつが用意したということになる。
「まあ、確かに疑問はあるでしょうけど……あって困ることもないし、限定的ですけど使えるならそれなりに使って暮らせばいいやって」
「呑気だな……誰が用意したかもわかんねえ道具だろ。罠が仕掛けられてるとか思ったりしねえか? 俺は宇宙人の事とかよく知らねえが、魔術とは違う未知の技術が使われてるってんならそういうの警戒するとかねえのか?」
「まあ、あってもおかしくはないとは思うけど……そんなのがあるならとっくに起動してると思いますし、どんな宇宙人にせよ俺かこの世界の人間に向けた罠ならもっとこの世界の文明に紛れやすいものを用意しそうなもんなんですけどね……」
こっちはこっちで便利な文明機器っぽいものは存在してるが、地球科学の道具はこっちの世界観からすればどう見ても異質に映るだろう。容易にクローンを作れるほどの技術を誇る宇宙人がやったにしてはちょっと方法がアバウトっていうか……。
「確かに俺の出生も含めて薄気味悪い話ではありますけど、相手の顔も見えない今の状態であまり深く考えても仕方ありませんし……ウルトラマン達もこの星を一時的とはいえ監視してくれますし、ハルキさん……ゼットさんが光の国に戻って情報交換しながらこっちの今後を検討してくれるって言いますし、今はこっちでできることをするってことで」
「まあ、正直お空の上のことなんざ専門外もいいとこだしな。で、こっちに三人が残って一人がその光の国ってとこに行ってるんだったっけか?」
「はい。なんか、俺の見た夢の話をしたら引っかかるものがあったらしくて」
「おい……その時点でまた厄介ごとが起こるって言ってるようなもんじゃねえか?」
「かもしれませんけど……俺達だけじゃ把握できない問題のようなので今は大人しく待つしかないでしょう」
それにしても俺の夢の話をした時はゼットさんがかなり慌てふためいていた感じだったな。
ハルキさんはポカンとしてたから多分一体化する前の時期に何かがあったのかもしれないが……それにしても俺が見た夢に出た、金色の生命体に何か心当たりがあったのだろうか。
まあ、宇宙警備隊なんだからあちこち飛び回ってそれらしい候補がいたってことだろうが。
「しっかしこの街──つか、この国も本格的に魔境っぽくなってきたよな。外道魔術師のみならず、怪獣やら宇宙人やら……もう腹いっぱいだわ」
「まあ、スペースビーストの出現の所為でこの星に隠居してた宇宙人も慌ただしくなって裏の世界の住人っぽい奴らも活動が目立ってきたって聞きますしね」
「……ちょっと待って、俺それ初耳なんですが」
「あぁ……なあ、活動してるのがシェルター……この星の人間じゃ知覚するのが不可能な施設の内部なので少し前まで俺やハルキさんがそれらしい宇宙人見つけては成敗してたんですよね」
「お前……本当、だんだんとその手の主人公っぽい道歩み始めてね?そのうちマジでウルトラマンになったりしてな」
「ハハハ……それは流石に、ない……か?」
いやでも……これだけウルトラマンに縁がある日々を考えると笑えないかも。
この予感が、近い将来に分岐点という形で眼前に出ようとはこの時点では微塵も思ってなかった。