今上詩織から話したいことがあると学校で告げられ、
他の人の目に入らないところで詳しく説明するから、と今上詩織は学校が終わった後に自宅へ遊作を招いた。リビングのテーブル上に置いたデュエルディスクから姿を現したAiに頼み込む。
「サイバース族を使うカリスマデュエリストが欲しいぃ?」
「カリスマデュエリストのランキングに長い間変動がないからテコ入れしたい、って話がSOLの中で出てきてるらしくてさ。私からはヒャッハーなハノイしていたライガー
メールでやり取りした場合外部流出の可能性が発生する、かつサイバースに関わることのためハノイの騎士を経由する必要がある、という二つの理由で詩織からの口頭説明を受けるAi。
話を聞いても納得はしきれていないようで、腕を組み体を横へ傾けている。
「カリスマデュエリストって言えばブルーエンジェルと鬼塚だろ? そっちに頼めばいんじゃね?」
「【
「ぜっ、全部が全部サイバースじゃないからAiちゃんワカラナイナー」
吹けていない口笛で誤魔化そうとしているAiの頭のトンガリ部分を詩織は指でつつく。
「おーやおやー? 私は『新しいサイバースのテーマ』、としか言ってないのに随分心当たりがありそうな言い方するじゃないですかー」
しまった、と口を押さえても遅い。
「ま、悪魔族なリンクモンスター達は精霊界にいるから直接『
「じゃあここまでの前フリ必要ないじゃん!」
「…………ママ……?」
ぷりぷり怒るAiと、動画配信者特有の単語への理解が追いついてない遊作。
「そこまで調べ終わってたなら自分でやりゃいいんじゃねーのぉ!? もう一つ二つ増えるぐらい変わらねーだろ!」
怒りの矛先を向けられた今上詩織はキョトンとした顔になる。
「……え、これまでのアレコレを見てきた上で私がカリスマデュエリストに向いてると思ってる?」
「アッハイ」
彼女のこれまでのやらかしとヒャッハーな濃ゆい部下の面々を思い出し鎮火。速攻でわからせが完了した。
「ママ…………とは??」
「アーッ遊作ちゃんそこはもういいから! 元の話戻ろっか!」
宇宙を背負って混乱していた遊作をAiがなんとか現実に連れ戻したのを確認した詩織は頭を下げ、両手を合わせてお願いする。
「サイバースなカリスマデュエリストのために――イグニスから見て問題ないデッキを組んで欲しいです!」
「えっ、ストラクを作ればいい、ってコト……!?」
サイバースを使ってヨシと判断できる人を探すところから始めるのかと戦々恐々していたAiが胸を撫で下ろす。
横で話を聞いていた遊作もどこまで手を貸すべきなのかと悩んでいたが、思っていたよりも簡単なもので拍子抜けしていた。
「本当にそれだけでいいのか?」
「人材についてはSOLに責任を持ってなんとか
詩織は親指を立てていい笑顔で答えた。
……あれ、なんか言い方が変じゃない? 強制させてる? また脅した? とAiの脳内に疑問が浮かぶも、他人事だからいっか〜と考えるのを放棄する。
「サイバースの……いや、もう名前を出した方が互いにわかりやすいか。【Evil★Twin】のデッキを作る上でSOL側の要望は?」
「手札誘発は便利なんだけど入れないカリスマの方が多いから今回は取り敢えずナシで。先攻制圧対策の後攻捲りカードは入れても1、2枚。あとこの間発売された色んなテーマも混合していい許可はもぎ取ったからある程度の強さを保証したデッキが作れるよ」
「モギモギしちゃったのね……大丈夫? ヴァガ上ちゃん基準のカオスなデッキにならない?」
「しないしない。カードリスト見てたんだけどね、レベル2の強化ですごくいいカードがたくさん増えてさ――」
用意周到、というべきか。お願いを受けてくれることを見越して詩織が作ったカードのリストを見せてくる。
「ほーこりゃなかなか。……あん? ちょっとこのモンスターの効果強すぎない? 誤植?」
Aiが指さすのは黒いフレームのエクシーズモンスター。相棒がそれほどのことを言うのはどんなモンスターか、と確認した遊作は顎に手を当ててどう対処すれば良いかを考え始めている。
「間違ってないし、それも入れていい許可は取ったから大丈夫」
「マジかー。これからのカリスマ達、このレベルを要求されるの? ……新ルールもあるしブルーエンジェルと鬼塚は生き残れるんかねぇ」
Aiがぽろっと溢した言葉に、詩織はなんてことないように答える。
「あの二人は問題ないでしょ」
「その心は?」
「カリスマデュエリストは確かに強さも大事なんだけど、時間いっぱい魅せてくれるってのも必要だから」
「それは初耳だな」
リンクヴレインズの英雄と持て囃されるプレイメーカーも人気はあるが、それはカリスマデュエリストとは少し違うもの。ネットワークの危機に颯爽と現れ勝利して去っていくヒーローではなく、平和な期間に継続して活動を続けなくてはならない存在に興味が湧いたのか遊作の姿勢が少し変わる。
「頼まれるついでに内情とかもちょっと聞いちゃってねー。デュエルが早く終わりすぎると運営側としては困るらしくてさ」
「一切の反撃がない圧勝が嫌われるということか?」
「時間を決めて試合してるから決着が早すぎるとチケット代返せメッセージが来ることがある」
「あー……そっち?」
「まあ実力差がありすぎてどうしようもない時もあるけど、そこは決闘者本人の華を活かして時間いっぱいファンとの交流とかやって繋いでるとかなんとか」
カリスマデュエリストの中でも特に知名度が高く、女性男性問わず人気な二人が使っているデッキは【トリックスター】に【剛鬼】。
片方はバーンテーマ、片方はプロレスモチーフ。
効果の使用モーションで可愛いを発揮する天使、バトル時の筋肉による殴り合いが映える戦士。
「ブルーエンジェルの細かいバーン主体のデュエルはネチネチした嫌らしさが伝わってきちゃうから、そこを減らすためのテンプレートなアイドルムーブ。鬼塚さんは互いのエースで殴り合うプロレスなデュエルを対戦相手がノリノリで乗っかってくれるならいいんだけど、そこがわかりにくいと観客から舐めプとかやらせだの言われるし……いつも変わってないように見えて結構難しいことやってるんだよ二人とも」
「なるほど、カリスマデュエリストとはそういった部分も考えないといけないのか。……このデッキは決まった展開をしやすいが攻撃力が不安だからな……」
カリスマデュエリストの真実を理解した二人だが、この少し緩めな空気のままデッキ構築を開始したらこうした方がいいんじゃないか、いやこっちも良いかも、と無限に話し続けてしまいそうだった。
「次の土日でデッキを完成させるか」
だからこそ、遊作は期限を決めて終わらせることを望んだ。
「ありゃお早い。遊作ちゃんって夏休みの宿題は出された二週間後ぐらいには全部終わらせちゃうタイプだった?」
「Aiだけに任せたままだと終わるかも怪しいからな」
「にゃにおう!」
「仮回しもこちらでしてしまうべきか?」
「んー、ほぼ初見で回す人のがいいかも……」
「あ、それなら草薙の弟が【Evil★Twin】に興味持ってたからイケると思うぜ」
わやわやとした時間は終わり――特に問題もなく訪れた土曜日。そんなこんなで追加人員も召集された藤木家。
今上詩織はデッキ構築で使いそうなカードを入れた段ボール一箱を玄関に置いて「後はよろしく!」と去っていった。カフェ・ナギのバイトが急に全員抜けるのは流石によろしくないため、彼らに頼んだ彼女が一人バイトに残ることになったのだ。
……残されたのは藤木家在住の二人と、テストプレイヤーとして選ばれた草薙仁。
「……ライトニングはどした?」
「一緒に来たよ」
はい、と仁はデュエルディスクを掲げる。丸い画面には昔のAiのような目だけの姿でジットリと睨むライトニングの姿が見えた。
光属性がいるから使うのはセーフなのか、光属性を巻き込んだからやっぱり許せずアウトなのか。……目だけではどちらか判断ができない。
「【Evil★Twin】、確かに興味はあったんだけど……男なのに、とか言われたりしないかな……」
そんなライトニングの様子は知らず、仁は不安そうに俯く。
「細かいことを気にする必要はないと思うぞ」
「そ、そーそー! プレイメーカー様だって女の子なモンスターは使ってるしな」
リンクヴレインズの英雄とその相棒に問題ないと背中を押され、ちょっと丸くなっていた背中が伸びる。
「きょ、今日はよろしくお願いします!」
体を直角に曲げての一礼。そんな固くならなくていーから! とAiがリラックスを促す。
「ワ、アニキとご主人様のお友達デスー!」
入ってすぐのリビングではロボッピがくるくる嬉しそうに回っていた。
「構築をある程度は考えてきたから、まずはそのデッキを作るぞ」
「オイラお茶淹れてくるデスー」
遊作とAiは玄関に置かれた段ボール箱を部屋の奥へと運搬して必要なカードを取り出し始め、ロボッピはキッチンへ。
敷かれたクッションの上で、仁はなんとなく正座になる。……皆が準備してくれているのに、自分だけ何もしないのは居心地が悪い。【Evil★Twin】デッキの予習復習のために使われている紹介サイトを開いた。
「あれ?」
端末をじっくり眺めていた仁はふと気付いた。……前に見た時と違う部分がある。《Live☆Twin リィラ》は『HELP ME!』と書かれた看板なんて持ってなかったはずだ。
クリックすると色んな反応を見せるオブジェクトが多いサイト。新しい仕掛けが増えたのかなあ、と何かよくわからないままにタッチしてしまった。
「待て! それに触っ――」
遊作のリンクセンスとこれまでの戦いで培われた経験が警鐘を鳴らす。警告したが……遅かった。
リィラが、端末へと伸ばされていた
「――えっ?」
画面が近付くような感覚、けど体は動いていない。意識のみが引きずり込まれていく。あの時のことを思い出すような、不気味な浮遊感。
……けれど、不思議と怖くはなかった。
0と1で作られた電脳アンダーグラウンド。お茶会の準備と並列して罪人に処罰が行われる、狂った裁判場。
今日もまた一人、同情のしようがない小悪党が裁かれる――。
「誰が小悪党よ! 私は! タルト泥棒なんてしてませーん!」
ピンクのツインテールが目立つ、カートゥーン調のポップでコミカルなモンスターが檻の中で必死に訴える。
「盗人が何を言っている」
裁判場で最も高い座より、ハートを背負う女王が冷めた目で罪人を見下ろす。
「いやそうじゃなくってさ、横! 横見て!!」
少女は必死に女王の横を指差す。
……ネズミのような丸い耳を頭飾りにし、すけすけロングスカートを着た女の子が椅子の陰に隠れてタルトを口いっぱいに頬張っている。甘いものをお腹いっぱい食べて幸せそうだ。
「真犯人なネズミちゃんがしっかり味わってるー!」
「見苦しい言い訳だ。不法侵入、窃盗、偽証――罪深い貴様に判決を言い渡す」
裁判場に備え付けられた木槌をガン、ガン、ガンと強く三度打ち鳴らす。
「
下された判決は重すぎる――以前に、やってもいないことで処刑なんて納得できるはずがない。
「弁護とか検察とかナシの裁判なんておかしいってのー! うわーん!
頑張って話を延ばそうとしていたがもう限界。こうなりゃ泣き落としで無理やり時間を稼ぐしかない……そんな時。
「連れてきた!」
空から青髪の少女と、白い衣に身を包んだ決闘者が降ってきた。
「ワーオナイスタイミング!」
ピンクのツインテールなサイバース少女――《Live☆Twin キスキル》がビシッ、と両手で指差しポーズ。
このままでは地面にぶつかってしまう。反射的に顔を隠すような体勢になり衝撃に備えようとしたが、思っていたような痛みはなかった。両足で無事に着陸する。それを確認したリィラは手を離し、草薙仁はきょろきょろとあたりを見回す。
異常なログインで連れてこられた場所はリンクヴレインズのような、そうではないような。
――リンクヴレインズとは違う、カードの精霊と精霊たちが暮らす世界がある……と今上詩織から話されたのを仁は思い出す。見たことのあるモンスターも見覚えがないモンスターも人間のように喋り動いているここがその世界なのかもしれない。
「というか、この格好……?」
彼が困るのも無理はない。かつての戦いで人質として使われていた時にライトニングが着せていたアバターの格好になっていたのだ。口を隠すように縦に伸びた襟で首が詰まりそうなので、手で押し込み長さを調節する。
「どうしたら帰れるんだろライトニン、わぁっ!?」
デュエルディスクが地面と水平になるように、強制的に腕が動かされる。中から姿を現した黄色い人影――ライトニングは怒りに震えていた。
「私のオリジンに勝手に手を出すとはどういう事だ!」
「まことにごめんなさい」
「いやその、これには深いわけがございましてサブパパ上様」
「お前達のようなふざけた存在と血縁を持ったつもりはない」
光のイグニスに対しその場で土下座するキスキルとリィラ。突然の乱入者により裁判は中断され、女王は罪人達が平伏す存在に困惑する。
「だ、誰よあなた!?」
先程までの冷酷さはどこへやら。身を乗り出し、言葉遣いは乱れ、見た目年齢相応の可愛らしさを見せる顔になっている。
「頭が高い! このお方を誰だと心得る! 光のオリジン様だぞー!」
キスキルは頭を少し起こして女王に向け叫ぶ。おりじん、オリジン……と口の中で何度か繰り返した後に、きりりとした為政者のような顔に戻る。
「ほう。オリジン……それがお前の名か」
女王は男に杖の先を向ける。
「オリジンとやら、何をしにここまで来た」
「え、あれっ、名前が勝手に『オリジン』で設定されちゃってる!?」
「……あの、じゃなかった。おい、オリジンとやら、何をしにここまで来た」
「ライトニングぅ……名前とか見た目って後から変更はできたよね?」
女王からの質問、ガン無視。
「可能だが、今この場では無理だろうな」
「自分で決めたかったのに……」
心なしか髪もへんにゃりと下を向きしょんぼりする仁。ライトニングは平伏し続けるサイバース二人を睨みつける。
「重ね重ね申し訳なく」
サイバース少女二人は平伏し続け、どんどん地面と一体化しようとぺったんこになっていく。
……誰も話を聞いてくれていない女王様は真っ赤なお顔になりぷるぷると震えている。刑の執行準備をするべきかおろおろするウサギと、にやにや笑うネコ。ネズミはお腹いっぱいになってお昼寝タイムに入ろうとしていた、そんな時。
「わ、私の言葉を無視するとはいい度胸ですね……!? ええい、邪魔してきてる時点で共犯なのは丸わかりですから! 法廷侮辱罪も追加!! しょけいったらしょけい! みーんなしょけいー!」
恥やら怒りやらの感情が目に浮かんだ涙と混ざって大爆発。周囲にいたウサギ、ネコ、ネズミはまとめて吹き飛ぶ。
かんかんの女王様の前じゃあ誰も逆らえない、その筈だった。
「――ここは裁判場なのだろう? ならば決闘裁判だ! こちらが勝てば無罪放免、負ければ処刑! それでどうだ?」
「ライトニング!?」
ライトニングが口を出したのは裁判のやり直しについて。女王の裁きを否定するような言葉だが、これまで裁判と判決を否定され続けた彼女にとって、ライトニングの提案はとても耳心地が良いものとなっていた。
「なるほど、いいでしょう」
コンコン、と杖で数回地面をつつくと女王の目の前にデュエルディスクが出現する。
「それで――誰が私の相手を?」
光のイグニスはいつものように腕を組み、頭だけを彼に向ける。
「決まっているだろう、私のオリジンだ」
「ちょ、勝手に何言ってるの!? 言い出しっぺのライトニングがなんとかするんじゃ――」
「【Evil★Twin】デッキのデータは既に揃っているから問題は無い。組んでもらったデッキを使いたくないのか?」
むぐ、と言葉に詰まる。
「アレはAiが絡んでいない自然発生のサイバースだ。何がモチーフになっているかは……言わずともわかるだろう? 話し合いではどうやっても解決できん」
「ええ……処刑とかおっかないこと言ってるけど本当に大丈夫なの? ハートの女王だし、あとから約束は無かったことにとかしてきそうだけど」
「人ではなくモンスター。デュエルに縛られている存在だからこそ、デュエルは確実に受けるし賭けた物事は絶対となる。つまり処刑を撤回させるにはデュエルで勝つのが確実な方法だ。それに――私のオリジンたるお前が、この程度の敵を倒せぬはずがないだろう」
ライトニングは当然だが、会話を続ける仁も
「腹を括ったらならさっさと終わらせろ。早く戻らないと私が監督不十分などと言われる羽目になってしまう」
「結局自分のことなんだから、もう!」
睨み合う二人。草薙仁の目にはロスト事件絡みの遺恨の炎はなく、今この場でライトニングが勝手にしたことに対しての怒りのみがこもっている。
「後でごめんなさいしてもらうからね!」
「その程度で済むなら安いものだ」
他のイグニスが一切欠けることなく、光のイグニスがオリジンと共に歩めた未来。それは彼のシミュレーションには存在しなかった。
未来は変えられる――なら、自身が真に人類の発展を助けるイグニスになれる可能性だってあるに違いない。そのためならなんだってしてみせる。
軽口を叩けるような間柄、優れたイグニスになるにはそれが必要不可欠……とまでは分からないが、あの闇のイグニスがそれで上手くやっていけているのだ、参考にして損は無いだろう。
「――勝て。草薙仁」
あの小部屋で泣いていた子供はもういない。
ここに立っているのは一人の決闘者だ。
たくみな手でもって電脳少女の
悪意のつどう地を切り抜けておくれ
闘争の尽きない輪の中
彼方の地で産声をあげた
炭酸のごとく弾ける雷のように