どうも、ハノイの騎士(バイト)です。   作:ウボァー

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待たせすぎたな!
ごめんなさいマスターガイドの情報が衝撃的すぎてカードイラストで書かれてないところで色々やってたとかそんな事分からないよKONAMI。感想としてはガラテアちゃん可愛い。

今回の話から捏造設定濃度が急上昇するから注意して下さい。


人間、精霊、サイバース

「っはー! たく、あのブラッドシェパードって野郎許さねえぞ! 勝手に人の記憶を覗きやがって!」

 

「その……私にはどんな罠なのかは詳しくは知らされてなかったから、うん。あー……手が痛い……」

 

「今上を責めているわけではないと思うぞ」

 

 ログアウトして帰ってきた三人を迎える。なお今上用のログインルームはカフェ・ナギには無いので、彼女だけ椅子に座ったままInto the VRAINSしていたりする。

 

「お疲れ様、皆」

 

 テーブルの上にはカップが3つ。この匂いはコーヒーだろう。湯気が立っているところから、つい先ほど用意したものだとわかる。

 

『……あれ? あの人は本当は仲間だったのか?』

 

「ああそうだぜ」

 

「待て。Ai、誰に話しかけている」

 

「え、誰って……あれ、さっきの知らない声だったような……どちら様?」

 

 頭にはてなを浮かべたAiがあれれーおかしいぞーと声を出した何者かの気配を探る。

 

『僕だよ、ほらここ!』

 

 声が聞こえる方へ向くと、カフェ・ナギの天井近くでフワフワと浮かんでいるアストラムの姿が見える。大きさがデュエルを行なっていた時よりふた回りほど小さくなっているが、カフェ・ナギの広さを考慮してのものだろう。

 

「…………見えないのに声だけが聞こえる……」

 

「お、おおおおお化けか!? なんでこう嫌なことは連続して起きるんだよ!!」

 

「ついに遊作君にも精霊がついたかー、そっかー……」

 

『ぎゃう。ごしゅじーん、こっちの中にもなんか変なの増えてるよぅ……』

 

『至極快適、良好物件。優勝』

 

「……何を言ってるんだ皆? 俺には何も聞こえていないんだが……」

 

 反応をまとめると声が聞こえるのが遊作君と尊君、Aiに不霊夢。何もわかってないのが草薙さん。で、声も聞こえるし姿もバッチリ見えてるのは私だけ、ということは。

 

「サイバース族の精霊だから変にアンテナに引っかかってるのかなあ」

 

『う、そうかもしれない。大人しくカードができるまで待っていた方が良かったかなあ』

 

 ストームアクセスで手に入れたカードは出力すると現実世界でカードとして物質化する、という特性がある。実物のカードができていないのに精霊が存在しているというのも妙な話だが、まあ星遺物関係ならそういうこともあるのだろう。

 

「……今上は見えているのか?」

 

 一番落ち着いていて、かつ声の主人を理解しているようなそぶりを見せる私に遊作君が問いかける。

 

「かなりはっきり。皆のは幻聴じゃなくてリンクセンスのせいだと思うよ」

 

「リンクセンス……? ああ、初めて不霊夢と会った時と同じ感じか……?」

 

「……うむ。尊、よくわからないものに対して取り敢えずお化けというのはやめたほうがいいと思うぞ」

 

『え、見えない人がいる? おかしいなあ……そうだ、そこのデュエルディスクにいる君達! 君達は端末世界から来た精霊なんじゃないのかい?』

 

「うへ、声だけ聞こえてくるのってすっげー変な感じだな……端末世界ってあれだろ? 詩織チャンが知ってるアレ。俺はなーんにも知らないケド、不霊夢は?」

 

「私も知らないな。しかし、精霊? 我等イグニスはそんなものになった覚えはないが」

 

『あれ、おかしいな……君達から端末世界っぽい感じの力を感じてるんだけど』

 

 話は平行線で進展は見られない。互いの情報が足りないからだろうか――そう思った直後、ちかちか、と詩織が身につけているデュエルディスクが点滅する。

 

『まさかアストラムが来るとはな……仕方あるまい。俺が出る。退け』

 

『はぁ!? ここは科学文明での生活経験がある私の方がいいと思うんだけど! ねえ聞いてるシスコン騎士サマ!?』

 

『誰がシスコンだ黙れ羽虫……あの事を伝えればいいんだろう? なら俺でも問題ない』

 

『ふぎゃう!? 勝手に出たらだめだよ!? 皆我慢してるのに、ってあー! あーっ!』

 

「え、ちょっと何起きてるのクラッキング・ドラゴ――ぶぁっ」

 

 何かが持っていかれる感覚。突然電源が切られたかのように全身の力が入らなくなり、詩織はべしょっと机に突っ伏す。振動で机上のコーヒーが少し溢れた。

 

「これは……!?」

 

「――来る」

 

 リンクセンスを持つ者達は何かの来訪を感じ取る。本来ならば現実世界に現れるはずのないもの。

 空気が揺れる。彼女の隣に、宵星の機神(シーオルフェゴール)ディンギルスが現れた。

 

『――端末世界はもう捨てられた。そうだろう、アストラム』

 

『……ああ、そうだ。そうだったね。ディンギルス……すまない。呼び出された影響なのか、まだ記憶がまだ整理できていないんだ』

 

 誰の目にもはっきりと見えるその姿は、まごう事なき宵星の機神(シーオルフェゴール)ディンギルスだ。彼女が使った、掟破りのリンクに重ねるエクシーズ。

 それが、見えない何者かと会話している。

 

「お化けが増えたっ!?」

 

「く、クラー……」

 

『ぎゃう……もしもしー? そっち同士は分かってるかもしれないけど、人間はついていけてないから説明しないとダメなんじゃないかなー、ってご主人が心の中で抗議してる』

 

『…………はっ。しまった、彼女の魔力(ヘカ)のことを考えていなかった……』

 

『ディンギルス……』

 

 この戦友、基本スペックはとても高いのだが……緊急事態に面すると自分にとって大切なものを最優先として行動してしまい、他の事がすっぽ抜けるという視野の狭さも持ち合わせている。――そのせいで、かつて手に負えないような事態を招いた事もある。

 あちゃあ、と困ったように頭を手で押さえるアストラム。いや、実際一番話が通じる人が戦友の実体化によって倒れてしまい困っているのだが。

 

『まあ後で回復するだろう、大丈夫だ。そう負担はかけない』

 

『ぎゅぎゅう、今ご主人倒れて動けてないからなにもよくないと思うんだけど、負担しかないと思うんだけどー。ちょっと、聞いてるー?』

 

『……。この世界で何がどう伝わっていったのかは知らんが、スピードデュエルは元々端末世界の……デュエルターミナルのものだ。お前達が思っているよりも歴史は深い』

 

 無視されたと地味に傷ついているクラッキング・ドラゴンを気にせず語り出すディンギルス。

 

「……いきなり出てきてこいつ、何言ってるんだ? データストームとデュエルボードがないとスピードデュエルはできないはず、だろ? 俺たちイグニスがいなきゃ出来ないものだ。それが歴史がどうとかーって変な事言って騙そうとしてるんじゃないだろうな」

 

 Aiがデータストームを解放した事で大衆はスピードデュエルの存在を認知した。それまでスピードデュエルとは本当に存在するのか定かではない、噂だけのものだった。

 Aiを人質にしてから初めてのプレイメーカーの相手となったハノイの騎士は前からスピードデュエルを知っているような事を言っていたが、それはハノイの騎士が行なっていたサイバース狩りによってスピードデュエルに関する知識を得ていたから……の筈だ。

 

『イグニスが生み出すデータストームは必要ない。始まりのスピードデュエルはこちらの世界へ一時的にアクセスできる設備さえあれば誰でもできるものだった。それと、今の時代のように電脳世界へ精神ごと潜るものではない。……考えてもみろ、お前たちのしているスピードデュエルは転落を防止する柵も何もないんだぞ。あまりにも安全性に欠けている。なんでこんな危険なものとしてスピードデュエルを流行らせたのか理解に苦しむ』

 

「…………ウン、危険性については何も言えねぇです。ハイ」

 

 電脳世界で受けたダメージが現実世界に戻った時、一部反映されるという仕様はリンクヴレインズが稼働して以来修正されていない。もう一つの現実を目指して作られた電脳世界。痛みが、危険があるからこそ、現実たり得る――という考えでもあるのだろうか。

 

「……じ、じゃあどうしてそっちのスピードデュエルは無くなったんだ?」

 

 穂村尊が問いかけたそれは至極真っ当な疑問。お化けショックが抜けていないのか言葉には少し怯えが見られる。

 

『人が来なくなった。それだけの事だ。どんなものでもいつかは廃れ、忘れられていく。残ったのは名前だけだ』

 

 この世界では端末世界の物語は殆ど知られていない。が、モンスター達の人気は変わらない。たとえ背景に何があったのかを知らずとも、決闘者達を無意識のうちに惹きつける魅力が彼らにはあった。

 ――でも、それだけだ。それだけでしかなかった。

 

『人の手が入らない里山は里山とは呼べないだろう? 端末世界も同じだった。人間が来ないとモンスター達が生活する場所としての維持は不可能に近い。……限界はすぐにやってきた』

 

 日が経つごとに端末世界は精霊達が過ごすには適さなくなっていった。環境は安定せず、昼と夜は混ざり、空間が軋み、時間は淀み。

 

『皆は思い出と共に消えることよりも、新たな可能性を求めた。そして精霊界へと移住した。――だが。サイバース族だけはどうしても行くことはできなかった。駄目だったんだ』

 

 サイバース、と聞き皆の表情が変わる。

 

『その頃のサイバース族はごくごく限られたものしかおらず、また特殊な力を持つものたちの集まりでもあった。サイバースは電脳世界でこそ真の力を発揮する。彼らのみが残るならば、端末世界は限界には近いが維持できるとの計算結果が出た……それと同時に、これから世界へと訪れる危機の予測も。その二つを行う為に端末世界のサイバースは機能だけを残し、意識は眠らせ(スリープさせ)、時を待った』

 

 ――この世にサイバースが満ちるまで。

 

「待て、その言い方だとまるで……お前たちはイグニスが現れることを、イグニスを巡って戦いが起きる事を知っていたとでも言うのか」

 

『――神子の託宣だ。それ以上は言わん』

 

 忘れるはずのない彼女の名。思わず口にしそうだったそれは口の中で咬み殺す。口に出すとまた離れていってしまうような気がしたから。

 

「で、結局何が言いたい訳よ」

 

 最初は腕組みをして話を聞いていたが途中から飽き始めていたAiが話のまとめを要求する。

 

『ここからが重要な事になる。サイバース世界とは君達が0から作り上げたものか?』

 

「それ、は……違うな」

 

「ああ、確かそのはずだ」

 

 ロスト事件が終わり、ハノイの手から6体のイグニスが逃れた。あの時はとにかく時間が惜しかった。悠長にしていればまた奴らがやってきて、イグニスを皆殺しにくるのは間違いない。焦っていた。

 そんな中、見つけたのだ。大量のデータを。

 

「俺達は誰も使ってない大量のデータを加工してサイバース世界を作った……けど、それがどうしたっていうんだよ」

 

『――まさか! ってご主人言ってるよ』

 

 騎士はこくり、と頷く。

 

『やはり理解が早いな、詩織。そう――人々から忘れられ、遺棄されていた世界を、君達は見つけた。それは広大であり、様々な環境の元が存在していた』

 

 アストラムが顔を上げる。

 

『ディンギルス! ああ、そうだった! なんでこんな事を、僕は忘れて』

 

『やっと思い出したか、アストラム。アストラムが精霊と誤認したのも仕方がない……あの世界には神がいた。思うままに創造と破壊を繰り返す我儘な神が、な』

 

『……それ、は』

 

『気にするな。あれはとても、お前らしい選択だったと俺は思う。……話を戻すぞ。俺たちの世界での神の力は影響を受けたものに微弱ながら引っ付くというはた迷惑なものだ。神の力の残滓が――友と過ごした記憶が、あの懐かしい風が、吹いていたのだろうな。お前達が作ったサイバース世界にも』

 

「…………おいおい」

 

「冗談、ではなさそうだな」

 

 データストームが吹いていたサイバース世界と、過去、端末世界で戦乱が起きるごとに吹いた神風。

 ……風。世界に残っていた記憶。データストームとは、それをイグニスなりに再利用した故の産物だろう。

 

『世界は繋がっている。それが偶然か必然かの判断はできんがな。それを一番知っているのはお前だろう? 詩織…………あ、返事はできないか。……すまん、無理をさせすぎた』

 

 魔力(ヘカ)をほぼ使い果たし完全にへたばっている主人を見て申し訳なさそうにディンギルスは謝罪する。こちらの声が聞こえているかは分からないが、ディンギルスが最後まで説明する前に「まさか」と言っていたので理解はできているだろう。

 

『サイバース世界はかつての端末世界――これはサイバース世界に関する者達へ知らさねばならない事だ。人間とイグニスだけの問題ではなく、精霊も絡んでいる、とな。理解はできなくとも認識はしておけ』

 

 知る機会は皆無に等しいが、知らなかったでは済まされない。

 

『――全くもう、話が長いわよシスコン。前から思ってたけど、やっぱりアンタ他人に説明するの下手よね?』

 

 デュエルディスクから聞こえる声に急かされる。

 

『……最後に。今起きている戦い、もしこちらが負けたならば文字通り世界が終わると知れ。敵が人間を殺し始めたら終わりは加速する』

 

 そう言い残し、騎士はその姿を消す。

 

「…………消えた」

 

「夢、だったのだろうか」

 

 余りにも非現実的な出来事に出会った時、イグニスも人間と同じように思考を放棄したくなるらしい。

 

「いいや、違う」

 

 遊作の手の中には一枚のカード。それは先程まで出力途中だった、ストームアクセスで手に入れた物。そして詩織の隣にも、サイバース族のカードがあった。

 

 

 

 ―― 歴史が繰り返されるのなら、伝説もまた蘇る。悠久の彼方より、闇を打ち払うため『星の勇者』がここに来た。これから更に戦いは激しくなる。僕の持てる力の全てを君に捧げよう。

 

 

 ――大いなる闇、破壊の力。我が破壊の力を振るうのは滅びを齎すためではなく、創世を齎すため。人界、精霊界、サイバース世界……三界揃いてこの世は成れり。一つたりとも欠けてはならぬ。三つを用い、三つを救え。




ニーサン、話が上手だったら星遺物の物語はそこまで拗れなかったと思うんだ。
そろそろオシリスの充電期間は終わる……終わるはず!

Q.どうして敵が人間を殺し始めたら世界が終わるんですか?
A.世界が終わるという事です……は冗談として。

本作では他遊戯王作品要素が混ざっている事を皆様理解して頂いてると思うのですが、そこに化学文明に染まっているため精霊が出てこれないという捏造設定が混ざりまして。赤き龍とか名前に三の付く神々とかは基本来れません。
オシリスが主人公の下に来れたのは『精霊と神の存在真面目に信じてる』&『名も無きファラオの名前知ってる』ブーストが起こした奇跡です。

つまりオカルト案件に対処できる人間がおっそろしいほどいない。そして対処できるモンスター達は信仰が無いため基本出てこれない、その力を十全に使うことすらできない。

そして遊戯王世界にはいますよね。信仰があろうとなかろうと5000年の時が来たら人間の魂を生贄に復活する神々が。
地上で沢山コロコロされた魂が放置されてたら勿体ないからね、無駄にしないために神様モグモグしちゃうよね!

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