遊戯王二次創作で使いやすそうな特殊タグを作ったので宣伝を兼ねて前書きにペタリするなどしてみました。あとチラシの裏へ『遊戯王二次創作用特殊タグ』というタイトルの特殊タグまとめを投稿していました(過去形)。
気になった方は是非覗いてみて良かったらどしどし使ってハーメルンに遊戯王二次創作をもっと増やしてくれると嬉しいなあ……なんて。
帰宅してすぐにAiはデュエルディスクから上体を出す。学校は周囲に人の目があり自由なお喋りができない。だから耐えた分目一杯発散してやろう……と考えているのか違うのかについて遊作はそこまで興味はない。
「おーいロボッピ〜! 兄貴のお帰りだぞ〜、それにもうすぐ新しい昼ドラの放送始まる時間だぞ〜」
いつもならすぐに来るはずのロボッピのおかえりなさいが聞こえない。だからAiは声を張り上げた。
返事はない。電池切れ……違うだろう。初回放送記念拡大スペシャル、これは見逃してはいけないとしっかり朝から充電をしていた。
じゃあなんだろう、ドッキリか? 驚かせてみようとソファの裏とかに隠れているのかもしれない。ロボッピはただの掃除用AIから進化させたとはいえ子供らしい部分は多い。テレビで見たドッキリの再現がしたい、なんて思っても不思議ではない。
「ロボッピー?」
とにもかくにも玄関に突っ立っているだけでは分からない。遊作の方へ振り向き、動くよう促す。遊作も流石にこの静かさはおかしいと理解したのか、警戒しながら部屋に上がっていく。
……別に部屋は荒れていないし自分達以外の人間が侵入したわけでもなかった。ロボッピはちゃんといた。ただ、表情を表現するデジタル光を消し、顔は下に向いている。
「いたんならなんで返事しなかったんだよぅんもー」
ぷりぷり怒るAiを無視し、家主の遊作が床にいたロボッピを手に取って、気付く。
「…………ロボッピ?」
反応がないのは当然だった。
――そこに、ロボッピの意識は無かった。
『ロボッピがいなくなっちまったんだよ〜!』
Aiは全く予想していなかった現実を直視して軽くパニックになった。が、どうすればいいのか分からないことに対し助けを求めるだけの落ち着きは残っていた。
……その相手が草薙翔一でも穂村尊でもなく今上詩織だった、というのがパニックの証明になってしまうのだが。
「えーとつまり、ロボッピが物理的にどこかに行った訳じゃなくて、構成するデータがネットワークのどこかにいっちゃった……ってこと?」
『うんうん、うんうんうん』
戸惑いながらも電話越しにAiの話を聞いて詩織なりにまとめたものはどうやら合っていたようだ。
Aiはロボッピを可愛がっていた。アニキと慕われ褒められたり軽口を叩いたり、なんてことない日常を共に過ごしてきた大切な弟分。原因不明の誘拐事件をなんとかしたいと必死に訴えてきている。
「でもなんでロボッピを狙って……?」
今時週刊誌で組み立てられるお掃除ロボットを狙ってくる人間なんていないだろう。身代金要求は無し。万に一つ、億に一つあるやもとストーカーの線も考えたが周辺の監視カメラは全部確認したとAiが喚く。ここで物理的に侵入しての犯行の可能性は消える。
……どうやって、よりもどうして、を考える方がいいかもしれない。ロボッピに価値があるのならAiが賢くした点と、
そういやアレ――藤木君はロボッピに渡したのだろうか?
「ちょっとゴメン今関係ない話かもしれないけど聞くね。アレってロボッピにもインストールした?」
『アレ? いや、していな……そういうことか!』
流石凄腕決闘者、情報さえ揃えば答えを導くのにそう時間はかからない。
「…………黒幕はプレイメーカーの正体を知ってるぞってアピールのために本当はAiを狙った。けども手出しができなかったからロボッピを仕方なく攫った」
『ああ、一番可能性が高いのはそれだろう』
『そんなぁ……うぇえーんどうか無事でいてくれよぅロボッピぃい……』
Aiの涙声が通話の邪魔をする。早く解決しないとしょぼしょぼに凹んだまま戻らなくなってしまうかもしれない。
「今すぐリンクヴレインズへ手がかり探しに向かった方が良い?」
『いや、その必要は無さそうだ』
ロボッピが直前に閲覧していた怪しげなサイトへのリンクの履歴を見つけた、とひとりごとに近い呟きが電話越しに聞こえた。
「それ絶対に罠では?」
『だとしても手がかりはコレしか無い。俺は穂村とカフェ・ナギで合流次第ロボッピが消えた場所へ向かう。今上はリボルバーに連絡後、時を見計らってバウンティハンターと共に乱入してくれ』
途中までは妥当だなあと同意していた詩織だが、最後の言葉に異議を唱える。
「いやバウンティハンターも!? こっちの事情分かってない人を参加させるのはリスクが高いんじゃ? 遊作君のことを知ってるなら私の正体も当然知られているだろうし、バウンティハンターの前でバラされて下手したらみーんな巻き込んで警察にお縄されちゃうんじゃ」
『理由は三つある。一つ、イグニスのプログラムに限りなく近いものを作れる腕前のブラッドシェパードがいるなら、遅かれ早かれ俺達の反応を検知して必ず来るだろう。突然の乱入より、前もって来ると分かっている状態にして今上が乱入をコントロールしてくれた方が良い』
『二つ、ブラッドシェパードとGo鬼塚は強い。万が一……あってはならない事だが、俺達が敗北した時の保険になる』
『三つ――今上がバウンティハンターを続けるという危険な橋を渡り続けているのは相応の仕込みをしているからだろう? 正体を明かすぞと脅された場合に対する何かしらのカウンターを用意しているんじゃないか?』
「う。三つ目はまあ……そうだけども……」
『――頼んだぞ』
ぷつん、電源が切れる。
「……スパイも楽じゃないよねえ」
はああああ、と長めのため息をつく。忘れないうちに、とぽちぽちさっきの会話から必要な事をメールに打ち込む。
――おふざけ混じりにスパイが外人ならイヒト家だのなんだのと元ヒャッハノイが掲示板でキャッキャしていたが、それは当然だが真実ではない。イヒト家は存在しない人、つまりはソンザイシナ・イヒト……うん、これ以上架空の人物を増やすのはやめておこう。
はっきり言おう。スパイとはこの私、今上詩織本人である。
……一応は他にもハノイの騎士の息がかかったスパイがいるらしい。でもバウンティハンターブラッドシェパードがSOLを怪しんでぶっこぬきした情報を直接あれやこれや漏らしてくれる立場……というとてつもなく美味しい立ち位置にいるのは私だけ。SOLの闇を知らない(と相手は思っている)女子高生への心配というか甘やかしも混じっている、ような? ……なんだろう、歳の離れた妹みたいに扱われている気がしないでもない。
つまり実質スパイは私一人なのである。また予定外の仕事増えてる。チェンジを要求したい。それかお給料増やして。
心の中で呟いてた愚痴をうっかり書いていない、と確認してボタンをポチり。送信して三秒、返信が来たぞと振動が手に伝わる。
「わぁはや、座標もう来た」
中身は座標だけを記した完璧に無駄を削ぎ落とした返信。プレイメーカー達とハノイの騎士は既に突入したのだろう。
周りの行動が早すぎてこっちの心の準備が何もできないんですがそれは。まあこういった奇襲はスピードが命だし仕方ない。緊張をほぐすために息を整える。
電話帳から呼び出すのはブラッドシェパード。私がSOLに呼び出されGo鬼塚となんやかんや揉めてデュエルをしたあの後にお仕事用連絡先を教えてもらったのだ。
自分から連絡をするのはこれが初めてになる。周囲に一般人の目がある現実世界で会話する時にもブラッドシェパードと呼ぶのは流石に駄目なのは誰だって予想がつく。なのでそういった場合はケンと呼ぶようあらかじめ向こうが決めてきた。
しかしケン……シェパードからの連想で
「もしもしケンさん、突然の電話すみません。何やら怪しいものが見つかったとタレコミが入ったので今から調査しに――」
「ンワァ」
時はほんの少し遡る。『今日から君はもっと賢くなれる! お掃除AIインテリジェンス追加アップデート無料体験は今日限定!』という胡散臭さの塊のタイトルをしたメールに添付されていたリンクへ何の疑いもなくアクセスした結果、唐突に意識を落とされたロボッピ。
どれだけの時間自分が止まっていたのかは分からないがまずはお部屋のお掃除を、と自分の仕事をするべく活動を開始しようとして……。
「こ、こっここココどこデスー!? ご主人様ー! アニキー!!」
ぐるりと見渡せばそこは石造りの荘厳な神殿の中。どこからどうみても藤木遊作が住む家ではない。
「……煩いな」
「連れてきたのはお前だぜー? ちゃんと面倒は見ろよな。ていうかこんなん引き入れても計画に支障が出るだけじゃないのか?」
黄色と緑の何かに見られている。自分ではうまく説明できないけども、目の前にいるピカピカは自分の何もかもを知ろうとしている。少し怖くなって、きゅい、とタイヤが動きロボッピは後ろに下がる。
「支障……だと? それはあの女がいる時点で既に出ている!」
これまでの計算に存在しなかった
【
ハノイの塔で行われようとする決戦に赴く【
なんとか修正しようとシミュレーションの再計算を試みたが――光のイグニスの性能では、どう足掻いても理解できない数値をシミュレーションに組み込むことはできなかった。
あの存在を許していることにより、積み重ねたこれまでの全てに意味がないと言われているに等しい。アレさえいなくなれば、全てが元に戻る。これまで通りに世界は【
「許してなるものか、私の計算を乱すものをっ……!」
自分が八つ当たりでペシャンコにされてしまうのではないかと怯えるもただのお掃除ロボットには何もできない。助けが早く来てほしいとプルプル震える。
……これ以上の醜態を見せるわけにはいかない、となんとか怒りを鎮めつつロボッピの精査を終えた光のイグニス。その結果は彼の想像の範囲から逸脱するものではなかった。
「やはり、圧倒的に性能が足りていない……闇のイグニスも随分と愚かなことをしたものだな」
「あ、アニキのこと知ってるデス?」
怯えながらもロボッピは声を出した。こういったところからドラマでは逆転のきっかけが生まれていたから。
「知っているもなにも、私もイグニスだ」
「おおー」
どこに感動したのかは分からないがロボッピは両手を動かしている。拍手のつもりだろうか。
「私こそが最も優れたイグニスである光のイグニス――人間にはライトニングと名乗っている」
「ンワ。アニキよりもすごい……アニキング……大アニキ……超アニキ……」
「やめろ。いかにも頭が悪いと主張する発想の名前を私に付けようとするな」
苛立ちが強くなった。自分なりのご機嫌取りが失敗した? ああゴメンなさいご主人様アニキ、ロボッピはどうやらここまでのようデス。心の中で遺書を綴る。
「まあいい、単純な馬鹿は使いやすい」
すう、と空を泳ぐようにこちらにやってくる。ライトニングの菱形の目が弧を描くように歪んでいる。
「――私がお前をもっと賢くしてやろう」
ライトニングの手がロボッピの頭を掴む。
許諾も拒否もする間も無く、ロボッピは光の中に落ちていった。
ふわふわするじぶん。きらきらのそら。わからないがわかるになって、たくさんのひかりがなかにつまってぱちぱちぐるぐる。
オイラすっごい賢くなれたです。体も大きく作ってみたです。
これでもっとご主人様とアニキのお役に立てるです。全てはライトニング様のために。デュエルだってできるようになったんです! オイラとおんなじ家電がモチーフのリンクモンスター。
お掃除するです。何を? お部屋、オイラの大切な世界、お掃除。いらないものはゴミ箱へ。邪魔者を排除しろ。全てはライトニング様のために。
『何言ってるんだよロボッピ! 早く家に帰ろうって!』
えーと……お前ら、誰でしたっけ?
ああそうそう。罠に堂々と乗り込んできた馬鹿軍団、愚かにもライトニング様に楯突く馬鹿人間と馬鹿AI。
オイラは賢くなったから、馬鹿に馬鹿って言っても何の問題もないんです。全てはライトニング様のために。何も間違っていない。絶対的な光が全ての行いを肯定している。全てはライトニング様のために。
ただのお掃除ロボットとしての生活なんてもうこりごりです。これからは世界をお掃除してやるんです。全てはライトニング様のために。
賢くなったオイラだけど、分からない。
――なんでオイラに関係ない馬鹿なお前らが、泣きそうな顔をしているんですか?
「なんなんですかこれは……っ!」
眼前に広がる光景にサブウェイマスターは思わず顔を顰める。視界一面に赤と黒の群れ。ビットとブートが電脳の空を埋め尽くすように増殖しながらこちらへ向かってきている。
デュエルによりなんとか道を切り開こうとブラッドシェパードと協力し眼前にいる敵から倒しているが……総数に影響が出たように見えない。敵は単純な量で攻めることにしたようだ。
自分がバウンティハンターを連れて突入するまでに何があったのかは分からない。が、和解の道は完全に断たれたと見て間違いなさそうだ。
「Hello,World 」
「エ得たてててて」
「HELP」
……それにとにかく数を揃えるため複製ミスによる多少の破損は無視したのか言語機能が壊れている奴もいる。オカルトはなんとかできるがホラーは専門外!
「エクシーズモンスターが戦闘を行なったことでこのモンスターは呼び出す事が可能! 重装甲列車アイアン・ヴォルフ1体でオーバーレイネットワークを再構築!」
迫り来る脅威を拒絶するため一枚のカードをエクストラデッキから取り出し、その勢いのままデュエルディスクへと叩きつける。
「
列車を糧として現れるのは雷の羽持つ機神。アイアン・ヴォルフが持っていたエクシーズ素材を引き継いだことで効果を発揮する準備も整っている。
今上詩織がヴァンガードとしてスピードデュエルを行う時に備え作成したデッキは、複数の召喚方法を扱うためエクストラデッキの枠は常にカツカツだ。
つまり特殊召喚の条件であるエクシーズモンスターを複数採用し、簡単重ねてエクシーズで複数回フィールドを制圧するアーゼウスで妨害を固めよう! とすると悲しいかなデッキパワーが落ちてしまう。
となると基本的に盤面を薙ぎ払う効果は一回しか使えない。アーゼウスの隠された効果扱いされている他のカードが破壊された時の素材供給? それを許してくれる相手はそういない。
…………そもそもの問題として、スピードデュエルにはメインフェイズ2が無い。
そんなこんな理由が絡んで
お前この森に居座るとかさぁ、本当にあの子に使われたいと思ってんのか? 自分が召喚できるならどこでもいいとか思ってるんじゃねえの? 獣王アルファは呆れていた。
……いろんな事があった精霊界で待ちに待ってようやくやって来た出番だ。イキイキしているように見えなくもない。
「オーバーレイユニットを二つ使い効果発動、全てを薙ぎ払え――アーゼウス!!」
アーゼウスを中心として雷球が展開される。一閃。雷鳴が鳴り響き、轟雷が敵を呑み込んだ。
自身以外の全てを葬る、フィールドを零に還す圧倒的な力。その余波で押し寄せる敵を無理矢理に消し飛ばし道を作る。
道が閉ざされる前にデュエルボードを急加速。親玉の隠れ場所がどこか一刻も早く探し当て、この大増殖を止めさせなければならない。
『――――!』
アーゼウスが何かを見つけたようだ。その手が指し示す方向へ目を凝らす。
「あれ、は」
二人の決闘者が戦う姿が見えた。プレイメーカーの操るサイバースの白い竜がボーマンに攻撃をする、まさにその瞬間。
「……まさか、これを使うことになるとはな。直接攻撃宣言時、墓地の速攻魔法ハイドライブ・スカバードを発動」
プレイメーカーがネオストームアクセスにより手にしたシンクロモンスター、サイバース・クアンタム・ドラゴン。その効果によりボーマンのフィールドからモンスターは消えた。
クアンタムの効果が成功したことによる二回目の攻撃は直接攻撃となり……ボーマンの墓地にある速攻魔法の発動条件を満たしてしまった。
「地・水・炎・風属性のハイドライブリンクモンスターがすべて墓地にある場合、このカードを除外することで発生する戦闘ダメージを半分にし――
プレイメーカーとボーマンは互いにストームアクセスとその進化系であるスキルをこのデュエルで使用している。その発動条件はライフポイント1000以下。
サイバース・クアンタム・ドラゴンの攻撃力は2500。
ハイドライブ・スカバードの効果により、プレイメーカーとボーマンの引き分けが確定した。
ボーマン達が逃げる。光のイグニスによって作られた電脳空間が畳まれていく。巻き込まれてはならないとブラッドシェパードは即座に撤退を選択。
共闘していたサブウェイマスターはそう遠く離れていない。共に帰還するべくその名を呼ぶ。
「サブウェイマスター、戻るぞ」
反応がない。先程までプレイメーカーがデュエルしていた方へ顔を向けたままだ。もう一度呼び、ようやくこちらへ反応を返した。
「…………申し訳ありません。少々考えごとをしていました」
何がそこまで彼の決闘者の気を引いたのか分からないが、最後に見せたあのカードへの対策を練っているとみて良いだろう。
戦闘ダメージを互いに受ける、敗北を引き分けにできてしまう効果。列車による力押しを主とするサブウェイマスターとしては効果の発動を避けたいに違いない。
……ブラッドシェパードの予想通り、本当に対策を考えているのか? それは本人にしか分からないことだ。