クシャトリラとのデュエルでリンク5の捜索どころではなくなってしまった探索は、言い出しっぺの島直樹が気絶した事によりお開きとなった。
倒れたまま復活しそうにない太めの男子高校生をどうするか二人で考えた結果――遊作が一人で島直樹を背負い家まで送り届けることに決まった。退店する時に店員を誤魔化しつつ入り口で別れ、今上詩織のみ先に帰宅したのだった。
自室にてライズハートから譲られた【クシャトリラ】デッキを改めて確認する。
緩い特殊召喚条件、かつ墓地や除外から呼び戻せる魔法・罠。モンスターは殆どがサーチ効果持ち、かつレベル7に相応しいステータス。
とりあえず、の気持ちで1体出しておくだけでも相手にとって厄介な裏側除外をチラつかせ突破にカードを使わせるため、十分な仕事をしてくれる。
――文句のつけようがない。強い。
テーマとして完成されている上に出張採用も検討可能。というわけで適当なデッキにクシャトリラのカードを数枚入れてお試しドローを何回か試している、のだが……詩織の顔色はなんとも言えない微妙なもの。
「手札に来ないね?」
今上詩織が困ったように語りかける先は、現実世界に薄ぼんやりとその姿を映す《クシャトリラ・ライズハート》。
『どこぞの分身と違い俺に弱者を甚振る趣味はない。戦う相手はある程度選ばせてもらう』
ではデッキのどこに入っているのかと確認すると……クシャトリラの皆さんは綺麗にデッキボトムに眠っていた。
元に戻しシャッフル、またデッキボトムを確認。再放送かのように同じ並びになっているクシャトリラ。絶対に手札には入らないぞという強い意志を感じさせる。
――これほどまでに力の強い精霊が集うクシャトリラの世壊を脅かす敵がいる。ライズハートから聞いた未知の侵略者へ対抗するため、今上詩織はクシャトリラを組み込んだデッキ改造を進めていた。
「無理をさせるつもりはないから安心して。……サイキック族でレベル7でエクシーズテーマ、ランク7って数は多くなかったような。使うとしたらビッグ・アイとかドラゴサックとか
己の長所は精霊の力による後押しを受けた、本来ならば回らない混沌としたデッキでも回せる展開力と爆発力。クシャトリラの精霊たちがそこまで乗り気で無いのにエクシーズ寄りの構築にしたデッキを作るべきなのか? と悩みつつもカードファイルを漁る。
『……あの世界の管理者どもに情報を出さなければディアブロシスは禁止にならず使えていた。何故そんなことをした?』
自分の行いで自分の首を絞めるような真似を見たライズハートが疑問に思うのも無理はない。クシャトリラととても相性の良かったランク7のモンスターを彼女は自分から禁止にするよう動いたのだ。少しばかり怒りの混じった声色で問いかける。
ハノイの騎士やイグニス関連の騒動の中、バウンティハンターとして働いたことのある彼女は財前晃の仕事用連絡先を教えてもらっている。その縁を使いライズハートとのデュエルで魔法・罠完全封殺手前まで行ったデュエルログを提出。
新たに追加されたカードとの組み合わせが危険であると判断され――リンクヴレインズ内にて《No.89 電脳獣ディアブロシス》は禁止カードとなった。
「全部使えなくするタイプのデュエルは趣味じゃないから? かな。デュエルはプロレスよプロレス。まー、というかその……敵にも同じコンボされる可能性あるのはこっちにしてもちょっと困るし」
『そうか』
納得できたのか、短い返事をした後に男は口を閉ざす。
「うーんランク7、やっぱエースにできるのが少ない! ……エクシーズじゃなくて高レベルシンクロも視野に入れておく方がいいかな……?」
机から離れ、本棚にある新たなカードファイルへと手を伸ばす。動く途中、視界の端で壁沿いに黒いものが蠢いているが気にすることはない。
室内で邪魔にならないよう気を使い機械のガワを脱ぎ、本体をあらわにしたスプリガンズたちがヒソヒソゴニョゴニョと隅っこの方で話し合っているだけだ。
『アイツがホールからのオタカラ……でいいのか?』
『イキモノをオタカラって言うとモノ扱いになってよろしくないんじゃね?』
『あれだ、思い出がオタカラ――ってヤツだ』
恐らくサルガスだろう大きめの煤が自信満々に言い放つと、おおー、と他のスプリガンズが感心する。
『……そこの煤ども、聞こえているからな?』
勝手に宝だの宝ではないだの値踏みされるような話を聞いてしまえば怒りの矛先が向かうのは当然だろう。室内で太刀を抜きそうになる男をこれ以上刺激しないよう、急いでトレジャーハンターな精霊達は精霊界に戻った。
「レベル3チューナー、どうしよっかなぁ。というかシンクロ召喚をクシャトリラが受け入れてくれるか……」
悩む決闘者を放っておき、ライズハートは一人考える。
――機械のモンスターを中心に集ったデュエルディスク、そこから繋がる世界。この女に機械を修復できる力は無いが、この女が従えている中には技術を持つ者がいる。
機械族のランク7のエクシーズモンスター、そして己の支配していた世壊。謎多き侵略から逃れるために犠牲としたその二つを元に戻せたならば、この女の悩みは一気に解決できるだろう。
エクシーズとシンクロの二つを天秤にかけている最中の決闘者へ精霊は声をかけた。
『…………おい、精霊界に行くぞ』
「え、あっうん。今?」
『今すぐに、だ。上手くいけばエクシーズのエースと更なるカードの入手が可能になる。中途半端な希望を残したままのうのうと過ごすのは性に合わんのでな』
迫りながら急かす。ライズハートがここまで言うのならばそのカードを確認してからデッキを改造してもいいか……と詩織はデュエルディスクに手を当て力を込める。部屋の中央に開いた精霊界へと通じる渦へ二人は赴いた。
「ん? グラドスからの連絡がもう届いた……わけではなさそうだな」
精霊界に着いてすぐ、スター・ガーディアンとフルール・ド・バロネス、というイリアステルな縁のある二人が偶然にも近くにいた。
グラドス、というAIの名前をここで出してきた理由はよく分からないが……今上詩織に対して何か用があったのだろう。ライズハートの用事が終わってから会いに行こうかな、などと考える。
「で、隣の君は――ッ!?」
二人の精霊が今上詩織の隣にいるクシャトリラ・ライズハートの顔を見て――空気が変わる。
「その顔……お前もアイツと同じか?」
スター・ガーディアンは右腕のエネルギーホイールを稼働。バロネスは剣を抜き戦闘態勢に入り、騎馬は男を睨みつけて威嚇する。
「え、天使族の《アイツ》とは違う戦士族だけど? 今日新しく戦力になってくれた【クシャトリラ】のクシャトリラ・ライズハート。……また新しい敵が出てきたらしくてさ……それで戦力補充のために精霊界に連れてきたんだ」
プレイメーカーらと世界の危機を救ってから三ヶ月、新たな問題を拾ってきてしまったことを詩織はどこか申し訳なさそうに告げる。
人間を放置して睨み合う精霊達。じわじわと戦意が高まる中で一番最初に動いたのはバロネスだった。
「…………彼女が一緒にいることを認めている時点でアイツと比べるまでもなかったな。すまない」
剣を納めての謝罪。男はそれを受け入れた。
「誰と見間違えたのかなんとなく想像がつくから謝る必要はない。……ティアラメンツを知る者がいる以上、ヤツも同じ目にあったということか。そしてここに来た、と」
「あー……そこなんだけど、私がティアラメンツを知ってるのはある意味ネタバレのようなものだから判断材料にはできないんだよね」
「何?」
目をやった先の決闘者から裏切りのような言葉が出たことを理解できず、ライズハートは困惑する。
「いやー、並行世界とかパラレルワールドとか行ったことがあってさー。そこでデュエルした時に使われたんだよねティアラメンツが」
「なぜそれを言わなかった女!」
「詳細を聞かれなかったし、ほぼ初対面な相手に自分から別の世界とか言い出したらやべー奴って思われるし……」
「…………」
理由を聞き、そうなる姿が安易に想像できたのか男は何も言い返さない。
「こういう子だから早めに慣れないと苦労するよ」
慰めか、詩織のことをある程度わかっている二人の精霊それぞれが男の肩に手を置く。
空気がそこそこゆるゆるになってきた頃にええいもういい、と肩に置かれた手を払い、男は本命の話を切り出す。
「スター・ガーディアンだったか。肉体を機械へと変じられる精霊ならば相応に技術もあるのだろう? 《クシャトリラ・アライズハート》――俺の具足だ。これの修理を依頼したい」
「我々は技術集団ではあるが危険物処理班ではない」
ライズハートがカードから真っ赤な機械具足を取り出し、スター・ガーディアンはそれを一目見てお引き取り願う。
「それがライズハートの言ってたエクシーズのカード……ロボッピ用の外付けドライブ詰め合わせランドセルモドキは最終的になんやかんやできたのにねぇ」
あの事件の後、ボーマンらの手によって消滅したかに思われたロボッピも復活した。
幸か不幸か賢くなれたが、それを維持しようとするとすぐに充電枯渇処理落ちオーバーヒート。へっぽこなオイラなんていらない、とカフェ・ナギへ家出し、バイトをしていた草薙仁がしょぼくれていたロボッピを回収。なんとかできないかと今上詩織とその精霊達に懇願。
その結果――中身が謎に虹色に光る、ちょびっと賢いロボッピを維持できる謎のスーパーメカニック精霊製の外付けドライブは今現在も動力が謎なまま大絶賛稼働中である。
……虹色の時点でなんだかどこぞのネオドミノに沢山あった人の心が影響する永久機関を使っている気がするが流石にそれは無いだろうと今上詩織は思っている。真実はスター・ガーディアンに尋ねるまでの間は永遠に闇の中。
「あの時は良くて今回はダメなんだ?」
「下手に扱うとここにいる皆が吹き飛ぶ威力の爆弾を抱えた機械と小型化の方法に悩んでいた機械を同列にしないでもらいたい」
「ひえっ」
「いざとなれば私の効果で破壊と無効化が可能だがどうする?」
「……貴様ら、俺の具足と世壊を爆弾扱いとは良い度胸だな?」
ライズハートの後ろに隠れて少しでも危険物から距離を取ろうとする詩織を見てバロネスが提案するも、それが男の怒りの琴線に触れた。ぴき、と額に青筋が浮かぶ。
スター・ガーディアンはライズハートの怒りが爆発しないようなんとかうまいこと話を終わらせたい、の一心で言葉を紡ぐ。
「何をどうしたらこの中に世界を圧縮できるのかは気になるところだが、流石に私一人では決められん」
「そうか。なら勝手にこの場所を使わせてもら――」
「待て待て! フィールド魔法が絡んでいるならエンシェント・フェアリー・ドラゴンに話を通す必要がある」
「知らんヤツを待ったところで俺に何の得がある? 俺の世壊を襲った下手人が今ものうのうと生きているのだぞ、これ以上待ち続けるのは御免だ。無理と言われようが押し通す。……そうなると俺が直すか、お前が直すか、だけしか変わらんなぁ?」
「ナチュラルに脅し始めている……あてっ」
ハノイの騎士の面々やボーマンに似たようなことをしたことを棚に上げての詩織の発言を聞き、バロネスはお前が言うなとちょいと背中を小突く。
説得(?)の末、折れたのはやはりスター・ガーディアンの方だった。
「はぁ……わかった。取り掛かるとしても時間は相応にかかる、としか言えない。報酬は――この機構ってこっちで定期的な整備とかできたりしないかなぁ?」
「おい」
「最後にブルーノちゃん成分が出てる出てる」
機械に対し甘えたような声を向けるスター・ガーディアンの素の部分を見てしまったことで、コイツに自由に任せたら変な改造をされかねないと思い至ったのかライズハートがコレよりまともな奴はいないのかと今上詩織を問い詰める。
助け舟を求める彼女の元へと現れたのはAIデュエリストだった。
「ヴァンガード? メッセージは……まだ開かれてませんが来たのですね。これが未読スルー……」
ヴァンガードの影響で自我に目覚めたAIデュエリスト、グラドスは履歴を確認してしょんぼりする。そんなAIの後ろには青いものが引きずられている。
「え、メッセージ? そういやスター・ガーディアンもそんなこと言ってたね」
「そもそも私からのメッセージのことを知らなかったかなしみ……。そこへ書いたように、突然精霊界を支配すると言い出した謎の精霊が来まして――なので取り敢えず倒して簀巻きにしたんですけど何だったんですかこの人」
二人の視線がぐったりしている男に向けられる。
芸術品と言われても納得してしまいそうなステンドグラスの鎧。マントや腰布は波を思わせる形をしているため水に縁のある精霊なのかもしれない。……なお、それらはグラドスが件の精霊を引きずり連れて来た影響で汚れてしまっている。
「私に言われてもなあ……どんな感じだったの?」
「不審者ですかね。名乗った言葉を信用するならばイセカイ? の支配者な《ティアラメンツ・レイノハート》さんだそうです」
「それは間違いなく不審者。……ってティアラメンツ!?」
今上詩織の記憶にあるティアラメンツは華麗な人魚達。しかし目の前で地べたに転がっているこの精霊は。
「人魚じゃないし男じゃん」
「? はい、男ですね」
よほどグラドスに痛めつけられたのか、言われたい放題されているレイノハートからの反応はない。頬を突いてみるが起きる気配もない。
「何をどうやったらこんなコテンパンにできちゃったの?」
「先攻を取れたので取り敢えず
「ひどい」
ティアラメンツはモンスター効果での融合を主軸にしていた。そこを止められたのならば展開ルートのほとんどが潰えたことだろう。転がされている青髪の男の前にしゃがみ、南無南無と手を合わせる。
「んんー、あれ、よく見れば同じ顔?」
しゃがんだことで問題の精霊の顔がよく見えるようになり、そこでふと詩織は気付いた。そういえばライズハートとレイノハートで名前も似ている。
「と、取り敢えずの目処は立ったぞ、女。あんな交渉はもう二度としたくな…………ほう? 面白いモノがくたばっているな」
ライズハートがこちらへと声をかけてきたので振り向く。
結局アライズハートはスター・ガーディアン含む
「無様だなレイノハート。抵抗もできんほど消耗したか。丁度良い」
ライズハートは悪い笑みを浮かべながら《クシャトリラ・プリペア》を発動。実体化させた赤い円筒形の容器の蓋を開き――レイノハートの長い髪を引っ掴み、その中へ放り込んだ。
「また力を搾り取ってもう一機作るのもいいか……」
『グァッ!? 貴様、これはどういう……!』
乱雑な扱いをされて目覚めたのか、容器越しにくぐもった声が聞こえてくる。それと同時にぎゅいーん、と機械が作動する。
「ウワーッ!? えっこれ人体実験的なよろしくないことやってるよね!?」
『――! ――――!!』
「何? 出せだと? 断る。そうだな、力を上手く分割できれば
ガンガンゴンゴン嫌がっているのだろう打撃音が響く。レイノハートは簀巻きのまま放り込まれているため、恐らく頭を何度も打ち付けて抗議している。
「どういうことなの」
予想できないことしか起きない急展開。無駄な抵抗を続けるレイノハートに対しライズハートはフハハと高らかに笑う。クシャトリラ・プリペアの中に囚われたティアラメンツ・レイノハートはどうなってしまうのだろうか。
「ヴァンガード、あなたの下に集う精霊はなんでこう……ワルっぽいモンスターが多いのでしょうか……?」
「なんでなんだろうね……?」
ハノイの騎士の象徴なクラッキング・ドラゴンを筆頭にクリフォートやオルフェゴール、イドリースやデミウルギア。イリアステル関連のカテゴリやオシリスの天空竜など、従えるモンスターの存在だけを注視すれば明らかに敵陣営だしラスボスになれてもおかしくない。
悪役になりたい訳ではないが、結果的になってしまっている。そういう星の下に産まれたのかもしれない。とても困る。
「取り敢えずライズハートはこっちで責任を持って連れ帰るね」
「……お疲れ様です」
逃された子供はリンクヴレインズを彷徨う。
調律する力を持たない幼い魔法使いと、
聖痕を封じ調律の力を物とした魔法使い。
白との出会いが、新たな戦いの始まりを告げる。
グラドスVSレイノハートですが、レイノハートは他ティアラメンツ達からの「コイツにだけはもういいように使われたくない!」の念を受けた超絶手札事故(手札のモンスターはレイノハート3枚のみ、かつ墓地送り効果持ちカードが他に無い)により負けました。
先攻を取れていたら違うデュエルになった……かもしれない。
ここからは宣伝フェイズ!
もうすでに読んだ方もいるかもしれませんが、紅緋様に依頼し『どうも、ハノイの騎士(バイト)です。』と『遊戯王 プロフェッショナル・オーディナリー』のコラボ作品となる『どうも、ハノイの騎士(バイト)です。【外伝 Dragon's Desire】』を書いていただきました!
機械族とドラゴン族のトンデモデュエルをまさかの3戦も楽しめる話となっております。読んでいただけると嬉しいです!