……いいの?こんなのがランキングに載っていいの?
アナザーのウイルス、実は私貰ってないんだよね。どうもバイトハノイです。
……いやー、AIデュエリスト戦ちょっとやり過ぎたわー、地上波放送で失敗できないからって準備万端過ぎたわー。ほぼ全員メタデッキ使いとかいう普通あり得ない状況。SOL情報漏洩疑惑が出てきて炎上祭りが加速しましたよ、ええ。
今回の私の目的は時間稼ぎ。いきなり出てきてデュエルした後さっさと消える。アナザーとは違う方法でリンクヴレインズを混乱させるため、プログラミング班の皆さんにある仕事を頼んだら快く受け入れてくれました。それの出来上がる時間を待つっていうのもあるけど。
幹部がプレイメーカーとデュエルすることだけを目的として現れるのは流石に危険すぎないかな? てな訳で提案した次第であります。
えー、ついでにここにいるのは私とのデュエルで負けた命知らず君です。ヴァンガードを倒して一旗上げようとしたらしいですが残念。ここをこうこうこう、ついでにおでこにペタッとな。
「よいしょー」
ぐいっとミノムシ状態になった命知らず君を木に引っかける。おでこには紙が張り付いている。うふふー、これ、ちょっとした謎解きです。これを理解したらリンクヴレインズはパニックになるでしょうねー。そろそろヒント増やすべきかな、考察サイトもちんぷんかんぷんみたいだし。さあ、今日も元気に吊るし上げじゃー!
「くそっ、逃したか!」
GO鬼塚は苛立っていた。ヴァンガードが現れたという情報は入る、だがデュエルをすることは出来なかった。デュエルを終えた後、どこかへと消えるのだ。明らかに俺を避けているとしか思えない。
「……またか」
ぶら下げられた男の額には紙が貼り付けられていた。ヴァンガードとデュエルした者はいつも紙を貼り付けられ木にぶら下げられる。何を意味しているのかは分からない。男を下ろして紙を剥がす。
「ヴァンガード、一体何がしたいんだ?」
紙にはオレンジ色の円がでかでかと描かれていた。その中心には『i』と書かれている。
「GO鬼塚! 私とデュエルして貰おうか!」
上から声がした。デュエルボードに乗ったハノイの騎士がそこにいた。
「お前らには用はない、ヴァンガードを出せ!」
「な、なんて恐ろしいことを……ヴァンガード様は意外にもプロレス好きなお方、お前とデュエルしたらテンション上がって『パロ・スペシャル』をかけてしまうだろう!」
「……マジか、何でそんな関節技知ってるんだ?」
「知りたいか、ならばデュエルだ!」
「いやそんな事を知りたい訳じゃねえよ!? ったく、調子が狂うぜ……」
今まで抱いていたハノイの騎士のイメージと全然違うのもあるが、一人一人がれっきとしたデュエリストであるのも調子が狂う原因だ。
「速攻で終わらせるぞ! デュエル!」
不安で怯える皆の為にも、除去プログラムを一刻も早く手に入れなければならない。きっとヴァンガードが持っているはずだ。ヴァンガードがどこにいるのかさえ分かればアナザー事件は解決する。そう信じて鬼塚は今日も戦うのだった。
「聖地巡礼? 変なことやってんのなー、てかヴァンガードのファンってどいつもこいつも頭おかしくないか?」
「あんなデュエル見せられたらファンになるやつだっているだろうさ。単純に強い、それだけで惹かれるものがあるんだよ。……変な方向に目覚めるのはどうかと思うがな」
ヴァンガードが現れた場所を巡る、という何の得があるのかわからない事がリンクヴレインズでは流行っていた。リンクヴレインズのマップにヴァンガードが現れた場所を纏めると10個の円ができる。ヴァンガードが倒したデュエリストに貼られた紙に書かれた円は、それぞれ色分けされている。白、灰、黒、青、赤、黄、緑、紫、オレンジ、虹。SNS上では「今日は赤行こうぜー」といった会話が行われている。
「何を目的として動いているのかが分からない。俺を探しているわけではないようだが……」
ヴァンガードとのデュエルで負けた者はアナザーになっていない。そもそもヴァンガードとデュエルしたやつのデュエルディスクは新型だ。プレイメーカーが旧型のディスクを使っていることはハノイの騎士は知っているはず。アナザー事件は旧型のディスクを使用しているハッカーを対象にしたものだ。
「何かの儀式とか? こう、すんげーヤバいでっかいのが召喚されるんじゃね? それがリンクヴレインズを壊して回るんだよ」
がおー、と襲いかかるように指を曲げて威嚇するAi。
「儀式、か……この円の配置に規則性はあるし、一理あるかもな」
「ふっふーん、この名探偵Ai様の前ではどんな謎もまるっとお見通しなのだよー」
どこらかともなく取り出したパイプと帽子を身につけてAiが胸を張っている。
「なら、次にヴァンガードが現れる場所でも推理して貰おうかな、名探偵様?」
「う、それはー……名探偵は今日でお役御免のようデス」
するするする、とディスクの中へ戻るAi。着信音が鳴る。
「ん、メール? 誰からだ?」
その場で確認する。今上からだ。クラス全員に一斉送信したらしい。
「……へぇ、もう少しで退院できるようになるのか」
病院でのリハビリもほとんど終了、後は自宅療養で大丈夫らしい。本はもう全部読んだ、学校で直に返せるのももうすぐだろう。
「え、今上って誰? もしかして彼女とかー!?」
「黙れ。お前は知らなくていい」
「……わざとらしいな。まさか、あの、遊作が、なぁ?」
うんうんと頷き合うAiと草薙さん。
「なっ……草薙さんまで!」
「冗談だ冗談」
「……っ」
ぷい、と顔を背ける遊作。
「あーあ、遊作ちゃん拗ねちゃったぜー」
あいつは気が合う友達、それ以上でもそれ以下でもない。もし深く関わりすぎると、俺の正体がばれた時にハノイの騎士に狙われてしまうかもしれない。関係ない人を巻き込むわけにはいかないんだ。
「また音声を切られたいか?」
「この超絶☆イケボなAi様の声を!? それだけはお願いしますだー、お代官様ー」
ふざけているAiの声をBGMに、ハノイの騎士についての情報を纏める。ヴァンガードの出現位置の予測。あいつと接触し、ロスト事件についての情報を聞き出す。それができれば真実へと一歩近づけるはずだ。そう信じて遊作は作業を進めるのだった。
キン肉マンは良い文明。パロ・スペシャルは簡単にできる関節技。作者も一回父にかけたことがあります。
おまけ そのころのヴァンガード
「へくちっ……誰か噂してる?」
「(ぐうかわ。写真保存余裕ですわ)」
「(甘いな俺は録画済みだ)」
「(マジか後で寄越せ)」
「(了解)」