どうも、ハノイの騎士(バイト)です。   作:ウボァー

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オシリス「充電完了したわ」(神のサポートOCG化)
聖天樹「OCGになりました」
寝かせれば寝かせるほど遊戯王2次創作って良くなるんだなあ……。


認知

 ――あの日。ハノイの塔が崩れ去ったあの日から我々は一艘のクルーザーの中でずっと過ごしていた。大きな変化が起こることのない狭い空間だ、異常にはすぐに気がつく。

 

「どうしたスペクター。……スペクター?」

 

 何もない天井を見上げて動かなくなった副官、という異常。今思えば、これはまだ異変の始まりにしかすぎなかった。

 

「――おかあ、さん?」

 

 それは彼にとって特別な名詞。目を期待に輝かせ、手を伸ばし、掴むような動作をして。

 

「詩織さんの所へ行きましょう。今すぐ」

 

「待て」

 

 ヴァンガード改め今上詩織の話題となると修羅もかくやといった表情を浮かべていた筈の男とは思えない、こう、なんというべきか……そう。これ以上ないほどの爽やかな笑顔だった。

 あの事件から長く生活を共にしているが、こんなきらきらしい表情は見たことがない。精神が別人にすげ変わったと言われる方が納得がいくが、そんな非現実的なことが目の前で起きるはずはない。だが…………。

 

「…………ヴァンガードへ連絡するか」

 

 これは恐らく専門家であろう彼女へ頼む連絡であって丸投げではない。と自分へ言い聞かせながら番号を打ち込んだ。

 

 

 

 ところ変わってカフェ・ナギ、スターライトロード前出店。いつどこで会おう、という要点だけしかない連絡をし、返答を待たず即切るというこちらにとても迷惑な約束を了見はしていった。声がどことなく疲れているようだったので向こうで何かあったのだろう。

 

「突然に予定を組まれるとはな」

 

「もしかするとこの動揺を利用して私が取り付けた停戦協定の主導権を向こうが握ろうとしてたりしウゥワッッ!?」

 

 さっきから遠くの方でわさわさ動いているでっかいものがあるなあと思ったら聖天樹に愛の抱擁触手ぐるぐる巻きスペクター様がこっちに来る姿だった。こわい。聖天樹は根っこを器用に使い地面を歩いている。動けたのかとかいうツッコミはできない。だってこわい。当人は顔を見るまでもなく幸せオーラをまき散らしている。すごいこわい。

 

「何を見……」

 

「うわあ」

 

「ええ……」

 

 硬直。視界からの情報を処理しきれなくなってフリーズしたのか、皆身動き一つしなくなってしまった。それほどきれいなスペクター様ショックは大きかったのだ。

 よく見れば足取りもふわふわしている。初めてのデートに向かう乙女のようだ。性別は男だけど。

 その隣で呆れるような疲れたような……まあ、何とも言えない表情をした了見は詩織を一瞥して一言。

 

「何をした」

 

「そちらで何があったのかは知りませんけども、どうして私が犯人として確定されてるんですかね?」

 

「このようなことを為せるのはお前しかいないだろう」

 

「なんだろうこの信頼、嬉しいのか嬉しくないのか自分でも分からなくなってくる」

 

「いやいや嬉しくはないだろ」

 

 ツッコミ係、穂村尊の復帰が一番早かった。ロスト事件に対する恨み辛みのパワー、元凶の息子が目の前にいるという2点がいち早い再起動に役立ったのだろう。この恨み晴らさでおくべきか初対面顔面ストレートしなかったのはまだきれいなスペクターを脳内で処理しきれていないからだと思われる。顔面ストレートはこのまま勢いで忘れてくれると今後的にとても助かります。

 

「ああ、よかった。本当によかった」

 

 スペクターが詩織へと近寄る。ふわふわしながらもきゅう、と両手を包み込むように優しく握った。君も僕のファンになったのかな……じゃないし感覚死にかけの左手へのとどめでもない。スペクター様がこんな事をするなんて何かがおかしい。この人は殺意すら忘れるほどの理由がないとこの乙女チック行動は絶対にしない。

 

「なぁにこれぇ」

 

「詩織さん、是非とも魔力(ヘカ)の使い方をご教授いただきたいのですが」

 

「え?」

 

 その単語を知っているということは精霊と会話ができた、ということで。困惑から素面に戻る。こちらの思案を知ってかしらずか、スペクターは言葉で思考を断ち切っていく。

 

「それが終わってから貴方を殺します」

 

「Why目の前で殺害予告!?」

 

『ぎゃうー! それは駄目!! ……わぁ、元パパさんだぁ初めましてー』

 

 ミニサイズになったクラッキング・ドラゴンがデュエルディスクから出てくると同時にべしーん、とスペクターに体当たり。その後くるくると了見の周りを泳ぐようにして、ぎゃうーぎゅうーと高めの声で鳴く。

 

「……魔力(ヘカ)? 元? パパ? というよりも待て、クラッキング・ドラゴンへここまでの高度なAIは搭載していないしどうして現実で物体として干渉して――」

 

『それはもちろん、元々住んでいた所の元とー、作ってくれたからパパなの。でも今はご主人ちの子! ぎゃう』

 

 自信満々、しっぽをぴこぴこぶんぶん。

 

「あ、これに関しては今はそんなに関係ないので流しておいて下さい」

 

「この現象はそう簡単に流していいものなわけないだろうが!」

 

「うわー、すごい納得しかしない反応」

 

 これが啀み合いしかしてこなかったイグニスとハノイの騎士の歴史的快挙、『Aiと了見初の意見一致』の瞬間である。

 

『あっそうだそうだ、向こうからのお知らせあったの!』

 

 クラッキング・ドラゴンの声と重なるようにデュエルディスクが震える。

 

『あー! 話を振るのが遅い! まったくもう、話下手限界集落の相手とかしたくないんだけど。今起きてる戦い、精霊も他人事じゃないでしょ? あんた達を助ける備えとして精霊界側にサーバー作ろうってことになったのよ』

 

『で、言い出しっぺの羽虫も巻き込まれた訳だ』

 

『ぼ……っんん、私たちTGではカバーできない範囲もあるのでな。原型を作ることはできるがそちらへの接続が上手くいく保証がなかった。そこで他所からの手をいくらか借りている』

 

『素材ハ電子光虫(デジタル・バグ)ノ提供デオ送リシマス』

 

『魔術系列技術支援ということでウィッチクラフトもおるぞ〜。こんな面白そうなこと、蚊帳の外でいてたまるものか!』

 

『あら? ヴェール、今日の仕事は』

 

『………………逃走じゃー!』

 

『仕事から逃げないで! 待ちなさい! それと堂々とサボタージュするのもやめなさい!』

 

『はぁ……アホらしい。というか、私の専門何か分かってコレやらせてるの? あんたら』

 

『しんせかいのかみイム?』

 

『惜しいぞイムドゥーク、後ろに(笑)を付けるのを忘れている』

 

『ちょっとアルマドゥーク? 何を吹き込もうと……やめなさい! よだれがー! あー! あー――』

 

 ……いつもより騒がしいけども精霊達が(一部を除いて)平和で何よりだ。なお了見はその情報量に頭を抱えている。

 

「ほら、おかあさん」

 

『おともだち、みんないっしょ、ね?』

 

「えっ、て――ええっ!?」

 

 話の流れに全く関わろうとしていなかったスペクターが聖天樹の精霊へと語りかけると、しゅるりと根が手に絡みつき、こちらの魔力(ヘカ)使()()()()()()――千年を生き人を見守る、上位に位置する大精霊であるからこそできる力技。

 木の葉の乱舞。風景は目まぐるしく入れ替わり、足元はコンクリート製の地面からファンタジックな草原に染まっていく。うわあーこの感覚すごいデジャブ、と前のめりに倒れる彼女を誰かが支えた。

 

 

 

Welcome to Spirit world(ようこそ精霊界へ)!」

 

 驚楽園の支配人(アメイズメント・アドミニストレイター)が大仰に手を振り上げると、拍手と花吹雪が四方から舞い上がる。

 

「精霊界へようこそ〜!」

 

 ――だぁー! 俺にも行かせろー!

 

 ――何がどうして魔術師になっている貴様! ええい四天! こんなのが主人で良いのか!?

 

 ――うおおアドバンスー! お前だけでも行けー! あいつの助けになってこーい!

 

 ――き、さ、まぁーーっ!

 

 空には横断幕を持つ天気モンスター達。地にはどんどんぱふぱふ、と太鼓とブブゼラを装備したグラドス……だが効果を使いこなせず楽器装備は聖騎士に回収された。

 

「あう……ん? あれ」

 

 使われたはずの魔力(ヘカ)が回復している。そして自分を支えているのは人型をした誰か。ほのかな圧迫感とひんやりとした伝熱が、それが人間ではないことを示していた。

 

「……えっと、どちら様で?」

 

『ゲニウス』

 

 きゅ、と体を掴んで支えていたのはクリフォート・ゲニウスと名前が一部一致しているモンスター。初めて見るが、まあこうして自分に親切にしてくれる精霊なら機械族なのは間違いないだろう。

 

「アポクリフォート・ゲニウス?」

 

『否定。星なる影(ネフシャドール)

 

 その名前で思わず真顔になる。星なる影(ネフシャドール)ゲニウスと名乗るそのモンスターが手に持つ杖や全体像はウヌクと酷似している。それでいてゲニウス、となれば正体はクリフォート・ゲニウスのカードイラストにあるあの影。でも、クリフォートではなくシャドール。

 間違いなく端末世界の厄ネタの集合体。……まあクリフォートとオルフェゴールをメインで使っているのに今更そこを気にしても遅すぎるだろう。

 そんなゲニウスだが、詩織がちゃんと立っていることを確認して支えるのをやめたかと思うと、お次は詩織の手をむにむにと揉んで、ぱ、と離す。

 

『破壊終了』

 

 大丈夫か確認してみて、という感じでゲニウスがジェスチャーをしている。特に反発する理由もないので試しにぐーぱーと手を動かしてみる。異常はない。スペクター様にウイルスを撃ち込まれる前の、健康なあの頃の手に戻っている。……とりあえず言う言葉は。

 

「破壊の力を安売りしてはいけない」

 

『?』

 

 あの神が持っていたものと同じものなのか、それともジェネリック破壊の力なのかは分からないが、どちらだとしても簡単に使っていいものでは無いのは確か。だから言葉の意味がよく分からないと言わんばかりのあざとい首傾げはこちらに効果がないから止めるんだ。

 

『名称不明個体確認。破壊?』

 

 人を指差してはいけません。ましてや物騒な言葉を言いながらはもっとダメです。なんて常識はインプットする必要がないのか星なる影(ネフシャドール)ゲニウスは機械的な音声で単調に問う。

 指差すその先にいるのは――体色が青と黒と黄と白、凹凸の少ない曲線を帯びた体、女性のような雰囲気のある――AI。

 

「は?」

 

「え?」

 

「――お父様」

 

「…………………………」

 

 そんなAIがきゅ、と了見の右腕に抱きついている。

 

 

 後にクラッキング・ドラゴンは語る。

 あの時間違いなく元パパさんは背景に宇宙を背負う猫の顔をしていたし、謎の美女的AIは私のことを認知してよねと言わんばかりのオーラを発していた、と――。




これから仁君の記憶を奪った敵と戦う準備をする中でパンドールちゃんはここしか登場させる隙間がなかった(というか2期の時点でイグニスの心を読めるAIというハノイのとっておきすぎる隠し玉が作成できてたのなら絶対ライトニングがいる神殿へ攻め込む前に3期パンドールよりも制限をかけにかけたサポートAIとしてのパンドールがいた)などと作者は証言しており――。

精霊界に来てパンドールちゃんが爆誕した理由?
(考えて)ないです。パンドールちゃんカワイイヤッター

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