どうも、ハノイの騎士(バイト)です。   作:ウボァー

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ハノイの塔、起動

 データの欠片が空を舞う。ハノイの塔は起動した。人も建物も関係なく平等に、一定範囲内にいた存在は全てデータに変えられ吸い上げられる。

 

「……これで終わり、か」

 

 ハノイの塔、ここがプレイメーカー達とハノイの騎士との最終決戦の地。タイムリミットは六時間。それまでに止められなければ世界中のネットワークは消滅する。……リンクヴレインズにいる私達も。

 私の気持ちを察したのか、心配そうにクラッキング・ドラゴンが顔を摺り寄せてくる。

 

「……大丈夫だよ、きっと彼なら止めてくれる」

 

 こうなる事は私がハノイの騎士になる前から決まっていた。私一人がどうこうしたところで変わらない。この計画に反発したらゴーストガールの二の舞になるだけだ。知識があるだけで何もかも変えられるはずない。それ相応のしわ寄せは必ずやって来る。私の場合、それがあのAIデュエリストなのだろう。

 ――もし、私のせいでプレイメーカーが負けたら? ハノイの塔を止められなかったら?

 

「……怖いなあ」

 

 震える手をきつく握る。無理やり震えを抑え、両手で頬を叩く。

 

「お前がやらねば誰がやる、ってね」

 

 正史では存在しない者同士、戦い合うとしましょうか。敗者はデータとなり取り込まれる。疑似的な闇のゲーム、いつもの遊戯王。

 

 ――――ご、しゅ、じん。いかない、で。

 

「……?」

 

 空耳だろうか。ここには私以外にはクラッキング・ドラゴンしかいない。

 

「行こうか。クラッキング・ドラゴン」

 

 いつものように飛び乗って移動を始める。

 

「……グルゥ」

 

 普段はデュエリストで溢れるリンクヴレインズ。今は完全にハノイの騎士に支配されている。いつもなら聞こえる雑踏も歓声も無い。そもそも、誰であれデータと変えられてしまうこんな状況でログインする人はいない。

 

「私は――SOL――――ジーで」

 

 いや、いた。SOLテクノロジー、セキュリティ部部長北村。リンクヴレインズの管理キーを失った自分は失脚するかもしれない。なら、会社を見限りハノイの騎士になろうとしている出世欲に溢れた人間。まだヴァンガードとクラッキング・ドラゴンには気づいていない。

 ハノイの騎士の側についた暁には、あの憎きヴァンガードを幹部の座から蹴落とし自分が幹部になってやろうと画策もしているのだが、それは彼しか知らないことだ。

 

「何の用だ?」

 

 リボルバー様の登場。ハノイの騎士にとっては正直価値のない話を聞くだけ聞いて、スペクター様に後を任せ去っていった。

 

「……ん、あれは?」

 

 忘れるはずもない鳩とカエル。関さん劇場が繰り広げられているのだろう。こちらへと向かってきて……硬直した。

 

「やばいですよ先輩! こっちめっちゃ見てます!」

 

「まだ慌てる時間じゃない。それにほら、俺たちじゃなくて景色見てるかもだろ!?」

 

「ってうわーー!! こっち来ましたよ山本先輩!!」

 

「のわーー!! データにしないでく…………あれ?」

 

 首根っこ優しく掴んで宅配。二人をちょうどいい高さにあった建物の上に下ろす。

 

「撮影は邪魔にならなければ大丈夫、だとは思いますけど。多分」

 

「……あ、はあ。ご丁寧にどうも……」

 

 そう言って戸惑いながらも撮影を始める。ちょうど聖蔓の剣士(サンヴァイン・スラッシャー)が北村さんにダイレクトアタックを決める所だった。スペクター様のデッキは事前知識無かったらかなり苦戦する。それに、あのロスト事件の被害者が弱いはずない。さようなら北村さん。あなたのことは忘れません。

 

「ハハハハハ……。いや〜スペクターさん、貴方達がいかに有能かよ〜くわかりました」

 

 ごますりが露骨すぎて小物臭がどんどん増していく北村さん。

 

「おやヴァンガード、随分早いお帰りですね」

 

「っ!? ヴァンガード!?」

 

「え、私がいることに何か問題でも?」

 

 クラッキング・ドラゴンから飛び降り、スペクター様の隣に着地。北村さんからの視線は驚きと恨みが篭ったものだった。うん、心当たりがあって困る。

 

「これから面白いものが見られる所ですよ」

 

「面白い……もの?」

 

 ごますりしながら硬直した。その言葉を聞いて恐ろしい想像をしたのか変な汗をかいている。その想像は当たりです。北村よ、これが絶望だ……。

 

「お望み通り、ハノイに入れてあげますよ」

 

「本当ですか!?」

 

「ただし、データとしてね!!」

 

 パチン、と指を鳴らす。足元から赤い光へ変化し崩れていく北村。希望を与え、それを奪い取るファンサービス。

 

「フフフ……最後の最後までゲスでしたね」

 

「…………」

 

 消えたくない、か。人がいなくなるのを見て笑えるほど私はゲスじゃない。あと、スペクター様の方がゲスだと思います。本日のおまいうはここですか?

 

「さて、と……。警告です」

 

 スペクター様が二人の方を向く。鳩とカエルがギクッ! と口に出すぐらい驚いていた。

 

「「さいなら〜!」」

 

 きっちり最後まで撮影してからこの場を離れるジャーナリストの鏡。

 

「ヴァンガード、準備は終えたのですか?」

 

「勿論です、スペクター様」

 

 橋を一部落としてハノイの塔へ続く道を限られたものにする。プレイメーカー達を待ち伏せする手間を減らし、いざとなったら橋ごと落として道連れにする。もしも主人公ごと橋を落として原作通りにならなかった時の保険はしてあるけど、これがばれた瞬間私はスペクター様の手によって消されるだろう。

 

 ――最後の時が近づいている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 北村、彼の不運はハノイの騎士の目的はリンクヴレインズの支配ではなく、ネットワークの消滅であることを知らなかったこと。リボルバーを利用して保身を図ろうとしたこと。そしてもう一つは。

 

 ――気に食わない。飼い犬に手を噛まれる、とはこのことを言うのだろう。ヴァンガードがハノイの騎士を辞める、それはリボルバー様に対しての侮辱に等しい。リボルバー様の温情でここまで共に来たのに、それを裏切るとは。万死に値する。

 

 スペクターがヴァンガードに対して苛立っていること。その苛立ちのはけ口となったことだった。そして、その苛立ちは未だに彼の中で燻っている。もし、ヴァンガードが何か裏切りと取れる行動を起こしたなら――。

 

 ――その時がヴァンガードの最期となるだろう。




まあいきなりハノイの騎士辞めますって言ったらスペクターキレるよねっていう。

〜スペクターとのデュエルの一幕〜
スペ「サンシード・ゲニウス・ロキをリンクマーカーにセット!聖天樹の幼精をリンク召喚!カードを二枚伏せてターンエンド」

ヴァ「機殻の生贄装備したクリフォート・ゲノムをリリースしてクリフォート・エイリアス召喚。チェーン1は機殻の生贄、チェーン2はゲノム、チェーン3にエイリアスの効果。まずはエイリアスで聖天樹の幼精をバウンス」

スペ「手札の聖蔓の乙女の効果で」

エイリアス<すまんの、俺の効果の発動に対して相手はチェーンできへんのや。

スペ「」

リボ「(これでバウンス何回目だ……?)」

これはひどい。

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