ロクでもない魔術に光あれ 作:やのくちひろし
『へぇ〜……で、早速久しぶりの魔術的な早朝特訓の再開ってわけか』
「そういう事だな……まあ、これまではほとんどが身体を動かす事に重点置きまくってたからいい加減、魔術師としての闘い方も本格的に教えてやるって」
『まぁ、俺達じゃその辺さっぱりだからその手の問題は専門家に任せるのが一番だわな。んで、強くなったらそのタキシムだっけか? あの脳天腐ったオッサンなんかぶちのめしてやれって!』
「マキシムな……。それと、そのオッサンと直接闘うわけじゃないから」
強化合宿が本格的に始まろうという日の早朝……。俺はここのところご無沙汰だったグレン先生との早朝訓練を久しぶりにやることになった。
一応肩に腕組みしながら座り込んでるフーマもアドバイザーとして同席してくれるとのことだ。あと、彼以外の二人は大気圏からこの街周辺を監視して残った一人が俺や周辺の監視兼護衛をローテで担うことにしてるようだ。
で、早朝みんなに気づかれないようこっそり抜け出して指定された魔術競技場へと足を運べばそこには呼び出した張本人のグレン先生に同じく早朝訓練に来ただろうシスティと、更にイヴ先生が集まっていた。
一人新顔が増えたことに一瞬驚いたが、新メニューでも加えるのかと予想しながら近づいていくと三人の会話が耳に入ってくる。
「もう、俺はお役御免だ、白猫」
「……へ?」
グレン先生の口から飛び出た言葉にシスティは呆然とし、俺も思わず時間停止してしまったように動けなくなった。
「ええええぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」
だが、システィの叫び声ですぐに硬直は解けて、何故こんなことになってるんだと頭を働かせる。
あまりにも急な話だが、イヴ先生が加わってる事を考えるともしかしたらと思ったが、そんなことを考えてる間にシスティがグレン先生に詰め寄って指南を続けることを懇願しているが、絶対に何も分かってないだろうあのKY教師は冷たいと取られるような発言をぶちかますし。
終いにはシスティの目に涙が浮かんだところで俺はすぐさま走り出した。
「こんのバカたれがああああぁぁぁぁっ!」
「グボォッ!?」
たっぷり助走をつけて威力を上げた俺の飛び蹴りでグレン先生が少し離れた競技場の壁に激突した。
「あら、リョウ……おはよう。……私が手を下すまでもなかったわね」
イヴ先生が俺に気づいて挨拶し、最後にボソリと呟いたがそっちは放置してすぐさまグレン先生に詰め寄った。
「テメェ、いきなり何しやがる!? 咄嗟に身体ズラさなきゃ首の骨折れるとこだったわ!」
「じゃかぁしい! 少し前から聞いたけど、あんたあれじゃあ自分慕った女ポイ捨てする悪漢のそれにしか見えなかったわ!」
『にいちゃん……何を考えてああ言ったのかわかんねえが、いくらなんでもあれはないわぁ』
フーマも宙に浮かんだまま腕を組みながら呆れていた。
「全く……本当にデリカシーのない男ね。あんなんじゃ完全に誤解されるわよ。なんであんたはこう、乙女心ってのをわからないのかしら?」
「え、誤解……?」
イヴ先生の言葉で少しは落ち着いたのか、システィが涙を拭いながら問いかける。
「はぁ……このバカに任せたらまた誤解しか生まないだろうから私から説明するけど。貴女は別に見捨てられたわけじゃないわ。ここからは私が貴女に色々仕込んであげるのよ。次のステージに進めるために」
「イヴ先生が……けど、何で?」
「ざっくりいうと、もう今の貴女にグレンから教えられることがなくなっちゃったの」
「え……?」
イヴ先生の言葉にシスティがショックを受けた。
「これはグレン個人の問題というか、貴女達のスタイルの違いが遂に表面化したのよ。元々貴女は恵まれた魔力要領を駆使して正面から堂々と魔術を使用する生来のスタイルだけど、グレンは少ない手札と魔力容量をやりくりして相手の隙をつくスタイル……もうまるっきり正反対の存在なのよ、貴女達は」
「で、でも……それでも先生は今まで私に上手く教えてくれました!」
「まあ、それは認めるわ。貴女だけ他のクラスメートよりも頭一つ抜きん出てるし。だけどさっき言った通り、もう限界なの。そもそも今までだって相当無理をして鍛えてた筈よ」
まあ、俺の覚えてるだけでも最後らへんからシスティに教えるパターンがだんだん狭くなってきた気がしたしな。それでもシスティにぴったりな魔術を今まで教えられたんだから相当なものだと思う。
けど、元々グレン先生も自分が使うわけじゃないにも関わらず、システィに合わせて調整した術式を教え、自分のものにさせる。
今まではグレン先生の指導力が優れたから伸びを実感できたかもしれないが、スタイルが違う以上これからは別の指導者が必要になる。だからイヴ先生が代わると、そう告げられた。
システィも話は理解してるだろうが、やはり割り切れないと言った表情だった。
「ま、貴女がグレンを卒業するのはまだ先なんだけど」
「……え?」
突然手のひらを返すようなイヴ先生の言葉にまたシスティは呆然とする。
「だから、今の貴女にこれ以上教えることができないって言ったでしょ? 私がやるのはあくまで貴女の手札の補強……スタイルに共通する部分があるとはいえ、私のそれ全てを貴女に流用できるわけじゃないし、魔術師が自分の手札曝け出すような馬鹿はしないわよ。貴女の手札を増やしたらまたグレンの下へ戻って、そうすれば彼がまた貴女に合った手札の切り方と術式の調整をしてくれるわ。貴女だけの戦闘スタイルを考えてね」
「イ、イヴさん……」
「まったく、本当世話のかかる子達ね……」
こめかみを抑えながらため息まじりに呟く。
「イヴさんって……本当にすごい人ですね」
「は?」
「私なんて、目先のことしか考えられなかったのに……イヴさんはもっと先の先まで考えて……」
「知らないわよ……ただ、グレンがどうしてもって頼んできたから仕方なくよ、し・か・た・な・く!」
『おぉ〜……これが地球で聞いたツンデレってやつか。顔真っ赤だぜ〜、姉ちゃん?』
「うっさいわよ! ていうか、さっきから浮かんでるその青いの何なの!?」
ああ、そういえばイヴ先生にウルトラマンと会わせるのは初めてだったな。
「ああ、ウルトラマンフーマ。ほら、以前戦ってた巨人の一人ですよ」
「そういえば、そんなのもいたわね。大きさ全然違うけど……」
『まあ、四六時中あの姿でいるわけにはいかねえし、エネルギーの消耗も半端ねえからな』
軽く挨拶も交わしたところで、今度は俺のこれからの訓練メニューの話に入った……のだが。
「えっと……最初にイヴ先生と純粋な魔術による模擬戦、休憩がてらグレン先生から魔術罠の知識を教わり、その後に実践形式で魔術罠込みでイヴ先生とグレン先生のタッグでの模擬戦……いや、何ですかこの地獄の訓練!?」
「まあ、学生にやるメニューじゃねえとは思うが、ほら……体力だけならお前もうバケモン級だし、お前は元々魔術の知識量自体も乏しいからこの短期間のうちにちとスパルタでやった方がいいんだわ。今はちょうどコイツもいるから魔術中心の戦法も教えられるし」
「あなた、今まではグレン達がいたから肉弾戦をメインに戦えて魔術特有の戦法には特に力入れてこなかったみたいだけど、それだけじゃ魔術師を相手に単騎で勝てるようにはなれないわよ」
「……リィエルは?」
「……あれは、例外中の例外だから引き合いに出さないで」
「それに、お前……これまでは敵相手に本気で闘うか、学院じゃ超手加減して動くかの二択だけだったろ?」
まあ、敵ならともかく学院でウルトラマンの力発揮するわけにはいかなかったからな。
「その二つしかやってこなかったから、極端な話……力の加減が下手くそなんだよお前。自分の手札を曝け出すかひた隠しにするかしかやってこなかったせいで魔術戦における手札の切り方とか組み合わせによる工夫とか戦術駆け引きが単調すぎて、模範生達のレベルに合わせることができないせいで呆気なくやられたってわけだ。いくらとんでもねえ力を持ってるつっても、完全に宝の持ち腐れだな」
う……確かに、タイガ達に修行見てもらってるって言っても魔術師特有の戦い方じゃないからそっち方面の力は伸ばせないし、ウルトラマンの力だってオンオフの切り替えの仕方しか知らないから加減なんてできるほど器用になれてない。
それじゃあ魔術師としての戦闘技術を伸ばしてる奴らの土台では勝てないわな。
「だから私達で魔術師としての戦い方をたっぷり教えてあげるわ。あ、もちろん貴方のそのウルトラマンとやらの力は無しでね」
『まあ、流石に魔術師の戦いはわかんねえから応援するしかできねえな今回は。ま、頑張れよ〜♪』
フーマは呑気にサムズアップしてシスティの訓練の観察に入ることになった。
幸運というべきか、システィとフーマの戦法は似通ってる部分があるので素早い動きと正確な判断と攻撃の基礎を教えていた。フーマって、粗野な性格だけど教えるのはグレン先生並みに上手いんだよな。
そして、その反対側では俺はイヴ先生に魔術でめった打ちにされ、その後で指南役交代してグレン先生に魔術罠の事を教わり、イヴ先生の相手でシスティがへばったところに両人からの地獄のニ対一の模擬戦。
いくら体力がウルトラマン級だからって、この二人を相手にこのメニューは軽く死ねる。
「「いや、できるだろ(でしょ)、お前(貴方)なら」」
「何でこういう時だけ息ぴったりなんだよあんたら……」
「ま、イヴ相手にしてまだ話せる余裕があるだけいい線いってるぜ、お前。相手は『
「それでも、ただの一発も入りませんでしたけどね……」
「そりゃあ素人とプロだからな。今のお前に足りないのは能力よりもまず魔術師としての知識と意識への理解だ。それを埋められりゃあまた違ってくる。……つっても知識を持ってるだけでも変わらねえからこうして実践形式で教えてんだが」
「本当に地獄だ……朝だけでもこれなんだから。これを一日中やるんだから……」
「あぁ〜、それなんだが……お前は他の奴らとは別メニューだ」
「……え?」
「で、俺だけ──じゃ、ないけど……何でみんなとは別になって勉強に?」
「うぅ〜……みんなと訓練したかった……」
「ほら二人共……集中してくださいね?」
俺と、隣にいるリィエルは正面に立っているリゼ先輩の教鞭のもと、絶賛勉強中だった。
「えっと、何でこうなったんでしたっけ?」
「もう、貴方は他のみんなとはスタイルも何もかもが違いすぎるからみんなとの合同練習は却って貴方の成長の妨げになりかねないから昼間のみんなの合同練習とは別に、基礎的な魔術の知識を詰め込むようにと言われてたでしょ?」
「いや、そうでしょうけども……」
確かに俺がみんなの魔術戦を見たところでスタイル違う上に使える魔術が限定的すぎるから参考になり得ないだろうけど、何が悲しくて机に向かってうんうん唸りながら勉強する羽目に……。
「うぅ〜……グレン、助けて。私もそっち行きたい」
「お前に実践系の訓練なんか今更意味ねえだろ。それよりもお前が目元どうにかすべきは頭だ、頭。たく……短期留学でエルザから教わったことすっかり吹っ飛ばしやがって……せめて[ショック・ボルト]くらいまともに使えるようになれよ」
リィエルはみんなの訓練の反省点の洗い出しをしていたグレン先生に助けを求めるも、呆れた顔で切り捨てられた。
うん、今回は俺もリィエルに同感だった。
「あ、リョウ……それ終わったらまた俺とイヴの二人で夜のメニューだからな」
「……これを約二週間も続けるのかよ」
「まあ、キツイだろうが……あのハゲ野郎追い出すまでの我慢だ。それに、これから魔術を学ぶ上でどっちにしろ個人的な補習はやるつもりだったから、その前倒しと思っとけ」
「マジかよ……」
後々そんなものが控えてた身だと知って俺は机に顔を突っ伏した。
「しっかし、悪りぃな狐。俺はこっちで手一杯だからこいつらを頼んじまって」
「いえ、先生にはお世話になってますし。それに、今や学院は先生の味方なんですよ」
「え? それってどういう──」
「グレン先生っ!」
グレン先生の台詞を遮って扉がバン、と開くと肩で息をしていたセシリア先生が何かを抱えて入ってくる。
「これ、よかったら使ってください。魔力と疲労が一気に回復する魔術薬です。訓練で疲れた生徒達に是非」
「いや、これって『復活薬』じゃないですか!? んな高価な薬……ていうかこれ、セシリア先生の自作!?」
「はい。それと、生徒達が怪我をした時は私を頼ってくださいね?」
「いや、その……マジでありがとうございます」
「グレン君!」
セシリア先生の背後からシルクハットとマントが目立つ初老の男性……ツェスト男爵が躍り出た。
「生徒諸君の中には攻性呪文が苦手という者もいよう! そんな子にはむしろ精神支配術の使用をお勧めする!」
「ああ、いや……それもありかとは思ってやしたけど」
ツェスト男爵は精神系の白魔術を得意として
「君が都合をつけづらいなら私自らが攻性呪文の苦手な生徒……特に可愛い女子に私が直々に実践形式で稽古を──ブゴォ!?」
「勉強の邪魔なんでどっか行ってろド変態……!」
この男爵……筋金入りの変態である。俺はウルトラマンの力全開でツェスト男爵を退室させて再び勉強に戻る。
「ハーッハッハッハ! 我が心友にして永遠の好敵手グレン=レーダス! 話は聞いてるぞ! 生徒達の訓練の際は是非これを使うといい!」
今度はシューザー教授がババン、と変なデザインのタイツを取り出してグレン先生に突きつける。
「正規の大天才たる私が製作した、『ハイパーグレートウルトラデラックスエクササイズマッスルスーツ』だっ!」
「いや、なんだそのクソダセェネーミングと恥ずかしいタイツ……」
「これをつければ、内部に仕込んだ魔術式が自動で発動。全身の筋肉の改造を始め、一晩で筋肉モリモリのマッチョマンに大変身! つまり、着用してるだけで極限まで肉体を強くできるのだ──っ!」
「何がどうしてそんなもんが出てくんだよ!?」
「後、ついでと言ってはなんだが……生徒達の教鞭に役立てられるかわからんが、スーツを作る合間で作った、遠隔操作できる水晶型使い魔を四十飛ばして、同じ数の視点から同時中継して動画映像を多角的に記録するためのもので……さっきのスーツと比べたらゴミ程度のお粗末な道具だが」
「どう考えても後者の方が圧倒的に有用だろうが!?」
『ふむ……あまり急激な肉体改造はお勧めしたくないが、興味深いスーツだ。リョウ……これを着て君も究極のウルトラマッスルを目指して見ないか?』
「言うと思ったけど、遠慮します……」
フーマと交代したタイタスが興味深そうにシューザー教授の力作を推してきた。この人、知識豊富で理知的な人なんだが、筋肉が絡むと変なテンションになるんだよな。
今も俺の頭の上で逆立ち腕立て伏せしてるし。しかも筋トレそれぞれの回数が軽く万単位はいってるし……。あと、頭が地味に重い。
「ほら、みんな先生の力になりたいんですよ?」
「いや、協力的なのはありがてえんだが……セシリア先生以外は何処となく不安要素が強いのがな……」
まあ、片や変質者で片や変態魔道具士だしな……。それでも共通の敵を打倒するために協力するというこの展開もその手の特撮やアニメを見てた身としては燃えるなと思ってしまうが。
そしてそんなメニューをこなしながら数日もこなすと俺やみんなも初日に比べて格段に変わってきていた。
朝のあの地獄のメニューでも初日に比べれば呆気なく不恰好な被弾もかなり少なくなってきたし、イヴ先生にも攻撃の手が届きつつあった。
昼間の勉強もリゼ会長が見てくれたおかげでまだ基礎範囲だが、理解も出来てきたし。
他のみんなも最初は全員がかりだったのが徐々に人数を減らされてもすぐに撃墜しなくなたみたいだし、特訓以外の時間でもだいぶ表情に余裕が持ててきた。
そして今日の夜の部でイヴ先生からみんなの前で模擬戦すると言われた。
何故今日になってみんなの前でと疑問を投げかけると、そろそろいちいち別の場所でやるのが面倒なのと俺自身が魔術師の闘いができるのかを自他共に見れるようにするとのこと。
これでまともな魔術師の闘いを見せられればみんなの訓練に混ざっても俺の成長を阻害することもなくなると言うことらしい。
うん、それを聞いたらやる気出てきた。必要なこととはいえ、流石に昼間がずっと机の前なんていうのは勘弁願いたかった。
「じゃ、やるわよ。ルールは……今回は徒手空拳もアリにするわ。ただし、ウルトラマンの力は抜きにしてだけど」
「まあ、自由に動ける分今までの特訓よりマシですからありがたいですけど」
『頑張れよ、リョウ。これまでの特訓の成果を見せてやれ!』
今日の護衛当番であるタイガからも激励を贈られ、俺はイヴ先生と訓練場の中心で対峙する。
いつでも始めていいとのことだったが、しばらくはじっとイヴ先生を見つめて息を整えてこれからどの手を使うかを頭に描いていた。
「……ふっ!」
「《霧散せよ》っ!」
俺が開幕早々[ショック・ボルト]を使うが、読まれてイヴ先生に届く前に消された。
「……あれ!? 今リョウ、詠唱しました!? いつの間に『
「いや、違えよ……純粋に無詠唱でやったんだよ。ま、特訓の成果ってやつだな」
そう。これまでの地獄の特訓の中で俺なりに色々考えていた。
いくら得意分野の詠唱を一言程度で済ませてるといっても、他のみんなと違って別の言葉で同じ魔術を起動させられるほど頭の柔らかい方じゃない俺では敵の裏をかいて魔術を使用するなんて言うのは無理だ。どうしたってストレートな表現になってしまう。
俺の言葉でどの魔術が使われるかなんて下手すれば最初の一文字で察せられてしまう。
だからどうすればと考えてみた結果……やっぱり俺が参考にしたのはウルトラマン達の戦い方だ。近年じゃ必殺技の際は言葉にしてるが、それ以外の細かい技にはいちいち言葉を発していないのでそのやり方を思いついた。
一部だけでも詠唱なんてしないで使えれば不意打ちにも使えるし、正面でもタイミングを掴まれづらくなるのではという結論のもと、ウルトラマン達とも相談しながらその辺りを徹底して鍛えたのだ。
グレン先生も、魔術において言葉なんてさほど重要じゃないという教えもあったから俺はそれを無詠唱という形で実現したのだ。
「……だからって、特訓してできるようになるんですか?」
「普通はあり得ねえが……あいつの場合は別世界の知識や認識も関わってたからだろうな。誰もが真似しようとして出来るもんじゃねえ」
外野が何か呆れたように話をしてるが、俺はすぐさまイヴ先生に向けて駆け出し、水を弾丸のようにして打ち出す[アクア・バレット]で牽制する。
イヴ先生は華麗にかわして眼前に炎の壁を作り出した。黒魔[ファイア・ウォール]を初撃を躱した後すぐに仕掛けたのだろう。
俺はすかさず無詠唱で[サークル・スプリング]を発動させて炎の壁を消火した。
その際に発生した水蒸気で視界が塗りつぶされたが、背後から気配を感じて振り向き様に回し蹴りを放つと、イヴ先生が左腕で防ぎながら右手は俺に向けてきた。
「《白き冬の嵐よ》」
「《解》っ!」
イヴ先生の[ホワイト・アウト]を[トライ・バニッシュ]で霧散させて再び回し蹴り──と見せかけた無詠唱の[テイル・シュトローム]を発動して肉弾戦だと思って避けたイヴ先生を足以上の間合いを誇る攻撃で吹き飛ばした。
「《水蓮》っ!」
更に追撃をかけようと[シュトローム・サーフ]で地面を滑って猛スピードで接近するが、イヴ先生は吹っ飛ばされようが見事な体捌きで衝撃を感じさせない着地と姿勢制御で一瞬で俺に狙いを定める。
「《雷精の紫電よ》っ!」
イヴ先生は[ショック・ボルト]を複数起動して俺に向けて発射した。流石に複数を同時に魔術で対抗できないのですぐに[シュトローム・サーフ]を切って体捌きで躱した。
「《紅蓮の炎陣よ》」
追撃で[ファイア・ウォール]を仕掛けられるもそれは[アクア・バレット]で進行方向の炎を消火して狙いを定める。
「《蒼空駆ける燕》っ!」
『いったぁ!』
俺が繰り出したのはタイガの光線技の一つ、[スワローバレット]を魔術として再現した技だ。まだ俺程度では一度に五発しか打てないが、[ショック・ボルト]を連続起動《ラピッド・ファイア》で繰り出すより速いし、低燃費だ。
イヴ先生との特訓では見せてなかったからか、一瞬魔術で防ぐべきか逡巡したんだろうがすぐに魔術での防御は諦めて駆け出して光弾を躱した。
「《昇雷》っ!」
その進行方向に向けて[ショック・ボルト]を離れた地面から発動させるよう改変した黒魔[ボルト・ピアー]でイヴ先生の動きを阻害する。
「《霧散せよ》っ!」
イヴ先生はそれを[トライ・バニッシュ]で難なく霧散させるが、いくらあの人でもアルフォネア教授みたく一度に複数の魔術を使えるわけじゃない。
魔術が発動しているうちに俺は接近して再び狙いを定め、無詠唱の[ショック・ボルト]を連続起動してイヴ先生の態勢を崩していく。
「《賢者の拳は・全てを砕く》っ!」
そこに更に駄目押しとしてタイタスの[ワイズマンズパンチ]という技を参考に、[ショック・ボルト]と[ウェポン・エンチャント]を混ぜ込んで作った黒魔[ボルテッパー]を発動させ、右腕に紫電が纏った。
本来ならこれはマキシムの提案した『生存戦』では接近系統の魔術は除外されるために使えないとされそうだが、それは相手の肉体に直接当ててダメージを与える魔術がだ。
しかし、これはブラック・アーツのように直接攻撃だけでなく、多少距離が離れても使える。俺は右拳を地面に叩きつけると、地面が割れ、同時に紫電が伝ってイヴ先生へ向かっていく。
どうにか避けたが、今のイヴ先生は完全に態勢を崩した。
「《草露》っ!」
その隙に俺は再び接近して水の壁をイヴ先生に向けて放った。
「《光の障壁よ》! 《雷精の紫電よ》!」
だが、そんな中でもイヴ先生はすぐに自分の身を守りながら俺に反撃する魔術の組み合わせを構成して魔術を行使して俺に反撃した。
だが、俺を撃ち抜いた[ショック・ボルト]は身体に当たらず、通り抜けた。
「えっ!?」
「……そっちは蜃気楼で作った偽物ですよ」
俺はイヴ先生の背後から声をかけた。イヴ先生は驚愕の表情を浮かべながら振り向いた。
もうその眼前には俺が右手を向けているので決着がついたのは誰の目から見ても明らかだった。
「……降参よ。やられたわ」
「……っぶなぁ! よかったぁ……成功して!」
俺はようやく勝利を手にして地面に座り込んだ。まあ、生徒相手の手加減モードとはいえ、現役魔導軍人に勝利を取れたのはよかった。
実は最後に使った魔術は攻撃用ではなく、幻惑用だったのだ。フーマがよく使っている残像による不意打ちを俺得意の水系統の魔術で、蜃気楼の発生する理屈を用いて再現したものだ。
だが、作っても持続時間が短いしフーマのと違って質量なんてないからバレやすいんだよな。ほんと、成功してよかったよ。
「お前……いつの間にそんな魔術使えてたのかよ?」
「まあ、これはタイガ達との特訓のおかげですね……つっても、今の俺じゃあ使える場面が限定的なんですけど……」
今の状態じゃあ、常時使える技じゃないからなぁ……。
「ま、一度とはいえアイツから勝利をもぎ取ったのは純粋にすげえぜ。後は感覚を忘れねえよう、反省と復習をして『生存戦』に備えれば本番も大丈夫だろう。ついでに補習ももう少し増やしてもいけるな」
「あ、やっぱりそっちもやるんだ……」
補習という言葉にさっきまでの勝利の余韻が一気に消沈した。
「──で、この術式にはその公式を当てはめてやれば改変パターンももう少し増やせるってわけだ」
「ヘ〜い……」
「……と、今日はここまでだな。よくやった……この調子なら『生存戦』終わった後一週間くらいで他の奴らに追いつけるぜ」
「事が終わっても一週間は勉強漬けかよ……」
俺は机に頭を打ちつけた。身体を動かす訓練よりもこっちの疲労度の方がでかい気がする。
「……じゃ、ずいぶん時間取らせちゃったので今度は俺が付き合いますよ。どうせまたみんなの反省点洗い出して訓練メニュー調整するんでしょ。先生一人じゃ時間足りませんし、碌に休めないでしょ?」
みんなの前では強がって教えてるが、目の下のクマが酷い。気付かれてないのは会う場所が映像を見せるために薄暗い部屋だからと訓練中はほとんど室内で籠ってるからだ。
「……お前だって濃いメニューで大変だろうが。俺は別に身体を動かすわけじゃねえからこの程度の苦労は問題ねえ」
「だからって、もう一週間くらいなのに睡眠時間……十時間にも満たないでしょ? それじゃあ、途中でぶっ倒れるのがオチですよ。俺ならもう睡眠とかあまり関係ない身体なんで付き合うくらいどうって事ないですよ」
「たく……ほんと、便利な身体だよなこういう時には」
グレン先生がやれやれと言ったように言うが、疲れもあるのかすぐに折れて俺には資料の整理と映像の仕分けを命じて自分は映像から見えるみんなの反省点と課題を逐一資料に書き記していた。
それを深夜まで続けると、部屋の扉からノックの音が聞こえた。
ギィ、と音を立てて扉が開くとイヴ先生が顔を出した。
「……まだやってたの?」
「あ、イヴ先生……こんばん、わっ!?」
俺はイヴ先生が入室すると即座に顔を背けた。
イヴ先生の格好は風呂上がりだからか、シャツ一枚とその上にローブだけだった。服自体は大きめだから一応隠せるんだが、本当に一応程度だった。
服の隙間から下着がチラチラ見えるし、そうでなくとも手足が艶やかで同年代でありながら圧倒的なスタイルを誇るルミアやテレサとは違う大人の魅力というか色気というか、一言いってエロい……。
「リョウどうし──おい、イヴ……お前何つう格好してんだよ? 俺はともかく、思春期男子の前だぞ」
「うっさいわね、風呂上がりで暑くなったからまた汗なんてかきたくなかったのよ。まあ、坊やの前で確かにちょっと刺激的すぎたかしらね?」
そう言いながら顔を背けたはずの俺の前に躍り出てはわざと見えるか見えないかくらいの角度で前屈みになって妖艶な笑みを浮かべた。
俺は必死に目を逸らすがその度に回り込んでくるからどうしたものかと焦ってしまう。
「やめんか! 流石に可哀想だわ!」
見てられなくなったのか、グレン先生が止めてくれた。いや、本当に助かった……。
「たく、邪魔すんならさっさと出てけよ。こっちは忙しいんだ」
「何よ、せっかく紅茶を淹れてきてあげたっていうのに」
「あ? お前が、紅茶……だと?」
「明から様に失礼な態度ね。毒なんて入ってないからそう警戒しないでくれるかしら?」
そう言いながらイヴ先生はグレン先生に紅茶の入ったカップをズイ、と差し出した。
グレン先生は恐る恐ると受け取りながら口へと運んでいくが……。
「……クッソ不味い」
「うぐ……」
「たく、相変わらず紅茶淹れんの下手くそだな……」
「放っておきなさいよ」
「はぁ……少しはセラの奴を見習えっての。あいつはああ見えて……あ」
セリフの途中でグレン先生はしまったと言わんばかりの顔をして口を閉ざした。
それから二人の間で沈黙が続き、側から見てる俺も気不味い感が半端なかった。
思わずと言った感じで出た名前は確かグレン先生の昔の同輩の女性だったはずだ。その人が亡くなったことでグレン先生は軍から退き、教師になるまで無気力になったらしい。
その人が亡くなった直接の原因がイヴ先生かどうかは知り得ないが、少なくともその人のことで二人の間に確執があるのは間違いない。
以前のイヴ先生しか知らなければ俺も躊躇なしに糾弾していただろうが、最近の彼女を見ているとこの人が本当に冷徹な人なのか分からなくなってしまう。
口では悪ぶってても教えはすごいし自らも率先して世話を焼いてくれるが、素直に自分の心を出そうとしない……グレン先生と共通するものを感じる。
俺が二人に何かを言うことなど出来ないが、だからといってただ見るしかできないのも歯痒かった。
そうして口を閉ざしてる間にもセラさんの死に関する話を続け、イヴ先生はあくまで戦果欲しさにやったと主張するばかりでグレン先生もそれが真実じゃないと分かっていながら踏み込もうとはしなかった。
「……邪魔したわね」
イヴ先生はそのまま逃げるようにカップをトレイに乗せて部屋を出ようとしたが、足元がトレイで見えなかったのか、床にまだ置きっぱなりになってた本に躓いて転倒してしまう。
「キャ!?」
「うわ!?」
運が悪いことにその転倒方向に俺がいたため、巻き込まれて床に倒れ込んでしまった。
「いたたた……ごめんなさい、私としたことが……」
「いや、こちらこ、そ……あ、その……あぁ……」
「ん? どうしたのよ、急にあわあわと」
「いや、イヴ……自分の格好をよく見ろよ」
俺の態度を不審に感じたイヴ先生にグレン先生が呆れて指摘してようやく事態を掴んだようだ。
今のイヴ先生の格好はシャツを羽織ってるだけで肌の露出も大きいし、今の衝撃で下着が大きくはみ出してしまっていた。ハッキリ言って非常に官能的でマズイ。
「あ、な……っ!?」
イヴ先生も今の状況を把握して顔を赤くするが、そこに追い討ちをかけるように扉が音を立てて開かれた。
「先生っ! 夜遅くまでお疲れ様です! お夜食を作ったんですが──」
「リョウ君も、遅くまで勉強大変だね。お腹空いて──」
「グレン、食べて──ん?」
扉の向こうからシスティ、ルミア、リィエルの順で顔を出し、今の状況を視認。
「「「…………」」」
場になんともいえない沈黙がしばらく続いた。
「……二人共なんで床に? 組手の練習?」
リィエルのアホみたいな質問を皮切りにシスティとルミアが一気に顔を真っ赤にした。
「ちょ、ええぇぇぇ!? ふ、二人共、何してるんですか!?」
「そ、そんな風に押し倒して……うわぁ……」
システィは喧しく叫びながら今の状況を細かに口にしながら邪推し、ルミアは両手で顔を覆うも指の間からしっかりと状況を見てるし。もうカオスだった……。
「もう、何なのよこの子達は……」
「おい、それはいいからさっさと退いてやれ。このままじゃリョウが死ぬぞ……精神的にも社会的にもな」
冷静だったグレン先生が呆れながらどうにか場を沈めたはよかったが、その後でルミアからは別室でお説教されてしまった。俺、何もしてないんだけどな……。