どうも、ハノイの騎士(バイト)です。   作:ウボァー

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かくしごと

パンドール

LP 4000 手札1→2

 

モンスター

トポロジック・ボマー・ドラゴン Link4 ATK3000

 

魔法・罠

パラレルポート・アーマー(トポロジック・ボマー・ドラゴンに装備)

 

 

グラドス

LP 4000 手札1

 

モンスター

サイバー・ドラゴン・ズィーガー Link2 ATK2100

 

魔法・罠

伏せカード1枚

 

 

「私のターン、ドロー……ようやく来ましたか。除外されているトポロジーナ・メイビーを対象として手札のネメシス・フラッグの効果を発動。自身を特殊召喚し、トポロジーナ・メイビーをデッキへと戻す」

 

《ネメシス・フラッグ》

星2/攻1100

 

 パンドールが呼び出したのは四つ脚の真っ赤な旗持ち。これまで使っていたモンスターとは毛色の違う、あるカテゴリに属するモンスター。

 

「ネメシス、だと?」

 

 了見は呟く。誰かが決めたわけでも無いが、幹部級のハノイの騎士はサイバースへの対策を持つことが必須となっている。それはかつて自身がプレイメーカーとのデュエルで使用した天火の牢獄のような、種族に対して圧をかけるもの。

 かのカードだけでなく、サイバースへの対策として採用を考えていたカテゴリが存在する。それこそ【ネメシス】。だが、自身の主力であるヴァレットの枚数を減らしてそのテーマを入れるほどではない、と最終的に判断して入れることはなかったのだが――。

 

「了見?」

 

「ふっ……いや、何でもない。それより集中してデュエルを見ろ、藤木遊作」

 

 サイバースとドラゴン、そこに種族をプラスすれば確かに召喚条件は整う。だがそれだけでは駄目だ。必殺の隠し球が分からぬように相手の注意の目を向ける脅威も揃えなければならない。

 トポロジックの強大な力で真に隠したかったのは、つまり。

 

「ヴァンガードをオリジンとするイグニスだが……負けるかもしれんぞ」

 

 

「ネメシス・フラッグ第二の効果。デッキからアークネメシス・エスカトスを手札に」

 

「……ネメシス。そう来ましたか、ええ、もう本当にあの精霊っ……!」

 

 同時刻、ゲニウスはしっかりグラドスの怒りを察知。でも慣らし運転中のデッキでもしっかり勝てることはヴァンガードが証明済みだぞオリジンに出来たことがイグニスにはできませんなんて言わせんからな。

 いやそもそもアレは比較対象にしてはいけないのではとオッドアイズ・アドバンス。口答えをしたからか、杖を鱗の生え際に差し込まれ梃子の原理で鱗を剥がされそうになりほぎゃーっと泣いた。

 

「フィールドのネメシス・フラッグ、墓地のトポロジーナ・ギャッツビー、ノクトビジョン・ドラゴンを除外し――手札よりアークネメシス・エスカトスを特殊召喚!」

 

 異なる三つの種族を糧として現れる光の竜。エスカトス――その名の示す通り、敵へ最後を与えるべく繰り出された一手。

 

《アークネメシス・エスカトス》

星11/攻3000

 

「アークネメシス・エスカトスの効果。フィールドのモンスターの種族を1つ宣言し、フィールドの宣言した種族を全て破壊し、次のターンの終了時まで互いに宣言した種族の特殊召喚を封じる。勿論、宣言するのは機械族!」

 

 グラドスのフィールドに存在するサイバー・ドラゴン・ズィーガーは勿論機械族。アークネメシスに秘められた圧倒的な拒絶の力が、フィールドを捻じ曲げる。

 

「サイバー・レヴシステムにより特殊召喚されたモンスターは効果では破壊されない!」

 

 レヴシステムよりサイバー・ドラゴン・ズィーガーに与えられた力によって、この破壊は耐えることができる。

 

「ええ、フィールドに残るとても良い的を用意してくれてありがとうございます」

 

 心からの感謝の笑みを浮かべるパンドール。

 アークネメシス・エスカトスの効果はフィールドに存在する種族しか宣言できない。グラドスが次へ繋げようと蘇生させたサイバー・ドラゴン・ズィーガーが存在することで展開の要となる機械族の特殊召喚を封じられる――自分で自分の首を絞める結果となったのは、イグニス抹殺を目的として作られたパンドールの目にはとても愉快な見せ物として写っていることだろう。

 

「トポロジック・ボマー・ドラゴンでサイバー・ドラゴン・ズィーガーを攻撃! 終極のマリシャス・コード!」

 

「ズィーガーの効果で自身の攻撃力を2100上昇させる!」

 

 パラレルポート・アーマーによって付与された耐性とサイバー・ドラゴン・ズィーガーの効果。互いに戦闘では破壊されず、ダメージは発生しない。

 

「ですが戦闘した以上、トポロジック・ボマー・ドラゴンの効果を回避することはできない。元々の攻撃力分、2100のダメージを受けなさい! エイミング・ブラスト!」

 

 確実にダメージを与えんとするサイバースの獰猛な牙がグラドスへと襲いかかる。

 

「あぐぅっ……! まだ、まだっ」

 

グラドス

LP 4000→1900

 

「1枚、カードをセットしてターンエンド」

 

 セットする直前に見せつけるはキャッチ・コピーにより手札に加えたミラーフォース。

 ――セットカードはミラーフォースが確定。機械族の特殊召喚は不可能。次のパンドールのターンで敗北が決まる。

 

 1枚残っている手札を見る。……装備魔法、エターナル・エヴォリューション・バースト。機械族融合モンスターにのみ装備でき、バトルフェイズ中相手の効果発動を封じるカード。もちろん、リンクモンスターへの装備は不可能。そもそも機械族の特殊召喚を封じられた今、使い道は無いに等しい。

 ゲニウスによってデッキに入っていることがバラされたドライトロン達はなるべく邪魔にならないようデッキの底に固まっている。……まあ、機械族の特殊召喚が封じられた以上、このデュエル中の出番は無いのだが。

 ふう、と息を整える。AIであるグラドスにはもちろん肺も口も存在しないので意味のない行為だが、気持ちが落ち着くような気がするのだ。

 

 今のままでは、勝利への道に必要なカードは足りない。

 ならば、強引に引き当てるだけのこと――!

 

「私の、ターン」

 

 引き寄せろ。勝ちへ繋がる一手を。

 

「――ドロー!」

 

 1枚。それだけで戦況はひっくり返る!

 

「魔法カード、闇の誘惑を発動! 2枚ドローし――良し! 手札の闇属性モンスター、サイバー・ウロボロスを除外! 除外されたウロボロスの効果で手札を1枚墓地に送り、デッキから1枚ドロー!」

 

 墓地へ送られるのはこの状況で足枷となっていたエターナル・エヴォリューション・バースト。手札は全て刷新され、勝負を切り開く鍵はこの手の中に。

 

「闇の、誘惑……?」

 

 パンドールも使用していた優秀なドロー効果を持つカードだが、サイバー流で採用するようなカードではない。闇属性モンスターが手札に無ければ手札を全て無くす諸刃の剣へと変わるそれを、何故デッキのほとんどを光属性が占めるサイバー流で? 理解が追いつかない。

 

 それは精霊の存在を認め、受け入れたことにより開かれた道。

 ヴァンガードほどの寄せ集めとはいかないが、現実的ではない混成デッキ――表の光と裏の闇、二つのサイバー流を一つとし受け継ぐ。

 それは先達への敬意(リスペクト)であり、闘争の果ての地獄(ヘル)へ向かう覚悟の証でもある。

 

「サイバー・ドラゴン・ズィーガーをリリースし、エネミーコントローラー、発動! アークネメシス・エスカトスのコントロールを奪う!」

 

「成る程、不愉快ですね」

 

 磐石であった盤面を崩す。それに自身のモンスターを利用される。二つが合わさるだけでここまで気分は下降するものか、と新たな発見を喜べるはずもなく。

 

「バトルフェイズへ移行」

 

 だが、コントロールが奪われるのはこのターンのみ。苦し紛れの抵抗の一手、か? エスカトスの破壊と種族を封じる効果を使われたとしても、今のトポロジック・ボマーへは届かない。

 

「アークネメシス・エスカトスでトポロジック・ボマー・ドラゴンに攻撃! 手札よりオネストの効果を発動! 攻撃力をトポロジック・ボマー・ドラゴンの攻撃力分、3000上昇させる!」

 

 アークネメシス・エスカトスの属性は光属性。故に天使の恩恵が受けられる。これは予想の範囲内。グラドスの手札はこれで0。……パンドールは油断していた。

 最初のターンにセットされ、全く触れられていなかったセットカードを。

 

「セットしていた、コンセントレイトを、発動」

 

 裏返るセットカード。

 

「――あ」

 

 機械族に縛られた結果、思考の中から弾いた可能性。

 リミッター解除以外にも、攻撃力を大幅に底上げする方法は存在する。

 

「自分フィールドの表側表示モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターの攻撃力は、ターン終了時までその守備力分、アップする――!」

 

 アークネメシス・エスカトスの守備力は2500。よって最終的な攻撃力は――。

 

《アークネメシス・エスカトス》

攻3000→8500

 

 後は単純な引き算だ。トポロジック・ボマー・ドラゴンの攻撃力は3000。対するアークネメシス・エスカトスの攻撃力はトポロジック・ボマー・ドラゴンの攻撃力とパンドールの残りLPを合わせた数値よりも多い。

 アークネメシス・エスカトスは効果では破壊されないモンスター。ミラーフォースによる破壊は通じない。キャッチ・コピーの効果によりデッキから手札へと加えるべきは別のカードだった、と後悔してももう遅い。

 

 天から、光が降った。

 

 

パンドール

LP 4000→0

 

 

「……くっ、殺せ!」

 

「殺しませんよ」

 

 倒れ伏したパンドールに手を差し伸べるグラドス。

 

「楽しいデュエルでした」

 

「……フンッ」

 

 始める前のいざこざは綺麗さっぱり流した様子のグラドスと対照的に敵視を続けるパンドール。手を払い除け、自身の力だけで立ち上がり了見の元へそそくさと向かい、さも当然であるかのように寄り添う。二人を引き剥がそうとスペクター奮闘中。どうやらパンドールのことはまだ認めていないようだ。

 なお、了見は幼い頃からハノイの騎士として活動していたために女性と知り合う機会など当然無い。こんな時どう対応するべきなのかわからず戸惑っている。

 

「……? Ai、お前」

 

 Aiは二人のデュエルを見てから何かを考え込んでいるようで、いつもなら反応するはずのくっ殺への茶化しをしない。

 なお、Aiが変なモノにハマるとロボッピを通じてそれを知るという余波で遊作の方も同様に詳しくなっているがそのことを本人は気付いていない。

 

「まさか、」

 

「もどりましたあーつかれたもうやだふざけんな」

 

 遊作が至った結論は届かず、変わるように今上詩織がドラゴンの手から降りる。この場所から離れていた時間はそう長くない。心の中の声が完全に口から漏れ出ているところを見るに、多分自分たちでは想像もつかない何かを経験した後だろう。

 

「なぜ肝心な時に穴を開けるのですか手伝いなさいこの了見様の娘を名乗るAIを」

 

「あーはいはい間に合ってます」

 

 帰航した今上詩織はぴろぴろ手を振り、適当に追求をはぐらかしながらグラドスの元へと一直線に。

 

「帰るよー」

 

「はい。………………はい?」

 

 目の役割を担うデジタル光を明滅させ、言葉の意味を理解すると今度は光を丸くしてそんなこと聞いてない! と訴えかけるグラドス。

 

「突然目の前から消えた怪奇現象について草薙さんに説明しないとあかんでしょーよ。現実の時間はそんなに経ってないよね?」

 

「現実、10分程度経過」

 

 ゲニウスが答える。

 

「じゃあまだなんとかなるね」

 

「ちょ、ちょっと待て! お前はいいとしても俺らはどうやって帰るんだよ!?」

 

「私たち以外の帰り道の用意はデミウルギアがなんとかしてくれるでしょ。ね?」

 

「――当然」

 

 デミウルギアが彼らの頭上に現れる。圧倒的な存在感を放つサイバース族のリンクモンスター。その内部にある情報量、処理能力、どれを取ってもイグニスの性能の遥か上を行くそれへ慣れ親しんだ友人に頼むように言葉をかける。

 

「案内はスター・ガーディアン辺りの常識人が来ると思うし……あれだ、ここからは観光気分で大丈夫だいじょーぶ」

 

 あはは、と笑っているが疲れているからか口角が上がりきっていない。グラドスはそれを心配しながらも詩織のデュエルディスクに手を翳すと、光の粒子となりすぽんと中に収まる。

 ありきたりな異空間へ繋がる渦へ身を潜らせ……なんてことはなく、詩織は一瞬で姿を消した。

 

 

 現実世界、デュエルディスクからミニサイズで体を出しているグラドスと二人。勿論草薙さんは軽くパニックになってたし、説明したらやらかしたのはお前か! といつものお叱りも受けた。今回は魔力(ヘカ)勝手に使われた訳だし私は被害者の気がするのですが。

 

「――グラドス。世界を救う気はある?」

 

 個人が抱くには余りにも巨大で欲張りな誘いは、グラドスの得た知識と組み合わさった結果、ある一つの結果を弾き出した。

 

「なっ……正気ですか!? 本当に、アレを」

 

「やるしかないんだよ。今からでも準備をしないと間に合わなくなる」

 

 人は来ない。ドローンの監視も無い。閑散とした中、二人の語らいは続く。

 

「データストームの中にはサイバースがいる。なら向こうは気付いてないだけであいつが協力していてもおかしくない」

 

「あのデュエルでちょっかいを出していない以上、光のイグニスは姿の無い協力者について認識はしていないようですが? そう急がずとも」

 

「知っていようといなくてもあの時に手を出す方が危険だって。下手すりゃ皆どっかーん、だ。……パンドールの見た景色は私達の計画が失敗してあいつが出てきた時のものだよ、間違ってない」

 

「…………もし姿を表したとしても、ランクアップができていない魂で門をどうこう出来るとは思いませんが」

 

「グラドス、門の種族が機械族だってこと知ってて否定してる?」

 

「今この戦いで一番危険な状態にあるのは貴方だと、私に認めろというのですかっ」

 

「出揃った要素を否定して楽観視する方が危険だよ」

 

 言い返せなくなってきたのか、ぐ、と黙る。AIよりも人間の方が冷静に判断を下すというのも奇妙な事だ。

 

「私はけっこう怒ってるんだよ。しなきゃいけないタスクと時間制限、必要な才能と処理できる人数が少ない、とてつもなく面倒くさいことが山積みのてんこ盛り。しかもそれ全部私で解決しないといけないとか今まで経験したことないぐらいブラックだよもうっ」

 

 あの精霊達から知ったことは詩織の危機感を煽るには十分過ぎた。鴻上博士の置き土産が起こした行動が、今では悪意を振り撒く世界規模の災いになろうとしている。できればもっと早くに教えて欲しかった。

 

「だから」

 

「……だから?」

 

「出来そうな見込みある奴へちょっと押し付けようかなーと」

 

「はあ」

 

 全部丸投げするとか八つ当たりするとか言わないだけホワイトですよねえ、とズレた感想を抱くのだった。




Q.一番情報を隠しているのはわざとですか?
A.わざとです。
全部一気に説明したら情報が多くて処理できなくなるからね。仕方ないね。

計画については取り敢えず詩織にしかできないってとこだけ分かってればいいよ!具体的に何をするのかはいずれわかるさ……いずれな。感想で計画についての予想を流すのは禁止令だ!

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