どうも、ハノイの騎士(バイト)です。   作:ウボァー

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新・バイトハノイ

 少し昔の話をしよう。

 私の記憶は、乗っていたバスがガードレールに突っ込んで、そのまま目の前が真っ暗になる所で途切れていた。

 

 目を覚ますと見知らぬ部屋にいた。いや、知っている部屋とも言えるだろう。長い夢を見ていたような、浮遊感が残っている。

 

 ここはどこだろう。ここは私の部屋だ。

 いつから? ずっと。

 

 今目覚めた私の疑問に過去の私の記憶が答える。落ち着いた色でまとまった家具。本棚は漫画や図鑑、小説でほとんど埋まっていた。たとえ前世の記憶が無くても、私そのものは変わらなかったらしい。

 

 大事なもの、忘れちゃダメだよ。机の引き出しの中。

 

 はて何を入れていただろう、寝起きでふわふわしている頭ではそこまで思い出せなかった。引き出しを開ける。

 

 

 そこにはデュエルディスクとデッキがあった。

 

 

「遊戯王だこれー!?」

 

 

 

 なるほど遊戯王。転生とか異世界とか全然珍しくない。元OCG次元民にも優しい世界ですね……じゃなくて。

 

 本当の事を言うと、少し怖かった。静かな部屋の中、私の前世を肯定する人はいるのだろうか、そう思った。家族には絶対に言えない。親しいからこその距離感を守りたかった。前の世界の事を知っているのは私だけだ。本当に私は私なのか。それを証明するのは私の記憶だけ。この記憶は妄想ではないのか、堂々巡りだった。

 

 私と同じように転生、もしくは憑依した人がいるんじゃないか。そう思い立った私は、リンクヴレインズのコメント欄に前世のネタを仕込んだ。だけど遊戯王ネタだけではいけない、もし遊戯王を知らない場合のことを考えて他の作品のネタも使わなければならない。適当に書いたネタの中からくじ引きで決めた。

 

 

 

 

 

名前:ヴァンガード

 

コメント:マジンチュウ ソザイガリ タノシイ タノシイ!

 

 

 

 その結果がこれだよ。誰だ、こんなわかる人にしかわからないネタを入れようとしたのは! 僕だ! お前じゃない座ってろブルーノ!

 それに別のカードゲームの名前使ってるけど、ヴァンガードアニメ途中までしか見てないよな私!? もしその話題振られたら何も言えない。ブラスターブレードしか覚えてないわ。アイチ君可愛かった、で話続くかなぁ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 顔の上半分を覆う仮面。フードは外し、髪型が見えるように。何故か少し余った袖。現実と同じ身長になったアバター。

 さあ、これからはバイトハノイ改め、ハノイの騎士の死神、ヴァンガードです!

 ハノイの騎士、偉い人ほど顔の露出が上がっているのです。なので顔は量産型ハノイと同じ露出率にするようお願いしました。私幹部じゃないよ、バイトだよー。

 ヒャッハノイ? ああ、あいつらなら変態ハノイに進化したよ……。私の顔見せの時、女子に飢えた男の雄叫びが上がってびびった。

 これから必要になるであろう連携を強化するために、チーム作ってリンクヴレインズでデュエルさせてます。上から連絡があれば、私経由で変態ハノイに知らせられるようにはしてます……うーん、やっぱりこれって。

 

「中間管理職だよねー」

 

「ぎゅー」

 

 私の横の、ラグビーボールぐらいの大きさのふよふよしている物に話しかける。これはプログラミング班特製、ミニサイズのクラッキング・ドラゴン。AIが搭載されているので会話を理解してます。癒しです。

 本当は、私の情報がハッキングされて盗まれないための防衛プログラム。誰かがハッキングしようとするとそれを察知、そのパソコンに侵入。データをめっためたにぶっ壊し、ブルースクリーンにして帰ってくる、というかなり攻撃的なプログラムです。

 いざとなったらデュエル相手にビームぶっ放して勝負うやむやにする機能もあるらしいですが、それはカットしてもらいました。私はデュエリスト、リアリストではないのです。

 

 

 かなり過保護だと自分でも思う。でも、ヒャッハノイ改め変態ハノイがハノイの騎士として仕事をしてもらうには一度私を経由しないといけない、という理由がある。ハノイの騎士、かなり大きな組織になってしまったので人手が減るのは痛いんだろう。変態ハノイ私の言うことはすんなり聞いてくれるんだよね。変態だからね、仕方ないね。

 

 

「テンタクラスター対策、それとなく伝えるの大変だなー」

 

 アニメだとハノイの騎士三割速攻で倒したんだっけか。AIには人の心が分からない、嫌がらせしてくるに違いない的なこと言うだけ言ってみるかな。

 

「うぎゅ?」

 

 いざとなったらミニクラッキングのビームで全部蹴散らすのも候補に入れておこう。シン・ゴジラごっこが捗ります。SOLテク総辞職ビーム……ありだな。北村さんしか犠牲にならないけど。

 

 プログラムで構成されたデュエリスト。対人戦の経験はほぼゼロと見て間違いないだろう。変態ハノイとのデュエルで変なこと学習しなけりゃいいな北村さんよー。AIデュエリスト、洗脳されてハノイの騎士の手下になるより絶対酷いことになるぞ。

 

 

「ん、標的ログインかくにーん」

 

 始末対象がログインしたのを視認。さあ、ヴァンガードとして初めてのお仕事。頑張ってまいりましょう!




全AIデュエリスト、セルゲイ化計画。……ってのもあり?

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