どうも、ハノイの騎士(バイト)です。   作:ウボァー

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怖いお話をします。
グラドスの表裏サイバトロンデッキを使用している決闘者をマスターデュエルで観測しました。60枚デッキ、流石に誘発を入れる枠は無いそうですが組めるんだって。こわいね。作者もびっくりしています。

ハリファイバー……お前……消えるのか?


フェイタル・ファーストテイク

ボーマン LP 4000 手札5→6

 モンスター 

ツイン・ハイドライブ・ナイト Link2 ATK1800

 魔法・罠 

裁きの矢(ジャッジメント・アローズ)

グラドス LP 3000 手札1

 モンスター 

竜輝巧(ドライトロン)-ファフμβ’(ミューベータ) ランク1 ATK2000→0

 魔法・罠 

伏せカード1枚

 

 

「私のターン、ドロー」

 

 ハルによって用意されたフィールドには、彼らの戦術の要となるリンク魔法にハイドライブモンスターがいる。よほどの手札事故が起きていなければリンク3、リンク4を即座に出すことが可能。

 相手のフィールドにいるのは効果を無効化された上に攻撃力0になった無防備なモンスター1体。ボーマンが選んだ初手は――。

 

「ツイン・ハイドライブ・ナイトをリリースしハイドライブ・エージェントをアドバンス召喚」

 

《ハイドライブ・エージェント》

星5/攻0

 

 意外なことにアドバンス召喚だった。

 

「アドバンス召喚に成功したハイドライブ・エージェントの効果で墓地からハイドライブモンスター、バーン・ハイドライブを特殊召喚。また、この効果でリンクモンスターを特殊召喚したのでデッキから1枚ドローする」

 

《バーン・ハイドライブ》

Link1/攻1000

【リンクマーカー:下】

 

 ハイドライブ・エージェントがスーツケースを開くとそこから飛び出すバーン・ハイドライブ。

 一見アドバンテージを失うように見えたアドバンス召喚こそ、大型モンスターのリンク召喚に繋げるための布石。ボーマンは淀みなくカードを操る。

 

「速攻魔法ハイドライブ・スカバードを発動。効果でハイドライブトークンを守備表示で特殊召喚する。現れろ、真実を極めるサーキット! 召喚条件はハイドライブモンスター1体! 私はハイドライブトークンをリンクマーカーにセットし――リンク召喚! リンク1、フロー・ハイドライブ!」

 

《フロー・ハイドライブ》

Link1/攻1000

【リンクマーカー:下】

 

「再び現れろ、真実を極めるサーキット! アローヘッド確認! 召喚条件はレベル5以上の効果モンスターを含む『ハイドライブ』モンスター2体以上! 私はハイドライブ・エージェントとバーン・ハイドライブ、フロー・ハイドライブの3体をリンクマーカーにセット! リンク召喚! パラドクス・ハイドライブ・アトラース!!」

 

《パラドクス・ハイドライブ・アトラース》

Link3/攻0

【リンクマーカー:上/左/下】

 

 エクストラモンスターゾーンに姿を見せたのは毒々しい色合いの巨体。これまで見てきたハイドライブモンスターと違い四つ足で大地に立つ。より生物的に、肉肉しさを増したソレは長い首を持ち上げ単眼で対戦相手を見下ろす。

 ヴァンガードとグラドスはボーマンが召喚したモンスターのシルエットや纏う空気感にどこか見覚えがあった。

 

「風のイグニスが待ち受けていた空間にいた怪物と似ていますね」

 

「風のイグニスが従えていたのはコピーだ。パラドクス・ハイドライブ・アトラースこそサイバース世界を滅ぼしたモンスターそのもの――その力、とくと味わうがいい」

 

 風のイグニスが作ったコピーはヴァンガードの指示によるクラッキング・ドラゴンの攻撃によって消えていった。……だが、オリジナルにコピーと同等の弱さを求めるのは少し難しいだろう。

 レベル5以上の効果モンスターを含む、と召喚条件に独特な文言があるリンク3。厄介な効果を備えているに違いない。

 

「パラドクス・ハイドライブ・アトラースは特殊召喚に成功した場合、サイコロを1回振り、出た目に対応した属性になる」

 

「…………はい? サイコロ?」

 

 サイコロは6面。特殊なものを除けば、デュエルモンスターズに存在する属性も6。計算は合うが……ハイドライブは恐らくボーマンやライトニングによって作られたカテゴリ。優れたAIだと自負する彼らが効果に確実性の無いギャンブル要素を入れる? グラドスは困惑していた。

 

「AIの進化の果てにあるのがサイコロ……? そうはならないでしょう」

 

「なってるんだよなあ」

 

「神はサイコロを振る――ジャッジメント・ダイス!」

 

 突然のボケとツッコミには興味がないのか、ボーマンは粛々とデュエルを進める。

 手をかざすと属性を示すアイコンが大きく描かれた特殊な柄のサイコロが現れ、回る。

 

「運命により選ばれたのは闇属性! よってパラドクス・ハイドライブ・アトラースは闇属性となる!」

 

 これまでハイドライブモンスターは光属性と闇属性への対抗策を持っていなかった。それが闇属性を得たってロクでもないことになりそうだなあ、とグラドスを若干放置しつつヴァンガードはどんな効果が発揮されるのか可能性を考える。それをボーマンは察したのか、効果の説明を挟む。

 

「パラドクス・ハイドライブ・アトラースのリンク先のモンスターはアトラースと同じ属性になり、また同じ属性のモンスターがフィールドに存在する限りアトラースは相手の効果を受けず、攻撃対象にならない」

 

「…………!」

 

 教えられたのは展開初動から最終盤面まで闇属性が残ることが多いヴァンガードにとってすこぶる相性の悪い効果だった。しかも同じ属性のモンスター……この部分に自身・相手の制限が無い。それが一番まずい。

 

「パラドクス・ハイドライブ・アトラースの更なる効果発動。サイコロを1回振り、出た目と同じ数のリンクマーカーを持つ『ハイドライブ』リンクモンスター1体をエクストラデッキからこのカードのリンク先となる自分フィールドに特殊召喚する。――ジャッジメント・ダイス!」

 

 再びボーマンの手の上に現れたサイコロはひとりでに回る。

 ――現在この世界に存在するリンクモンスターの最大リンク数は4。リンク召喚に長けたサイバース族であってもリンク5以上のリンクモンスターは存在しない。

 よってサイコロの目で5・6が出た場合は何もモンスターは現れない。またリンク1・2のモンスターが出てもイマイチ決定力に欠ける。効果を無効にする、などの強力な効果を持っているのはリンク3・4。……確率で見ると有用なモンスターが出せるのは3分の1。

 

 ――忘れてはならない。ボーマンはAIである以前に決闘者。どんな確率であろうと、決闘者ならばコイントスやサイコロによって左右される効果は特にメンタルが揺れていなければほぼ成功する。求めた結果を引き当てることが可能なのだ。

 

「出た目は4。よって私はエクストラデッキよりリンク4のアローザル・ハイドライブ・モナークを特殊召喚する!」

 

《アローザル・ハイドライブ・モナーク》

Link4/攻3000

【リンクマーカー:上/左/右/下】

 

 巨神の咆哮に応え、覚醒せしハイドライブの絶対君主が杖を手に地に舞い降りた。

 人の上体に竜の翼と尾、無機質の中にどこか神々しさを感じさせるそのモンスターは裁きの矢のリンク先にいる。――戦闘時には攻撃力が6000へ上昇することが確定したボーマンの切り札は、ただ主の命令を待つ。

 

「アローザル・ハイドライブ・モナークがエクストラデッキから特殊召喚されたことで、このモンスターにハイドライブカウンターを4つ乗せる。また、パラドクス・ハイドライブ・アトラースの効果によりアローザル・ハイドライブ・モナークは闇属性となる」

 

 このリンク4モンスターには自身と同じ属性のモンスターを攻撃表示でしか召喚・特殊召喚できず、 またこのカードと同じ属性の相手モンスターの攻撃力は0になり、効果は無効化される……という、永続的な妨害効果が含まれている。

 アローザル・ハイドライブ・モナークの持つ元々の効果では光と闇属性に対応できなかった穴があったが、パラドクス・ハイドライブ・アトラースによって補われた。

 

「ハイドライブカウンターを1つ取り除き効果発動。サイコロを1回振り、出た目に対応した属性のモンスターが相手のモンスターゾーンに表側表示で存在する場合、 それらを全て墓地へ送り、墓地へ送ったモンスターの数×500ダメージを相手に与える。――ジャッジメント・ダイス!」

 

 サイコロ三度目の出番。二度あることは三度ある、とばかりに示された目はヴァンガードとグラドスのタッグを不利な状況へ追い込んでいく。

 

「選ばれたのは光属性! よってファフμβ’(ミューベータ)を墓地に送り500のダメージを与えさせてもらう」

 

 錫杖から放たれた光輪が機械竜を締め上げ、悲鳴に似た金属の軋む音を響かせ……圧に耐えきれずファフμβ’が爆発四散する。

 

ヴァンガード&グラドス

LP 3000→2500

 

 ガラ空きになったフィールド。残されたのはセットカード1枚。ボーマンは指示を下す。

 

「バトル! アローザル・ハイドライブ・モナークで――」

 

 このダイレクトアタックが決まれば敗北。グラドスが1枚のみ持つ手札はサイバー・ドラゴン。悲しいかな、攻撃に対してどうこうできる力は持っていない。

 だから――動く。次のターンへ、ヴァンガードへ繋げるためにセットカードを発動させる。

 

「罠カード、エターナル・カオス発動! 相手フィールドの表側表示モンスター1体を対象とし、攻撃力の合計がそのモンスターの攻撃力以下になるようにデッキから光属性と闇属性のモンスターを1体ずつ墓地へ送る! 私は超電磁タートルとサイバー・ウロボロスを墓地に送る」

 

 グラドスの眼前に迫っていた一撃が、止まる。見えない何かに弾かれる。

 

「超電磁タートルの効果。バトルフェイズに自身を墓地から除外し、バトルフェイズを終了させる。……まだターンが回っていない人がいるのにデュエルを終わらせよう、などつまらない事はしないでもらいたいですね」

 

「フッ……耐えたか。そうでなくてはな。カードを4枚セットしターンエンドだ」

 

 長いような短いような、ようやく自分の番が来たヴァンガードが考えるのは違和感。

 ……そう。ボーマンの展開にはどこか違和感があった。

 

 ハイドライブ・エージェントによる蘇生。あの時ツイン・ハイドライブ・ナイトを蘇生させれば、ハイドライブ・エージェントとリンク2のツイン・ハイドライブ・ナイトを素材にリンク3のパラドクス・ハイドライブ・アトラースをリンク召喚できたはずだ。

 そうすればハイドライブ・スカバードから用意したリンク1のハイドライブはフィールドに残っていた。なのに……わざわざ遠回りをした。それが引っかかる。

 

 高々攻撃力1000、裁きの矢の力を得ても2000。打点の低いモンスターを残したくなかった、だけかもしれないが……。

 もし、サイコロの出目が変わらず無駄なく展開していればフィールドにはリンク4、3、1が並び――リンクマーカーの合計は『8』になった。

 

 ――あぁら、残念残念。

 

「(……あ? デッキにいるのになんで声聞こえるの? 今はちょっと黙ってて)」

 

 ――そりゃ、波長が合っちゃってるし? ……ちょっとアイツらに念飛ばすのやめなさいよ! チッ、はいはぁーいわかったわよ黙りまーすぅー。

 

「……私のターン、ドロー」

 

 相手の魔法罠ゾーンにはカードが5枚。一掃したくなるが、生憎複数を破壊するカードは手札になかった。

 相手に突破札を引き込ませないのも強さ。運命力、とでも呼べばいいのだろうか。今回はボーマンがほんの少し上回った――だからといって、ヴァンガードが何もできないわけではない。

 

「速攻魔法、閃刀機-ウィドウアンカーを発動。アローザル・ハイドライブ・モナークの効果を無効にさせてもらうよ」

 

 無効には無効を。これによりヴァンガードのモンスター達は効果を無効にされることなく自由な展開が可能になった。

 

「墓地に名前の異なるモンスターが5体以上存在するため、手札から影星軌道兵器ハイドランダーを特殊召喚!」

 

《影星軌道兵器ハイドランダー》

星8/攻3000

 

 先陣を切ったのは条件付きで特殊召喚可能な大型モンスター。

 

「デッキの上から3枚カードを墓地に送って効果発動! 墓地のモンスターのカード名が全て異なる場合、フィールドのカードを選んで破壊する!」

 

 狙うのは裁きの矢。裁きの矢を破壊すればそのリンク先にいるアローザル・ハイドライブ・モナークも破壊される。あとは闇属性以外のモンスターで攻撃力0のパラドクス・ハイドライブ・アトラースを攻撃するなり除去するなりでデュエルを有利に進められる。

 

 墓地へ送られたカードは――亡龍の戦慄-デストルドー、ボルト・ヘッジホッグ、幻獣機オライオン。どれも墓地へ送られて活躍の場を広げるモンスター達。今日もヴァンガードのデッキは絶好調だ。

 

「そうはさせん。速攻魔法、禁じられた聖杯をハイドランダーを対象に発動! 攻撃力を400上昇させ、その効果を無効にする!」

 

 ジュウ、ジジジ……と音を立ててハイドランダーの光が衰える。

 

《影星軌道兵器ハイドランダー》

攻3000→3400

 

 裁きの矢の前では相手の攻撃力が400上がる程度、誤差にすぎない。ハイドランダーの効果による破壊こそ止められたが、効果発動のため支払われたコストをどうこうすることはできない。

 墓地をフル活用するヴァンガードのデッキが回り始める。

 

「ハイドランダーの効果発動のため墓地に送られた幻獣機オライオンの効果。フィールドに幻獣機トークン1体を特殊召喚する」

 

《幻獣機トークン》

星3/守0

 

「闇属性リンクモンスターのリンク先へヴァレット・キャリバーを特殊召喚!」

 

《ヴァレット・キャリバー》

星4/守100

 

 ヴァレット……それは本来ハノイの騎士のリーダー、リボルバーが使用するカテゴリ。クラッキング・ドラゴン同様リボルバーから与えられたのだろう。

 しかしヴァンガードのフィールドにリンクモンスターはいないのにどうやって特殊召喚を? その疑問についてはパラドクス・ハイドライブ・アトラースを見れば解決する。

 

「こちらの戦術も利用してくるか……成程な」

 

 リンクモンスターの中には相手フィールドにリンクマーカーが向いているものがある。パラドクス・ハイドライブ・アトラースもその一つ。

 それはアトラースの効果で相手の操るモンスターの属性を変化させ、戦術を妨害するのに使用するためであるが、今回はどうやらそう上手くはいかないらしい。

 

「先駆けとなれ、我が未来回路! 召喚条件はチューナーを含むモンスター2体! チューナーモンスターのヴァレット・キャリバーと幻獣機トークンをリンクマーカーにセット! リンク召喚! リンク2、水晶機巧(クリストロン)-ハリファイバー!」

 

《水晶機巧-ハリファイバー》

Link2/攻1500

【リンクマーカー:左下/右下】

 

「エクストラデッキからモンスターを特殊召喚したことで墓地の巨神封じの矢(ティタノサイダー)をセットさせてもらう」

 

 透明な機体を持つ少し小柄な機械の特殊召喚に反応して再び発動の機会を待つ巨神封じの矢であるが、罠カードである以上、セットされたターンに発動はできない。

 全て埋まっているボーマンの魔法・罠ゾーン、裁きの矢と巨神封じの矢を除けば未知のカードは3枚。タッグデュエルをすると前もって決めていたのなら次のターンへ繋げるために効果無効や破壊などを複数枚積んでいるだろう。

 

 ――ヴァンガードがどの効果を止められるかわからないように、ボーマンとて展開のどこを妨害すればいいのか完璧には分からない。

 こういった状況を突破するには相手が確実に止めなければと思うモノを複数用意し相手の妨害を全て使い切らせ上からボコる、この手に限る。

 

「ハリファイバーの効果でデッキからレベル3以下のチューナーを特殊召喚する。来て、オルフェゴール・カノーネ」

 

《オルフェゴール・カノーネ》

星1/守1900

 

「ハリファイバーのリンク先に手札から星遺物-『星冠』を守備表示で特殊召喚」

 

《星遺物-『星冠』》

星6/守2000

 

「フィールドにチューナーモンスターがいるため、ボルト・ヘッジホッグを効果で墓地から特殊召喚」

 

《ボルト・ヘッジホッグ》

星2/800

 

「ダークシー・レスキューを通常召喚」

 

《ダークシー・レスキュー》

星1/攻0

 

【現在のフィールド】

◀︎

▶︎

空白

空白

❹《/ref》

▶︎

空白

❶:裁きの矢

❷:アローザル・ハイドライブ・モナーク

❸:水晶機巧-ハリファイバー

❹:パラドクス・ハイドライブ・アトラース

❺:星遺物-『星冠』

❻:影星軌道兵器ハイドランダー

❼:ダークシー・レスキュー

❽:オルフェゴール・カノーネ

❾:ボルト・ヘッジホッグ

 

 フィールドには合計6体の機械族モンスター。大きいものから小さいものまで取り揃えたよりどりみどりの状態から、ヴァンガードはどのモンスターを呼び出すべきかパズルのように組み立てる。

 

「レベル1のダークシー・レスキューにレベル1のオルフェゴール・カノーネをチューニング! シンクロ召喚! 来たれ、レベル2! フォーミュラ・シンクロン!」

 

《フォーミュラ・シンクロン》

星2/守1500

 

「シンクロ素材になったダークシー・レスキューとシンクロ召喚したフォーミュラ・シンクロンそれぞれの効果を発動し合計で2枚ドローする」

 

 連続召喚でほとんど使い切った手札が補充される。これでヴァンガードの手札は3枚。

 

「ライフを半分支払い、レベル6の星冠を対象にして墓地の亡龍の戦慄-デストルドーの効果発動。墓地からデストルドーを特殊召喚し、対象のモンスターのレベル分デストルドーのレベルを下げる」

 

《亡龍の戦慄-デストルドー》

星7→1/守3000

 

ヴァンガード&グラドス

LP 2500→1250

 

「レベル2のボルト・ヘッジホッグにレベル1になったデストルドーをチューニング! シンクロ召喚! レベル3、武力(ブリキ)の軍奏!」

 

《武力の軍奏》

星3/守2200

 

 自分で用意したリンク先とボーマンの操るパラドクス・ハイドライブ・アトラースのリンク先を活用したシンクロ召喚。低レベルのシンクロチューナー達を使い堅実にアドバンテージを得ていく。

 

「武力の軍奏がシンクロ召喚に成功したことで墓地のチューナー、オルフェゴール・カノーネを効果を無効にして守備表示で特殊召喚」

 

 シンクロ召喚を行なったはずなのに、メインモンスターゾーンがまた全て埋まった状態に戻る。複数のチューナーがいるが、これから行うのは連続シンクロではないと示すサーキットが天に広がる。

 

「先駆けとなれ、我が未来回路! 召喚条件は『オルフェゴール』モンスターを含む効果モンスター2体以上! 私はオルフェゴール・カノーネ、影星軌道兵器ハイドランダー、武力の軍奏の3体をリンクマーカーにセット! リンク召喚! リンク3、オルフェゴール・ロンギルス!」

 

《オルフェゴール・ロンギルス》

Link3/攻2500

【リンクマーカー:左上/上/右下】

 

 紫の長髪を風に靡かせ、騎士は巨人と相見える。

 

「除外されている機械族モンスター2体を対象にロンギルスの効果発動! 対象になったモンスターをデッキに戻し、その後リンク状態のモンスターを墓地へ送る!」

 

 槍を振るい、繋がりを断ち切る効果を振るおうとしたロンギルスの動きが止まる。目を見開き、呆然とした表情に変わる。

 

「罠発動、星遺物に響く残叫! 自分フィールドに相互リンク状態のモンスターが存在し、相手がモンスター効果を発動した時、その発動を無効にし破壊する!」

 

 それはロンギルスに深く関係し、星遺物を巡る中にあった、大切な存在を失った出来事――。

 一人の命が終わったと零れ落ちる光。友が彼女の名前を呼ぶ声が、竜の泣き声が、自分の心が砕ける音が。

 

 残響と共に、オルフェゴール・ロンギルスは破壊される……筈だった。

 

『……⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎め。あのカードを持っているということはやはり干渉しているか』

 

 オルフェゴール・ロンギルスは怒りのままボーマンを……いや、ここにいない誰かを睨みつける。コンコン、とデュエルディスクを軽く指で叩く。

 

「(ねえイドリース。近くにあいつがいるか、とかの気配分かる?)」

 

 ……無視された。黙っててという頼みを守っているだけなのかもしれないが。

 

「……何故、破壊されていない?」

 

 手札の枚数に変化はなく、墓地も同様。何かの効果を発動した訳ではない。だがオルフェゴール・ロンギルスはフィールドにまだ立っている。

 ボーマンの疑問にヴァンガードは答える。

 

「リンク状態のロンギルスは効果では破壊されない、って効果がある。ああ、この効果をこれまでのデュエルで見せたことはなかったっけか」

 

「星遺物に響く残叫は()()を無効にするが相手モンスターの持つ()()全てを無効にはしない。……私のミスか」

 

 相手のエースに対してただ効果を無効にするだけでなく破壊も狙いたい……誰だってそう思うだろう。

 ボーマンのミスは仕方がないものだった。オルフェゴールの使用者はヴァンガード以外にいない。こうしてデュエルでオルフェゴールを使うようになったのはごく最近。使用回数が少ない上にこれまでにロンギルスの破壊耐性をお披露目したことはなかった。

 

「オルフェゴール・ロンギルス1体でオーバーレイネットワークを再構築! クロスアップ・エクシーズチェンジ!」

 

 オルフェゴールリンクモンスターを素材に特殊召喚される、風のイグニスのフィールドにて使用したエクシーズモンスター。

 

「来たれ、ランク8! 宵星の機神(シーオルフェゴール)ディンギルス!」

 

 機神はフィールドに――現れなかった。

 

「罠発動、神の宣告!」

 

 力には代償を。命を糧として雷が落ちる。

 

「LPを半分払い、特殊召喚を無効にしそのモンスターを破壊する」

 

ボーマン&ハル

LP 4000→2000

 

「っ……ミスってそういうことね……!」

 

 神の宣告はフィールドに着地する前の召喚自体に作用している。フィールドに出る前に止めているため、破壊耐性を持つモンスターであろうと破壊が可能。

 オルフェゴール・ロンギルスに対して神の宣告を使用すれば星遺物に響く残叫は温存できた。妨害1枚、その差はまさしく紙一重? 違う。その1枚がデュエルの勝敗を分けることになる。

 

「レベル6の星遺物-『星冠』にレベル2のフォーミュラ・シンクロンをチューニング! シンクロ召喚! レベル8、ダークエンド・ドラゴン!」

 

《ダークエンド・ドラゴン》

星8/攻2600

 

 ヴァンガードのフィールドに残っていたレベルを持つモンスターを素材にして召喚されたのは胸にもう一つ顔を持つ闇属性の竜。

 

「攻撃力を500下げ、アローザル・ハイドライブ・モナークを墓地へ送る! ダーク・イヴァポレイション!」

 

《ダークエンド・ドラゴン》

攻2600→2100

守2100→1600

 

 ようやく1体を除去することができた。ボーマンが操る闇属性モンスター、残るはパラドクス・ハイドライブ・アトラース。

 攻撃力0のモンスター、普段ならばいい的になるが……。今のままでは攻撃することができない。

 

「パラドクス・ハイドライブ・アトラースは同じ属性のモンスターがフィールドに存在する限り相手の効果を受けず、攻撃対象にならない! 闇属性のモンスターがいる限り私に攻撃は届かないことを忘れたわけではないだろうヴァンガード! ……それともリンク3のモンスターで攻撃をするか?」

 

 ヴァンガードのフィールドにはチューナーをデッキから呼び出してからほぼ放置されていたリンク2のハリファイバーがいる。

 リンクマーカーはシンクロ展開にとても役に立ってくれたが、余りにもハリファイバー自身を話題にしないものだからちょっとウトウトしていたらしく……体は船を漕ぎかけている。

 

「……プログラム(モンスター)に睡眠の真似事などデュエルに必要ないだろう。余計な負荷を増やして何になる」

 

「うーんここまで変な回し方してもオカルト方面の発想が出てこない、か……にしても進化の弊害かな? リンク素材よりもっとシンプルな方法を見落としてる」

 

 ヴァンガードはにっ、と笑って1枚のカードを発動する。

 

「魔法カード、アドバンス・ドローを発動! レベル8のダークエンド・ドラゴンをリリースして2枚ドロー!」

 

 最後の一押し、とばかりに発動したのはドロー効果。ヴァンガードのフィールドから闇属性モンスターは消え去った。

 

「――これで必要なカードは揃った」

 

 4枚になった手札から1枚を手に取り、デュエルディスクに叩きつける。

 

「エクストラモンスターゾーンにモンスターがいることで機巧蹄(きこうてい)天迦久御雷(アメノカクノミカヅチ)は特殊召喚できる」

 

《機巧蹄-天迦久御雷》

星9/攻2750

 

 そのモンスターは巨大な鹿を模した機械であり、炎属性。パラドクス・ハイドライブ・アトラースの耐性を呼び覚ますことはない。

 

「天迦久御雷の効果! エクストラモンスターゾーンの表側表示モンスター1体を対象とし、その表側表示モンスターを装備カード扱いとしてこのカードに装備する!」

 

「リンクモンスターへの対策はオルフェゴールだけではなかった、ということか……!」

 

「意表をつけたのならスペクター様に何回デッキ構築を送りつけてくるんだいいかげんにしろってキレられた甲斐があるってもんですよ! ――やれ、天迦久御雷!」

 

 その指示を待っていた、とばかりに機鹿は吼える。蹄を地面に力強く叩きつけるとそこから炎が噴き出し、パラドクス・ハイドライブ・アトラースを絡めとる。

 捕獲、吸収、装備。……ボーマンのフィールドにもうモンスターはいない。このまま攻撃をすればヴァンガードは勝てる。だからこそ、念には念を。

 

「レベル9の天迦久御雷を対象に魔法カード星遺物の胎導を発動! 対象にしたモンスターと種族、属性が異なるレベル9モンスター2体をデッキから特殊召喚する!」

 

 地が割れ、天が荒れ、現れるは2体のモンスター。

 

夢幻転星(アストロイメア)イドリース》

星9/守2100

 

《星遺物の守護竜メロダーク》

星9/守3000

 

 闇の天使、風の竜。フィールドに並ぶ大型モンスター達。イドリースが何を思ったかヴァンガードに寄ろうとして……天迦久御雷が睨み静止させた。

 

「この効果で特殊召喚したモンスターは攻撃できず、エンドフェイズには破壊される。……行くよ、これが最後のリンク召喚!」

 

 天を仰ぐ。空に向かって手を伸ばす。

 

「先駆けとなれ、我が未来回路! アローヘッド確認! 召喚条件はレベル5以上のモンスター3体! 私は機巧蹄-天迦久御雷、夢幻転星イドリース、星遺物の守護竜メロダークの3体をリンクマーカーにセット! サーキットコンバイン!」

 

 それはヴァンガードが持つ唯一のサイバース族。

 

「リンク3――星神器(せいしんき)デミウルギア!!」

 

《星神器デミウルギア》

Link3/攻3500

【リンクマーカー:左/右/下】

 

 それは星のようであり、神のようであり、器。

 圧倒的。驚異的。その正体は天の神が司っていた破壊の力、時を経て大いなる闇と呼ばれるようになったモノ。

 

『星神器、正常動作中。問題無。――睥睨』

 

 サイバース族の生みの親であるイグニスですら知らない存在がボーマンを認識した。

 

「――――ッ!?」

 

 何をしようと無駄な終わりが直ぐ目の前まで迫っている。自分という存在が瞬く間に0と1に分解されて消えてしまう。

 ……それは現実でも事実でもない。自分はただ、あのモンスターに睨まれただけだ。それだけで、性能差を分からせられた。

 

 リンクヴレインズは全てがデータで構成されたVR世界。この場では人の意識もデータとして存在する。あのモンスターが一度サイバース然とした力を使えばここにある全ては消滅してしまう。その結末を誰も止めることはできない。現時点の世界で最も優れたAIであり、ネットワークを自在に操れるボーマンでさえも。

 

 

 何故だ。何故! お前はそんな兵器を使っているのに、平気な顔をしている――!?

 

 

「種族と属性が異なるモンスター3体を素材としてデミウルギアがリンク召喚されている場合、自分メインフェイズにデミウルギア以外のフィールドのカードを全て破壊する効果を発動できる! 全てを破壊しろ、デミウルギア! テウルギア・ゴエーテイア!」

 

 ボーマンの裁きの矢もセットカードも、使用者であるヴァンガードのフィールドでさえもデミウルギア以外存在を許されない。えっおやすみ時間はもう終わりですかウワーッとハリファイバー爆発。

 

「…………っ! その効果にチェーンし非常食を発動! 裁きの矢とセットされていた巨神封じの矢を墓地に送りライフポイントを2000回復する!」

 

ボーマン&ハル

LP 2000→4000

 

 デミウルギアの圧に呑まれていたボーマンだが、決闘者としてのプライドが体を突き動かす。

 

 裁きの矢にはフィールドを離れると裁きの矢のリンク先にいるモンスター全てを破壊してしまうデメリットがあるが、もうボーマンのフィールドにモンスターはいない。

 神の宣告によって失われたライフポイントはデュエル開始時の4000に戻る。

 

「永続魔法、機械仕掛けの夜-クロック・ワーク・ナイト-を発動。フィールドの表側表示モンスターは機械族になり、自分フィールドの機械族モンスターの攻撃力・守備力は500アップする!」

 

《星神器デミウルギア》

攻3500→4000

 

 ダメ押し、とばかりに発動するのは攻撃力を上げる永続魔法。その効果でデミウルギアの攻撃力はボーマンのライフポイントに届いた。

 

「バトル! 星神器デミウルギアでボーマンにダイレクトアタック!」

 

 ボーマン最後の抵抗も虚しくデュエルが終わるのか――? 誰でもないボーマン自身が否を唱えた。

 

「勝負を焦ったなヴァンガード! 直接攻撃宣言時、墓地の速攻魔法ハイドライブ・スカバードを発動!」

 

 ボーマンの墓地には光・闇以外の4属性ハイドライブリンクモンスターがいる。発動条件は整っていた。

 ダイレクトアタックで発生する戦闘ダメージを半分にし、互いにそのダメージを受ける。発生するダメージ4000の半分、2000の効果ダメージに対しヴァンガードの残りライフポイントは1250。……耐えられない。

 

 ――よし繋がった! 相手はボーマンで……ッ!?

 

 ――ヴァンガード!

 

 デミウルギアが召喚されてからこの空間の絶対性は揺らぎ、隠しきれなくなっていた。星神器の持つ破壊の力でプログラムに一部穴ができたからだ。

 

 リンクセンスを持つ男達は気付く。何か大きな力を持つ存在がリンクヴレインズに現れた……と。優秀なハッカーの手でその居場所を突き止め、中継が今まさに繋がった。だが、その観戦はデュエル開始時からではなくリアルタイム。

 映像が繋がった瞬間にヴァンガードの敗北確定を見せられた決闘者達の声色に絶望が混ざる。

 

「……勝った。そう思ったでしょう、ボーマン」

 

 ヴァンガードの残る手札、1枚。

 

「私はね、このデュエル――絶対に負けてやる気はないんだ」

 

 この状態からできる敗北の回避方法。

 

「ダメージステップに入る」

 

 今、星神器デミウルギアは機械族になっている。

 

リミッター解除、発動ッ!!」

 

《星神器デミウルギア》

攻4000→8000

 

「さあ、これで直接攻撃により発生するダメージは8000! その半分――4000のダメージを互いに受けることになる!」

 

「引き分け…………だと!?」

 

「デミウルギア、遠慮はいらない! 崩界のアポ・メーカネース・テオス!」

 

 デミウルギア本体、白の光球が膨れ上がり破壊のエネルギーが充填……維持限界到達……限界突破……オーバーロード。

 リミッターを解除された破壊の力。それがどれほど危険なのかは分かっている。このダメージを受ければどちらもタダでは済まない。

 

 ボーマンはハルを庇うように前に立つ。驚いた顔のハルに声をかけることなく、男は攻撃を見据える。

 こうしたところで衝撃の軽減効果は認められない。その計算結果はもうとっくに出力されている。……ただ、自分は兄として、そうしたいと思ったのだ。

 

ヴァンガード&グラドス

LP 1250→0

 

ボーマン&ハル

LP 4000→0

 

 

 デュエル終了を告げるブザーが鳴る。

 ――全ては、力の中に飲み込まれていった。

 

 

 

「出来そうな見込みある奴へちょっと押し付けようかなーと」

 

「はあ。……ところで誰を考えているのですか? その言い方では(グラドス)ではないみたいですけれど」

 

「ん? ああー……それ今聞く?」

 

「まさかスペクター、とは言いませんよね」

 

「いや? 私が考えてるのはね――ボーマンだよ」


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