松葉杖片手にリュックを背負って歩く。いつもより早めに家を出たのもあってチャイムが鳴るまでには十分間に合った。通り過ぎる人の視線を集めているのはわかるけど、このぐらいまだハノイの騎士でバイトしている時と比べたらマシ。
座席表を確認して座る。……隣が遊作君の席。これからボロ出さないように生活しないといけないのか、疲れるな。リュックから本を取り出す。さあ読もうとした途端、ドアが開くと同時に島君の大声が響く。
「あー! お前、一人で登校してきたのかよ! 連絡入れてくれたら荷物持ったのに!」
「ごめんごめん。そこまで足酷くないし、ほらリュックだから大丈夫かなーって」
ギプスが巻かれた足を見せる。心配してくれるのは嬉しいけど、デュエリストの耐久力を舐めたらいけないのだよ。ファッション感覚で骨折してたクロウとかいるし。
「それでもなー!」
「島、声廊下にも響いてたぞ」
少し不機嫌そうな声の遊作君が入ってくる。徹夜で作業してたんですかね。……あ、デュエル部の皆にも顔出ししとかないと。
「遊作君おはよ、そういえば本どうだった?」
「ああ、勉強になった。全部読み終わったから返すよ」
はい、三冊きっちり返却して頂きました。
「遊作が今上みたいなデュエリストになる日は遠いな、うん。本読んだだけじゃお前、強くなりそうにねぇから」
あの懐かしさを感じるダミーデッキ。あれを強化する気は多分無いよね。
「今上って強いのか?」
「そこそこ、とだけ言っておくよ」
「そこそこじゃねーって。金がなくなったからって大会で優勝しに行く高校生のくせに」
「……てへ」
目を丸くする遊作君。そうだよね、普通ありえないよね。お小遣い少なかった中学生のころから始めました。前世の記憶もあったし強いだけのデッキ組んで大会出てました。
「相談あったら乗るよ? まー、手っ取り早く強いデッキ作りたいなら帝のストラク3つ買えば済むけど……それは違うよね、きっと」
「……ああ。俺はこれでいい」
「遠慮すんじゃねーよ、また時間ある時カードショップ行こうぜー」
予定が空いてたらな、と軽くあしらわれる島君。
「……そういやそれは?」
気づきましたか、これがヴァンガードからプレイメーカーへの最大のヒント。表紙にはセフィロトとクリフォトが書かれたぶ厚めの本。
「『端末世界の歴史』だけど、何か気になった?」
見せつけるように彼らの目の前へ持っていく。
「ん? これ、どっかで見たような……あ、ヴァンガードのあれ!?」
それを理解した瞬間、遊作君の目つきが変わる。島君は気づいていないみたいだけど。ヴァンガードとして彼と戦う時、こんな感じに見られる訳か。まあ、予行演習ぐらいにはなるかな?
「ヴァンガード、ね。入院してても話は入ってきたよ」
だって私だからな!
「あの輪っか、どの考察サイトもこれだ、って推理できてなかったんだよなー。こんな近くに答えあったのに何でだ?」
「単純に知られてないだけじゃ? この本、かなりレアだし」
だが俺はレアだぜ(本)。これ、初版本しか出回ってないんですよね。分厚いから買う人も少ないし。
「端末世界、デュエルターミナルって言うんだけど……知らないよねその反応だと」
頷く二人。はっと気づいたように此方を真剣な目で見る島君。
「もしかして、これがあれば俺らが世界初の謎を解いた人に!? 教えてくれよ、なあ!」
「ちょ、ちょっと落ち着いて! 謎解き、私も興味あるから!」
あっ、ヒント出す側に回るのすごく楽しい。唸れ、私の演技力!
「推理の基本は情報の整理、紙には10の色の円とiが書かれていた」
ノリノリですか遊作君!?
「んーと、紙にはiって書いてあったんだよね? iがつくのはクリファ。悪徳の象徴だよ。そして、端末世界ではクリファをモチーフにしたモンスターがいるんだ」
ぱらぱら、とページをめくる。真剣な表情で見る二人。
「それがこのクリフォートとインフェルノイド。どちらも端末世界を荒らした存在」
「クリフォート? ……不思議なカードだな、テキストが2つある」
やっぱりペンデュラムモンスター自体をあまり見たことないんだ。ルール変わって一番影響出たのはペンデュラムだと個人的に思ってます。スピードデュエルが流行っている今、ペンデュラムはどんどん肩身が狭くなってるし。
「クリフォートはバグで地上の殲滅を、インフェルノイドはクリフォートの中から神の尖兵として現れたモンスター」
クリフォート・アセンブラのテキスト解読した時は寒気がしました。誰だってびっくりするでしょあれは。
「んー、クリフォートはなんか違う気がするんだよなー。もしクリフォートを表すんだったら、このテキストそのまま持って来る方が良くないか?」
「インフェルノイドの体には過去のモンスターが囚われている、か。まだこっちの方が納得がいく」
「今までヴァンガードと戦ったデュエリストは全員ミノムシみたいに縄でぐるぐる巻き。インフェルノイドは真空管にモンスターを捕らえている。まあ、インフェルノイドに近い、のかな?」
やっぱり、今出てる情報だとこの辺が限界かな。
「インフェルノイドだってわかっても、その先がわかんなかったら意味ねーって。他に情報ねーのかよ?」
「どのクリファにも人がかなりの数集まっているな、でもそれがどう関係するのか……」
この辺で少し核心にせまってみましょうか。これが分かったからといって、私の計画に支障は出ない。何とかできるならしてみてほしいものです。
「……あ、ちょっと怖い事思いついちゃった」
ふと、思いついたように。
「あの場所に集まったデュエリストがインフェルノイドになる、とか。……うーん。自分で言っといてあれだけど、モンスターになるのは流石に無理かな」
そう、モンスターにはならない。私はインフェルノイドを参考にしただけ。さあ、気づいたかなプレイメーカー。
「流石にそれはないだろー」
「だよねー」
笑う私と島君。顎に手を当てる遊作君。あと少しで私の計画を完全に理解できるだろう。
インフェルノイドは真空管に囚えたモンスターの魂によって活動する。ならば、デュエリストの魂とは? 魂だけあればいい。それだけあれば十分戦える。
――もうすぐ、ハノイの騎士に質と量を兼ね備えた兵士が誕生する。誰も止める事は出来ない。
次回、答え合わせ。何故これを思いついたのか、それも彼女の口から話してもらいます。