どうも、ハノイの騎士(バイト)です。   作:ウボァー

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大変お待たせいたしました。作者の事情で投稿が予定より大幅に遅れてしまい申し訳ありません。おのれインフルエンザ!
ゴーストガール戦、決着です。


オルター・リハーサル

ヴァンガード

LP 4800 手札0

 

モンスター

オルフェゴール・オーケストリオン Link4 ATK3000

星遺物-『星槍』 ☆8 ATK3000

 

魔法・罠

伏せカード1枚

 

 

ゴーストガール

LP 800 手札5→6

 

モンスター

オルターガイスト・シルキタス ☆2 DEF1500

オルターガイスト・クンティエリ ☆5 DEF2400

星遺物トークン ☆1 DEF0

 

魔法・罠

パーソナル・スプーフィング

オルターガイスト・プロトコル

 

 

「私のターン、ドロー!」

 

 戦況はどちらが有利か、と問われれば間違いなくヴァンガードだろう。高攻撃力モンスター2体、未だに減らせていないライフ。

 オルターガイストモンスターは元々の攻撃力が低く、3000の壁を越えるのは至難の技だ。その代わりに相手の妨害に長けている。一撃を通せばこの盤面をひっくり返すことは可能だ。

 

「(ドローしたカードは……! よし、これなら!)」

 

 気がかりなのは最初のターンにセットされてから触れる様子がない1枚のカード。プロトコルやマテリアリゼーションに対してチェーンしてこない事から、こちらの魔法・罠を阻害するようなものではないと予想できる。あのカードが攻撃反応系でなければ、メリュシークの効果で流れはこちらに一気に傾く。

 

「シルキタスの効果! オルターガイスト・クンティエリを手札に戻して、オルフェゴール・オーケストリオンを対象に発動! そのカードを持ち主の手札に戻す! せっかくの切り札ですけど、エクストラデッキに戻ってもらうわ!」

 

「……こうもあっさり退かしてくるか」

 

 オーケストリオンは戦闘、効果による破壊に対しては耐性を持っているが、バウンスには抵抗できない。フィールドから姿が消え、エクストラデッキへ戻ってしまった。

 

「速攻魔法、ディメンションマジック! 自分フィールドに魔法使い族モンスターが存在する場合、自分フィールドのモンスター1体を対象として発動できる! そのモンスターをリリースし、手札から魔法使い族モンスター1体を特殊召喚する。その後、フィールドのモンスター1体を選んで破壊できる! 私は星遺物トークンをリリースして、手札からクンティエリを特殊召喚! そして星遺物-『星槍』を破壊!」

 

 厄介だったはずのトークンが一転。展開の足掛かりとして利用されてしまった。

 こちらに壁となるモンスターはいない。ゴーストガールのフィールドにはオルターガイストモンスターが2体。それに通常召喚をまだしていない。この状況で、4000ものライフ差をひっくり返せる効果を持つモンスターは――。

 

「私の前に開きなさい、未知なる異世界に繋がるサーキット! 召喚条件は『オルターガイスト』モンスター2体! 私はシルキタスとクンティエリをリンクマーカーにセット! リンク召喚! 現れよ! リンク2、オルターガイスト・キードゥルガー!」

 

 

《オルターガイスト・キードゥルガー》

リンク・効果モンスター

リンク2/闇属性/魔法使い族/攻1000

【リンクマーカー:左/下】

「オルターガイスト」モンスター2体

(1):このカード以外の自分の「オルターガイスト」モンスターが相手に戦闘ダメージを与えた時、

相手の墓地のモンスター1体を対象として発動できる。

そのモンスターをこのカードのリンク先となる自分フィールドに特殊召喚する。

この効果で特殊召喚したモンスターは、このカードが攻撃宣言したターンしか攻撃できない。

(2):このカードが戦闘で破壊された場合、

自分の墓地の「オルターガイスト」カード1枚を対象として発動できる。

そのカードを手札に加える。

 

 

 ゴーストガールのリンク召喚により、四対の腕を持つ女神が降り立つ。

 

「オルターガイスト・メリュシークを通常召喚。更にカードを1枚セット。バトル! オルターガイスト・メリュシークでヴァンガードにダイレクトアタック!」

 

 メリュシークが尾ひれを叩きつける。

 

「っ!」

 

ヴァンガード

LP 4800→4300

 

「この瞬間、メリュシークとキードゥルガーの効果が発動! メリュシークが戦闘ダメージを与えた時、相手フィールドのカード1枚を対象にして墓地へ送る! そのセットカードを墓地へ送らせてもらうわ!」

 

 メリュシークがセットカードを墓地へと沈め、ゴーストガールのフィールドへ戻って行く。

 

「そしてキードゥルガーの効果! このカード以外の自分フィールドの『オルターガイスト』モンスターが相手に戦闘ダメージを与えた時、相手の墓地のモンスター1体を対象として発動! そのモンスターをキードゥルガーのリンク先となる自分フィールドに特殊召喚する! さあ、私のしもべになりなさい! 『クラッキング・ドラゴン』!」

 

『ご、ご主人〜〜っ!』

 

 半泣きの状態で墓地から引っ張り出されるクラッキング・ドラゴン。攻撃していない2体の攻撃力の合計は4000。ヴァンガードの残りライフは4300。攻撃を防ぐ手段がなければ残りライフは一気に300まで減る。

 レベルを持つモンスターを召喚すればクラッキング・ドラゴンの効果で削り取られて敗北。モンスターを守備表示でセットしたとしても、メリュシークのダイレクトアタックで敗北。勝利を目前にしたゴーストガールは不敵に笑う。

 

「さあ、この攻撃でお終いよ! キードゥルガーで――」

 

「――それはどうかな? 私のフィールドをよく見てごらん!」

 

 先程までモンスターがいなかったはずのフィールドに、青い機械装甲に身を包んだ少女がいた。

 

《閃刀姫-シズク》

Link1/攻1500

【リンクマーカー:右上】

 

「っ!? いったいいつの間に……!」

 

「メリュシークによって墓地に送られたセットカード……やぶ蛇の効果を私は発動していた」

 

 

《やぶ蛇》

通常罠

(1):セットされているこのカードが相手の効果でフィールドから離れ、

墓地へ送られた場合または除外された場合に発動できる。

デッキ・EXデッキからモンスター1体を特殊召喚する。

 

 

「その効果で私は、エクストラデッキから閃刀姫-シズクを特殊召喚した。それだけだよ」

 

 何でもないことのように説明するヴァンガードだが、これはかなりの博打だ。シルキタスの効果によってやぶ蛇がバウンスされていれば、壁となるモンスターは現れず、ライフが大きく削られてしまう。

 

「最初からずっと、私がこうする事を予見していたというの……!?」

 

 その呟きに応えるようにウインクを返す。

 

「流石に予見とまではいかないよ。シルキタスの効果はエクストラデッキから召喚したモンスターに使うだろうと予想していただけ。結構ヒヤヒヤしてたんだよ? ……ああそうそう、シズクの効果で貴方のフィールドのモンスターの攻撃力・守備力は、私の墓地の魔法カードの数×100ダウンする。それでも攻撃する?」

 

 ヴァンガードの墓地の魔法カードは、《D・D・R》《ワン・フォー・ワン》《オルフェゴール・プライム》《星遺物の醒存》《エネミーコントローラー》の合計5枚。墓地の魔法の枚数分、シズクは妨害電波の出力を上げる。

 

オルターガイスト・メリュシーク

攻500→0

 

オルターガイスト・キードゥルガー

攻1000→500

 

クラッキング・ドラゴン

攻3000→2500

 

 キードゥルガーの効果で特殊召喚したモンスターは、キードゥルガーが攻撃宣言したターンしか攻撃できないという縛りがある。

 キードゥルガーと閃刀姫-シズクの攻撃力の差は1000。対してゴーストガールのライフは800。攻撃と同時に敗北が確定する。

 

「……バトルはしない。ターンエンドよ」

 

「エンドフェイズに特殊召喚したシズクの効果を発動! デッキから同名カードが自分の墓地に存在しない『閃刀』魔法カード1枚を手札に加える。私はデッキから閃刀起動-エンゲージを手札に加える!」

 

 ゴーストガールのフィールドにモンスターは3体。その壁を崩そうとモンスターを大量に召喚すれば、自身のエースモンスターの効果によりヴァンガードのライフは削れていく。クラッキング・ドラゴンを奪えた事によりゴーストガールがぐっと有利になった、その筈だ。

 

「(ハノイの騎士時代に愛用していた高レベルモンスター。それに加えてオルフェゴールに閃刀姫!? 本当、どうなってるのよあのデッキは……!)」

 

 ゴーストガールの目には、ヴァンガードのデッキが何が出てきてもおかしくないブラックボックスにしか見えなくなってきている。

 

「私のターン、ドロー! 自分のメインモンスターゾーンにモンスターが存在しない場合、閃刀起動-エンゲージは発動できる! その効果で私は、デッキから『閃刀起動-エンゲージ』以外の『閃刀』カード1枚を手札に加える。 そして、私の墓地に魔法カードが3枚以上存在する場合、 私はデッキから1枚ドローできる。私はデッキから閃刀機-ウィドウアンカーを手札に加え、さらに1枚ドローする!」

 

 効果により追加で1枚ドローしたカードをそのまま発動する。

 

「終わりの始まりを発動! この魔法カードは、私の墓地に闇属性モンスターが7体以上存在する場合に発動する事ができる。墓地に存在する闇属性モンスター5体をゲームから除外する事で、 デッキからカードを3枚ドロー!」

 

 ヴァンガードの墓地の闇属性モンスターは《オルフェゴール・カノーネ》《ジャック・ワイバーン》《ダーク・アームド・ドラゴン》《星遺物-『星槍』》《サクリファイス・アニマ》《見習い魔嬢》《オルフェゴール・ロンギルス》の合計7体。

 ジャック・ワイバーンとオルフェゴール・ロンギルスを墓地に残し、それ以外の5体のモンスターを除外する。

 連続して発動した魔法により、ヴァンガードの手札は一気に5枚まで増える。

 

「……よし。速攻魔法、閃刀機-ウィドウアンカー発動! このカードはエンゲージと同じ発動条件を持つカード。 フィールドの効果モンスター1体を対象として発動、そのモンスターの効果をターン終了時まで無効にする効果がある。私はこの効果をクラッキング・ドラゴンを対象に発動する!」

 

 

  ――ヴァンガードは途中で説明を切ったが、ウィドウアンカーの効果はこう続く。『その後、自分の墓地に魔法カードが3枚以上存在する場合、 そのモンスターのコントロールをエンドフェイズまで得る事ができる。』

 主人に敵対するという生き恥を晒してしまったのを挽回するチャンス。これにはクラッキング・ドラゴンもにっこり。

 

 蜘蛛型のアンカーに鷲掴みにされ、引っ張られてヴァンガードのフィールドに戻ろうと。戻ろう、と……?

 

『…………………………あれ、ご主人???』

 

「…………すまない。本当にすまない……」

 

 クラッキング・ドラゴンから向けられる純粋な視線から逃げるよう目線をそらし、気まずそうに呟く。

 

 

 ――この手札、君が出る幕ないわ。

 

 

『………………えっ』

 

 その言葉の意味を理解した瞬間、涙が両目一杯に溢れる。目を潤ませて必死の懇願。

 

『嘘だと言ってご主人! 実は更なる効果を発動していたのさ! って言ってー!』

 

「……私はシズクをリリースして手札から魔法カード、モンスターゲート発動!」

 

『ごしゅじーーーーん!!』

 

「(……何を見させられているのかしら、コレ)」

 

 唐突に始まった茶番にゴーストガールは呆れている。びぃびぃ泣き出したハノイの騎士の象徴たるモンスターをなだめようと、オロオロしつつもキードゥルガーは複数ある腕をフル活用して撫で始めた。

 

「通常召喚可能なモンスターが出るまで自分のデッキの上からカードをめくり、 そのモンスターを特殊召喚する。 残りのめくったカードは全て墓地へ送る。……頼むよ私のデッキ、クラッキング・ドラゴンに嫌がらせをしたくてした訳じゃないからホントに……!」

 

 ――1枚目、《ブラック・ホール》。

 ――2枚目、《終末の騎士》。

 

「よし! モンスターゲートの効果で終末の騎士を特殊召喚。更に終末の騎士の特殊召喚に成功した事で効果を発動! デッキから闇属性モンスター、亡龍の戦慄-デストルドーを墓地に送る」

 

《終末の騎士》

星4/攻1400

 

 フィールドからシズクが消えたことで、ゴーストガールのモンスター達のステータスは元に戻る。

 

「墓地のデストルドーの効果! ライフを半分払い、 自分フィールドのレベル6以下のモンスターを対象にして発動! このカードを特殊召喚する! この効果で特殊召喚したデストルドーは、レベルが対象のモンスターのレベル分だけ下がり、フィールドから離れた場合にデッキの一番下に戻る。終末の騎士のレベルは4、よってデストルドーのレベルは7から3へ変化する!」

 

 朽ち果てた身を震わせ、墓地から恐ろしき龍の咆哮が轟く。

 

《亡龍の戦慄-デストルドー》

星7→3/攻1000

 

ヴァンガード

LP 4300→2150

 

 死臭を漂わせ墓地から舞い戻るデストルドー。レベルが変動すると同時にそれは強まり、思わずむせる。

 

「けほっ……更にフィールドにチューナーモンスターが存在する時、墓地からボルト・ヘッジホッグは特殊召喚できる! この効果で特殊召喚したこのカードは、フィールドから離れた場合除外される」

 

《ボルト・ヘッジホッグ》

星2/攻800

 

 フィールドには3体のモンスター。どのモンスターも攻撃力は心許ないが、ヴァンガードはこのまま攻撃する訳ではない。彼女はボルト・ヘッジホッグを特殊召喚する時、『フィールドにチューナーモンスターが存在する』と言っていた。

 

「チューナー……!? まさか!」

 

「レベル4の終末の騎士、レベル2のボルト・ヘッジホッグに、レベル3となったデストルドーをチューニング!」

 

 レベルの合計は9。チューナー以外のモンスターは2体。この条件で呼ばれるシンクロモンスターは、腕の立つデュエリストならば誰でも知っている。

 

「氷嵐呼ぶ魔槍よ! 古の戒め解き放ち、その威を示せ! シンクロ召喚! 来たれ、レベル9! 氷結界の龍トリシューラ!」

 

《氷結界の龍 トリシューラ》

星9/攻2700

 

 三つの首を持つ龍が翼を羽ばたかせる度に雹が舞う。破壊神の持つ槍の名を冠するドラゴンは、フィールドを睥睨する。

 

「トリシューラがシンクロ召喚に成功したことで効果発動! 相手の手札・フィールド・墓地のカードをそれぞれ1枚まで選んで除外できる!」

 

「その効果は通さない! フィールドのメリュシークを墓地へ送り、オルターガイスト・プロトコル発動! さらにオルターガイスト・マテリアリゼーションも発動! チェーン処理よ、まずはプロトコルの効果でトリシューラの効果の発動を無効にして破壊する! 消えなさい、トリシューラ!」

 

 デストルドーにプロトコルを当ててシンクロ召喚を阻止すれば……いや、その時は別のモンスターがフィールドに現れるだけだ。どう繋げてくるか分からない以上、展開の終着点となる大型モンスターを止めるしかない。

 

「フィールドから墓地に送られたメリュシークの効果で、デッキからオルターガイスト・クンティエリを手札に加える。さらにオルターガイスト・マテリアリゼーションの効果で、墓地からシルキタスを攻撃表示で特殊召喚し、このカードを装備させるわ」

 

《オルターガイスト・シルキタス》

星2/攻800

 

 バウンスの準備を整えると同時に攻撃に備える。ヴァンガードの残り手札は3枚。墓地のモンスターを終わりの始まりで殆ど除外した事により、墓地の利用はデュエル開始時より難しくなった。ゴーストガールがこのターンを耐え切れる可能性は十分にある。

 

「チューナーモンスター、ブラック・ボンバーを通常召喚! ブラック・ボンバーが召喚に成功した時、墓地から機械族・闇属性・レベル4のモンスター1体を選択して表側守備表示で特殊召喚できる! 来て、ジャック・ワイバーン!」

 

《ブラック・ボンバー》

星3/攻100

 

《ジャック・ワイバーン》

星4/守0

 

「またチューナー……!? だからほんっとうに貴方、デッキ調整って何だったのよ!」

 

 今度の合計レベルは7。

 

「レベル4のジャック・ワイバーンに、レベル3のブラック・ボンバーをチューニング! 戦場を翔ける風よ! 黒鉄を纏い、爆炎と共に舞い上がれ! シンクロ召喚! 来たれ、レベル7! ダーク・ダイブ・ボンバー!」

 

《ダーク・ダイブ・ボンバー》

星7/攻2600

 

 ごうん、と黒鉄の爆撃機が唸りを上げる。自身の効果による爆撃がゴーストガールに通れば1400の効果ダメージを与えられるが――。

 

「シルキタスの効果! オルターガイスト・マテリアリゼーションを手札に戻すことで、ダーク・ダイブ・ボンバーを手札に戻す!」

 

「ダーク・ダイブ・ボンバーはシンクロモンスター、よってエクストラデッキに戻る」

 

 ダーク・ダイブ・ボンバーの効果はチェーン1でしか発動できない起動効果。シルキタスの効果に対し抗う術はない。

 

「マテリアリゼーションがフィールドを離れたことで、このカードを装備していたシルキタスは破壊される。……貴方は通常召喚権を既に使用した。呼べるモンスターはあと1、2体が限界でしょう。私の手札にはクンティエリがいる。どんなモンスターを呼ぼうと攻撃は届かない! 諦めてターンエンドの宣言をしなさい!」

 

 ゴーストガールのフィールドにはオルターガイスト・キードゥルガーとクラッキング・ドラゴン。発動しているパーソナル・スプーフィングにオルターガイスト・プロトコル。

 フィールドに『オルターガイスト』カードがある限り、クンティエリの効果が発動し、攻撃は届かない。

 

「……いいや、これで私の勝利は確定した! 魔法カード、死者蘇生を発動! 蘇れ、オルフェゴール・ロンギルス!」

 

《オルフェゴール・ロンギルス》

Link3/攻2500

【リンクマーカー:左上/上/右下】

 

「除外されている機械族モンスター2体を対象にして、ロンギルスの効果発動! 対象となった2体をデッキに戻し、リンク状態の相手モンスター1体を選んで墓地へ送る! ただしこの効果を使ったロンギルスは、このターン攻撃できない。私が選ぶのは、オルターガイスト・キードゥルガー!」

 

 ロンギルスはヴァンガードの指示を受け、槍をキードゥルガーへ投擲する。それに呼応するようにキードゥルガーの背後に墓地へ通じる穴が開いた。キードゥルガーは抵抗するが、槍の勢いを殺しきれずそのまま押し込まれる。

 

「攻撃力の高いクラッキング・ドラゴンの方を残して良かったのかしら? それに、その効果を使ったロンギルスはこのターン攻撃できない。貴方が言っていたことよ」

 

 ――これで『オルターガイスト』カードは残り1枚。

 

「これでいいんだよ、これで! ――今から見せるのは、このデッキのとっておき。そして新たな進化の可能性!」

 

 そう言い放つと同時に腕を真っ直ぐに伸ばす。ロンギルスの足元にリンクサーキットが展開し――さらに、Xの字を描く様に光が走る。

 

 

「オルフェゴール・ロンギルス1体で、オーバーレイネットワークを構築(・・・・・・・・・・・・・・・)!」

 

 

「そんなっ……! リンクモンスターでエクシーズ召喚ですって!? あり得ないわ!!」

 

 エクシーズ召喚とは本来、同じレベルのモンスター2体以上で行うものだ。当然、リンクモンスターにレベルは存在しない。今目にしているものは本来あり得る筈がないものだ。

 ロンギルスは光の粒子へと姿を変え、サーキットへと吸い込まれる。Xの字の先からサーキットの中心に光線が照射、収束し、二重螺旋が天へ伸び立つ。

 

「クロスアップ・エクシーズ・チェンジ!」

 

 天を貫く塔にも見える二重螺旋が弾け、新たな形に組み変わる。黄金色の輝きを纏った、馬に跨った機神。その姿にロンギルスの面影は残っていない。

 

「来たれ、ランク8! 宵星の機神(シーオルフェゴール)ディンギルス!」

 

 

宵星の機神(シーオルフェゴール)ディンギルス》

エクシーズ・効果モンスター

ランク8/闇属性/機械族/攻2600/守2100

レベル8モンスター×2

自分は「宵星の機神ディンギルス」を1ターンに1度しか特殊召喚できず、

自分フィールドの「オルフェゴール」リンクモンスターの上に重ねてX召喚する事もできる。

(1):このカードが特殊召喚に成功した場合、以下の効果から1つを選択して発動できる。

●相手フィールドのカード1枚を選んで墓地へ送る。

●除外されている自分の機械族モンスター1体を選び、このカードの下に重ねてX素材とする。

(2):自分フィールドのカードが戦闘・効果で破壊される場合、

代わりにこのカードのX素材を1つ取り除く事ができる。

 

 

「特殊召喚に成功したことで、ディンギルスの効果を発動! 相手フィールドのカード1枚を選んで墓地へ送る! 私が選ぶのは勿論、オルターガイスト・プロトコル!」

 

「しまっ……!? 本当の狙いはこっち!?」

 

 フィールドに『オルターガイスト』カードが存在していない、それはクンティエリを手札から呼ぶことができなくなる事を意味する。

 妨害手段を残しておけば――いいや、それはできなかった。ディンギルスを呼ぶ前にシンクロ召喚された氷結界の龍トリシューラにダーク・ダイブ・ボンバー。どちらもマトモに通ればこのデュエルを終わらせられる効果を持っている。

 

「バトル! 宵星の機神(シーオルフェゴール)ディンギルスで、クラッキング・ドラゴンを攻撃!」

 

「ディンギルスの方が攻撃力は下、一体何をっ」

 

「忘れてないかなゴーストガール。機械族とのバトル、一番警戒しなきゃいけないカードを!」

 

 ヴァンガードの手札、最後の1枚。

 

「速攻魔法、リミッター解除! 私のフィールドにいる機械族モンスターは、攻撃力が倍になる!」

 

 機神は長大な槍を構え突進する。クラッキング・ドラゴンはトラフィック・ブラストでヤケクソ気味に迎え撃つ。

 

「決めろ、ディンギルス! クライマクス・ストライク!」

 

 リミッター解除の効果を受け、ディンギルスの攻撃力は5200へと上昇した。ゴーストガールのフィールドにいるため、クラッキング・ドラゴンは強化の恩恵を受けられず攻撃力は3000のまま。

 槍が光を裂く。攻撃の勢いはさらに強くなり、クラッキング・ドラゴンを貫く。

 

ゴーストガール

LP 800→0

 

「きゃあああぁーーっ!!」

 

 攻撃の余波でデュエルボード上から吹き飛び、岩壁に衝突しそうになる彼女を慌てて助けに向かう。

 

「っとお! 大丈夫……だね、いやーよかったよかった」

 

 彼女のボードへと乗せ、体勢が安定するのを確認してから手を離す。

 

「……ありがとう。それで、何のつもりかしら?」

 

「デュエルが終わればノーサイド、ってつもりなんだけど……うーん、やっぱり信頼されてないなあ……」

 

 デッキからカードをドローする要領でプログラムを取り出し、自慢のモフモフであるレスキューアニマルを押しつけるように渡す。

 

「私は貴方達と敵対したい訳じゃない。サイバース世界を襲った敵が、危機が近くまで迫ってる。だから五体満足で戻ってもらわないと困るんだよ、電脳トレジャーハンター。…………キナ臭い企業を色々こっそり探るのは私、あんまり得意じゃないからさ。またいつか、依頼させて貰いたいんだよね」

 

 その意味を理解したゴーストガールは呆けたような顔になる。

 

「SOLの依頼で来ている私に言うことかしら、それ……? ……まあいいわ。その時は危険を加味して値段――倍で前払いにさせてもらうけど、そのぐらい問題無いわよね?」

 

「た、多分? それとあの、具体的な数字がよく聞こえなかったんですけど……あっ」

 

 そんな話をしているうちに、脱出プログラムによりゴーストガールはログアウトした。

 

「終わったか、ヴァンガード」

 

「うん。そっちも無事勝てたみたいだね。……それと超融合じみたアレ何? あんなの持ってるって私知らなかったんだけど?」

 

「リンクに重ねるエクシーズ使ったお前が言えたことじゃないだろ、ったく……あれで持ってる戦術全部出し切った訳じゃないよな?」

 

「? モチロンだけど? と言うより、あのデュエルはもっとデッキを回転を加速させるエンジン使ってないから……へーえ、これからの戦いについて心配してくれてるんだ? ツンデレバーナーさんめ」

 

 ちょいちょい、と肘でつっつこうとしたが避けられる。

 

「そうじゃねえよ! ……まったく、あいつの頭の中どうなってんだか」

 

「展開の高速化、複数の召喚法を取り入れ更に進化した戦術。しかもまだ隠し球があるとは……まさしく規格外、だな」

 

 

 ソウルバーナーはプレイメーカーの後を追って先へと進んだ。ならばとグラドスを迎えにデュエルボードを走らせる。

 

『ごっ、ひぐ、ごしゅじ、うぶふぅっ……』

 

「あーはいはい、向こうにコントロール渡ったこと気にしてないから! ね! そんな泣かなくても……」

 

『ぐずっ、うぐ、うううぅ……』

 

 デュエルが終わり、こちら側に戻ってきたクラッキング・ドラゴンはデュエルディスクに引きこもって泣き声だけ垂れ流していた。

 

「家帰ったらお菓子一緒に食べよう! だから…………っ!」

 

 突然、風のイグニスが作り上げたワールドが崩れていく。端から始まった消滅はぐんぐん加速し、グラドスがいるであろう所まで迫っていた。

 

「嘘でしょ!? グラドス……!」

 

 グラドスはリンクヴレインズで生まれたAIだ。私達と同じようにログアウトして逃げるということは不可能。だが、Aiや不霊夢のようにデュエルプログラムに変換すれば共に現実世界へ逃げられる。早く回収しなければいけない。無茶を承知で突入しようとした、その時だった。

 

 

 

 視界がすげ変わる。グラドスが何か――色のついた風、というのが似合っているそれに追い詰められていた。台風の目の中に取り残されたグラドスは、防御プログラムを球状に展開して必死に抵抗を続ける。

 風が一点に、グラドス目掛けて押し寄せる。その質量と圧で防御プログラムにヒビが入る。このままでは彼女は――。息を呑んだ。

 助けないと、逃がさないと。だが、今いる場所から助けに行ったとして、防御が破られるまでに間に合うはずなど――。

 

「――――!?」

 

 自分の身体の中の何かが使われた、そんな感じがした。

 その直後、グラドスのデュエルディスクが発光を始め、グラドスの姿が消える。その直後、風がグラドスがいた場所を飲み込む。だが、動きが先程までと比べて明らかに遅くなっている。それはまるで戸惑っているようで――。

 

 

 

 時間にしてほんの数秒。それでも足を止めるのには十分すぎる時間だった。

 

「……今のは、一体……!?」

 

『ヴァンガード! その周囲も崩れ出している! 危険だ、早くログアウトを!』

 

「……っ。お願いだから無事でいてよ、グラドス」

 

 見えた景色の正体も分からぬまま、ヴァンガードは現実世界へと戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 突然硬いものに着地する。かなりの距離を落下していた筈だが、思っていたよりも衝撃はこなかった。プレイメーカー達と連絡はつかない。頼れるものは自分一人、警戒しつつあたりを探索しようと動き出す。

 

「貴様、何者だ! どこから侵入してきた!」

 

 ――数分後、グラドスは鎧兜に身を包んだ存在に槍を向けられていた。

 

「な、侵入!? 私はウィンディが作ったワールドの崩壊に巻き込まれそうになって、風が牙をむいて、かと思えば光がなんかして、気がついたらここにいたんです!」

 

 がしゃがしゃと鎧の擦れる音を立てて駆けつけた兵士達が周囲を取り囲む。360度、見渡す限りの槍。

 

「訳の分からぬことをほざいても無駄だ! 怪しいヤツめ、その首……首? 切り落としてやろう!」

 

 彼らと自分の距離が段々と狭まる。槍の穂先が――。

 

「――その必要はありません。皆、武器を下げなさい」

 

 その声が耳に入った途端、兵士と思われる存在達がざわつく。

 

「ですが!」

 

「その者が現れたとほぼ同時に機殻(クリフォート)からの緊急連絡が入りました。彼女は迷い込んだだけ、敵意はありません」

 

「な、クリフォートがですか!?」

 

「奴等が動くとは、人間界でよほどのことが起きているのか……!?」

 

「(クリフォート……? ヴァンガードが何か関係しているのでしょうか?)」

 

 声がだんだんと近付き、兵士の波が引く。真っ直ぐに道が開かれ、そこには羽衣の様な翼とヒレを揺らめかせる青いドラゴンがいた。

 

「兵士たちの無礼をどうかお許しください、お客人。――私の名はエンシェント・フェアリー・ドラゴン。この精霊界の住人です」




この小説、今一番どうしようか悩んでるのが鬼塚とアースなんですよねぇ……。あの手術とかどうしよう本当。取り敢えずGO骨塚にはさせません。

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