本当にどうして爆誕したのか考えてなかったパンドールですが、ザ☆ルークメンという回答が公式より提示されました。どういうことなの?
つまりパンドールはザ☆ルークメンと近似(この作品に限り)。
今上詩織とグラドスが消えた後、彼女が言ったように案内役としてモンスターが現れた。だがそれは彼女が使っているデッキのものではない、ここにいる誰も知らないモンスターだった。
コードブレイカー・ゼロデイ。名前からコード・トーカー達を連想するが、見目は全く違う。あちらが騎士ならこちらはダークヒーロー。表に姿を表すことなく闇と共に生きる、そんな印象を受ける。
そのモンスターはただ名前を告げ、着いてくるようにと背を向け歩く。いつもの調子を取り戻したAiがやいのやいのと騒ぎたて黙れと言われながらも質問を投げかけても、何も答えなかった。
「……繋がりとは、必ずしも良いものばかりでは無い」
そんなコードブレイカー・ゼロデイが唐突に口を開く。独り言のように、誰かに語りかけるように、淡々と。
「友情、絆。時として反転し、牙を向く時もあるだろう」
それは経験談を話している、よりは警告に近い気がして。自分が気付きもしない不安、恐怖が忍び寄ってくるのを否応なしに見せつけられる……目を背けるなと突きつけている。
「アンノウン。犠牲なく得られる物など、ここからは存在しないのだ」
こちらを振り向くことなく言う。……藤木遊作をプレイメーカーではなくアンノウンと呼んだ。彼がプレイメーカーになる前の過去の名を知っているのは、たった一人。
「草薙さんの使うモンスター、なのか?」
「その答え合わせを今行う必要は無い」
草薙翔一、彼はプレイメーカーと――その前身であるアンノウンと会う前からハノイの騎士を追っていた。当然デッキも所持していたが、遊作はその詳しい構築を知らなかった。その前に藤木遊作は草薙翔一のデュエルを見たことはない。
今まで現れることのなかったモンスターがこうして表舞台に姿を見せた。その理由はなんだ? 彼が、コードブレイカーが現れることのないよう戦いへ臨め、と言葉なき激励か。それともその逆か――?
「来たぞ」
歩いて数分。彼らの視界に映ったそれは、皆の目を奪うのには十分な衝撃を与えた。
「ちょっと待ってー、今手が離せな――っと危ない!」
青白くぼんやりと発光している虫が機械の中からにゅっと顔を出す。デュエルモンスターズに詳しいものであれば、それが
出てきた場所が悪かった。てっぺんの角から這い出たはいいものの、その先に足場は無かった。モンスターは足場があると思って出てきたものだから勢いよく足を踏み出す。スカッと効果音がしてもいいくらい綺麗に踏み外してバランスを崩して、落下して――キャッチ。
両手で受け止めたのは
そう、機械。
ファンタジーな精霊界、その一角に巨大な機械があった。
見た目はオンラインゲームでも使われるようなサーバーに似ている。いや、似ているではない。サーバーそのものだ。だが電力を供給する線がない。この機械一つで全て賄っているのか? 0と1の世界に生きるイグニスの眼が目の前の存在を分析していく――回路、理解不能。素材、解析不能。
人類から見たらオーバーテクノロジー満載のそれは
……理解不可能な出来事が多すぎて処理が追いつかない。現実にいたらおかしい存在が闊歩する地に呼ばれた人間とイグニスは中途半端に感覚が麻痺したまま行動を続けていた。
「まだ未完成だけど、これを経由すればイグニスはネットワークの中と精霊界に同時に存在する状態になる。原理を細かく説明してもわからないだろうけど……これを使えばデュエルディスクにハッキングされてイグニス達が無理矢理に奪われることはない。そういうシロモノさ。イグニス本人が自身を賭けたデュエルを行うと許可した場合までは流石に無理だけどね」
子供を自慢するかのように親しみやすい口調で説明してくれるスター・ガーディアン。
「はーいそれじゃあ今のうちに導線を作ってコレが完成したら即反映されるようにしちゃおうね〜」
急に空気が変わる。何がそれじゃあなのかは分からない。両手に工具を持ち笑みを浮かべジリジリとにじり寄ってくるスター・ガーディアン。不気味だ。他
「な、何するつもりだよ!?
デュエルディスクを庇うように自身の背後へ回しつつ、手で覆っていた尊は逃げられないと悟るとファイティングポーズ。デュエルモンスターズ相手にステゴロの喧嘩がどこまで通用するのかは分からないが、やらないよりはましだと覚悟を決めて――。
「こーれやめんかー」
何か……いや、誰かが間に入り仲裁する。浮遊する雲のようなクッションに寝転がりながらふぁふ、とあくび混じりで現れたのはウィッチクラフトの長。
「こいつ、言葉は時々アレじゃが中には善意しかないから安心せい。というかデータ弄るのに工具はいらん! 置け! まったく、スター・ガーディアンよ……お前の元となった男の生前からのクセほんっとどうにかならんかったのか? 事情を知らんと不審者一直線よ貴様」
言った後でヴェールは思った。この男、かつては他人のDホイールを勝手に弄り元キングに拉致のごとく連れて行かれた経験もあるスーパーメカニック。そこに不審者の称号が追加されてもそこまで変わらなくないか? と。
「いやあ世界を救う助けになれるって思うと気合が入っちゃってさあ」
そんな内心を知ってか知らずか、男は後頭部を掻きながら照れ臭そうに目を逸らす。
「親バカならぬ爺バカか……」
つまりは年に一度帰省してきた孫に欲しいものなんでも買ってあげるからね、のアレだ。それがちょっとおかしい規模になっただけの。……人間、死ぬと何かしらのタガが外れるのかもしれない。
会話により少し時間を得たことで冷静になったのか、スター・ガーディアンはゴメンねと謝りつつ改めてデュエルディスクに手を加えてもいいかと尋ねてくる。
「そんなよくわかんないモノ、不霊夢に使わせてたまるか」
「中身までいちいち理解して使う必要はなかろ? よくわからなくとも便利な技術なら使う、それが一般的な人間であろうに」
「尊、君の不安も分かるがこれに関しては私が決める方が良いだろう。彼らが行う事について害は一切ない」
穂村尊が信頼する藤木遊作はどうしているのかと言うと……知らないモンスター達からのよく分からない申し出を受け入れていた。
この面子の中で「機械の仕組みも使い方もなんかよく分からないけど使っている」代表の彼は苦い顔をする。不霊夢と遊作は大丈夫だと判断した。でも俺は納得まだ出来ていないからな、と顔に浮かんでいるのを隠す事なくしぶしぶデュエルディスクをスター・ガーディアンへ向ける。それを分かってニコニコ笑顔で男はインストール作業を進める。
耳をすませば静かな駆動音しか聞こえない……ちょっとした静寂はすぐに消えた。
「ヴェール! やっぱりここにいたのね!」
肩で息をしながら現れたのは紫髪の女性――ウィッチクラフト・エーデル。手紙を握りしめ、わなわなと震えている。
「おーデコイの魔力痕跡全部シラミ潰しにしてきたのかの? うむ、ご苦労」
どこかズレた労り。ずんずんずかずか、怒っていますと足音が主張する。エーデルはヴェールの目の前まで行くと、びしっと腕を突き出す。
「こんなの認めるわけないでしょう! 早く工房に帰ってきなさい!」
こんなの、と言われたのは握りしめてしわくちゃになった置き手紙――ヴェールの引退を知らせる一枚。読めばヴェールが「いやーごめんね☆」してるだろう顔が浮かぶこと間違いなしの一品。
「能力に不足はないの判断して継がせたのに不服か? それにちゃーんと一筆書いて後は任せたじゃろ、どこにも不満が生まれる余地はない。そもコレ作るのにあの都市の奴ら絡ませたら絶対モメるし魔術関連でフリーなヴェールちゃんが一番適任だった、というわけで逃走じゃー!」
「不満しかありませんよあんな突然の――って待ちなさーい!」
魔力でブーストして雲クッションごと空にカッ飛んでいくヴェールと、怒りのまま走って追いかけるエーデル。
データの世界に生きるものとして親近感を持たれたのか
……騒がしいが、耳障りではない。コードブレイカー・ゼロデイは介入するでもなく、ただ静観していた。
「サイバース世界と端末世界についてのハノイの騎士側に事情説明代表になるだろう彼は……もしかして一人で聖天樹生えてる森に行ったのかな?」
まず聖天樹がどこにいるかを知らないだろうに、勘だけでたどり着けるのか? ……まあ
聖天樹を母と認識しているので下手したら精霊界に永住しかねない彼だが、説得は……まあエンシェント・フェアリー・ドラゴンがなんとかするだろう。昔精霊が見えるシグナーにやらかしかけた経験があるのでその辺についてはかなり気を付けているし。
「ワァ」
「ダイジョブ?」
「離れなさい虫ケラ」
「ヤーン」
了見ともお話ししたい
何故なら了見がパンドールに捕獲されて、違う。了見はパンドールに密着され、もちょっと違う。……了見はパンドールに手を繋がれていた。理由は知らない土地で迷子にならないように、のはずだろうが恋人繋ぎに見えなくもない。
……了見が諦めからか焦点を遠くの空に合わせていることを除けば。
――遊作と尊はオカルト現象を詩織の絡みでアレソレ経験済みなのでまだ耐えられた。でも彼は違う。
部下の突然の変化を目の当たりにし、ハノイの騎士を象徴する機械竜からは覚えのないことを言われ、謎の空間へ瞬間移動し、自称娘のAIが現れ……。
この中では一番精神が成熟しているハノイの騎士のリーダーが一番ダメージが大きいという悲しい事が起きていた。
「だ、大丈夫じゃなさそうだな……セラピーしてもらうためにヴァレットから何体か呼ぼうか」
「
ライブラリアンが別の提案をする。
「それだけは絶対にダメ。このまま行かせたら恋人扱いされる」
速攻で却下したのはワンダー・マジシャン、
「おや心外な。我々が親子と恋人の見分けがつかないとお思いかね?」
「うわっ!?」
スター・ガーディアンの後ろからひょっこりと支配人が顔を出す。制作に特に関わってはいないはずだが、まあ彼のことだし暇だから来たのだろう。楽しそうなことには人一倍嗅覚の働く彼が来たなら何かしら好転して――、
「あっダメです親子発言がトドメになりました目が死んでます」
「Oh……」
――思いっきり悪い方向にアクセルをかました。綺麗にトドメを指した。
これはもうどうしようもないなぁ、とレシプロ・ドラゴン・フライが「ヴァレットを呼びに行ってきます」とだけ言い残し空へと飛び立っていった。
「なあ――一ついいか?」
彼らの話を妨げたのはAi。
「サイバース世界に行きたいんだ」
その一言で先ほどまでのわちゃつきつつも明るい雰囲気は消え、緊張が走る。
――とあるモンスター達は端末世界から精霊界へ移住し、残されたデータはイグニスの手により加工されサイバース世界になった。
その言葉をそのまま信じるなら、精霊界はサイバース世界と繋がっている道がある。つまり、ここからサイバース世界に行けるのだ。
「どうしてだ?」
精霊ではなく、藤木遊作が問う。
「そこじゃないとできない事がある」
サイバース世界に行く。それは危険な行為だ。
ハノイの騎士の策であるハノイの塔を崩してからそう時間の経たない内にAiはサイバース世界に帰った。その時は崩壊したサイバース世界しかなかったが、今は他のイグニスを捕らえようと罠が仕掛けられている可能性がある。
その危険性を分かっていて、Aiはサイバース世界に行くと決めた。
「頼む、遊作」
じっと目を見られている。見つめ返す。目を逸らすことはない。……覚悟を決めたのだろう。
「ああ。分かった」
その決定に待ったをかけようと尊が口を挟もうとして……ふと不霊夢が視界に入り、出しかけた声を引っ込める。彼ら二人が良いとしたことなら、自分が何と言おうと結果を変えることはできないからだ。俺だって、不霊夢が覚悟を決めていたら止めやしないから。
「頼むぜ、リンクリボー」
ぽんぽん、とデュエルディスクを軽く叩けばむぎゅむぎゅと音を出しながらリンクリボーが表に出ようと必死に力を入れる。すぽん! と良い音を立てたと思えば、リンクリボーに乗った状態でAiも一緒に出てきた。
『クリッ!? ……クリクリンクゥ……』
元気いっぱいなリンクリボーだったが、あるモンスターを見てぷるぷる震え、すっかり怯えてしまった。
――星神器デミウルギア。強大な力を持つサイバース族。闇属性であるが、闇のイグニスであるAiは何一つとして知らないモンスター。
未知はそのまま可能性に言い換えられる。誰も知らない、誰も予想しないジョーカーを盤面に突きつける――それを思考、実行、実現するには敵の監視の目から逃れられるこの
イグニスである己がリンクヴレインズでそのようや思考をしていたらそれが電脳世界のログに残ってしまい、敵に知られて対策を練られてお終い。せっかくの決意も全てが水の泡。――だからこそ、今この機会を逃すわけにはいかない。
「ふっふーん。今はサイバース世界でも元は端末世界! ニンゲンもイグニスも知らない端末世界に残る裏道の案内役が必要でしょう? なら私が――」
立候補しているのはどこからか現れた薄水色の妖精。自信満々な宣言を言い放った直後、羽の先スレスレを狙って鎌が振り下ろされた。
刃は地面に深く突き刺さり、その一撃に込められた力の強さをありありと示している。
「ちょっ、アンタもあの話聞いてたら私がこいつらに変なコトしないって分かってるんじゃ――ああもう!」
慌てて飛び立つ妖精と、ぶんぶん鎌を振り回しながら追いかける機械人形。
「日頃の行いだ。いいかげんに反省を覚えろ羽虫」
ざくざくと足音を鳴らし来たのは一度聞いたことのある声の主。ただ、ディンギルスと同じ声だが見た目が違う。その男は機械鎧ではなく民族衣装のような衣服を着ていた。
「俺が彼の共をする。ゼロデイ、異論はないな?」
「当たり前だ。星杯の力を失えどトロイメアを討伐できるお前に文句などあるはずがない」
機械人形がこちらを向く。任せろ、とぐっと親指を立てる。ニンギルスが同じく親指を立てて返事にする。それを確認したガラテアはこくりと頷いて、妖精を追いかける。表情は変わらないはずなのに、どこか嬉しそうだった。
「……俺がどうこうした、ってワケじゃないのにどうしてそこまでしてくれるんだ?」
Aiはオルフェゴールを使うようになった新生ヴァンガードと深い友情があるわけではない。一般的には友達と呼称されるものに近しい。
「彼女を最初に『ガラテア』と認識できたのは
理由を教えてくれているのだろうが、なんとも理解し難い。でも……特別な名前、その重さについてはようく分かる。
「こっちだ」
ケープを翻し、ニンギルスは歩く。Aiはまだちょっと動きがカチカチなリンクリボーを宥めつつ、ぴょこたんぴょこたんとその後へついていった。
――変わってしまったサイバース世界に再び降り立つ。星杯に誘われし者はいつ襲われても対応できるように警戒を強める。
Aiは自分だけのデッキを持っていない。
【
そんな中、闇のイグニスは特定のカテゴリを作らなかった。仕事をサボっていたから――それだけじゃない。他者を傷つけるのが嫌だったから。幾度となく敗北し、倒れ伏す幼い君を見ていたから。
藤木遊作に、プレイメーカーへと持たせたサイバース族のデッキのモンスターは属性がバラバラ、名前もカテゴリとして統一感のあるものじゃなかった。
プレイメーカーの代名詞にもなっているコード・トーカー達やファイアウォール・ドラゴンも、自分が直接与えたわけじゃない。データストームの中にいたモンスターを彼が掴んだものだ。
手を伸ばす。再利用可能なデータマテリアルを選ぶ。
崩壊する前のサイバース世界には六属性のイグニスの居城があった。ぐるりと繋ぐと六角形となるそれ。闇のイグニスが担当するはずの頂点の一つには、ぽっかりと空いた穴のみがあった。
そこから何かが流れ始める。――データストーム。闇属性だけではなく、他のモノも飲み込みその属性のデータマテリアルを取り込んでいる。
サイバース世界は攻撃を受けたが、全てが消えたわけではない。0ではない。1だ。消滅ではなく破壊。残骸が残っている。
データマテリアル。属性のカケラ。それを集めて、カードへと固める。ストームアクセスと同じプロセスを経て加工、圧縮。でも全てをリンクモンスターにはしない。
まっさらなカードが1枚、また1枚と増える。ずらりとAiの周りを取り囲むカードの群れ、その一つ一つに自分の望むモノへなるよう情報を書き込んでいく。
「もし――本当に光のイグニスが全てを起こしたのなら」
手に力が入る。
「俺が光のイグニスを倒す」
使命から逃げ、戦いから逃げ。偶然――いいや、必然に出会ったオリジンへハノイの騎士を倒すように仕向けた。自分が戦いに関与する事もあったが、基本は彼の腕の上。人質から数多の出来事を経て相棒に。さらにその先へ。
横に並び立つ決闘者に、なりたい。
「――だから、力を借りるぜ。皆」
一番最初に作られた1枚。それはデコード・トーカーを模したリンクモンスター。闇属性。リンク3。それは彼が無意識に望んだ姿。守護する騎士、繋がりの先に仲間を引き戻す
――ダークナイト@イグニスター。
〜精霊界から帰ったその後〜
「迷惑料としてリボルバー様からいいカード貰った!闇属性で機械族にも対応してる!便利!ちょっとデッキ組み替えたから忘れないうちにスピードデュエルのデッキの中身変えた連絡!……いや送った後であれだけどもうちょい変えとくか……もっかい連絡!」
「は?確定したわけではない内容で1日に何度も連絡よこすなんて馬鹿ですか?死んでいただけます?」
「よかった、ちゃんといつもの調子に戻った……」
「(この確認方法で良いのでしょうか……?)」
貰ったカードって?
ああ!それって発表時クラッキング・ドラゴンを出せる効果じゃなくてオルフェゴールサポートって言われてたドラゴン?