サモソが死にましたが、皆さん大丈夫ですか……?
作者はTG スター・ガーディアンで死にました。こんなカード出されたら墓に入るしかねぇ!
閑散とした電脳図書館の中。一人のデュエリストが必要最低限の明かりの下、本の小山を三つほど作り上げていた。
今読み終えた本を頂上へ積み上げようとした、その時。彼女の後ろから声がした。
「や。昨日ぶり、だね」
「……ヴァンガード。」
互いに見知らぬ姿だったが、すぐにその正体に気付いた。
ヴァンガードは毎回姿を変えてグラドスの前に現れる。前回は一本足にタイヤを付け、蛇腹の腕の先に4本指の手を持つ箱型ロボットだった。今回は黒のロングコートと帽子を身につけた長身の男性のようだ。
「この見た目の時はサブウェイマスターって呼んでほしいな。っとそれより、今私達はリンクマジックを使ってきた奴らを追っているんだ。そこで――」
「進入禁止エリアについて、でしょう?」
グラドスもその事については調べがついている。
謎の人物、ボーマンとハルが逃げていった未知のエリア。その先にSOLテクノロジーですら正体を掴んでいないゲートが出現。調査隊が送られたが、帰還者は0。リンクヴレインズの管理者がこの様だ。一人で潜入するのは危険でしかない。
「知っているなら話は早い。私達は進入禁止エリアの奥に敵のアジトがあると予測してる。突入する目処がついたから、出来れば力を貸「いいですよ」し、て?」
思っていたよりもあっさりと承諾した。
「……あれ、聞き間違いかな?」
「聞き間違いではありません、ヴァ……サブウェイマスター。SOLも帰還者0の現状を受け、更なる調査をいつ行うかは未定だそうです。このまま潜伏しているだけでは何も変わらないでしょう。この状況を変えるにはこちらから動くしかありません」
言い終えると同時にコンソールを空中に表示させ、山積みになった本の返却手続きを済ませる。
「いつ出発する予定で?」
「それが、さー。……明日」
「あした」
ぱちぱち、と目を瞬かせて言葉を反復する。
「なるほど、ゲリラ的行動の方が予測されにくいですしね」
「……もうちょっとさー、なんか……うん。いいや」
私、流石に急すぎるとか準備が足りないとか、文句言われると思っていたんだけど。
怖いわー。グラドスがいい子すぎて怖いわー。
数日前、カフェ・ナギに集まるよう草薙さんから連絡を受け、皆が揃ってからそれは伝えられた。
「ゴーストガールからメール?」
「ご丁寧に進入禁止エリアの情報と入り方も付いてな。俺達を送り込む気なんだろう」
「ダメダメ! どー考えても罠じゃん! あの女、俺達をまた騙す気だよきっと!」
かつてゴーストガールによって騙された事をAiはしっかりと覚えている。だから今回もロクな目に合わないだろうと突入には否定的だ。
「これだけの情報はSOLテクノロジー以外からは流れない。となれば情報の出所は財前だろう」
「それに向こうにはバウンティハンターもいる。素直に考えればAiの言う通り罠だが……」
そうそうその通り、と同意を求めるAi。
「だが今やつに関する手がかりは何もない。あるのはそのエリアに消えたという情報だけ。だったらたとえ罠でもそのゲートを確かめるしかない」
「危険だぞ」
「わかっている」
遊作君の目に迷いはない。口を開いてはいないが、穂村君も同じ思いだろう。
「え、え、マジで行くの? ……ハッ、詩織ちゃんはどーなのよ!?」
Aiはどうしても行きたくないようで、すがるようなウルウル目で私を見上げる。
ハノイ時代の作戦は確実性が高い物を選んで進めてきたのを彼等はよく知っている。だからこそ、この流れを止めてくれると思って私に話題を振ったのだろう。
「んー……私も皆が言う通り、何かあるのは間違いないと思う。でもそれが何かまで今は特定できない。で、これは今日送られてきたんで間違いないですよね?」
「ん? ああ、そうだが」
「じゃあ、さ。今すぐじゃなくて数日焦らしてからゴー! で、どうですか? 相手の隙を突ける可能性はそっちの方が大きいと思いますけど」
準備も何もせずに突入するのはリスクが高すぎる。ゴーストガールが何もしてこない筈がない。かといって何もしないは論外。SOLテクノロジーに先を越されるのはこちらにとって大損害になる。結局、Aiがなんて言おうと行くしかない。
「……なるほど、一理あるな」
「あーん結局行くんじゃーんー!」
そして当日。二人は本来の姿でデュエルボードに乗り進入禁止エリアを目指していた。
「――なるほど。二人一組で時間と場所をずらして潜入、ですか」
「そ。出来る限り全員まとめて罠にかかるのは避けようってAiの提案。もしプレイメーカーとソウルバーナーに何かあっても、私達がゲートの中に入れるように、ってね」
それに、注意すべきバウンティハンター達の情報は私が把握できている分しっかり全部伝えてある。
「……しかし、Go鬼塚がバウンティハンターになっていたとは……」
「そこは私も驚いたよ。最近リンクヴレインズで見ないなーって思っていた時に、だもん」
バウンティハンターになったとはいえ、彼は元カリスマデュエリスト。そう卑怯な手は使わず、自身の力だけでイグニス奪還を成功させようとするだろう。
故に、一番気をつけるべきはブラッドシェパード。いかなる手段を用いてでも依頼を成功させるハンター。のはずだが……。
「(私に対しての態度が他人と比べて明らかに柔らかいんだよなぁ……)」
サブウェイマスターとして活動中、偶然出会った時の第一声が「調子はどうだ?」である。それも友人に話しかけるような声で。
他にも、ブラッドシェパードの事を知っている人からすれば信じられない言動がぽんぽん飛ぶのだ。
サブウェイマスターはブラッドシェパードが推薦した。大会で成績をあげているデュエリストは他にも大勢いるのに、(元ハノイの騎士と知らなければ)ただの女子高生である私を選んだ。
つまり、私自身について何か引っかかるものがあったのだろう。
「(まさか、ロリコげふんげふん。冗談でもそれは無い。私が気付いてないだけで共通点があるとか? じゃないとあの対応の違いはおかしい……。機械族使い? そんな単純じゃないだろうし…………いや待った、機械? そういえば……)」
衣服の不審者感が強くて忘れそうになるが、彼の右腕は機械だった。右腕を何かで失ったのだ。そう、何か――。
「(…………これが当たっているとすれば、直接は聞かない方がいいかな)」
「ソウルバーナー、プレイメーカー共に交戦状態に入ったようです。相手は……Go鬼塚とブラッドシェパード!」
そんなことを考えているうちに事態は進展したようだ。
「やっぱりその二人か! 今のうちに急ぐよ!」
ステルスプログラムがかかっているとはいえ、悠長にしている時間はない。デュエルボードを加速させ、二人は下降していった。
……加速すると共にだんだん小さくなる後ろ姿を見つめる人影が二つ。互いに似たような姿をした女性デュエリスト。ゴーストガールとブルーガールだ。
「――あれは、ヴァンガードとグラドス!? 早く追いかけないとっ」
「ちょっと、待ちなさいブルーガール。彼らを先行させておけば、私達は安全にゲートまで行けるじゃない」
どうどう、と落ち着かせようとするが全く効果はない。
「でも、先にイグニスと接触されたらっ」
「そんなのあり得ないわ」
「なんで言い切れるの? ゴーストガール」
焦るブルーガールと対称に、ゴーストガールは余裕の表情。
「だって、ヴァンガードは――」
――元ハノイの騎士じゃない?
二人共デュエルをしながらも下降していたようで、合流するのにそこまで時間はかからなかった。
「……嘘吐いてた訳じゃなかったんだな、ヴァンガード」
「私そこで嘘つく利益ないからね? もうちょい信じてくれても……」
Go鬼塚は剛鬼デッキからダイナレスラーデッキへと変えたと言っても穂村君はあまり信じていなかった。なぜなら、カリスマデュエリストとしてのGo鬼塚に憧れていたから。だからこそ変わったことを認めたくなかったのだろう。
「おっ! あれがゲートか」
一面の青の中、ぽっかりと浮かぶ緑の渦。
「あの向こうに奴は消えたのか……。よし、行くぞ!」
プレイメーカーの掛け声と共にゲートに入った私達を迎えたのは激しく吹き荒れる風。ぐらりぐらりとデュエルボードが翻弄される中、狙いすましたような一筋の風が――。
「何これ私だけ風がめっちゃ強いぃぃぃぃい――」
「ヴァンガードーー!?」
「ほっとけ、アイツの事だから何とかなるだろ」
進入早々にお空へ吹っ飛ばされた。さながら風で舞い上がるビニール袋のように。
『キャッチー!』
かに思えたが、クラッキング・ドラゴンによって事なきを得た。
「でも、俺達もこのままじゃ落っこちるのは時間の問題だぜ」
風は止むことなく私達に襲いかかる。この状況が続けば、いつか崖に叩きつけられるだろう。
「私達の出番だ、いくぞAi!」
「ああ!」
イグニス二人はデータストームを利用して風を打ち消しているようだ。
「なるほどね。グラドス、私の後ろに! 頼むよクラッキング・ドラゴン!」
『ぐわぁおー!』
彼らの真似をするように、小さくなったクラッキング・ドラゴンがエネルギー波を放つ。
「ヴァンガード……有り難うございます」
「んー? いやいや、ありがとうとかいいよ。今私達を見ているだろうイグニスに、元ハノイの騎士だけど、私はイグニスの味方だってこと見せたいだけだからさ」
「……ええ、そういう事にしておきますよ」
くすり、と笑った様な気がした。
前から、横から、後ろから。風は縦横無尽に吹き荒れる。
「うぅっ……クッ……」
『出力、低下……ヴゥウ』
「も、もうダメ〜っ!」
皆の防壁が無くなった瞬間、私達を拒むのを諦めたかの様に風は吹き止んだ。道なりに進んで行くと――。
「何だあれは?」
「建物……の様ですが」
先程まで通ってきた、崖に挟まれた道とは違い、ずいぶんと開けた場所に出た。中心部には神殿の様な建物が浮かんでいる。
皆デュエルボードから降り、神殿の前に着地する。
「静かだな」
「あぁ、静かすぎる」
私達の会話しか聞こえない中、べきべき、と木々が折れる音が静寂を裂いた。
「気をつけて下さい、何か来ます!」
現れたそれを見た不霊夢が叫ぶ。
「こいつはサイバース世界を滅ぼしたモンスター!」
「何だと!?」
草木を掻き分けて現れた怪物は、その目に私だけをうつして――。
「ってまた私!?」
怪物がごう、と何かを放つ。わざとか偶然か、その一撃は私ではなく、その後ろに当たった。誰にも怪我はない様だが、このままでは巻き添えを食らう可能性は高い。
「っ、ヴァンガード!」
「大丈夫、すぐ終わらせる!」
怪物はもう一度あの攻撃を放とうとしている。ヴァンガードは皆と同じく逃げ――
「おい、嘘だろ!?」
――はせず、正面へ突っ込んだ。腹の下へ潜り込むと同時に、狙うべき一点を指し示す。
「トラフィック・ブラストォッ!」
周りに被害が出ないよう圧縮したブレスは怪物の胴体を貫通し、空へ伸びる光の柱を作る。
どたり、と横に倒れた怪物にクラッキング・ドラゴンはがじがじ噛り付いて分解し始めた。
「……とまあ、こんなもんかな? ……あれ、どしたの皆?」
流れる様な討伐を見ていた皆は呆然としている。
「ヴァンガード、あー。その……あーゆーの、やった事あるのか?」
「いや? 初めてだけど」
「これが……ディアハ……!」
グラドスだけは目をキラキラさせている。
「……ふーん? ニンゲンにしてはまあまあやるじゃないか」
ディアハもどきをするハメになった原因であろうイグニスが、顔の上半分がない付き人(?)の肩に乗っていた。
「風のイグニス! いきなり何すんだよ!」
てっぺんからつま先まで怒りで満ち溢れた様子のAi。命の危機を感じたのだから当然だろう。
「狙っていたのはハノイの騎士だけで、君達に危害を加えるつもりはなかった。……それに、コイツらのせいで僕達とサイバース世界は酷い目にあったんだ、このぐらいは許されるとは思うけどなぁ?」
「うーん否定できない」
「えー……認めちゃうの?」
命の危険を感じたんだから文句言っても大丈夫だろ的な圧を二人から感じる。
風のイグニス――ウィンディはワールドの奥へ案内しつつ、こちらの質問に答えた。
曰く、このワールドはイグニスの仲間達を集める為と敵をおびきだす二つの目的で作られたこと。
「で、グラドスだっけ? 普通のAIからイグニスへと変化した……僕達としても興味深い存在。どうだい? そんな人間の手助けなんかするより、サイバース世界の再建の方が大事だと思うんだけど」
「確かに、サイバース世界の再建は我らイグニスの悲願」
不霊夢、とソウルバーナーがつぶやく。
「サイバース世界の再建、ですか…………すみません、よく、わかりません」
心なしかしょんぼりしている。
「ウィンディ、グラドスはサイバース世界の事を何も知らない。その選択はただ困らせるだけだ」
「へー、そうだったのか。ま、考えといてよ」
ボーマン達がいると思われる場所への道を開く。その為にウィンディから提示された条件は、ゴーストガールとブルーエンジェルに似た謎の青い少女を倒すこと。
「グラドス、君は行かなくていい。サイバース世界の素晴らしさには遠く及ばないけど、僕の風のワールドを堪能してくれ」
ウィンディは隠そうともせずグラドスをイグニス側へ誘っている。新しく増えた仲間を危険な目に合わせたくないと考えるのは当然かもしれない。
「……グラドス?」
途中まで着いていくと言ってグラドスも一緒に来たのだが、足音が途中で止まった。どうやら立ち止まって何かを見ているらしい。視線の先では、蜘蛛の巣に引っかかった蝶が力なくもがいていた。
「ヴァンガード……私は、どうするべきでしょうか」
蝶を助けるべきか、否か。
人間か、イグニスか。
その二つを重ね合わせているのだろう。表情は分かりにくいが、かなり混乱している。
いつか突きつけられるだろう二択。考えもしなかったのか、目を背けていたのかはわからないが。
「それは、どちらの視点で見るかによって変わるものだよ」
食べられる蝶をかわいそうと思い解放しても、蜘蛛の視点から見れば折角のエサを失った事になる。蜘蛛がもしずっと腹を空かせていたら? そんな事を考え出したらキリがない。
「ウィンディは今すぐ決めろと強制はしていなかった。時間はまだある。……いっぱい考えて、自分で決めるんだ。後悔しない様に、ね」
グラドスからの返事はなかった。
プレイメーカーは話し合いでなんとか引いてもらいたかったようだが決裂。デュエルによって決着はつくことになった。
Aiの起こしたデータストームによって、プレイメーカーは彼女達が追いつけないところまで加速済み。ソウルバーナーがブルーガールとデュエルするとなると、必然的に私の相手は――。
「プレイメーカーじゃなくてごめんね、ゴーストガール」
「あらヴァンガード、一緒にいたグラドスはどこへ行ったのかしら?」
「それを知りたいなら、分かってるでしょ?」
「デュエルね。いいわ、私のオルターガイストで貴女の鉄くず達を蹴散らしてあげる!」
鉄くず、か。あいにく煽りにはパワーが足りていない。機械族にはジャンクやスクラップと名のついたモンスターもいるので。
「そうだね、じゃあこっちは……」
顎に手をあて、ちょっと考え込む様な仕草。煽りには煽りで返そう、と考えついた言葉は。
「――私のデッキ調整に付き合ってもらおうかな?」
それを聞いてゴーストガールの顔色が変わる。
「っ、ふうん……デッキ調整の相手に、ねぇ?」
お宝を追って出会ってしまったリボルバーとのデュエル。その始めにリボルバーが言った言葉。
『では私のデッキ調整に付き合ってもらおう』
ハノイの騎士であった彼女が似た言葉を言ったのは偶然か。それだけだが、あの時の苦い経験を思い出させるには十分だった。
「その言葉、後悔しても知らないわよ……!」
「「スピードデュエル!」」
オルターガイストデュエル考えるのつらい……つらい……。
長引かせたくない……いいよね……?
ボチヤミサンタイ「ええで」