ロクでもない魔術に光あれ   作:やのくちひろし

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番外1

「こんなもんかね」

 

 狭い空間。日本でも昔あった旧式の釜戸の置かれてる厨房で俺は料理をしていた。

 

 そして、俺の目の前には小さな丸いフワッとした生地が何枚も置いてある。

 

「後はアレなんだが……別のもので代用するしかないか」

 

 確か、ある農家の人からもらったやつが使えると思うんだが……俺は手探りしながら料理を進めていった。

 

「……これ、気に入ってくれるかな?」

 

 これで少しは恩を返せるといいんだが……。

 

 

 

 

 

「ちょっと、先生! さっきの授業のことについてなんですが!」

 

「ま〜たか、白猫。毎度毎度よく飽きずに説教するよなぁ……どんだけ説教が好きなんだよ」

 

「好きで説教してるわけじゃないですよ! それよりさっきの授業の実演なんですが!」

 

「なんともまぁ……2人共よくやるわ」

 

「あはは……」

 

 午前の授業が消化してシスティがグレン先生の授業の内容、もしくはその実演方法に文句と説教を垂れる姿は最近では最早お馴染みである。

 

 グレン先生の授業、俺としてはわかりやすいし楽しいと思うのだが、根っから真面目なシスティにはお気に召さなかったようである。

 

 まあ、偶に法律的にアウトなものも混じってるからシスティが説教するのもわからなくはないのだが。

 

「はぁ……腹減ってるから白猫の説教が空腹に響く……」

 

「そういや、最近げんなりしてますけどどうしたんですか?」

 

「金欠なんだよ……たく、まだ給料日まであるってのに……」

 

「何に使ったんですか、そんなに?」

 

「ふっ。そりゃお前……夢を手に入れるために幾千の修羅場に飛び込み、あの手この手と策略を巡らせた──」

 

「カッコつけて言ってますけど、それって要するに博打に消えたってことでしょ」

 

「…………」

 

「図星ですか……」

 

「あはは……」

 

「あなたって人は……最近になってより強く思ったんですが、あなたにはこの学院の教師としての自覚というものが──」

 

 グレン先生の金欠の理由を聞いてため息混じりに再びシスティの説教が始まる。

 

「システィ……気持ちはわかるけど、先生もお腹空いてるんだから流石にそろそろやめよ?」

 

「んぐ……ルミア、あなたは先生に甘すぎるのよ。そんなんだからこの教師は性懲りもなく」

 

「……で、先生。今日の食事とかどうするんですか?」

 

 システィとルミアの会話はさておいてグレン先生の食の予定を聞く。

 

「お前、さっきの話を聞いて更にこの状態の俺を見てロクな飯に有り付けると思ってんのか?」

 

「でしょうね」

 

「くそ〜……こうなったら最悪、学院の庭に生えてるシロッテの木の枝でもかぶり付いて──」

 

 なんかものすごく侘しいこと言ってるが、いいタイミングかもしれない。

 

「だったらちょうど都合よく手持ちがあるんでどうです? 本来ならオヤツなんですが」

 

「俺は最高の生徒を持ったぜ!」

 

「途端に復活したな……」

 

 今さっきまで痩せこけてた顔に一瞬艶が戻った気がした。

 

「で、モノは何だ? この際オヤツだろうがなんだって構わねえ!」

 

「まあ、これですけど……」

 

「ん? なんだ、パンケーキか?」

 

 俺がバスケットから取り出したものを見てグレン先生が首を傾げる。

 

「生地は似てますけど、違います。名前は、『どら焼き』って言うんですけど」

 

「へぇ〜……ああ、確か東方にそんな名前の菓子があったなんて聞いたことあるなぁ」

 

「まあ、風習とかそれなりに似てるみたいですけど」

 

 偶に日本特有のことわざが聞こえたり、食材を見かけたりする度に東方という言葉が飛んでいるからな。

 

「へぇ……珍しいお菓子ね」

 

「わあ、おいしそうだね」

 

「なんだったら、2人も食べてみるか? せっかくだから意見聞きたいし」

 

「ん? これって、リョウの手作りなの?」

 

 システィが意外なものを見る目で俺を見る。

 

「そりゃ、遠い陸地の食べ物がこんなポンポンと出るわけないでしょ。こうやって手作りでもしなきゃさ」

 

「へ〜、リョウ君って料理できたんだ」

 

「俺を何だと思ってたんだよ。これでも甘いものが好きだからスイーツ作りが趣味でな。いや、それはいいからとりあえず食べて意見聞かせてくれ」

 

「任せろ。ここに来るまで暇あればフェジテの料理という料理全てを喰らい尽くしたこの食通のグレン様が貴重な意見を聞かせてやらあ」

 

 この学院に来るまでどんだけ暇してたんだよ、あんた。

 

「……ん〜、不思議な食感ね」

 

「でもしっとりして程よい甘さでおいし〜♪」

 

「ああ、あんこな。豆を煮て裏漉しして、更に砂糖と水加えて火を入れるんだ。これ結構技術いるぞ」

 

 ちなみに普通あんこは小豆を使うのだが、それは手に入らなかったのでキルアの豆を代用してみた。意外とイケてたのでそのままどら焼きに使った。

 

「ん〜……まあ、そのあんこってのはいいとして、それ挟んでる生地の火入れにバラツキが出てんな」

 

「ですよね〜……」

 

 だってこっちのコンロ……じゃなくて、竃じゃ旧式過ぎて火入れとかかなり面倒臭いんだよな。

 

「まあ、一流には程遠いとは思うが、ガキには丁度いいレベルじゃねえか。ま、俺の舌を唸らせたきゃもう少し腕を上げるんだな。一応期待して待ってるぜ」

 

「なんで施し受けたあんたが上から目線なのよ……」

 

「ガキレベルには、か……」

 

「リョウ君?」

 

「ん? あ、いやなんでもねえ。とりあえず貴重な意見ありがとうございます」

 

 まあ、それくらいなら大丈夫そうかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういえば、リョウ君って何処から来たんだっけ?」

 

「え? 何処からって……急にどうしたのルミア?」

 

「うん、ちょっとね……リョウ君、自分のこと話したことってあんまりないから」

 

「……言われてみれば。最近はそうでもないけど、学院に来た頃は私達が話しかけなきゃ全然喋ろうとしなかったものね」

 

 半年前、リョウ君が学院に入った当初は私達には無関心って感じで、みんなも中々彼に話しかけようとはしていなかった。

 

 色々あって打ち解けてみると、なんかリョウ君は他の人達とは何処か雰囲気が違うような、そんな違和感を覚えていた。

 

「リョウ君が学院に来てからもう半年くらい経つけど……私達、リョウ君のことあまり知らないよね」

 

「そうね……」

 

 どうにかしてリョウ君のこともう少し理解できないかなと思っていた時だった。

 

「よーし、そろそろオヤツにするかー!」

 

「ん?」

 

「どうしたの?」

 

「うん、今の声って……」

 

 妙に聞き覚えのある声が近いところから聞こえてきた。

 

「どの?」

 

「えっと、あっちから……」

 

「ん〜? あれって、リョウ?」

 

「そうだね」

 

 ボンヤリとだけど、リョウ君が広場でバスケットを持って立っていた。

 

「ほーら、今日は俺が作ってきたんだぜー! みんなほしいかー!」

 

「「…………」」

 

「……誰?」

 

「えっと、リョウ君だよ……多分」

 

 明らかにリョウ君の姿の筈なのに、学院の時とテンションがまるで違うので私も自信を持って答えられなかった。

 

「……普段と全然雰囲気違うわね」

 

「うん。でも……楽しそうだね」

 

「そうね、あんなリョウ初めて見たわ」

 

 今日持ってきたどら焼きを子供達に配っているみたいだけど、その時のリョウ君は子供達と同じくらいの無邪気な笑顔で本当に楽しそうだ。

 

「じゃ、今日はここまでだな。みんなも帰りは気をつけろよー!」

 

『『『おかしのお兄ちゃんもねー!』』』

 

「はいはい。じゃ、バイバ━━……い」

 

 いざ帰ろうとしたのか、踵を返すと私達の存在を認識したのか顔を痙攣らせた。

 

「あ、あはは……」

 

「ぐ、偶然ね……」

 

「……いつから見てた?」

 

 さっきの楽しそうな表情から一変して目を細めて聞いてくる。

 

「その、リョウ君がお菓子あげてるところから……」

 

「……できれば他言無用で頼む」

 

「それはいいけど、お菓子のお兄ちゃんね〜。あんたがあんな子供好きだとは思わなかったわね。学院の時と全然口調も雰囲気も違うし」

 

 システィは面白いものを見れたと思ったからか、リョウ君をからかう。

 

「流石に子供の前で淡々とした態度はしないよ。言動だって気をつけないと悪い言葉覚えてそれを日常で多用する子供なんて見てらんないしな……子供って良し悪し関わらず大人のやることみんな真似したがるから」

 

「へ〜、いいお兄ちゃんだ」

 

 リョウ君もシスティとは違った意味で面倒見がいいのかな。

 

「……じゃ、俺はこれで帰るから」

 

「あ、せっかくだから一緒に行っていい?」

 

「え? いや、行ってもつまらないと思うが……」

 

「私は見てみたいんだけどな〜。リョウ君の家」

 

 せっかくの機会だし、前はなんだかんだ理由をつけられて見に行けなかったし。少しはリョウ君のことわかるかもしれないし。

 

「いや、けどな……」

 

「あ、今日作ってくれたどら焼き美味しかったな。みんなにも言っておこっか? 子供達にも喜んでもらえた──」

 

「よし行こう。どら焼きもまだ少し残ってるから馳走もする」

 

「やった♪」

 

 どうにかリョウ君の家に向かうことには成功した。

 

「……最近、ルミアの黒い部分が見え隠れしてる気がするんだが」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっと、ここって……」

 

「馬小屋?」

 

 リョウ君の家に向かってみれば、そこには年代物の馬小屋のようなものが一軒建っているだけだった。

 

「ああ。元は馬小屋だったのをどうにかこうにか改築して住めるようにしたってとこ」

 

「ええっと……あんたって、両親は?」

 

 私も同じことを思っていたが、システィが先に尋ねる。

 

「……死んでるわけじゃない。けど、下手すれば二度と会えないかもしれない」

 

「それって……」

 

「ああ、すっごく説明しづらいからあまり聞かれたくなかったけど……別に重苦しい事情がどうとかじゃないんだ。ただ、気がついたらそうなったってだけで」

 

 気になる言い方だったけど、それからリョウ君はこれ以上は話さないという風に別の話題に切り換える。

 

「んで、この街にポツンと彷徨ってた俺をあの子達が見つけてな……俺のことを親に言ったんだ。そしてどうにか俺を住まわせてくれないかって頼み込んだんだけど流石に見ず知らずで事情もわからない俺のことをあげるなんてできないだろうし、俺もそんな気はなかったんだけどな。でも、その中でひとり、元々馬小屋だったここを譲ってくれた人がいてな。それから他の親達も使わなくなった家具やちょっとの食べ物も融通してくれて、どうにか生活できるようになったんだ」

 

 本当に感謝しかないと言って、失敗作なのか少し形の悪いどら焼きをテーブルに運んできた。

 

「それでその条件というかなんというか……放課後とか休日とか暇な時には子供達の相手をしてくれないかと頼まれてな。まあ、忙しくて子供に構ってやれない人もいたし……俺としても手伝えることがあるならしたかったしな」

 

 まあ、最初は本当に大変だったけどなと遠い目をしていたが、うんざりとした風に話さないあたり、本当にあの子達が好きで感謝してるんだなってわかる。

 

「いい人達だね」

 

「うん。だから子供達のことだけじゃなくて何か俺にできる礼を考えてどら焼きならと思ったが、これを礼というにはまだ遠いな」

 

 どうしたものかと頭をかいて困った困ったと頭を横に振った。

 

「仕事の手伝いとかは考えてないの?」

 

「もちろん最初に考えたが、単なる力作業だけならまだしも接客に管理……頭を使う作業が多くて勝手が掴めそうになかったんだよ」

 

 まあ、大人の仕事っていうのは大変だろうしな〜とシスティと同調した。

 

「とりあえず学院で学んだ知識をどうにかこうにかしてあの人達に分け与えられないか俺なりに実験繰り返してんだよな」

 

 そう言って視線を移すといくつか妙な箱が並んでいるのが見える。

 

「あの箱は何?」

 

「錬金術利用して量産した鉱物の数々」

 

「……あんた、これ金にでも換える気じゃないでしょうね? 言っておくけど、金じゃなくてもそれ魔導法第23条乙項に反してるわよ」

 

「誰が売るか。第一こんな人工物に価値なんてないだろう。そもそも装飾物に使われる石なんて本当に一握りの────それに自然で創られる石は──」

 

 何か急に石の事に関して語り始めた。マントルだとか、プレートテクトニクスとか聞きなれない単語が気になったけど、口を挟む隙がなかった。

 

 下手をすればメルガリウスの城関連のシスティと同じくらいのレベルの語りぶりだった。

 

 それから数時間、もうお礼の話がどこかに行っちゃったみたい。今日はリョウ君の知らない一面をいくつも見たなぁとよくわからない話を聴きながら思った。

 

 でも、私達にはよくわからない話をまるで常識のひとつのように長々と話しているリョウ君は一体何処から来たんだろうという疑問が強くなった日でもあった。

 

 

 

 

 

 

 

「おはよう、お菓子のお兄ちゃん♪」

 

「「「…………」」」

 

 教室に入って真っ先にグレン先生が挨拶を交わしてきた。何故か昨日子供達が口にしていたリョウ君の愛称を使って。

 

「……先生、それ何処で?」

 

「昨日偶然お前がガキ供にどら焼き配ってるのを見てな。い〜や〜……まさかお前があ〜んなだらしのない顔してガキ共とごっこ遊びしていたなんてな〜」

 

 グレン先生は新しいオモチャでも見つけた子供のようなテンションで悪い顔を浮かべながらリョウ君をからかう。

 

「それに〜、女の子達から花もらってチヤホヤされてたり〜? お前って、実はロリコ──」

 

「『光牙』」

 

 静かな呪文が教室内に響くと同時に眩い光がグレン先生の前で一閃した。

 

「…………」

 

「言いたいことはそれだけですか?」

 

 顔か表情が消え、目からは光が失せたリョウ君が右手から光の剣をグレン先生に向けて言う。

 

「お、おおおお、落ち着こうリョウ君。人間は話し合い、考えることのできる生き物であってだな……」

 

「問答無用。続きはあの世から話すんですね」

 

「い、命だけはお助けを〜!」

 

 それからグレン先生と光の剣を構えたリョウ君の鬼ごっこが数時間続くことになった。

 

 ついでにリョウ君が子供好きだったということと子供達から呼ばれた愛称があっという間にクラス内に広まってしばらくそれでクラスメート達からからかわれて恥ずかしさで悶え続けることになった。

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