今気づいた。もしかしてこの主人公、晃さんと絡む機会無い……?葵ちゃんのお家訪問とか無理ゲーじゃね?
そういやティンダングル新規確定でしょ、今アニメでブルーエンジェルスペクターとデュエルしてるでしょ?……あっ。真面目にどうやって絡ませるべきか、うーん。
蛍のような光がデータストームに乗って飛んでいく。
「今日こそお願いね、蛍ちゃん達」
それから数秒後に反応がロストした。それを確認した瞬間何かがこちらに向かってやって来た。爛々と目を赤く染めたクラッキング・ドラゴンーーのミニチュア。だが見た目で油断してはいけない。
「あー、もうっ」
ログアウトし電源を切り、ネットとの繋がりを一時的に遮断する。こうする事でしかあのプログラムからは逃れられない。ハノイの騎士はなんとまあ恐ろしい物を作ってくれたのだろう。あのプログラムのせいで何人もの同業者が廃業に追い込まれている。競争相手がいなくなるのは喜ばしい事だが、自分もそうなってしまうのは御免被る。
「本当、どこ行ったのかしら」
ヴァンガードはハノイの騎士において異色な存在だ。もし説得ができたなら、情報を渡してくれる可能性が高い。
「やっぱり、あのAIを探した方が早いか……」
ヴァンガードはあのAIデュエリストを敵として認めている。あれをダシに使えば簡単におびき寄せられるだろう。AIデュエリストも、彼女と戦うことを望んでいるはずだ。
「でも、どっちもそう簡単に見つかったらここまで疲れてないわよねぇ」
ぱたりと姿を消したヴァンガードとAIデュエリスト。ネットでは粛清されたのでは、などといった説もあったが、少々頭が心配なハノイの騎士達の言葉からするとヴァンガードはまだハノイの騎士にいる。
今日もそれといった進展はなく、ゴーストガールの仕事は終わるのだった。
口を精一杯開けてホットドッグを頬張る。ケチャップが口の端についたがいちいち気にしていては食べられない。
「久々のジャンクフードー、あむ」
現在パブリックビューイングの広場にあるカフェ・ナギにいますいえーい。敵の本拠地やでいえーい。頭の上にウォーターソーセージ使ったドッグ積んでくれないだろうか、なんて。
とん、と私の前にコップが置かれる。
「あの、私ホットドッグしか頼んでないんですけど」
「遊作の友達だろ? サービスだよサービス」
草薙さん、コーヒーオマケしてくれました。ありがとうございます。
「ミルクと砂糖はどうする?」
「ん、ブラックで大丈夫ですよ」
それを聞いた遊作君が目を少しだけ大きくする。
「意外だな、てっきり使うのかと」
「慣れちゃったんだよね、ブラックで飲むの」
ああ、思い出すわ前世の文化祭。部の出し物はカフェだったんですよね。コーヒーと半トースト、クッキーを売ってまあまあ形にはなってた。一番の誤算はコーヒー豆を三種類用意したこと。
なんでコーヒー豆三種類あるのにコーヒーを置いておくポット二つしかなかった? コーヒーって違う豆を混ぜたら味が変になるんですよね。おばさま三人コースで来られたら絶対飲み比べするから、地獄見るのわかってたでしょうがー!
「そういえば、今上って何のデッキ使ってるんだ?」
ホットドッグ食べ終わってナプキンで口元を拭く。やっぱデュエリストとしては気になるよねそこ。
「んー、機械族全般、かな? 有名なのだと
クロノス先生は理想のデュエリストの一人なノーネ! 《競闘-クロス・ディメンション》とか初めて見たときの興奮、わかってほしいなー。あのイラスト見て反応しないOCG民はいない。あの時と一緒だな、を言う機会はこの世界では多分ないけど。
「プレイメーカーについてはどう思ってるんだ?」
自分で聞く? 斬新なエゴサですね。
「うーん……爬虫類的かっこよさがあると思います」
予想外でしょう、この返答は。デュエルについて聞いたら容姿について帰ってきたでござるの巻。
「爬虫類……」
「アイラインとかそれっぽくない? ぴったりしたスーツの質感とかまさに爬虫類。……話は変わるけど、実は女子って顔だけじゃなくて体も見てるからねー。モテたいなら運動部入った方がいいんじゃない?」
にやにやー、こう話が展開するとは思わなかっただろー。
「!? そういうつもりで一緒に来たんじゃ」
「確かに、少しは運動した方がいいんじゃないか遊作?」
「草薙さん……」
ずっと座ってパソコンいじるのは不健康ですよね。
「純粋に親切でここまで一緒に来てくれたのはわかってるよ。でも水泳の時とか皆筋肉の品定めしてるからねー、注意した方がいいよー」
「……そうか」
……もしかして凹んでる? 知らなくていい女子の世界。男子からしたらえっ、てなるものばかりです。葵ちゃんは多分こんなことしないだろうけど。多分じゃない、皆の憧れブルーエンジェルはそんなことしない!
「ご馳走様でした、また来ますねー」
その後もたわいない話を続けた。キリのいいところで話を切り上げて帰る。こつん、こつんと松葉杖をつきながら歩く。その後ろ姿が見えなくなるまで見送る。デュエルディスクからAiの声が聞こえた。
「お得意様増えたよ、やったネ草薙ちゃん! ……最近全然店開けてないけどな」
「そう言うなってAi。ちゃんと遊作が連絡くれたから店開けたんだぞ? それで、あれが隣の席の今上ちゃんか。思ってたより小さいな、本当に同級生か?」
「だから一緒に来たんだ。それに制服同じだっただろ?」
「それは分かってるさ。しかし爬虫類ね……視点がすごいな」
「同感ー。俺的にあの子、なかなかの隠れオタクと見た。だから遊作と気が合うんじゃね? プレイメーカー様は夜な夜なハノイを追っかけるハノイオタ、うぉお!?」
デュエルディスクを強めに握りしめる。
「黙れ」
「……へーい」
「どぉーいうことだーっ!! ええい、即刻ヴァンガードとあのAIデュエリストを見つけなければ全員クビだーっ!!」
私の昇進を潰し、馬鹿にしてくれた憎っくきヴァンガードを許しはしない。あの時現れた自我がなんだとか言っていたあの生き残りを捕まえれば昇進のチャンスがあるはずだ。いつの間に逃げ出していたのかは知らんが、ハノイの騎士を倒せる一歩手前までいったAI。量産すれば私の昇進間違いなし!
「AIは道具だ、魂などいらん! 確実に相手を倒せればそれでいいのだぁ!」
自分に言い聞かせるにしては音量が大きすぎる声で話しながらうろうろする北村部長。
「また部長のいつものが始まったよ……」
「そこぉ! 真面目に仕事しているのか!」
「はっ、はい!」
北村の地獄耳からは逃げられなかった。給料カットは覚悟するべきだろう。
「待っていろよ、ヴァンガードォ!!」
ヴァンガードは北村さん特攻持ち、これは間違いない。
あと、何で変な話の転換したかというと、うっかりヴァンガード分でちゃうことを恐れたからです。
「どうか復讐に囚われないでほしい。私もハノイの騎士じゃなくて、一人のデュエリストとして君と戦いたいから」